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陳久性胸椎椎間関節症の針灸治療効果持続のための工夫

筆者は2016年6月.1日に「椎間関節症には針が一番」との表題でブログを発表した。その病態生理は、胸椎微小捻挫→脊髄神経後枝興奮→後枝支配筋(とくに長・回旋筋)の緊張→放散痛として微小捻挫部から斜下方への痛みというものであった。その針治療の機序は、後枝支配筋(とくに脊椎傍筋)の緊張部(棘突起から外方5分にある胸椎一行)に刺針することで筋緊張緩和させ、それが後枝痛を緩和させるという考察であった。

では実際の症例に対して胸椎一行の限界はあるのだろうか。現在千人以上の患者に施術してみた印象を記すことにしたい。


1.急性~亜急性 (発症後数日~数週間)に対して


1)急性の椎間関節症には、強力な効果が発揮できる。
  
背腰部を訴える患者で、胸椎一行に圧痛があれば、そこに患側上の側臥位で深刺し5~10分間置針すると有効である。
背腰部の患者の訴える症状部位から、斜め上方45~60度方向で圧ある胸椎一行を治療点に定める。体位は患側上にした側臥位。また深刺とは、針先が椎弓根の骨膜に達するまで、または2㎝以上刺入して硬くなった筋に刺入する場合である。発症後数日~数週間程度の症状に対しては、1回~数回で略治に至る。
※伏臥位ではなく側臥位で刺鍼することの優位性は、棘突起傍の圧痛を探りやすく、また棘突起直側に刺針しやすいため。

2)プラスアルファの治療
  
上述治療後、ベッドから下りて上体を前屈したり上体を左右に回旋させることを指示し、現時点での痛みの具合を問うと、楽になったとはいうが、まだ痛むと訴えるのが普通である。痛みの出現するポーズをさせ、どこが痛むのかを指頭で触ってもらった部に新たに刺針したり、あるいは先に行った胸椎一行の圧点に再度刺針すると症状がもう一段階改善させることができる。
私は1)2)をも行うことで1回の治療としている。


2.慢性~陳久性 (発症半年から数年)に対して

1)慢性の椎間関節症には、一時的効果が得られるのみ

以前、私は「椎間関節症には針が一番」と題してブログを発表したこともあって、数年来何をやっても治らないという慢性・難治性のものを扱うことも多くなった。それもかなり遠方から来院する患者も少なくなかった。
急性の時と同じ治療を行い、側臥位で5~10分間の置針。反対側側臥位で同様治療点に治療で5~10分間の置針を実施。これで患者の多くはこれまでの治療で経験したことのない症状改善を実感できて、次回の予約をとって喜んで治療室を後にするのが普通だった。確かに最初の数回治療は、その効果に満足させることができるようだったが、やがて治療持続時間が数十分~半日と短いことに患者が気づき、間もなく来院しなくなるケースも少なくなかった。

2)治療持続効果を伸ばす40分間置針
 
治療直後の鎮痛効果をのばすために、当方でもいろいろ工夫したが、その努力も実りのないものだった。針に低周波通電をしてもみたが、治療効果が増すことはなかった。
胸椎一行刺針の使用針を2寸#4から2寸#8に変更すると治療直後の治療効果は増大したが鎮痛持続時間は延びることはなかった。
 
たまたま浅野周氏が、「木下晴都氏は著書『坐骨神経痛の針灸』の中で、筋をゆるませるための置針時間は、20分やっても15分置針と同等の治療効果だったので、効率的には15分置針か最適だと記していたが、本当に緩ませるには40分置針が必要だ」と主張していることを思いだし、置針時間を40分間延長することにした。
 
なお私はこれまで背部一行では患側上にした側臥位で背部一行に刺針しているので、両側治療するには反対の側臥位にしてもう一度背部一行に刺針することにしていたが、40分置針するには左右側臥位で40分ずつの置針では治療時間が長すぎるので、腹臥位で行ってみた。なお仰臥位40分ならばともかく、腹臥位40分というのは、患者にとって我慢の限界であって、途中針を半分程度抜いて体動できる状態にして、座位や立位で上体の運動を行わせる必要もあった。
 
最近来院した27歳男性の患者では、左右側臥での胸椎一行置針(#8針使用)で各10分置針では、治療後30分ほどで痛みが元に戻ったのに対し、腹臥位40分に変更してから治療後4時間の持続効果を維持できるまでになった。壁を一つ突破した感がある。

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 伏仰位での胸部一行40分置鍼中(上写真では頚椎の一行置鍼も行っている)


モートン病による足指間の痛みに床のキズ防止パッドが有効だった例

1.病歴

自経例(66才、男性)。 1ヶ月ほど前から30分ほど歩いている途中から左第2~第4指のMTP関節(=足指指節関節)が痛むようになった。右足は痛むまない。足の横アーチが減少して痛む感じがした。買い物などの短距離歩行では異常なし。 治療として、土踏まず部に足底パッドを貼っても効果なく、中足骨前方にインソールを入れても効果がなかった。 1週間ほど前から、わずかな歩行でも左第2~第3指中足指節間が痛み、ビリッビリッと足指先に放散痛が出現。すなわちモートン病出現。 通常歩行や階段を下りる際の、左中足指節関節を背屈する動作で痛みは増悪した。このままでは数分の歩行さえできない状態にまでなった。

 

 

2.下腿三頭筋の運動針法  

以前から足底筋は下腿三頭筋の緊張と関係深いとみなしていたので、まずが下腿後側をいろいろ押圧して圧痛点を調べると、承筋・築賓あたりに強い圧痛硬結を発見した。ここに鍼するのだが、単に刺しても効果乏しいことは経験済み。自重をつかった安定姿勢下で行う運動針はどうしたらよいかを考え、椅坐位にして下腿後側反応点に浅く刺針し、踵上げと爪先上げの自動運動を行わせるという方法。ただし自分自身で行うには体制的に難しく、とりあえず円皮針を使ったが効果がなかった。

といって局所への鍼灸を行っても、ただ刺激痛がきついだけで、よくなりそうな気もしなかった。

 

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3.足底圧痛点への免荷パッド 

困ったことになったと、会員指導にあたっている小野寺先生に聞いてみると、免荷パッドを使ってみたらどうかとのアドバイスを頂戴した。以前、百均で購入したフェルトのような感触の床キズ防止パッド(直径2㎝、厚さ5㎜、ポリエステル製、近日中に写真を添付予定)が自宅に残っていたので、圧痛点に貼ってみた。これは失敗でかえって症状増悪した。そこで圧痛点をはさむように第2、第3MTP関節(=中足指節関節)の2点にこのパッドを貼って、日常的な動作を行なうと、足底にパッドの異物感はあるが、痛みが減っているのを自覚できた。なお就寝前にパッドを剥がしたが、翌朝になって階段を下りてみると、痛みが完全消失したのを発見できた。  貼る場所は、坐位で踵を上げた姿勢をとると、中指-指節関節が背屈されるが、その屈曲部を選ぶ。痛む部を1㎝離してその両側に貼る。貼った後、ビリビリ感がまだ残っているようなら、パッドの位置を数㎜ずらして歩行し、症状の消える位置を見つける。

モートン病だからといって必ずしも神経腫ができている訳ではない。神経腫ができていない状態まであれば、フェルト様パッドで十分な効果が得られそうだ。

 

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心下痞硬・胸脇苦満の病態生理と針灸治療

1.腹証の現代医学的理解(代田文彦講義より)

腹証個々の定義と現代医学的解釈については、以下のブログですでに説明した。今回、天宗刺激に興味深い適応を見いだしたので報告する。

腹診に関する現代医学的理解 Ver.2.0 (2009.5.25)

 https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/8f8c34c0042642f61920ba28da6cc282

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1)心下痞硬
①所見
「 痞」とは塊があってつかえる状態をいう。心窩部が硬くなっており、押すと硬い抵抗が触れる。心下部がつかえるという自覚症状のみは、心下痞という。  

②解釈
腸管、食道、胃のスパズムの反応。もしくは太陽神経叢反応。下脘あたりの刺激で改善することがある。瀉心湯の適応。   
※心下満:心下痞硬と似ていて、心窩部(巨闕、上脘あたり)が自・他覚的に充実して苦しい状態。肝木病における井穴の主治として、古典的に有名。肝の疏泄が欝滞し、横隔膜に変調を起こした状態(心筋梗塞のこともある)に対し、これ を瀉して欝滞を改善させる。肝経井穴として大敦を刺激する。

2)胸脇苦満
①所見
心窩部から肋骨弓にかけて帯状に自覚的な重苦しさ張った感じを訴える。他覚的には肋骨弓下縁から手を内上方に押し上げるように挿入すると抵抗を感じる。自覚的な場合、他覚的場合、自他覚ともに見られる場合がある。肋骨弓下の両側に出現することや、右のみ左のみ出現することもある。(右の方が出現頻度が高い)

②)解釈
横隔膜隣接臓器(おもに肝胆)の異常により、横隔膜が緊張している状態。肝臓の異常による。なお古典でいう肝の病は、現代ではストレスに該当するので、胸脇苦満は心労でも生ずる。柴胡剤(大柴胡湯、小柴胡湯など)を使うが、それよりも中背部の鍼灸の方が早く治せると思う。



2.寺澤捷年の観察と経験(寺澤捷年:胸脇苦満の発現機序に関する病態生理的考察 日東医誌 Vol. 67 (2016) No. 1 p. 13-21)

1)心下痞硬の針灸治療
膈兪・肝兪・胆兪などの脊柱起立筋群の刺鍼で消失することを報告した。しかしこれらの刺鍼で胸脇苦満は消失しない。

2)胸脇苦満の針灸治療
①棘下筋の天宗への刺鍼で、胸脇苦満が消失し、さらに「しゃっくり(吃逆))」が消失することを経験。棘下筋がC5・C6に起始する肩甲上神経に支配され、横隔膜がC3・C4・C5に起始する横隔神経に支配されることから横隔膜からの内臓体性反射で「胸脇苦満」が起こるのではないか?   

②棘下筋の硬結を緩める施術(3番針にて天宗あたりから肩甲骨に達するまで直刺約1.5㎝+電気温針器10分加熱)が横隔膜の異常緊張を解除するらしい。同じ理由で吃逆に対して棘下筋の硬結を緩めることで改善をみた。



3.症例:胃の蠕動運動自覚に天宗刺針が有効な例(一條俊行、37歳男性)

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1)主訴
頸椎~T7の傍脊柱筋の痛みとコリ 、胃が動く感じ、左起肋部から心窩部にかけての圧迫感。
(顎関節症もあって顎の開閉でコキコキと音がする) 

2)診断
左下部頸椎~Th7の長短回旋筋の過緊張。心下痞硬は第5~7肋間神経の末端である心窩部のコリ由来。

3)治療1
伏臥位にて頸椎~T7背部一行置針40分間 。坐位にて督兪・膈兪に手技針(横隔膜に響かせる針)+せんねん灸。

4)経過
この治療で1ヶ月に4回通院後、来院休止していた。聞けばカイロに通院していたという。カイロ治療で骨や関節は整ったが、筋緊張は改善しないので、当院に再来したとのこと。

5)治療2
①これまでの治療は、心下痞硬の改善を狙いとしていたが、それに加え、胸脇苦満の治療を行うため、伏臥位で天宗に深刺直刺すると、患者は大いに驚き、自分が悪かったのはここだったと述べ、胃の勝手に動く感じは収まった。なお右天宗は早川点でもあり、早川点は胆嚢疾患の診断点として古くから知られている。

②天宗刺激でよく使うのが肩関節前面痛に対してである。天宗は棘下筋のトリガーポイントであり、その放散痛は肩関節前面~上腕にかけてであり、臨床で使用頻度が高い。天宗に刺針しつつ、肩関節を外転させるような運動をさせると、肩関節前面痛が軽減することは常套法ともいえる。だが天宗はこれだけに効くのではなく、新たな天宗の使い道を把握できた。

③天宗灸の古典的主治症に、乳腺症(乳管が詰まる)がある。ただし家内にこれをやったが灸を非常に熱がり、治療を拒否された。(やむなく急いで出産した病院にかけつけ、乳房マッサージを受けた。すると間もなく乳汁がシャワーのように吹きだすと同時に、みるみるうちに乳房が小さく正常な大きさになった。)私見だが乳房と肩甲骨は、整体観的に対称であることから、昔は乳房症状には肩甲骨その中心である天宗を使うとしたのだろうと思っている。 

 

 

 

