Quantcast
Channel: AN現代針灸治療
Viewing all 655 articles
Browse latest View live

右仙腸関節障害による劇痛にはトラマールが、残存する慢性痛には局所の針が効果あった自験例(68才、男性)

$
0
0

1.主訴 右仙骨部の劇痛(右仙腸関節機能障害による)

2.現病歴

①令和4年3月20日
勉強会で立位と座位を繰り返しているうち、右腰痛出現。3時間すると座位から立ち上がることができなくなった。

②翌日
目覚めた朝、立ち座りは支障なかったが、仰向けに寝る際と、骨盤をわずかにひねるだけでもズッキンと息が止まるほどの激しい痛みを右仙腸関節部に感じた。ベッド上で仰臥位から上体を起こすだけで、仙腸関節にズッキンという激しい痛みが何回もくるので、それを思うと仰臥位になれなくなった。
横に慣れないので椅子に座ったままた眠ることにしたのだが熟睡できず心身ともに疲れ果てた。わずかな動きでもズッキンと痛むので、自分の骨盤に針を刺すのは困難たった。

③発症6日後
状態に変化がないので、近くの整形外科に行った。骨盤のX線をとるも大した所見なく、鎮痛剤を処方。自宅にあったロキソニン60mgを3T飲むもまったく痛みが止まらなかったことを伝えると、トラマール(麻薬に近い強力鎮痛剤)を処方された。午後6時にトラマール服用し、午後7時半~翌日午前○時半まで5時間久しぶりに仰臥位で熟眠できて、精神的にも少し落ち着くことができた。しかし起床後して間もなく右仙腸関節部の激しい痛みが再発。我慢できないので自宅にあったロキソニン4T(本来の最大内服量は3Tまで)を服用。すると間もなく寝返りがうてるようになり、明け方から朝にかけて4時間痛むことなく睡眠できた。

④発症7日後
午前9時に起きてみると、仰臥位から座位へ体位変換時、ギクッとする時が半減していた。その日は、骨盤の痛みを感じつつ、痛い痛いと言いつつ、仕事したが非常に身体が疲れ、午後7時にはトラマール服用して就寝した。

⑤発症8日後
深夜に目覚めたが、仰臥位から座位への体位変換時、ギクッとする痛みは8割減になっていた。そこで本日整形の2度目の受診日だったがキャンセル。本当は仙腸関節ブロックをしてほしかったのだが、それを言えない雰囲気だったたため。

⑥発症9日後
右仙腸関節部に、持続的な重だるい痛みを感じる時間が長い。とくに目覚めて起き上がると痛む。椅子に座っている分にはあまり痛まないが寝そべると、その後起きてからがつらい。ただしギクッした痛みは消失し、トラマールを服用するほどの痛みにはならない。
これまで仙腸関節を矯正する体操をいろいろ試したが、あまり効果なかった。

⑦発症10日後 
右仙腸関節部に円皮針やせんねん灸をしてみたが、あまり効果はなかった。そこで最後の手段ということで3寸#8針を用い、自分自身で右仙腸関節と思えるところに刺針してみた。刺針部位が自分で確認できず押手もできないので、刺針も不確かになるのはしょうがなかったが、針体を2㎝残して骨膜に当たり、当たると同時に響きのような鈍痛を感じた。自分自身で施術するので、正しくマトに命中させるのは難しく、数時間後に痛みは再発した。3時間後再治療。骨膜への針響を得て、仙腸関節体操を少々行い、5分置針して抜針。するといつもやってくる重だるい持続痛は大幅に軽くなった。半日経た現在、痛みは再発していない。

 

3.感想

①これまで何度も慢性の仙腸関節障害の患者を診てきたが、針でうまく治療できていたように思う。しかし仙腸関節障害で身動きできない劇痛になることもあることを身をもって知った。

②トラマール使用→熟眠できたこと→痛みの悪循環の遮断と心身安定といった流れがあった。トラマールはありがたかった。ただし慢性持続性の痛みは消えず、これも非常に苦しいものだった。この種類の痛みに骨膜に至る針が効果があり、針のありがたさを実感した。

③かつて代田文彦先生が、骨膜の針響は拡散性が強いという言葉を思い出した。すなわち厳密にツボに当たらなくても、針で症状と似た痛みを再現させれば効果ある。今回の治療効果は6時間以上たった現在も持続中である。針のありがたさが身にしみた。

 


バックハンドテニス肘の針灸治療(改訂版)

$
0
0

1.バックハンドテニス肘の概要

1)症状:テニスでバックハンドで球を打つたびに痛みが出る。雑巾絞り動作(前腕回外筋負荷)でも起こりやすい。
 
2)所見
外側上顆の腱起始部圧痛(++)、伸筋々腹(おもに短橈側手根伸筋)の圧痛
中指伸展テスト(+):手掌を下にして前腕をベッド面につける。検者は被験者の中指を軽く押圧しつつ患者に中指を反らすよう指示。手三里付近の痛みが出れば陽性。
 

3)病態


 
①テニスで相手からの返球をラケットで受け止める際、手関節は背屈するのて前腕屈筋は伸張状態になるが、この衝撃を受け止めるには短橈側手根伸筋が強く収縮する。
すなわち筋長は伸びているのに筋は緊張する。これを伸張性筋収縮(=エキセントリック筋収縮)とよぶ。
  

 

②エキセントリック筋収縮による筋損傷

エキセントリック筋収縮は筋に負荷がかかるので、筋力を増やすには適するが、筋の微細損傷を生じやすい筋収縮形態になる。
なお通常の筋収縮は緊張すると筋長は短くなる。これを短縮性筋収縮(コンセントリック収縮)とよぶ。コンセントリック筋収縮は、筋への負荷が比較的少ないので、筋線維を損傷しづらい。
eccentricは<奇妙な>という意味。鉄棒懸垂で肘を曲げて身体を上げつつあるのは短縮性筋収縮であり、肘を伸ばして身体を下ろしつつある状態は伸張性筋収縮である。


③短橈側手根伸筋の特殊性

長・短橈側手根伸筋の共通起始は上腕骨外側上顆。長橈側手根伸筋停止は第2中手骨底。 短橈側手根伸筋の停止は第3中手骨底である。
この2筋の作用はよく似てくるが、橈側手根伸筋は単に手関節背屈作用なのに対し、短長橈側手根伸筋が橈背屈作用になる。尺背屈では長橈側手根伸筋の活動が抑制され、短橈側手根伸筋の背屈作用が重要になる。

 

④バックハンドでのボールを受ける姿勢(雑巾絞りの姿勢と同じ)は、前腕の強い回内を伴うので、回外筋は伸張を強いられるので、回外筋上も圧痛が出現しやすい。
     

 

2.バックハンドテニス肘の針灸治療
 
1)手三里刺針しての手関節背屈運動針

前腕伸筋群とくに短橈側手根伸筋の短縮が外側上顆に加わる腱付着部の牽引力増強を引き起こしている。                 
   
→中指伸展テストを実施し、手三里付近で短橈手根筋上の圧痛点(手三里の5㎜~1㎝尺側)を探し刺針する。置針して手関節の背屈運動針を行う。この刺針により筋緊張は     ゆるみ筋長は長くなる(元に状態にもどる)。
     
※手三里は、教科書では前腕橈側、曲池穴の下2寸、長・短橈側手根伸筋の間に取穴する。しかし本稿では短党則手根伸筋中に取穴刺針している。

 

2)手三里刺針しての前腕の回内・回外運動針
    
雑巾絞りのように、患側の手関節を回外する動作で痛む場合は、回外筋の伸張痛の疑いがある。
刺針部の手里刺針は前項と同様だが、橈骨に至るような深刺をした状態で、ゆっくりと大きな前腕の回外・回内動作を 5~10回行わせることで、回外筋の過収縮を改善する。

※手三里の局所解剖では、表在筋として長・短橈側手根伸筋があり、深部筋には回外筋がある。この奇妙な偶然により、手三里刺針は手関節背屈痛にも前腕回外痛にも使えることになる。

 

ゴルフ肘の針灸治療(改訂版)

$
0
0

1.症状

ゴルフ肘ゴルフクラブのインパクト時、効き手の肘内側が痛む。 上腕骨内側上顆部の運動時痛

2.病態
 
1)ゴルフのスイングは、まず前腕を回外してクラブを持ち上げる。次にクラブを振り下ろすが、その際に利き腕(多くは右)の前腕は回内傾向になる。これは円回内筋が収縮し、その起始である上腕骨内側上顆に牽引ストレスが働くことになる。

※長掌筋の機能
 手根部を曲げ,同時に手掌の腱膜を引く働き をする。ヒトでは必要ないので退化している。  
サルが木の枝にぶら下がったり、ネコが随意に  爪を出すのは、長掌筋よる。

 

※前腕が回内してしまう理由として、クラブの右手の握りで、母指。示指・中指を曲げてクラブを持つ習慣にあるという。この握りでクラブを振ると、前腕は回内してしまう。環指・小指に力を入れてクラブを握ると、自然と中指も曲がるようになる。

2)ゴルフクラブのスイングは、体幹のひねり(胸椎の回旋と骨盤のひねり)を効かすべきだが、腕だけでクラブを振るなら、前腕の回内を入れてインパクトしてしまう。

 

3.針灸治療   

1)手関節屈曲は、主に橈側手根屈筋と尺側手根屈筋の収縮による。なお橈側手根屈筋のみ収縮すれば手関節は橈屈し、尺側手根屈筋のみ収縮すれば手関節は尺屈する。これら両筋は上腕骨内側上顆を起始とし、筋緊張負荷が過多になれば運動時痛を生ずる。
    
橈側・尺側手根屈筋の圧痛点を見い出すには、被験者の手を掌屈させ、橈側・尺側手根屈筋するよう指示する一方、検者はこれをさせないように力を加えることで、筋収縮状態に誘導する。この姿勢で筋中の圧痛点を見い出して刺針するという方法が成書に記載されていた。
これは前腕屈筋を収縮状態にしていて施術する方法になる。
 

上腕骨内側上顆部の少海には強い圧痛がみられるので、刺針したまま手関節屈伸の運動針を行う。

    

 

 

2)仰臥位で前腕下にマクラを入れ、手関節を過伸展状態にする。この姿勢で、橈側・尺側手根筋上の圧痛点に刺針するという方法もある。これは前腕屈筋を伸張させて施術する方法になる。


この方法は、自宅で行う予防エクサイズとしても応用できる。

健側の指で、患側の手掌をつかんで、手関節を背屈するのがよい。
指をつかんで手関節を背屈させなら、浅・深指屈筋のストレッチになってしまうため。


3)円回内筋刺針
       
被験者の腕を回内するよう指示、検者はこれに抵抗を加える。その状態で円回内筋の圧痛を調べる。円回内筋は上腕骨内側上顆と前腕橈骨外縁中央を結んだ位置にある。代表穴は孔最。 
※孔最:前腕前橈側、太淵穴の上7寸、尺沢穴の下3寸腕頭骨筋上。深部に円回内筋がある。

 

 

 

 


    

 

バネ指の針灸治療 ver.3.2

$
0
0

本原稿は約3年前に発表した「バネ指の針灸治療」を全面的に改定したものである。

1.手の指の腱・腱鞘・靭帯の構造 

指に向かう深指屈筋腱と浅指屈筋腱は、運動量が大きく力も強大なので、他の組織との摩擦を 防ぎ、滑りをよくするため、遠位中手骨から指先までを腱鞘で覆われている。 さらに指の掌側には、腱の浮き上がり防止のため、滑車装置である輪状靱帯(靱帯性腱鞘)が   腱鞘を補強している。輪状靱帯は、示指~小指それぞれに5カ所(母指は2カ所)ある。

バネ指の原因として最も多いのがA1輪状靱帯によるもので、次いでA2輪状靱帯に多い。A3~A5輪状靱帯とC十字靱帯はバネ指を起こさない。




 3.バネ指の概要

1)病態生理  

指の屈曲動作は前腕部の指屈筋が収縮し、その筋から指の末節骨・中節骨に停止した腱が体幹側に引っ張られることで行われる。この腱と靱帯への機械的刺激が過度になっても、通常は一晩休めば炎症は鎮まる。しかし自然修復できる限度を超えた刺激が繰り返されれば、徐々に輪状靱帯は肥厚し、腱を締めつけるまでになる(これが狭窄性腱鞘炎状態)。 輪状靱帯に腱が繰り返し衝突することで腱の一部にシワが寄り、シワは次第に大きくなって結節に発展する。


2)分類・症状・所見  

<第1期>    
MP関節の手掌側に痛みや圧痛があり、指の運動時痛がある。バネ現象はなく関節の動きも正常。日常生活にほとんど支障がない。このまま自然治癒することもある。治療は安静。  


<第2期>     
腱鞘内への注射(局所にステロイド+局所麻酔剤)をした直後は効果を実感しないが、数週間でじんわりと効いてくる。この効果は9割の者が実感できるが、やがては元にもどることも多い。腱への注射は腱を傷つけることでになるので、2ヶ月に1回計2~3回注射して、それでも元にもどる場合は手術に踏み切る。   

