1.教科書記載の地機穴の位置
地機穴は脾経の郄穴でもあるので古典的鍼灸で多用される経穴の一つである。東洋療法学校協会編教科書「経絡経穴概論」の地機の取穴は、「内果上8寸で脛骨後縁の骨際」とある。下腿内側長を1尺3寸と定めるので、下腿内側を3等分し、ほぼ上から1/3の処になる。ただし教科書には築賓の反応の取り方についての記載はない。
2.地機の取穴と意味
股関節外転かつ膝関節45度屈曲位、すなわち一方の足底を他方のフクラハギ内側に付けた姿勢(パトリック試験をするその手前の姿勢)をさせ、曲げた下腿内側の反応を調べていくことにする。指頭は脛骨際を容易に触知できるが、地機の高さに相当する部だけは、筋肉が邪魔して骨がうまく触知できないことに気がつく。その筋肉は誰でもシコっていて、軽く押圧しただけでも非常に痛がる。
私は、長い間このシコリの意味が分からなかったのだが、最近になって尾崎昭弘著「図解鍼灸臨床手技の実際」を何気なく読み返してみると、「地機はヒラメ筋の起始部である」と明記されていた。つまりシコリの正体はヒラメ筋の起始部だったわけだ。
補足:ヒラメ筋と腓腹筋(内側筋と外側筋がある)は併せて下腿三頭筋とよばれる。腓腹筋の起始は大腿骨で停止は踵骨の二関節筋であり、足関節伸展と膝屈曲作用があるのに対し、ヒラメ筋の起始は腓骨頭と脛骨、停止は踵骨の単関節筋であり、足関節伸展作用のみがある。仰臥位で膝屈曲肢位では、膝に負荷がかかっているわけではなく、足関節底屈の弱い負荷がかかっている。したがって両筋とも弱い負荷がかかっている訳だが、一般に二関節筋は関節の伸展状態で優位に働き、単関節筋は関節の屈曲状態で優位に働く特性があるので、膝屈曲位ではヒラメ筋の方が緊張している状態にある。ヒラメ筋緊張を増強させるにはさらに足関節伸展位にするとよい。(介護予防主任運動指導員、古賀真人氏の指導による)
※地機の語源
ネットで「地機」を検索すると、ツボの地機以上に、織機の地機の記事が上位に並ぶことに気づく。機織り機の種類にはいくつかあるが、次第に改良されつにつれ、その構造も複雑になっていった。現在の機織り機は、<高機(たかばた)>とよばれ、歴史ドラマなどでたまに目にすることがある。それに対して<地機>(じばた)は、原始的な織機で、地面に直接杭を打って、タテ糸を引っ張り力を保つ方式になっている。つまり地機の語源は、地面に設置された織機という意味であろうか。高機は、よこ糸が表にくるが、地機はタテ糸が表にくる。
地機におけるタテ糸の緊張とは、ヒラメ筋の緊張を意味するのだろうか。下の写真は、中近東のある部落にみる地機であり、ネットで発見したものである。地面に、じかにタテ糸を引っ張っている。人体の場合、地面に相当するのは、脛骨であろう。
※大杼の語源
地機穴を織機を結びつけるのは、唐突な考えではないのか思うこともあったのだが、後に大杼穴(上背部、第1胸椎(T1)棘突起下縁と同じ高さ、後正中線上の外方1.5寸)の由来が機織りの、横糸の間に縦糸を通すのに使われる道具であることを知った。脊椎の両側に伸びる横突起の形が杼に似ている。第1胸椎は最も大き椎体なので大杼となったという。やはり当時の中国人も織物は関心事だったに違いない。地機と大杼には共通項があった。
3.仰臥位での承山・承筋刺針の体位
先に地機はヒラメ筋上にあるので、ヒラメ筋は緊張し腓腹筋は弛緩する体位となる股関節外転かつ膝関節屈曲位にして、地機刺針を行うこ効果的であることを説明した。
では、仰臥位の時、腓腹筋を緊張位で承筋や承山に刺針するにはどうすればよいだろうか。
それには、まず治療側の膝をのばした状態で下肢を挙上30度程度にする。この体位にすると腓腹筋、ヒラメ筋の両方が緊張している。患者の下腿後側とベッド間に術者の一側の膝をもぐりこませつつ、術者の両前腕で患者の下腿を抱え込み保持。次に術者の手指を上手に使って承山や承筋に刺針するとよい。
4.跗陽の触診方法
跗陽は、外果の上3寸でアキレス腱前縁にとる。膀胱経ではあまり目立たない穴だが、陽蹻脈の郄穴となっている。もっとも奇経は八宗穴が治療でよく使われるが郄穴の使い方はよく分かっていないのだが・・・ 跗陽の反応は、仰臥位で術者の手を被験者の踵とベットの間に入れ、少し下腿を挙上させ、もう片方の手指で押圧しつつ擦過するようにするとよい。隆起していれば陽性とする。もともと圧痛はあまり出ない。