結帯動作制限と結髪動作制限に対する針灸技術

肩関節痛の治療でよく分からないのは、特定動作をとる際に生ずる肩~上腕痛である。その多くは肩甲上腕関節由来の問題ではなく、肩甲骨上方回旋・下方回旋に関係しているのだが、どこが痛むのか患者本人でもよくわからない。今回、五十肩ADL検査の代表である、結髪動作制限と結帯動作制限について、その主因と針灸治療技法について記す。なお本稿は、<奮起の会>肩関節痛で使ったテキストから部分的に引用した。

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1.結髪動作の制限因子    

肩関節の外転制限あるが90°以上可動できる場合、結髪動作制限が生じることがある。肩部痛の場合の運動制限が筋由来の場合、原因は筋力不足ではなく、筋の過収縮にともなう筋の伸張制限による。肩甲骨外縁と上腕骨を引き離すような筋の伸張制限がある時に結髪制限は起こる。
具体的には大円筋と肩甲下筋が十分にストレッチできないことが原因である。 大円筋と肩甲下筋は、ともに肩甲骨外旋制止筋である。

2.結髪動作に対する鍼灸治療

1)大円筋運動針     

大円筋の痙縮痛の放散痛は、三角筋後部線維部に出現するという点で、棘上筋の放散痛とは異なってくる。 患側上の側臥位で、できる限りの結髪動作体位をとらせる。すると肩甲骨が下方回旋して肩甲骨下角が外に出てくる。この状態で肩甲骨外縁~肩甲骨下角外縁に位置する大円筋に刺針その状態で、術者は患者の肘を少しずつ押すことで上腕の外転角を強める運動針を行う。

 

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☆)大円筋運動針アドバンス治療      
下の左側写真の姿勢(ヨガでいう 「ネコストレッチ」)をさせた状態で肩貞に刺針すると、強い運動針効果が得られるこが多い。      

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2)肩甲骨内縁(膏肓)から肩甲下筋刺針

肩甲下筋の放散痛は後方四角口腔に出現する。治療側を上にした側臥位をとらせる。膏肓あたりから肩甲骨と肋骨間に向けて、5~7㎝水平刺すると、ズンという針響を肩甲骨裏面~腋部に与えられる。これが肩甲下筋トリガーポイント刺激である。響きを得たら抜針する。響きが弱い場合には、刺針した状態でゆっくりと肩関節の自動外転動作を行わせる。これに肩甲骨-肋骨間のファッシア(筋膜)癒着を剥がすねらいがある。 

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 2.結帯動作の制限因子   

エプロンやブラジャーを結ぶような動作を結帯動作といい、肩関節の伸展+内転+最大内旋を強いる複合動作になる。結帯動作時痛では、肩甲上腕関節部前面に痛みが出ることが多い。 肩関節前面で三角筋前部線維部の痛みはよくみられるので、三角筋前部線維や同部位への皮膚刺激(上外側上腕皮神経。これは腋窩神経の下流で皮膚知覚支配)を行ってみるが、持続効果が1日と保たない。このことは症状が上外側上腕皮神経に由来するものでないことを示唆している。上腕外側に痛みを生ずるのは、棘下筋トリガー(天宗)または小円筋トリガー(臑兪)の活性された結果であろう。ただしこれらの反応点に単に刺針しても効果は乏しいので、患部筋をストレッチした体位にさせて刺針するのが効かせるコツである。

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 3.鍼灸治療  

1)棘下筋刺針     

上腕外側痛は、実際には棘下筋のトリガー活性化に由来するものが多い。患者は痛む上腕外部を触ることはできるが自分の棘下筋を触ることができないので、患者自身どこからくる痛みなのか迷う。 棘下筋のトリガーポイントは肩甲骨棘下窩部で何カ所か出現するので、棘下筋の筋線維走行方向とずらして圧痛点から3~5カ所選出。斜刺し、肩甲骨骨膜にぶつけ、こすりつけるように刺入を進めると、重い針響が症状部に達する。肩甲上神経は肩甲骨に沿うように走行しているので、肩甲骨骨膜刺激になる。
天宗:肩甲棘中央と肩甲骨下角を結んで三等分し、上から1/3の処。

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下写真のように側臥位で肘90°屈曲位で手掌をベッドにつけた状態で、肩甲骨をグルグル回すような自動運動を示指すると棘下筋の響きを得やすい。    

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2)小円筋刺針と刺針体位   

単に後方四角腔部に刺針するだけでば豆腐に刺しているようであって緊張した筋硬結に命中させることは困難でり、これでは効果的な治療はできない。肘掛け椅子に座らせ、患肢の肘を肘掛けに置き、肘に体重をかけるよう上体を傾ける肢位にすると、小円筋ストレッチされる。 この体位をさせた状態で、後方四角口腔から2寸#4程度で直刺すると小円筋のコリに当てることができる。

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当ブログにようこそ

                 「現代医学的鍼灸治療」に、ようこそ

 ご関心のある方は、長年にわたり、諸先生がたの治療文献をたよりに勉強してきましたが、針灸臨床を始めて28年(平成18年現在)が過ぎた現在、自分なりの針灸治療も確立しつつあるように思った。単なる知識の受け売りにとどまらず、自分なりの見解をつけ加える内容にしたいと考えている。記す意味は、これまで世話になった諸先輩への御礼、および真摯に針灸を研究している先生がたのご参考に供することにあります。なお本ブログは、平成18年3月10日から配信開始しています。

当ブログに対して、ご意見・ご感想を頂戴することは大いに歓迎するところです。しかし今後匿名で私に回答を強いる質問等につきましては、今後返信しないことにしました。(平成30年2月15日)

 

 

 


 

 

 

奇経八脈の宗穴の意味と身体流注区分の考察 Ver.1.9

1.十二正経の概念図
 
筆者は以前、十二正経走行概念の図を発表した。

 http://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/bac628918882edd51472352adefd6924/?img=0084a878810483f1998c462abef9281b

これと同じ内容をさらに単純化した図を示す。この図の面白いところは、赤丸の内側は胸腔腹腔にある臓腑で、鍼灸刺激できない部位。赤丸び外側は手足や体幹表面で鍼灸刺激できる部位となっているところである。鍼灸の内臓治療の考え方は、赤丸外の部位を刺激して赤丸内にある臓腑を治療すること、もしくは体幹胸腹側もしくは体幹背側から表層刺激になる。これは兪募穴治療のことである。

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 2.奇経の八脈と宗穴

1)奇経の基本事項

上記十二正経絡概念図をベースとして、これに奇経走行を加えてみることにした。
始めに奇経に関する基本中の基本を確認しておく。奇経八脈はそれぞれ次のような宗穴をもっている。この治療点は次の奇経の二脈をペアで使い、4パターンの治療をすることになる。( )は宗穴名。

陽蹻脈(申脈)---督脈(後谿)
陰蹻脈(照海)---任脈(列缺)
陽維脈(外関)---帯脈(足臨泣)
陰維脈(内関)---衝脈(公孫)


2)福島弘道の提唱した新たな四脈と宗穴  
 
福島弘道氏は、従来の奇経八脈の宗穴治療だけでは不十分だとして4脈を加え、次の2パターンを付け加えることを提唱した。福島がなぜこのような事柄を思いついたのかを探ることが奇経を理解するヒントになる気がした。

足厥陰脈(太衝)--手少陰脈(通里)
手陽明脈(合谷)--足陽明脈(陥谷)


3)十二正経走行概念図への追加事項

1)前図に奇経八脈の宗穴を描き加えてみる。つまり十二經絡上に8つの宗穴を描くことになるが、4經絡は宗穴が存在しない。

2)そこで改めて福島の提唱した4新宗穴をさらに描き加えると、十二經絡上にそれぞれ一つの宗穴が載ってくる。

①肺経(列缺)、②大腸経(合谷)、③胃経(陥谷)、
④脾経(公孫)、⑤心経(通里)、⑥小腸経(後谿)、
⑦膀胱経(申脈)、⑧腎経(照海)、⑨心包経(内関)、
⑩三焦経(外関)、⑪胆経(足臨泣)、⑫肝経(太衝)

3)ペアとなる宗穴を点線で結ぶことにする。陽経ペアは赤色、陰経ペアは青色を使うことにする。
 
<陰経ペア>
①肺経(列缺)--⑧腎経(照海)
⑨心包経(内関)-④脾経(公孫)
⑤心経(通里)--⑫肝経(太衝)  ※福島提唱
 
<陽経ペア>
②大腸経(合谷)-③胃経(陥谷)   ※福島提唱
⑥小腸経(後谿)-⑦膀胱経(申脈)
⑩三焦経(外関)-⑪胆経(足臨泣)

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4)奇経走行概念図

上に示した正経と奇経の総合概念図は、内容が込み入っていて、直感的に把握しにくいので、本図から、正経走行を取り除いてみることにする。奇経は臓腑を通らないので臓腑も取り除いてみることにした。

 

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するとかなりシンプルな図が完成した。きちんとループを描いたが、奇経の8宗穴+合谷と陥谷を使った場合ということであって、これが奇経治療になるかは少々疑問である。というのも、使っているのは正経をショートカットしたルートだからである。


3.手足の八宗穴を使うことと奇経流注の謎

上図は、症状に応じて定められた手足の一組の要穴を刺激することで治療が成立することを示すものだが、この方法は奇経治療以外にも行われている。手足の陰側と陽側それぞれにある定められた12の要穴を使った治療は、1970年代に発表された腕顆針(日本名は手根足根針)が知られている。この図を見ると、手を上げた立位の状態で縦縞模様に区分されている。

 

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奇経治療は、八つの奇経を組み合わせて使うのが原則なので、4パターンの治療になるが、同じような縦縞模様となっている図に、「ビームライト奇経治療」というものがあることをネットで知ることができる。

 

 http://seishikaikan.jp/blkikei.htm

 

4.新しい奇形流注図

縦割りの考えで奇経を眺めると、体幹と頭顔面の中央に、陰側に任脈があって背側に督脈がまず存在している。任脈のすぐ外方には陰蹻脈が伴走し、さらに陰蹻脈の外方に陰維脈が縦走している。督脈のすぐ外方には陽蹻脈が伴走し、陽蹻脈の外方には陽維脈が縦走しているといった基本構造がまず想定されている。一方、衝脈と帯脈は、流注構造では反映されていないようだ。

これまで鍼灸治療の治療チャート図は、頭針であれ耳針であれ、高麗手指針であれ、ある日突然完成形が提示され、その理論の正しさを、実際に治療効果がみられたとすることで読者を説得してきたが、論理的とは言い難く、知的満足感も得られない。自分にできる方法として、現実どうしてそう考えるのかの、思考過程を順序立てて明らかにすることで、その間違っているかもしれない部分を指摘できるようにすることが重要だろう。

これまでいろいろなことを考えてきたが、①手足の八つの宗穴で、定められた手足のペアとなる宗穴を結んだ図を描く。
②衝脈と帯脈の走行は無視するが、衝脈の宗穴である公孫、帯脈の宗である足臨泣は。各ペアとなる陰維脈ならびに陽維脈の流注における足部代表治療点として位置づける。以上の2点を重視し、私の考える奇経走行図を示したい。手足のペアとなる宗穴は連続してつながっている必要があるが、本図では背部の陽維・帯脈の流れは、肩甲骨によって上下に分断されていることになる。しかしながら、陽維・帯脈は、肩甲骨・肋骨間を上行している、つまり立体交差していると考えれば、納得いくものとなるだろう。

衝脈と帯脈は、他の奇経と同列に論じられない。この二経は婦人病に関与するという共通点があると思える。ともに新しい生命を生むための仕組みに関与している。

帯脈:帯を胴体に巻かないとズボンが落ちてしまうのと同じように、帯脈の機能がなくなると、帶下になるのだろう。帶下とはおりもの意味で月経以外の膣からの分泌物をいう。この意味から広義に解釈し、不正出血や月経異常も帯脈の病証に含めるのではないか?

衝脈:「衝」過とはぶつかるような、つきあげるような勢いのこと。原意は妊娠時のつわりにあると思えた。次第に広義の悪心嘔吐も衝脈の病証とされるようになったのだはないか? 

