Quantcast
Channel: AN現代針灸治療
Viewing all articles
Browse latest Browse all 655

勃起障害(ED)の針灸治療 ver.2.2

$
0
0

1.勃起とその消退の機序
 血中の化学物質により勃起がコントロールされる。次の3つの化学物質が関与する。
         
①「cGMP」で勃起が起る。cGMPとは、環状グアノシン-リン酸の略で陰茎中の血管拡張物質。 

②「PDE5」で勃起が萎える。 PDE5とは、ホスホジエステラーゼ5の略。
前立腺や尿道の筋肉を緩める作用がある。勃起状態を消退させる作用もある。バイアグラは、PDE5の作用をブロックすることで勃起状態を持続させる。

③勃起の反応は、性的興奮により「NO」(一酸化窒素)産生が引き金となる。


2.勃起と関係する筋
EDに関係する筋としてPC筋とBC筋が注目を集めている。 
 
1)PC筋

肛門の筋は骨盤神経(副交感神経支配)で肛門内側にある内肛門括約筋と、陰部神経支配の肛門外側にある肛門挙筋に大別される。肛門挙筋は、体性神経なので、自分の意思が関与する。肛門挙筋3種類あり、肛門から近い側から、恥骨腸骨筋・恥骨尾骨筋・腸骨尾骨筋になり、それぞれ独自の役割がある。勃起と関係するのが恥骨尾骨筋で、PC筋(Pubococcygeus Muscle)ともよばれている。

PC筋は、ペニスが勃起するときに、海綿体に血液を送るポンプの働きをする。精液を出す時には律動的に動く。

2)BC筋

球海綿体筋をBC筋(Bulbocavernosus Muscle)と略す。ペニスが外に出ているのは全体の 3/4で、根元1/4は、骨盤底筋群の隙間に埋まっている。この根元にあるのがBC筋で、ペニス全体を下支えしている。球海綿体筋が強いとペニスの根元もしっかりして上向きのペニスとなり簡単には「中折れ」を起こさない。

球海綿体筋には尿道から尿や精液を押しだす役割もある。球海綿体筋が鍛えられることで射精の勢いが強まり、射精時の快感が増すとされる。 球海綿体筋が弱ると、尿のチョイ漏れを起こす。

 

 

3.PC筋・BC筋に対する物理的刺激



PC筋に対する局所刺激点は肛門の刺激になる。会陰穴である。BC筋は会陰穴のやや前方で陰嚢との境界部になる。この部に相当する奇穴はあるのかと、陸痩燕・朱功著、間中喜雄訳「奇穴図譜」医道の日本社、昭46.6.10刊をみると、<陰嚢下横紋>という穴を発見した。BC筋の刺激点とはペニス基部の刺激になる。

男性であれば理解可能かと思うが、意思で肛門を引き締めようとすればPC筋が作用し、小便終了時にペニス内に残存する尿を外に出そうとすればBC筋が作用する。PC筋とBC筋は完全に独立して機能せず、同時に筋収縮することも多い。

ツボはある椅座位でこのあたりにゴルフスボール(直径4㎝程度)などをあてがい、上体を前傾させると、PC筋・BC筋の押圧刺激になる。リズミカルに数分間、前傾したり元の姿勢に戻したりの運動を行うことででPC筋・BC筋を鍛えることができる。  


4.PC筋とBC筋の筋力トレーニング
PC筋とBC筋の筋力トレーニングの意義は、筋力増強ではなく、血行改善になる。  

①PC筋のトレーニングとしてオシッコを止める動作を5秒ほどかけて行い、今度はオシッコをするような動作を5秒ほどかけて行う。締める、緩めるの動作をゆっくり10回行い、毎日3~5セット続ける。
  
②BC筋を意識しながら5秒ほどかけて肛門を力強く締める動作をする。今度は肛門をゆっくり緩めていく。締める、緩めるの動作をゆっくり10回行い、これを3~5セット毎日続ける。
  
