1.バックハンドテニス肘の概要
1)症状:テニスでバックハンドで球を打つたびに痛みが出る。雑巾絞り動作(前腕回外筋負荷)でも起こりやすい。
2)所見
外側上顆の腱起始部圧痛(++)、伸筋々腹(おもに短橈側手根伸筋)の圧痛
中指伸展テスト(+):手掌を下にして前腕をベッド面につける。検者は被験者の中指を軽く押圧しつつ患者に中指を反らすよう指示。手三里付近の痛みが出れば陽性。
3)病態
①テニスで相手からの返球をラケットで受け止める際、手関節は背屈するのて前腕屈筋は伸張状態になるが、この衝撃を受け止めるには短橈側手根伸筋が強く収縮する。
すなわち筋長は伸びているのに筋は緊張する。これを伸張性筋収縮(=エキセントリック筋収縮)とよぶ。
②エキセントリック筋収縮による筋損傷
エキセントリック筋収縮は筋に負荷がかかるので、筋力を増やすには適するが、筋の微細損傷を生じやすい筋収縮形態になる。
なお通常の筋収縮は緊張すると筋長は短くなる。これを短縮性筋収縮(コンセントリック収縮)とよぶ。コンセントリック筋収縮は、筋への負荷が比較的少ないので、筋線維を損傷しづらい。
eccentricは<奇妙な>という意味。鉄棒懸垂で肘を曲げて身体を上げつつあるのは短縮性筋収縮であり、肘を伸ばして身体を下ろしつつある状態は伸張性筋収縮である。
③短橈側手根伸筋の特殊性
長・短橈側手根伸筋の共通起始は上腕骨外側上顆。長橈側手根伸筋停止は第2中手骨底。 短橈側手根伸筋の停止は第3中手骨底である。
この2筋の作用はよく似てくるが、橈側手根伸筋は単に手関節背屈作用なのに対し、短長橈側手根伸筋が橈背屈作用になる。尺背屈では長橈側手根伸筋の活動が抑制され、短橈側手根伸筋の背屈作用が重要になる。
④バックハンドでのボールを受ける姿勢(雑巾絞りの姿勢と同じ)は、前腕の強い回内を伴うので、回外筋は伸張を強いられるので、回外筋上も圧痛が出現しやすい。
2.バックハンドテニス肘の針灸治療
1)手三里刺針しての手関節背屈運動針
前腕伸筋群とくに短橈側手根伸筋の短縮が外側上顆に加わる腱付着部の牽引力増強を引き起こしている。
→中指伸展テストを実施し、手三里付近で短橈手根筋上の圧痛点(手三里の5㎜~1㎝尺側)を探し刺針する。置針して手関節の背屈運動針を行う。この刺針により筋緊張は ゆるみ筋長は長くなる(元に状態にもどる)。
※手三里は、教科書では前腕橈側、曲池穴の下2寸、長・短橈側手根伸筋の間に取穴する。しかし本稿では短党則手根伸筋中に取穴刺針している。
2)手三里刺針しての前腕の回内・回外運動針
雑巾絞りのように、患側の手関節を回外する動作で痛む場合は、回外筋の伸張痛の疑いがある。
刺針部の手里刺針は前項と同様だが、橈骨に至るような深刺をした状態で、ゆっくりと大きな前腕の回外・回内動作を 5~10回行わせることで、回外筋の過収縮を改善する。
※手三里の局所解剖では、表在筋として長・短橈側手根伸筋があり、深部筋には回外筋がある。この奇妙な偶然により、手三里刺針は手関節背屈痛にも前腕回外痛にも使えることになる。