 

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  筆者は、古代中国医師は「おそらくこう考えたのではないか」という視点を骨の隆起など解剖学的立場から奇経を推察しているが、実際に奇経治療で効果を出すという臨床的観点から論説している立場がある。ネットで関連文献を検索してみると、伊藤修氏の論文に奇経八脈の走行図を推察したものが載っていた。原図はモノクロだが、私の<奇経八脈流注の考察(似田による>と比較しやすくするため、カラー化して下記に引用する。当然のことだが、類似点が多いが、肩甲骨周りと骨盤周りの奇経走行が私の図と大きく異なっている点である。

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アナトミートレイン理論からみた肩関節の遠隔治療穴 

1.アナトミートレイン理論                                                       

アナトミートレインとは、解剖学的筋膜の連結線のことをいう。身体の筋は筋膜で繋がってり、線のような繋がりが全身12本あるという。この走行は経絡の流れによく似ていることに驚かさせる。ところで肩関節と体幹をつなぐアナトミートレインは4本あるが、肩関節挙上と関係するのは深層バックアームラインと深層フロントアームライン2本である。  

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1)深層バックアームライン     

肩関節の後方挙上動作時には、前腕尺側が上になる。つまり前腕尺側の筋膜が緊張する。

患者を椅座位にさせ、術者は患側の腕をゆっくり後方挙上させてみる。もし可動性不十分な場合、腕骨・清冷淵・天宗といったツボ圧迫しつつ後方挙上に引っぱり上げる。これで可動性拡大した場合、それぞれの障害筋をスレッチさせた体位にさせ、筋上のツボに刺針して運動針を施す。

結帯動作をとらせた時、小指球筋→尺骨々膜→上腕三頭筋→肩回旋筋群→菱形筋・肩甲挙のラインがねじれてつっぱる。この一連の機能筋膜連結も深層バックアームラインである。

 

2)深層フロントアームライン   

肩関節の前方挙上動作時には、前腕橈側上になる。つまり前腕橈側の筋膜が緊張する。

患者を椅座位にさせ、術者は患側のをゆっくり前方挙上させる。もし可動性不十分な場合、魚際・手三里、中府といったツボを迫しつつ前方挙上に引っぱり上げる。これで可動性拡大した場合、それぞれの障害筋をストレッチさせた体位にさせ、筋上のツボに刺針して運動針を施す。

 

3)アナトミートレインと奇経の関連          

奇八脈は基本的に下から上へと縦方向に流注する。深層バックアームラインは陽蹻脈の流注に似ており、、深層フロントアームラインは陰蹻脈の流注に似ているようだ。

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2.肩関節後方挙上障害に対する深層バックアームラインを使った治療   

深層バックアームラインは陽蹻脈に似ている。ただ陽蹻脈の宗穴は足臨泣だが、肩関節痛での深層フロントアームラインでの代表穴といえるのはペアである奇経の督脈の宗穴、後溪となる。肩の後方挙上制限時には後溪を含め、他に魚際や手三里を刺激する。

 1)腕骨刺針    

単に腕を後方挙上させただけでは痛まず、とくに手関節の捻れが起点となることから、小球筋(腕骨穴)を押圧した状態で、結帯動作を行わせると、可動域が改善されることが多い。改善された場合、腕骨穴に刺針した状態で、結帯動作を行わせるとよい。

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2)清冷淵刺針    

腕骨刺激と同じ発想で、上腕三頭筋起始の清冷淵を押圧しつつ、肘の屈伸運動を行わせ、帯動作の軽減をみたら、清冷淵に運動針を行う。

 

3.肩関節前方挙上障害に対する深層フロントアームラインを使った治療

深層フロントアームラインは陰蹻脈に似ている。ただ陰蹻脈の宗穴は照海だが、肩関節痛での深層フロントアームラインでの代表穴といえるのはペアの奇経である任脈の宗穴、列缺となる。肩の前方挙上制限時には列缺を含め、他に魚際や手三里を刺激する。

上腕挙上させた時、母指球→橈骨骨膜→上腕二頭筋→小胸筋がつっぱる。この一連の機能筋膜結合を深層フロントアームラインとよぶ。母指球筋(母指内転筋、母指対立筋など)を押圧する目的で、魚際と合谷を同時につまみつ、肩関節外転運動を試みる。改善するのであればそこに刺針して肩関節外転の自動運動実施。これは大胸筋・小胸筋がゆるんだ結果である。

1)魚際刺針   

2)手三里刺針      

手三里あたりで輪状靱帯・腕橈骨筋・長橈骨手根屈筋間あたりには外側筋間中隔(屈筋と筋の境にある筋膜)があり、筋の重積が発生しやすい。ここを術者の2~5指で押圧しつつ  前腕の回内・回外を10~20回行い、その後に上腕挙上させると滑走性が高まり挙上しやくなる。       

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※五十肩に対する条山穴刺針について     

40年ほど前、「五十肩(広義)に対し、条口から承山へ透刺すると効果あり」とのニュースが中国から届いた。実際に条口から承山に透刺するには4寸針が必要となるが、腱側の条口から承山にむけて直刺深刺ておき、患側肩関節の自動運動をさせるという方法。 実践すると、効かないとも効くこともあって、なかには肩関節局所を刺激して効果なかった者に対して   ってみると、意外にも肩がすーっと挙がったという例も経験した。一見して凍結肩かと思える例であっても効果が出る例も経験した。ただし奏功機序はわからないままであた。  

しかしながらアナトミートレインの考えでいえば、肩関節挙上時痛に腕橈骨筋あたりの手三里を刺激すことになる。条口は前脛骨筋であるが、腕橈骨筋と前脛骨筋は構造的類似性がある。前脛骨筋で条口を選理由は、同筋で最もボリュームがあるところという点になる。条口を押圧しつつ、肩を挙げさせる運動をわせる。

 

 

 

 

 

 

 

現代針灸における新しい考え方の整理

令和2年の正月に相応しく、最近の筆者の考えを整理してみたい。内容はこれまで本ブログで報告した内容も多いが、振り返って整理することも読者の理解の助けになるだろう。最近、西洋から新しい理論が流入された。それは結構なことなのだが、古い考えには愛着もあって、自分の針灸治療理論に組み入れることに、戸惑いも感じている。

 

1.現代針灸でいう局所治療とは

現代針灸ときくと、局所治療専門と思えるかもしれない。刺針部位の局所解剖を理解することで、どのような深度・角度で刺針することがよいのかを考察できる。また症状が皮膚の知覚神経興奮なのか筋膜痛なのか、関節包や骨膜痛なのかを分析することで、それぞれに対応した針灸手技も考察できる。現代医学針灸でいう針灸局所治療とは、単に患者が訴える症状部位を刺激することでなく、 症状をもたらしている元の部位を見極めて治療することになる。


2.現代針灸における近隣取穴理論

1)トリガーポイントとの関係

トリガーポイントと放散痛部位(=旧来の症状部位)を考えることで、真の局所治療部位と症状部位は距離的に離れていることもあり得ることもあることが認識されるようになった。このことなどは、従来の近隣取穴治療に相当するかもしれない。

2)神経生理学的制御  

この十年来、私は静的針灸ではなく動的針灸に興味をもっている。その最も単純な形としては運動針があるだろう。その背後にある理論にはⅠa抑制、Ⅰb抑制がある。ここでは、かいつまんで仕組みを説明する。

①Ⅰa抑制(筋紡錘刺激は、拮抗筋緊張を抑制する)

Ⅰa抑制とはスムーズな関節運動を行うためのしくみ。主動作筋が収縮する際は、拮抗筋が弛緩する生理的機序のこと。橋本敬三の「操体法」はこの仕組みを応用したもので、身体を痛くない方向に動かす(すなわち問題筋の拮抗筋を緊張させる)ことが基本になっている。Ⅰa抑制機能がないとスムーズな関節運動はできなくなる。たとえば肘屈曲の際、上腕二頭筋が収縮する際には、上腕三頭筋が弛緩するなど。

②Ⅰb抑制(腱紡錘刺激は自筋緊張を抑制する)

Ⅰb抑制とは、本来は筋断裂を防ぐしくみである。筋肉が急に引き伸ばされた時、筋が切れないように筋が防御的に伸張することで筋断裂しないようにする仕組み。等尺性の筋収縮(=関節運動を伴わない筋収縮)を起こす。筋を伸張さた状態にすると腱も同時に伸張状態になる。この姿勢で腱を刺激すると筋がゆるむ。

 

3)PNFストレッチ(固有受容性神経筋促通法)

前記したⅠa抑制・Ⅰb抑制は、単純な神経生理学的制御であるのに対し、これらの機序を利用した筋に対する徒手抵抗ストレッチをPNFストレッチとよぶ。 基本的にセラピストが患者に対して行う治療法である。セラピストが手で触り抵抗をかけて、被験者に動いてもらう。筋を縮ませると、その後は前より弛緩する性質を利用している。次の2つがある。

①ホールドリラックス 尺性収縮をホールド(保持)と言う。ホールドリラックスとは相反抑制のことで、患者と術者の力が逆向きの力をかけあって拮抗している状態、。なわち「動きのない」等尺性収縮である。 以下にハムストリングスに対するホールドリラックス例を示す。

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 ②コントラクトリラックス

短縮性収縮をコントラクト(収縮)と言う。短縮性筋収縮運動になる。 以下に大腿四頭筋に対するコントラクトリラックス例を示す。
a.側臥位。患側の股関節をできるたけ伸展(後に引く)させる。
b.術者の手を患者の大腿前面に当て、大腿を前にもっていくよう指示する。
c.術者はそれに抵抗を加えつつ徐々に大腿屈曲運動を行う。 この抵抗運動始動時には10秒間タメをつくり、患者の動きを妨げ、6秒で大腿屈曲運動を行う。運動終了時には30秒間その状態で静止する。

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3.現代針灸における遠隔取穴理論


これまで現代針灸は遠隔治療穴に価値を見いだせなかった。しかしながら近年、経絡に代わりアナトミートレインという考え方が台頭してきた。アナトミートレインとは筋膜連動線のことで、身体には12のラインがあるという。その走行は全体的に経絡走行と実によく似ていて、針灸師の誰しもが「なるほど」と納得されられよう。

問題はそこから先で、このアナトミートレインをどのように臨床に応用するか、より具体的には体幹症状に対して四肢のツボを選穴する根拠が知りたい。

 そこで利用できるのがPNFを使った押圧と運動針法である。ここでは腰痛を例にとって説明する。腰痛患者をベッドに仰臥位で下肢伸展させる。その状態で患側下肢を挙上させた時、ある一定以上で腰痛が出現することを確認してもらい、それを患者に確認させておく。次に崑崙を押圧しつつふたたび片脚挙上させると、さきほどよりも高く挙上できる(できればこの時、術者は患者のふくらはぎを自分自身の肩で支え、下向きの力を加えるように支持する=PNFホールドリラックス)患者に脚を下ろす場合、崑崙穴に浅刺して三度片脚挙上させ、崑崙の針が有効だったことを確認できる。  


慢性副鼻腔炎の針灸治療 Ver.1.1

  当院にたまに来院していた女性患者は、近くの整形外科の理学療法室で無資格ながらアルバイトをしていた。その人が私に慢性副鼻腔炎に鍼灸は効くか、と質問したのできちんと自宅施灸すれば効果があると返答した。しばらくして理学療法室の同僚の若い男性を副鼻腔炎を治してくれといって連れてきた。私は上星に直接灸3壮を行い、挟鼻穴(下記参照)に単刺して治療を終えた。そして上星には毎日自宅施灸するように指示した。この男性は毎日、自分で鏡をみながら上星の灸を続けたところ、数週間後にはついに鼻汁が止まった。それを見ていた女性患者はよほど驚いたらしく、鍼灸学校に入学したのだった。


1.副鼻腔とは

1)前頭洞、上顎洞、篩骨洞、蝶形骨洞の4種ある。うち上顎洞が最大。

2)副鼻腔の構造と特徴

鼻腔に接する頭蓋内の空洞で、開口部が鼻腔とつながる。
上鼻道の開口:篩骨洞(後部) 
中鼻道に開口:上顎洞、前頭洞、篩骨洞(前部、中部)
下鼻道に開口:鼻・涙管 
蝶形骨前洞窟に開口:蝶篩陥凹
  
大部分の副鼻腔の開口部は洞の下方にあるので、分泌物も溜まりにくい。しかし上顎洞は上方に開口部があり、分泌物や膿が貯留しやすい。 
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2.副鼻腔炎の)病態生理
  
慢性鼻炎により鼻粘膜が充血、肥厚
    ↓   
副鼻腔開口部付近の粘膜も肥厚し、充血する。
    ↓
副鼻腔開口部が閉鎖され、血流により副鼻腔は陰圧になり、
貯留物が排泄できない。
(本来は副鼻腔に溜まった分泌物は、生理的に外に排出される)  
    ↓
感染が起きる。
 

