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眼瞼痙攣の病態と針灸治療の適否 Ver.1.1

1.顔面痙攣  
 
1)症状
   
一側の顔面が長期間、強く痙攣する状態。目の周り(特に下瞼)の軽いピクピクした痙攣で始まり、次第に同側の上瞼・頬・口の周りなどへ広がる。痙攣の程度が強くなると、顔がキューとつっぱり、引きつれる状態になる。ひどい場合、耳小骨のアブミ骨筋(顔面神経支配、鼓膜に張力を与えている)が過剰刺激され、カチカチという耳鳴が生ずることもある。
   
当初は緊張した時などに時々起こるのみだが、徐々に痙攣している時間が長くなり、一日中ときには睡眠中も起こるようになる。自分の意思とは関わりなく顔面が動く、ということで気ぜわしく対人関係や仕事に苦労する。ストレスなどでも誘発される。自然に治癒することはほとんどない。
 
2)原因<神経血管圧迫>

脳血管の異常走行により、脳幹より出る顔面神経に脳の血管がぶつかり、動脈拍動のたびに顔面神経が刺激されている状態。脳血管異常走行の原因としては、加齢、脳動脈硬化、先天的  動脈奇形など。
 

3)一般的治療
  
①ボツリヌス菌毒素注射
      
ボトックス(ボツリヌス菌希釈液)の眼瞼や口角周囲の痙攣部への注射。持続効果は3ヶ月前後で、繰り返しの注射が必要になる。 
※ボツリヌス毒素は、食中毒をおこして随意筋を麻痺をさせ、重症では横隔膜運動も麻痺して致死的になる。この作用を利用し、本菌を使って筋の運動麻痺を起こさせるのがボトックス注射。
※ボツリヌス菌毒素注射は、美容整形として皮筋を麻痺させることで、顔面のシワとりにも用いられる。

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②手術「微小血管減圧術」
   
顔面神経を圧迫している血管位置を少しずらせて固定させる手術で、根本療法になる。手術後遺症として、数%~10%程度の者に聴力の障害がおこる(顔面神経と内耳神経と並走行している。手術中に内耳神経にストレスがかかるのが原因)。三叉神経痛と眼瞼痙攣の手術原理はよく似ている。 
 

4)針灸治療(若杉式穿刺圧迫法の応用)
   
かつて代田文誌は、顔面麻痺に対する鍼灸は、無効と記していた。しかし30年ほど前に、ペインクリニックにおいて若杉式穿刺圧迫法が考案された。本法は針でも応用できるか否か試してみ  た。すなわち茎状突起(=翳風)への針タッピング術の開発により、痙攣の程度を減ずることができることを知った。と同時に限界も示した。  
  
①神経ブロック 若杉式穿刺圧迫法
    
関東逓信病院ペインクリニック科では顔面神経の主幹を神経が頭蓋底を出た部位で針を使って圧迫する治療法を創案した。痙攣が止まっている平均有効期間は9.3 カ月。痙攣が再発してもすぐにブロック前の強さにもどるのではないので,年に1 回程度治療を行う症例が大部分である。ブロック後の痺期間は平均1.3 カ月で70%以上が1ヶ月以内に麻痺は回復する。
  
②顔面神経直接刺激する針治療
   
a.2寸以上の中国針を使用。治療側を上にした側臥位。
b.翳風を刺入点として茎状突起に針先を誘導する(方向を誤ると、強い刺痛を残す)
c.針先が骨に命中したら、3分間のコツコツとタッピング刺激を与える。その後7分間置針し、再びふた3分間タッピング刺激。総治療時間は20分間程度。

上記の治療を行っても、痙攣を軽減する期間は数日間であり、その後は再び針治療が必要になる。患者にとって手間と経済的負担が大きいだろう。

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2.眼瞼痙攣 
眼瞼痙攣となる疾患には、顔面痙攣初期の他に、眼瞼ミオキミアと本態性眼瞼痙攣がある。
 
1)眼瞼ミオキミア   
  
①病態生理と症状
    
まぶたの一部(下眼瞼が多い)が痙攣する。通常は片側に起こることが多い。(本態性眼瞼痙攣は両眼の上下眼瞼とも等しく痙攣する。不規則で持続時間が長い小さな不随意運動で、自覚的にはピクピクとした感じがする。通常数日から数週間で、自然に治まる。 
※ミオキミアとはは不規則で持続時間が長い小さな不随意運動のこと。
  
②原因
   
顔面神経が支配する眼輪筋の一部に異常な興奮が発生することで生じる。特段の原因はない。健康な人でも長時間書類を注視したり、パソコン操作などがもたらす眼精疲労や、寝不足の際に一時的に感じられることがある。
  
③針灸治療
    
木下晴都は春先に3年間、毎年眼瞼振戦を経験してたが、3年目の時に自身に次の治療を行い、著効を得たという。振戦を起こす右下眼瞼3点に、3~4㎜刺入した後、刺激を強める意味で針を左右に回旋するという旋捻を5~6回行って抜き取る手技だった。翌日は振戦依然と存在したが、3日間続けると全く消失した。患者にも実施し、すべて症状の回復が早いことを確認した。

 

 

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2)本態性眼瞼痙攣
  
①原因

初期:まばたきが多く、目が開けにくい、眼がショボショボするのでドライアイと誤診されやすい。眼瞼が痙攣するというより開けにくい。
進行期:両側性に、羞明感、目の乾燥、目を開けていられない、下眼瞼のピクピク感出現。次第に上眼瞼に拡大。左右両方に進行性の眼瞼痙攣が出現する。
重症時:眼を開けていられない。視力があるにもかかわらず生活上は盲目と等しくなる。

②症状

パーキンソン病と同じく、大脳基底核の運動制御システムの障害。間代性・強直性の攣縮が両側の眼輪筋に痙攣が起こる。40歳以降の女性に多い。
※大脳基底核=大脳皮質の底にある白質中の灰白質部分。随意運動の発現と制御の役割。

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③治療
     
進行は緩徐だが自然軽快はまれ。初期症状には、眼輪筋に対してのボトックス注射が有効。眼瞼の痙攣部数カ所に注射する。ボトックスの持続効果は3ヶ月程度なので、繰り返しの注射が必要になる。眼が開けられなくなれば、有効な治療に乏しく、眼輪筋を切除する治療しかなくなる。

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④重度眼瞼痙攣に対する針灸治験の模索
     
瞼が開かないと訴える30代女性患者に対して針灸治療を試みたが無効だった。ただし色々とアプローチをした中、患者が最も評価したのは、眉の1㎝ほど上方から眉と並行に水平刺し、滑車上神経・眼窩上神経に響きを与えたものだった。一時的に交感神経緊張状態に誘導したのが効果の理由だと思えた。

 


慢性副鼻腔炎と花粉症の針灸治療 Ver.1.2

  当院にたまに来院していた女性患者は、近くの整形外科の理学療法室で無資格ながらアルバイトをしていた。その人が私に慢性副鼻腔炎に鍼灸は効くか、と質問したのできちんと自宅施灸すれば効果があると返答した。しばらくして理学療法室の同僚の若い男性を副鼻腔炎を治してくれといって連れてきた。私は上星に直接灸3壮を行い、挟鼻穴(下記参照)に単刺して治療を終えた。そして上星には毎日自宅施灸するように指示した。この男性は毎日、自分で鏡をみながら上星の灸を続けたところ、数週間後にはついに鼻汁が止まった。それを見ていた女性患者はよほど驚いたらしく、鍼灸学校に入学したのだった。


1.副鼻腔とは

1)前頭洞、上顎洞、篩骨洞、蝶形骨洞の4種ある。うち上顎洞が最大。

2)副鼻腔の構造と特徴

鼻腔に接する頭蓋内の空洞で、開口部が鼻腔とつながる。
上鼻道の開口:篩骨洞(後部) 
中鼻道に開口:上顎洞、前頭洞、篩骨洞(前部、中部)
下鼻道に開口:鼻・涙管 
蝶形骨前洞窟に開口:蝶篩陥凹
  
大部分の副鼻腔の開口部は洞の下方にあるので、分泌物も溜まりにくい。しかし上顎洞は上方に開口部があり、分泌物や膿が貯留しやすい。 
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2.副鼻腔炎の)病態生理
  
慢性鼻炎により鼻粘膜が充血、肥厚
    ↓   
副鼻腔開口部付近の粘膜も肥厚し、充血する。
    ↓
副鼻腔開口部が閉鎖され、血流により副鼻腔は陰圧になり、
貯留物が排泄できない。
(本来は副鼻腔に溜まった分泌物は、生理的に外に排出される)  
    ↓
感染が起きる。
 

3.副鼻腔炎の症状
   
慢性副鼻腔炎時は、同時に慢性鼻炎も存在している。症状は慢性鼻炎に似るが、膿性鼻漏が多量で、異臭があり、鼻周囲の圧痛出現する点が異なる。ときに鼻茸を合併。前頭洞の副鼻腔炎では攅竹附近は、前顎洞の副鼻腔炎では四白附近に重い感じがあり、押圧すると副鼻腔内圧上昇するとされ、鈍痛増悪する。

R/O 上顎癌:
50才以上で鼻の癌では上顎癌が最も多い。
その7~8割は慢性副鼻腔炎をもっている。血性鼻汁となる。

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4.現代医療

抗生物質、上顎洞洗浄、ネブライザー。しかし根本的治療法に乏しい。


5.針灸治療
  
慢性鼻炎があれば慢性副鼻腔炎も存在している。両者の共通症状は、鼻汁(粘性~黄色粘性) と鼻閉。慢性副鼻腔炎では前頭部鈍痛や頬部鈍痛を訴えるのに対し、慢性鼻炎では、これらの訴えに乏しい。  
鼻炎(花粉症などの鼻アレルギー含む)と副鼻腔炎の治療は、針灸では治療は同様に行ってよい。鼻炎と副鼻腔炎とは、鼻粘膜に連続性があり、神経支配も同一であることによる。花粉症は季節性アレルギーで、症状のある期間は比較的短いが、症状自体は強いので、針灸でも効果不足になりがちである。

1)鼻周囲の三叉神経第1枝刺激 
  
鼻腔と副鼻腔は三叉神経第1枝が支配している。この神経を刺激すれば、鼻交感神経を緊張させ、血管収縮を引き起こすので、鼻閉や鼻汁に対しても効果がある。

上鼻甲介付近の炎症や腫脹では、三叉神経を介して頭重が起こるとされる。慢性鼻炎や慢性副鼻腔炎の者は、前頭部の前頭髪際付近に圧痛がみられることが多く、圧痛があればこの圧痛点である顖会(前髪際を入ること2寸)や上星(前髪際を入ること1寸)に長期的に透熱灸をすることが多い。
  
これは三叉神経を刺激することで、鼻腔や副鼻腔に持続反復刺激を与えている。頭髪中に施灸するので、灸痕が目立たず長期施灸を可能としている。施灸により、長期間良好な状態を保つ間に、鼻粘膜の修復が行われ、施灸中止後も、症状は消失状態を保つことができる。
     
①攅竹から睛明方向への水平刺
前頭神経(三叉神経第1枝の分枝)→鼻毛様体神経

②挟鼻(鼻翼の上方の陥凹部で鼻骨の外縁中央)直刺。
鼻毛様体神経刺激。本神経は、知覚神経で鼻背、鼻粘膜(嗅覚部を除く)、涙腺に分布。
揮発成分を含むワサビを食べると鼻がツーンとし、涙が出るのは、鼻毛様体神経刺激による。
 
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2)大後頭-三叉神経症候群として後頭神経刺激
   
三叉神経線維は三叉神経脊髄路というルートを持っている。外部から入力された感覚は、三叉神経節を経た後、三叉神経脊髄路を経由して、すなわち一度、第2頸髄の高さまで一度下行してから、再び上行して脳に行く。下行時には大後頭神経と連絡しているので、大後頭神経と三叉神経の間に、密接な関係を生ずる。眼精疲労時には後頭部痛も生じやすいのもこの理由による。天柱に刺針すると、三叉神  経刺激症状(特に第1枝の眼神経)に影響を与える。大後頭神経が興奮して三叉神経症状を生  じたものを、大後頭神経-三叉神経症候群とよび、ペインクリニックでの通称も天柱症候群とよばれる。針灸臨床では、眼精疲労、鼻閉に天柱刺針を用いることが多い。


3)顔面関連痛をもたらす筋刺激(山田智子先生の発表による)

①急性副鼻腔炎患者で座位で頸部前屈すると顔面痛増悪する例があった者に、伏臥位で頸部前屈されても顔面痛増悪がなかったこと。②頬骨筋を収縮させた状態(イーッと歯を見せる)では、顔面部圧痛増悪したこと、③項部と上顔面部に針灸治療を行って、副鼻腔炎治療に効果をあげていること、などから顔面症状は、後頸部筋(後頭下筋、頭半棘筋、頸半棘筋、頭板状筋、頬骨筋、咬筋など)のトリガー活性の結果かもしれない。後頸部や顔面部の筋刺激の有効性が示唆される。<山田智子(六ヶ所村尾鮫診療所):第3回プライマリ・ケア学会>

6.その後の見解の変化
上記文章を発表した3年半後のこと。奮起の会鍼灸実技学習会後の懇親会で、参加者の先生方の話をお伺いできた。

1)A先生の話

鼻漏である自分に対し、上記図を参考にして左右の挟鼻穴から円皮針(パイオネックス)を入れると、即座に鼻汁が止まることを確認し、以降は患者にも使っているとのこと。その際、ただしく取穴は挟鼻穴にきちんと当たらないと効かない。1回の円皮針を入れておく期間は、鼻部の皮脂の分泌量によって異なり、ずれてきて1日持たない者から1週間程度もつ者まで色々。左右挟鼻に円皮針を入れておくことは、とくに外出時に格好悪いが、マスクをすれば隠れるといったことを話していただいた。

2)B先生の話

鼻漏に対しては、鼻稜外側にある上唇鼻翼挙筋を指頭でこすると、プチプチとした手応えが得られる。何回か縦方向にこすると、そのプチプチした感触がなくなると同時に症状もとれるとのこと。

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2.花粉症に対して鼻孔付近へのワセリン塗布(イギリスの伝統治療)

イギリスでは鼻孔付近にワセリンを塗ることで昔から効果をあげているという。要するに鼻粘膜に進入してきた花粉を鼻粘膜中の水分にふれされない工夫である。鼻の症状を抑えることにより目の炎症(神経反射)も治まることが知られていて鼻バリアをすれば目のかゆみ症状も  軽減される可能性が高い。(NHKガッテン「今、ツラいあなたに!保存版 新発想の花粉症対策SP」 2019年4月3日より。
①.綿棒に少量のワセリンをつける
②鼻の穴の入り口周辺にぐるぐると綿棒で円を描くようにして3回程度回し塗る。
③最後に外側から小鼻を指で押さえ、中のワセリンを均等になじませる
④はみ出たワセリンをティッシュで拭いて取り除けばOK!
   目安は1日3回~4回程度。ときどき鼻をかんで花粉がついたワセリンを拭き取る。

グロインペイン症候群(鼠径部痛症候群)の針灸治療

鼠蹊部周辺に出現する慢性障害であり、本当の原因を特定しにくいためこのような鼠蹊部周辺 に出現する痛みを症候群とした呼名をグロインペイン 症候群(groin pain syndrome)とよぶ。病態は多岐にわたるが、これまで私が経験したもの(すなわち針灸の場で遭遇しやすいだろうと思える)病態を中心に整理する。
鼠径部痛を生じている局所は、他部位の可動域制限や機能障害を代償した結果でのこともあり、緊張が高い鼠蹊部の筋への刺針刺激やストレッチだけでは根本的な解決にはならないことも多い。

1.大腿内転筋群の圧痛点に運動鍼

大腿内転筋群は、恥骨筋・長内転筋・短内転筋・大内転筋・薄筋の5筋で構成されている。この中で、とくに特徴ある筋は、大内転筋と長内転筋である。
※大腿内転筋群の語呂:「チタン頂戴6斤(キン)」

1)大内転筋
大腿内転筋として最も強大。局所治療点は陰包あたりになる。

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2)長内転筋

長内転筋は股関節内転筋の主動作筋で恥骨外端から起始している。パトリックテストの肢位をすると、隆起して摘みやすくなる。長内転筋は、長坐位開脚で上体を前屈させる柔軟体操で、いわゆる身体の硬い人は大腿内側基部に長内転筋の伸張が妨げられ、痛みを感じて十分に前屈できない。長内転気の圧痛点探索は、患側を下にした側腹位で行うと、圧痛点が把握しやすいようだ。圧痛点刺針して、股関節の内転・外転の自動運動を行わせる。局所治療点は足五里や陰廉あたりになる。股関節外転不十分な者に対して、陰廉や足五里から刺針して長内転筋を弛めると、外転角が増す(あぐら姿勢ができるようになる)ことが多い。

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2.腸骨筋  

変股症による鼠径部痛は、鼠径靱帯外1/3の処(=外衝門)に圧痛をみることが多い。この部の圧痛は、短縮した腸骨筋の伸張による圧痛を意味する。腸骨筋は腸骨稜内面上部を起始とし、関節前面に接触、そして股関節を軸に、鋭く後下方にカーブして小転子に大腿骨小転子に停止しているので、股関節と腸骨筋の間で摩擦されて炎症や癒着が起こりやすい。
   
