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肋間神経痛の針灸治療 ver.2.3

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1.胸痛を起こす原因
 
冠状動脈の虚血と、肋間神経の興奮が胸痛の2大原因である。肋間神経からは胸膜枝が分岐しており、胸膜炎や肺癌が胸膜まで拡大進行して胸膜が刺激をうけても肋間神経痛を起こす。

1)冠状動脈の虚血
 冠血流量が不十分→心筋虚血→心臓を支配する交感神経(Th1~Th5)興奮
→心臓痛となる。ただし強い痛みの場合、交感神経興奮は交通枝を介して脊髄神経にまで興奮が漏れるので、同じレベルの脊髄神経すなわちTh1~Th5胸神経の後枝と前枝(=肋間神経)を二次的に興奮させる。つまり虚血性心疾患による胸痛とは、交感神経性と肋間神経痛の混合性である。
 なお、虚血性心疾患で左上肢尺側に放散痛がみられるのは、Th1脊髄神経の興奮によるTh1デルマトーム領域の反応である。この代表疾患には、狭心症と心筋梗塞がある。

2)肋間神経の興奮
胸部の体壁知覚は肋間神経支配なのは当然だが、その深部にある壁側胸膜も肋間神経支配である。そのすぐ下にある臓側胸膜と肺実質に知覚はない。ゆえに肺癌や肺結核の初期に自覚症状が乏しいが、次第に進行して病変が胸膜に及ぶと痛みが出現してくる。


2.肋間神経痛の概略

1)原因
特発性は比較的若い女性に多く、左側の第5~第9肋間領域に多い。成書には、特発性は少なく大部分は症候性であると記されているものが多いが、針灸に来院する患者の大部分は特発性であり、次いで帯状疱疹による肋間神経痛も来院する。


2)肋間神経の走行と神経支配

①第1~第6肋間神経
肋間を胸骨縁に向かって走行し、前胸の肋骨に相当する部の肋間部の筋運動と、深部知覚を支配する。その皮枝は前胸壁皮膚知覚を支配する。皮枝には外側皮枝の外側枝と内側枝、皮枝の外側枝と内側枝がある。
②第7~第12肋間神経
途中までは肋間部を走行するが、腋窩線あたりから内腹斜筋と腹横筋の間を走行し、腹白線に至る。腹壁筋の運動と深部知覚を支配する。その皮枝は鼡径部を除く腹壁の知覚を支配する。要するに腹部の大半は肋間神経支配になる。
 


3)症状
   
針灸学校では「肋間神経が深層から表面に出る部に圧痛がみられ、次の3ヵ所が代表的圧痛点」と学習したと思う。
  
①脊柱点:脊柱外方3㎝の処。胸神経後枝が表層に出る部。
②側胸点(外側点):前腋窩線上。前枝の外側皮枝が表層に出る部。
③前胸点(胸骨点):胸骨外方3㎝。前枝の前皮枝が表層に出る部。
第6肋間神経以下は腹部肋間神経痛として現れ、前胸点に相当する圧痛点は腹直筋外縁に出現し、「上腹点」と称する。

実際にはある範囲全体がまんべんなく痛むようで、特定の圧痛点を見いだすのは困難であることが多い。実際は教わったことと違っている事実を知り、がっかりする。

 

 

 

3.特発性肋間神経痛の新しい考え方

1)特発性肋間神経痛の真因

特発性(原因不明)の肋間神経痛は、これまで神経の刺激によるものと考えられていた。そして神経が深層から表層に出る部が治療点だとされていることから、脊柱点・外側点・間前胸点を取穴するのが定石だった。しかし生理的に上流の知覚神経が興奮しても、下流にその興奮を痛みを伝達することはない(ベル・マジャンディーの法則)ので、中枢側の筋々膜症症状が末梢側に放散痛を生ずる状況を、肋間神経痛と呼んでいるのが真実である。これはMPS(筋膜症候群)の考え方で説明できる。だたし帯状疱疹性の肋間神経痛ならば知覚神経興奮が生ずる。


2)肋横突関節症と肋間神経痛 

Th1~Th12胸椎が肋骨との間で肋椎関節を構成している点が特異的である。肋椎関節には肋骨頭関節と肋骨横突関節の2種ある。とくに肋横突関節の可動性が悪くなると、この付近を走行する肋間神経が刺激を受けるという説明が有力視されている。同時に付近にある内・外肋間筋も緊張する。内・外肋間筋緊張により肋間神経痛が生ずると考えた方がよいともいえる。こうなると神経痛というより、神経痛のような痛みの放散痛は、トリガーポイント活性による放散痛と考えられる。
ではなぜ肋椎関節の障害が生ずるのだろうか。これはとくに上体を左右に回旋させる運動で、胸椎と関節する肋骨は回旋運動を強いられる。これにより肋椎関節(とくに肋横突関節)は可動しすぎたり、あるいは十分に可動できなかったりして、関節症状態になるのだろう。