3.副鼻腔炎の症状
   
慢性副鼻腔炎時は、同時に慢性鼻炎も存在している。症状は慢性鼻炎に似るが、膿性鼻漏が多量で、異臭があり、鼻周囲の圧痛出現する点が異なる。ときに鼻茸を合併。前頭洞の副鼻腔炎では攅竹附近は、前顎洞の副鼻腔炎では四白附近に重い感じがあり、押圧すると副鼻腔内圧上昇するとされ、鈍痛増悪する。

R/O 上顎癌:
50才以上で鼻の癌では上顎癌が最も多い。
その7~8割は慢性副鼻腔炎をもっている。血性鼻汁となる。

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4.現代医療

抗生物質、上顎洞洗浄、ネブライザー。しかし根本的治療法に乏しい。


5.針灸治療
  
慢性鼻炎があれば慢性副鼻腔炎も存在している。両者の共通症状は、鼻汁(粘性~黄色粘性) と鼻閉。慢性副鼻腔炎では前頭部鈍痛や頬部鈍痛を訴えるのに対し、慢性鼻炎では、これらの訴えに乏しい。  
  
鼻炎と副鼻腔炎の治療は、針灸では治療は同様にう行ってよい。鼻炎と副鼻腔炎とは、鼻粘膜に連続性があり、神経支配も同一であることによる。

1)鼻周囲の三叉神経第1枝刺激 
  
鼻腔と副鼻腔は三叉神経第1枝が支配している。この神経を刺激すれば、鼻交感神経を緊張させ、血管収縮を引き起こすので、鼻閉や鼻汁に対しても効果がある。

上鼻甲介付近の炎症や腫脹では、三叉神経を介して頭重が起こるとされる。慢性鼻炎や慢性  副鼻腔炎の者は、前頭部の前頭髪際付近に圧痛がみられることが多く、圧痛があればこの圧痛点である顖会(前髪際を入ること2寸)や上星(前髪際を入ること1寸)に長期的に透熱灸をすることが多い。
  
これは三叉神経を刺激することで、鼻腔や副鼻腔に持続反復刺激を与えている。頭髪中に施灸するので、灸痕が目立たず長期施灸を可能としている。施灸により、長期間良好な状態を保つ間に、鼻粘膜の修復が行われ、施灸中止後も、症状は消失状態を保つことができる。
     
①攅竹から睛明方向への水平刺
   前頭神経→鼻毛様体神経

②挟鼻(鼻翼の上方の陥凹部で鼻骨の外縁中央)直刺。
鼻毛様体神経刺激。本神経は、知覚神経で鼻背、鼻粘膜(嗅覚部を除く)、涙腺に分布。
揮発成分を含むワサビを食べると鼻がツーンとし、涙が出るのは、鼻毛様体神経刺激による。
 
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2)大後頭-三叉神経症候群として後頭神経刺激
   
三叉神経線維は三叉神経脊髄路というルートを持っている。外部から入力された感覚は、三叉神経節を経た後、三叉神経脊髄路を経由して、すなわち一度、第2頸髄の高さまで一度下行してから、再び上行して脳に行く。下行時には大後頭神経と連絡しているので、大後頭神経と三叉神経の間に、密接な関係を生ずる。眼精疲労時には後頭部痛も生じやすいのもこの理由による。天柱に刺針すると、三叉神  経刺激症状(特に第1枝の眼神経)に影響を与える。大後頭神経が興奮して三叉神経症状を生  じたものを、大後頭神経-三叉神経症候群とよび、ペインクリニックでの通称も天柱症候群とよばれる。針灸臨床では、眼精疲労、鼻閉に天柱刺針を用いることが多い。


3)顔面関連痛をもたらす筋刺激(山田智子先生の発表による)

①急性副鼻腔炎患者で座位で頸部前屈すると顔面痛増悪する例があった者に、伏臥位で頸部前屈されても顔面痛増悪がなかったこと。②頬骨筋を収縮させた状態(イーッと歯を見せる)では、顔面部圧痛増悪したこと、③項部と上顔面部に針灸治療を行って、副鼻腔炎治療に効果をあげていること、などから顔面症状は、後頸部筋(後頭下筋、頭半棘筋、頸半棘筋、頭板状筋、頬骨筋、咬筋など)のトリガー活性の結果かもしれない。後頸部や顔面部の筋刺激の有効性が示唆される。<山田智子(六ヶ所村尾鮫診療所):第3回プライマリ・ケア学会>

6.その後の見解の変化
上記文章を発表した3年半後のこと。奮起の会鍼灸実技学習会後の懇親会で、参加者の先生方の話をお伺いできた。

1)A先生の話
鼻漏である自分に対し、上記図を参考にして左右の挟鼻穴から円皮針(パイオネックス)を入れると、即座に鼻汁が止まることを確認し、以降は患者にも使っているとのこと。その際、ただしく取穴は挟鼻穴にきちんと当たらないと効かない。1回の円皮針を入れておく期間は、鼻部の皮脂の分泌量によって異なり、ずれてきて1日持たない者から1週間程度もつ者まで色々。左右挟鼻に円皮針を入れておくことは、とくに外出時に格好悪いが、マスクをすれば隠れるといったことを話していただいた。

2)B先生の話
鼻漏に対しては、鼻稜外側にある上唇鼻翼挙筋を指頭でこすると、プチプチとした手応えが得られるので、何回か縦方向にこすると、そのプチプチした感触がなくなると同時に症状もとれるとのこと。

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私の行っている眼窩内刺針の方法 Ver.1.2

1.はじめに

以前私は、「 眼窩内刺針が刺激対象とするもの Ver.2.12015-08-19 」と題したブログを発表した。

https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/e15b8546ecd13a7f5c065a1709f3472c

この記事を読んだとして、眼精疲労を主訴とする患者が来院した。眼精疲労の来院患者は少なくないが、その多くは頸コリや肩コリも同時に訴えていたり、精神的ストレスがあったりしている。主訴が眼精疲労のみを訴える患者は珍しいことであった。

 

2.眼精疲労症例(21才♂、学生)

数年前から目が疲れる、とくに左右に眼球を動かすと目頭が疲れるとのこと。近くの針灸院に行って眼窩内刺針をやってほしいと頼んだが断られ、私のブログを見て当院来院した。眼窩内刺針を希望していた。眼瞼に内出血する可能性があることを理解してもらった後、眼窩内刺針その他を行ったところ、患者は、これまでにない効果があったと述べた。
実際の治療点は眼窩内刺針の他に頭維刺針、上天柱刺針を行ったが、ここでは眼窩内刺針の技法について記してみたい。


3.眼窩内刺針の技法

1)眼窩内刺針とは

眼窩内刺針には上眼窩内刺針と下眼窩内刺針があり、上眼窩内刺針の方が上眼窩と眼球の間が広いので比較的刺針しやすい。眼瞼の内出血を防ぐためと、眼球に過多な刺激を与えぬ用心のため、寸6#1などの細い針を使うことが多い。
細い針を使うこともあって、上眼窩内刺針と下眼窩内刺針とも響きはないのが普通である。眼瞼の内出血を避けるために雀啄などの手技針はせず、単刺や置針をする。

2)上睛明深刺

疲れ目に際しては、母指と示指で両方の目頭のやや上方をつまむように押圧する動作を自然に行いがちである。その部位こそが眼精疲労の刺針点として相応しいだろうと考えてみた。患者を仰臥位にさせ、寸6#2にて内眼角部(睛明穴)の5ミリ上方(これを上睛明と命名)からを刺針点とし、ゆっくり直刺すると2㎝ほど刺入すると硬いものに命中すると同時に眼に響きを得ることができた。(別の眼精疲労患者対して上睛明刺針を行てみても、やはり2㎝刺入で硬いものあたると同時に眼球に響きを得ることができた。結構再現性がある。

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3)内直筋に対する運動針法

硬いものというのは解剖学的見地から、内直筋だと判断した。左右の内直筋が緊張すると両瞳孔が内側に移動し、寄り目のような状態になる。動物の眼は本来遠方を見るのに適しているとされるが、現代人は手元の書類やディスプレー画面を見ることが非常に多くなり、寄り目の状況が多くなったのだろう。
内直筋に対する運動針は、次にやや開眼状態にして、患者の両目中央から50㎝ほどの処に術者の片手の示指を立て、指先を目で見つめるよう指示、輻輳動作(示指を徐々に患者に近づけたり、遠ざけたり。すなわち寄り目動作)を数回、運動針をさせて抜針。

 

4)眼窩上神経刺針

三叉神経第一枝(眼神経)は、上眼窩裂孔を通り、眼球と眼窩の上空間を通過し、前頭神経と名称を変える。前頭神経は、滑車上神経と眼窩上神経に分かれ、額を上行して同部の知覚を支配している。とくに眼窩上神経は、顔面表情筋により絞扼されて眼窩上神経痛を起こすことが知られている。前頭部の皮神経痛を生ずる代表は眼窩上神経だとされる。(なお大後頭神経痛は、後頭部の頭半棘筋の絞扼が原因とされる)
(参考文献:清水暁:頭蓋表層の解剖学的要因による頭皮神経痛と頭痛-眼窩上神経痛・後頭神経痛・開頭術後頭痛-、臨床神経学、54巻4号(2014.5)

眼窩上神経痛の場合、眼窩内病変や帯状疱疹などの二次性原因の他に、やはり特発性があり、特発性の場合、額から眉への水平刺が有効になることが多いが、このような施術の一貫として、魚腰穴あたりからの上眼窩刺針を行う方法がある。もっとも、魚腰からの刺針は眼窩上神経に響くことはあっても、上睛明刺針の眼の奥にズンといった針響とは異なって、表面的な響きになるので、心地よさは生じにくいだろう。

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4.余談:瞳孔に対するせんねん球

昔ある学会に出席した折、展示ブースの一画でツボ灸(温熱灸の一種)の実演をやっていた。販売員の説明を聞き、「試してみましょう」とのことで、立位でいる私の両目を閉じさせ、上瞼の上からツボ灸をされた。こんなところにも灸するのかと少々驚いたのだが、徐々に温熱が加わり心地よい感じが得られた。要するに疲れ眼に際して、眼に蒸しタオルをあてることと同じような効果だろう。
これを手持ちの道具で実践することを考えた。仰臥位で閉眼させ、上眼瞼に紙絆創膏を貼る。その上からセンネン灸(息吹、金色ラベル)を燃焼させるというものである。紙絆創膏の上からセンネン灸をするのは、温熱過多になるのを防ぐこと、モグサのヤニが皮膚につかぬようにするという2つの意味がある。

側頭筋緊張に対すると運動針

1.側頭部痛をもたらす放散痛

側頭痛をもたらす筋膜症には、局所として①側頭筋膜痛の他に、②後頸~後頭筋膜や③胸鎖突筋膜など、3方向からの放散痛が関与する<吹きだまり>のようなところである。さらに側頭筋が緊張すると、顎関節部や上歯に放散痛を起こすことも知られている。

 

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2.側頭筋の筋硬結の触診

側頭筋の起始は側頭骨の側頭面全体、停止は下顎骨の下顎枝である。支配神経は三叉神経第3枝。三叉神経というと顔面知覚を支配しているが、三叉神経第3枝は、例外的に咀嚼筋も支配していることも広く知られていることである。
 
側頭筋は薄い筋で、その底には側頭骨があるので、指で擦りつけるように触ると、筋線維を触知できる。その筋線維の方向は、下顎骨下顎枝から放射状に側頭部全体に広がるので、この流れを意識して筋線維を横断するように擦ると、何ヶ所か筋硬結を感ずる場合が少なくない。
 

3.側頭筋の運動針法
   
側頭筋の筋硬結は噛みしめると明瞭になる一方、噛みしめる強さによって移動する。よって、先ずは弱い力で噛みしめるよう患者に命じて硬結を繰り、つぎに強い力で噛みしめるよう命じ硬結を繰るようにする。その時出現した硬結を指頭で押さえておき、まとめて1㎝~2㎝横刺する。横刺した状態で、三たび噛みしめ動作を行わせるようにするとよい。
側頭部圧痛点は、下図のごとく、外眼角と上耳介側を結んだライン上に出現しやすいように感じる。

 

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鍼灸院でのベル麻痺の予後推定と治療点の選択

1.末梢性顔面麻痺と症状の関係
       
顔面神経(広義)は、運動神経性の顔面神経(狭義)と知覚・副交感性の中間神経に大別される。各神経枝の障害で、顔面麻痺以外にも、聴覚過敏・味覚障害・唾液分泌障害・涙分泌障害などの症状を呈する。
   
末梢性特発性の顔面麻痺の大部分は、顔面神経管内の浮腫が原因だとされる。顔面神経管の直径は、管の上部~膝神経節部の直径は1㎜、茎乳突孔附近で直径2㎜と非常に細い。この管内のどの部分で顔面神経の浮腫が生じているかによって、症状は異なってくる。
     