①バネ現象陽性
指が一定の角度に達すると、自動運動が障害され、これを自動的・他動的に強制屈曲させる時には、弾撥性に屈曲する。かろうじて指は屈伸できるが、曲げた指がスムースに伸びない現象。重度バネ指でなければ、無理に伸展させると、轢音を発し、完全伸展可能。   

②モーニングアタック出現
夜間就寝中に、無意識に指を屈曲するせいか起床後に指を再伸展させる際に強く痛む。   

③MP関節掌側部の圧痛・運動痛。腫瘤を触知  

 

<第3期>       
関節拘縮状態。 バネ現象は消失するが、指の完全屈伸はできなくなる。日常生活で非常に支障をきたす。A1輪状靱帯の開放手術以外に方法がない。        重症の場合、A1切開とともにA2手掌側の下半分を切開することもある。A1とA2両方を完全切開することは、指屈曲時に腱が浮き上がってくるので実施できない。

 

 

2.代田文誌先生の運動療法
 
代田先生は、得意とする針灸が非常に多い方だったが、バネ指を苦手とし、独自に考えた運動療法を行っていた。成書よりその方法を転記する。「障害指の屈筋を中心に、患者の手首を術者の片手で固く握りしめ、その状態で患者に全力で指を十回~数十回屈伸するよう命じる。すると今まで自力では屈伸できなかった指が、突然自力で屈伸できるようになる」

記方法を筆者は追試してみた。確かに効果はあるが満足する程度ではないこと。またやはり針での治療法を知りたいと思っていた。
 
以下は筆者の考えた方法である。代田文誌先生の運動療法よりも効果的であるようだ。 


3.バネ指の針治療
 
バネ指にも軽症と重症がある。対する鍼灸の治療効果は、当然のことであるが、軽症の方に適応がある。具体的には他指で補助することなく、屈曲した指の再伸展できる者に効果的である。

1)母指バネ指の針灸
    
母指バネ指の症状は、母指IP関節の屈曲時にポキッとして自動的に折れ曲がる現象と、屈曲状態にあるIP関節を伸展した際のポキッとした自動伸展現象(重症の場合、自力では再伸展不能)となることである。
    
母指バネ指では、長母指屈筋腱上に結節ができる。長母指屈筋の走行は、は前腕骨間膜を起始とし、母指末節骨に停止している。仮にこの筋の筋トーヌスも筋長も生理的範囲内であれば、腱に加わる伸張力は弱くなり、再伸展の際に結節が存在したとしても、輪状靱帯にぶつからなくてすむのではないだろうかと考えてみることにした。
     
具体的には、前腕屈筋側中央に郄門をとり、同じ高さの肺経上に治療点を定める。そこから長母指屈筋に向けて斜し、母指屈筋の運動針を指示する。長母指屈筋中に刺入できていれば、母指の動きと同期して針柄が上下に動くことを観察できる。


   

2)第2~第5指バネ指の針灸
    
親指以外の4本指でDIP関節屈曲は深指屈筋、PIP関節屈曲は浅指屈筋、MP関節屈曲は虫様筋というように役割分担されていて、比較的大きな物を握る時は深指屈筋が働き、握力計や比較的握りやすい物を握る時は浅指屈筋が働き、握りしめたり細い物を握る時は虫様筋が主に働く。ただし実際には独立して働く事はほとんど無く互いに協調して握力を生み出す。



バネ指は、浅・深指屈筋腱にできた結節が、腱共通の輪状靱帯を通過できなくなった状態である。もし浅・深指屈筋が弛緩・伸張した状態では結節が腱鞘に入らなくても指伸展が可能となると考え、前腕屈筋側中央に心包経の郄門をとり、その高さの心経ルート上を刺入点とし、浅指屈筋または深刺屈筋中に至る斜刺を行ない、置針した状態で、母指を除く4指の屈伸運動を行わせる。深指屈筋中に刺入できていれば、母指の動きと同期して針柄が上下に動くことを観察できる。(臨床上、浅指屈筋中に刺入  しても治療効果はあがる)
 

4.バネ指腫瘤部への局所刺激と小鍼刀の検討

バネ指の運動障害の原因は、A1輪状靱帯部における腱の圧迫が最多なので、輪状靱帯を切開して腱の通りをスムーズにしてやればよい。輪状靱帯を切開しても、腱は安定した位置にあるので、指の曲げ伸ばしの動作に支障は起きないという。

かつて注射針によるばね指手術(局所麻酔注射後、腫瘤部に注射針をか刺して、鍼先を小刻みに動かすことで小分けして輪状靱帯を切断する)も行われてきた。この技法は、屈筋腱損傷などの合併症が報告されていて、現在では医療施設ではあまり行われないが、中国では小鍼刀(鍼先がマイナスドライバーのようになっている鍼)が考案され、輪状靱帯を突っついて押し切るばね指治療も行われているようだ。エコー装置を使えば針先と腱鞘の位置関係が確認できる。この方法は、法的に日本での鍼灸術の範疇に入るかどうかは微妙であし、」また無麻酔で施術することになるので患者にとってはかなり苦痛だろう。しかし通常の豪針で、輪状靱帯を鍼先で少々突いただけでは、輪状靱帯の圧迫は取り除くことは難しい。

腫瘤部に円皮針の貼り付けや施灸により効果があることもある。これは局所刺激としての限定的効果であろう。

   

 

 小針刀を使ったバネ指(板機指)治療の動画

 https://www.youtube.com/watch?v=w60t6_Ox3VA

 

 

  

 

頭針法がなぜ効果をもたらすのかの一考察 ver.1.1

$
0
0

1.頭針法に関する成書の貧困について
 
頭皮に刺針することで、頭痛のみならず、非常に多様な疾病や症状を治療する方法を頭針法とよぶ。頭針にはいくつかの流派があり、それぞれ独自の頭針チャートをもっていて、ある疾病の時にはこの部分を刺激するという法則が定められている。しかしながら流派にり指定された刺針点が異なることや微妙なコツもあって、追試してみても容易には治療効果が観察できないという困った問題がある。
さらに勉強しようとする者の意欲を削ぐことになるのは、生み出され理論化された過程が説明されていないので、やってみて効いた、効かなかったというレベルに問題が終始するほかないことである。こうした論理性の欠如は、耳針法とまったく同じもので、中国人特有の思考回路かと思っていたら、山元敏勝著「山元式新頭針療法」でも同じような内容なので非常に失望した。

耳針チャートにはノジェ式と中国式の2種が代表的だが、基本的には母胎内にいる胎児は頭を下にして手足を縮こまっているが、その形が耳介に反映されているという風になっている。にわかには信じがたいが、そういうこともあるかもしれないとは思うことができる。
頭針チャートでは大脳皮質の機能局在が元になっているらしいが、脳は頭蓋骨で覆われており、大脳皮質局在と頭皮が対応関係にあることはにわかには信じがたい。


2.頭針の機序
 
偏頭痛と血管刺激部位の関係は、RayとWolfによって詳細に検討されている。それによれば脳の表在性の動脈刺激部位と頭痛部位の関係は、あたかも頭蓋骨が存在しないごとく、血管直上付近の頭皮に出現(直径5㎝ぐらいの範囲)し、脳底部の動脈では、耳と眼やこめかみの高さで帯状に出現することが確認されている。
一方頭皮上を刺針すると、刺針部を中心とした大脳皮質の血流改善が観察されている。これは三叉神経を仲介した反応だと推定されており、頭皮刺激が直下の大脳皮質に直接影響を及ぼしているとは考えられていない。なお山元式新頭針法は、別称頭髪際刺針とよばれており、文字通り前頭髪際を中心に治療点を求めるもので、三叉神経の分枝である前頭神経刺激だといえるかと思う。

つまり障害部位の大脳皮質の血流を増すことが治効を生むのだと仮定すれば、頭皮への刺針は、ある程度の効果をもたらすことが予想される。その施術点を求めるには、三叉神経支配領域であることが必要条件であるが、それ以上のことは不明である。ただ頭針チャートが何通りもあるように、かなり大きな面積をもつものだと予想される。


最近、パーキンソン病に対し、耳介上方のブヨブヨした感じの処に、横刺捻転手技をすると症状軽減し、また血中ドーパミン量が増加傾向にあることが確認されている(水島丈雄:パーキンソン病の鍼灸治療、医道の日本、平成15年12月号など)。三叉神経を刺激することで、脳内物質の分泌に変化がみられることは、今後の針灸の発展方向に大変な影響をもたらすことになるだろう。

 

3.頭針が有効となる条件
 
このような知見のもとに自己流に等しい頭皮刺激を行っても、実際にはあまり効果が得られないだろう。というのは、①一定の刺激量、②促通手技の併用、③一定以上の置針時間といった条件も満たす必要があるからである。

①一定の刺激量とは、中国針程度の太さ(和針10番相当)の使用である。

②促通手技とは、患部に刺激を与えるということである。頭皮針の創始者、朱明清氏の方法は、これが非常に徹底している。たとえば片麻痺で歩行困難の患者に対しては、座位にして頭皮針を行うが、頭皮針で手技針を行う一方、麻痺側の足底を、繰り返し床に叩きつけるような自動運動を併用したり、耳疾患の患者では頭皮針の手技針を行いつつ、外耳口に指を入れ、指を前後に動かしたり、外耳口を塞ぐように耳介を折り曲げ、指で叩いてその音を聞かせるようにする。これらは一言で言うと導引術を併用しているといえる。

※導引とは何か
中国医学には治療医学と養生医学があり、治療は薬と鍼灸、養生は食養生と気功から成り立っている。この気功の前身が導引吐納法で、導引とは身体をゆり動かし気の通路である経絡がスムーズに流れやすくする体操法のこと、吐納とは呼吸法のこと。人の心は常に静かであるべきだが、身体は常に動かしていた方がよいという思想にもとづく。


③治療の直後効果は速効的だが、手技を終えてもすぐに抜針はしない。すぐに抜くと元の症状に戻るらしい。1時間以上置針し、重症者には半日置針することもあるという。なお治療直後効果ない者は、置針しても無駄である。




肋間神経痛の針灸治療 ver.2.0

$
0
0

1.胸痛を起こす原因
 
冠状動脈の虚血と、肋間神経の興奮が胸痛の2大原因である。

1)冠状動脈の虚血
 冠血流量が不十分→心筋虚血→心臓を支配する交感神経(Th1~Th5)興奮
→心臓痛となる。ただし強い痛みの場合、交感神経興奮は交通枝を介して脊髄神経にまで興奮が漏れるので、同じレベルの脊髄神経すなわちTh1~Th5胸神経の後枝と前枝(=肋間神経)を二次的に興奮させる。つまり虚血性心疾患による胸痛とは、交感神経性と肋間神経痛の混合性である。
 なお、虚血性心疾患で左上肢尺側に放散痛がみられるのは、Th1脊髄神経の興奮によるTh1デルマトーム領域の反応である。この代表疾患には、狭心症と心筋梗塞がある。

2)肋間神経の興奮
胸部の体壁知覚は肋間神経支配なのは当然だが、その深部にある壁側胸膜も肋間神経支配である。そのすぐ下にある臓側胸膜と肺実質に知覚はない。ゆえに肺癌や肺結核の初期に自覚症状が乏しいが、次第に進行して病変が胸膜に及ぶと痛みが出現してくる。


2.肋間神経痛の概略

1)原因
特発性は比較的若い女性に多く、左側の第5~第9肋間領域に多い。成書には、特発性は少なく大部分は症候性であると記されているものが多いが、針灸に来院する患者の大部分は特発性であり、次いで帯状疱疹による肋間神経痛も来院する。


2)肋間神経の走行と神経支配

①第1~第6肋間神経
肋間を胸骨縁に向かって走行し、前胸の肋骨に相当する部の肋間部の筋運動と、深部知覚を支配する。その皮枝は前胸壁皮膚知覚を支配する。皮枝には外側皮枝の外側枝と内側枝、皮枝の外側枝と内側枝がある。
②第7~第12肋間神経
途中までは肋間部を走行するが、腋窩線あたりから内腹斜筋と腹横筋の間を走行し、腹白線に至る。腹壁筋の運動と深部知覚を支配する。その皮枝は鼡径部を除く腹壁の知覚を支配する。要するに腹部の大半は肋間神経支配になる。
 


3)症状
   
針灸学校では「肋間神経が深層から表面に出る部に圧痛がみられ、次の3ヵ所が代表的圧痛点」と学習したと思う。
  
①脊柱点:脊柱外方3㎝の処。胸神経後枝が表層に出る部。
②側胸点(外側点):前腋窩線上。前枝の外側皮枝が表層に出る部。
③前胸点(胸骨点):胸骨外方3㎝。前枝の前皮枝が表層に出る部。
第6肋間神経以下は腹部肋間神経痛として現れ、前胸点に相当する圧痛点は腹直筋外縁に出現し、「上腹点」と称する。

実際にはある範囲全体がまんべんなく痛むようで、特定の圧痛点を見いだすのは困難であることが多い。実際は教わったことと違っている事実を知り、がっかりする。

 

 

 