鼠径痛時、パトリックテスト肢位をさせ、鼠径溝外方で上前腸骨棘内縁部を深々と押圧して腸骨筋の圧痛や股関節前面の圧痛を調べる。鼠径部から腸骨筋に刺入するには、股関節にぶつかるまで深刺し、癒着を剥がすように局麻剤を注入するが、かなり力を入れないと剥がれなかった(木村裕明医師)という。このブロックを腸腰筋膜下ブロックと称するので、針治療では腸腰筋膜下刺とよぶことになるだろう。2寸#4~#8で直刺すると硬い筋にぶつかるが、その筋中に刺入する。

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3.股関節関節裂隙

変形性股関節症の大部分は、側殿部の中・小殿筋に出現する。それは歩行時は必ず中・小殿活動が伴うからである。このような場合、側臥位で腸骨稜の下方1~2寸の部にある中・小殿筋筋緊張を緩める針が効くことが多い。しかし股関節ROM制限はあるが、殿部の圧痛点が判然としない場合、股関節関節包への刺 針が有効となる場合がある。ある患者では、鼠径溝外方の腸骨筋部の痛みを訴えていたが、次に記す刺針でこの痛みは解消された例も経験している。
   

立位で上半身の体重が骨盤の股関節臼蓋に下向きに負荷が加わり、大腿骨頭との連結部分の関節包には慢性的な張力が作用しているので、治療点は関節包上部になる。患側上に側臥し、3寸#8針で、大転子から上方3~4㎝(一横指半)の部から直刺深刺する。同じ要領で1㎝刻みで3本程度刺入した方が効果が確実になる。7~8㎝入れると針響が得られる。5~15分置針後抜針すると、股関節ROM拡大している場合が多い。

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膝関節痛の部位別針灸治療と考察のまとめ

私の膝関節治療の方法は、現在ではi以下の 1~4 のように場合分けされシンプルになってきた。これまでブログで発表してきたことなのだが、個々の技術の誕生には時間差が相当あるので、まとめて紹介することはできなかった。以上に加え近頃、膝蓋骨両縁(内膝蓋、外膝蓋)の痛みを訴える患者に対して効果的な方法を発見したので、5 として併せて紹介する。

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同種の内容に、筆者が3年前に発表した「膝OAに対する鍼灸治療 Ver.2.0」がある。これも併せてご覧いただきたい。
https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/870c279ba4b953cc9c8193fa0b273992

 

1.鶴頂の圧痛(+)時     <大腿直筋停止部症>

診察:膝蓋骨あたりに痛みを訴えた場合、仰臥位で膝を立てた状態で、膝蓋骨上縁(鶴頂穴)をさぐってみる。
治療:強い圧痛があれば、この姿勢で鶴頂に速刺速抜+施灸する。
(体位的に不安定なので置針は難しい)
治療効果:多くの場合、治療直後から痛みは半減する。
アセスメント:大腿直筋の膝蓋骨停止部の筋膜症が、膝蓋骨前面の痛みを感じている。大腿直筋をできるだけ伸張させた体位で、その圧痛ある停止を刺激することで、大腿直筋が緩む。この治療機序は、生理学的にⅠb抑制を利用している。


2.内膝眼、外膝眼の圧痛(+)時   <膝関節包過敏>

診察:膝蓋骨下縁と脛骨がつくる左右の陥凹(内、外膝眼穴)を、押圧して痛む場合。
治療:立位にして圧痛ある内外膝蓋に直刺し、膝関節包を刺激。速刺速抜する。
(体位的に不安定なので置針は難しい)
治療効果:多くの場合、治療直後から痛みは半減する。
アセスメント:内、外膝眼の直下には筋組織がない。直刺すると、皮膚→膝蓋下脂肪体→膝関節関節包と入る。しかしながら仰臥位で内、外膝眼に刺入しても針響はあまり起きない。というのは仰臥位では膝関節包はゆるんだ状態にあるため。立位にすると上体を支持しようとして四頭筋は収縮し、膝蓋骨が上に移動する。この時膝関節包も緊張する。
この状態で内外膝蓋に刺入すると、膝関節の奥に響くようになり、再現痛が得られ治療効果があかる。

 

3.鵞足の圧痛(+)時  <鵞足炎>

診察:仰臥位で鵞足部をつまんで(撮診して)、明瞭な撮痛がある場合
治療:撮痛点数カ所に印をつけ、この部に円皮針数カ所を置く
治療効果:多くの場合、治療直後から痛みは半減する。歩こうとすると鵞足が痛くて、実際には歩けない者であっても、治療直後から歩行可能になることもある。
アセスメント:鵞足部皮膚を走行するのは伏在神経(大腿神経の分枝で皮膚を知覚支配)で、この皮膚の痛みが症状をもたらしている。皮膚の痛みの有無は、押圧するより撮診するほうが把握できる。また皮膚の痛みなので、皮内針・円皮針の方が適している。


4.委中の圧痛(+)時  <膝窩筋腱炎>

診察:膝裏部中央が痛む者に対し、膝関節90度屈曲位にして膝窩(委中穴)あたりを深々と押圧した際、委中付近に2~3カ所膝窩筋の硬結があり、硬結を押圧すると非常に痛がる。これをもって膝窩筋腱炎と判断する。
治療:膝関節90度位(四つん這い、または膝立ち)にし、圧痛ある委中あたりの膝窩筋の硬結数カ所に刺針。速刺速抜。(体位的に不安定なので置針は難しい)
伏臥位で、症状部である委中に刺針してもスカスカした感じになり、筋緊張部に刺入したという感触は得られず、当然治療効果もない。要するに膝窩筋を収縮させた体位で見いだした圧痛硬結に刺入すべきである。
治療効果:多くの場合、治療直後から痛みは半減する。
アセスメント:膝窩筋の機能は、膝関節完全伸展位(体重は骨で支持しているので、筋への負荷は少ない)から膝屈曲動作へチェンジする際のスターターである。もし膝窩筋が存在しなかったらスムーズにひざが曲がり始めないので歩行動作はギクシャクしたものになる。膝窩筋が緊張した結果、膝の完全伸展しづらくなり、立位を保つために四頭筋の緊張を強いられることになろう。逆に四頭筋が過緊張状態にあれば、代償的に膝窩筋も筋腸することになる。


5.膝蓋骨内縁の圧痛(+)時 <内側広筋付着部症>

診察:膝蓋大腿関節の内側中央の間隙部(内膝蓋穴)が痛み、圧痛がある。大腿骨圧迫テストでガリガリした感触を感ずる。
治療:仰臥位で、膝下に高めのマクラを入れ、膝関節屈曲位にする。内膝蓋部は内側広筋の停止部であり、大腿部の内側筋腹部の圧痛点を調べると、大腿前面を三等分して、膝側から上1/3あたりの圧痛点を術者が強圧し、強圧した状態で、膝関節の自動運動を10回速度で行わせる。その後立たせ、治療前の痛みとの違いを比較させる。軽くなっていれば、強圧した部に運動針を実施。変化ないようであれば、内側広筋上の別の圧痛を見出し、同様の施術を実施。
治療効果:本治療は最近発見し、実施したのは一例であるが、治療直後に痛みは消失してた。この患者の以前の治療は、内側の膝蓋大腿関節の間隙に置針(いわゆる局所治療)したが効果を感じなかった。
アセスメント:内側広筋の部分的筋緊張により、内側広筋が短縮して膝蓋骨内側縁を引っぱり上げた状態。これにより膝蓋骨の位置がずれ、大腿膝蓋関節の不適合に発展した。
上記治療により、その逆の機序が働き、大腿膝蓋関節が適合するまでになったと推察した。
 外膝蓋の圧痛の場合も、これと同じ考えが適応できるだろう。
 なお、内膝蓋の圧痛点は内側膝蓋大腿靭帯部でもあるので、外傷性ならば本靭帯の断裂も疑う必要が出てくる。この診療は針灸の守備範囲外になる。

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血管性頭痛の病態生理と針灸治療の検討 Ver.2.1

2011年11月に<片頭痛の病態生理と鍼灸治療の検討>を記したが、その全面改訂版を記すことにした。タイトルも<血管性頭痛の病態生理と鍼灸治療の検討Ver.2.0>に変更した。

 1.三叉神経血管説の整理

片頭痛の病態生理は、なお不明な点は少なくないが、現在では「三叉神経血管説」が最も有力 視されている。これは神経因子(脳の大血管や脳硬膜に分布する三叉神経刺激による痛み)   に加え、血管因子(この血管から放出された血管拡張物質CGPR)による複合性の痛みとして 説明される。この説明は難解だが、簡単に内容を示せば次のようになる。
  
一段目:三叉神経第1枝が中心となる痛みがある。これは神経因子の反応。
二段目:三叉神経血管拡張物質(CGPR)放出することで血管拡張と炎症が生ずるとする血管因子の反応。

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2.片頭痛に対する薬物療法の変化
私が30年前に病院勤務だった頃は、片頭痛に対して酒石酸エルゴタミン(商品名カフェルゴット)投与が定石だった。トリプタンが販売されて随分事情は好転した。 

1)従来的消炎鎮痛剤
いわゆる「痛み止め」。片頭痛の痛みは神経因子+血管因子の複合であるが、この神経因子に対する作用のみになる。血管因子に対しては無処置であるから、鎮痛効果に乏しい。

2)酒石酸エルゴタミン
一世代前の片頭痛の特効薬。30年前頃筆者が病院勤務だった頃は、これが定番だった。主成分はカフェインで、これには血管収縮作用がある。拡張しようとしている血管を、拡張させないという予防効果がある。しかし拡張し、拍動性頭痛となった後は、それを改善させるだけの力はない。

3)トリプタン製剤
現在の主流薬。三叉神経終末からの血管拡張物質(CGPR)放出を止める作用がある。すなわち血管因子の痛みの連鎖を停止させる作用がある。拍動性の痛みも鎮痛できる。


3.筆者の片頭痛の針灸治療の変化 

率直にいうなら、緊張性頭痛とは異なり、片頭痛が針灸にくることはマレである。もともと西洋人に比べ、日本人が片頭痛になることは少なく、また発作時は院困難である。片頭痛予防に針灸しようと考えるような周到な者は、医師の薬物療法をうけているからである。
結果的に、数少ない臨床経験から、推論することにならざるを得ない。

1)動脈血管壁刺針

拍動性頭痛期の治療としては、拍動している外頸動脈の分枝を強圧すると数秒間痛みが減少することが知られている。そこで異常拡張を抑える意味で動脈血管壁に対する刺激のが検討されてきた。たとえば浅側頭動脈に対する和髎刺針であるが、大した効果は得られなかった。

その理由は、<三叉神経血管説>によれば、「頭蓋外拍動部が痛むのではなく、痛みは頭蓋内硬膜部の静脈血管やこの血管にまとわりく三叉神経第1枝の興奮の結果として痛む」からであり、そもそも頭蓋外の痛みは病態の本質とは異なるものだからだろう。 
 
2)天柱など上部頸椎への刺激

片頭痛の痛みは、神経性因子と血管性因子の複合である。神経性因子に働きかける治療とは、脳動脈に分布する三叉神経の治療をいう。しかし頭蓋内については針灸で直接的にアプローチはできないから、三叉神経-大後頭神経症候群の治療と同じように扱う他ない。
すなわち頸にある上位頸神経(C1~C3)へ刺激を加え、上位頸神経の興奮を取り除くような針が有効だとする見解がある。その代表穴に天柱穴がある。

ただし痛みの主体である血管性因子について働きかける治療はしていないのだから、治療効果は限定的なものになるであろう。  

間中信也医師は、頭痛患者56例に天柱ブロックを行い、診断名ごとにその治療効果を検討した。その結果、疾患名に関係なく、半数程度の患者に天柱ブロックが効果的なのが知れる。片頭痛に対しては8例中2例に頭痛がほぼ消失した。効果の持続時間は、数時間10%、半日~1日30%、数日36%、1週間12%、それ以上8%、不明(不定)4%だった。これは局所麻酔の有効時  間をはるかに上回る治療効果だった。最も効果的だったのは筋緊張由来の頭痛だったとのこと。(間中伸也著、頭痛診療ツールとしての鍼灸技法の応用、臨床神経 2012:52:1299-1302)

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3)足趾間刺針とグロムス機構刺激 

①上衝による頭痛には足指間を刺激する
筆者が針灸臨床の駆け出しの頃、臨床経験不足を補うために、玉川病院症例検討会の報告資料(先輩達の残した症例報告数千例)を読みあさった時期があった。そして上衝タイプ(のぼせて赤ら顔)の強い頭痛には、足指間の最大圧痛部を刺激すると頭痛が改善したとの報告が多いとの報告が多いことが判明した。

②内侠谿刺針
自分なりに患者の足趾間圧痛を多数調べてみると、足指間の最大圧痛点は、第3趾第4趾間に出現することが多いということもわかった。この圧痛は、侠谿の内側にあるので、筆者はこれを内侠谿と命名した(実際の臨床では内侠谿に限定することなく、足趾間の最大圧痛点を取穴する)。
最大圧痛点にに2~3分間置針するだけで痛みが取れてくることを多数確認できた。
この頭痛に対する効果は、強い頭痛であれば効果があり、弱い頭痛ではあまり効果がなかった。
また針灸が効果あるか否かは、治療時の頭痛が拍動性か非拍動性かに関係し、非拍動性のタイプは有効となる場合が多いように思った。 

③グロムス機構
足趾間の圧痛点に刺針で頭痛が改善する理由は、代田文誌、石川太刀雄の頃からグロムス機構の機序が考えられていた。グロムス機構とは、動脈脈吻合あるいは動動脈吻合部をいう。一般的に血液循環は動脈→毛細血管→静脈と移行するが、全部の血流が毛細血管まで達するのではなく、一部は小動脈から小静脈へとショートカットする。この血行動態の変化を起こす水門に相当するのがグロムス機構である。   
グロムス機構の性質として、例えば1カ所の水門が閉じると、それが全身のグロムスの水門も閉じられるという仕組みがある。つまり足母趾部グロムス水門を閉じると、脳内のグロムスも閉じ、血流減少するという機序が考えられるということである。
もっとも近年、グロムス機構を利用しての針灸治療は、あまり報告されなくなった。石川太刀雄・代田文誌によって創案された動脈洞刺はかつては高血圧症や気管支喘息に使われたのだが、現在はあまり使われない、単なる一時代の流行に過ぎなかったのかとも思っている。

 

 

 

 

 

 

令和2年度の実技講習会、開催延期のお知らせ

令和2年の実技講習会の予定は、当初は6月からスタートする予定で、そのためには4月からその旨を本ブログで公示するつもりでした。ちなみに概要は次の通りでした。

◎奮起の会セレクション
本勉強会指導スタッフと過去参加者が、得意とする内容をピックアップ 
1)顔面麻痺の鍼灸実技(講師:吉村英)
三叉神経痛、顔面痙攣の鍼灸実技(講師:似田敦)
2)美容針最初の一歩(講師:小村はるみ)
3)ⅠaⅠb針の治療効果を高めるリハの技法(講師:小野寺文人)

◎第5期 鍼灸奮起の会(講師:似田敦)
  少人数で、整形・ペイン疾患の現代鍼灸治療の考え方と実技指導のシリーズ
    腰痛、腰下肢痛、膝痛、頸痛、肩関節痛、上肢症状、下肢症状


しかし予想外にも、新型コロナウィルスの感染問題が発生したため、予定を延期せざるを得なくなりました。感染が収束した時点で、講習会の日程を改めてご案内します。

ただし「現代鍼灸臨床論Ⅰ、Ⅱ」のPDF版は、継続販売中です。ちなみにⅠ(鍼灸、ペインクリニック領域の針灸治療)は5000円、Ⅱ(内科、産婦人科、泌尿器科、眼科、耳鼻咽喉科、皮膚科、その他の領域の鍼灸)は6000円。ⅠⅡ同時購入は併せて10,000円です。

 

(似田敦)

 

本郷の新星寮で出張治療していた代田文誌との出会いと治療体験の思い出(井上駿)

  昭和8年、代田文誌先生(以下敬称略)44歳の時、盟友の倉島宗二・塩沢幸吉と共同で、長野市内に鍼灸治療院を開設した。この3名は、ひと月に9回ずつ日替わりで治療当番にあたった。ちなみに文誌は、7・8・9のつく日を担当した。(それ以降、東京三鷹の井の頭公園近くに移転し、彼の地で開業した。)

文誌は長野市内での共同開業と並行して、月初めに一泊二日の日程で、本郷の新星学寮で出張治療を行った。新星学寮とは、穂積五一氏が主として優秀学生のために私財を投げ打って設立した学生寮のことで、今日でもアジアからの留学生の居住場所として立派に役割を果たしている。

最近、当院に代田文彦先生の弟者である代田泰彦氏の紹介患者として井上駿氏(87才男性)が来院した。井上氏は代田文誌が東大新星寮で出張治療治療していた頃、東大農学部の学生で新星寮の寮生でもあったので、当時の様子を文章にして残して欲しいとお願いしてみた。井上氏は快諾し、その2ヶ月後、次のような文章を書いて下さった。以下は井上氏の文章になる。
  

1.代田文誌との出会い

代田文誌に初めてお目にかかったのは昭和31年だった。その頃、私は東大農学部の学生で新星学寮の寮生だった。新星学寮は穂積五一先生が主宰しておられ、都内のいろいろな大学の学生が共同生活をしていた。主宰といっても穂積先生は寮生が納める寮費を先生の収入にしておられた訳ではない。寮費は寮生の食費と寮の建物の維持管理などだけに充てられていたので、非常に安かった。

