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常習性便秘に関する鍼灸治療点の検討 ver.2.1

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1.下行結腸に対する腰部からの刺針   
  
内臓体壁反射の理論では、大腸は上行結腸~下行結腸までは交感神経が主導権を握り、その反応は背部に現れる。さらに大腸は、上行結腸と下行結腸が後腹膜臓器で、とくに下行結腸を刺激する目的として、左大腸兪・左腰宜(ようぎ=別称、便通穴)などを刺激することが多い。

下行結腸は、腰方形筋の深部にあるので直刺で深刺すると命中できる。この部は皮下脂肪や筋 組織が豊富(下図では省略)なので、深刺する必要がある。また上行結腸と下行結腸の内縁には 腎臓(Th12~L3の位置)があるので、下行結腸に刺入するには、腸骨稜(L4の高さ)から行うことで、腎臓への刺入を回避できる。

1)左肓門外方(郡山七二『鍼灸臨床治法録』)     
志室の上1.5寸。L1棘突起下外側8㎝の部。下行結腸刺激。脊柱の方に向けて圧すると広背筋、外腹斜筋を触知できる。その筋群を直刺する方向と角度で4㎝刺入し、強刺激する。 「これだけで必ずといってよいほど通じがある」と記している。  
  
※私の意見:横行結腸は腹直筋の直下で比較的浅層に位置しているのに対し、下行結腸は後腹膜臓器で、左下腹部の小腸の奥にある。下行結腸への刺入は、伏臥位で腰方形筋の深部に直刺する、もしくは郡山七二のように、側臥位にして腰方形筋の外縁から中に刺入することを考える。ただしL1棘突起下の高さでは下行結腸の直側に左腎があるので注意が必要。安全性を考えるとL4の高さ(すなわち腸骨稜の高さ=腰宜穴)から刺入した方がよい。
 

 

2)便通穴(=左腰宜 ようぎ)    
便通穴とは木下晴都が命名した。腰宜穴に相当するのだが、左腰宜穴のみを便通穴とよぶ。L4棘突起左下外方3寸。腰方形筋の外で、腸骨稜縁の直上を取穴。やや内下方に向けて3㎝刺入。森秀太郎著「はり入門」では、「深さ50㎜で下腹部に響きを得る」とある。下行結腸内臓刺になる。

 

2.小腸に対する腹部からの刺針
 

1)天枢深刺(森秀太郎「はり入門」医道の日本社)   

森秀太郎が最も重視しているのが天枢への雀啄針であった。同氏の天枢刺針は、臍の外方1.5寸にとっている(教科書的には臍の外方2寸)。15~30㎜直刺し、腹腔内に針先を入れ、腹腔内刺入を目標としている。 中国の文献では、天枢から深刺し、下腹から下肢へ引きつれるような針響を得て、初めて効果が出ると説明している。

2)臨床のヒント

①天枢の浅針は、腹直筋刺激だが、深刺すると腹直筋→大網→腸間膜・小腸と入る。
森秀太郎が最も重視しているのが天枢への雀啄針だったという森の天枢刺針は、臍の外方1.5寸(教科書的には臍の外方2寸)の部から、15~30㎜直刺し、腹腔内刺入を目標としている。針響を肛門に得るのがコツだという。 
こんなに深刺して大丈夫なのかと心配なるが、中国の文献では天枢から深刺し、下腹から下肢へ引きつれるような針響を得て、初めて効果が出ると説明しているものもある。

②大網とは、腹膜と腹腔の隙間にあり、胃からエプロンのように垂れ下がっている膜状の組織で、腹膜の一部である。腹部炎症を広げず閉じ込める役割があるとされるが大網に知覚はない。一方、腸間膜とは、腸を吊り下げるようにして固定している腹膜の一部で、腸に酸素や栄養を送る血管や知覚神経が存在している。上行結腸、下行結腸、直腸は腸間膜を持たず、腹壁や骨盤腔に直接固定されているので、体内で移動することはない。これに対して横行結腸、S状結腸は、腸間膜に覆われているが、腹壁には固定されていない。高齢者の便秘患者では、腸間膜がゆるんで垂れ下がるので、腸捻転や腸閉塞を起こす原因となる。

③柳谷素霊は、四満(柳谷は臍下2寸に石門をとり、その左外方1寸の部をとっている)から刺針する。実証者の便秘には、2~3寸#3で直刺、2寸以上刺入して、上下に針を動かす。この時、患者の拳を握らせ、両足に力を入れしめ、息を吸って止め、下腹に力を入れさせる。肛門に響けば直ちに息を吐かせ、抜針する。 虚証者の便秘には、寸6、#2で直刺深刺。針を弾振させて、肛門に響かせる。この時患者は口を開かせ、両手を開き、全身の力を抜き、平静ならしめる。いずれも肛門に響かないと効果もないと考えてよい、と記している。
腸間膜に刺入すると肛門に響かすことができるということだろうか。

 

3.下行結腸・S状結腸に対する骨盤内筋の筋膜刺激
  
下行結腸やS状結腸は後腹膜臓器なので、これらの腸管を直接鍼で刺激するのはかなりの深刺が必要である。これら結腸への直接刺激でなく、骨盤内の腸骨筋または内閉鎖筋過緊張あるいは 癒着により腸管の通過障害を生じている可能性があり、腸骨筋や内閉鎖筋への刺針が治療になることがある。
 
1)腸骨筋刺針としての左府舎刺針     
   
教科書での府舎は、恥骨上縁から上1寸の前正中線上に中極をとり、その外方4寸で、鼠径溝の中央から一寸上を取穴する。府舎を便秘で使うと書いているのは、森秀太郎(『はり入門』医道の日本社)で、寸6の6番の針で、やや内方に向けて10~30㎜ほど刺入すると、下腹部から肛門に響きを得る、とある。
私の意見:左府舎からの直刺は下行結腸に入れるというより、その外方にある腸骨筋に入れて響かせることを意図していると思われた。肛門に響くのは、陰部神経刺激によると予想した。

腸骨筋は大腰筋の影に隠れて一見すると目立たない筋だが、骨盤内で広い体積を占めている。腸骨筋が股関節に癒着して鼠径部痛を起こすことが知られている。鼠径部外端から内方1/3の部から刺針することは、この部に糞塊を触知できる弛緩性便秘の治療に使えると主張する者もいる。   


 

 

2)秘結穴(左腹結移動穴)    

秘結穴は、木下晴都『最新針灸治療学』医道の日本社に載っているツボである。一般的な左腹結部位(臍の外方3.5寸に大横をとり、その下方1.3寸)では効果が期待されないと記されている。仰臥位、左上前腸骨棘の前内縁中央から右方へ3㎝で脾経上を取穴する。3~4㎝速刺速抜する。この刺針は、鍼先が腹膜に触れるため、約2㎝は静かに入れて、その後は急速に刺入し、目的の深さに達した途端に抜き取る、と木下は記している。本穴の刺法も、前述の府舎と同様、腸骨筋刺針だと考えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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