兎眼
眼が大きく開き、眼瞼が閉じない状態を兎眼とよぶ。顔面麻痺の所見。ではウサギは目を閉じないのだろうか。といえばそんなことはない。ウサギの上瞼は2枚あって、外側のは普通の瞼だが、内側の瞼が瞬膜とよばれる薄い膜である。外敵に対する威嚇を目的に、閉じていても開眼しているように見える。本当に安全だと思えば外側の瞼まで閉眼して眠る。ヒトでも内眼角部附近の白目部分(強膜)にピンク色の部分がある。これは瞬膜のなごりである。
長掌筋
長掌筋は、手関節を屈曲する時、浮き出てくる腱として有名である。その機能は、手掌腱膜を緊張させることで、猿などが木登りや木の枝にぶら下がる際に使われた。ネコが爪をしまう時にも使う。しかし今日ヒトはその機能は退化したので、長掌筋は無用のものとなった。同じことは足底筋膜を緊張させ、荒地でも裸足で歩行できることを可能にしている足底筋がある。足底筋の筋部分はちょうど委中あたにあり、長い腱が足底まで伸びている。ヒトでは足底筋が退化してしまったが、アキレス腱断裂時でも足底屈ができるのは足底筋の存在による。
メラトニン
動物の進化をたどると、額の位置に「第3の眼」とよばれるものが存在した。これはカメレオンのように周囲の色や光を感知し、自らの体色を周囲に同調させるという保護色としての役割があった。メラトニン分泌により、皮膚に分布するメラニン細胞を収縮させることで変色させる。今日では、「第3の眼」は、大脳が巨大化した結果 脳深部の松果体に変化している。
松果体から分泌されるメラトニン量は昼間は低く、夜は高い傾向にあることから、夜はよく眠れる。メラトニンの役割は、動物の24時間のリズムを整えることと、生殖腺の発達と性活動を抑制することを仕事としている。ただし現在、睡眠誘導剤としてメラトニン製剤が誕生しているものの、医薬品としては効能が弱く、効果出現まで時間がかかるのであまり利用されていない。
心肺停止
ニュースなどで心肺停止という言葉を、最近よく耳にするようになった。死亡ではなく、わざわざ心肺停止というのはなぜだろうか。法律上、死亡の判断は医師しかできないが、心肺停止は所見なので救急隊でもそのように判断できるのだろうと私は思った。しかし心肺停止がすなわち死亡とはよべないことを知った。
心肺停止とは、脈もなければ息もしていない状態である。当然ながら意識はなく昏睡状態である。確かに二昔前であれば死亡とされていた。しかし現代の救急医療にあっては、止まったばかりの心臓を動かすことは簡単で、電気ショックとアドレナリンを中心とした薬剤を与えれば何とかなる。また息をしていなくでも人工呼吸器をつければ呼吸は停止しない。もっとも数分間の心停止の後、医療処置によって心臓が再び出したとしても、新たに別の問題が出てきた。酸素不足に対して脳幹は比較的強いが、大脳皮質は非常に脆弱なので、生きてはいるが意識は戻らないという植物状態への回避も考えねばならなくなった。
つまり一旦止まった心臓に対し、長々と(4分間以上)心臓マッサージなどをやるのは考えものなのだ。
灸するために天皇の地位を譲った話
現行の天皇が高齢のため、皇太子に天皇位を譲位する意向であることが話題になっている最中、天皇の歴史について研究している方(患者)に、興味深い話を聴いた。かつて後水尾(ごみずのお)天皇(在位1611年5月9日-1629年12月22日)は、徳川幕府へ通告することなく、次女の興子内親王(明正天皇)に譲位したという。この理由というのが、病気の天皇が治療のために灸を据えようとしたところ、「玉体に火傷の痕をつけるなどとんでもない」と廷臣が反対したために退位して治療を受けたという逸話がある。
嗅ぎタバコ盆
大腸経上で手関節背面橈側で、長短指伸筋腱間の陥凹に「陽谿」穴がある。この陥凹は通称タバチエールともよばれるが、私は四十年もの間、タバコ盆(=灰皿)と覚えていた。灰皿にしては小さすぎるのではないかとは思ったのだが。しかし最近偶然、嗅ぎタバコというもののあることを知った。この陽谿部に米粒大の嗅ぎタバコの葉を載せ、強く息を吸い込んで鼻の孔から鼻腔に入れるという。この嗅ぎタバコは、タバコ成分を丸ごと鼻腔に入れるものなので、紙巻きたばこ以上に毒性が強いという。ただし火は使わず煙も出ないので副流煙の被害はない。JTは2013年8月頃から無煙タバコ<ゼロスタイル>という商品名で販売している。
嗅ぎタバコと同種のものに、噛みタバコがある。噛みタバコはタバコ成分の入った佃煮様のものを、舌裏または歯と頬の間に入れ、タバコ成分を口腔粘膜から浸透させるものである。今から40年くらい前、東京ディスニーランドに行った折、ランド内の売店で初めて目にした。当時、喫煙者だったが、そもそも噛みタバコの存在を知らなかった。試しに買って、口の中に入れて噛んでみた。これは間違った使用法だが箱書きの説明文は外国語であり読めなかったのだ。すると、とにかく口中が苦く、タール感もたっぷりで思わず吐き捨てた。