3.特発性肋間神経痛の新しい考え方

1)特発性肋間神経痛の真因

特発性(原因不明)の肋間神経痛は、これまで神経の刺激によるものと考えられていた。そして神経が深層から表層に出る部が治療点だとされていることから、脊柱点・外側点・間前胸点を取穴するのが定石だった。しかし生理的に上流の知覚神経が興奮しても、下流にその興奮を痛みを伝達することはない(ベル・マジャンディーの法則)ので、中枢側の筋々膜症症状が末梢側に放散痛を生ずる状況を、肋間神経痛と呼んでいるのが真実である。これはMPS(筋膜症候群)の考え方で説明できる。だたし帯状疱疹性の肋間神経痛ならば知覚神経興奮が生ずる。


2)肋横突関節症と肋間神経痛 

Th1~Th12胸椎が肋骨との間で肋椎関節を構成している点が特異的である。肋椎関節には肋骨頭関節と肋骨横突関節の2種ある。とくに肋横突関節の可動性が悪くなると、この付近を走行する肋間神経が刺激を受けるという説明が有力視されている。同時に付近にある内・外肋間筋も緊張する。内・外肋間筋緊張により肋間神経痛が生ずると考えた方がよいともいえる。
ではなぜ肋椎関節の障害が生ずるのだろうか。これはとくに上体を左右に回旋させる運動で、胸椎と関節する肋骨は回旋運動を強いられる。これにより肋椎関節(とくに肋横突関節)は可動しすぎたり、あるいは十分に可動できなかったりして、関節症状態になるのだろう。

3)特発性肋間神経痛の治療(木下晴都:肋間神経痛に対する傍神経刺の臨床的研究、日鍼灸誌、29巻1号、昭55.2.15) 

肋間神経痛の治療は、反応ある胸椎(第5~9肋間が多い)に対応する肋横突関節および関節周囲の肋間筋に対する施術を行う。この治療法は、木下晴都氏の創案した「肋間神経痛に対する傍神経刺」そのものである。

①2寸#5針を使用
②症状にある胸椎棘突起から外方2横指(3㎝)を刺入点とする。
③10°内方にむけて直刺4㎝。この時、気胸には十分注意する。
⑤5秒留めて静かに抜針

※多くの場合肋骨または胸椎横突起にぶつかり4㎝も刺入できない。しかし胸椎棘突起4~10の高さにおいては、およそ棘突起下縁の高位に取穴すれば、鍼は胸椎横突起間に刺入でき、目的を達する場合が多い。鍼を脊柱に向けて10°傾けるのは、気胸防止の意味がある。


⑥最初の2~3回は毎日、その後は隔日、または1週間に2回程度の施術とした。
⑦102例の肋間神経痛患者に対して傍神経刺をおこなったところ、91%が優、6%が良、3%が不変、悪化例はなかった。うち優の結果を得た93例をみると、発症1~7日の52例では平均2.9回治療。8~15日の18例では4.6回、16~30日の12例では7.9回、3ヶ月以上経過した4例では11.5回だった。

 

「木下は刺針した針を5秒間留め、抜針する」としているが、肋横突関節は胸椎を左右に回旋した際に動くから、座位で規定通り刺入した後、上体を左右に回旋する運動針が有効かもしれない。

 

4.症例報告:本態性肋間神経痛に対する傍神経刺治療(66才、女性)

当院初診3週間前から右側胸部から前腹部が痛くなり、上体を左右費ひねる時に痛む。寝返りも非常に苦痛だという。現代医療にかかるも検査で異常はなく、痛み止めの薬は処方されるも十分に効かないという。

当初は、上体をひねると痛むという点と背部一行に圧痛あるということで、右中背部胸椎傍の短背筋群の筋膜性背痛と解釈して、中背一行に深刺するもあまり効果がなかった。圧痛ある中背部起立筋に運動鍼すると少し上体の回旋ができるようになった。その頃になると背痛ではなく、上体をひねる時に右側胸部から右側腹部の痛みを強く訴えるようになたことから、胸椎部短背筋群の筋筋膜性背痛ではなく、右T9中心の肋間神経痛を疑うようになり、木下晴都氏のの肋間神経傍神経刺を追試してみた。その1回治療の直後から上体の左右の回旋痛が大幅に軽減した。

 

 

 

ブログ「現代医学的鍼灸」とテキスト「現代針灸臨床論」5年前との比較

$
0
0

「現代医学的鍼灸」という気負ったタイトルでブログを開始したのは、2006年3月11日からであった。今から約11年前のことになる。4月3日のアクセス数は閲数1,275、訪問者数566で、順位は793位(2,6,95,596ブログ中)となっていた。

最初の頃は、「現代針灸臨床論」という鍼灸学生用テキストとしてすでに存在した内容を、ブログとして発表しただけだったので、とくに苦労を感じなかった。現在の発表ブログ数は316だが、200を越えた頃から、発表するネタがなくなっていった。そこから先は、考えたり調べたりして新たな内容を創作していき、その内容をテキスト内容に付け加えるという作業を繰り返しつつ現在に至った。

「現代針灸臨床論」では授業時間の兼ね合いから、一つの章を基本的に20ページ未満とにし、プリント配布の関係から白黒印刷に対応する図しか載せられなかった。しかし現在、教員を辞めて以来、こうした制約はなくなり自分の思うようなテキストに変化してきた。
その結果、テキストページ数は、かつての1.5倍で、必要に応じて、カラー図も増えていった。ネット上で「現代針灸臨床論」(売価10,000円)このテキスト販売を開始してから、約十年が経過した。コンスタントに月平均4枚程度購入希望者が連絡してくるのを嬉しく思っている。このテキストは頻繁に内容が刷新されているが、平成29年4月4日時点で目次は次のようになっている。

 

5年前に平成29年4月4日で目次を記したが、本日は令和4年4月26日で、あれから5年が経過した。この5年間にテキストがどのように変化したのか比較してみた。新たな内容を加えつつ、ページ数増大を防ぐため削除した内容も少なくなかった。全体で10%程度ページ数が増加となった。ブログ発表数は418題で、5年前の316題と比べ102増えた。
5年前が黒字、現在が赤字。

 

現代針灸臨床論Ⅰ(H29.4.4  計297ページ)→(R4.4.26  計330ページ)
整形・ペインクリニック領域

第1章 頭痛(p19)(p23)
 1節 針灸不適応の頭痛の除外
 2節 針灸適応となる頭痛の概要
 3節 頭痛の鑑別診断
 4節 頭痛の針灸治療

第2章 頸腕痛(p35)(p31)
 1節 頸腕痛疾患の概要  
 2節 頸肩腕症状の鑑別診断  
 3節 頸肩腕痛の針灸治療
 4節 肩こり性 

第3章 肩関節痛(p22)(p29)
1節 肩関節の動きと作用筋
2節 肩関節疾患の概要
3節 肩関節痛の鑑別診断
4節 肩関節痛の針灸治療

第4章 腰痛(p24)(p26)
1節 腰痛疾患の概要
2節 腰痛の不適応の判定
3節 効かせるための針の技法  
4節 殿部痛

第5章 腰下肢痛(p31)(p39)
1節 腰神経叢症状
2節 仙骨神経叢症状と腰椎椎間板ヘルニア
3節 脊柱管狭窄症  
4節 股関節疾患

第6章 膝関節痛(p29)(p31)
1節 針灸不適応の膝痛疾患  
2節 膝関節痛の鑑別診断  
3節 針灸適応の膝関節痛の針灸診療
4節 変形性膝関節症の針灸診療

第7章 顔面症状(p22)(p25)
1節 顔面痛
2節 顔面神経麻痺   
3節 顔面部の痙攣

第8章 上肢部症状(p34)(p36)
1節 肘関節痛 
 2節  手関節痛・手指痛
 3節 上肢の神経麻痺と神経絞扼障害

第9章 下肢部症状(p34)(p41)
1節 下肢の常見疾患 
2節 足部の常見疾患
3節  下肢の神経麻痺と神経絞扼障害

第10章 歯科症状(p21)(p24)
1節 歯の基礎知識
2節 歯科の主要疾患
3節 歯科領域の針灸治療
4節 口内炎
5節 顎関節症

第11章 治療効果を高める理論(p26)(p25)
1節  神経線維と運動制御
2節  MPS(筋膜性疼痛症候群)
3節『鍼治新書』の要点
               


現代針灸臨床論Ⅱ(H29.3.24 計356ページ)→(R4.4.26 計393ページ)
内科・眼科・耳鼻咽喉科・泌尿器科・産婦人科・皮膚科他 領域 
 
第1章 上中腹部消化器症状(p36) ( p39)
1節 腹痛の代表疾患
2節 針灸院における診察手順
3節 内臓体壁反射と針灸治療パターン
4節 横隔神経と体壁反応
5節 胃疾患と針灸治療
6節 肝炎患者の扱いと慢性肝炎の針灸治療
7節 胆道疾患と針灸治療
8節 膵炎と針灸治療        

第2章 下腹部消化器症状(p27)( p31)
1節 下腹痛と体壁反応  
2節 針灸院での下腹診察と針灸治療
3節 下痢
4節  便秘
5節 下痢・便秘の針灸治療
6節 虫垂炎と針灸治療
7節 痔疾と針灸治療         

第3章 鼻科・咽喉科症状  (p30)  (p33)
1節 鼻の疾患
2節  咽頭の疾患
3節 喉頭の疾患
4節 くしゃみ・しゃっくり
5節 かぜ症候群

第4章 胸部症状(p24)( p30)
1節 胸痛の針灸診療
2節 動悸・息切れ
3節 咳嗽・喀痰の針灸治療
4節 気管支喘息の針灸診療     

第5章 末梢循環器症状(p32)( p33)
1節 冷え症

2節 ほてり・のぼせ
3節 末梢動脈閉塞性疾患
4節 メタボリックシンドローム
5節 低血圧症

第6章 精神症状と全身症状( p37)(p43)
1節 不眠症
2節 疲労倦怠および貧血
3節 不定愁訴症候群・神経症・更年期障害
4節 肥満 

第7章 腎・泌尿・生殖器症状(p31) ( p35)
1節 腎・泌尿器と体壁反応  
2節 主な腎疾患  
3節 疼痛を生ずる尿路疾患
4節 頻尿・尿失禁・排尿困難
5節 夜尿症
6節 ED          

第8章 産婦人科症状( p29)(p31)
1節 性周期とホルモン
2節 婦人科の主要疾患   
3節 婦人科疾患の体表反応と針灸治療
4節 月経異常  
5節 月経随伴症状と針灸治療  
6節 不妊症 
7節 産科の主要疾患
8節 乳房症状             

第9章 眼症状(p31)(p37)
1節 眼の構造と機能 
2節  代表的な眼症状と鑑別診断
3節 代表的な眼科疾患
4節 全身疾患の一部としての眼科症状
5節 眼科の針灸治療            

第10章 耳科症状( p37)(  p39)
1節 耳の構造と機能
2節  難聴・耳鳴の診察
3節 めまいの診察
4節  中耳炎と針灸治療
5節  耳科疾患の概要
6節 難聴・耳鳴の針灸治療
7節 めまいの針灸治療    

第11章 皮膚科症状(p23)(p25)
1節 皮膚腫瘤
2節 アトピー性皮膚炎
3節 毛髪の異常

第12章 その他の主要疾患( p19)( p20)
1節  関節リウマチ
2節 脳血管障害 
3節 パーキンソン病
  巻末資料:体性神経デルマトーム図    

 

 

古代九鍼の知識 ver.1.4

$
0
0

これまで古代九鍼についてはあまり関心がなかったが、勉強し直してみると結構興味深いものがあった。古代九鍼のうち刀をもつタイプは、西洋医学のメスなどに改良進化したが、切ることは医行為とされているので、今日の鍼灸師は毫鍼以外は使う機会がなくなった。擦ったり押圧したりするタイプ(鑱鍼・圓鍼・鍉針)は、現代医学では興味対象外らしいが、針灸師の創意工夫により、今日には小児鍼として使われるに至った。

現在、古代九鍼について知るには柳谷素霊著「図説鍼灸実技」があり、近年では石原克己氏代表の「東京九鍼実技研究会」の活動がある。なお同会の著書として緑書房刊「ビジュアルでわかる九鍼実技解説」がある。それ以外にほとんど知識は得られない。まあ国家試験の出題範囲なので、ある程度の学習は必須となっている。

はり師きゅう師の国家試験の要点プリントは、次のように整理している。誰が考えついたのか、語呂が実に巧みである。
①破る鍼:鈹鍼(ひしん)、鋒鍼(ほうしん)、鑱鍼(ざんしん) 語呂「秘(鈹)宝(鋒)山(鑱)を踏破(破)」
 ※鑱鍼には刺さないタイプもあり、これが今日の小児鍼の原型。
②刺入する鍼:毫鍼、圓利鍼、長鍼、大鍼  語呂「強(毫)引(圓)に刺入してちょう(長)だい(大)」
③刺入しない鍼:鍉鍼、圓鍼  語呂「庭(鍉)園(圓)に侵入せず」

 

1.古代九鍼の形状と用途

1)鑱鍼(ざんしん)


 

①形状
「鑱」とは先が細く尖っているという意味で、ノミのこと。確かに上右図写真「古今医統」に載っている形は、長さ1.6寸で矢尻のような形をしており、押しつけて内出血を出すのに適している。 

しかしながら「類経図翼」で示されているのは左図の方で、今日鑱針といえばこちらの方を指していることが多い。洋裁に用いる筋立てヘラのような平らな金属片で鋭利な尖端部分を皮膚に押しつけるようにして刺激する。これは今日の小児針の原型といえる。下の写真もヘラ様の形の鑱針で、意外に大きいものであることが理解できる。



