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1.八髎穴の適応
針灸治療において、八髎穴では、次髎穴と中髎穴の使用頻度が高い。一般的に仙骨神経叢の構成はL4~S4脊髄神経前枝からなるので、この代表刺激点としてはS2後仙骨孔部に位置する次髎を使うことが多い。また骨盤神経(副交感神経)と陰部神経(体性神経)は、ともにS2~S4を起始としているので、代表刺激点としてS3後仙骨孔部にある中髎を使うことが多い。
ざっくりいうならば、整形外科疾患である坐骨神経痛には次髎を用い、泌尿生殖器科や婦人科疾患には中髎を使うことが多いといえる。
※ただし木下晴都著「坐骨神経痛と針灸」には、多数の座骨神経痛で来院した患者に対し、腰殿仙骨部で座骨神経痛治療に使用することの多いと思える経穴を10穴程度選穴して治療効果を検討した。その結果、①浅刺よりも深刺が効果あったこと、②どの穴も大なり小なり効果があったが、次髎だけは悪化した、との結果だった。次髎に深刺置針をすると、かえって坐骨神経痛が悪化することがあると記されているが、その機序についての考察までは記していない。
ところで中髎に刺針して、骨盤神経や陰部神経を刺激するとしても、実際にはどのような疾患に対し、どの程度の効果が期待できるのか、という疑問は以前からあったのだが、どれも自分の臨床経験で語られてきたに過ぎなかった。
この問に対して、北小路博司氏(明治鍼灸大学)は、一連の精力的な研究を継続して行い、かなりの回答を与えてくれた。この内容を総括的にみるには、「鍼灸臨床の科学」医歯薬出版刊の、<泌尿・生殖器系障害に対する鍼灸治療>が適していると思う。その結果をかいつまんで紹介し、若干の解説を加える。
2.中髎の解剖学的特徴
仙髄排尿中枢(S2~S4)に位置する。これらは骨盤神経(副交感神経)、陰部神経(体性神経、自律神経系)の起始する部位で、膀胱、尿道(外尿道括約筋)、および性機能に深く関係している。
3.中髎の刺針と刺激方法
第3後仙骨孔に入れるのではなく、第3仙骨孔付近の仙骨後面の骨膜を刺激する。
※上記の刺針を北小路博司氏が提示したヘリカルCTで見ると、確かに仙骨前面に沿うように刺入されている。内臓にまで刺入されていないことも確認できるが、沿うように刺入することは意外に難しく、できるだけ仙骨骨膜をこするように刺激することでもよいだろう。
4.中髎刺針の臨床成績
1)切迫性尿失禁
神経因性の過活動性膀胱患者の最大尿期時膀胱容量が増加傾向。切迫性尿失禁患者の60%が、尿失禁の消失ないし改善した。中髎刺針は膀胱容量を増加させる傾向がある。 無抑制収縮を抑制させる傾向がある。
2)前立腺肥大症(第Ⅰ期)
前立腺肥大症第Ⅰ期に対して、週1回の中髎刺針を行い、平均6回あまり施術した。夜間の排尿回数減少、および昼間排尿間隔の延長がみられた。ただし治療終了後は元に戻る傾向があった。
3)排尿筋、外尿道括約筋協調不全
神経因性膀胱の一タイプ(膀胱機能正常、尿道機能は過活動)で、主訴は排尿困難。6例中、4例で排尿困難が消失、1例は改善した。初発尿意、最大尿意および膀胱コンプライアンスは不変。残尿量の減少も5例でみられた。
4)低緊張性膀胱による排尿困難
神経因性膀胱の一タイプ(膀胱機能が低活動、尿道機能正常)で、主訴は排尿困難。
の者。7例中、1例に排尿困難の軽減がみられた。中髎の鍼治療によって、排尿筋の収縮力を高めることはできなかった。
5)勃起障害
心因性9例、内分泌性8例、静脈性3例、糖尿病性2例、神経因性1例、前立腺症1例の計26例。早朝勃起は全症例に対して改善。性交時の状態は65%が改善(心因性33%、内分泌性88%、静脈性100%、糖尿病性50%、それぞれ改善したが、神経因性その他は不変)。心因性インポテンツが、他の原因によるインポテンツと比べ、予想外に有効率が低い。
