1.後頭下筋を除く後頸部筋の筋構造
背部にある筋のうち、脊髄神経後枝に支配される筋群を固有背筋とよぶ。したがって脳神経に支配される僧帽筋や、腕神経叢に支配される広背筋、肋間神経に支配される上・下後鋸筋は脊髄神経前枝の支配のため、固有背筋に含めない。
後頸部の筋について個別にまとめるが、後頭下筋群については、すでに本ブログでも書いているので省略する。
<ブログ:本稿での後頸部の経穴位置と刺激目標>
https://blog.goo.ne.jp/admin/editentry?eid=813c479992742718841d4e2777582ff0&p=1&disp=50
2.頸椎回旋時、浅層筋では頭・頸板状筋が収縮
1)頭・頸板状筋の機能
頭・頸板状筋は、C3~Th5の棘突起に起始し、乳様突起とC1C2横突起に停止する。すなわち頸椎回旋時には、実際ははTh5椎体まで回旋運 動する。
2)頭・頸板状筋の鍼灸治療
たとえば寝違いなどで首の回旋制限がある場合、鍼灸治療ではC3~Th5棘突起一行の反応点に刺針するのが効果的である。
2.頸椎回旋時、深層筋では横突棘筋が収縮
1)横突棘筋の機能
横突棘筋とは、横突起と棘突起を結ぶ筋という意 味で、浅層から順に半棘筋・多裂筋・回旋筋の3種をいう。横突棘筋は短背筋ともよばれ、脊柱起立筋の深層にある。
※横突筋語呂:おおっと、反対かい? おおっと(横突),反(半棘)対(多裂)かい(回旋)?
2)板状筋と横突棘筋の関係
板状筋と横突棘筋の機能はアクセルとブレーキの関係である。板状筋の収縮により頸部が一方向に回旋すると、横突棘筋は頸椎が回旋し過ぎぬよう運動を制止し、また頸椎アラインメントを揃える役割がある。
3)横突棘筋への鍼灸
頸椎回旋運動の障害時の鍼灸治療点は板状筋・横突筋に関係なく、C3~Th12棘突起傍の一行に深刺する。この時の頸椎一行刺針の際、側臥位で頸椎を前屈させると、頸椎の後弯が減るので中部頸椎棘突起を触知しやすくなり一行刺針も棘突起傍に正しく刺入できるようになる。
3.頸椎の前後屈では頭・頸・胸半棘筋が収縮
1)頭・頸・胸半棘筋の機能
後頭骨~C7間で頸部の前後屈は行われ、胸椎はあまり動かない。この動きの主体は、頭・頸・胸半棘筋である。頭半棘筋は項に発達しており、代表治療点は上天柱である。頸椎の屈伸では、頸椎が動き、胸椎は動かないから力学的ストレスがC7/Th1椎間関節に加わりやすく、代表治療穴は、大椎や定喘となる。
筋線維は脊柱とほぼ並行に走るので、頭蓋骨~頸椎~胸椎を背屈させ、あるいは屈曲を制動する。頭半棘筋は太く発達しており、頭の重量を支持する。寝違いでの痛みでは、頸半棘筋や胸半棘筋に刺針したまま、頸部の自動運動を行わせると、次第にROM拡大してくることを、しばしば経験するのも、これを裏付ける。
通勤電車の長椅子に座ってうたた寝している際、頭半棘筋が緩むほど眠りが深くなれば、座っていられず、長椅子に倒れるようにして寝込むことになる。
2)半棘筋への刺針
後頸部痛を訴える者であっても、半棘筋緊張を診察するには、後頭隆起部の上天柱とC2~Th12一行にトリガーがでるので、中背部の高さまで一行の反応を調べる。本筋は抗重力筋なので、筋が緊張状態にして刺針する方が効果がある。坐位で施術するのがよい。筆者は高齢で高度円背者も頸痛に対し、中部胸椎一行刺針で症状がとれるケースを経験した。
※半棘筋には、頭・頸・胸の種類があるが、要するに背中の上半分にあることから、「半」棘筋との名前がつけられた。
3)長・短回旋筋も半棘筋の機能と類似しており、背部一行刺針で同時刺激できる。
4.まとめ
後頸深部筋の解剖と鍼灸治療についてみてきたが、後頭下筋に対する治療は別とし、結論は単純で鍼灸治療は次のようになる。
1)頸椎の前後屈痛‥‥‥後頭骨-C1間にある上天柱(大後頭直筋)、およびTh12棘突起傍(頭・頸半棘筋)に深刺
2)頸椎の左右回旋痛‥‥C3以下の圧痛ある棘突起一行(頭板状筋)、および大椎一行(頭板状筋)に深刺(ただし頸部を前屈して探り刺針)
C1C2間の動き改善のため下風池刺針(頭板状筋)も併用。
なお僧帽筋は左右肩甲骨を近づけたり、引き上げに作用するのであり、頸部運動にはあまり関与していない。