穂積先生は東大法学部の出身で、憲法学者の上杉慎吉氏の弟子だった。上杉氏は天皇制を主張していた方であった。(中略)穂積先生は若い時に結核を患われ、生死の境をさまようほどであった。その頃、鍼灸師である代田文誌と出会われた。文誌は穂積先生を診て、「非常に重篤ではあるが食事を丁寧に食べているので望みはある」と言われ、それからは穂積先生が頼みとする主治医となられた。(文誌も20才~27、8才まで結核で長い療養生活を過ごしていた。鍼灸で救われたことから鍼灸の道に進まれた経緯があった。)
 私(井上)が寮生だった頃、代田先生は毎月1回一泊2二日の日程で長野から出張して新星学寮奥の穂積家の大広間で大勢の患者さんたちの診療に当たられた。私がその場に立ち入ることは滅多になかったが、時に何かの用で入った時に多数の患者さんが診療を待っておられ、お灸に使う線香の匂いが立ちこめていたことを思い出す。


2.代田文誌先生に診ていただいた経緯

当時、私自身が代田先生に診ていただくことはなかったが、このような経緯から鍼灸や漢方などの東洋医学に対する信頼は培われていたと思う。
今の農林水産省の前身である農林省に入って三度目の職場が埼玉県鴻巣市の農事試験場だった時のこと、稲にとって水がどの程度の量が必要となるかを研究していて、20リットルほどの土の入ったプラスチック容器100個ほどの重さを計測していて腰を痛めていた時、研修で長野県に行くことがあった。ちょうどよい機会なので長野市在住の代田文誌先生に診てもらおうと電話してみると、「来れば診てあげるよ」とのお返事をいただき、先生のご自宅に押し掛けて診ていただいた。全身に鍼と灸を施され、帰路では体重が半分になったかと思うほど足が軽くなったことを今でも思い出す。


3.ご子息の代田文彦先生にも診ていただき、自分でも鍼灸療法を自習した

文誌のご長男、代田文彦先生は西洋医学を修められた上で鍼灸療法も習得され、後には東京女子医大の教授になられた。私がスキーで捻挫した時は、日産玉川病院におられた。捻挫の翌日、病院に伺って治療を受けた。恢復は極めて早く、その週のうちにはテニスができるようになった。
 
この後、わたくしの鍼灸・漢方に対する信頼は一層深いものとなり、代田先生の名著「鍼灸治療の実際(上・下)」創元社刊を手許において、折に触れては自分自身をはじめ、家族・友人の手当に役立たせている。
例をあげれば、家内や娘たちのしもやけは、しもやけの頂点に艾を五壮もすえれば一回で治る。幼稚園児だった娘の脱腸は、先生は、先生の御本からツボ灸点を選んでお灸で治した。
職場のテニス仲間で昼休みのテニスの後、腕が上がらなくなったからお灸をしてくれと言ってきたときは、ツボはここだからといって手三里を押さえたら、それだけで治りお灸をするまでもなかったこともある。別のテニス仲間の若い女性が二の腕が痛いというので、痛い場所を自分で確認して置き鍼を貼るように勧めた。次回、テニスコートで会った時、彼女は駆け寄ってきて快癒したと話してくれた。


4.現在の私の治療

10年ほど前から脊柱管狭窄症を患い、当時かかっていた整形外科の医師は年令もあるから手術は無理といい、私もそう思い諦めて過ごしてきたが、大宮に越してきてからのテニス仲間が自治医大の税田和夫先生のおかげで脊柱管狭窄症が治ったと言ったので、川越の埼玉医大に移っておられた税田先生をお訪ねして何回か診察を受けた後、一作年6月に手術を受けることに踏み切った。
3時間の椎弓切除の手術後は順調で、7日目には退院し、その後は手術前に比べ随分歩けるようになったのだが、税田先生が術前に言われた通り、100%は治らず下肢にしびれが残った。何とかしびれを取りたいと思い、近所の整形外科に通い、マッサージ等を受けてきたが目立った回復はなかった。その後、鍼灸師をしておられる文誌先生の誤次男、代田泰彦先生に相談したところ、国立市で開業している似田敦先生を紹介された次第である。


5.付記:触診起脈あるいは脈功
 
私の脊柱管狭窄症の症状は、自分で行う治療もなかなか有効だったので、簡単に紹介する。この方法は、静功とマッサージあるいは指圧を組み合わせた自己治療法である。
静功とは、体を動かさずに呼吸だけで行う気功のことである(これに対し、体を動かす通常の気功を動功とよぶ)。放鬆功(ほうしょうこう  中国語では放松功)は静功の中のひとつで、1957年に上海気功療養院が整理したもの。「放鬆」には中国語で筋肉を弛緩させ、リラックスするとの意味がある。放鬆の「鬆」は骨粗鬆症の「鬆」と同じく、スカスカし、ゆるむことをいう。
 
なお放鬆功の吸気の時に「百会から吸うつもりで‥‥」とされるが、私自身は耳の上から百会に向かって吸い上げる感じで息を吸うようにすると、脳の側面が洗われてスッキリする感じを得ている。放鬆功は三線放鬆功が代表的で、三線とは体の側方、前方、後方の3つのラインのことで、この流れを意識しつつリラックスさせるやり方で、この時の姿勢は椅坐位、仰臥位、伏臥位などどれでもかまわない。
 
私は放鬆功のリラックスした呼吸法を行いつつ、触診起脈を試みている。触診起脈とは、体の中で不具合なところ、たとえば咽が痛い、肩が凝る、足が痺れるといった症状がある時、その不具合なところに指先を当て、放鬆功の呼気三線のほかに、その不具合の場所に集中して呼気をはきつける意識で息をはくようにする(もちろん実際には口から呼気をはくのだけれども)。それを数分続けることによって、その場所に脈動を感じるようになり、そうなるとその場所の痛み、コリ、しびれが軽くなる。私自身は、これを手の冷え、足のしびれ、肩の凝り、咽の痛みなどでしばしば実際に自分の体で試み、不具合の解決に役立てている。これを読まれた方は試みて頂き、結果を教えて頂きたいと願っている。放鬆功については、ある程度ネットで調べることができるので、参考にされたい。

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道教によって影響をうけた古代中国の生命観 Ver.1.6

1.序

『黄帝内経』が編纂されたのは漢の時代(BC202~AD220)だとされている。当時、道教は儒教とならんで、中国人の精神構造の基盤となった。中国の古代医学も道教の影響を強く受けていたと考えられる。道教を学習することは中国の針灸古典の背景を知る上でも興味深いことである。

私は鍼灸学校卒業してすぐの頃、道教の古典的名著であるアンリ・マスペロ著川勝義雄訳『道教』東洋文庫、平凡社刊 昭和53年(1950年原著出版) を購入して読んでみた。この著作は「道教とは何か」に対する一つの確固たる回答であり、欧米の学会に大きな刺激を与えたという。しかしそれでも35年前の私にとっては難解すぎた。それを今になって読み返してみたが、今回は意外にも興味深く読むことができた。というのも、東洋医学に対してある程度の知識や経験をもったので、本書を自分の考えと対峙しながら、読めたのが原因だろう。道教の興味深かった点を、筆者の解釈を加えて紹介する。



2.著者アンリ・マスペロ Henri MASPERO とは

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フランス人中国学研究者アンリ・マスペロ(1883-1945)は、研究途中で「道教」について、自分がほとんど何も理解していないことを改めて知った。その上で、道教は儒教とならんで中国人の精神構造を知る上での鍵であるという事実に突き当たった。マスペロは当時の道教の歴史と文献を学問的に探ろうとした最初の人であった。マスペロが生前に発表された原稿は少なかったが、死後書斎を整理してみて、道教については膨大な未発表原稿が発見された。
これらの原稿は、マスペロの妻と友人が整理して本書として誕生した。本著は、西洋の者が道教を知る上で最もスタンダードなものとされている。なおマスペロは1944年ドイツに拉致され、その翌年獄中で非業の死をとげた。マスペロは日本語学習の必要性を理解し、我が国にも2年間滞在したことがある。


3.不死への修業

道教では死んでしまえば霊魂も消えてなくなると考えていたので、生き続ける身体の保持の方法が興味の対象となった。その方法は単なる延命ではなく、生きている期間内に不死の身体に取り替えることだった。
身体を不死にする方法は、養形と養神に区分され、それぞれに対して様々な実践的なプログラムが用意されていたが、どれも厳しい修行を必要とした。  
 
養形:物質的な身体の老衰と死の原因の除去。 →食餌法や呼吸術
 
養神:身体内部にいる種々の超越的存在(悪さをする精霊、霊魂など)ににらみをきかせ、自分勝手に悪さをさせない。 →精神集中や瞑想


4.呼吸法 

臍下丹田の「丹」には赤いという意味があり、「田」は生産する場所という意味がある。すなわち丹田は、生き続けている間、生命の炎が燃えている場所と考えていた。この丹田では精を養う場所だった。火が燃え続けるには空気が必要だが、普通の呼吸法では空気は肺にまでしか入らない。丹田の炎を大きく燃やし続けるには腹まで空気を入れるべきであると考えるようになった。その方法とは次の2通りある。 

1)胎息(息を飲み込んで消化管に至らしむ)

呼吸器官は胸までしかないが、消化管は食道を通って腹全体に配置されている。息を吸うのでなく、息を飲み込むようにすることで胃腸に空気が入るから、臍下3寸(=関元に相当)にある丹田の炎を大きく燃やすことで精を養う能力を増やすことができる。臍下丹田にある精が、そこに入ってきた空気と結合して神(=正常な意識。この神というのは霊魂とな別物)が生ずる。
 
腹にまで空気を入れる呼吸法を胎息とよぶ。これは母の胎内における胎児の呼吸の方法だからである。
臍下丹田に入った気は、その後に髄管によって脳に導かれ、脳から再び胸に降りていく。3つの丹田(後述)をこのように回り終えたら、口から吐き出される。あるいは単に気を巡らせるのではなく、気を身体の中で意のままに動きまさせる。病気の時は、疾患のある場所を治すため、そこへ気を導く。

2)閉気(息を閉じ込める)

凡人は、吸った空気はすぐに吐いてしまうから、空気の中に含まれている滋養を充分に吸収できない。気を深部にまで巡らすには、長時間息を止めておく(閉気)ことが必要である。閉息して、気のもつ滋養を吸収できる時間をできるだけ長くする。


5.食餌法

1)三つの丹田の働きを妨げる三虫

身体を、上部(頭と腕)、中部(胸)、下部(腹と脚)に三分割できる。各部には上丹田・中丹田・下丹田とよばれるそれぞれの司令部がある。丹とは紅と同様な意味で、炎に通じている。生命の炎が燃え続けているためには、気(空気)は不可欠である。

上丹田:脳中にあり、泥丸(ニーワン)宮という。これはサンスクリット語のニルバーナ=涅槃に由来している。上丹田は知性をつかさどる。なお涅槃(ねはん)とは煩悩から超越した境地のこと。転じて聖者の死を涅槃というようになった。上丹田に行く気が不足すれば知性を失う。

中丹田:心臓のそばには絳宮(こうきゅう)がある。絳(こう)とは深紅の意味がある。
血液循環の元締めだからであろう。心拍数の増減させること、すなわち感情の起伏に関与している。

下丹田:臍の下3寸の処(関元の部位)にある。下丹田は精を養っている部で、精に気が注入されて初めて神(正常な精神)ができる。精力(精神や肉体の活動する力)をつくる源でもある。

 


2)辟穀(へきこく)-三虫退治のために 

三つの丹田にはそれぞれの守護神がいて、悪い精霊や悪気から丹田を守っている。しかし守護神のそばには有害な三虫あるいは三尸(=屍)がいて丹田を攻撃して老衰や病気の原因をつくる。道士(道教の修業者)は、できるだけ早く三虫を取り除かねばならない。穀物を食べると、必然的にカス(大便の材料)が出て、カスは濁気を醸成する。この濁気が三虫を滋養し、疾病を起こす。三虫を取り除くには、穀物を絶たねばならない。これを辟穀(へきこく)とよぶ。辟穀は道士修業の基本である。穀物の代りに松実・きのこ・薬草などを食して体内の気を清澄に保つ。
                                   

2)霊薬としての丹薬

①丹薬の製造

辟穀しただけでは、三虫を絶滅しきれず、丹薬の服用も欠かせすことができない。丹薬は丹砂(=辰砂)ともいい、自然界では硫化水銀として存在している。純粋な丹砂は、朱色だが、普通は不純物を含むので暗褐色である。丹砂を炉400~600 ℃ に加熱して出た蒸気を冷やすことで水銀を取り出す。
水銀蒸気は目にみえず、瞬時に蒸発してなくなる。この段階では見えないものを集めなくてはならないので、2000年前の中国人が水銀精製法を発明したことは驚きである。熱を加える作業をした職人は、おそらく霊薬中毒(=水銀中毒)で発病しただろう。

水銀がなぜ霊薬だと思ったのかは定かではないが、水銀は金属でありながら重い液体であり、さらに常温でも気化(重さがなくなる)して次第に消滅することなどの特性があることなどが考えられる。

古代ヨーロッパの錬金術師が、鉛などの卑金属を金に変える際の触媒となると考えた霊薬は辰砂のことで、辰砂は西洋では「賢者の石」ともよばれる。賢者の石との名称は、童話「ハリー・ポッターと賢者の石」ですっかり有名になった。

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②硫黄と水銀の特殊性

なぜ、硫黄と水銀が特別なのかについては、最もな理由があった。

①自然界には辰砂 しんしゃ(=硫化水銀HgS)という朱色の鉱石がある。これを空気中で加熱(600℃)すると、次の化学変化が起こる。発生した水銀蒸気を冷やすことで水銀抽出できる。なお二酸化硫黄は空気中に拡散され残らない。
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②この水銀単体を空気中でさらに加熱(350℃)することで朱色の酸化水銀になる。
     
③さらに加熱(450℃)すると酸化水銀が分解され、水銀単体に戻すことができる。
  
②③は可逆反応であり、空気中で加熱するときの温度の違いにより繰り返し反応を起こすことができる。 辰砂を焼くだけで、銀色→朱色→銀色→朱色と繰り返し色が変化することが、神秘性を感じたとしても不思議ではない。

 

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3)丹薬の効能

丹薬は永遠の命や美容などで効果があると信じられていた。丹薬が永遠の命を実現できるものとする考え方は、遺体を辰砂溶液に浸しておくと、いつまでも腐敗しないという実例がヒントになっているのだろう。ちなみに昭和天皇の遺体も布にくるまれた後、辰砂液につけられ、真っ赤だったという証言もある。天皇のような高貴な身分の人は、死去から遺体を埋めるまでに相当な期間を要するので、腐敗を防ぐ手立てが必要になったという。

秦の始皇帝は永遠の命を求め、水銀入りの薬や食べ物を摂取していたことによって逆に落命したことが知られている。死因は現代でいう水俣病(有機水銀中毒)だった。他にも多数の権力者が水銀中毒で死亡した。当時から、丹薬服用の危険性は知られていた。しかし至高の価値を得るためには、命を預けた賭けが必要とされ、また人格によって毒にも薬にもなるという人格が試される試験でもあったという。

始皇帝の陵墓は中国成西の郊外にある。陵墓全体は土に覆われ、小山のようになっている。『史記』には始皇帝棺の周囲は自然を模したように水銀で海が満たされていたとの記載があり、今日土壌を調査すると、土に水銀濃度が高いことが判明していて、内部構造を調べるのを困難にさせている。水銀には腐敗防止効果もあるので、中を発掘し、酸素に触れさせることで、劣化が早まるという危惧もある。 


なお稲荷神社の鳥居や神社の社殿などの塗料して古来から用いられた朱の原材料も、水銀=丹である。丹は木材の防腐剤として使われてきた。朱色は生命の躍動を現すとともに、古来災厄を防ぐ色としても重視されきた。臍下3寸の関元穴あたりを臍下丹田とよぶ。この部が充実して温かいことが、命の炎が燃焼しているという意味であった。

 

3.錬金術としての効能

古代から西洋では錬金術として金の抽出が行われていた。これは金鉱石を砕いて水銀を加えて加熱し、水銀蒸気を蒸発させて純粋な金をつくるものだった。卑金属から貴金属をつくる研究も行われたが、これらは失敗した。しかし近代化学の基礎を築いたという点で評価されている。

 

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☆中国の柴暁明先生が、上記の私のブログを中国語に訳して下さいました。感謝致します。文面は次の通りです。

現代の中国でも、上流階級の者を中心に、道教の辟穀は流行っているようです。
何万元から何十万元でもかかって一週間の辟穀修業する方も結構多いそうです。 新聞記事を鵜呑みにして、浅い知識で勝手に今週辟穀しようと宣言する庶民たちは少なくないです。
このブログは、中国人にとって必要な基礎内容です。私は翻訳する前は、道教に対する認識も薄かったですが、このブログのお陰で、以前より深く認識できるようになりました。

 道教によって影響をうけた古代中国の生命観 Ver.1.3

https://mp.weixin.qq.com/s?__biz=MzU0Nzg5MjkzNQ==&mid=2247483824&idx=1&sn=f063f536f5a61784f4d0358d20421572&chksm=fb463a18cc31b30e656ef7b3e859ad4f06fe432d219ec8df057fb5670dcd203c6a215d5c7486&token=394854727&lang=zh_CN#rd

 https://mp.weixin.qq.com/s?__biz=MzU0Nzg5MjkzNQ==&mid=2247483824&idx=1&sn=f063f536f5a61784f4d0358d20421572&chksm=fb463a18cc31b30e656ef7b3e859ad4f06fe432d219ec8df057fb5670dcd203c6a215d5c7486&token=394854727&lang=zh_CN#rd