註:これはバイアグラと同様の傾向である。
6)Ⅰ型夜尿症(膀胱内圧上昇時にも、浅い睡眠に移行するも覚醒に至らないタイプ)
※Ⅱa型は脳波上、覚醒反応が生ぜず、深い睡眠のまま夜尿する。Ⅱb型は膀胱に生じる無抑制収縮を原因とした膀胱機能障害であり、深い睡眠のまま夜尿する。
薬物療法無効の8例。週1回施術で平均5回強治療。夜尿出現率が10%以上改善した者は4例、10%以下の無効例は4例だった。有効例はすべて初発尿意(膀胱にどの程度の尿が溜まったら尿意として自覚するか)が改善した。機能性膀胱容量の増大と初発尿意の延長が、夜尿症の改善に関係あるらしい。
※最新の知見では、夜尿と睡眠の浅深は無関係であることが分かった。つまり上記成績は、Ⅰ型夜尿症に限定する必要はないであろう。
5.中髎刺針の総括
中髎穴刺針には、つぎのような作用がある。
1)膀胱括約筋緊張を緩める →膀胱容量を増加するので、尿意を減らし排尿回数を減らす。
2)膀胱容量が拡大するので、夜尿が発生する時刻を遅らせる。
3)尿道外括約筋の緊張を緩める →外尿道括約筋の過緊張を緩めることで排尿困難を改善。
4)勃起障害を改善。だたし心因性の勃起には有効率が低い。
※このブログを発表したのは、2006年11月のことだった。あれから約15年経過した。この間、泌尿器疾患患者を扱う機会も百症例以上あったとは思う。これらの患者に対して中国鍼で中髎から斜刺をしてみたのだが、残念ながら、あまり有効だったとの感触は得られなかった。現在、中髎刺針しながらハコ灸を追加したり、陰部神経刺針パルスをしたり、手を変え品をかえつつ、有効性を高める努力を継続中である。以前、迷走神経は口から胃にかけての領域に副交感神経作用をもたすとされていたが、最近になった迷走神経の枝は大腸まで達していることが明らかになった。骨盤内蔵を副交感神経支配するのはS2~S4の骨盤神経である。
6.中髎刺激の印象
中髎水平刺の意図は、陰部神経・骨盤神経・仙骨神経を刺激することである。私は原法に従って十年近く実践してきてきたが、この治療方法は万能ではないことも分かってきた。陰部神経刺激であれば陰部神経刺針(座骨結節と上後腸骨棘を結んだ中点から、一横指座骨結節寄りから直刺2~3寸)を行った方が、症状部に響かせることができる。仙骨神経叢に響かせるのは、坐骨神経ブロック点刺針からの方が有利である(骨盤神経叢は響かせることができない)。
①馬尾性間欠性跛行症に対して、持続歩行可能な時間が延びることが多かった。しかしこの効果持続期間は1週間程度であり、繰り返して治療しても治るということはない。1週間から2週間に1度の鍼灸施術で、症状をコントロールできるのがせいぜいである。治療を中止すると元の状態に戻ってしまうことが非常に多い。
②中髎水平刺ではなく、3寸針で8㎝ほど中髎深刺すると、陰部神経支配領域に響きを与えることができるので、従来の陰部神経刺針よりも有効となるかもしれない。(第3仙骨孔を貫通させるのは、初心者には難しいだろうが)
③肛門痛に対しては、陰部神経や中髎直刺よりも、会陽からの深刺の方が効果あるようだ。会陽から直刺深刺し、肛門挙筋も同時に刺激するような治療が効果的ではないかという発想が生まれた。現在、肛門奧の痛みをもつ一人の患者に対して、ジャックナイフ位にて行う会陽深刺と会陽から5㎝下のほぼ肛門の高さからの刺針の効果を検討中である。アルコック管刺針や内閉鎖筋刺針も肛門症状に対しても。試みてはいるが、大した効果はあがっていない。
④陰茎・陰嚢痛の痛みに対する治療は、いろいろやってはみているが、いまのところよい治療法が見つかっていない。
⑤切迫性尿失禁については、座位で2壮の中髎のせんねん灸を行い、大幅に症状改善した例があった(自験例)。
⑥頻尿については何例か八髎穴に施灸したが、治療効果はあがっていない。夜尿については治験がない。