これまで私は肩甲間部のコリには、局所治療以外に治療方法がないと思っていたが、柳谷素霊著「秘法一本針伝書」中の<肩甲間部のコリの一本針>を読み、そうでもないことを知った。肩甲間部筋は肩甲背神経神経が運動支配している。肩甲背神経は、腕神経叢から起こるので、腕神経叢刺激として、天鼎刺針やモーレー点刺針から刺激してみても、上肢に響きは与えられるが、肩甲間部には響かせられなかったからだ。肩甲背神経神経は運動神経なので刺針刺激しても響かないだろう。しかし肩甲背神経のトリガーポイント活性化すると肩甲間部にコリを生ずるのではないか、などと考えをめぐらす中にあって、柳谷素霊著一本針伝書「肩甲間部のコリの針」を読む機会を得た。
※モーレー点:前斜角筋症候群の診断点かつ治療点。前斜角筋症候群とは胸郭出口症候群の一つで、前斜角筋緊張により直下にある腕神経叢を絞扼し、上肢の痛みや知覚過敏を生ずる病態。
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1.缺盆の位置
1)東洋療法学校協会教科書にみる缺盆の位置
現在の学校強協会教科書の缺盆はや、一本針生伝書よりやや下方で、鎖骨上縁になる。この部から刺針すると、前斜角筋部→腕神経叢と入り、上肢に電撃様針響を与えることができる。しかしながら肩甲間部に響くことはまずない。
※鎖骨の内側1/3は肺尖があるので外傷性気胸に注意すべきである。教科書缺盆はあくまでも頸部軟部組織内にあるのだから、頸部に刺針するとする意識が必要である。
2)「一本針伝書」肩甲間部のコリの一本針としての缺盆
一本針伝書には「鎖骨上窩で胸鎖乳突筋の中央の外側の小さな腱様のスジで、その筋を指頭で按圧すれば指に響くところ」とある。座位で刺針。缺盆から直刺した針を、わずかに上外方に倒しながら慎重に刺入し、 肩甲間部に針響を得たら弾振して針響を持続、しばらく響かせてから抜針する、とある。
一本針伝書の図を見返すと、鎖骨上縁ではなく、そこからやや上方の前斜角筋を治療点としているように思えた。そこで肩甲背神経の走行を改めて注意して観察すると、肩甲背神経はC4~C5神経根から出て、中斜角筋に沿って腕神経叢内で大きく外側にふくらみ、肩甲挙筋に沿って下行くし、大・小菱形筋に達するようだった。
したがって、肩甲背神経を刺激するには、腕神経叢の代表刺激点であるモーレー点よりも3cmほど上方で、甲状軟骨(C4~C6の高さ)の外方になり、中斜角筋を刺激すればよいと考えた。
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2.「肩甲背神経刺激点」への刺針の試行
健常者に対して次の方法で肩甲間部に響きを与えるよう試行してみた。寸6#2使用。仰臥位でマクラを外し、顔を健側に向かせた肢位にする。甲状軟骨の高さ(C4-C5)の高さの外方の中斜角筋に2㎝程度直刺してみた。
何回か雀啄していると、安定して肩甲骨上角まで響きが至ることが多かった。肩甲間部にまで響かなかったのが残念だったが、甲間部のコリを訴える患者であれば、肩甲背神経の閾値が低くなっているので、この刺針法が臨床的にも有効だと判断し、本刺針を「肩甲背神経刺激点」と名付けてることにした。
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3.肩甲骨内縁のコリとC6頸椎周囲の筋膜癒着
頸部神経根症や胸郭出口症候群では、上肢症状がと同時に、肩甲骨内縁にコリがある ことが知られている。この原因について神経走行では説明できないので、MPS(筋々膜性疼痛症候群)によものではないかとされるようになった。C6頸椎あたりは種々の筋が密集していて、筋膜癒着の好発部位となる。フェリックス・マンは「鍼の科学」(医歯薬出版)の中で「C6の横突起を刺激することが、従来の腕神経叢を形成している数本の神経を針で刺すよりも効果的だ」と記している。C6横突起への刺針は、既存の経穴位置の中では肩中兪(小腸経、C7棘突起下外方2寸)が最も近い位置になる。
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