膝関節痛を訴える患者の多くは、大腿四頭筋が過緊張している。いわゆる大腿四頭筋強化運動を行わせても効果が今ひとつなのは、四頭筋力低下ではなく過緊張(=過収縮)によるものだろうと考えている。この四頭筋の緊張緩和には、運動学的方法であるⅠb抑制とⅠa抑制を利用した方法がある。
1.Ⅰb抑制理論による鶴頂刺針
Ⅰb抑制とは筋の持続的伸張などでゴルジ腱器官を興奮させることにより、Ⅰb線維を介して、目的とする筋の緊張が低下する現象。筋腱の骨付着部などゴルジ腱器官の集まる部位を針灸などで刺激すると、これと連なる筋の緊張緩和すること。
1)症状
歩行時の膝関節上縁部痛。ただし患者は膝蓋骨部が痛むと訴えるとが多い。
2)病態
歩行時は四頭筋が緊張収縮して膝蓋骨も挙上する。この動作の酷使により大腿直筋は常に緊張を強いられるので。大腿骨-膝蓋骨間に強い牽引力が生まれ、大腿直筋停止部症が生ずる。
3)針灸治療
膝蓋骨上縁の圧痛(+)時に実施。単に圧痛ある膝蓋骨上縁にある鶴頂穴に刺針しても効果はない。大腿直筋をなるべく伸張させた姿勢(すなわち仰臥位で股関節屈曲、膝関節屈曲位)で、鶴頂の圧痛(2~3カ所)を探し、単刺または施灸する。これにより大腿直筋緊張が緩み、筋長が伸びるので膝痛が軽減されることが多い。これはⅠb抑制の機序を利用したものである。
2.Ⅰa抑制理論によるハムストリング緊張
拮抗筋を緊張させることで、目的筋の緊張を緩める方法。大腿四頭筋を緩めるには意図的にハムストリング筋を緊張させる。
橋本敬三の操体法は、「動かしやすい方、気持ちの良い方へ動かす」という運動健康法だが、これも患側の筋を直接操作するのではなく、健側(=拮抗筋)の筋を動かすことを治療方針としている。これもⅠa抑制理論といえる。
1)症状
歩行時の膝関節上縁部痛。ただし患者は膝蓋骨部が痛むと訴えるとが多い。
2)病態
歩行時は四頭筋が緊張収縮して膝蓋骨も挙上する。この動作の酷使により大腿直筋は常に緊張を強いられるので。大腿骨-膝蓋骨間に強い牽引力が生まれ、大腿直筋停止部症が生ずる。
3)運動の方法
長座位で、膝下にタオルを丸めたものを置き、膝でこのタオルを押しつける。1回15~20回、これを1日2~3セット行わせる。この運動はリハではパテラセッティングとよばれている。足関節を持ち上げれば大腿四頭筋の筋力増強にも有効だが、四頭筋以上にハムストリングを鍛えるのに適している。
治療室で行うには、もっと効果のある方法で行いたい。