※本ブログ内容は、令和5年10月15日、針灸奮起の会「内科症状の現代針灸」、<第2章、中下部症状の現代針灸>でも取り上げます。
1.下腹部臓器の体壁反射表の見方
①内臓は交感神経と副交感神経という2つの自律神経で制御されている。どちらが優位であるかは定まっており、胸腰系内臓は交感神経優位、頭仙系内臓は、副交感神経優位になる。
②上表の見「虫垂・上行結腸:Th9~Th11(+)前、骨盤神経(-)」との意味は、Th9~Th11デルマトーム交感神経優位であり、体幹前面に反応は出現する一方、副交感経支配は優位ではないことを示す。
③ Th9~Th11デルマトーム交感神経反応は、皮膚のザラツキ、冷え、発汗などの皮膚所見となり、診察上見逃されやすい。しかし交感神経興奮がある閾値を超えると体性神経に刺激が漏れ出すので、体性神経デルマトーム反応である皮膚の痛みやコリなどの所見として反応が出現し触知しやすい。
④体性神経デルマトームとは末梢神経皮枝分布のことで、神経が深層から浅層へ現れる部に反応が現れやすい。そえは背部では起立筋、腹部では腹直筋上にコリや痛み反応として現れる。この皮枝をつまむと、皮下筋膜が癒着している部ともいえる。
⑤なお、交感神経デルマトームと体性神経デルマトームは体幹では同じ分布としてよいので、実際には交感神経デルマトーム図は使われず、体性神経デルマトームで代用されている。
⑥「虫垂・上行結腸」「小腸(空腸・回腸)・大腸(横行結腸・下行結腸)」の体壁反応を図示すると次のようになる。
⑦交感神経反応は、体性神経反応に漏れ出すと説明したが、体性神経の神経の主要枝を刺激るので、腹部内臓では、Th12より上位ではでは肋間神経が興奮となり、L1~L3は腰神経叢反応として腰部と大腿前面に反応が現れる。
たとえば血海はL3デルマトーム上なので、血海には小・大腸の反応が現れる。梁丘はL4デルマトームで、仙骨神経叢領域(L4~S3)となるが、これも腰神経叢反応の誤差範囲なので、小・大腸の反応が現れるとしてよいだろう。
⑧ 冒頭の表で「S状結腸~直腸 L1~L2(-)、骨盤神経反応(+)」とは、交感神経反応として鼠径部に現れることになるがこの反応は優位はなく、副交感神経優位なので、仙部副交感神経反応として、八髎穴に反応が出現する。骨盤神経を含む副交感神経反応は、体性神経反応のように圧痛硬結は現れない。下図では骨盤内体性神経刺激点として多用する陰部神経刺針や陰部神経刺激目的の中極刺針もつけ加えた。
今回のブログは内臓治療について記しているわけだが、内臓に響かせる針というのは、体性神経の知覚成分を刺激した結果といえるだろう。内臓を自分の意志である程度コントロールできる部分は、運動神経コントロールとしての呼吸運動(横隔神経)と尿便我慢(陰部神経)の2つしかない。これに内臓に響いたような感覚が得られる肋間神経が加わる。
2.柳谷素霊による胃カタルに対する梁丘刺針の技法
梁丘穴は胃痛に効き、血海が婦人科で血に関係する病に効くという話を耳にすることは多いが、実際の針灸治療に使えるほど効果が高いのだろうか。効く確率は実際は意外に低いのではないかという気持ちもある。効かせるには、コツがあるのかもしれない。柳谷素霊著「胃カタルの鍼灸法」柳谷素霊選集下よりの中で、梁丘の刺針ついて書かれている箇所がある。以下引用文。
胃カタルとは現代の胃炎に相当するが、とくに嘔吐を繰り返すものをいう。
大腿外側の大腿直筋の外縁で、下肢を伸ばしてウンと力を入れると凹むところに梁丘を取穴。下方から上方に向けて、大腿直筋外縁下に針尖が入るような気持ちで斜刺する。この時、患者には息を吸わせ、なるべく手足をキバるよう力を入れさせて刺入、針を進ませるのは吸気時行い、呼気時には針を留め、または力を抜く(呼吸の瀉法)。このようにして徐々に進め針響きが腹中に入ると患者が訴えれば、病の痛みが次第にうすらいでくる。腹中に響かない場合、弾振(ピンピンと針柄をゆっくりと弱く弾ずる)すれば、やがて疼痛は軽減する。