②用途
もともとは外科的用法として、打ち傷での内出血を出す際に使われた。この用途としては鋭利な尖端部分を軽く迅速に連続的に皮膚に押しつけたり血絡上に打ち付けたりして皮膚を切開する。皮膚病や浮腫状態の治療に用いた。

補法としての使い方が、現代小児鍼の原型になり、皮膚を摩擦したりする。

補法:虚弱体質、小児消化不良。小児神経衰弱、異 嗜症、青便、遺尿症、発育不良、不眠等。
瀉法:夜泣き、夜驚症、神経異常興奮、赤眼、上衝、頭痛、歯痛、肩癖、炎症、鬱血、充血、神経痛等

 

2)圓鍼(円鍼)

①形状
「円」はもとは「圓」と表記し、どちらも”えん”と発音する。書いた。圓は「口」+「員」からなる。員は口の丸い鼎(古代の三つ脚の青銅器)の意味だが、とくに丸いとの意味を示すため、圓と表記することにした。圓は丸いという意味で使用頻度の高い漢字だったので、もっと簡単に表記したいという要望から口(くにがまえ)の中に|(たてぼう)を書くことにした。しかしこれでは類似の漢字と区別しづらくなり、「円」に変化したという。なお円の対義語は「方」で四角いものをいう。長さ1.6寸。尖端は卵型。

※圓鍼(上写真)のことを員利針と誤って表記して販売する業者がいるので注意。   

②用途 
分肉(皮下組織と表層筋との間。皮下組織を白肉、筋肉を赤肉と区別した際のその中間層)を按じたり擦ったりする。現代のマッサージとしての用途。現在あまり用いられないが、經絡治療家は使う。補的に使うには、鍼体や鍼柄頭を使う。
瀉的には擬宝珠(「ぎぼし」手すりや欄干部につけたネギの花の形をした伝統的装飾)の尖端で、こすりったり触れたりして刺激を与える。

 


3)鍉鍼



①形状
「鍉」は「金」+「是」の合成で、是とはまっすぐの意。すなわち、まっすぐな金属棒のこと。長さ3.5寸。尖端は直径1.5㎜の球形。分肉を按ずる。
写真右は、柄の中にバネが入っており、押圧で針先が後退する。
②用途
今日の銀粒のような使い方をする。經絡治療家の中には、經絡を鍉鍼で押さえて補瀉手技を行う者がいる。

 

 4)鋒鍼(三稜鍼)

①形状
「鋒」とは、△に尖った矛(ほこ)のこと。転じて三角形の切断面をもつ刺絡鍼を意味する。矛は刺すと斬るの両法を目的とした武器で今日では「矛盾」の故事として広く知られている。矛がやがて槍(やり)や長刀(なぎなた)に分化した。長さ1.6寸。

②用途
江戸時代頃まで、鍼医は、現代のような毫鍼での刺針よりも、鋒鍼で皮膚にできた腫物をの切開排膿するのを主な仕事としていたらしい。熱を帯びた腫れ物の場合、熱を瀉し、血を出し、癰(「よう」はれもの)熱を主どり、經絡痼(「こ」長病や持病)痺を治するに用いたという。水腫の水を抜くのにも用いた。

近世まで、一般西洋医師においても瀉血鍼として使わていた。

中国や朝鮮では、熱症ことに小児の原因不明な熱症に対して爪端穴および十井穴に取穴した。邪気発散泄瀉を目標に刺して著効することがしばしばある。
瀉法をするには經絡の迎隨を考え迎にして鋒鍼の身体を刺手につまみ迎源跳鍼する。

乳幼児の瘀血を刺絡するのに用いた鋒鍼が起源だと考えられている。江戸時代の小児科針医で小児針をやっている処は限られていた。もともとは乳幼児に対し、磁器の破片を用いて細絡から刺絡するような強刺激が普通に行われていた。しかし1912 年に施行した法律で、鋒鍼のような刃物による刺絡が禁止されたことや、藤井秀二(医師)の実家が今日行われているような軽刺激の小児針をやっていたことが発表されたことなどで、江戸中期には現在普及している小児按摩のような鍼法に変化し、大阪を中心に鍼灸家に広く普及するに至った。  

 

5)鈹鍼

①形状
長さ2.5寸。刀型の刺絡鍼ないしやり型の鍼。

②用途
膿を出す用途。ねぶとや膿瘍の切開に用いる。刺すのではなく、切る目的。今日の外科刀に相当。鋒鍼に比べ、多量の膿を出す必要がある場合に使用された。

 

 6)員利鍼(円利鍼)

 



①形状
1.6寸長。鋭くて丸い鍼、尖端の直径がやや厚くなっている。「員」の意味は上記の員鍼の項目を参照。「利」は「禾」+「刀」の合成したもので、稲束を鋭い刀でサッと切る意味がある。即ち「利」とは、すらりと刃が通って鋭いさまのこと。
時代とともに員利鍼の形状は二つあって、徳川時代以降の鍼柄は珠(球状)であって鍼体の中身部がやや太めになり、鍼尖が鋭利に磨かれている。毫鍼と比べ、鍼柄と鍼体が太い。 

②用途
昔は暴気に対して用いられるとされ、別の文献では痺症に対して用いられるともされる。痛みが激しいときにリウマチ様症状に用いる。脳血管障害による片麻痺、言語障害、気滞血瘀などにも用いられた。要するに緊急時の激しい症状に適応があった。

 

7)毫鍼:毛のように細い鍼。現在の鍼治療で用いられている鍼。(詳細省略)

 

8)長鍼



①形状
「とじ針」のように長い鍼。とじ針とは、編み物用の先の丸い針のことで、縫い始めや縫い終わりの際、毛糸を布片の中にしまい込むために用いられる。普通は長さ2寸~3寸くらいの鍼を使うことが多いが、時には5寸7寸9寸あるいは1尺の鍼を刺すこともある。一般に4寸位から長鍼とみて差し支えない。

 ②用途
筋肉や間質組織に深く刺す、あるいは結合組中を水平に刺す。 坂井梅軒(=豊作)の横刺で刺す時は、押手の母指示指で皮下組織をつまみ、その持ち上がった中を鍼が進む。

肩井部の僧帽筋をつまんで背面から前面へと透刺する。五十肩時、肩髃から刺入して肩峰下をくぐらせる。上腕外側痛時は肩髃から曲池方向に刺入、大腿外側痛時は、風市から陽陵泉方向に水平刺し、下腿外側痛時は陽陵泉から懸鐘方向に水平刺する。

 

9)大鍼

①形状
太鍼ともいう。長さ4寸、太さは20~100番と太いのが特徴。多くは銀製。日本では鉄鍼が多い。

②用途
母指や示指の爪でグッと押さえ爪の晋第により鍼が盛り上がるように刺入する。夢分流打鍼法のように、小槌で叩打して切皮する方法もある。数呼吸後に抜針。関節に近い浮腫組織に用いる。

③火鍼としての使用

馬啣鉄(馬の口にくわえさせて手綱をつける金具。耐熱性がある)を使って製造したものを使う。不導体で鍼柄を包み、真紅になるほどゴマ灯油の中で焼く。その直後に一気に刺入する。熱いので押手は使えない。

わが国においてはもっぱら腫瘍潰瘍に用いる。排膿目的(膿をもっている部の皮膚は痛みをに鈍感になっているので火鍼ができる)。灸頭鍼も火鍼に類する。

現在の#30程度のステンレス製中国鍼を火鍼用として使ってみると、1~2回の使用で脆く使えなくなってしまう。火鍼にはタングステン・マンガンの合金の鍼が適しているといことである。タングステンは電球のフィラメント(赤く光って発熱する部分)に使われていることもあり耐熱性がある。

 

2.当時の九鍼使用時の医療感染問題

現代ではほぼ毫鍼、長鍼、大鍼3種の形式の鍼だけが残り、今日でも使われている。他の鍼は、やや洗練さた形とはいえない。
鋒鍼・鈹鍼・鑱鍼は今日の皮下注射程度ないしそれよりも太い。この鍼の太さにも関係するが、鍼治療の初期の時代、医療感染の問題に言及されねばならない。感染症が起きたことを疑わせる状況であっても、当時は間違った鍼を刺したとか、正しくない場所に刺したとか、間違った診察の結果にそうなったとかのせいにされている。(ニーダム著「中国のランセット」)

 


針灸院における外反母趾の診療 ver. 3.1

$
0
0

外反母指の針灸に関しては、「外反母趾のテーピングと針灸治療」(2006.7.9)で発表。その後三度全面改訂し2019.6.19がver.3.0となった。さらに2022年5月14日ver3.1として部分改訂した。

1.外反母趾の定義

足母趾の中足指節関節(MP関節)の外反(小指側に傾く)状態。中足基節関節角が「15度以上」を外反母指とする。この15度以上という数値は厳密なもので、医師は角度を測って外反母趾か否かを判断する。外反母趾の高度なものは、第2趾と重なる。男女比は、1:10 で圧倒的に女性に多い。     

中足基節関節角:正常=15°未満、 軽症=15°~20°未満、 中等度→20°~40°未満、 重度=40°以上

 

2.外反母趾の進行 

1)距骨下関節の過回内(オーバープロネーション)        

歩行時の接地は、まず踵後方→足底外側→母趾側へと体重は移動する。 小趾側から接地するのは衝撃吸収の役割からで、この時、距骨下関節は回内運動が起きている。回内運動することは生理的だが、過回内状態になると、重心が土踏まず方向に片寄るので、足の横アーチが崩壊して<開張足>になる。なお距骨下関節回内に筋は関与しない。 

 

 

地面を蹴るのは拇趾腹ではなくなり、第2趾MP関節底部に代償される。この部には接地部はウオノメやタコができやすい。  

 

2)浮き指       

常に靴を履いた生活スタイルでは、母趾で地面を蹴って前に進む能力が乏しくなる。拇趾を屈曲する力は、長・短母趾屈によるが、この二筋の筋力が低下する。これにより立位では母趾が宙に浮いた状態になる。これを<浮き指>とよぶ。  




3)母趾の外反・内旋の強制     

歩行時の体重移動が土踏まず側に片寄った状態では、母趾内側に体重がかかり、地面を蹴るようになるので、母趾の内旋を強いられる。この状態が外反母趾である。     
※ハイヒールや先細りの靴を履くのが原因とする説もあるが、履かない者でも外反母趾になる者は多いので決定的要因とはいえない。

 

3.症状、所見   

①母趾MP関節が突出し、靴との接触でバニオンとなり、発赤して腫脹。       
※バニオン bunion: 靴との接触で母趾MP関節内側部が滑液包炎を起こし、発赤腫脹して疼痛を生じる。  
②開張足(足の幅が広く、扇状に広がる)   
③足の横アーチの消失(土踏まずの消失)  

④外反母趾になると歩行時に足趾に体重負荷がしにくくなる。第2趾MP関節底部で体重を支持すことになるので、圧痛や自発痛、鶏眼・タコ等が出現しやすくなる。


3.針灸院でできる外反母趾の治療(浮き指に対して)

現代医学での保存療法の目的は、痛み少なく日常を過ごせることと、また外反母趾の進行を防ぐことが治療目標。外反母趾の外科手術は数週~2ヶ月の入院が必要で、一方再発率15%。外反拇趾の手術となると患者にとっては大ごとに違いないので、保存療法でどうにかならないかといろいろ模索しているので、針灸は一応の需要のある治療になっている。

前述したように外反拇趾は、①距骨下関節の過回内→②浮き指→③母趾の外反・内旋の強制、といった順序で完成する。これに対する針灸治療だが、①に対してはアプローチの手段がない。②の浮き指治療は、拇趾底屈力の強化になり、長拇趾屈筋と短拇趾屈筋の収縮力増強を目的とする。③の母趾の外反・内旋の強制の是正は、テーピングによる治療になるだろう。

1)短母趾屈筋に対するトリガーポイント刺針(森田義之氏による)    

短母趾屈筋は内在筋(筋は足底に存在)で、起始は拇趾基節骨底の両側、停止は主に立方骨下面。母趾MPの屈曲作用。  

 

2)長母趾屈筋に対する腱ストレッチおよび筋腹への治療

①ストレッチによる治療(「かわせカイロプラクティック」HPより)

②長拇趾屈筋トリガーポイントへの治療

長母趾屈筋は外来筋(下腿に筋が存在。足底にあるのは長拇趾屈筋の腱のみ)で、起始は腓骨後面の下方2/3・下腿骨間膜の下部、停止は母趾の末節骨底である。母趾IP関節の屈曲と足内反(拇趾側を上げる)作用。要するに筋本体自体は下腿後側の中央縦中央線のやや外側あたりになる。長母趾屈筋に刺針するには陽交または承山から深刺する。   

 

③タオルギャザー筋力訓練

外反母趾変形に対する効果は乏しい。足底筋の筋力強化にはタオルギャザー訓練(長・短母趾屈筋の訓練) が行われる。これは座位で床にタオルを敷き、その端を足指でつかみ、前にたぐり寄せる動作をさせる。長・短母趾屈筋は、足の横アーチ形成 に関係している。母趾内転筋横頭の筋力低下は、開張足を招くので、この筋力低下防止の目的で足指ジャンケンを行わせる。履物としてはゲタやゾウリなど鼻緒のついたものを使うようにする。