顔面神経や伴走する中間神経から分岐した神経枝が圧迫されて機能障害を起こすこともある。中間神経の膝神経節を帯状疱疹ウィルスが侵す疾患をラムゼイ・ハント症候群とよぶ。ハント症候群では顔面麻痺に加え、耳介~外耳道痛も生ずる。 

 
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①鼓索神経分岐より末梢の障害:顔面麻痺のみで、ベル麻痺の典型。
②鼓索神経分岐部の障害:上記+口症状(唾液分泌減少と舌前方2/3の味覚消失)
③あぶみ骨筋神経の分岐部:上記+耳症状(聴覚過敏)
④大錐体神経節の分岐部:上記+眼症状(涙分泌減少)。顔面神経膝状神経痛(外耳部痛・耳介後部の激痛)はハント症候群で生ずる。

※ラムゼイ・ハント Ramsay Hunt 症侯群    
1)原因
膝神経節に潜伏感染した水痘・帯状疱疹ウィルスの再活性化による顔面神経障害。
①末梢性顔面麻痺
②聴神経症状:難聴・耳鳴・めまい     ※聴神経とは、内耳神経の別称のことである。
③中間神経膝状部神経痛:外耳道(軟口蓋部)や耳介の痛みを伴う小水疱(帯状疱疹)


2.ベル麻痺 Bell palsy

1)原因
ウイルス感染による顔面神経管内における顔面神経の浮腫が原因とされるようになった。

2)医療施設でのベル麻痺の治療

①初期治療
病・医院での治療は、発病当初は入院による副腎皮質ステロイド(一時的に生体の自然治癒力を増強させる方向で働く。抗炎症、浮腫改善)の10日間大量点滴療法を行う。入院不能な場合は外来によるステロイド内服漸減療法12日間が標準治療となる。ベル麻痺の原因は単状疱疹ウィルスなので、残存ウィルスを死滅させる目的で抗ウィルス剤が使われることも多い。
    
麻酔科医は連日の星状神経節ブロックを推奨している。顔面部交感神経機能を遮断 → 相対的に副交感神経機能を更新させる → 顔面血流量を増加して自然治癒力を高める増強される、との観点。ただしエビデンスに乏しい。 
  
②予後不良者の治療
治癒まで3ヶ月以上かかると判定された場合、病的共同運動(4ヶ月以降:たとえば閉眼すると口が動き、口を開閉すると眼も閉じる)やワニの涙現象(食物を食べると涙が出る。これは唾液を出そうとすると涙腺分泌が刺激される)が出現しやすい。漠然と様子をみるのではなく、ステロイド追加投与さらには顔面神経管開放術(圧迫された顔面神経の周りの骨を取り除く手術)を行う方がよい。

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3.顔面神経走行と顔面麻痺の針灸治療

1)針灸院での予後推定

一般に発症してすぐに針灸を求める患者は少ない。医療施設で治療を続けるも、発症後7~10日間は目立った効果が現れなないので不安になり、針灸にも通院してみようかと考えるようになるのだろう。予後良好の場合は3週問以内に回復が始まり8割は自然治癒するとされているので、発症1~2週後に針灸に来院すれば、タイミング的に自然回復時期に針灸治療を行っていることになり、患者には針灸治療でベル麻痺が治ったような印象を与えることになる。このことは針灸院の経営上有利なことではある。 
   
しかし残り2割は速やかには麻痺は回復せず、長い者で半年以上を要し、かつ麻痺が残存する。では8割の早期回復者と2割の回復に時間がかかる者の事前予想はどのようにすべきなのだろうか。
   
実はこれも分かっていて、発症7~10日で予後判定可能なNET(電気生理学的検査)検査が、予後の目安となる。NETは、顔面神経本幹または分枝を電気刺し、顔面表情筋の収縮度合をみるもので、収縮が観察できる最小閾値と健側を比較する。これは針灸臨床で用いられることの多い低周波治療器で代用できる。顔面神経数カ所に直接刺針し、そこにパルスを流すようにする。健常者に行えば、顔面表情筋の攣縮が観察できる。しかし顔面神経に鍼が命中していない場合、表情筋攣縮はほとんど生じない(通電電流量を一定以上に上げると刺痛を訴える)

①NET.(神経興奮性検査)で、異常を認めるものは治癒率が悪い。
②発症後、3か月過ぎているものは治癒率が悪い。
③新鮮例で、NET検査が良好なベル麻痺は、90%治癒する。
④治療は、頻回行うほどよいので、最初は毎日または隔日治療とし、改善の進行につれて週2回さらには週1回というように、間隔あけていく。
 
2)低周波置針通電治療の是非
   
かつては置針した低周波をつないだものだが、現在では筋攣縮しないほど高い周波数(100ヘルツ程度)で通電するか、または通電せず単に置針するかになる。 というのは、低周波刺激をすることで後遺症(病的共同運動=閉眼すると口の周りが動く、口を動かすと目が閉じる など)が強化されすぎ、病的共同運動プログラムが助長されるとの指摘があった。このことは分離動作回復の邪魔をすることになる。
   
そもそも単なる置針と置針+通電との治療効果に差があるかどうかは有用性が確認されていない。しかし患者にしてみれば、通電してもらった方が<治療してもらった感>があるだろうから、高い周波数(100ヘルツ程度)で通電するのも一つのアイデアだろう。


3)顔面神経に対する刺激点
  
顔面神経の顔面部走行は、翳風部から起こり、耳垂の直下を通り、顔面部に扇型に広がる。 翳風穴と耳垂が顔面に付着する部の中央(深谷流難聴穴)の2点に10~20分間の置針を行う。

①翳風刺針
耳垂後方で、乳様突起と下顎骨の間に翳風をとる。顔面神経幹が茎乳突孔を出る部である。凹みの底の骨にぶつかるように刺入する。正しく刺入すれば無痛で針響もない。しかし刺入方向を誤ると強い刺痛を与えることも多い。技術的難易度の高い刺針となる。

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②下耳痕刺針
耳垂が付着している頬部の中点。深谷伊三郎「難聴穴」(≒下耳痕穴)のことでもある。中国の新穴に耳痕穴があって、そのすぐ下方にあることから下耳痕と私がなづけた。
5㎜~1㎝刺針すると顔面神経幹に当たる。顔面神経幹の命中したか否かを調べるため、パルス(1~2ヘルツ)通電しながら刺入し、唇や頬が最も攣縮する深さ(5㎜~1㎝)で針を留める。置針中はパルスはしない。
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※下耳痕穴から直刺2㎝すると、舌咽神経の分枝の鼓室神経(鼓膜の知覚支配)に命中し耳中に響く。この刺針は難聴耳鳴の治療に使うことが多い。
すなわち下耳痕穴は、浅層の顔面神経幹刺激として顔面麻痺に適応があり、があり深層の鼓室神経刺激することで難聴耳鳴に用いられる興味深い穴である。
 
③耳下腺神経叢刺針
顔面神経は、茎乳突孔から頭蓋外に出て、耳垂の深部を通過し、耳下腺神経叢中を走る。耳下腺神経叢の中で多数分岐し、それぞれの顔面表情筋方向に放射状に走行する。
耳垂部から顎角部にかけては顔面神経走行が密なので、経穴では、頬車~大迎の範囲に集中的に刺針すると顔面神経に命中しやすい。

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③その他の末梢枝(各表情筋に対応する経穴は学校協会教科書に準拠した)   
下耳痕穴と運動麻痺筋を直線で結んだライン上に治療点を求める方法と、麻痺筋のモーターポイントに治療点を求める方法がある。

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モートン病による足指間の痛みに床のキズ防止パッドが有効だった例

1.病歴

自経例(66才、男性)。 1ヶ月ほど前から30分ほど歩いている途中から左第2~第4指のMTP関節(=足指指節関節)が痛むようになった。右足は痛むまない。足の横アーチが失われた感じがした。買い物などの短距離歩行では異常なし。 治療として、土踏まず部に足底パッドを貼っても効果なく、中足骨前方にインソールを入れても効果がなかった。 1週間ほど前から、わずかな歩行でも左第2~第3指中足指節間が痛み、ビリッビリッと足指先に放散痛が出現。すなわちモートン病出現。 通常歩行や階段を下りる際の、左中足指節関節を背屈する動作で痛みは増悪した。このままでは数分の歩行さえできず、困った状態。

 

 

2.下腿三頭筋の運動針法  

以前から足底筋は下腿三頭筋の緊張と関係深いとみなしていたので、まずが下腿後側をいろいろ押圧して圧痛点を調べると、承筋・築賓あたりに強い圧痛硬結を発見した。ここに鍼するのだが、単に刺しても効果乏しいことは経験済み。自重をつかった安定姿勢下で行う運動針はどうしたらよいかを考え、椅坐位にして下腿後側反応点に浅く刺針し、踵上げと爪先上げの自動運動を行わせるという方法。ただし自分自身で行うには体制的に難しく、とりあえず円皮針を使ったが効果がなかった。

といって局所への鍼灸を行っても、ただ刺激痛がきついだけで、よくなりそうな気もしなかった。

 

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3.足底圧痛点への免荷パッド 

やっかいなことになった。奮起の会の指導にあたっている小野寺先生に聞いてみると、免荷パッドを使ってみたらどうかとのアドバイスを頂戴した。以前、百均で購入したフェルトのような感触の床キズ防止パッド(直径2㎝、厚さ5㎜、フェルト様)が自宅に残っていたので、圧痛点に貼ってみた。これは失敗でかえって症状増悪した。そこで圧痛点をはさむように第2、第3MTP関節(=中足指節関節)の2点にこのパッドを貼って、日常的な動作を行なうと、足底にパッドの異物感はあるが、痛みが減っているのを自覚できた。なお就寝前にパッドを剥がしたが、翌朝になって階段を下りてみると、痛みが完全消失したのを発見できた。  貼る場所は、坐位で踵を上げた姿勢をとると、中指-指節関節が背屈されるが、その屈曲部を選ぶ。痛む部を1㎝離してその両側に貼る。貼った後、ビリビリ感がまだ残っているようなら、パッドの位置を数㎜ずらして歩行し、症状の消える位置を見つける。

モートン病だからといって必ずしも神経腫ができている訳ではない。神経腫ができていない状態まであれば、フェルト様パッドで十分な効果が得られそうだ。

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当ブログにようこそ

                 「現代医学的鍼灸治療」に、ようこそ

 ご関心のある方は、長年にわたり、諸先生がたの治療文献をたよりに勉強してきましたが、針灸臨床を始めて28年(平成18年現在)が過ぎた現在、自分なりの針灸治療も確立しつつあるように思った。単なる知識の受け売りにとどまらず、自分なりの見解をつけ加える内容にしたいと考えている。記す意味は、これまで世話になった諸先輩への御礼、および真摯に針灸を研究している先生がたのご参考に供することにあります。なお本ブログは、平成18年3月10日から配信開始しています。

当ブログに対して、ご意見・ご感想を頂戴することは大いに歓迎するところです。しかし今後匿名で私に回答を強いる質問等につきましては、今後返信しないことにしました。(平成30年2月15日)

 

 

 


 

 

 

顔面痙攣と眼瞼痙攣の病態と針灸治療の適否

1.顔面痙攣  
 
1)症状
   
一側の顔面が長期間、強く痙攣する状態。目の周り(特に下瞼)の軽いピクピクした痙攣で始まり、次第に同側の上瞼・頬・口の周りなどへ広がる。痙攣の程度が強くなると、顔がキューとつっぱり、引きつれる状態になる。ひどい場合、耳小骨のアブミ骨筋(顔面神経支配、鼓膜に張力を与えている)が過剰刺激され、カチカチという耳鳴が生ずることもある。
   
当初は緊張した時などに時々起こるのみだが、徐々に痙攣している時間が長くなり、一日中ときには睡眠中も起こるようになる。自分の意思とは関わりなく顔面が動く、ということで気ぜわしく対人関係や仕事に苦労する。ストレスなどでも誘発される。自然に治癒することはほとんどない。
 
2)原因<神経血管圧迫>

脳血管の異常走行により、脳幹より出る顔面神経に脳の血管がぶつかり、動脈拍動のたびに顔面神経が刺激されている状態。脳血管異常走行の原因としては、加齢、脳動脈硬化、先天的  動脈奇形など。
 