本郷の新星寮で出張治療していた代田文誌との出会いと治療体験の思い出(井上駿)ver.1.1

最近、当あんご針灸院に代田泰彦先生(代田文彦先生の弟者)の紹介患者として井上駿氏(87才男性)が来院した。井上氏は代田文誌が新星学寮で出張治療していた頃、東大農学部の学生で新星学寮の寮生であたことを耳にしたので、当時の様子を文章にして残して欲しいとお願いしてみた。井上氏は快諾し、その2ヶ月後、次のような文章を書いて下さった。以下は井上氏の文章(部分的に似田加筆)になる。


昭和8年、代田文誌先生(以下敬称略)44歳の時、盟友の倉島宗二・塩沢幸吉と共同で、長野市内に鍼灸治療院を開設した。この3名は、ひと月に9回ずつ日替わりで治療当番にあたった。ちなみに文誌は、7・8・9のつく日を担当した。(それ以降、東京三鷹の井の頭公園近くに移転し、彼の地で開業した。)

文誌は長野市内での共同開業と並行して、月初めに一泊二日の日程で、本郷の新星学寮で出張治療を行った(本郷以外にも数カ所出張治療した)。新星学寮とは、穂積五一氏が主として優秀学生のために私財を投げ打って設立した学生寮のことで、今日でもアジアからの留学生の居住場所として立派に役割を果たしている。


1.代田文誌先生との出会い

代田文誌先生に初めてお目にかかったのは昭和31年だった。その頃、私は東大農学部の学生で新星学寮の寮生だった。新星学寮は穂積五一先生が主宰しておられ、都内のいろいろな大学の学生が共同生活をしていた。主宰といっても穂積先生は寮生が納める寮費を先生の収入にしておられた訳ではない。寮費は寮生の食費と寮の建物の維持管理などだけに充てられていたので、非常に安かった。

 穂積先生は東大法学部の出身で、憲法学者の上杉慎吉氏の弟子だった。上杉氏は天皇制を主張していた方であった。(中略)穂積先生は若い時に結核を患われ、生死の境をさまようほどであった。その頃、鍼灸師である代田先生と出会われた。先生は穂積先生を診て、「非常に重篤ではあるが食事を丁寧に食べているので望みはある」と言われ、それからは穂積先生が頼みとする主治医となられた。(文誌先生も20才~27、8才まで結核で長い療養生活を過ごしていた。鍼灸で救われたことから鍼灸の道に進まれた経緯があった。)
 私(井上)が寮生だった頃、代田先生は毎月1回一泊二日の日程で長野から出張して新星学寮奥の穂積家の大広間で大勢の患者さんたちの診療に当たられた。私がその場に立ち入ることは滅多になかったが、時に何かの用で入った時に多数の患者さんが診療を待っておられ、お灸に使う線香の匂いが立ちこめていたことを思い出す。


2.代田文誌先生に診ていただいた経緯

当時、私自身が代田先生に診ていただくことはなかったが、このような経緯から鍼灸や漢方などの東洋医学に対する信頼は培われていたと思う。
今の農林水産省の前身である農林省に入って三度目の職場が埼玉県鴻巣市の農事試験場だった時のこと、稲にとって水がどの程度の量が必要となるかを研究していて、20リットルほどの土の入ったプラスチック容器100個ほどの重さを計測していて腰を痛めていた時、研修で長野県に行くことがあった。ちょうどよい機会なので長野市在住の代田先生に診てもらおうと電話してみると、「来れば診てあげるよ」とのお返事をいただき、先生のご自宅に押し掛けて診ていただいた。全身に鍼と灸を施され、帰路では体重が半分になったかと思うほど足が軽くなったことを今でも思い出す。

 

3.ご子息の代田文彦先生にも診ていただき、自分でも鍼灸療法を自習した

文誌先生のご長男、代田文彦先生は西洋医学を修められた上で鍼灸療法も習得され、後には東京女子医大の教授になられた。私がスキーで捻挫した時は、日産玉川病院におられた。捻挫の翌日、病院に伺って治療を受けた。恢復は極めて早く、その週のうちにはテニスができるようになった。
 
この後、わたくしの鍼灸・漢方に対する信頼は一層深いものとなり、代田先生の名著「鍼灸治療の実際(上・下)」創元社刊を手許において、折に触れては自分自身をはじめ、家族・友人の手当に役立たせている。
例をあげれば、家内や娘たちのしもやけは、しもやけの頂点に艾を五壮もすえれば一回で治る。幼稚園児だった娘の脱腸は、先生の御本からツボ灸点を選んでお灸で治した。
職場のテニス仲間で昼休みのテニスの後、腕が上がらなくなったからお灸をしてくれと言ってきたときは、ツボはここだからといって手三里を押さえたら、それだけで治りお灸をするまでもなかったこともある。別のテニス仲間の若い女性が二の腕が痛いというので、痛い場所を自分で確認して置き鍼を貼るように勧めた。次回、テニスコートで会った時、彼女は駆け寄ってきて快癒したと話してくれた。

 

4.現在の私の治療

10年ほど前から脊柱管狭窄症を患い、当時かかっていた整形外科の医師は年令もあるから手術は無理といい、私もそう思い諦めて過ごしてきたが、大宮に越してきてからのテニス仲間が自治医大の税田和夫先生のおかげで脊柱管狭窄症が治ったと言ったので、川越の埼玉医大に移っておられた税田先生をお訪ねして何回か診察を受けた後、一作年6月に手術を受けることに踏み切った。
3時間の椎弓切除の手術後は順調で、7日目には退院し、その後は手術前に比べ随分歩けるようになったのだが、税田先生が術前に言われた通り、100%は治らず下肢にしびれが残った。何とかしびれを取りたいと思い、近所の整形外科に通い、マッサージ等を受けてきたが目立った回復はなかった。その後、鍼灸師をしておられる文誌先生のご次男、代田泰彦先生に相談したところ、国立市で開業している似田敦先生を紹介された次第である。
今は月に一回、あんご鍼灸院に通い似田先生に脊柱管狭窄症手術後の下肢の痺れの手当てとテニスによる肩肘の故障の鍼灸治療を受けており、加えておおみや整形外科の整体師丹野先生のマッサージを毎週受けている。これも肩の凝りをほぐすのによく効いている。

 

5.付記:触診起脈あるいは脈功
 
私の脊柱管狭窄症の症状には、自分で行う治療も時には有効だったので、簡単に紹介する。この方法は、静功とマッサージあるいは指圧を組み合わせた自己治療法である。
静功とは、体を動かさずに呼吸だけで行う気功のことである(これに対し、体を動かす通常の気功を動功とよぶ)。放鬆功(ほうしょうこう ?中国語では放松功)は静功の中のひとつで、1957年に上海気功療養院が整理したもの。「放鬆」には中国語で筋肉を弛緩させ、リラックスするとの意味がある。放鬆の「鬆」は骨粗鬆症の「鬆」と同じく、スカスカにし、ゆるめることをいう。放鬆功は呼気の時に「ソーン」と発音することを勧めている。声を出すことは体を振動させ活性化させると思う。「放鬆」という言葉には「ソーン」と発音する、すなわち声を放すという意味も含まれているようだ。
 
なお放鬆功の吸気の時に「百会から吸うつもりで‥‥」とされるが、私自身は耳の上から百会に向かって吸い上げる感じで息を吸うようにすると、脳の側面が洗われてスッキリする感じを得ている。放鬆功は三線放鬆功が代表的で、三線とは体の側方、前方、後方の3つのラインのことで、この流れを意識しつつリラックスさせるやり方で、この時の姿勢は椅坐位、仰臥位、伏臥位などどれでもかまわない。
 
私は放鬆功のリラックスした呼吸法を行いつつ、触診起脈を試みている。触診起脈とは、体の中で不具合なところ、たとえば咽が痛い、肩が凝る、足が痺れるといった症状がある時、その不具合なところに指先を当て、放鬆功の呼気三線のほかに、その不具合の場所に集中して呼気をはきつける意識で息をはくようにする(もちろん実際には口から呼気をはくのだけれども)。それを数分続けることによって、その場所に脈動を感じるようになり、そうなるとその場所の痛み、コリ、しびれが軽くなる。私自身は、これを手の冷え、足のしびれ、肩の凝り、咽の痛みなどでしばしば実際に自分の体で試み、不具合の解決に役立てている。これを読まれた方は試みて頂き、結果を教えて頂きたいと願っている。放鬆功については、ある程度ネットで調べることができるので、参考にされたい。

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一筆書きからトポロジーへ

この1~2ヶ月、他の先生方が執筆した奮起の会セレクション用テキスト整備に追われ、自分の鍼灸の追究ができていないことを苦痛に思う。当ブログに書くような内容も乏しくなった。たまには目先を変え、以前から興味があった<一筆書き>に関する知見を紹介する。

1.基礎編

ある図形が一筆書きできるかどうかの条件は、それぞれの角点に集まった線が、①すべて偶数か、②2本の奇数がある場合に限られる。①の場合、どの頂点から書き出しても一筆書きは成功するが、②の場合、どちらか一方の奇数の頂点から筆を出発し、最後に他の奇数の頂点を終点とするルートにして一筆書きは成功する。

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2.応用編

1)問題

一筆書きのコツは、前述した内容がすべてなので、これを理解した後は、次の問題も解けるはず。

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2)解答

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3.実地問題編

1)問題
ドイツの大哲学者カントが生まれた町として有名なケーニヒスベルク(現在のカリーニングラード)は、プレーゲル川にまたがったおり、18世紀の初頭には、下のようにこの川に7つの橋がかかっていた(実話)。その頃、この橋を全部ただ一度ずつ渡ることができるかどうかが、この町の話題になった。ある人は不可能だと言った。ある人は実際にやったらできたと言ったが、もう一度再現することはできなかった。

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2)解答
数学者のレオンハルト・オイラー(1707〜1783)がこの問題を取り上げて研究し、橋渡りが不可能であることを証明した。

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A、B、C、Dは土地であって、橋に比べると当然その面積は広い。だがABCDの土地を頂点、橋を辺とすることで、橋渡りの問題は一筆書きの問題へと単純化できる。橋渡りの問題は、上の図が一筆書きできるか否かの問題に置き換えることができるが、頂点4カ所あるので、橋渡りは成功しないといえる。

 

3)発展問題
ではこの橋渡りを成功させるにはどうすべきか、というとC-D,間に橋を一本新設すればよい。これにより、奇数の頂点は、AとBのみになる。Aを始点としてBを終点とする(またはその逆)道順が正解となる。

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4.間中良雄のトポロジー(位相幾何学)
 
一筆書きは,「線がつながっているか」が重要で,途中の線が曲がっていようが,線が短いとか長いかは関係ない。これはつながりの具合を示す幾何学である<トポロジー>の発想である。日本語では位相幾何学という。線の長短は関係なく、単にA地点とB地点が連結しているかを問題とするという考え方は、今日においては電気配線回路の応用にみることができる。
 
 経絡は、基本的に身を上下に流注しているが、症状部位に対する刺激(局所治療)とは別に、症状部位から数十㎝も離れたれた部位を刺激して、これを経絡的治療とすることもある。これが経絡治療の特徴になる。
 赤羽幸兵衛は左右の手指先の井穴、そして左右の足指先の井穴それそれ12穴の知熱感度を測定し、同じ経絡の熱知覚の左右差を問題視した。これを発展させのが間中良雄で、手指の同経の知熱感度の感受性の違いだけでなく、手と足の三陰三陽区分での井穴の感受性の違いを問題視した。さらに左指先井穴の知熱感度の総和と右指先井穴の知熱感度の総和を比較したり、また左足先井穴の知熱感度の総和と右足先井穴の知熱感度の総和を比較した。井穴データを種々の四則演算により特異的現象の発見に努めた。これらの演算は今日ではパソコンを使えば容易だが、今から40年前のことであれば処理に随分と手間がかかったことだろう。
 
これら陰陽の経絡区分、上下(手所属と足所属)の経絡区分を一元的なパラメータとする考え方は、トポロジー的発想といえる。ただしデータ分析方法は興味深いことではあるが、元データが井穴知熱感度という不安定な値だけに、これを加工してもどれだけ新しいことがいえるのかは疑問が残る。間中博士存命の頃、鍼灸でトポロジー学会というのがあったのだが、間中氏死去後は自然と絶ち消えてしまった。

鍼尖点検器の自作

1.曲がりやすかった銀鍼

今から40年前頃まで、針灸院では銀鍼が普通に使われていた。一本50円~70円くらいした。銀は腰が弱く、刺入する際の重心を間違えると、すぐに”く”の字になってしまったので、鍼体を曲げずに刺入するだけでも結構難しかった。
 それも数ヶ月の練習でスムーズに入れるのは苦労しなくなった。鍼実技の際には、自分で購入した鍼は相手に渡し、それを自分の身体に刺させることで、感染の問題を防いでいた。鍼体を簡単には曲げなくなるほどに上達すると、同じ鍼を何回も使うことになるので使っているうちに鍼尖が摩耗し、どうしても切皮痛が起こるようになった。こうなると普通は破棄するが、こだわりのある治療院では鍼先を砥石で研いだりした。面倒なことだったが、それも鍼灸上達の修行とみなされていた。
 銀鍼には、鍼のあたりが軟らかいという治療上の良さはあるが、オートクレーブでの滅菌ができない(鍼体が酸化して黒ずみ、もろくなる)という致命的欠陥があったので、ステンレス鍼を使う時代に移行した。
 ステンレス鍼をディスポーザブルで使うことが理想的なのだが、ステンレス鍼は硬いので曲がりにくく、オートクレーブ滅菌後には再使用することができる。
 ステンレス鍼を再利用して、鍼体が一定以上曲がってしまえば破棄することになるが、問題となるのが鍼先の変形で、ステンレスは硬いので再使用できるか捨てるかの判断を効率良く実施したい。


2.塩ビパイプ継手を使った鍼尖点検器の自作
 
今から40年程前、鍼尖点検器という製品があった。木製で太く短いパイプのような形だった。片面にサランラップを張り、チェックすべき鍼を単刺していく(回旋はしない)。
サランラップを使ったのは、サラン樹脂でなければく音がでなかったためであった。他の他のラップはビニールのよう伸びてしまい、鍼がパリッと貫通できなかったからだ。しかし今日では他社製のラップも品質向上して使用に差し支えなくなっており、当家でたまたま使っていたのはクレラップだった。

短時間に次々と鍼の良し悪しを判定できる良い商品だったが、現在市販されていないようである。その代用として筆者は塩ビ管にラップを巻いて鍼先点検している。塩ビ管はいろいろ試してみた結果、だいたい次の写真のような大きさに落ち着いた。口径が小さいと音も小さくなるので。ホームセンターで入手で、値段は200~300円程度。

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3.鍼尖点検器の使い方
 
①未使用や新本同様の鍼であれば何の抵抗もなくスッと抵抗なくラップを突き破ることができる。
②わずかに鍼先か変形した鍼の場合、ラップを破る時、ツッという小さな音が生ずる。
③さらに鍼先の変形が少し進行した鍼であれば、ラップを破る時、プツッという音が出る、と同時にラップが下に押しつけられる。出る。
④鍼先の変形がさらに変形した鍼であれば、下に押しつけるように力を入れて、大きなラップを突き抜ける音と共にどうにかラップを貫通することができるようになる。

なお当院では③④を使用不可として廃棄処分にしている。

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ラップを巻いた状態

 

 

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鍼尖点検中の様子

三胚葉形成からみた鶏卵の生長と太極図(「閃く經絡」の読み解き)

「閃(ひらめ)く經絡」が出版され、丸2年が経過しようとしている。出版当時は非常に話題になった本であるが、内容が斬新である一方、鍼灸臨床には役立たないという内容でもあった。
 私がネットで調べてみると本著の前1/4の内容限定だが、きちんと内容紹介して下さったのが、菅田裕子氏<鍼灸師が読み解く!「閃く経絡」、かげにひなたにブログ>(2018)だった。ここでは<その3、ファッシアを流れる電流>(2018年07月15日)に関係した内容を、さらに分かりやすい形で紹介したい。

 

1.鶏卵の構造

1)鶏卵構造
問題1:鶏卵の殻を割った状態を示している。以下の写真で、将来ヒヨコになる部分はどれか?

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解説と解答:

この問題は、私主催の勉強会の余興で出題したが、誰も正解できなかった。Aは卵白、Bはカラザ、Cは卵黄、Dは胎盤(=胚)である。胚盤は直径3~4㎜の薄く白い円形で、ここがヒヨコへと生長する部分である。卵黄はヒヨコと生長する過程で必要となる栄養貯蔵庫である。卵白は内部が乾燥するのを防ぎ、細菌侵入を防ぐ意味がある。Bのカラザは卵黄が端に片寄らないようにするためのヒモで2本ある。(ヒトなどの哺乳類は、胎児は母体胎盤を通じて酸素と栄養を供給されているので、卵黄に相当するものは必要ない。)
 
胚を乾燥や外部の衝撃などから保護する意味から、胚は、羊膜に覆われ守られる。すなわち始めは胚は、羊膜と卵黄膜という2つの膜間にあったが、胚の生長とともに羊膜も広がり、胚の一部と卵黄が連絡する形になる。

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2)三胚葉への分化

受精卵が次第に分割され、三胚葉の段階にまで分裂すると、一体だった胚の一部が陥凹し、それが次第に深くなってパイプのように穴が貫通するようになる。パイプの外側を形成するのが外胚葉で、パイプの内側を形成するのが内胚葉である。その間にあって空間と接触しない部分を中胚葉と分化する。

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①内胚葉
多細胞動物が生まれてから、受精卵が分裂し原口のもとになる凹みを形成。凹みは次第に深くなり、パイプのように体の中を突き抜ける。このパイプの内側を内胚葉とよび、外部から必要な物質を取り込み、不要なものを吐き出す。すなわち消化管と排泄器官に発達する。肺もチューブの内側にあるから内胚葉に属する。


②外胚葉
パイプの外側部分を外胚葉とよぶ。外胚葉は、個体の外側を覆う層で多細胞化の初期段階で形成される。皮膚の表皮・毛髪などの感覚器を形成し、また一部が発生過程で溝状に陥没し神経管を形成する。神経の大元という意味からか、脳も外胚葉から進化する。
 
③中胚葉
外胚葉と内胚葉と繋がり、外界とは直接繋がらない器官を中胚葉とよぶ。中胚葉が進化したことにより、体腔内に複雑かつ高度な臓器を発達させることが可能になる。筋、骨格、皮膚の真皮、結合組織、尿道、心臓・血管、血液や脾臓などを形成。

 

2.太極図にみる三胚葉
1)太極図のいろいろ
問題2:以下の3種類の太極図で間違いはどれか?

