1.孔最の語源
正穴名に「孔」の字が入っているのは孔最のみである。一般的にツボは穴という字が使われるので、あえて孔最と命名した以上、何か理由がありそうだと思った。「孔」の語源は顖門(=大泉門すなわち顖会穴)で、骨と骨の間隙を示している。
孔と穴の違いについて、窪んだアナには「穴」、突き抜けたアナには「孔」を使うとの見解もあるが、例外が多いのでこの区別はあまり成立しない。ただ「孔」は、「瞳孔」「鼻孔」などで用いられるように、何かが通っているアナをいう。たとえば「針孔」は糸を通すためのアナのことである。
孔最を押圧すると橈骨と尺骨、そしてその両骨間のつくる大きな間隙も触知できる。この間隙を満たしているのは、肌肉しっかりと触知できる肌肉(腕橈骨筋など)や脈中を流れる血(橈骨動脈など)、脈外を流れる気(正中神経など)となるだろう。
2.孔最の位置
①標準孔最
肘から手関節横紋までを、1.25寸と定めた時、前腕前橈側、太淵の上7寸。つまり曲池の下5.5寸である。
②澤田流孔最
尺沢の下3寸。したがって標準孔最の上2.5寸になる。代田は、実際の取穴は時と場合により上下に移動することが多く、指先の按圧感によりその最高過敏点かつ硬結点を取穴すると記している。
3.孔最の適応
「鍼灸治療基礎学」には孔最の適応症として、①痔痛、痔核、痔出血、痔瘻、裂肛、脱肛。ただし脱肛には効かないこともある。②肺尖結核や喘息にも反応が現れ、または治効がある。灸治が適するとある。孔最は肺経上の代表穴なので上記②の効能があると記すのは納得はできるが、痔疾がなぜ効くのかの理由は分からない。
いろいろな針灸治療書を調べてみると、痔に対する治療穴として孔最の名前があがっていないもの多い。結局孔最が痔に効くことの理由を求めるのは無理で、特効穴としての取り扱いなるのだろうか。
昔は形の似たものには共通の作用があるとする考え方があった。たとえば耳孔によく似た岩の割れ目を耳神様と崇め、耳の悪い者が供え物して合掌した。虫歯地蔵も各地に建てられた。煎った大豆を供えて平癒を祈ったという。煎ると殻が割れるが、その割れ目から歯中に入った虫を外に外に逃がそうとする願いがあったと思われた。この類にについては以下の記事を参照のこと。
そこで妄想することになるが、孔最穴を深々と押圧すれば、橈骨と尺骨の骨間に指が入り、指の左右は軟らかい肉が隆起して二つの尻のようにも見える。また孔最は肛門に似ていると直感的にひらめいたのではないだろうか。
4.痔核治療の孔最刺激は、座位で強く手を握りしめる肢位にする(三島泰之)
三島は、孔最の主な適応症は痔出血と痔痛で、孔最の刺激を有効にするには、仰臥位で施灸するのではなく、坐位で強く手を握りしめた肢位で行うべきだと記した。針ならば太針を用いて5分~1寸、数分間の手技針を行う。痛みを我慢する姿勢は、歯を食いしばり、上下肢を含め全身に力を入れた状態になる。昔の排便スタイルはでは、膝を相当窮屈にまげた姿勢で、手は自然と結ばれ、前腕は屈筋に力が入った姿勢となる。前腕屈筋群では、孔最穴あたりから手首に向かって一番力が入った状態になる。痔痛に耐えながらの排便姿勢、この延長上である」(「今日から使える身近な疾患35の治療法」医道の日本社刊 2001年3月1日出版)。
5.痔疾に対する孔最刺激の方法(国分壮)
国分壮・橋本敬三共著「鍼灸による速効療法 運動力学的療法」医歯薬、昭和40年4月20日)では自分の治療ノウハウを率直に書いてあり興味深い。
①局所刺激
肛門周辺を押圧すると特定の位置に圧痛点を発見できる。その中心めがけて深く刺入する。この一針だけで痔痛はなくなり痛むことはなくなる。この圧痛点に直接灸するのは具合が悪い。太い線香や蚊取り線香を使い。圧痛点に徐々に火頭を近づける。はじめはポカポカとほのかに温かく快適であるが、さらに火を近づけるとアッと灼熱感を覚えて肛門がキュッと締まる。間髪を入れず火先を遠のける。これを5~6回施すと圧痛がとれる。翌日また圧痛があれば4~5日続ければ圧痛はとれる。
②孔最刺激
灸の治療は必ずしもモグサを必要としない。70℃くらいの温熱感がツボに的中すればよい。直接灸の場合はできるだけ細い艾炷でよい。要するに快適な感覚がツボ周囲に放散すればよい。温灸では刺激部位を広くとらねばならない。
6.結論
いろいろと調べると、痔に効くという効能は、痔核限定のようだ。しっかりと反応している孔最の反応を捉えることが重要で、その反応点が結果的に孔最や澤田流孔最の位置にこだわる必要はない。