3)一般的治療
  
①ボツリヌス菌毒素注射
      
ボトックス(ボツリヌス菌希釈液)の眼瞼や口角周囲の痙攣部への注射。持続効果は3ヶ月前後で、繰り返しの注射が必要になる。 
※ボツリヌス毒素は、食中毒をおこして随意筋を麻痺をさせ、重症では横隔膜運動も麻痺して致死的になる。この作用を利用し、本菌を使って筋の運動麻痺を起こさせるのがボトックス注射。
※ボツリヌス菌毒素注射は、美容整形として皮筋を麻痺させることで、顔面のシワとりにも用いられる。

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②手術「微小血管減圧術」
   
顔面神経を圧迫している血管位置を少しずらせて固定させる手術で、根本療法になる。手術後遺症として、数%~10%程度の者に聴力の障害がおこる(顔面神経と内耳神経と並走行している。手術中に内耳神経にストレスがかかるのが原因)。三叉神経痛と眼瞼痙攣の手術原理はよく似ている。 
 

4)針灸治療(若杉式穿刺圧迫法の応用)
   
かつて代田文誌は、顔面麻痺に対する鍼灸は、無効と記していた。しかし30年ほど前に、ペインクリニックにおいて若杉式穿刺圧迫法が考案された。本法は針でも応用できるか否か試してみ  た。すなわち茎状突起(=翳風)への針タッピング術の開発により、痙攣の程度を減ずることができることを知った。と同時に限界も示した。  
  
①神経ブロック 若杉式穿刺圧迫法
    
関東逓信病院ペインクリニック科では顔面神経の主幹を神経が頭蓋底を出た部位で針を使って圧迫する治療法を創案した。痙攣が止まっている平均有効期間は9.3 カ月。痙攣が再発してもすぐにブロック前の強さにもどるのではないので,年に1 回程度治療を行う症例が大部分である。ブロック後の痺期間は平均1.3 カ月で70%以上が1ヶ月以内に麻痺は回復する。
  
②顔面神経直接刺激する針治療
   
a.2寸以上の中国針を使用。治療側を上にした側臥位。
b.翳風を刺入点として茎状突起に針先を誘導する(方向を誤ると、強い刺痛を残す)
c.針先が骨に命中したら、3分間のコツコツとタッピング刺激を与える。その後7分間置針し、再びふた3分間タッピング刺激。総治療時間は20分間程度。

上記の治療を行っても、痙攣を軽減する期間は数日間であり、その後は再び針治療が必要になる。患者にとって手間と経済的負担が大きい。


2.眼瞼痙攣 
眼瞼痙攣となる疾患には、顔面痙攣初期の他に、眼瞼ミオキミアと本態性眼瞼痙攣がある。
 
1)眼瞼ミオキミア   
  
①病態生理と症状
    
まぶたの一部(下眼瞼が多い)が痙攣する。通常は片側に起こることが多い。(本態性眼瞼痙攣は両眼の上下眼瞼とも等しく痙攣する。不規則で持続時間が長い小さな不随意運動で、自覚的にはピクピクとした感じがする。通常数日から数週間で、自然に治まる。 
※ミオキミアとはは不規則で持続時間が長い小さな不随意運動のこと。
  
②原因
   
顔面神経が支配する眼輪筋の一部に異常な興奮が発生することで生じる。特段の原因はない。健康な人でも長時間書類を注視したり、パソコン操作などがもたらす眼精疲労や、寝不足の際に一時的に感じられることがある。
  
③針灸治療
    
木下晴都は春先に3年間、毎年眼瞼振戦を経験してたが、3年目の時に自身に次の治療を行い、著効を得たという。振戦を起こす右下眼瞼3点に、3~4㎜刺入した後、刺激を強める意味で針を左右に回旋するという旋捻を5~6回行って抜き取る手技だった。翌日は振戦依然と存在したが、3日間続けると全く消失した。患者にも実施し、すべて症状の回復が早いことを確認した。

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2)本態性眼瞼痙攣
  
①原因

初期:まばたきが多く、目が開けにくい、眼がショボショボするのでドライアイと誤診されやすい。眼瞼が痙攣するというより開けにくい。
進行期:両側性に、羞明感、目の乾燥、目を開けていられない、下眼瞼のピクピク感出現。次第に上眼瞼に拡大。左右両方に進行性の眼瞼痙攣が出現する。
重症時:眼を開けていられない。視力があるにもかかわらず生活上は盲目と等しくなる。

②症状

パーキンソン病と同じく、大脳基底核の運動制御システムの障害。間代性・強直性の攣縮が両側の眼輪筋に痙攣が起こる。40歳以降の女性に多い。
※大脳基底核=大脳皮質の底にある白質中の灰白質部分。随意運動の発現と制御の役割。

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③治療
     
進行は緩徐だが自然軽快はまれ。初期症状には、眼輪筋に対してのボトックス注射が有効。眼瞼の痙攣部数カ所に注射する。ボトックスの持続効果は3ヶ月程度なので、繰り返しの注射が必要になる。眼が開けられなくなれば、有効な治療に乏しく、眼輪筋を切除する治療しかなくなる。

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④重度眼瞼痙攣に対する針灸治験の模索
     
瞼が開かないと訴える30代女性患者に対して針灸治療を試みたが無効だった。ただし色々とアプローチをした中、患者が最も評価したのは、眉の1㎝ほど上方から眉と並行に水平刺し、滑車上神経・眼窩上神経に響きを与えたものだった。一時的に交感神経緊張状態に誘導したのが効果の理由だと思えた。

 


上歯痛の針灸治療 Ver.1.1



歯痛には次の3種類がある。 
①原発性歯痛:歯牙、歯周囲組織に器質的変化があるもの。最も多い。通称は虫歯。
②続発性歯痛:全身性疾患(白血病、敗血症、梅毒、糖尿病)の一部分症状。
③放散性歯痛:歯牙および歯周囲組織に隣接する器官の疾患により、歯にも原因があるように感じられる疼痛。眼、耳、鼻の疾患に由来することが多い。

針灸治療は、虫歯(齲歯)由来であれば、神経興奮そのものなので、あまり効果が期待できない。続発性歯痛であれば原疾患の治療を優先させる。しかしなが放散性歯痛のように、 歯周囲組織に痛みの原因があれば、効果が期待できる。そしてこのタイプの痛みは歯科が苦手と している。歯肉の充血も針灸の適応である。

 

1.客主人移動穴刺針(柳谷素霊著「秘法一本針伝書」)

①体位:痛む歯を上にした側臥位。口を閉めさせておく。響いたら、口を閉じたまま「ウーッ」と発声させるように指示しておく。
②取穴:耳前頬骨弓の上縁を指で触診しつつ前方へ指を移動する。側頭動脈と頬骨弓との分かれ目より1.5寸で、一筋越せば指頭に陥没の部を触れるところ。
③刺針:寸3の#2にて、針を頬骨弓をくぐらせるようにし、針柄をほとんど皮膚に接触させるくらいにして、ゆっくりと刺入する。患者が痛む歯に針の響きのあるのを度とする。「ウーッ」と患者が言えば抜針。抜針後はただちに指頭で刺針部位を圧迫(青あざを予防)。もし出血斑ができたら、マグレインを貼ると退色が早くなる。

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2.客主人移動穴刺針に対する筆者の見解

上記刺針をしても上顎神経やその下流である眼窩下神経を直接刺激することはできない。刺入点直下にあるのは側頭筋であり、針先に当たるのも側頭筋である。
側頭筋の深部んは側頭頭頂筋(顔面神経支配)があるが、今日では退化していて役割を失っている。側頭筋の運動針は、側頭筋中に刺針した状態で、力を入れて咬む動作をさせることである。

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側頭筋にトリガーが発生すると。上歯痛が生ずることがあることがトラベルらにより確かめられている。上前歯となるか上奥歯となるかは、側頭筋トリガーの位置により異なる。

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3.下関穴(木下晴都の上歯痛に対する傍神経刺)

木下晴都の上歯痛の傍神経刺は「下関」と記されているが、今日の標準経位置からいえば、下関より鼻方向に1センチ前方に移動し、頬骨下縁の下1センチの部位である。これを下関移動穴を呼ぶことにする。この部から同側の外眼角に向けて30°の角度で、約4センチ斜刺する。すると咬筋浅葉中に刺入される形になる。

咬筋にトリガーが発生すると、次のパターンの放散痛が生ずることが報告されている。咬筋がトリガーをもつと、上歯痛・下歯痛とも起こりえる。

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※咬筋の解剖
大きな浅部と小さな深部に分かれている。三叉神経の第三枝である下顎神経の枝の一つである咬筋神経に支配。

浅部:起始が頬骨弓のの前2/3、停止が下顎骨咬筋粗面下部。
深部:起始が頬骨弓の後ろ2/3で、停止が下顎骨咬筋粗面上部。

 

 

 

 

下歯痛の針灸治療 ver.1.1

1.針灸適応となる歯痛
歯の激痛に対して、針灸で止痛させることは難しい。しかし関連痛による歯痛(放散性歯痛を含む)による歯痛は効果がある。歯肉痛にも効果がみられる。上歯痛・下歯痛それぞれ2回に分けて考えてみる。

※関連痛を生ずる歯痛のなかで、とくに遠隔部位に生ずる痛みを放散性歯痛とよぶぶ。

2.下歯痛の治療
歯痛の鍼灸治療で、筆者が参考にしているのは、柳谷素霊著「秘 法一本鍼伝書」であり、また木下晴都創案の傍神経刺である。今日で入手できる歯痛の傍神経刺の載っている成書として「最新鍼灸治療学」がある。
 
1)頬車水平刺(柳谷素霊著「秘法一本針伝書」)
①体位:上歯痛の場合と同じ。但し上歯と下歯とのあいだに手拭をまるめて噛ませるようにする。こうすれば穴が益々明かとなる。
②取穴:下顎骨隅を指でナデ上げるようにする。初めは軽く、除々に強くなでると骨の欠け目がある。上にゴリゴリした筋肉様のものがある。この下の陷凹部を穴とする。
③刺鍼:鍼尖が口吻の方向に向くようにし、鍼尖をして下顎骨中(内に非ず、外に非ず、骨中を標的に)に刺し透すやうな心得で刺入する。手技は上歯痛の場合と同じ。 深度は1~1.6寸位。
④注意:刺入しているうち、鍼尖が骨に当ったときのように硬く感ずる、手ごたえがあっても緩やかに旋撚しつつ刺入する。このように刺入せば入るものである。且つ鍼響の感があるものである。但し、耳の中に鍼の響がある場合には鍼尖を下方に向ける(刺鍼転向)、痛む歯に鍼響あれば手をもって合図させる。響いたならば除々に抜除し、後を揉まない。

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2)頬車水平刺に対する筆者の見解
柳谷のいう頬車水平刺は、内側翼突筋中に刺針することで、下歯槽膿神経刺激を行っていると思えた。

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ペインクリニックで用いる下歯槽神経ブロックは下顎の下方から水平刺する口腔外アプローチと、口腔内の歯肉から刺針する口腔内アプローチがある。刺入部位は3者とも異なるが、マトとなるのが下顎孔あたりになるのが興味深い。大迎あるいは裏大迎から口方向に水平刺しても、下歯槽膿神経の直接刺激はできない。

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 ※下歯槽神経の走行:下顎孔から骨中のトンネル中を走りつつ、下歯に知覚神経の枝を出し、最終的にオトガイ孔から下顎骨表面に出る。このオトガイ孔部を刺激することは、適用が限られるのでペインクリニックではあまり用いられない。オトガイ孔刺の適応は、狭車水平刺に含まれる。 
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3)聴関穴(木下晴都の下歯痛に対する傍神経刺)について

聴関とは、聴宮と下関の中間にあることから木下が命名した。しかし聴関穴は、今日の標準経穴位置から検討すると「下関」にほぼ一致しているので注意すべきである。
この部から2寸鍼を使って3.5㎝直刺する。これには咬筋深葉を貫いて外側翼突筋中に刺針狙いがある。(このさらに深部には、三叉神経第3枝の出る卵円孔があり、ペインクリニックでは上顎神経ブロックとして使用される)
この発想はいいとしても、下関から3.5㎝深刺するとなれば、実際には用いづらい施術法といえよう。

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4.オトガイ孔への刺針の検討

三叉神経第3枝の分枝で、下歯槽膿神経は下顎孔から骨トンネル内に入り、はオトガイ孔から下顎骨の表に出てくる。
この骨トンネル走行中に下歯痛に知覚枝を送っているので、下歯痛とは下歯槽神経痛だともいえる。
ところでオトガイ孔は予想外な方向で開口しているので、骨孔を貫通させるには案外難しい。それに加え、オトガイ孔の骨孔を貫通できたとしても、下歯痛に効果があるとはいえない。結局オトガイ孔刺針の臨床的価値は乏しいといえる。