 

 

4.母趾の外反・内旋の強制のキネシオテープによる矯正  

キネシオテープによる矯正直後から、外反母趾はかなり矯正されるが、勿論のこと変形矯正作用はない。つまりいくらテーピングしても治す力はない。それにテーピングを行うことは接着剤が皮膚の角質層を剥がすので、連続使用にも向かない。要するに応急処置としての用途であって、自宅にいる時は補装具を使うということになるだろう。キネシオテープでの矯正目的は母趾の外反制限と母趾内旋制限である。

距骨下関節の過回内矯正や開張足の矯正目的には、足底矯正板の使用が本質的かもしれない。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

右仙腸関節障害による劇痛にはトラマールが、残存する慢性痛には局所の針が効果あった自験例(68才、男性)

$
0
0

1.主訴 右仙骨部の劇痛(右仙腸関節機能障害による)

2.現病歴

①令和4年3月20日
勉強会で立位と座位を繰り返しているうち、右腰痛出現。3時間すると座位から立ち上がることができなくなった。

②翌日
目覚めた朝、立ち座りは支障なかったが、仰向けに寝る際と、骨盤をわずかにひねるだけでもズッキンと息が止まるほどの激しい痛みを右仙腸関節部に感じた。ベッド上で仰臥位から上体を起こすだけで、仙腸関節にズッキンという激しい痛みが何回もくるので、それを思うと仰臥位になれなくなった。
横に慣れないので椅子に座ったままた眠ることにしたのだが熟睡できず心身ともに疲れ果てた。わずかな動きでもズッキンと痛むので、自分の骨盤に針を刺すのは困難たった。

③発症6日後
状態に変化がないので、近くの整形外科に行った。骨盤のX線をとるも大した所見なく、鎮痛剤を処方。自宅にあったロキソニン60mgを3T飲むもまったく痛みが止まらなかったことを伝えると、トラマール(麻薬に近い強力鎮痛剤)を処方された。午後6時にトラマール服用し、午後7時半~翌日午前○時半まで5時間久しぶりに仰臥位で熟眠できて、精神的にも少し落ち着くことができた。しかし起床後して間もなく右仙腸関節部の激しい痛みが再発。我慢できないので自宅にあったロキソニン4T(本来の最大内服量は3Tまで)を服用。すると間もなく寝返りがうてるようになり、明け方から朝にかけて4時間痛むことなく睡眠できた。

④発症7日後
午前9時に起きてみると、仰臥位から座位へ体位変換時、ギクッとする時が半減していた。その日は、骨盤の痛みを感じつつ、痛い痛いと言いつつ、仕事したが非常に身体が疲れ、午後7時にはトラマール服用して就寝した。

⑤発症8日後
深夜に目覚めたが、仰臥位から座位への体位変換時、ギクッとする痛みは8割減になっていた。そこで本日整形の2度目の受診日だったがキャンセル。本当は仙腸関節ブロックをしてほしかったのだが、それを言えない雰囲気だったたため。

⑥発症9日後
右仙腸関節部に、持続的な重だるい痛みを感じる時間が長い。とくに目覚めて起き上がると痛む。椅子に座っている分にはあまり痛まないが寝そべると、その後起きてからがつらい。ただしギクッした痛みは消失し、トラマールを服用するほどの痛みにはならない。
これまで仙腸関節を矯正する体操をいろいろ試したが、あまり効果なかった。

⑦発症10日後 
右仙腸関節部に円皮針やせんねん灸をしてみたが、あまり効果はなかった。そこで最後の手段ということで3寸#8針を用い、自分自身で右仙腸関節と思えるところに刺針してみた。刺針部位が自分で確認できず押手もできないので、刺針も不確かになるのはしょうがなかったが、針体を2㎝残して骨膜に当たり、当たると同時に響きのような鈍痛を感じた。自分自身で施術するので、正しくマトに命中させるのは難しく、数時間後に痛みは再発した。3時間後再治療。骨膜への針響を得て、仙腸関節体操を少々行い、5分置針して抜針。するといつもやってくる重だるい持続痛は大幅に軽くなった。半日経た現在、痛みは再発していない。

 

3.感想

①これまで何度も慢性の仙腸関節障害の患者を診てきたが、針でうまく治療できていたように思う。しかし仙腸関節障害で身動きできない劇痛になることもあることを身をもって知った。

②トラマール使用→熟眠できたこと→痛みの悪循環の遮断と心身安定といった流れがあった。トラマールはありがたかった。ただし慢性持続性の痛みは消えず、これも非常に苦しいものだった。この種類の痛みに骨膜に至る針が効果があり、針のありがたさを実感した。

③かつて代田文彦先生が、骨膜の針響は拡散性が強いという言葉を思い出した。すなわち厳密にツボに当たらなくても、針で症状と似た痛みを再現させれば効果ある。今回の治療効果は6時間以上たった現在も持続中である。針のありがたさが身にしみた。

 

肋間神経痛の針灸治療 ver.2.3

$
0
0

1.胸痛を起こす原因
 
冠状動脈の虚血と、肋間神経の興奮が胸痛の2大原因である。肋間神経からは胸膜枝が分岐しており、胸膜炎や肺癌が胸膜まで拡大進行して胸膜が刺激をうけても肋間神経痛を起こす。

1)冠状動脈の虚血
 冠血流量が不十分→心筋虚血→心臓を支配する交感神経(Th1~Th5)興奮
→心臓痛となる。ただし強い痛みの場合、交感神経興奮は交通枝を介して脊髄神経にまで興奮が漏れるので、同じレベルの脊髄神経すなわちTh1~Th5胸神経の後枝と前枝(=肋間神経)を二次的に興奮させる。つまり虚血性心疾患による胸痛とは、交感神経性と肋間神経痛の混合性である。
 なお、虚血性心疾患で左上肢尺側に放散痛がみられるのは、Th1脊髄神経の興奮によるTh1デルマトーム領域の反応である。この代表疾患には、狭心症と心筋梗塞がある。

2)肋間神経の興奮
胸部の体壁知覚は肋間神経支配なのは当然だが、その深部にある壁側胸膜も肋間神経支配である。そのすぐ下にある臓側胸膜と肺実質に知覚はない。ゆえに肺癌や肺結核の初期に自覚症状が乏しいが、次第に進行して病変が胸膜に及ぶと痛みが出現してくる。


2.肋間神経痛の概略

1)原因
特発性は比較的若い女性に多く、左側の第5~第9肋間領域に多い。成書には、特発性は少なく大部分は症候性であると記されているものが多いが、針灸に来院する患者の大部分は特発性であり、次いで帯状疱疹による肋間神経痛も来院する。


2)肋間神経の走行と神経支配

①第1~第6肋間神経
肋間を胸骨縁に向かって走行し、前胸の肋骨に相当する部の肋間部の筋運動と、深部知覚を支配する。その皮枝は前胸壁皮膚知覚を支配する。皮枝には外側皮枝の外側枝と内側枝、皮枝の外側枝と内側枝がある。
②第7~第12肋間神経
途中までは肋間部を走行するが、腋窩線あたりから内腹斜筋と腹横筋の間を走行し、腹白線に至る。腹壁筋の運動と深部知覚を支配する。その皮枝は鼡径部を除く腹壁の知覚を支配する。要するに腹部の大半は肋間神経支配になる。
 


3)症状
   
針灸学校では「肋間神経が深層から表面に出る部に圧痛がみられ、次の3ヵ所が代表的圧痛点」と学習したと思う。
  
①脊柱点:脊柱外方3㎝の処。胸神経後枝が表層に出る部。
②側胸点(外側点):前腋窩線上。前枝の外側皮枝が表層に出る部。
③前胸点(胸骨点):胸骨外方3㎝。前枝の前皮枝が表層に出る部。
第6肋間神経以下は腹部肋間神経痛として現れ、前胸点に相当する圧痛点は腹直筋外縁に出現し、「上腹点」と称する。

実際にはある範囲全体がまんべんなく痛むようで、特定の圧痛点を見いだすのは困難であることが多い。実際は教わったことと違っている事実を知り、がっかりする。

 

 

 

3.特発性肋間神経痛の新しい考え方

1)特発性肋間神経痛の真因

特発性(原因不明)の肋間神経痛は、これまで神経の刺激によるものと考えられていた。そして神経が深層から表層に出る部が治療点だとされていることから、脊柱点・外側点・間前胸点を取穴するのが定石だった。しかし生理的に上流の知覚神経が興奮しても、下流にその興奮を痛みを伝達することはない(ベル・マジャンディーの法則)ので、中枢側の筋々膜症症状が末梢側に放散痛を生ずる状況を、肋間神経痛と呼んでいるのが真実である。これはMPS(筋膜症候群)の考え方で説明できる。だたし帯状疱疹性の肋間神経痛ならば知覚神経興奮が生ずる。


2)肋横突関節症と肋間神経痛 

Th1~Th12胸椎が肋骨との間で肋椎関節を構成している点が特異的である。肋椎関節には肋骨頭関節と肋骨横突関節の2種ある。とくに肋横突関節の可動性が悪くなると、この付近を走行する肋間神経が刺激を受けるという説明が有力視されている。同時に付近にある内・外肋間筋も緊張する。内・外肋間筋緊張により肋間神経痛が生ずると考えた方がよいともいえる。こうなると神経痛というより、神経痛のような痛みの放散痛は、トリガーポイント活性による放散痛と考えられる。
ではなぜ肋椎関節の障害が生ずるのだろうか。これはとくに上体を左右に回旋させる運動で、胸椎と関節する肋骨は回旋運動を強いられる。これにより肋椎関節(とくに肋横突関節)は可動しすぎたり、あるいは十分に可動できなかったりして、関節症状態になるのだろう。

3)特発性肋間神経痛の治療(木下晴都:肋間神経痛に対する傍神経刺の臨床的研究、日鍼灸誌、29巻1号、昭55.2.15) 

肋間神経痛の治療は、反応ある胸椎(第5~9肋間が多い)に対応する肋横突関節および関節周囲の肋間筋に対する施術を行う。この治療法は、木下晴都氏の創案した「肋間神経痛に対する傍神経刺」そのものである。

①2寸#5針を使用
②症状にある胸椎棘突起から外方2横指(3㎝)を刺入点とする。
③10°内方にむけて直刺4㎝。この時、気胸には十分注意する。
⑤5秒留めて静かに抜針

※多くの場合肋骨または胸椎横突起にぶつかり4㎝も刺入できない。しかし胸椎棘突起4~10の高さにおいては、およそ棘突起下縁の高位に取穴すれば、鍼は胸椎横突起間に刺入でき、目的を達する場合が多い。鍼を脊柱に向けて10°傾けるのは、気胸防止の意味がある。


⑥最初の2~3回は毎日、その後は隔日、または1週間に2回程度の施術とした。
⑦102例の肋間神経痛患者に対して傍神経刺をおこなったところ、91%が優、6%が良、3%が不変、悪化例はなかった。うち優の結果を得た93例をみると、発症1~7日の52例では平均2.9回治療。8~15日の18例では4.6回、16~30日の12例では7.9回、3ヶ月以上経過した4例では11.5回だった。

 

「木下は刺針した針を5秒間留め、抜針する」としているが、肋横突関節は胸椎を左右に回旋した際に動くから、座位で規定通り刺入した後、上体を左右に回旋する運動針が有効かもしれない。

※木下の傍神経刺の図には肋骨および肋椎関節が省略されているので針先をどこに向ければよいのか、必ずしも明瞭ではない。そこで新たに以下の図を作成した。この図は傍肋骨神経刺というより肋骨神経刺になっているので、気胸ならぬよう十分注意すべきである。肋間神経刺激ではなく、後枝刺激・肋横突関節刺激の刺針はどのようになるのかを、併せて描いてみた。なお、内肋間筋と外肋間筋は、下記刺針部より外方から始まっているので、今回の刺針には直接的には影響を与えない。

 

4.症例報告:本態性肋間神経痛に対する傍神経刺治療(66才、女性)

当院初診3週間前から右側胸部から前腹部が痛くなり、上体を左右費ひねる時に痛む。寝返りも非常に苦痛だという。現代医療にかかるも検査で異常はなく、痛み止めの薬は処方されるも十分に効かないという。

当初は、上体をひねると痛むという点と背部一行に圧痛あるということで、右中背部胸椎傍の短背筋群の筋膜性背痛と解釈して、中背一行に深刺するもあまり効果がなかった。圧痛ある中背部起立筋に運動鍼すると少し上体の回旋ができるようになった。その頃になると背痛ではなく、上体をひねる時に右側胸部から右側腹部の痛みを強く訴えるようになたことから、胸椎部短背筋群の筋筋膜性背痛ではなく、右Th9中心の肋間神経痛を疑うようになり、木下晴都氏のの肋間神経傍神経刺を追試してみた。その1回治療の直後から上体の左右の回旋痛が大幅に軽減した。

 

