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Channel: AN現代針灸治療
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下顎の突き出しができない患者の針灸治験

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72才、男性

1.主訴:前頸部~顎下部の痛み

2.現病歴:数年前から次第に上記症状出現。

3.理学検査

顎下症状部の、顎二腹筋前腹の圧痛あり。咬筋や側頭筋の圧痛なし。
咬合は正常。しかし下顎の突き出し力不十分で、下前歯を上前歯の手前に出せない。


4.診断

顎二腹筋の過緊張。これによる下顎の突き出し運動不能


5.解説

口の開閉は通常は顎関節の蝶番関節運動だが、大きく開口するには、顎関節の前方滑走が必要であり、この運動には外側翼突筋の収縮が必要である。ゆえに外側翼突筋が弛緩していて収縮できなければ下顎の突き出しができない。
 
一方、外側翼突筋の拮抗筋は顎二腹筋であるが、顎二腹筋が過緊張状態であっても、下顎の突き出しができなくなる。
 本症例が下顎の突き出しができないのは、外側翼突筋の弛緩によるものでなく、顎二腹筋の過緊張によるものであろう。そのため前頸部~顎下部の痛みが生じているのだろう。

 

6.針灸治療

1)顎二腹筋の圧痛硬結への運動針

 

 下顎三角中央の陥凹を押圧すると感じる筋ばりで、ここに喉頭隆起上際で舌骨との間に廉泉穴(任脈)を取穴。そのやや外方が顎二腹筋前腹を触れる 
顎二腹筋の後腹は、舌骨と乳様突起の結んだ線上にある。下顎角の後で胸鎖乳突筋前縁の天容(または下翳風)を取穴。置針した状態で下顎の突き出し運動実施。
   


2)外側翼突筋への運動針

主な治療点は顎二腹筋だが、これと拮抗筋である外側翼突筋へも刺針しておくことにした。外側翼突筋刺針は、下関深刺直刺以外に適切な部がないのではないか。



7.治療経過
 
こうした愁訴や所見は初めてだったので、自信をもった治療ができなかったが、上記治療を行った。週2回治療で、治療3回目頃から下顎の突き出しが完全にできるようになり、顎下の痛みも大幅に軽くなった。こんなに完璧に治療効果が出せるとは予想しなかった。嬉しい誤算だった。


8.参考

外側翼突筋収縮は、下顎の突き出し作用の他に、下顎の左右の横ずらし運動作用もある。これは奥歯で穀物を磨り潰すのが目的。内側翼突筋も左右の横ずらし運動作用がある。
ちなみに内側翼突筋は咬筋の深部に位置する。本筋の触知はディスポゴム手袋をはめた示指と母指で、一指を患者の口から中に入れて被験者の頬を挟むよう圧迫するようにして頬裏の圧痛硬結を調べるとよい。
内側翼突筋に対する治療点は、下顎骨内縁に沿うような刺針であろう。この刺針法については、柳谷素霊著「秘法一本針伝書」中の下歯痛の治療に紹介されている。

 


 


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