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道教によって影響をうけた古代中国の生命観 Ver.1.5

1.序

『黄帝内経』が編纂されたのは漢の時代(BC202~AD220)だとされている。当時、道教は儒教とならんで、中国人の精神構造の基盤となった。中国の古代医学も道教の影響を強く受けていたと考えられる。道教を学習することは中国の針灸古典の背景を知る上でも興味深いことである。

私は鍼灸学校卒業してすぐの頃、道教の古典的名著であるアンリ・マスペロ著川勝義雄訳『道教』東洋文庫、平凡社刊 昭和53年(1950年原著出版) を購入して読んでみた。この著作は「道教とは何か」に対する一つの確固たる回答であり、欧米の学会に大きな刺激を与えたという。しかしそれでも35年前の私にとっては難解すぎた。それを今になって読み返してみたが、今回は意外にも興味深く読むことができた。というのも、東洋医学に対してある程度の知識や経験をもったので、本書を自分の考えと対峙しながら、読めたのが原因だろう。道教の興味深かった点を、筆者の解釈を加えて紹介する。



2.著者アンリ・マスペロ Henri MASPERO とは

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フランス人中国学研究者アンリ・マスペロ(1883-1945)は、研究途中で「道教」について、自分がほとんど何も理解していないことを改めて知った。その上で、道教は儒教とならんで中国人の精神構造を知る上での鍵であるという事実に突き当たった。マスペロは当時の道教の歴史と文献を学問的に探ろうとした最初の人であった。マスペロが生前に発表された原稿は少なかったが、死後書斎を整理してみて、道教については膨大な未発表原稿が発見された。
これらの原稿は、マスペロの妻と友人が整理して本書として誕生した。本著は、西洋の者が道教を知る上で最もスタンダードなものとされている。なおマスペロは1944年ドイツに拉致され、その翌年獄中で非業の死をとげた。マスペロは日本語学習の必要性を理解し、我が国にも2年間滞在したことがある。


3.不死への修業

道教では死んでしまえば霊魂も消えてなくなると考えていたので、生き続ける身体の保持の方法が興味の対象となった。その方法は単なる延命ではなく、生きている期間内に不死の身体に取り替えることだった。
身体を不死にする方法は、養形と養神に区分され、それぞれに対して様々な実践的なプログラムが用意されていたが、どれも厳しい修行を必要とした。  
 
養形:物質的な身体の老衰と死の原因の除去。 →食餌法や呼吸術
 
養神:身体内部にいる種々の超越的存在(悪さをする精霊、霊魂など)ににらみをきかせ、自分勝手に悪さをさせない。 →精神集中や瞑想


4.呼吸法 

臍下丹田の「丹」には赤いという意味があり、「田」は生産する場所という意味がある。すなわち丹田は、生き続けている間、生命の炎が燃えている場所と考えていた。この丹田では精を養う場所だった。火が燃え続けるには空気が必要だが、普通の呼吸法では空気は肺にまでしか入らない。丹田の炎を大きく燃やし続けるには腹まで空気を入れるべきであると考えるようになった。その方法とは次の2通りある。 

1)胎息(息を飲み込んで消化管に至らしむ)

呼吸器官は胸までしかないが、消化管は食道を通って腹全体に配置されている。息を吸うのでなく、息を飲み込むようにすることで胃腸に空気が入るから、臍下3寸(=関元に相当)にある丹田の炎を大きく燃やすことで精を養う能力を増やすことができる。臍下丹田にある精が、そこに入ってきた空気と結合して神(=正常な意識。この神というのは霊魂とな別物)が生ずる。
 
腹にまで空気を入れる呼吸法を胎息とよぶ。これは母の胎内における胎児の呼吸の方法だからである。
臍下丹田に入った気は、その後に髄管によって脳に導かれ、脳から再び胸に降りていく。3つの丹田(後述)をこのように回り終えたら、口から吐き出される。あるいは単に気を巡らせるのではなく、気を身体の中で意のままに動きまさせる。病気の時は、疾患のある場所を治すため、そこへ気を導く。

2)閉気(息を閉じ込める)

凡人は、吸った空気はすぐに吐いてしまうから、空気の中に含まれている滋養を充分に吸収できない。気を深部にまで巡らすには、長時間息を止めておく(閉気)ことが必要である。閉息して、気のもつ滋養を吸収できる時間をできるだけ長くする。


5.食餌法

1)三つの丹田の働きを妨げる三虫

身体を、上部(頭と腕)、中部(胸)、下部(腹と脚)に三分割できる。各部には上丹田・中丹田・下丹田とよばれるそれぞれの司令部がある。丹とは紅と同様な意味で、炎に通じている。生命の炎が燃え続けているためには、気(空気)は不可欠である。

上丹田:脳中にあり、泥丸(ニーワン)宮という。これはサンスクリット語のニルバーナ=涅槃に由来している。上丹田は知性をつかさどる。なお涅槃(ねはん)とは煩悩から超越した境地のこと。転じて聖者の死を涅槃というようになった。上丹田に行く気が不足すれば知性を失う。

中丹田:心臓のそばには絳宮(こうきゅう)がある。絳(こう)とは深紅の意味がある。
血液循環の元締めだからであろう。心拍数の増減させること、すなわち感情の起伏に関与している。

下丹田:臍の下3寸の処(関元の部位)にある。下丹田は精を養っている部で、精に気が注入されて初めて神(正常な精神)ができる。精力(精神や肉体の活動する力)をつくる源でもある。

 


2)辟穀(へきこく)-三虫退治のために 

三つの丹田にはそれぞれの守護神がいて、悪い精霊や悪気から丹田を守っている。しかし守護神のそばには有害な三虫あるいは三尸(=屍)がいて丹田を攻撃して老衰や病気の原因をつくる。道士(道教の修業者)は、できるだけ早く三虫を取り除かねばならない。穀物を食べると、必然的にカス(大便の材料)が出て、カスは濁気を醸成する。この濁気が三虫を滋養し、疾病を起こす。三虫を取り除くには、穀物を絶たねばならない。これを辟穀(へきこく)とよぶ。辟穀は道士修業の基本である。穀物の代りに松実・きのこ・薬草などを食して体内の気を清澄に保つ。
                                   

2)霊薬としての丹薬

①丹薬の製造

辟穀しただけでは、三虫を絶滅しきれず、丹薬の服用も欠かせすことができない。丹薬は丹砂(=辰砂)ともいい、自然界では硫化水銀として存在している。純粋な丹砂は、朱色だが、普通は不純物を含むので暗褐色である。丹砂を炉400~600 ℃ に加熱して出た蒸気を冷やすことで水銀を取り出す。
水銀蒸気は目にみえず、瞬時に蒸発してなくなる。この段階では見えないものを集めなくてはならないので、2000年前の中国人が水銀精製法を発明したことは驚きである。熱を加える作業をした職人は、おそらく霊薬中毒(=水銀中毒)で発病しただろう。

水銀がなぜ霊薬だと思ったのかは定かではないが、水銀は金属でありながら重い液体であり、さらに常温でも気化(重さがなくなる)して次第に消滅することなどの特性があることなどが考えられる。

古代ヨーロッパの錬金術師が、鉛などの卑金属を金に変える際の触媒となると考えた霊薬は辰砂のことで、辰砂は西洋では「賢者の石」ともよばれる。賢者の石との名称は、童話「ハリー・ポッターと賢者の石」ですっかり有名になった。

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②硫黄と水銀の特殊性

なぜ、硫黄と水銀が特別なのかについては、最もな理由があった。

①自然界には辰砂 しんしゃ(=硫化水銀HgS)という朱色の鉱石がある。これを空気中で加熱(600℃)すると、次の化学変化が起こる。発生した水銀蒸気を冷やすことで水銀抽出できる。なお二酸化硫黄は空気中に拡散され残らない。
     
②この水銀単体を空気中でさらに加熱(350℃)することで朱色の酸化水銀になる。
     
③さらに加熱(450℃)すると酸化水銀が分解され、水銀単体に戻すことができる。
  
②③は可逆反応であり、空気中で加熱するときの温度の違いにより繰り返し反応を起こすことができる。 辰砂を焼くだけで、銀色→朱色→銀色→朱色と繰り返し色が変化することが、神秘性を感じたとしても不思議ではない。

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3)丹薬の効能

丹薬は永遠の命や美容などで効果があると信じられていた。丹薬が永遠の命を実現できるものとする考え方は、遺体を辰砂溶液に浸しておくと、いつまでも腐敗しないという実例がヒントになっているのだろう。ちなみに昭和天皇の遺体も布にくるまれた後、辰砂液につけられ、真っ赤だったという証言もある。天皇のような高貴な身分の人は、死去から遺体を埋めるまでに相当な期間を要するので、腐敗を防ぐ手立てが必要になったという。

秦の始皇帝は永遠の命を求め、水銀入りの薬や食べ物を摂取していたことによって逆に命を落とした。他にも多数の権力者が水銀中毒で死亡した。当時から、丹薬服用の危険性は知られていた。しかし至高の価値を得るためには、命を預けた賭けが必要で、また人格によって毒にも薬にもなるという人格が試される試験でもあったという。
なお稲荷神社の鳥居や神社の社殿などの塗料して古来から用いられた朱の原材料も、水銀=丹である。丹は木材の防腐剤として使われてきた。朱色は生命の躍動を現すとともに、古来災厄を防ぐ色としても重視されきた。
臍下3寸の関元穴あたりを臍下丹田とよぶ。この部が充実して温かいことが、命の炎が燃焼しているという意味であった。

※現代での有機水銀中毒事例としては水俣病が知られている。

 

 

 

.錬金術と錬丹術

古代から西洋では錬金術として金の抽出が行われていた。これは金鉱石を砕いて水銀を加えて加熱し、水銀蒸気を蒸発させて純粋な金をつくるものだった。卑金属から貴金属をつくる研究も行われたが、これらは失敗した。しかし近代化学の基礎を築いたという点で評価されている。

錬金術と錬丹術における霊薬の製法には、共通点があるので、錬金術を研究することは練丹術の研究にもつながった。しかし中国では錬金術よりも錬丹術が重要視された。すなわち黄金よりも永遠の生命に価値が置かれた。山奥の洞窟に住み続ける古代中国の仙人は、練丹術を修得しているとされた。仙人はたまに町にでかけることもあるということで、何とか彼らに出会って、その秘法を教えてもらうのも一つの方法とされた。そうした仙人の住む深山の世界は、水墨画において幽玄を感じ取れるものとして描かれている。 

 

 

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☆中国の柴暁明先生が、上記の私のブログを中国語に訳して下さいました。感謝致します。文面は次の通りです。

現代の中国でも、上流階級の者を中心に、道教の辟穀は流行っているようです。
何万元から何十万元でもかかって一週間の辟穀修業する方も結構多いそうです。 新聞記事を鵜呑みにして、浅い知識で勝手に今週辟穀しようと宣言する庶民たちは少なくないです。
このブログは、中国人にとって必要な基礎内容です。私は翻訳する前は、道教に対する認識も薄かったですが、このブログのお陰で、以前より深く認識できるようになりました。

 道教によって影響をうけた古代中国の生命観 Ver.1.3

https://mp.weixin.qq.com/s?__biz=MzU0Nzg5MjkzNQ==&mid=2247483824&idx=1&sn=f063f536f5a61784f4d0358d20421572&chksm=fb463a18cc31b30e656ef7b3e859ad4f06fe432d219ec8df057fb5670dcd203c6a215d5c7486&token=394854727&lang=zh_CN#rd

 https://mp.weixin.qq.com/s?__biz=MzU0Nzg5MjkzNQ==&mid=2247483824&idx=1&sn=f063f536f5a61784f4d0358d20421572&chksm=fb463a18cc31b30e656ef7b3e859ad4f06fe432d219ec8df057fb5670dcd203c6a215d5c7486&token=394854727&lang=zh_CN#rd

顎関節症の針灸治療法 Ver.2.0

1.顎関節症の概要

1)概念

咀嚼咀や開口時の顎関節とその周囲の疼痛、開口障害と開口時雑音などを主体とする顎関節症状の総称。

2)症状

3大症状は、開かない・痛い・音がする ※ただし安静時の自発痛はない。


3)顎関節症の分類(1996年、日本顎関節学会)