5.背部撮痛帯は、なぜ胸椎領域に多発するのかの考察

腹臥位や側臥位で、体幹を撮診すると、撮痛反応の出やすい部分と出にくい部位があることに気づく。撮痛の現れやすいのは、胸椎部すなわち上・中・下背部であって、腰部に撮痛はあまり出てこない。椎体は高さによって可動する方向に違いがみられる。特定の椎体に加わった回旋力や屈伸力が、隣合う椎体に動きを円滑に伝達できれば、力学的ストレスをうまく受け流しているといえるだろう。椎間関節の形状から、頸椎の屈伸運動は、胸椎にうまく伝達できないので、C7/Th1の椎間関節に力学的ストレスを起こしやすく、椎間関節症を惹起しやすい。また胸椎の回旋運動は、腰椎にうまく伝達できないのでTh12/L1椎間関節症を起こしやすい。さらに腰椎の前後屈運動は、仙椎にうまく伝達できないので、L5/S1椎間関節症を起こしやすい。その結果、この高さの背部一行上に圧痛も現れやすくなる。

こうした内容は、これまでも幾度となく説明してきた。しかしながら胸椎全域の一行に圧痛が出現しやすく、その脊髄神経後枝支配領域に撮痛が出現しやすいことは説明できなかった。
しかし最近になり胸椎の関節は頸椎や腰椎と異なり、椎間関節の他に肋椎関節もあることから、胸椎全域の撮痛や圧痛は肋椎関節の反応によるものではないか、と考えるようなった。この考えに妥当性があれば、胸椎一行の圧痛反応は、胸椎一行刺針ではなく、木下晴都の肋間神経痛に対する傍神経刺の方が適しているのかもしれない。

 

片頭痛に対する知見と鍼灸治療の考察 ver.1.1

$
0
0

1.三叉神経血管説の概略

何らかの原因で、視床下部のセロトニン分泌量が減少すると、三叉神経末端からCGRP(血管拡張物質)を放出され、血管拡張により炎症が拡大。セロトニン減少の原因させる原因は不明だが、遺伝性体質の他に、ストレスや疲労、月経周期、天候などの影響がある。

普段仕事で緊張している時は、脳内セロトニンも多量に分泌されているが、週末に寝すぎなどリラックスしすぎると、脳がセロトニンを出す必要がなくなったと判断して量を減らしたために片頭痛が起きやすくなる。したがって片頭痛の予防には、リラックスするのではなく、リフレッシュするような活動をするほうが効果的だということで、坂井文彦医師は、後に示す片頭痛体操を考案した。

2.片頭痛薬の発達

1)従来的消炎鎮痛剤
いわゆる「痛み止め」。片頭痛の痛みは神経因子+血管因子の複合であるが、この神経因子に対する作用のみになる。血管因子に対しては無処置であるから、鎮痛効果に乏しい。

2)酒石酸エルゴタミン
一世代前の片頭痛の特効薬。30年前頃筆者が病院勤務だった頃は、「カフェルゴット」服用が定番だった。主成分はカフェインで、これには血管収縮作用がある。拡張しようとしている血管を、拡張させないという予防効果がある。しかし拡張し、拍動性頭痛となった後は、それを改善させるだけの力はない。カフェルゴットは新薬登場に伴い需要が減り、2022年販売終了した。

3)トリプタン製剤
現在の主流薬。 片頭痛が始まるときは、三叉神経からCGRPが脳の表面の硬膜に向かって放出。すると硬膜は、炎症と血管拡張をおこし、片頭痛発作が起こる。トリプタン(商品名イミグラン) は、三叉神経からCGRPを放出させるのを止める画期的な薬で1988年発売された。三叉神経終末からの血管拡張物質(CGPR)放出を止める作用がある。すなわち血管因子の痛みの連鎖を停止させる作用がある。拍動性の痛みも鎮痛できる。

4)レイボー錠
2022年商品名レイボー錠が販売開始。三叉神経からCGRPを放出させるのを止めるという点ではトリプタンと同じだが、トリプタンのように血管収縮作用がないので、虚血性心疾患狭心症などの患者でも使うことができる。

 

3.片頭痛の鍼灸治療各説
  
緊張性頭痛の圧痛点は後頸部やコメカミ部に出現することが知られ、この部の刺激で治療効果が得られることは周知のことだった。一方、片頭痛に対しては薬物療法で治療するのが定石だった。しかしわが国における頭痛の第一人者ともいえる坂井文彦医師は、片頭痛時も後頸部に圧痛点が出現することを発表し、以来圧痛点に関心の目が向けられるようになった。

1)C3の高さの頭板状筋(=下風池)の治療

坂井は、ある患者の診察から、C3C4の頭板状部のしこりが続くと片頭痛が起こりやすくなることを発見した。なおこの部位はツボでいう下風池に相当している。これまで緊張性頭痛時に好発する圧痛点は、今回の圧痛点よりも下方に位置するものだった。片頭痛に、なぜ下風池に圧痛点が出現するのだろうか、坂井は次の仮説を立てた。

①「片頭痛圧痛点」は、片頭痛の脳血管から首の表面の神経に伝わってくるのではないか。換言すると、脳の中で起こっていることが神経を通じて体の表面まで伝わってきた場所ではないか。

②片頭痛に悩む人の脳には、痛みの記憶回路ができてしまい、それが「片頭痛の圧痛点」 として首に反映されているのではないか。そして、片頭痛の記憶が増えてくると、脳は 記憶の引き出しから、「片頭痛で痛い」という信号を出しやすくなる、その信号を探知するための窓口が「片頭痛の圧痛点」であろう。

後頸部を治療点にするという点では緊張性頭痛と片頭痛に共通性はあるが、その一方で緊張型頭痛は逆に軽い運動や散歩をしたほうが血行がよくなり症状が緩和するのに対し、片頭痛は  身体を動かしたりマッサージしたりすると痛みがひどくなることがよくある。片頭痛がリラックスするような動作でかえって悪化するのは、脳がセロトニンを出す必要がなくなったと判断し、量を減らしたために起きる。したがって片頭痛の治療は、単にリラックスするだけでなく、ストレッチ体操などリフレッシュするような活動をするほうが片頭痛の予防には効果的になる。
 

2)片頭痛体操(坂井文彦) 
 
非発作時に行う。朝夕一回づつ、それぞれ2分間程度の体操で首の硬さがほぐれる。頭板状筋を収縮させる動作は、片頭痛を悪化させる要因になってしまう。頸を左右に回す代わりに、体幹を左右に振ることで、頭板状筋のストレッチ動作を行わせようとするものになっている。非発作時の片頭痛患者の後頸部に筋硬結・圧痛点を術者が指で圧迫すると、鈍痛ときに鋭い痛みを感ずる。このような場合、圧痛点を押圧しつつ頸部回旋のストレッチ状で圧痛点を押圧すると、筋硬結・圧痛が消失するという。

3)下風池に刺針しての頭板状筋回旋ストレッチ法

確かに上の方法は、患者が自宅で行うには良い方法だろうが、鍼灸院内で行わせるとすれば、治療者の技術が関与するものであってほしい。そこで、坐位にて下風池から頭板状筋の圧痛硬結に刺針後、術者は被験者の頭をホールドしながら同筋をストレッチさせるように回旋した後、雀啄刺激するのが良いと思う。

頭板状筋の機能は、頭蓋骨の伸展もあるが、主作用は左右回旋である。頭板状筋はC3~Th3あたりの棘突起を起始として、風池~完骨の後頭骨から側頭骨乳様突起に停止する。したがって、頭板状筋停止部に対する主治療点は、下風池(C3棘突起外方2寸) が妥当になる。

 


4)天柱ブロック

※天柱穴:C1C2椎体間の外方1.3寸、頭半棘筋、大後頭直筋刺激。

間中信也(脳神経外科医)は、頭痛56症例に対し、診断名別に天柱ブロックの効果を検討した。疾患名に関係なく、半数程度の患者に天柱ブロックが効果的なのが判明した。片頭痛に対しては8例中2例に頭痛がほぼ消失した。効果の持続時間は、数時間10%、半日~1日30%、数日36%、1週間12%、それ以上8%、不明(不定)4%だった。これは局所麻酔の有効時間をはるかに上回る治療効果だった。   (間中伸也著、頭痛診療ツールとしての鍼灸技法の応用、臨床神経 2012:52:1299-1302)


   


5)三叉神経-大後頭神経症候群としてC1~C3後頸椎部への刺激  

片頭痛の痛みは、神経性因子と血管性因子の複合である。前者に対する治療とは、脳動脈に分布する三叉神経の治療をいう。頭蓋内については針灸で直接的にアプローチはできないから、  三叉神経-大後頭神経症候群の治療と同じように扱う。それには頸にある上位頸神経(C1~C3)へ刺激を加え、上位頸神経の興奮を取り除くような針が有効だとする見解がある。

坂井は「C3の高さの頭板状筋の圧痛点を押圧する」というが、なぜ片頭痛時に、この下風池に圧痛が現れるのかの機序は説明されていない。また間中信也の天柱ブロックも、天柱に行う必然性はあまりないようだ。これが鍼灸師的発想であれば、後頸部に多く刺針することになるのだろう。治療効果は別として、どのツボがなぜ効いたのか分からないことになるのだ。

 


 
6)足趾間刺針とグロムス機構刺激 
   
筆者が病院の東洋医学科に在籍した鍼灸初学者の頃、鍼灸症例検討会の報告資料(先輩達の残した症例報告数千例)を熱心に読んでいた時期があった。そして「上衝タイプ(のぼせて赤ら顔)の強い頭痛には、足指間の最大圧痛部を刺激すると頭痛が改善した」との報告が多いことに驚いた。 

一方。自分なりに患者の足趾間圧痛を多数触診して判明したのは、足指間の最大圧痛点は、第3第4指間に出現することが多いことだった。圧痛が多いのは、この部が内側足底神経と外側足底神経が合わさるところで神経腫が存在しやすい部によるものだろう。神経腫そのものは病的なものではないが、過敏点になりやすいという事実がある。ただしこの部は正穴が存在しないので、筆者はこれを内侠谿と名付けた。実際の臨床では内侠谿に限定することなく、足趾間の最大圧痛点に2~3分間置針する。これだけで痛みが取れてくることを多数確認できた。



「頭が割れそうだ」という入院患者に対し、左右の内侠谿のみに置針すること数分で、痛みがなくなった例を数例経験した。ただし日常の鍼灸臨床で弱い慢性頭痛に対しては、あまり効果がなかった。針灸が効果あるか否かは、治療時の頭痛が拍動性か非拍動性かに関係し、非拍動性のタイプは有効となる場合が多いように思う。                                              
   
足趾間の圧痛点に刺針で頭痛が改善する理由は、グロムス機構の機序が考えられる。グロムス機構については、代田文誌・石川太刀雄の活躍していた時代に、さんざん論じられた。グロムス機構とは、動脈脈吻合あるいは動動脈吻合部のことをいう。一般的に血液循環は動脈→毛細血管→静脈と移行するが、全部の血流が毛細血管まで達するのではなく、一部は小動脈から小静脈へ  とショートカットする。この血行動態の変化を起こす水門に相当するのがグロムス機構である。グロムス機構の性質として、例えば1カ所の水門が閉じると、それが全身のグロムスの水門も閉じられるという仕組みがある。つまり足母趾部グロムス水門を閉じると、脳内のグロムスも閉じ、血流減少するという機序が考えられるとうことである。

 

 

石川日出鶴丸著の要点 ver.1.7

$
0
0

本書は石川日出鶴丸が、針灸を専門とする医学者でない、わが国の一般の医学者に対して、針灸医学の大要を説明するためにまとめられた。本著作は、日本皮電学会発行ということで現在絶版であり、またカタカナ表記であることもあって、読んだことのある者は少ないと思われる。内容は基本的であるが、そうだったのかと感心させられる内容が所々に見受けられた。本稿ではそうした内容を紹介する。

 

石川日出鶴丸 原著 倉島宗二 校訂 昭和51年5月1日 日本針灸皮電学会刊

1.米占領軍の針灸按等医療類似行為禁止令に抵抗した石川日出鶴丸
 
石川日出鶴丸(1878-1947)は、東京帝大医学部を卒業後に京都帝大で教授となり、生理学教室を主催し、そこで求心性自律神経二重支配法則を発見して注目を浴びた。また東洋の伝統医学である針灸についても深い関心を示し、その治効原理と經絡経穴の本態の解明に着手した。その研究は、京都帝大から三重医専校長に移ってからも引き続き展開され、針灸の臨床面まで手を拡げた。昭和18年には鍼灸臨床の研究グループ龍胆会を主催した。龍胆会会員は、主座:石川日出鶴丸、幹事:藤井秀二、郡山七二、清水千里、代田文誌ほか11名という蒼々たるメンバーだった。

 
昭和22年、米占領軍は、日本の医療制度審議会に対し、針灸按等医療類似行為の禁止令が伝えられたが、その一方で米占領軍当局代表者のアイズマンは、著明な針灸研究者として石川教授を選び、針灸の学理的根拠の有無に関して十二項目にわたって質問し、さらに臨床実験を臨検して興味をいだくようになり、代表者アイズマン自らも針治療を受けて満足した。その結果、米占領軍の針灸禁止命令は、再教育の実施という条件つきで解除された。ご子息の石川太刀雄は、父君の研究をさらに発展させ「内臓体壁反射」を発見した。