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解説と解答:太極図は、今から3000年前の易經で生まれたもので、陰と陽が循環している状態を示している。現在では時計回りと反時計回りの2パターンあるが、どちらか正しいか諸説ある状況である。ただ、縦向きでも横向きでも構わず、色も必ずしも黒と白の2色でなくてもよい。すなわち全部正解となるが、次に述べる理由からB(時計回りの回転)を間違いとする考え方がある。


2)太極図に隠された三胚葉

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韓国旗は横向きの半時計回りで、赤青の2色が使われている。ところで「閃く經絡」での太極図も韓国国旗と同様の構成になっているが、陰と陽がのびのびと活動している様子を表しているかのようだ。陰と陽はぐるぐると回転し、かつ混じり合わないこことが重要ポイントである。
 
陰を内胚葉、陽を外胚葉とすると、陰陽の境界線が中胚葉だと著者のダニエル氏は説明した。 内胚葉と外胚葉を分け隔てると同時に、バラバラにならないように結合しているもの、これは広義の膜すなわちファッシアの機能に他ならない。

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「閃く經絡」の人体五臓図の解釈

<閃く經絡> は、東洋医学の考えを発生学的観点から説明しようとしている。この考え方これまでになかったものであり、改めて東洋医学の懐の深さを感じざるを得ない。

 胚が生長するにつれ背中と脊髄が形成されるが、次の段階として臓器を形成し始める。「閃く經絡」にはカラーの口絵が一枚載っている。著者ダニエル・キーオン氏が考察した東洋医学の五臓配置図で価値あるものと思える。本書の五臓の考えを紹介するには、この図なくしてはできないが、この図をスキャンして当ブログに載せることは著作権上の問題があるに違いない。しかし図を提示てきないと話が進まないので、本図とよく似たモノクロの図が本文中にあるので、これを自力で彩色化することで、一応の創作性を担保することにした。
 なお私は2012年1月9日、「中医人体構造モデル」を当gooブログで発表済みである。ダニエル氏の図のと全く異なり、「中医人体構造図」では五臓を機械装置にみたてて表現たもの。
      fhttps://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/0f10f985473890163d250ba3ba5b328f
  

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赤色は血管、オレンジは消化管と気道、黄色は神経を示しているのではなく、「腎節」といって背骨のように節になって脊柱の左右両側に幹のように上下に連なっている原始の腎を示してる。これについては詳細後述する。五臓の図とはいえ、肝の下には小さく胆も描かれている。

1.心

1)心と脳の機能の相違点
心機能には、まず血液循環のポンプ作用がある。ただし心が感情のの影響を受けて心拍数を増減させているという意味で、脳と心は神経で連絡されていることが知れる。
感情表出とは喜怒哀楽のことで、今日でいう大脳基底核(大脳古皮質)が担当するものである。これはマクリーンの理論でいう旧皮質<馬の脳>が担当している。犬や馬など高等哺乳類骨には感情がある。
ちなみに鳥や魚には感情がなく本能で行動している。本能は<ワニの脳>である古皮質が担当している。

2)骨髄と骨に包まれた脳の類似点
骨内部には骨髄があるが、脳はその親玉であるとの認識から、骨髄が障害を受けると運動障害がおき、脳が障害を受けると意識障害または意識錯乱が起こるとした。脳=正常な意識(神)という認識だった。
 ダニエル氏の図での心は、血管がくびれたように表現されている。これは発生学的に、格動する血管のくびれから心の臓が生長したことを表現しているものだろう。


2.肺
1)大気のエネルギーを体内に取り込み、体内に溜まった濁気を排出するというのが基本。

2)「肺の宣発・粛降作用」
中医理論では、「肺には宣発・粛降作用がある」という。この考えが我が国に入ってきたのは意外にも新しい。40年前当時の東洋医学理論ににない内容である。宣発とは呼気時に起こる作用で、噴水のように大気を四肢末端まで散布することであって、散布するためには、体幹の高い位置(=肺のあるべき位置)にある必然性がある。粛降とは吸気時に起こる作用で、大気エネルギーを五臓六腑にまで巡らす作用である。冒頭図では、腹式呼吸で吸気の際の、肛門から腹腔内に大気を巡らせるような矢印が描かれている。


3.脾
1)「脾は湿を悪(にく)む」
肺は呼気時、体内に溜まった湿を絞り出す役割がある(ゆえに呼気は湿っている)。ところで湿は元来飮食物に含まれる水が元となるので、通常は大小便や皮膚呼吸、そして呼気により体外に排出されるのだが、それで処理しきれなければ体内に湿が溜まる。脾は胃に入った飮食物を栄養別に振り分け、最終形としては気・血・津液に造り替える働きがある。これを脾の運化作用とよぶ。
 「脾は湿を悪(にく)む」とは、脾の低下により水を処理しきれない場合、体内に水(津液)が貯留する状況をさす。

2)脾と膵の相違
古代中国人がいう脾は、現代での膵を指しているのではないかとの見方は以前からあった。現代医学的常識では、脾の役割は老化した赤血球を破壊し、除去することだとしている。
一方、現代医学でいう膵臓の主な役割は、消化液である膵液分泌と、インスリンを分泌し、血糖値を一定濃度にコントロールする働きになる。膵液は消化物を別の物質に変換する機能である。後者については、血液中に糖がいくらあってもインスリンがないと細胞に糖を取り込んで利用することができない、という意味でインスリンも糖の輸送に関与している。物質変換と輸送という機能は、東洋医学でいう脾の機能そのものである。
もっとも著者のダニエル氏は、脾臓と膵臓は、発生学的に両者とも十二指腸から生じている。それは膵臓が先に生じ、次に脾臓が帽子のように覆うという観点、血液の供給、ファッシアのつながりも共通であることから、一体としてとらえ、呼び名も脾でなく膵脾とした方が適切だと主張している。


4.肝
1)門脈
冒頭の図で、心と肝とを結ぶ黒い部分は、門脈である。この図は腸が吸収した栄養素は肝臓で処理されて有害物質が解毒され、血液は無害になった後、臓に環流するという、いうなれば心を守る機能になっている。

2)中医基本内容のおさらい
 著者は中医独特の言い回しについて解説している。中医の基本内容なので、周知の方は飛ばして読んで頂きたい。

①「肝は血を貯蔵する」
文字とおり肝臓は血液で充たされているとの意味。激しい運動な どで血液が必要になると肝は収縮し、約500mlの血液を放出する。マラソンをしてい ると脇腹が痛くなることがあるのは、肝の収縮による痛み。

②「肝は疏泄を主どる」
肝は門脈系を通じて腹部のあらゆる消化管に接続している。肝臓 の働きが減速すると門脈圧も高くなり、肝臓は体液を腹腔内に出し、腹水を生ずる。こ れが肝硬変である。また靭帯を 通じて横隔膜・食道・胃・膵臓につながっている。
中医の「肝は疏泄を主どる」とは、内臓の各機能が支障なく円滑に機能させるのに役立っているというように理解できる。
また感情を円滑に流れさせるという意味もある。肝気が円滑に流れれば感情も穏やかになり、短気でイライラするような人は、すぐに怒りやすくなる。イライラと密接に結びついているホルモンはヒスタミンで、本物質は病原体に対して身体を過敏にする。ヒスタミンが多量につくられると、アレルギーや喘息などを引き起こす。これも肝の疏泄作用の悪化と捉えることができる。

③「肝は風を嫌う」
熱があると風が生まれ、動きをつくり、ときに破壊的にもなり得る。中国人は、身体が動く病の原因を風に求めた。てんかん、チック、振戦、などで脳波検査以外では病理をみつけられない。器質的変化は指摘できないのが特徴である。


5.腎

1)腎節の生長と退化の果てにできた腎臓
冒頭の図でユニークなのは腎の発生学的過程を描いていること、左腎と右腎(=命門)を区別していることにあるだろう。

1)腎節
腎は発生学的には腎節といって、背骨のように節になって脊柱の左右両側に節のように上下に連なっていた。頸部・胸部・腰部と順々にでき、それぞれ「前腎」「中腎」「後腎」とよばれた。しかし前腎は生長し退化し、中腎も生長し退化した後、後腎が誕生して生長するという発生学的手順を踏む。後腎は最終腎ともよばれ、今日でいう腎臓になる。
 ダニエル氏の図は、前腎・後腎を表現していることがユニークである。(前腎と中腎はまとめて表現されている)

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2)腎と副腎
中医で想定している腎と現代医学の腎とでは、意味するものが異なり、副腎機能に近いとされている。ただし解剖学的に腎と副腎は腎筋膜で包まれているという点で、発生学的には同じ臓器といってよい。
腎は尿生成の器官であるが、副腎髄質はアドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどを産生し、副腎皮質は、糖質コルチコイド(=いわゆるステロイドホルモン)、鉱質ステロイド、アルデステロンなどを分泌しているのは周知のことであろうが、これらも古典的には腎の作用であるとみなすことができる。

3)「腎は精を貯蔵する」「腎は骨を制御し骨髄を満たす」
中医学で精は、気に変化して各種機能活動のエネルギー源として利用されると定義されている。生命活動の本になる物質とされている。精には、先天の精と後天の精があって、 先天の精とは、父母から受け継いだ体質(≒遺伝子)を、後天の精とは飮食物を摂取して獲得できる身体を育む栄養分だとしている。両親のもつ生命の炎を、自分のロウソクに点火してもらったとしても、その炎を育てるのは飮食物による。”精のつく食べ物”という場合の精は、後天の精を意味している。

人は成長しやがて老いて死ぬ宿命にあるが、骨格にもその過程が表現されている。骨格は端的にこの生長と衰退を示すものである。骨を栄養するのは骨髄で、骨髄は腎精によりつくるとされている。腎精が乏しくなれば、骨も干からびて折れやすくなる。腎精が少なくなることは、自身の生命力が乏しくなることと同時に、新しい生命を誕生させる力も乏しくなる。

4)左腎と右腎(命門)
副腎には性ホルモン(テストステロンとエストロゲン)を放出する機能があるので、腎は性欲を生殖を支配するという古人の解釈に間違いはなかった。
腎は左にあり、右の腎に相当するものは命門とよばれている。左右の腎の解剖学違いは、解剖によって明らかになった。右腎のみが十二指腸下行部に非常に細いつながり、トライツ靭帯が関係しているということである。

秩序だった生長のために<ファッシア、気、モルフォゲン、フラクタル理論>(「閃く經絡」の読み解き)

1.ファッシアとは何か?

ファッシア(fascia)とは、ラテン語で「結びつける」の意味で、まさしく組織と組織を結びつける組織である。初めは筋肉を包む筋膜とよんでいたが、筋肉だけでなく、臓器、骨、血管など、それぞれのパーツも筋膜同様の膜に覆われていることから、幅広い概念としてファッシアとよばれるようになった。旧来からこうした膜の存在は知られていたが、組織を包む単なる包装紙のような役割だとして重視されていなかった。
ファッシア自体は結合織の膜で、組織ごとにファッシアで包まれている。隣接するファッシア間には空白ができ、細胞間質基質できる。
ファッシアはいわば真空パックとなり、水・空気・血液・膿・電気等を通さないので、隣接するファッシア間の細胞間基質をすべって移動する。そしてこの通路こそ經絡であるとしている。


2.気とは何か?

ファッシアを考慮することで、經絡の流れを説明しやすくなる。經絡を通過するのは気の流れとされていた。ところで気はもとは氣と表し、气+米で構成されてた。「气」は蒸気、空気などを示し、「米」は文字通りお米のことで、ポン菓子のようにポーンと弾けたお米を描いている。以上から気という文字は、米と空気が混ざることでエネルギーがつくられることを表している。気は代謝だといえるが、各細胞が行う全代謝の合計で、よりより言い回しでは生命力という言葉になるだろか。
ただし気は単なる代謝ではなく、知的な代謝であって、発電所でつくられる電気に似ている。気も電気も目に見えないが、電気と同じように、その効果を通じて気も見える。
 ファッシアの表面を気(=電気)が流れることで、気はモルフォゲン(直訳では、形態形成を支配する物質)に参加する。モルフォゲンは細胞から複雑な我々の体が作られる際の道標となるもので、癌では中心的役割を演じることでも知られる。


3.ファッシアによる体幹内臓の区分

1)ファッシアによる区画
内臓は個々の臓器を包むファッシアとは別に、同種のものとの間にコンパートメントをつくり、部屋を区分している。胸部と腹部の間には分厚い横隔膜が存在し、これがファッシアとして胸・腹部を分離している。胸部では胸膜心のう膜が、腹部では腹腔と腹膜後壁腔という区画がある。ダニエル氏は、大胆な発想とも思えるが、これら三区画を総称して三焦とよぶと記している。なお心嚢膜は心包のことだという。

※後腹膜とは
  腹部は腹膜という膜に裏打ちされた「腹腔」という空間と、腹膜の外側である「後腹膜」に分けられる。腹腔内には消化器のほとんどの臓器があり、後腹膜内の臓器には、通常、十二指腸、膵臓、上行結腸、下行結腸、腎臓、副腎、尿管、腹大動脈、下大静脈、交感神経幹などが含まれる。後腹膜臓器に炎症が起きると腰背部痛が起こりやすいという特徴がある。

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さらに、体幹内部の空間は、以下の三陰経区分があると考察した。一般的には臓ごとに三陰を区分するが、解剖学な閉鎖空間により三陰を区分するのは新しい考えである。これが病態分析的に何を意味するかは、今後の課題となるだろう。
少陰経(西洋医学でいう腹膜後腔)=心・腎
太陰経(西洋医学でいう前腎傍腔)=膵・脾・肺
厥陰経(腹膜、横隔膜、心膜)を通る肝・心包


2)ファッシア間の開口部

ファッシアで区分された各コンパートメントは、互いに絶縁される一方、限られた開口を通して連絡している。横隔膜に隔てられた胸部と腹部は次の3カ所でつながっている。
大動脈:横隔膜の後面で(心と腎)-少陰経
食道:横隔膜の中央で(脾と膵と肺)-太陰経
大静脈:横隔膜の前面で(肝と心包)-厥陰経

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4.生長

1)形成中心(モルフォゲン)と要穴の位置

一個の受精卵が成人へと生長するには、膨大な細胞分裂を繰り返すが、それは組織的な分裂であるべきである(無秩序に細胞分裂するのがガン細胞)。すべての細胞分裂を組織的に行うなら、その複雑性は処理できないほどになる。そこで生長する部分を集中的に制御することとなって、生長コントロールする発生的なポイント(形成中心=モルフォゲン)を結節点とよぶことになった。たとえば手の指をつくるには、肩→上腕→肘→前腕→手関節と生長していることが前提になる。
 ところで要穴(五行穴や原穴・絡穴・郄穴)はすべて肘より末端に、膝より末端にあるが、これが形成中心になっているからだとダニエル氏は説明した。

2)フラクタル理論とマイクロアキュパンクチャー

形成中心から各細胞に直接連絡され、秩序ある生長を促進させる。しかし発生が進むにつれ、形成中心も多数でるので、この理論は細胞反応を説明する発生学だけでは説明がつかず、数学的モデルを使った理論へと移行した。
 ブノワ・マンデルブロは、自然界のカオス(混沌状態)にも規則性があり、これを方程式で表現することを報告した。この理論を一言で要約すると、<非常に複雑な組織化は、単純なフィードバック機構によって起こる>という内容になる。
 
マンデブロは、小さな変化から無限に美しい形を生み出すことを見つけ、これを「フラクタルfractal、語源はバラバラ)と名付けた。これは一から十まで指示する設計図はなくても、変化の法則性を発見できれば、設計図は非常に単純化されることになる。
 たとえば気管支の分岐、動静脈の分岐がこれに相当する。

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このフラクタル理論は、これまでマイクロアキュパンクチャーとよばれていた範疇であり、全体的に診療するのではなく、耳・頭・指~手掌、足底などをに全身状態が反映されているという理論にもとづき、それぞれの部分を刺激すると種々な症状に効果あるとするものである。


5.ファッシアの癒着と治療法(「閃く經絡」から離れて)

ファッシアを理解することは、最終的には治療に結びつけたいからに他ならない。現行のファッシア刺激治療について、簡単に説明する。
ファッシアは組織や器官を密着するように包むラップのようなものだが、隣り合う組織ではファッシアが重なって存在する。通常であれば二つの筋は癒着することなく違う動きをするのだが、ファッシア同士が癒着していれば別々の動きをする筈の筋肉が一緒に動いてすまうので、動きづらくなってくる。
 癒着しているファッシア部に局麻注射(生理食塩水注射でもよい)をすると、瞬時に癒着は解消される。ただし慢性になると癒着しているファッシアは何ヶ所もあるので、何回かの注射が必要である。
癒着しているファッシアを発見するには、超音波画像診断装置を使うが、それでも発見しづらい場合が少なくないという。鍼灸師や手技療養を行う者は、皮膚を押圧したり撮んだりして周囲組織と異なる部位(=ツボ)を発見し、そこを押圧しながら、これまででなかったポーズをとらせるようにすると、徐々に可動性が増してくる。鍼灸師の場合は、その後に刺針するようにする。