Ⅰ型:咀嚼筋の障害
Ⅱ型:関節包や靱帯障害
Ⅲ型:関節円板の異常
Ⅳ型:退行変性病変
Ⅴ型:上記以外の病態。心身症含む。
 実際には上記の合併型が多い。



2.Ⅰ型顎関節症と針灸治療

針灸適応はⅠ型であり、咀嚼筋とくに側頭筋と咬筋の緊張に対して効果がある。針灸は、開口制限そのものの効果は弱いが、開口時の痛みや痛みによる開口制限に効果が期待できる。通常3回程度の治療でよい。筋の起始停止への刺針を行う。側頭筋、咬筋の問題、外側翼突筋の筋緊張であることが多い。痛みを我慢すれば大きく開口可能。顎関節部の圧痛(-)、開口時雑音(-)

①細い針を用い、まず患者に強く歯を食いしばらせた状態で圧痛点に刺針。つぎに開口させた状態で圧痛点に刺針。最後に咬筋が下顎縁に停止する部(大迎穴)の圧痛点に刺針する。
②寸6#1を用い、下関穴(頬骨弓下端中央)から静かにゆっくりと直刺し5分間置針。針は咬筋(深部)→側頭筋→外側翼突筋と入る。

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3.Ⅱ型顎関節症と針灸治療

顎関節の過使用による関節包や滑膜の痛みで、若年者に多い。比較的自然治癒しやすい。過使用を避けるような指導をする。圧痛は顎関節に限局、すなわち局所圧痛点である聴会穴あたりに限局する。消炎鎮痛作用を期待し、聴会等の局所圧痛点に静かに置針する。



4.Ⅲ型顎関節症と針灸治療 

20歳代女性に多い。開口制限あり。最大開口でも縦に指が1~2本しか入らない(正常では3~4本)入る。聴宮(顎関節部)の圧痛(+)。
この障害のみであれば顎関節部痛はないはずだが、実際にはⅠ型Ⅱ型などの合併も多いので、開口痛があることも多い。

※大きく開口時、カッンという音がすれば、その時関節円板は正常位置に戻るタイプ(Ⅲa型)。常に関節円板がずれているタイプ(Ⅲb型)では、カックンという音はしない。

開口時にクリック音がする。それは顎関節円板が所定の位置にもどる時の音になる。位置のズレ→関節円板の変形となると治癒しないことになるが、変形があまり目立たないタイプ(結果的に若年者)に対しては、刺針する価値がある。関節円板に付着し、円板を前方に引っぱるのは外側翼突筋上頭なので、この筋の緊張を緩めることを目的とする。それには最大限に開口させた状態(この時外側翼突筋は強く緊張している)で、下関から外側翼突筋に深刺し、軽く雀啄して抜針するという術式が結構効果あるようだ。詳細後述する。


5.Ⅳ型顎関節症

中年期以降の女性に多い。口を開ける時も噛む時も痛い。Ⅳ型顎関節症は関節変形が主因なので、経過が長いことが前提になり、中年以降にみられることになる。顎関節を動かすときに発するガリガリ、ジャリジャリという音がすれば、関節変形を意味しているので、針灸適応ではない。同じく、強く咬むと顎関節が痛むというのも変形性なので針灸適応ではない。
 


6.外側翼突筋刺針の技法と適応症

1)Ⅲ型顎関節症のクリック音に対し、下関への手技針が効果的か

これまで顎関節症の針灸治療というと、Ⅰ型に適応があるとは認められていた。しかしやり方によってはⅢ型にも適応があるかもしれないと思う症例(25才、女)を経験した。従来から顎関節症に下関深刺は多用してきたが、それだけではⅢ型に対して効果不足だった。しかし外側翼突筋運動針の方法として最大開口肢位で行ううようにすると、施術後ただちに音が消え、また再現性もあった。

開口時のクリック音を鎮静化させるには、開口させた体位で下関に深刺し、次に最大限に3秒間開口するよう患者に伝える。術者は下関に細かい雀啄刺激を加えつつ、1、2.3と声を出してカウントし、その直後に静かに抜針するという方法をとる。

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2)刺針効果 

筆者の別の患者では、コリに当たると、患者もツボに当たったことが納得できるという。耳中に響いたり、上歯に響いたり、首から背中に響いたりするという。治療終了して道を歩いていると、その10分後くらいすると、背中の血流がよくなったことを自覚でき、非常   に気持ちよいという。効果持続時間も数日以上で、これまで5年間受けてきた種々の治療中、ベストだということだった。
  

3)外側翼突筋刺激の特殊効果
    
ネットで調べてみると、線維筋痛症に対して外側翼突筋に対するトリガーポイントブロックなどが効果ある例が報告されている。 本筋は他の筋と違って筋紡錘がないという。これは本筋の筋トーヌスが自動的に調整され難いことを意味している。咬み合わせの異常など→外側翼突筋の持続的緊張→中枢の興奮と混乱→全身の筋緊張といった機序も考えられるということである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 













三叉神経痛と針灸治療(仮性三叉神経痛を中心に)

針灸師の守備範囲は結構広く、四方にアンテナを広げているつもりでいても、いつの間にか各分野の新知識に遅れをとってしまいがちになる。今回もそのようなケースであった。ある日三叉神経痛の患者が来院した。これまで三叉神経痛は針灸不適応だと思っていたのだが、この患者に対しては、予想外なことに1~2回の施術で症状消失をみたのだった。嬉しいことである反面、どういうことなのか疑問に思って調べ直してみた。


1.現在と一昔前の三叉神経痛の分類の違い

一昔前の三叉神経痛の分類では、本態性三叉神経痛と症候性三叉神経痛に大別していた。本態性とは原因不明な場合をいうが、このタイプの三叉神経痛の9割は橋付近の血管による三叉神経圧迫が原因だと特定されたので、もはや本態性という名称はふさわしくない。そのためだろうか、いつの間にやら真性三叉神経痛という名称に変わった。
 
一方、症候性三叉神経痛というと三叉神経領域の帯状疱疹とか齲歯痛が思いつくが、実際には原因不明であることも非常に多い。ただし真性(=本態性)三叉神経痛と違う点は、押圧しても痛みを誘発するポイントがないこと、ビリッビリッとした耐え難い数秒間の痛みではなく持続性の鈍痛であることなどがあった。そこでネットで調べてみると、かつての症候性三叉神経痛は、現在では仮性三叉神経痛と呼ばれていることを知った。仮性三叉神経痛の8割は原因不明だという。

2.真性(特発性)三叉神経痛 
話の順番として、真性三叉神経痛について総括する。
  
1)原因
40~50歳代の女性に多く見られる原因不明の三叉神経痛とされてきた。しかし今日では三叉神経痛の9割が橋付近の血管による三叉神経圧迫が原因だとされるに至った。なお発性叉神径痛と思われた1割で脳腫瘍が発見されてる。            
  
2)症状
痛みは顔の右か左かどちらか一方におこる。痛みの部位は、上顎部・下顎部・鼻翼外に出ることが多く鼻や口唇の周りなどを触ることにより激痛(風に当たっても痛いという)が誘発される。これをPatrickの発痛帯とよぶ。夜間睡眠時は、これらの発痛帯に刺激が加わらないので、痛み発作は起こらない。
発作時は、鋭い電気の走るような激しい痛みが、発作的(2~10秒)に、繰り返し起こる。洗顔、歯磨き、ひげ剃り、化粧、食事、会話などにより痛みが誘発される。
※Patrick発痛帯:無痛状態時に刺激されると必ず疼痛を発現する部位。口角、口唇、鼻翼鼻唇溝、眉、歯肉などの特定部位。
   

3)三叉神経痛の現代医学治療
①「微小血管減圧術」手術
約9割以上が脳幹出口部における三叉経の“神経血管圧迫”であり、これに対ては、脳外科的に神経を圧迫している血を神経か剥がし、圧迫を解除するのが根本療法になる。有効ほぼ100%だが、再発することもある。

②薬物療法
抗痙攣薬カルバマゼピン(商品名:テグレトール)が第一選択。多くの症例に効果あるが、服用を中止すると再び疼痛が生じる。本剤は本来は抗テンカン藥で、てんかん発作痙攣を抑制するが鎮痛効果はないはずである。しかしこの中枢神経興奮抑制効果を利用して叉神経痛など一部の末梢神経痙攣痛に対し、痛みの発症以前の痙攣を抑制する目的で処方れる。元々が痛みの発症する前に使われるので、痛みのあるなしは関係がない。
    
近年ではリリカ(一般名プレガバリン)など使われるようになった。リリカは末梢神経障性疼痛の治療薬であり、三叉神経痛、帯状疱疹後神経痛に適応がある。従来の鎮痛剤であるロキソニンやボルタレンなどの消炎鎮痛剤は無効。


③針灸治療の意義
真性三叉神経痛発作時は、パトリックの発痛帯に触れると、耐え難い痛みが誘発するので 顔面を施術すること自体が難しい。現代では鎮痛効果のある治療薬も出現しているので、治療効果的にもあえて針灸を行う意義は乏しくなった。



3.仮性三叉神経痛とは
   
症候性三叉神経痛はそのままとして、現在では原因不明なものの大部分は、顔面の筋膜症と考えられている。顔面部の筋膜症であれば、患者が指で示す圧痛点に深刺置針5~10分で一時的に症状改善でることが多い(治るわけではない)。
 
1)顎関節症Ⅰ型の針灸治療

Ⅰ型顎関節症とは、咬筋や外側翼突筋の過緊張によるものが多い。咬筋緊張に対しては頬車・大迎の緊張部に刺針し、外側翼突筋に対しては下関直刺が有効となる場合が多い。  

2)耳鳴・難聴および耳痛の針灸治療
    
三叉神経第Ⅲ枝の分枝である耳介側頭神経は、側頭部皮膚知覚を支配しているだけでなく、外耳道知覚、鼓膜知覚、顎関節知覚にも関与している。これは顎関節症により二次的外耳道や鼓膜症状が出現することを示唆している。針灸臨床上、顎関節症を治すことが難耳鳴の治療につながることを経験している。

 耳介~外耳道の神経痛は三叉神経第Ⅲ枝痛だが、Ⅲ枝の分枝の耳介側頭神経痛によるもので、これを「神経性耳痛」とよぶことがある。現代医療では、この治療に耳介側頭神経ブロックを行うことがある。この方法が針灸でも流用できる。和髎(耳珠前方で、頬骨弓直上に浅側頭動脈の拍動を触れる。同動脈に伴走して耳介側頭神経が走る部)、または和髎の方1寸から、側頭部に響かせるように斜刺する。
 
3)舌痛症の針灸治療                                               

舌神経(三叉神経第Ⅲ枝の枝、舌前2/3知覚を担当)を刺激する。それには裏頬車~裏大迎から刺針し、内側翼突筋緊張などを緩めるよう刺針を左右計4カ所程度行う。または下顎骨前面の内側縁の顎舌骨筋(前廉泉穴の傍)から直刺し、舌の起始部へ直刺する。治療効果が長持ちしない場合、刺針部に円皮針を追加する。



4)筋膜症としての仮性三叉神経痛の針灸治験症例
 
真性三叉神経痛は、発作時は顔面に触れることができないので、勿論顔面部の針灸治療を行うことは困難である。その一方で非発作時は、そもそも針灸治療が意義あるものかも判然としない。
しかし仮性三叉神経痛の大部分は、筋膜症ではないかとする見解があり、私の治療経験からも、針灸治療は結構有効なのではないかとの印象を受けた。患者が指指す顔面部位に十分に深刺するのがコツで、有効な場合、筋緊張の抵抗の中をグイグイと針を入れていくという手の下感があるようだ。


①症例1 72才、女性
  
二十年以上前から左鼻翼外方に部分的に重苦しい感じがあり、左鼻も詰まるという。病医院でも治療は必要ないとして、無処置であった。寸6、2番で患者の指示する部に骨にぶつかるように斜刺深刺(直刺したのではすぐに骨に当たってしまうので刺針感がほしいので斜刺した)して置針5分。症状軽減した。本例は、完治させることはできないが、こうした鍼をすると症状は毎回大幅に軽減した。
 

②症例2 37才、女性
   
当院初診10日前から左耳前~頬部に強い痛み出現。痛みは発作性ではなく持続性。強く歯を噛みしめると、左下奥歯が痛む。近医受診し、三叉神経痛の特効薬であるテグレトール処方され、以来痛みは7~8割ほど軽減されている。
痛み部位は三叉神経第2枝領域なので、眼窩下孔刺針、下奥歯痛ということで咬筋と内側翼突筋、おとがい孔に刺針。使用鍼はすべて寸3の0番針で、5分間置針。すると痛みほぼ消失。強く噛むと左下奥歯がまだ痛むというので、咬筋に対する運動鍼を行い症状大幅に軽減した。

 

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