 

2.中国伝統医学の欠点
 
中国伝統医学の考え方を徹底的に学理的に考察すると信用できないものとなる。いろいろとこじつけることもできようが、それは屁理屈にすぎない。実に狭い経験から組み立てた理論をもって、それが妥当性を有するや否やを実験的に吟味しないで無理に一般的に適用しようと試み、理論の権力をもって強制的に押しつけてしまったので、はなはだしい誤解に陥っている。

かくして事実を誤るだけでなく、正常な学問の発達を妨げたことは、その罪のまことに大いなるものがあるが、これに類似することは西洋の医学史の中にも現れている。それゆえに西洋医学はある見方をすると、医学者ではなく理髪者や屠獣者の中から起こったと解されないでもない。

しかし彼らでが医学をどうすることもできなかったと同様に、古代中国医学は決して排斥すべきものでなく、之を正しい道に導くように改造せねばならない。それを正しく改造するように読み直すことが、私は中国の医書を読むコツだと考えている。

 

3.陰陽における太陽、厥陰の意味合い 

陰陽にはそれぞれ三段階がある。陽は太陽・少陽・陽明に区分できるが、陽明とは太陽と少陽を合わせた状態であって、陽の全発する姿であるとする。


陰には太陰・少陰・厥陰があるが、ダニエル・キーオン著<閃く經絡>によると、「厥」は側面が開けた山があって、山陰に隠れた太陽が山際から出てくるこさまを示しているという。鈴木達彦らの研究によれば、体内における陰陽の不均衡状態で、外界から導入されるべき気が体内深部に停滞して尽きいる状態で、行き場を失った気は身体の上部や表層に出て発作を起こした状態と考えられている。(鈴木達彦他「厥の原義とその病理観」日本医史学雑誌、第58巻1号、2012)


厥陰とは陰気の最も甚だしい太陰と少陰の合わせた状態で、陰が尽きる状態であるかのようだが、支那の語で「尽きる」とは尽滅根絶の意味ではない。たとえば易に「碩果(せきか)不食」(大いなる樹果ありて食らわず)という言葉がある。手の届くところにある枝に実っている果実は食べられてしまうが、高い枝の先端の実は最後まで食べられずに残っている。この実はやがて地面に落ちるが、やがて実の種から発芽して、再びつながって発展していくとしている。

註釈:地球からみて全く太陽光の反射がない月のことを新月とよぶが、中国語でも同じく新月という。上記内容を筆者は次のように図で表現してみた。

 

この内容を、次のような螺旋で表現で示すこともできる。ここでは対数螺旋を使ってみることにした。対数螺旋は自然界にも多く見られる螺旋である。たとえば獲物を捕るための鷹の運動パターン(獲物を一定の角度で見続ける)、水の渦巻、巻き貝など。以下の図は、鈴木学氏の助言を受けて完成させた。

 

※六経弁証による山陰三陽の順番

六経弁証とは、おもに寒冷性の外邪により、疾病が発生するときに用いられ、病が身体のどの深さにあるのかの分類である。病の重さにより陽から陰へと一方向に移行するもので。これによれば、陽明は太陽・少陽よりも陽性が少なく、厥陰は太陰・少陰よりも陰性が多いと解釈している。このような陰陽の基本的概念にも中国医学には統一性がなく、疾患のタイプに応じてどの弁証理論を使うか選択しなくてはならない。

 

4.心包の相火とは 

心を君火とすれば、心包は相火(しょうか)である。相火とは宰相の「相」のことである。元来、宰相とは中国の王朝において皇帝や王を補佐する最高位の官吏を指したのが始まりで、内大臣に相当した地位だった。宰相は戦後に首相という名前に変わった。すなわち相の中の代表が首相という意味である。
「相」のの語源は「木+目」で、「木の種類や樹齢を丁寧に目で観察する」ことからきていいて、それが「人を見る」という意味に変わった。いわゆる人相であって、顔の美醜や好き嫌いではなく、「人間として持って生まれた性格、その後の育ち方、自分の律し方、多くの人を正しく指導できる本質」を見ることをいう。

 

5.心の役割 

心が憂えると心包の相火が宣(よろこ)ばない。心が喜ぶと相火が甚大となる。心は喜憂などの心情の宿るところで、今日の「こころ」と同じ意味である。ただし心は君主のように、じっとしているものなので、心情の変動は心包の働きによっている。ゆえに「心包は臣使の官なり喜楽出づ」と唱えられている。
 
筆者註釈:理性をつかさどるのは脳であって、心ではない。心拍数を変化させる情動こそ心の機能である。なお脳を起点として体幹四肢に至る流れを、nerveといい、解体新書では神経と訳出した。神とは意識のことである。

 

 

6.三焦は「決瀆の官、水道これより出ず」とは

「瀆」には、①水路を通す溝(=用水路)と、②けがすという意味(冒瀆といった表現)の2つの意味がある。これは用水路に、どぶの水を流すことで、汚くするという着想から成り立っている。「決」は、堤防が決壊するという場合の決で疏通するという意味。すなわち 決瀆とは、用水路の水を流すという意味で、それは三焦の役割だとしている。
 
三焦とは体温を一定内に保持する役割があり、体温維持との環境下で初めて他の臓腑の生理的機能が営まれる。上焦は霧のように、中焦は瀝(したたたり)のように、下焦は瀆(≒排水路)のごときという表現がある。
 
筆者註釈:この意味するところは、蒸し器内部を想い浮かべるとよい。上焦である蒸し器上部は、熱い水蒸気に満たされていて、下焦である蒸し器下部には熱湯がある。中焦部にすだれを置き、そこに食物を置けば、蒸されて軟らかくなる。蒸し器で温めるということは、食物の成分が下に滴りおちるので底の湯も汚れていくる。この液体としての水が水蒸気となり、冷やされて再び水に戻るという循環を「水道」とよぶ。水道には水を尿として排泄するという意味もある。

経穴の一つで前腕背面ほぼ中央に四瀆穴がある。四瀆とは、中国に水源を発して直接海に注ぐ四つの大河をいう。すなわち長江、黄河、淮(わい)水、済水のことである。なお中国で単に「河」といえば、黄河のことを称した。水源を発して直接海に注ぐ川(《爾雅》釈水)を指す。四瀆は三焦経にあり、三焦経は水を処理する作用があるとされることから、この名がつけられた。



 

5.白い生命・赤い生命

中国医学によれば、陰陽の気が凝ってできたものが気または血で、気は空気や水蒸気のようにガス状であり、血はこれを凝縮して液体となったものであると定義している。
中国医学でいう血とは、動脈血・静脈血のほかにリンパ液その他の体液をも含めていうのであろう。我々が吸う空気や吐き出す空気や水蒸気も気である。呼気とともに水蒸気が吐き出されて冬季などでは白い霧となるのを見て、中国民族は白い生命と名付けていた。同様に彼らは動脈血や静脈血を見て、赤い生命と名付けていた。血液が全部体外に流出して体内に血液が乏しくなると死亡してしまう。同様に白い生命がでなくなって呼吸運動が止まると死んでしまう。

 
筆者註:現代おける死の三徴候とは、心臓拍動停止、呼吸停止、および脳機能の不可逆的停止を示す瞳孔の対光反射の消失をもって3徴候死としている。(脳死はこの限りではない)

 

 

6.動脈と静脈

 
当時も血管には静脈と動脈の区別があった。ただし現代の意味とは異なり、脈搏を触知できるものを動脈、触知できないものを静脈とよんだ。当時、動脈を流れ出た血液は、砂原に水を注ぐように動脈から身体組織の中に浸みこむと考えたので、心臓へと環流する血液の流れがあることを知らなかった。

栄血衛気(気は衛し血は栄す)とは陰に属する「血」は中を栄(=栄養)して経絡中を運営する。つまり十二経脈の循環路を正しく順に一回りする。陽に属する「気」は外を衛(まも)ることでつまりは皮膚に充つる。衛気は経脈の外を行くもので、しかも昼は陽経を流れ、夜は陰経を流れるという。
 

筆者註:江戸時代後期の医師、石坂宗哲は、解体新書などで西洋の解剖学に初めて触れて自分達が教わった内容と非常に異なることに驚き、気血營衞の「営」が流れているのを動脈、「衛」が流れているのを静脈だという玉虫色の説を考えた。これは西洋医学の理論は、名前は異なっているが、基本的な考えは、わが『内経』の医の道の考え方と大きく異なるわけではないと考えたため。けれどもこれは間もなく否定され、西洋解剖学の方が正しいことに落ち着いたのだった。

 

7.横隔膜の意義

内臓は胸腔臓器と腹腔臓器に分けられるが、その境界を「隔膜」と称した。隔膜は、腹腔の汚れたものが、心・心包・肺の臓まで犯さぬよう遮断する働きがあると考えた。呼吸運動の関係あることは古代中国医学ではあずかり知らぬ知らぬことだた。

 

 

8.十四経発揮が現れる以前の中国医学の歴史

元来、中国では鍼治・灸治・煎薬(=湯液)服用の三種類の治療法があった。ただし素問霊枢の時代では、服餌(服薬+食餌)療法はさほど行われておらず、鍼術のみが盛んに行われていた。治療法中、服餌法は1~2割、灸法は3~4割、残りが鍼治療だった。『内経』は医学理論の基本であり、学説は経脈学が中心だったので、鍼術が医術の根本だったのだ。 湯液が盛んには行われなかった理由だが、その頃は薬物の発見が少なかったので、本草学が進歩しなかったのだろうと思っている。当時の鍼術は、現代の鍼術にとどまらず、外科手術をも含めた内容であって、鍼といえば外科の手術道具の総称だった。
 現在に伝わる古代九針である鑱(さん)・員・鍉・鋒(ほう)・鈹・員利・豪・長・大の各鍼の中で、前五者が外科刀である。後の四者はいずれも鍼であると記述されているが、これは誤りあって、次のよう修正したいところである。

現在に伝わる古代九針は用途別に次の3種に大別できる。
①皮膚を切開するために破る鍼→鋒鍼・鈹鍼・鑱鍼。これは今日の外科刀に相当。
②鑱(さん)鍼・員鍼 →擦る・押すなど刺さない鍼。
③員利鍼・豪鍼・長鍼・大鍼→今日でいう鍼術に用いる鍼。刺入する用途。


しかるに後世になるほど内科的な医学が進歩してきた。非常に多くの薬品や薬物が発見され、湯液療法が大進歩を遂げた。そのため経絡学によらない療法も続々と現れてきた。当時の鍼術(外科手術を含めて)は危険だったが、湯液療法は鍼術ほどの危険はなかったため、經絡学中心の中国医学は動揺し、時代とともに行き詰まりを生じるようになった。

 

医学書は、時代を下るほど沢山出されるようになた。出版されるようになった。中には『内経』を基礎としないものも現れ、『内経』を基礎とする内容とともに混然として、ただ実際の療法のみを並べ立て、知識を雑然と記すだけになった。無論、立派な本も発行されたのだが、医学が発達するほどに議論が乱雑になり一貫したものがなくなった。

これを整理するための方法として、第一の方法としては雑然とした知識の中から誤ったものを取り除いて、正しい確かな知識だけを選び取り、新しい学理でまとめ上げることであるが、不幸なことに系統的に整列を行って中国医学をまとめ上げようとする者は中国に現れなかった。

第二の方法としては、その頃行われた医学の理論を一つにまとめ上げることだった。この流れから旧来の經絡学的主知主義によって新たなまとめ方をしようという運動が処々に起こりかけた。つまりできるだけ内経の理論に拠ろうと志した。これによって十四経絡の学問がまとまったのだが、それでもまだ充分といえないものがあった。
そこで元の時代の至正元年(西暦1341年)、滑伯仁はこれらの書物とくに素問(骨空論)・霊枢(経脈篇本輸篇)・甲乙経・金蘭循経により經絡兪募穴の詳しい説明を施した。
兪募穴でいう兪とは輸の意味で気血の輸入輸出する中心点とい。募は集まるという意味で気血の集まる意味で、これは任脈を始め胸腹部の陰経において臓腑に当たる経穴をいう。

 

この滑伯仁の著書を『十四経発揮』という。これは手の三陰三陽と足の三陰三陽の十二経と、奇経八脈中の督任両脈を加えて十四経になる。十四経が、とくに発起・揮発させるのが目的だから発揮との名称になった。本書は良書として四方の歓迎を受けることとなり、後世人にまで愛読されることとなった。私は雑然たる医学を纏めるために在来の学説の膠着した滑伯仁の努力を否定するものではないが、前述した第一の方法を選ぶべきだと思う。 滑氏の態度では、学説の進歩というものがまったくないからだ。


筆者註:『黄帝内経』が原点となり、時代を経て新たな知識が加わってその改修版が多数現れ、逆に何が正しいか混乱状態となった。そこで改めて原点に立ち返って、『黄帝内経』の理論に戻って共通理解を得たということだろう。『十四経発揮』は、現代では古典鍼灸入門の定番だが、種々の力関係のせめぎ合いを良しとせず、基本的合意部分を整理した内容ということだ。十二正經に奇経であるはずの任脈・督脈を加えたことで基準線を得ることとなり、経穴を学習しやすくなったとはいえよう。