③椅座位で、上体を前傾斜すると骨盤底筋が座面に当たる。この辺りに直径4㎝くらいのボールををあてがい、前屈動作を反復する。PC筋・BC筋指圧効果が得られる。
(ピンポン球ほどの大きさがよいが、ピンポン球では圧力をかけるとつぶれそうだ。硬質ゴム製のスーパーボールがよいと思う)

4.EDの針灸治療

PC筋・BC筋を直接刺激するには、会陰穴からの刺針になるが、治効のエビデンスが不足している。PC筋・BC筋への刺針には筋力トレーニング効果はないが、血行改善効果はありそうだ。このためには置針やパルス針が剥いているのかもしれない。 
  
1)針灸とバイアグラの効果の比較研究 
 
辻本孝司は、針灸とバイアグラの効果を比較し、「EDに対する中髎刺針は有効だが、その効果はバイアグラに及ばない」との結論づけた。それは次のような内容である。
ED患者26名に対し、2寸#8の針を中髎に5㎝刺入し、回旋刺激を10分間施行。治療は週に1回で、平均11回施術した。著効と有効を合わせると有効率は62%だった。有効例は、心因性(著効33%)よりも、内分泌性(著効88%)や静脈性(60%)の方が高かった。しかしバイアグラの有効性は50mgで70~80%で、重篤な副作用もみられないことから、針治療よりもバイアグラ内服の方が効果的である。バイアグラが効果なかったという者の大半は、内服方法に誤解があるからで、服薬指導と数回の針灸治療で改善させる。(辻本孝司:EDの治療-バイアグラと針に求められるものは,針灸OSAKA.vol.19 No.1.2003.Spr)
 
2)陰茎背神経刺針

亀頭など性器の触覚を支配しているのは陰部神経なので、以前から陰部神経知覚枝を刺激することがEDの改善になることが期待され、陰部神経刺針が用いられてきた。
骨盤底筋を鍛える目的で、大腿内転筋トレーニングの一環として陰包や足五里を刺激することも行われているが、これが効果的だとする印象はあまりない。
   
①曲骨から下方にむけて深刺
陰部神経の終枝である陰茎背神経は、陰茎から亀頭に達するので、針響も陰茎先端まで得られやすい。陰茎にまで響かせる方法は、ゆっくり斜刺して硬い処(=筋膜)まで針先をもっていく → 針尖を筋内に入れたら雀啄をする → 雀啄しつつ針全体の動きとして深度を深くする、といった手技を行う。
  
②曲骨の針響と治療効果(日野勝俊:「はりきゅう」治療でしぜんな妊娠あんしん出産、2006年11月)
日野勝俊は「正常男性に曲骨から刺針をすると、ペニスの先まで針響を感じるが、重症のEDでは刺針した部位のみの刺激感のみになる。しかし繰り返しの治療で、ペニス先端部近くまで針響が届くようになる」記している。一般的なEDの場合には症状に応じて、週に1~2回程度の治療を4ヵ月間続けて経過をみる。効果がすぐに現れるケースでは、初回の治療直後から、遅い時でも2ヵ月ぐらいで症状の改善が認められるとのこと。
※曲骨や中局へ針してペニスに響かせる方法は、急性・慢性膀胱炎での常套法(慢性膀胱炎には中極に10壮程度の多壮灸がよい)なので、EDに対しても効き目がありそうだ。そう思って、筆者はこの方法を10例以上行ってみた。しかしED治療に効果あることの感触は得られなかった。
  
③正座位にて、関元、中極、腎兪、裏合谷の多壮灸(陽不起の標治灸 柳谷素霊選集下より)
 裏合谷は「掌中、母指球の尺側、合谷穴と相対するところ、之を按ずれば極めて痛み透るところ」とする。 正座させ、関元・中極・腎兪には最初小灸にして漸次灸壮を増やし、腰腹部春陽の如くポカポカと温暖となるまで施灸する。温暖にならざれば効果が薄い。裏合谷には灸7壮。
筆者註:裏合谷は、房事過多による腎陰虚に使うという意見がある。下腹部正中に施灸する際、座位で行った方が腹筋に力が入るとくに椅座位で上体を前傾すると、BC筋を刺激できる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


Viewing all articles
Browse latest Browse all 655

Trending Articles