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陰部神経痛の病態と現代鍼灸治療 ver.3.0

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1.陰部神経の解剖生理
  
陰部神経叢は第2仙骨神経~第4仙骨神経の前枝から構成されており、尾骨に向かって下降する。仙棘靭帯をくぐって大坐骨孔を出て、すぐに仙結節靭帯をくぐって小坐骨孔中に入る。
陰部神経はその後に、会陰神経、後陰茎神経(♂)、後陰唇神経(♀)、陰茎背神経(♂)、陰核背神経(♀)、下直腸神経、骨盤内臓神経などに分岐し、その運動と知覚を支配している。
陰部神経は、肛門挙筋と外肛門括約筋の運動を支配しており畜便・畜尿時に漏れを防ぐ役割と、 排便・排尿時に意志により、大小便排出を我慢する役割がある。また生殖器を支配している。
肛門、外生殖器の皮膚知覚もつかさどっている。また陰部神経の末梢枝は下腹を上行するので、中極からの深刺では陰部に針響を送ることができる。これは膀胱炎や尿道炎の治療に用いられている。

 

2.陰部神経痛の原因と症状

原因:長く座っている。座っている姿勢が悪い。自転車によく乗る。出産。お尻を強打。
症状:慢性的な肛門の痛み、肛門の奥の痛み、会陰の痛み、性器の痛み、骨盤の痛み(尾骨も含む)


3.陰部神経刺針の適用と技法
 
1)陰部神経刺針の基本

患側上の側腹位。上後腸骨棘と座骨結節を結んだ中点をとり、その1寸下方に陰部神経刺激点をとる(三等分して、坐骨結節側から1/3とする方法もある)。3寸8番針で皮膚面に対して直刺し、陰部に響かせる(陰部に響かない場合、響くまで試行錯誤)。響かせた後、通常5~10分間ほど置針。

 

 

2)仙棘靭帯を目標にした陰部神経刺針
陰部神経が絞扼されやすい部の一つとして仙棘靭部で陰部神経が通過する部がある。
前述の「陰部神経刺針の基本的方法」の深刺直刺することで、仙棘靭帯あたりに鍼先を誘導できる。

 

3)陰部神経が内閉鎖筋を覆う筋膜を走行する際に通る陰部神経管(アルコック管)での絞扼
  
①病態
陰部神経管は、内閉鎖筋膜の内側に位置するトンネル状構造の組織である。陰部神経管内には、陰部動・静脈および陰部神経が通っている。
内閉鎖筋の起始は、寛骨内面(弓状線下)で閉鎖膜周囲である。途中坐骨結節を越える部分で走行が直角に折れ曲がり、大腿骨転子窩に停止する。すなわち内閉鎖筋は、力学的に脆弱な部といえる。内閉鎖筋は緊張を強いられて、アルコック管が圧迫されて陰部神経の神経絞扼障害が起こりやすいとされている。 ゆえにアルコック管は陰部神経絞扼されやすい第2の部位といえる。
仙棘靭帯の圧迫好発部よりも、肛門に近い部位なので、肛門症状・泌尿器・婦人科症状膀胱直腸症状や間歇性跛行症状が出現しやすい。

 

②肛門挙筋とアルコック管部への刺針 
長強穴外方3㎝からの直刺深刺する。患側上のシムズ肢位にて実施。長強穴(尾骨下端)の外方3㎝を刺針点とし8㎝直刺→→肛門挙筋→内閉鎖筋部のアルコック管部あたりに至る。



高野正博医師(大腸肛門センター高野病院)は、このような肛門の奥が痛むと訴える患者に、直腸内指診をすると、圧痛ある索状の陰部神経を触れ、患者はその痛みがいつもの痛み症状と同じことを認めると記している。陰部神経痛時には、排便障害(便が出しにくい、残便感) が生じる例もある。本刺針は、骨盤神経(S2,3,4)の副交感神経症状である排便障害にも関与している。なおこれまで肛門奥の鈍痛は、肛門挙筋痛と考えられてきたものだった。また慢性前立腺の障害を疑われることもあった。

 

上述の記刺針を実際の患者2例に試行してみると、従来の陰部神経刺針位置からよりも肛門部に強く響くと申告したことで、肛門症状が強い場合は試みるべき方法だと思われた。
 
③坐骨結節内縁から骨に沿わせる鍼
 長強の外方3㎝からの深刺は、直腸壁を刺激するので、肛門症状がある場合に適用すべきと思えた。では直腸に刺針せず、直接的に閉鎖孔の内閉鎖筋内縁部のアルコック管を刺激する方法はあるのだろうか。これは筆者が肛門奥の痛みを訴える患者に行ってきた方法であった。

この部に針先を誘導するには、患者を仰臥位にし、術者は患者の半身を前方に折る姿勢を持続するよう(赤ちゃんがオシメを交換する時の姿勢)補助しつつ、坐骨結節の内縁の圧痛を調べる。圧痛あるようならば、3寸#8相当の中国鍼でアルコック管に向けて8㎝程度刺入する。陰部神経を刺激すると陰部に響きが得られる。


4.陰部神経刺針のコツ
筆者はすでに3000回以上の陰部神経刺針を行い、効果を増大するための試行錯誤を行ってきた中で現段階の結論は次のようなものである。

①伏臥位よりも側臥位で実施
側臥位のシムズ肢位で行うと、臀筋が適度に伸張され遊びがなくなるので、陰部神経刺針点深部の圧痛を触知しやすく、刺針においても深部神経に命中しやすい。3寸針を用いてその7割ほど直刺した段階で筋硬結に命中し、上下の手技針を加えていると間もなく肛門奥に響くようになる。針先が筋硬結に当たらないようであれば失敗なので刺針転向法で筋硬結に当てることを目指す。

②大腿後側への響いた場合
陰部神経刺針大腿内側に響いた場合、後大腿神経を刺激したことが考えられる。刺針転向法で針先を少し外側に向けて刺し直す。

③運動鍼併用
殿部深部筋は、上双子筋・梨状筋・下双子筋・内閉鎖筋があって、どれも股関節外旋作用がある。したがって、四つ這いで陰部神経刺針をした状態で、殿部を自力で左右に動かす動作が陰部神経運動針法になる。実践的には四つ這い位で、上下に殿部を動かしたり、正座位に近づいたりなど色々な動作を行わせる。その時、同時に鍼に旋捻術(一方向に鍼を回転させ、組織をからめる)を併用するとさらに効果がある。


④肛門奥の痛みやEDに対して、陰部神経基本刺針はあまり効果なく、間歇性跛行症状には効果ある印象。肛門奥の痛みには、長強から外方3㎝から直刺深刺は試みたい方法。

⑤肛門奥の痛みに対して陰部神経刺針で肛門に響かせた後10~30分置針するのは直後効果はあっても持続効果は2~3日に留まることが多かった。そこで刺激の種類を変えて低周波通電やノイロメーターによる直流通電を試みたが効果はなく、灸も効果がなかった。

⑥持続作用をもたらす方法は、中国鍼(#8)3~4寸を用いて肛門に響かせ、提挿法(針の上下運動手技針)を10秒以上行って肛門に針響を与え続ける方法だった。現在は30分置針とし、10分毎に10秒間の手技針を行うという方式で行うと、1週間程度の持続効果が得られるようである。 

※陰部刺針が間歇性跛行症に効果あるのかは、長い間不明だった。しかし最近になって陰部神経刺針では結局閉鎖膜部分の内閉鎖筋の緊張を緩めているのではないかとする考えが生まれてきた。

 


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