3)特発性肋間神経痛の治療(木下晴都:肋間神経痛に対する傍神経刺の臨床的研究、日鍼灸誌、29巻1号、昭55.2.15) 

肋間神経痛の治療は、反応ある胸椎(第5~9肋間が多い)に対応する肋横突関節および関節周囲の肋間筋に対する施術を行う。この治療法は、木下晴都氏の創案した「肋間神経痛に対する傍神経刺」そのものである。

①2寸#5針を使用
②症状にある胸椎棘突起から外方2横指(3㎝)を刺入点とする。
③10°内方にむけて直刺4㎝。この時、気胸には十分注意する。
⑤5秒留めて静かに抜針

※多くの場合肋骨または胸椎横突起にぶつかり4㎝も刺入できない。しかし胸椎棘突起4~10の高さにおいては、およそ棘突起下縁の高位に取穴すれば、鍼は胸椎横突起間に刺入でき、目的を達する場合が多い。鍼を脊柱に向けて10°傾けるのは、気胸防止の意味がある。


⑥最初の2~3回は毎日、その後は隔日、または1週間に2回程度の施術とした。
⑦102例の肋間神経痛患者に対して傍神経刺をおこなったところ、91%が優、6%が良、3%が不変、悪化例はなかった。うち優の結果を得た93例をみると、発症1~7日の52例では平均2.9回治療。8~15日の18例では4.6回、16~30日の12例では7.9回、3ヶ月以上経過した4例では11.5回だった。

 

「木下は刺針した針を5秒間留め、抜針する」としているが、肋横突関節は胸椎を左右に回旋した際に動くから、座位で規定通り刺入した後、上体を左右に回旋する運動針が有効かもしれない。

※木下の傍神経刺の図には肋骨および肋椎関節が省略されているので針先をどこに向ければよいのか、必ずしも明瞭ではない。そこで新たに以下の図を作成した。この図は傍肋骨神経刺というより肋骨神経刺になっているので、気胸ならぬよう十分注意すべきである。肋間神経刺激ではなく、後枝刺激・肋横突関節刺激の刺針はどのようになるのかを、併せて描いてみた。なお、内肋間筋と外肋間筋は、下記刺針部より外方から始まっているので、今回の刺針には直接的には影響を与えない。

 

4.症例報告:本態性肋間神経痛に対する傍神経刺治療(66才、女性)

当院初診3週間前から右側胸部から前腹部が痛くなり、上体を左右費ひねる時に痛む。寝返りも非常に苦痛だという。現代医療にかかるも検査で異常はなく、痛み止めの薬は処方されるも十分に効かないという。

当初は、上体をひねると痛むという点と背部一行に圧痛あるということで、右中背部胸椎傍の短背筋群の筋膜性背痛と解釈して、中背一行に深刺するもあまり効果がなかった。圧痛ある中背部起立筋に運動鍼すると少し上体の回旋ができるようになった。その頃になると背痛ではなく、上体をひねる時に右側胸部から右側腹部の痛みを強く訴えるようになたことから、胸椎部短背筋群の筋筋膜性背痛ではなく、右Th9中心の肋間神経痛を疑うようになり、木下晴都氏のの肋間神経傍神経刺を追試してみた。その1回治療の直後から上体の左右の回旋痛が大幅に軽減した。

 

5.背部撮痛帯は、なぜ胸椎領域に多発するのかの考察

腹臥位や側臥位で、体幹を撮診すると、撮痛反応の出やすい部分と出にくい部位があることに気づく。撮痛の現れやすいのは、胸椎部すなわち上・中・下背部であって、腰部に撮痛はあまり出てこない。椎体は高さによって可動する方向に違いがみられる。特定の椎体に加わった回旋力や屈伸力が、隣合う椎体に動きを円滑に伝達できれば、力学的ストレスをうまく受け流しているといえるだろう。椎間関節の形状から、頸椎の屈伸運動は、胸椎にうまく伝達できないので、C7/Th1の椎間関節に力学的ストレスを起こしやすく、椎間関節症を惹起しやすい。また胸椎の回旋運動は、腰椎にうまく伝達できないのでTh12/L1椎間関節症を起こしやすい。さらに腰椎の前後屈運動は、仙椎にうまく伝達できないので、L5/S1椎間関節症を起こしやすい。その結果、この高さの背部一行上に圧痛も現れやすくなる。

こうした内容は、これまでも幾度となく説明してきた。しかしながら胸椎全域の一行に圧痛が出現しやすく、その脊髄神経後枝支配領域に撮痛が出現しやすいことは説明できなかった。
しかし最近になり胸椎の関節は頸椎や腰椎と異なり、椎間関節の他に肋椎関節もあることから、胸椎全域の撮痛や圧痛は肋椎関節の反応によるものではないか、と考えるようなった。この考えに妥当性があれば、胸椎一行の圧痛反応は、胸椎一行刺針ではなく、木下晴都の肋間神経痛に対する傍神経刺の方が適しているのかもしれない。

 


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