石川日出鶴丸著の要点 Ver 1.4

石川日出鶴丸 原著 倉島宗二 校訂 昭和51年5月1日 日本針灸皮電学会刊

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1.米占領軍の針灸按等医療類似行為禁止令に抵抗した石川日出鶴丸
 
石川日出鶴丸(1878-1947)は、東京帝大医学部を卒業後、京都帝大で教授となり、生理学教室を主催し、そこで求心性自律神経二重支配法則を発見して注目を浴びた。また東洋の伝統医学である針灸についても深い関心を示し、その治効原理と經絡経穴の本態の解明に着手した。その研究は、京都帝大から三重医専校長に移ってからも引き続き転回され、針灸の臨床面まで手を拡げた。昭和18年には鍼灸臨床の研究グループ龍胆会を主催した。龍胆会会員は、主座:石川日出鶴丸、幹事:藤井秀二、郡山七二、清水千里、代田文誌ほか11名という蒼々たるメンバーだった。

 
昭和22年、米占領軍は、日本の医療制度審議会に対し、針灸按等医療類似行為の禁止令が伝えられたが、その一方で米占領軍当局代表者のアイズマンは、著明は針灸研究者として石川教授を選び、針灸の学理的根拠の有無に関して十二項目にわたって質問し、さらに臨床実験を臨検して興味をいだくようになり、代表者アイズマン自らも針治療を受けて満足した。その結果、米占領軍の針灸禁止命令は、再教育の実施という条件つきで解除された。ご子息の石川太刀雄は、父君の研究をさらに発展させ「内臓体壁反射」を発見した。

本書は石川日出鶴丸が、針灸医学者でない本邦の一般の医学者に針灸医学の大要を説明するためにまとめられた。本著作は、日本皮電学会発行ということで現在絶版であり、またカタカナ表記であることもあって、読んだことのある者は少ないと思われる。であろ内容は基本的であるが、そうだったのかと感心させられる内容が所々に見受けられた。ここではそうした内容を紹介する。

 

2.中国伝統医学の欠点
 
中国伝統医学の考え方を、徹底的に学理的に批判すると、信用できないものとなる。いろいろとこじつければ、こじつけられないでもないが、それは屁理屈にすぎない。実に狭い経験から組み立てた理論をもって、それが妥当性を有するや否やを実験的に吟味しないで無理に一般的に適用しようと試み、理論の権力をもって強制的に押しつけてしまったので、はなはだしい誤解に陥っている。
 かくして事実を誤るのみか学問の発達を妨げたことは、その罪のまことに大いなるものがあるが、これに類似にことは西洋の医学史の中にも現れている。それゆえに西洋医学はある見方をすると、医学者から起こらないで理髪者や屠獣者の中から起こったと解されないでもない。しかし彼らでが医学をどうすることもできなかったと同様に、古代中国医学は決して排斥すべきものでなく、之を正しい道に導くように改造せねばならない。それを正しく改造するように読み直すことが、私は中国の医書を読むコツだと考えている。

 

3.陰陽における太陽、厥陰の意味合い 

陰陽にはそれぞれ三段階がある。陽は太陽・少陽・陽明に区分できるが、陽明とは太陽と少陽を合わせた状態であって、陽の全発する姿である。
陰には太陰・少陰・厥陰があるが、厥陰とは陰気の最も甚だしい太陰と少陰の合わせた状態で、陰が尽きる状態であるかようだが、支那の語で「尽きる」とは尽滅根絶の意味ではない。たとえば易に「碩果(せきか)不食」(大いなる樹果ありて食らわず)という言葉がある。手の届くところにある枝に実っている果実は食べられてしまうが、高い枝の先端の実は最後まで食べられずに残っている。この実はやがて地面に落ちるが、やがて実の種から発芽して、再びつながって発展していく。「閃く經絡」によると、「厥」には側面が開けた山として描かれ、厥は陰から陽に戻ることを意味している、とのこと。

註釈:全く太陽光の反射がない月のことを中国語でも新月というのも象徴的である。上記内容を筆者は次のように図で表現してみた。

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この内容を、次のような螺旋で表現で示すこともできる。今回は対数螺旋を使ってみることにした。対数螺旋は自然界にも多く見られる螺旋である。たとえば獲物を捕るための鷹の運動パターン(獲物を一定の角度で見続ける)、水の渦巻、巻き貝など。

 

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4.心包の相火とは 

心を君火とすれば、心包は相火(しょうか)である。相火とは宰相の「相」のことである。元来、宰相とは中国の王朝において皇帝や王を補佐する最高位の官吏を指したのが始まりで、内大臣に相当した地位だった。宰相は戦後に首相という名前に変わった。すなわち相の中の代表が首相という意味である。
「相」のの語源は「木+目」で、「木の種類や樹齢を丁寧に目で観察する」ことからきていいて、それが「人を見る」という意味に変わった。いわゆる人相であって、顔の美醜や好き嫌いではなく、「人間として持って生まれた性格、その後の育ち方、自分の律し方、多くの人を正しく指導できる本質」を見ることをいう。

 

5.心の役割 

心が憂えると心包の相火が宣(よろこ)ばない。心が喜ぶと相火が甚大となる。心は喜憂などの心情の宿るところで、今日の「こころ」と同じ意味である。ただし心は君主のように、じっとしているものなので、心情の変動は心包の働きによっている。ゆえに「心包は臣使の官なり喜楽出づ」と唱えられている。
 筆者註釈:理性をつかさどるのは脳であって、心ではない。心拍数を変化させる情動こそ心の機能である。なお脳を起点として体幹四肢に至る流れを、nerveといい、解体新書では神経と訳出した。神とは意識のことである。

 

 

6.三焦は「決瀆の官、水道これより出ず」とは

「瀆」には、①水路を通す溝(=用水路)と、②けがすという意味(冒瀆といった表現)の2つの意味がある。これは用水路に、どぶの水を流すことで、汚くするという着想から成り立っている。「決」は、堤防が決壊するという場合の決で疏通するという意味。すなわち 決瀆とは、用水路の水を流すという意味で、それは三焦の役割だとしている。
 三焦とは体温を一定内に保持する役割があり、体温維持との環境下で初めて他の臓腑の生理的機能が営まれる。上焦は霧のように、中焦は瀝(したたたり)のように、下焦は瀆(大≒排水路)のごときという表現がある。
 筆者註釈:この意味するところは、蒸し器内部を想い浮かべるとよい。上焦である蒸し器上部は、熱い水蒸気に満たされていて、下焦である蒸し器下部には熱湯がある。中焦部にすだれを置き、そこに食物を置けば、蒸されて軟らかくなる。蒸し器で温めるということは、食物の成分が下に滴りおちるので底の湯も汚れていくる。この液体としての水が水蒸気となり、冷やされて再び水に戻るという循環を「水道」とよぶ。水道には水を尿として排泄するという意味もある。

  経穴の一つで前腕背面ほぼ中央に四瀆穴がある。四瀆とは、中国に水源を発して直接海に注ぐ四つの大河をいう。すなわち長江、黄河、淮(わい)水、済水のことである。なお中国で単に「河」といえば、黄河のことを称した。水源を発して直接海に注ぐ川(《爾雅》釈水)を指す。四瀆は三焦経にあり、三焦経は水を処理する作用があるとされることから、この名がつけられた。

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5.白い生命・赤い生命

中国医学によれば、陰陽の気が凝ってできたものが気または血で、気は空気や水蒸気のようにガス体であり、血はその凝縮して液体となったものであると定義している。
中国医学でいう血とは、動脈血・静脈血のほかにリンパ液その他の体液をも含めていうのであろう。我々が吸う空気や吐き出す空気や水蒸気も気である。呼気とともに水蒸気が吐き出されて冬季などでは白い霧となるのを見て、中国民族は白い生命と名付けていた。同様に彼らは動脈血や静脈血を見て、赤い生命と名付けていた。血液が全部体外に流出して体内に血液が乏しくなると死亡してしまう。同様に白い生命がでなくなって呼吸運動が止まると死んでしまう。

 
筆者註:現代おける死の三徴候とは、心臓拍動停止、呼吸停止、および脳機能の不可逆的停止を示す瞳孔の対光反射の消失をもって3徴候死としている。(脳死はこの限りではない)

 

 

6.動脈と静脈

 
当時も血管には静脈と動脈の区別があった。ただし現代の意味とは異なり、脈搏を触知できるものを動脈、触知できないものを静脈とよんだ。当時、動脈を流れ出た血液は、砂原に水を注ぐ陽に動脈から身体組織の中に浸みこむと考えたので、心臓へと環流する血液の流れがあることを知らなかった。

栄血衛気(気は衛し血は栄す)とは陰に属する「血」は中を栄(=栄養)して経絡中を運営する。つまり十二経脈の循環路を正しく順に一回りする。陽に属する「気」は外を衛(まも)ることでつまりは皮膚に充つる。衛気は経脈の外を行くもので、しかも昼は陽経を流れ夜は陰経を流れるという。
 

筆者註:江戸時代後期の医師、石坂宗哲は、解体新書などで西洋の解剖学に初めて触れて自分達が教わった内容と非常に異なることに驚き、気血營衞の「営」が流れているのを動脈、「衛」が流れているのを静脈だという珍妙な説を考えた。これは西洋医学の理論は、名前は異なっているが、基本的な考えは、わが『内経』の医の道の考え方と大きく異なるわけではないと考えたため。

 

 

 

7.横隔膜の意義
内臓は胸腔臓器と腹腔臓器に分けられるが、その境界を「隔膜」と称した。隔膜は、腹腔の汚れたものが、心・心包・肺の虚ら傘を犯さぬよう遮断する働きがあると考えた。呼吸運動の関係あることは古代中国医学ではまったく知らないことだった。

 

 

8.十四経発揮が現れる以前の中国医学の歴史

元来、中国では鍼治・灸治・煎薬(=湯液)服用の三種類の治療法があった。ただし素問霊枢の時代では、服餌(服薬+食餌)療法はさほど行われておらず、鍼術のみが盛んに行われていた。治療法中、服餌法は1~2割、灸法は3~4割、残りが鍼治療だった。『内経』は医学理論の基本であり、学説は経脈学が中心だったので、鍼術が医術の根本だったのだ。 湯液が盛んには行われなかった理由だが、その頃は薬物の発見が少なかったので、本草学が進歩しなかったのだろうと思っている。当時の鍼術は、現代の鍼術にとどまらず、外科手術をも含めた内容であって、鍼といえば外科の手術道具の総称だった。
  現在に伝わる古代九針である鑱(さん)・員・鍉・鋒(ほう)・鈹・員利・豪・長・大の各鍼の中で、前五者が外科刀である。後の四者はいずれも鍼であると記述されているが、これは誤りあって、次のよう修正したいところである。

現在に伝わる古代九針は用途別に次の3種に大別できる。
①皮膚を切開するために破る鍼→鋒鍼・鈹鍼・鑱鍼。これは今日の外科刀に相当。
②鑱(さん)鍼・員鍼 →擦る・押すなど刺さない鍼。
③員利鍼・豪鍼・長鍼・大鍼→今日でいう鍼術に用いる鍼。刺入する用途。


しかるに後世になるほど内科的な医学が進歩してきた。非常に多くの薬品や薬物が発見され、湯液療法が大進歩を遂げた。そのため経絡学によらない療法も続々と現れてきた。当時の鍼術(外科手術を含めて)は危険だったが、湯液療法は鍼術ほどの危険はなかったため、經絡学中心の中国医学は動揺し、時代とともに行き詰まりを生じるようになった。

 

医学書は、時代を下るほど沢山出されるようになた。出版されるようになった。中には『内経』を基礎としないものも現れ、『内経』を基礎とする内容とともに混然として、ただ実際の療法のみを並べ立て、知識を雑然と記すだけになった。無論、立派な本も発行されたのだが、医学が発達するほどに議論が乱雑になり一貫したものがなくなった。

これを整理するための方法として、第一の方法としては雑然とした知識の中から誤ったものを取り除いて、正しい確かな知識だけを選び取り、新しい学理でまとめ上げることであるが、不幸なことに系統的に整列を行って中国医学をまとめ上げようとする者は中国に現れなかった。

第二の方法としては、その頃行われた医学の理論を一つにまとめ上げることだった。この流れから旧来の經絡学的主知主義によって新たなまとめ方をしようという運動が処々に起こりかけた。つまりできるだけ内経の理論に拠ろうと志した。これによって十四経絡の学問がまとまったのだが、それでもまだ充分といえないものがあった。
そこで元の時代の至正元年(西暦1341年)、滑伯仁はこれらの書物とくに素問(骨空論)・霊枢(経脈篇本輸篇)・甲乙経・金蘭循経により經絡兪募穴の詳しい説明を施した。
兪募穴でいう兪とは輸の意味で気血の輸入輸出する中心点とい。募は集まるという意味で気血の集まる意味で、これは任脈を始め胸腹部の陰経において臓腑に当たる経穴をいう。

 

この滑伯仁の著書を『十四経発揮』という。これは手の三陰三陽と足の三陰三陽の十二経と、奇経八脈中の督任両脈を加えて十四経になる。十四経が、とくに発起・揮発させるのが目的だから発揮との名称になった。本書は良書として四方の歓迎を受けることとなり、後世人にまで愛読されることとなった。私は雑然たる医学を纏めるために在来の学説の膠着した滑伯仁の努力を否定するものではないが、前述した第一の方法を選ぶべきだと思う。 滑氏の態度では、学説の進歩というものがまったくないからだ。


筆者註:『黄帝内経』が原点となり、時代を経て新たな知識が加わってその改修版が多数現れ、逆に何が正しいか混乱状態となった。そこで改めて原点に立ち返って、『黄帝内経』の理論に戻って共通理解を得たということだろう。『十四経発揮』は、現代では古典鍼灸入門の定番だが、種々の力関係のせめぎ合いを良しとせず、基本的合意部分を整理した内容ということだ。十二正經に奇経であるはずの任脈・督脈を加えたことで基準線を得ることとなり、経穴を学習しやすくなったとはいえよう。

主知主義とは、人間の精神を知性理性・意志・感情に三分割する見方で、知性理性の働きを 意志や感情よりも重視する立場のことである。本稿では、観察や実験的手法によらず、頭の中だけで組み立てられた思想といった意味合いで用いられていると思う。

 

 

 

 

 

 


兪穴俗称(石坂宗哲著「鍼灸茗話」より)

石坂宗哲著「鍼灸茗話」は、江戸時代の鍼灸書としてかなり知られていて(まあ鍼灸学生は知らないであろうが)、すでに鍼灸学校教育の中でも当たり前のように学習する。したがって既知の内容が多いのわけだが、中には「そうだったのか」と思う内容もある。今回はツボの別名を中心に紹介する。
ところで鍼灸茗話の「茗」とは、とくに遅く摘んだ茶のことをいう。なお早く摘んだものを茶という。読みはメイであって、茗話は、メイワと読む。のんびりした茶飲み話といった意味だろう。なお※印は、筆者の意見。

1.ちりけ

第三胸椎棘突起下の「ちりけ」は、元々小児の痰喘壅盛(今日の小児喘息)の病名であると鷹取の書にもある。今日の人が兪穴の名前であると思っているのは間違いである(「本朝医談」)
今も関西では小児の急吼喘(=喘鳴)を、はやちりとよぶところが多い。
※「壅」(よう)とは、人家を堀や川で囲む、押し込める、塞ぐの意味。この文中では、呼吸しにくいとの意味。


2.斜差(すじかい)

すじかいとは、男児では左の肝兪と右の脾兪に一壮ずつ、女児では右の肝兪と左の脾兪に一壮ずつ灸すること。肝兪は風邪に侵入されないように、脾兪は飮食で疲労しないように。小児は気力が脆弱で灸熱に堪えることができないため、左右の肝兪・左右の脾兪という四穴全部に施灸しない。二穴に省略して施灸する。


3.貫き打ち(=打ち抜き)

内果の上四指一夫を三陰交という。また外果の上四指一夫に絶骨(=懸鐘)穴がある。この両者を世間一般では「ぬきうち」の穴とよぶ。打ち抜きの灸とよぶこともある。外関と内関にも貫打ちの灸を行うことがある。向かい合う2穴同時に灸熱を加えるもので、術者が一人でやることは難しい。
※一カ所から灸をすると、病邪は奥に逃げ、逆側から灸をすると、病邪は、元の方に戻る
このような場合、病邪の逃げ場がなくなるよう、病邪を挟む位置にある二穴同時に灸熱を加えるのが良いとの考え方がある。
※四指一夫:第2指~代5指を、指を開かないで揃えて伸ばすこと。

4.井のめ
井のめとは、腰眼のことで、十六・十七椎(第4・第5腰椎)の間で左右に三寸半開いたところの陥凹部をいう。「井のめ」とは亥目である。
※骨盤を後からみた時、イノシシの顔に似ていて、イノシシの目に相当する位置に井のめ(=腰眼)を取穴する。 ハート形なのは、イノシシの目の形がカタチがハートに似ている(実際には似ていない)ことに由来する。災いを除き、福を招くという意味がある。奈良時代頃からお寺や神社などの建築装飾としていたるところに使われている。

