1.バネ指に対するエキセントリック筋収縮訓練法
当院来院中の患者が、昔バネ指になった時、ある鍼灸接骨院でよく効く運動法を教わったと報告してくれた。バネ指症状が出そうになると今でも行うという。実際にやってみせてもらうと、私が知らなかった方法だった。私は現在、左母指バネ指(局麻注射を2回行ったのだが、完治はしていない)があるので、自分で実践してみると確かに効果があった。
これまでバネ指の運動療法というと、代田文誌著<鍼灸治療の実際下巻>にある「健側の手で患側の手首強く握りつつ、強くグーパーを繰り返す」という内容が有名だが、それ以上の効果である。
その方法というのは、両手を組み、障害のある指だけを伸展させて左右の指頭を合わせ、強く圧迫するというもの。その際、強く圧迫すると指のIP関節は過伸展状態になるが、そうならないようにIP関節に力を入れて屈曲させる必要がある。
この運動は、筋トレで行うエキセントリック筋収縮そのものである。エキセントリック筋収縮は、筋に対する刺激が他の運動に比べて最も強力なことで知られ、それゆえに長短指伸筋腱と同筋に強力なストレッチ作用をもたらすのだろう。
かつてバネ指の手術法に、輪状靱帯部を切開して、長・短指伸筋腱部を露出させ、鉗子等で引っぱり上げることで癒着を剥がすバネ指手術の方法があった。原理的にこの手術と同じようなものになる。
2.バネ指腫瘤部への局所刺激と小鍼刀の検討
バネ指の運動障害の原因は、A1輪状靱帯部における腱の圧迫が最多なので、輪状靱帯を切開して腱の通りをスムーズにしてやればよい。輪状靱帯を切開しても、腱は安定した位置にあるので、指の曲げ伸ばしの動作に支障は起きないという。
かつて注射針によるばね指手術(局所麻酔注射後、腫瘤部に注射針をか刺して、鍼先を小刻みに動かすことで小分けして輪状靱帯を切断する)も行われてきた。この技法は、屈筋腱損傷などの合併症が報告されていて、現在では医療施設ではあまり行われないが、中国では小鍼刀(鍼先がマイナスドライバーのようになっている鍼)が考案され、輪状靱帯を突っついて押し切るばね指治療も行われているようだ。エコー装置を使えば針先と腱鞘の位置関係が確認できる。この方法は、法的に日本での鍼灸術の範疇に入るかどうかは微妙である。ただ通常の豪針で、輪状靱帯を鍼先で少々突いただけでは、輪状靱帯の圧迫は取り除くことは難しい(ただし腫瘤部に円皮針を貼り付けて効果があったとする報告はある)。
3.バネ指に対する輪状靱帯部切開術
かつては1~2㎝切開して輪状靱帯を露出させ、視認してメスで切開したものだが、現在では2㎜ほど切開しそこからガイド付き腱鞘切開刀(=ガイドナイフ)を入れて、腱と腱鞘の間にメス先を入れて切断するという方法に移行した。こちらの方が侵襲が少ないので術後の経過が良いという。本法は局所麻酔注射後に行い、エコー検査をしながら実施するので、小針刀よりも安全であろう。もっとも小針刀の適応は、難治性凍結肩や頑固な肩こりなど利用範囲は広く、このことをもって小針刀の欠点とはいえない。