1.病態
足底の筋は、表在性の足底筋膜に覆われている。足底筋膜は踵骨隆起から起こり、足の指に至って、足底の縦のアーチ維持に貢献している。過度の足底筋膜に加わる張力の反復により、足底筋膜に付着部の牽引ストレスが作用する。また足底筋膜の微小断裂を起こす。
この微小断裂は、夜間就寝中に治癒機転が働いて固くなる。しかし朝、固まった損傷部に体重が加わると、再び引き伸ばされて激痛となる。長距離の選手に多い。
2.症状
痛みの直接原因は脛骨神経末端興奮による。
1)脛骨神経内側踵骨枝刺激
歩行開始時や走行中に、踵に近い部分が、ビリビリと痛む。踵骨前方の圧痛。
2)内側足底神経刺激:母趾背屈時の足底痛。
3.所見:X線で、足底部の踵骨内前方に骨棘。
4.整形治療:整形での治療は安静。ときに筋膜付着部への局麻注射を行う。スポーツ再開までには、数ヶ月の安静が必要。
(治癒まで半年以上かかる例が10%ある)
5.足底筋膜炎の鍼灸治療
1)下腿三頭筋と足底筋膜
新生児では足底筋膜は踵骨を経由して下腿三頭筋とつながっているが、生後1年して歩行する頃になると両者は踵骨を境に独立したものとなる。治療的には、足底筋膜と下腿後側筋と一体として考えるとよい。 下腿三頭筋とくにヒラメ筋が短縮緊張すると、足底筋膜がひっぱられる力が増し、外的衝撃により足底筋膜が傷つきやすくなる。ゆえに下腿三頭筋とくにヒラメ筋のトリガーポイント(承山・承筋などの圧痛点)を見つけて刺針する。
2)短母趾屈筋への刺針
公孫位置: 足の第1中足指節関節の後、内側陥凹部に太白をとり、その後1寸。
然谷位置:足内果の前下方、舟状骨と第1楔状骨の関節面の下際。
公孫・然谷刺針は母趾外転筋→短母趾屈筋と入っていく。なお長趾屈筋と長母趾屈筋はこのあたりでは腱となっているので、刺針する意義は少ない。これら長趾屈筋と長母趾屈筋本体に刺針するには下腿から行うのがよい。
3)長母趾屈筋と長趾屈筋への刺針
これら2筋は。足母趾および足第2趾~第5趾の屈曲作用である。足底部では腱になっていて筋は下腿後側になる。長母趾屈筋腱の停止は腱となって足の内側に、長趾屈筋の停止は腱となって足の外側にあるが、下腿後側では二筋はクロスし、長母趾伸筋起始は下腿の外側に、長趾伸筋起始は下腿の内側になっているので要注意。これら二筋の代表穴として、筆者は陽交穴・地機穴を使っている。
※以前の下腿中央断面図では、「陽交」と「外丘」の位置が入れ替わっていた。40年前に私が学習してた頃にそういうことだったが、現在では変化したらしい。現在の規定に沿って、図
地機位置:下腿内側ほぼ中央脛骨内縁骨際で、ヒラメ筋起始部。深部に長趾屈筋がある。
陽交位置:下腿外側ほぼ中央。長腓骨筋とヒラメ筋の間。深部に長母趾屈筋がある。
この刺針のアドバンス治療は、伏臥位で下腿下方にマクラを入れて足をベッドから浮かせた状態にして外丘から長母趾屈筋に、地機から長趾屈筋に置針。その状態で足指の屈伸運動を行わせると治療効果が増大する。
4)局所刺針
刺痛をなるべく与えないよう細針を使い、足底の圧痛点に直接浅刺刺針。
跪座位(両足の指を立て、踵の上に腰を下ろした姿勢をさせ、足底筋膜のストレッチ運動を行わせる。徐々に体重をかけていく。1~2分筋運動実施させた後に抜針する。
6.足底筋膜炎に対する鍼灸の追試報告(柏原修一氏による)2022.8.11.
1)主訴:両踵部の痛み、および両ふくらはぎの筋肉痛
2)現病歴:肥満体形。毎日水産加工会社で立仕事している。2年ほど前から反復性の踵痛でたまに来院している。今回も症状が増悪し両踵部痛と内側・外側腓腹筋痛が痛むという。痛みのレベルはVAS(痛みの十段階評価)2~7の範囲。平均5。本日は7。踵の失眠圧痛(-)だった。
3)診断:足底筋膜炎
4)治療:跪座位にて踵骨隆起の圧痛点に寸3-01置鍼。跪座位のまま足底筋膜のストレッチ動作10回。
立位に腓腹筋内側頭、外側頭の圧痛部に寸3-01置鍼。腓腹筋ストレッチの運動鍼。ヒラメ筋の圧痛点に寸3-01置鍼。ヒラメ筋ストレッチの運動鍼。
その後腹臥位にて刺鍼個所に台座灸。最後にかかとにキネシオテーピングを実施した。
5)治療効果:治療後のVASは7→3に改善。
6)症例を振り返って
①治療内容は、第5回針灸奮起の会鍼灸実技講習会、「下肢症状」で学習した内容を追試した。本来ならばもう少し太い鍼でしっかりと筋中に刺入したかったが、患者は鍼刺激に過敏なため細い鍼で浅刺せざるを得なかった。跪座位にすると足底筋膜は伸張されるので、治療効果が高まる反面、強刺激になりがちになる。
②本例は失眠圧痛(-)だったが、失眠圧痛(+)ならば踵脂褥炎を疑う。踵脂褥炎とは、踵中央部が痛み、歩行困難になる疾患。
③足底筋膜炎では、しばしば下腿三頭筋の痛みを同時に訴えることがある。これは足底筋膜→→踵骨→アキレス腱→下腿三頭筋という筋膜の連動(アナトミートレイン≒膀胱経の流注)が想定されるため。