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5.からかさ灸

足の第二指・第三指の間で内庭穴のこと。傘灸。(「医学入門」で足痞根している部位。
※「痞」とは、胸がつまる、胸がふさがる、つかえ、腹に塊のようなものがつかえる病気などの意味をもつ漢字)。この部の灸は逆上のぼせを下げるのに効くという。 
※通常の痞根は、L1棘突起下縁と同じ高さ、後正中線の外方3.5寸の部位。L1棘突起下は、後正中から、懸枢→三焦兪(外1.5寸)→ 肓門(外3寸)→痞根(外3.5寸)と経穴が横並びになる。


6.かごかき三里

かごかきは、駕籠かきと書く。駕籠をかついで人を運ぶのを職業とする人足のこと。ふくらはぎの下の筋溝で陥凹部。人体の中の三魚腹(=下腿三頭筋)のうちの一つで、承山穴がこれ。
※かごかきは足をよく使うことから、脚の疲労回復のつぼのこと。
※時代劇などでよく見るのは「四つ手駕籠」で駕籠の中では最も簡易軽量なものだったが、それでも重さは約10㎏あった。(大名駕籠は50㎏)。四つ手駕籠の料金は、一里(4㎞)で、現在の一万円以上と、高価なものだった。昔の男は力持ちだったことに感心する。

兪穴の俗称、妊娠と不妊の治療、五十肩治療のコツ(石坂宗哲著『鍼灸茗話』より) Ver1.2

石坂宗哲著『鍼灸茗話』は、江戸時代の鍼灸書の中ではかなり知られていて、鍼灸師の多くはすでに基礎知識として知っている内容が多い。しかし中には、オヤッと感じる内容もあるので、いくつか紹介する。なお、鍼灸茗話は、久次米晃訳による。
茗話は、とは<めいわ>と読む。「茗」とは遅く摘んだ茶葉のことで、通常の季節に摘んだ茶葉のことは、単に「茶」という。すなわち茗話とは、「のんびりと回想しながら書き溜めた茶飲み話」といったくらいの意味になるだろう。なお※印は、筆者の意見である。


1.兪穴俗称

1)ちりけ
第三胸椎棘突起下の「ちりけ」は、元々小児の痰喘壅盛(今日の小児喘息)の病名であると鷹取の書(?)にもある。今日の人が兪穴の名前であると思っているのは間違いである(『本朝医談』)。今も関西では小児の急吼喘(=喘鳴)を、「はやちり」とよぶところが多い。
※「壅」(よう)とは、人家を堀や川で囲む、押し込める、塞ぐの意味。この文中では、呼吸しにくいとの意味。


2)斜差(すじかい)

すじかいとは、男児では左の肝兪と右の脾兪に一壮ずつ、女児では右の肝兪と左の脾兪に一壮ずつ灸すること。肝兪は風邪に侵入されないように、脾兪は飮食で疲労しないように。小児は気力が脆弱で灸熱に堪えることができないため、左右の肝兪・左右の脾兪という四穴全部に施灸しない。二穴に省略して施灸する。


3)貫き打ち(=打ち抜き)

内果の上四指一夫を三陰交という。また外果の上四指一夫に絶骨(=懸鐘)穴がある。この両者を世間一般では「ぬきうち」の穴とよぶ。打ち抜きの灸とよぶこともある。外関と内関にも貫打ちの灸を行うことがある。向かい合う2穴同時に灸熱を加えるもので、術者が一人でやることは難しい。
※一カ所から灸をすると、病邪は奥に逃げ、逆側から灸をすると、病邪は、元の方に戻る。このような場合、病邪の逃げ場がなくなるよう、病邪を挟む位置にある二穴同時に灸熱を加えるのが良いとの考え方がある。
※四指一夫:第2指~代5指を、指を開かないで揃えて伸ばすこと。


4)井のめ

井のめとは、腰眼のことで、十六・十七椎(第4・第5腰椎)の間で左右に三寸半開いたところの陥凹部をいう。「井のめ」とは亥目である。
※骨盤を後からみた時、イノシシの顔に似ていて、イノシシの目に相当する位置に井のめ(=腰眼)を取穴する。 ハート形なのは、イノシシの目の形がカタチがハートに似ている(実際には似ていない)ことに由来する。災いを除き、福を招くという意味がある。奈良時代頃からお寺や神社などの建築装飾としていたるところに使われている。

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5)からかさ灸

足の第二指・第三指の間で内庭穴のこと。唐傘灸。(「医学入門」では足痞根している部位でもある)
※「痞」とは、胸がつまる、胸がふさがる、つかえ、腹に塊のようなものがつかえる病気などの意味をもつ漢字)。この部の灸は逆上のぼせを下げるのに効くという。 
※唐傘とは洋傘に対する和傘の総称で、唐代にわが国に入ってきたもの。番傘の別名。竹の骨組みに油紙を貼っている。洋傘よりも重く大きい。番傘というのは油紙に番号が振ってある和傘で、貸し出し用として使われた。内庭は、足の五本指が集まるところという点から、唐傘の骨組みの中央にたとえたのだろう。Image may be NSFW.
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※通常の痞根は、L1棘突起下縁と同じ高さ、後正中線の外方3.5寸の部位。L1棘突起下は、後正中から、懸枢→三焦兪(外1.5寸)→ 肓門(外3寸)→痞根(外3.5寸)と経穴が横並びになる。


6)かごかき三里

かごかきは、「駕籠かき」の意味。駕籠をかついで人を運ぶのを職業とする人足のこと。ふくらはぎの下の筋溝で陥凹部。人体の中の三魚腹(=下腿三頭筋)のうちの一つで、承山穴がこれ。
※かごかきは足をよく使うことから、脚の疲労回復のつぼのこと。
※時代劇などでよく見るのは「四つ手駕籠」で駕籠の中では最も軽量だが、それでも重さは約10㎏(大名駕籠は50㎏)あった。これに人を乗せて運ぶのだから、当時の人は小柄だったとしても総重量60㎏にもなっただろう。それにしても当時の人夫の体力には驚かされる。ちなみに四つ手駕籠の料金は、一里(4㎞)で、現在の一万円以上もした。
                  

2.求嗣断嗣(きゅうしだんし)

求嗣とは子孫を求めること、断嗣とは子孫を求めないことの意味である。昔から妊娠させること、させないことの方法が論じられているが、顕著な効果をあげたという例は極めて少ない。しかし、まったくだめだと言い切ることはできない。(中略)
 
かつてある人妻が不妊症で私の処にやってきた。診ると臍下に引きつっている部分がある。天枢穴の下にあたるところで、かすかな動きがある。そこを押すと、陰器の奥に響いて痛む。これは疝癖(「疝」とは、生殖器・睾丸・陰嚢部分の病証。体内の潰瘍が外に膿を出す)であり、不妊症になっている原因がこれだと考えた。まず二十日のほど当帰勺薬散を煎じて飲ませ、外陵・大巨の左右四穴に施灸させ、十数日間に七・八回、子宮口と周辺に細鍼で連環刺した。更に毎月十五回ずつ前の四穴に施灸させた。数ヶ月もたたないうちに生理が止まり、臨月になり安産した。(中略)
なお連環刺とは、連環の形(半月を連ねたような形)に刺すもので、営衛の經絡・宗気の流れを漏らさずに取るための治療手技。石坂流の家定三刺法の一つ。

石坂宗哲著『鍼灸説約』に掲載された治験には次のようなものがある。
『銅人腧穴鍼灸図経』1027年製作)では、「中極穴は女性の不妊を治す」とあり、『千金方』(唐代618年- 907年)では「関元は女性に刺針すると子が生まれない」とある。中極穴と関元穴は3寸(1寸の誤りか)離れているだけである。ところがその一方は不妊症を治し、他方は刺すと子供を産めなくなるとある。
これは疑わしい。昔、貧しい商人の家で、毎年出産する者がいた。五、六年で五、六人の子供が産まれた。その夫婦は生活に困り、不妊になるようにしてほしいと言った。そこで試しに関元穴に2寸から3寸刺針し、右門穴に十四壮施灸した。七日間施術して終わりにした。ところが、その人はまた妊娠した。やってきて、鍼は効かないと、私を嘲笑した。

妊娠5ヶ月になるのを待って、関元・合谷・三陰交の三穴に七日間刺針したが、妊娠は良好だった。臨月になって、男子を出産した。安産だった。私はここに至って、昔の人も嘘を書き残すことがあるのだと悟った。

(この見解に対し柳谷素霊は次のように補足説明している。ここでは不妊治療は成功しやすいが、避妊・堕胎は成功しにくいと言っている。しかしながら施術がうまくいけば、避妊・堕胎も不可能ではない。ただ、示されている避妊の穴に刺針して、内臓収縮現象が起こらなければ効果を期待できない。)


3.狄嶔(てききん)の言

唐の魯州の刺史庫で、狄嶔という人が風痺(筋肉・関節の疼痛を特徴とする病証を痺証といい、風痺は、とくに風邪が勝っているもので、四肢の関節・筋肉の遊走性の疼痛が特徴)であり、の病気を患い、弓を引くことができず、非常に困っていた。その時に瓢権が治療した。まず嶔に、弓矢を持って弓場に行かせ、立ったまま肩髃穴に刺針したところ、鍼を刺入するにつれて、射ることが自在になったという。
※症状の起こる体位をさせ、その時出現する局所圧痛点に刺針することが効果を生む秘訣で、これは鍼を効かせるための重要なコツともいえる。

十二正経走行モデル Ver 2.2

筆者は2011.1.11付で「經絡走行モデル」ブログを発表した。その内容は、經絡走行をトポロジー的に捉えたものであったが、分かりにくい点が多々あった。そこで今回は、經絡走行概念図を示しつつ、実際の部位(あるいは経穴名)を付け加えることで、經絡を利用した針灸臨床を考えるための素材を提供することを考え大幅な改良を行い、何回か改良を行った。 

 

1.三陰三陽の表在経絡 

一般的な経絡図は、表層経絡(正確には絡脈)だけが描かれているのは周知の通りである。十二經絡は、走行別に手の三陰經、手の三陽経、足の三陰経、足の三陽経に分類される。この4種の走行パターンを下記に示した。

 

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2.表在經絡と深部經絡

これは初歩的学習としては妥当なものだが、経絡を利用した治療をしようと思えば、まったく不足している。一つの経絡の特徴としては、走行のどこかで該当臓腑につながっていて、臓腑と直接つながっているのは深部經絡であって、上記の図では省略されているからである。 

直接、鍼灸刺激できるのは、上図の表層經絡部分だけだが、鍼灸刺激が表層經絡→深層經絡→臓腑というように伝播されるので、内臓治療が可能となるというのが古典理論になっている。

3.經絡走行モデル図

実際の經絡流注は極めて複雑で信憑性も高いとは言い難い。經絡を考慮した鍼灸治療するにしても、經絡走行を細部まで記憶するのは難しく、それを記憶しなければ治療できないというわけでもない。 

手元には本間祥白著「図解鍼灸実用経穴学」と同氏著「誰でもわかる經絡治療講話」の二冊がある。両書籍とも下図のような經絡走行一覧表が載っている。非常に複雑であることが改めて思い知らされる。(色づけは私自身の勉強のために付加したもの) 

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だが、始点と終点、深部經絡が臓腑に出入りする部位、浅層經が深層經絡と潜る部位(あるいは深層經絡が浅層經絡に浮き上がる部位)など、要点をきっちりと押さえる一方、細かな走行を省略することにすれば、經絡走行の全体像が見渡せるものとなるだろう。 

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①上図で青色が表層經絡で針灸刺激できる部位である。表層經絡は、四肢と体幹ともに流れている、体幹部分の表層經絡は体壁を走行している。黒色は深層經絡で鍼灸刺激できない部位である。深層經絡は体幹深部(=体内)にある。

②經絡で、太線は太線が直經、細線が支脈である。

③四肢末端附近にある経穴は、<絡穴>であり、次経への流入口である。四肢の經絡末端は<井穴>である。 

④手三陰経と足三陽経は直接はつながっているようには図示されていない。これは頭蓋の感覚器官や脳内を複雑に走行していて図示困難なことによる。  


4.經絡走行モデル2

上図はトポロジーの観点から次のように表すこともできる。一巡目(肺-大腸-胃-脾)の流注、二巡目(心-小腸-膀胱-腎)、三巡目(心包-三焦-胆-肝)と、よく似たルートを通るが、走行の細部の違い(とくに足の三陰経の走行)の違いを把握しやすいと思った。
内臓治療に対する鍼灸のやり方は、実線部分を直接刺激し、点線部分につながる臓腑症状をリモート的に改善させることになる。(点線部分は直接刺激できないので)

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常習性便秘に対する鍼灸治療点の検討

1.下行結腸に対する腰部からの刺針   
  
内臓体壁反射の理論では、大腸は上行結腸~下行結腸までは交感神経が主導権を握り、その反応は背部に現れる。さらに大腸は、上行結腸と下行結腸が後腹膜臓器で、とくに下行結腸を刺激する目的として、左大腸兪・左腰宜(ようぎ=別称、便通穴)などを刺激することが多い。

下行結腸は、腰方形筋の深部にあるので直刺で深刺すると命中できる。この部は皮下脂肪や筋 組織が豊富(下図では省略)なので、深刺する必要がある。また上行結腸と下行結腸の内縁には 腎臓(Th12~L3の位置)があるので、下行結腸に刺入するには、腸骨稜(L4の高さ)から行うことで、腎臓への刺入を回避できる。

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1)左肓門外方(郡山七二『鍼灸臨床治法録』)     

志室の上1.5寸。L1棘突起下外側8㎝の部。下行結腸刺激。脊柱の方に向けて圧すると広背筋、外腹斜筋を触知できる。その筋群を直刺する方向と角度で4㎝刺入し、強刺激する。 「これだけで必ずといってよいほど通じがある」と記している。  
  
※私の意見:横行結腸は腹直筋の直下で比較的浅層に位置しているのに対し、下行結腸は後腹膜臓器で、左下腹部の小腸の奥にある。下行結腸への刺入は、伏臥位で腰方形筋の深部に直刺する、もしくは郡山七二のように、側臥位にして腰方形筋の外縁から中に刺入することを    考える。ただしL1棘突起下の高さでは下行結腸の直側に左腎があるので注意が必要。安全性を考えるとL4の高さ(すなわち腸骨稜の高さ=腰宜穴)から刺入した方がよい。
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2)便通穴(=左腰宜 ようぎ)    
   
便通穴とは木下晴都が命名した。腰宜穴に相当するのだが、左腰宜穴のみを便通穴とよぶ。L4棘突起左下外方3寸。腰方形筋の外で、腸骨稜縁の直上を取穴。やや内下方に向けて3㎝刺入。森秀太郎著「はり入門」では、「深さ50㎜で下腹部に響きを得る」とある。下行結腸内臓刺になる。

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2.小腸に対する腹部からの刺針
  
以下に記す天枢や四満は、左下腹部からの刺針になる。深刺すれば腹筋群→腹膜→大網→腸間 膜→小腸壁と入る。ただし大腸壁を直接刺激できない。響かせるのが秘訣らしい。響かせるとは、 腹膜分布する肋間神経を刺激するという意味だと思われた。
 

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1)天枢深刺(森秀太郎「はり入門」医道の日本社)   
   
森秀太郎が最も重視しているのが天枢への雀啄針であった。同氏の天枢刺針は、臍の外方1.5寸にとっている(教科書的には臍の外方2寸)。15~30㎜直刺し、腹腔内に針先を入れ、腹腔内刺入を目標としている。 中国の文献では、天枢から深刺し、下腹から下肢へ引きつれるような針響を得て、初めて効果が出ると説明している。
 

2)四満移動穴(柳谷素霊「秘法一本鍼伝書」医道の日本社)      
   
教科書の四満は、臍下2寸に石門をとり、その外方5分である。柳谷素霊の四満は、臍下2寸に石門をとり、その左外方1寸の部をとる。実証者の便秘には、2~3寸#3で直刺、2寸以上刺入して、上下に針を動かす。この時、患者の拳を握らせ、両足に力を入れしめ、息を吸って止め、下腹に力を入れさせる。肛門に響けば直ちに息を吐かせ、抜針する。

虚証者の便秘には、寸6、#2で直刺深刺。針を弾振させて、肛門に響かせる。この時患者は口を開かせ、両手を開き、全身の力を抜き、平静ならしめる。いずれも肛門に響かないと効果もないと考えてよい、と記している。

 

3.下行結腸・S状結腸に対する骨盤内筋の筋膜刺激
  
下行結腸やS状結腸は後腹膜臓器なので、これらの腸管を直接鍼で刺激するのはかなりの深刺が必要である。これら結腸への直接刺激でなく、骨盤内の腸骨筋または内閉鎖筋過緊張あるいは 癒着により腸管の通過障害を生じている可能性があり、腸骨筋や内閉鎖筋への刺針が治療になることがある。
 
1)腸骨筋刺針としての左府舎刺針     
   
教科書での府舎は、恥骨上縁から上1寸の前正中線上に中極をとり、その外方4寸で、鼠径溝の中央から一寸上を取穴する。府舎を便秘で使うと書いているのは、森秀太郎(『はり入門』医道の日本社)で、寸6の6番の針で、やや内方に向けて10~30㎜ほど刺入すると、下腹部から肛門に響きを得る、とある。
私の意見:左府舎からの直刺は下行結腸に入れるというより、その外方にある腸骨筋に入れて響かせることを意図していると思われた。肛門に響くのは、陰部神経刺激によると予想した。

