アレルギー疾患の代表ともいえるのが、Ⅰ型アレルギーに属する IgEの抗原抗体反応によるものであり、その代表的疾患には気管支喘息、アトピー性皮膚炎、関節リウマチなどがある。これらの疾患に対する治療は、かつては治療効果を得るためステロイド剤を服用せざるを得ないことが多く、そうなるといつステロイド依存からの脱却するかいという新たな問題も起きてきた。それも困るので、ある一定の苦痛は我慢させることにして患者との折り合いをつけてきた。それに困った患者の中には、現代薬物療法を受けつつも鍼灸を受診する者もいた。鍼灸は効くことも効かないこともあった。効かなければ困るという場面で、必ずしもこの要望に応えられてない。鍼灸が効果的だったというより現代医学治療への不満から別の方法を模索した結果に過ぎないだろう。
現代医学は進歩するので、これまで治せなかった疾患であっても、新しい治療薬を使うことで、今現在では治せるようになったりもする。近年では前述のⅠ型アレルギー疾患の薬物療法もその好例といえる。30年ほど前まで、関節リウマチや気管支喘息の患者は、現代医療にかかる一方、鍼灸を受診する者も割合いた(アトピー性皮膚炎を鍼灸で治すのはさすがに難しかった)ものだが、近年になって減ってしまった。すなわち残念ながら鍼灸の適応症が相対的に減ってしまったのである。
1.関節リウマチの現代薬物治療
1)旧来の治療としての消炎鎮痛剤+ステロイド内服
これまでは、薬はできるだけ使わず様子をみて、改善しなければ消炎鎮痛剤、次いで抗リウマチ薬(メトトレキサートなどの免疫抑制剤)、悪化すれば強力な抗炎症薬であるステロイド薬という順番で薬を使った。これは強い薬には強い副作用があるとの考えが根底にあったからである。
2)免疫抑制剤と生物学的製剤
1990年頃からRAは発症後の最初の2年間で、骨破壊が進行することが判明し、薬の使い方も大きく変化した。身体の中でリウマチを悪化させるタンパク質の存在が究明され、そのタンパク質の作用と症状を抑えて関節の破壊を食い止める免疫抑制剤(抗リウマチ剤)や生物学的製剤が開発され治療に使われるようになった。従来の方法では、免疫抑制剤を使うタイミングが遅すぎるという見解による。免疫抑制剤は遅効性なので効果発現まで数ヶ月を要する。
①第一選択薬としてメトトレキサート(商品名リウマトレックス内服薬)などの免疫抑制剤。
②それで効果不足なら、メトトレキサートに加え、生物学的製剤のエンブレル(皮下注射)・レミケード(点滴注射)・シンポニー(皮下注射)使用。4週間に1度の皮下注射となるが、3割負担で5000円超程度(これでもずいぶん値段が下がった)。
ある病院のデータでは、2000年頃の慢性関節リウマチの寛解率は6%だったが、2014年には60%に達した。
※寛解:病気が進行しないよう、勢いを押さえ込んだ状況
※生物学的製剤(バイオ薬)とは
バイオテクノロジーにより、生物がつくりだすタンパク質などから生成された薬(従来薬は、化学的に合成されたもの)。細胞から分泌される蛋白質の一つにサイトカインがある。これは他の細胞に情報を伝える働きをもつ物質であるが、リウマチ患者ではサイトカインの働きが過剰になってリウマチが悪化する。生物学的製剤には、このサイトカインの作用を抑える薬や、リンパ球の活性化を抑える薬がある。副作用は易感染。
2.アトピー性皮膚炎の現代薬物療法
1)旧来の治療としてのステロイド外用薬とタクロリムス外用薬
ステロイド外用薬とタクロリムス軟膏を軸とした薬物療法により寛解導入し、増悪する可能性のある患者さんに対してプロアクティブ療法などを行うことで寛解維持につなげるという流れが一般的。
①ステロイド外用薬
炎症反応を鎮める対症療法。肥満細胞から放出されるヒスタミン等による真皮の血管透過性が亢進し、痒みや浮腫や膨疹となる。ステロイド剤には、この抑制作用がある。
※ステロイドの目的:ステロイドはIgE抗体を減少させることができる。すなわち人体が有害だと認識したアレルゲン(=異種蛋白質)と反応させなくすることで強力な抗炎症作用を生む。ただし根本治療にはならない。免疫力低下により感染症に対して脆弱になる。
