1.主訴:右アキレス腱部痛
2.現病歴:1ヶ月前より、歩行時に右アキレス腱部が痛みを感じるようになった。思い当たる理由はない。
3.所見:アキレス腱の踵骨停止部に圧痛、あり。発赤、腫脹なし。
4.診断:アキレス腱付着部炎
R/O (除外すべき疾患)アキレス腱炎:本症であればアキレス腱踵骨停止部の、上方2~6cm部分のアキレス腱の腫脹・圧痛を生ずる。
R/O アキレス腱滑液包炎:アキレス腱の踵骨停止部は強い摩擦にさらされている。この力学的トレレスを緩和するため、アキレス腱停止部の前後にアキレス腱下滑液包が存在している。このアキレス腱滑液包も長期的に強い摩擦にさらされると炎症が生じ、痛みと熱感が生ずる。局所は腫脹し、圧痛の範囲はアキレス腱付着部炎より広い。ズキンとする痛み。
5.治療方針
本例は、外傷歴がなく比較的単純な病態だったので気持ちに余裕があったため、アキレス腱の元の筋である下腿三頭筋に対する運動針体位を工夫してみた。
6.治療内容と経過
第一診療
仰臥位。圧痛点であるアキレス腱の踵骨付着部から3点ほど選穴して刺針。そのまま足関節の背屈、底屈の運動針実施。さらにアキレス腱の伸張に制動をかけるため、踵骨-下腿三頭筋のキネシオテーピング。
第2診察
1週間後来院。アキレス腱の痛みは依然と存在しているとのこと。立位でアキレス腱の踵骨付着部から3点ほど刺針、および下腿三頭筋の圧痛点4箇所ほど選んで直刺1㎝。そのまま膝の軽度屈伸運動を指示。しかしこの運動は非常に痛がるので中止。キネシオテーピングは前回同様実施。
第3診察
①1週間後来院。この患者は初診時だいたい3回くらいで改善する旨を伝えており、今回がラストのつもりだったが、まだアキレス腱の痛みは初回の半分以上ある様子だった。
②前回の立位での下腿三頭筋運動針は、痛がったので中止した。今度は体重負荷がない状態で下腿三頭筋運動針を行ってみることにした。
伏臥位。ひざを軽く屈曲させ、足首の下に膝用マクラを入れる。その姿勢で下腿三頭筋圧痛点4~5箇所に直刺したまま、足首の背屈底屈運動10回実施。これはあまり痛くないようで、指示通りの運動針実施できた。刺針している針も上下に動いた。
③治療直後、患者から初めてずいぶん歩行が楽にできるとの報告を受けた。