腸骨筋は大腰筋の影に隠れて一見すると目立たない筋だが、骨盤内で広い体積を占めている。腸骨筋が股関節に癒着して鼠径部痛を起こすことが知られている。鼠径部外端から内方1/3の部から刺針することは、この部に糞塊を触知できる弛緩性便秘の治療に使えると主張する者  もいる。   
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2)秘結穴(左腹結移動穴)    
     

秘結穴は、木下晴都『最新針灸治療学』医道の日本社に載っているツボである。一般的な左腹結部位(臍の外方3.5寸に大横をとり、その下方1.3寸)では効果が期待されないと記されている。仰臥位、左上前腸骨棘の前内縁中央から右方へ3㎝で脾経上を取穴する。3~4㎝速刺速抜する。この刺針は、鍼先が腹膜に触れるため、約2㎝は静かに入れて、その後は急速に刺入し、目的の深さに達した途端に抜き取る、と木下は記している。
   
私の意見:本穴の刺法も、前述の府舎と同様、腸骨筋刺針になると予想した。

 
3)内閉鎖筋緊張に対する陰部神経刺針 

骨盤の閉鎖孔を内側から塞いでいるのが内閉鎖筋である。内閉鎖筋が緊張すれば、陰部神経や陰部動脈を圧迫して泌尿器科症状を生ずることがある。また左内閉鎖筋緊張すれば、S状結腸を圧迫することで便秘になることも指摘されている。左内閉鎖筋への刺針とは、左陰部神経  刺針に他ならない。 陰部神経刺針は、陰部神経への刺激かつ内閉鎖筋への刺激になる。     

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側腹位。3寸鍼を使用。上後腸骨棘と座骨結節を結んだ中点から、一横指下方を刺入点と定め、閉鎖孔(上写真の緑部分)に向けて深刺することが内閉鎖筋刺針になる。詳細は、陰部神経刺針参照のこと。


馬尾性脊柱管狭窄症に対する陰部神経ブロック刺針(2006.3.10)

https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/e3362c8364c7268e0788f4518ccb5dc9

 

4.直腸性便秘
  
糞塊が下行結腸にある間は便意を感じない。糞塊が直腸に入って初めて便意を感ずる。便が直腸に入ると、直腸内壁が伸張しその刺激は骨盤神経を経て脳に伝わり便意となる。しかし排便を我慢すると、排便抑制の刺激が骨盤神経、陰部神経に伝わり、内・外内肛門括約筋を緊張させて便意は消失する。このように排便を我慢する機会の多い人は、やがて機械的な刺激によっても便意を感じにくくなり、慢性便秘症に移行しやすくなる。直腸性便秘は排便は一応正常であるが直腸部に糞塊が残り、常時残便感を強く感じる。
症状:腹痛(-)、便意(-)
 
1)会陽刺針

結腸~S状結腸は、副交感神経(骨盤神経)により運動支配されているので、教科書的にはS2~S4骨盤神経狙いで、次髎~下髎を考えることになる。ただし実際にはあまり効果は得られない。支配神経に働きかけるのではなく、鈍感になった直腸壁のダイレクトに刺激をしたらよいのではないかとする発想から、会陽から肛門に響かせる方法が考えられた。会陽への針灸は、痔核治療のツボとして広く知られている。

 

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2)骨盤底筋協調運動障害
      
排便しようとして腹圧上昇→骨盤底筋はゆるんで下降→肛門直腸角が直角になる→スムーズな排便というのが生理的機序になる。腹圧をかけるなど間違った筋の使い方をしている者は骨盤底筋は緊張し、排便困難になる。

寝たり立ったりしている時は、恥骨直腸筋と浅部肛門括約筋の働きにより直腸と肛門のなす角度は鋭角で、直腸に便が溜まっても体を伸ばしていると安易に出ない仕組になっていトイレにしゃがんだ姿勢では体を前に折り曲げる為この角度が鈍角になり便が出やすくな る。加齢や障害によって神経・筋活動が低下しても、骨盤底筋力が低下するので直腸-肛門角を鋭角に形成できずに、失禁しやすい状況 になることがある。 

排便時、洋式便器では上体を前方に傾斜させ、踵を浮かせた姿勢にすると、直腸-肛門間が直線状態になり、排便しやすくなる。排便のしやすさという点では和式トイレの方が適している。

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EDに対して鍼灸治療でできること

1.EDとは
   
勃起障害(ED Erectile Dysfunction)とは、「"勃起不全"によって満足な性交渉がで きない状態」と定義される。以前はインポテンツ(=不能)とよばれてきたが、あまりに愚弄する言葉であることから名称変更した。「中折れ」もEDに含める。

2.EDとなる原疾患

インポテンスの原因は、器質的23%、機能性72%、不明5%。脳が性的興奮をきたし、神経を介して陰茎に伝わっても、陰茎海綿体の動脈硬化などの障害がある場合(これを動脈性EDとよぶ)、陰茎海綿体に十分な量の血液が流れ込まないので、勃起力不足になる。加齢のほか、糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病などが代表。
  
①糖尿病:糖尿病性末梢神経炎による勃起不全。糖尿病では血管障害と神経障害が出現するが、血流障害は陰茎への血液流入障害として、神経障害は自律神経障害として出現する。糖尿病者の3~6割が性機能障害をともなう。
②降圧剤:薬剤性では最も多いとされる。原因不明。
③前立腺摘出手術:前立腺のすくそばに勃起をつかさどる神経があるため、前立腺摘出手術で神経が障害を受けることがある。

3.勃起
  
1)勃起の起こる機序
大脳皮質の性的興奮→副交感神経を介して陰茎海綿体の細胞から一酸化窒素(NO)を血中に放出 
→NOがセカンドメッセンジャーである陰茎中の血管拡張物質cGMP(サイクリックGMP)を増加
→陰茎を走るらせん動脈の平滑筋を弛緩させ、血管を拡張
→陰茎海綿体に血液が充満(=勃起の状態)

※一酸化窒素が体内で生成されることで血管拡張効果が生まれて血流改善作用をもたらす。1998年 ルイ・イグナロは、一酸化窒素が体内で生成されると血管拡張効果が生まれて血流改善作用をもたらすことを発見し、ノーベル生理学・医学賞を受賞した。
  
2)勃起が萎える機序
 性的興奮が収まる→PDE5(ホスホジエステラーゼ5)というcGMPを壊す酵素が放出
→勃起消失
   
※要するに「cGMP」増加で勃起が起き、「PDE5」増加で勃起が萎える。この一連の反応を引き起こすのは性的興奮によるNO産生が引き金になっている。

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4.ED治療薬
  
EDの鍼灸治療を希望する患者は、自分で相当調べてから来院する。薬物療法についても詳細に勉強している。このような患者の信頼を得るには、鍼灸師であってもED治療薬の知識が必要である。
 
1)バイアグラの作用機序
ED治療薬が登場するまで、泌尿器科医にとってもED治療は難しい問題だったが、1999年にシルデナフィル(商品名バイアグラ)が発売されてから治療できるものとなった。バイアグラは、 脳中枢で起きる性衝動から陰茎に至る神経経路に問題がなければ、即効的な効果が出せる。勃起障害の原因の一つとしては、海綿平滑筋内に豊富に存在するPDE5(ホスホジエステラーゼ5)が知られている。PDE5は cGMP(サイクリックグアノシン-リン酸)を分解してしまう酵素なのだが、前述のとおりcGMPは血管を拡張させる働きがあるので、それが分解されてしまうと血管は収縮して陰茎海綿体に血液が行かなくなってしまう。
   
勃起不全の治療としてはPDE5の働きを阻害することが重要で、PDE5阻害薬としてシルデナフィルが開発された。これにより海綿平滑筋内に血液が充満してくる。なおバイアグラはより上位による損傷、つまり脊髄損傷または他の神経支配の障害による勃起不全には効果がない。バイアグラの有効率は、約80%にのぼる。糖尿病によるEDであっても約65%の患者が効果ある。
ED薬には性欲増進作用はないはずだが、勃起することで男としての自信がつき、二次的にテストステロン分泌が増加する効果も認められる。

※バイアグラの副作用:
バイアグラは末梢血管拡張作用があるので、心臓発作の予防として  ニトリグリセリンなどを服用している者がバイアグラを服用すると、血圧が急降下し命の危険がある。バイアグラ服用では、9割の者に副作用として「顔のほてり」と「目の充血」が出現する。他には「頭痛」「動悸」「鼻づまり」呼吸困難」といった副作用の症状を発症してしまう人も多い。
 
2)バイアグラとその類似薬
有効成分がどれもシルデナフィルであることに、変わりはない。ペニス挿入して5分も経つと、ペニスが軟らかくなり、中折れするという症状に対しても、下記のED薬は非常に有効である。勃起を維持できなくなるのも性的興奮を維持できなくなった結果である。 
  
①バイアグラ
元祖ED治療薬として知名度が高い。25㎎と50㎎がある。食事の影響を受けやすく、満腹時とくに脂ものを食べた後には効き目が低下する(血中濃度が上がりにくい)。性行為の1時間前に服用するのが適切なので性行為時には空腹になりがち。効果は3~4時間持続。レビトラやシアリスに比べ、勃起の硬度は固くなる。

②レビトラ
10㎎と20㎎がある。バイアグラ50㎎がレビトラ10㎎に相当。バイアクラに比べ、食事の影響を受けにくく、速効性(30分で効果、1時間で血中濃度最大)がある。6~8時間持続。
  
③シアリス
10㎎と20㎎がある。強さはレビトラと同等。効き始めまで3~4時間かかるが、持続効果は36時間と長い。食事の影響を受けにくい。現在ED薬として世界で最も売れている。
       

3)サプリメント

性欲減退に効果あるとされる製品には亜鉛・エビオス(ビール酵母)などが知られている。精子をつくるにはその原料に亜鉛が必要であるが、日本人には不足しがちなので服用の合理性はある。エビオスを飲むと精液量が増すという報告は多数ある。EDに対し、マカ、ニンニク、まむしの粉、スッポンエキスなどが効いたとする報告はあるも、信頼のおける研究はない。

6.EDに関係する筋
EDに関係する筋としてPC筋(骨盤底筋)と骨盤底筋中のBC筋(球海綿体筋)が注目を  集め、これらの筋の筋トレが行われている。
 
1)PC筋
pubococcygeus muscle の略で骨盤底筋のこと。睾丸の後から肛門をはさんで伸びて仙骨をつなぐインナーマッスルの一部である。上部の内臓を支える機能がある。骨盤底筋は排泄(尿や精液)をコントロールする役割がある。排尿を止める時に動く。肛門を締めるとペニスが動くのも骨盤底筋の働きによる。
 ペニスが外に出ているのは全体の3/4で、根元1/4は、骨盤底筋群の隙間に埋まっている。この根元がペニス全体を支えている。骨盤底筋群が強いと、ペニスの根元もしっかりしてくるので、上向きのペニスとなり、簡単には「中折れ」を起こさない。

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2)BC筋
Bulbocavernosus Muscle の略で球海綿体筋のこと。ペニスの根元にある筋肉。精液の精射と排尿の調節に関与する。尿道から尿や精液を押しだすのも球海綿体筋の役目もある。球海綿体筋が鍛えられることで射精の勢いが強まり、射精時の快感が増すとされている。射精のタイミングもある程度コントロールできるので、本筋を鍛えることは、早漏治療にも適している。

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7.EDの治療

1)加齢と性欲低下
男性ホルモンのテストステロン分泌は20才頃が最大で、それ以降はゆっくりと下がる。中年になると性欲も体力も低下するのは、自然なことである。この肉体条件下で、性交回数が多かったり、仕事がきつかったりすると、余計に性欲も低下するのはやむを得ない。なおテストステロン分泌が不足してる者に対し、テストステロンを投与しても、直接勃起とは直接関係はなく、ただし性欲がゆっくりと増す(短期間の投与では効果ない)。年令別の適正性交回数として、古来から9の法則というのが知られて一応の目安となってきた。  
     20才:20×9=18(10日に8回) 30才:30×9=27(20日に7回) 40才:40×9=36(30日に6回) 50才:50×9=45(40日に5回)
 
2)骨盤底筋の筋トレ
骨盤底筋体性神経で、勃起時のペニスを下から支える機能があるので、骨盤底筋の筋トレは行う価値がある。骨盤底筋を鍛えることは勃起力とその維持に貢献に関係している。
  
① 肛門の引き締め運動
PC筋・BC筋のトレーニングとして肛門を締める運動を行う。肛門を締め5秒間、緩めるを5秒間と10回1セットで毎日5セットを目安に続ける。
  
②スクワット
スクワット(上半身を立てたまま行う、ひざの屈伸運動)が効果ある。スクワットは、大腿内転筋と骨盤底筋を鍛える。PC筋・BC筋ともに鍛えるのに適している。
<クワットの正しい方法>
a.肩幅より少し広めに足を開き、頭の後ろで腕を組 む。 (背筋はしっかり伸ばす)
b.そのままの状態で、太ももが床と水平になる所まで腰を ゆっくりと下ろす。
c.今度は、逆に腰をゆっくりと上げていき、最初の姿勢へ と戻していく。
ここまでが、1回の動作。最初は10回から開始し、慣れてきたら20回、30回と回数を増やす。爪先立ちや腰をより深く落とすなどすると効果的。
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③ヒップスラスト
腰を突き上げる運動。この動作はセックス時の男性の動きそのものである。
a.背中の上半分を椅子に載せ、膝を曲げて踵で下半身の体重を支える。
b.腰を上にゆっくりと突き上げ、ゆっくりと戻す。
c.1日15回×3セット行う。

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8.鍼灸院で行う指導と施術
  
鍼灸はEDに直接働きかける力はないが、体調を整える一環の結果として、効果があることはあるだろう。これには半年間以上の長期的治療が必要である。
 
1)鍼灸とバイアグラの効果の比較研究 
辻本孝司は、鍼灸とバイアグラの効果を比較し、「EDに対する中髎刺針で有効だが、効果はバイアグラに及ばない」との結論を得た。それは次のような内容である。
ED患者26名に対し、2寸#8の針を中髎に5㎝刺入し、回旋刺激を10分間施行。治療は週に1回で、平均11回施術した。著効と有効を合わせると有効率は62%だった。有効例は、心因性(著効33%)よりも、内分泌性(著効88%)や静脈性(60%)の方が高かった。
しかしバイアグラの有効性は50mgで70~80%で、重篤な副作用もみられないことから、針治療よりもバイアグラ内服の方が効果的である。バイアグラが効果なかったという者の大半は、内服方法に誤解(筆者註:薬物の量不足、満腹時の服用や服用して間を置かない性行為)があるからで、服薬指導と数回の針灸治療で改善させる。(辻本孝司:EDの治療-バイアグラと針 に求められるものは, 針灸OSAKA.vol.19 No.1.2003.Spr)
 
2)陰部神経刺激
EDの鍼灸治療は昔から試みられてきた。亀頭など性器の触覚を支配しているのは陰部神経なので、以前から陰部に電撃様針響を与えられる陰部神経知覚枝刺激がする目的で使われてきた。膀胱炎や尿道炎などの陰部の痛みに対して、陰部神経刺針が効果があった例は何例か経験したが、EDに対しては効果があったという印象は殆どない。
骨盤底筋を鍛える目的で、大腿内転筋トレーニングのつもりで陰包や足五里を刺激することも行われている。
 
①曲骨から下方にむけて深刺
陰部神経の終枝である陰茎背神経は、陰茎から亀頭に達するので、針響も陰茎先端まで得られやすい。陰茎にまで響かせる方法としては、ゆっくり斜刺して硬い処(=筋膜)まで針先をもっていく → 針尖を筋内に入れたら雀啄をする → 雀啄しつつ針全体の動きとして深度を深くする、といった手技を行うとよい。
 
②曲骨の針響と治療効果(日野勝俊:「はりきゅう」治療でしぜんな妊娠あんしん出産、2006年11月)
日野勝俊氏は「正常男性に曲骨から刺針をすると、ペニスの先まで針響を感じるが、重いEDでは針を刺入した部位のみの刺激感のみになる。しかし繰り返しの治療で、ペニス先端部近くまで針響が届くようになる」記しているという。一般的なEDの場合には症状に応じて、1週間に1~2回程度の治療を4ヵ月間続けて経過をみると記した。効果がすぐに現れるケースでは、初回の治療直後から遅い時でも2ヵ月ぐらいで症状の改善が認められる。 
※筆者註:十症例ほど追試したが、確実な治療効果は得られなかった。
  
③正座位にて、関元、中極、腎兪、裏合谷の多壮灸(陽不起の標治灸 柳谷素霊選集下より)
 裏合谷とは、「掌中、母指球の尺側、合谷穴と相対するところ、之を按ずれば極めて痛み透るところ」とする。 正座させ、関元・中極・腎兪には最初小灸にして漸次灸壮を増やし、腰腹部春陽の如くポカポカと温暖となるまで施灸する。温暖にならざれば効果が薄い。裏合谷には灸7壮。
※筆者註:下腹部正中に施灸するのに、仰臥位で行うのに比べ、座位で行った方が腹筋に力が入る。骨盤底筋に対する治療効果だと思われた。裏合谷の灸治がEDに効果あるというが、アセスメント不足である。
 

3)PC筋・BC筋の押圧
ペニスの硬化を直ちに実感できるので、治療室での指導に向いている。  
①固い椅子に開脚で座らせる。
②背筋を伸ばして上半身を前傾させ、会陰穴をボールで圧迫刺激する。
③これを繰り返すと、ペニスが充血感が得られる。 
④陰嚢と肛門の間(会陰穴)に、野球のボールなどを置いて圧迫すると強い刺激になる。
       

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