②免疫抑制剤タクロリムス水和物(プロトピック軟膏)
ステロイド外用薬は長期使用には適さないが、タクロリムス外用薬にはホルモン作用もないので皮膚萎縮や毛細血管拡張などの副作用がなく、炎症がある程度軽快した後の維持療法として用いるのに適している。顔や首のかゆみや皮膚炎には、ステロイド外用薬よりもプロトピック軟膏の方がよく処方されるようになった。
しかしその他の部位はステロイドが併用されている。これはプロトピック軟膏の吸収率が悪いので、ステロイド外用薬と一緒に使ってうまくコントロールしている。
2)生物学的製剤とJAK阻害薬
バイオテクノロジーの進歩により、免疫システムのうちアトピー性皮膚炎の発症・憎悪に関わる部分だけを狙い撃ちにする医薬品が開発された。
①デュピクセント(一般名デュピルマブ)
2018年アトピー性皮膚炎の10年ぶりに登場した注射薬。アトピー性皮膚炎治療薬としては初の生物学的製剤(バイオ医薬品)。根本的な治療薬となることが期待されている。2週間に1度皮下注射する。3割負担で一本2万円と高額。3ヶ月~1年以上続ける。
②コレクチム軟膏(一般名デルゴシチニブ)
2020年6月から使用可能になったJAK阻害。外用薬として誕生したことが画期的。
※JAK阻害:生物学的製剤は、それぞれの薬剤が1種類の特定のサイトカインを細胞の外でブロックして細胞に炎症を起こす刺激が入らないようにする。これに対して、JAK阻害薬は複数の種類のサイトカインに対して、サイトカイン受容体からの刺激を細胞のなかで遮断して炎症を抑える。。
3.気管支喘息の現代薬物療法
1)治療の二本柱としての吸入ステロイド薬と気管支拡張剤
気管支喘息治療の2本柱は、吸入ステロイド薬と緊急処置としての気管支拡張(=交感神経β2刺激剤)だった。ステロイドを使用するのは、気管支喘息は気管支の炎症が本体だと判明したことから、治療の重点は気管支の炎症を軽くして気管支の腫れを引かせる方に置かれるようになった。炎症改善ならばステロイド剤が最も効果的だからである。
ただし現在の治療は、発作が出てからでなく、気道狭窄の度合いに応じて、必要十分な量のステロイドを吸入するように変化した。ステロイド剤を内服する場合に比べ、吸引すると使用量は1/100以下となり、副作用の弊害をほとんど気にしなくてもよいようになった。
気管支拡張剤(商品名インタール、テオドールなど)というのは、β2刺激剤のことで、交感神経とくに気管支に分布する交感神経を刺激する目的で吸入で使用。気管支を拡張させる効能がある。
2)抗IgE療法ゾレア
2009年からは、重症の喘息患者には新薬オマリズマブ(商品名ゾレア)の皮下注射が行われるようになった。ゾレアは、喘息などの即時型アレルギー反応を引きおこす元であるIgEに直接結合し、IgEの働きを遮断する作用がある。アレルギー物質が体内に取り込まれても、それに反応するIgEが働きをなくしてしまうので、アレルギー反応を消滅させることができるという。
ゾレアは2週間または4週間ごとに医療機関を受診して、皮下に注射する。治療は原則として16週間(4回または8回投与)行い、そこで効果があったかどうかを判定して、その後も投与を続けるかどうか総合的に判断する。1ヶ月1万円程度と高額な薬
3)気管支サーモプラスティ療法 Broncial Termoplasty (気管支加熱治療)
本治療は、使用している薬物治療と併用して行う。喘息発作は、特定の刺激に反応して、気管支の周りにある筋肉が強く収縮し、気管支が狭くなることで現れるのだから、内視鏡を使ってカテーテルで気管支を1時間65℃に温めて筋肉を薄くすることで、筋肉が収縮する力を弱めようとするもの。刺激があっても気管支が狭くなりにくくなり、喘息症状が緩和される。気管支全体を3回に分けて治療し、それぞれ短期間の入院。
※気管支喘息の鍼灸治療理論として、気管支拡張に導くため交感神経優位に誘導→座位での上背部刺激がある。