主知主義とは、人間の精神を知性理性・意志・感情に三分割する見方で、知性理性の働きを 意志や感情よりも重視する立場のことである。本稿では、観察や実験的手法によらず、頭の中だけで組み立てられた思想といった意味合いで用いられていると思う。

 

 

 

 

 

 

箱灸の自作 ver.1.2

$
0
0

本記事は2013年に発表し、2022年5月に一部修正した。

代田文彦先生は、質問に答える形で、「灸頭針は手間の割合に効かないネ」と漏らしたことがあった。灸頭針を日常の針灸臨床に取り入れるには、燃焼中の艾の落下や、煙やニオイの問題を考慮するなら、ハードルが高いものとなる。現在では灸頭針に代わり箱灸が普及してきたようである。置針した上から箱灸を行うことで灸頭鍼の代用となるかもしれない。箱灸であれば、艾の落下の危険性はないし、艾に炭化艾を使えば煙の問題も解決できる。

箱灸、心地よいということで患者受けがいいようで鍼灸治療院経営の手段としてはいいのだが、はたして治療効果という点ではどうなのだろうか。

これは実際にやってみなければ分からないということで、私も箱灸治療を開始してみた。箱灸は市販品もあるが、試作品ということで簡単に、かつローコストで製作することを心がけた。箱灸時に使うモグサの熱量と、箱灸の密閉空間の大きさの関係は本来ならば、いろいろ試作品をつくって最も適切なものを採用すべきだろうが、今回は一発勝負で行った。それにしては最大温度、加熱持続時間、心地よさなどすべて適切にいった。

本原稿は、多くの鍼灸の先生にご覧頂き、実際に制作している方も多くいることに驚かされた。お互いに頑張ろうという気になり結構なことである。

1.箱灸の製作

1)金属網:既製品の流し用の金属網。直径13.5㎝、深さ4㎝(100円)
この「流し金属網」はロングセラー商品で、いつでも入手できる。

2)木製外箱:既製品の物入れ用の木箱 外寸:縦18.5㎝ 横12.㎝ 高さ8.5㎝(100円)  
3)金属網を載せるため、木箱の底中央を、10.5㎝×10.5㎝カット。
4)木製フタ:既製品直径18㎝の調理用の木製落としぶた(100円)。この両サイドをカット。箱の幅に合わせて横12㎝とした。
5)熱が加わる部分にアルミホイールを巻き付け、アルミ粘着テープ巻き付け。
 以上で基本的構造が完成。制作材料費ほぼ300円。

6)箱灸に使用する艾は、初めは灸頭鍼用モグサを固く丸めて使ったが、すぐに燃焼終了してしまうので、中国棒灸を長さ1.5~2㎝程度にカットして使用。一度に2個燃焼させると適温となる。燃焼時間も10分間程度と丁度良い。中国棒灸は1本約21㎝で、約80円。これを12カットに切った。1度に2個使うので、1回のコストは13円程度。

 

 

上の写真では、ヤニ汚れを簡単に拭き取れるように、粘着アルミテープとアルミホーイルをクリップ止めしている。ヤニはアルコール綿で簡単に拭き取れる。頑固なヤニは、マジックリンを使えば取れる。使ってみて分かったのは、クリップ止めしたアルミホイールは必要ないことである。その代わり蓋の裏側にも粘着アルミテープを貼っている。

 


2.箱灸の改良

この箱灸を何回か使ってみて分かったことは、箱灸の長辺が長すぎるために、箱灸を患者の腰や背中に置くと、グラぐらつき、両サイドに空間が空きすぎるということが判明した。箱の長辺を短くするのは大変なので、箱の長辺に山型の切れ込みをいれると安定感が増した。また両サイドを板で塞ぐことで熱が逃げない工夫をした。
箱灸製作の要点は、①モグサと皮膚との距離が6㎝前後であること、①皮膚に開放した箱灸面は、10㎝×10㎝前後だということらしい。
以上できあがってみると、いかにも図工作品のようなので、見栄えをよくするため、カラースプレーでチョコレート色に塗装した。


3.箱灸の使用感

1)しっかり加熱すると症状が改善すると思える患者数名に対して、臍部、仙骨部に箱灸を実施すた。その際、置針した上から箱灸をするので、灸頭鍼に近い治効が得られると思う。概ね患者は「気持ちが良い」というが、1名は家に帰ると具合が悪いので、今後使いたくないという者がいた。高齢女性で、強いて言えば熱証に属するためだろうか。またストレス性頻尿の患者に使ったが、頻尿自体に改善はみられていない。

2)「治療した晩はポカポカと腰が温まって、患者はどうしたワケかと不思議に思ったが、そういえば本日は箱灸したので、それが理由か」と、次回来院時に私に申告した者は2名もいたことには驚いた。要するに長時間温感が続くらしい。これは一般的な赤外線照射10分間では起こらないことである。箱灸は、赤外線ではマネできない価値をもつ治療手段であることを思い知った。

3)全体として箱灸の使い勝手は悪くないが、従来の治療にプラスする形で箱灸を使うとなれば、どうしても治療時間は長びく。私が鍼灸治療に要する時間は、ほぼ30分程度としているので、これに箱灸の時間が追加することは苦痛である。いくら患者受けがいいからといって、万人にやるわけにはいかない。あくまで「冷え」に対する治療手段として限定的に行うことになるだろう。


4.箱灸に使うモグサについて

秋頃から箱灸を使い始めたが、その時は直径1.5㎝、長さ21㎝の中国押灸をカッターで16等分し、一個の長さを1.3㎝程度とした。一度にそれを2片づつ使って温めた。これで10分強は温熱が持続した。室内が煙くなったら、窓を開けたり換気扇を回したりして室内の換気に努めた。

しかし冬になって室温が下がるので、この方法はとれなくなった。コスト高になるが、煙の出ない炭化灸(商品名は温暖、釜屋製品)を使うことにした。ちなみに、480個で11,130円(税込)だった。温暖は、直径0.7㎝、長さ一個一個が小さいので、熱量も不足しがちなので一度に3個使うことした。それでも煙が出ないので、いつ燃焼終了したのかも分かりづらかった。苦肉の策として、現在は押灸片1個、温暖2個を使用することに落ち着いている。押灸片を併用しているのは、コスト削減と燃焼状況モニターのためである。 
 本稿とは別に、「箱灸2号機の自作」2016/10/17 10の記事がある。

 

 

 

慢性気管支炎と気管支喘息に対する治喘の強刺激 ver.1.1

$
0
0

2006-04-08 01:48:16

1.慢性気管支炎の概要

気管支炎には急性と慢性がある。ただし急性気管支炎は医療機関での治療が効果的なので、針灸で取り扱うのは慢性にほぼ限られてくる。なお慢性気管支炎の診断は、検査数値では決まらない。主訴が咳嗽・喀痰であり、「痰の多い状態が年(特に冬場に)に3ヶ月以上毎日あり、2年以上続く場合」と定義される。
慢性気管支炎の病態生理は、文字通り気管支の炎症で、気管の改変が起こり、気管支の粘液分泌過剰となる状態である。40才以上の喫煙者に好発。
なお慢性気管支炎・肺気腫・気管支炎は呼吸通路の狭窄による呼吸障害という点で共通性があり、一括して慢性閉塞性肺疾患(COPD)とよばれる。

気管支拡張症との鑑別:咳嗽・喀痰は気管支炎と同じ。多量の痰と血痰が特徴。慢性気管支炎は気管支全体の破壊なのに対し、気管支拡張症は中等気管支の変性拡張。
肺気腫との鑑別:老人男性の喫煙者に多いという点は慢性気管支炎と同じ。ただし肺気腫の主訴は息切れで、樽状胸郭を認める。肺の老化現象で、肺胞壁の破壊により、終末気管支以下の肺胞壁が以上に拡大し、縮まない状態。


2.気管支喘息の概要

気管支粘膜が炎症を起こして腫脹している状態がベースにあり、わずかな刺激で気管支痙攣と浮腫を起こし、咳・喘鳴・呼気性呼吸困難を起こす疾患。35才以下に多いのが外因性(アトピー性)で、35才以上に多いのが内因性(感染性)である。
内因性の方が難治である。

喘息様気管支炎との鑑別:本来が気管支炎であり咳嗽喀痰が主。しかし気管支からの粘液分泌増大し、喘息様の呼吸困難があるかのように見える。小児に多い。風邪の二次感染で生じ、治癒しやすい。(本症を小児喘息と判断して針灸を行うと、針灸治療成績が極端に上昇する誤りを犯す)

心臓喘息との鑑別:左心不全が進行すると左心に溜まった血液を拍出する力が弱まり、結果として肺鬱血状態になる。また血液中の水分が肺に浸出(=肺水腫)して息切れや呼吸困難が生ずる。とくに夜間は全身に貯留した体液が血管内に戻り、循環血液量が増えるので心臓に負担がかかり、夜間発作性呼吸困難を生ずる。この別名が心臓喘息である。心臓喘息は呼気吸気性呼吸困難であり、サラッとしたピンクの泡沫状痰を呈する。気管支喘息は呼気性呼吸困難を呈し、無色透明のネバッとした痰が出る。


3.慢性気管支炎と気管支喘息の現代医学的治療

両者とも対症治療となる。慢性気管支炎で、痰が出る時には去痰剤を、呼吸が苦しい時には気管支拡張剤を、熱がある時は抗生物質を投与。タバコをやめさせることが重要。気管支喘息は、気管支の炎症を抑え喘息発作を予防する目的で、必要十分な量の吸入ステロイドを使用。それでも発作が起きた場合には気管支拡張剤を使用する。


4.慢性気管支炎と気管支喘息の針灸治療

1)針灸の需要
慢性気管支炎を医療機関でも治すことは難しいが、コントロールは可能なので、針灸の需要はあまりない。一方気管支喘息に対しては、20年ほど前までは盛んに針灸が行われたのだが、現代医療の進歩により、吸入ステロイドを使用するようになってから、針灸来院患者は激減している。

2)針灸の方法
肺と気管支は副交感神経優位内臓であり、交感神経優位臓器と異なり、理論上は臓器関連のデルマトームに異常所見は検出できない。
副交感神経優位の時に症状が悪化する。現代医療でも症状増悪時に、気管支拡張剤(交感神経刺激作用)を使うように、針灸でも身体全体として交感神経優位にすることが治療となる。針灸治療は、交感神経緊張を緩める(=リラクセーション)のイメージが強いが、ここでの治療は交感神経緊張を亢める(=リフレッシュ)治療が必要となる。
たとえば入浴でリラクセーションには、ぬるめの湯に長時間つかるのがよく、リフレッシュには、立って熱いシャワーを短時間浴びるのがよい。また咳を鎮め、痰を排出させやすくする方法として背中を強打することは日常よく行われることである(逆に、悪心ある者に対して嘔吐を促すには背中をさする。これは副交感神経優位にして胃の逆蠕動を誘発させる)。
針灸も同様で、リラクセーションには伏臥位や仰臥位での置針法がよく、リフレッシュには太い針や熱い灸の短時間刺激がよい。

強刺激という立場から治療点はどこでもよいが、星状神経節を刺激する目的も兼ねて、座位にて大椎や治喘を刺激するのが適切である。具体的には中国針を用いての速刺速抜を何ヶ所か行い、灸ならば小豆第大の艾しゅ5壮である。淺野周氏は、温灸用モグサをつかっての透熱灸を推奨している(「北京堂」ホームページ)。

注意すべきは全体としての刺激量である。強刺激の治療は、あっさりと5分間程度で終わらせるべきで、これを越えると刺激量過多となる。治療直後は、よく効いて感謝されても、その晩に悪化して信頼を損ねかねない。これは新人針灸師がよくやる失敗でもある。

刺激を与えている最中は深呼吸をさせると促通効果が得られて治療効果が増す。喘息の誘発因子が肩こりのこともあり、肩こりのある者では、この治療も併用した方がよい。 

5.追加:大椎を冷やす道具(2022.5.21)

喘息発作時には大椎や治喘・定喘に強刺激を与える治療が効果的なことが知られている。喘息発作時は副交感神経優位状態であり、患者は起座位になると呼吸が楽になる(交感神経優位に誘導)することを患者が無意識的に自覚しているからである。老人に多いことだが銭湯で熱い湯船に入る際、その湯を桶ですくって自分の頸肩に何杯もかけたものだった。これにより交感神経優位に誘導すると熱い湯船に入ることができるようになる。

これと同じ理由で、暑い時期に涼む方法として、大椎あたりを冷やすことが知られている。ただ冷やすといっても冷やした濡れタオルでは、すぐにぬるくなってしまう問題があった。本日ネット検索をしていたら偶然に大椎あたりを冷やす装置(レオンポケット3)がソニーから発売されていたことを知った。板状の半導体熱電素子の一種であるペルチェ素子を使うもので、ある方向に直流電流を流すと、素子の上面で吸熱(冷却)し、下面で発熱(加熱)する。ただし冷却効率は低いのでワインクーラーにはよいが冷蔵庫に使うには力不足である。ペルチェ素子の金属板を直接ちょうど大椎あたりに接触させることで涼感を得るというアイデア商品だが、ソニーが販売しているので驚きだ。これも大椎刺激の効果にお墨付きを得た感じ。








効果を実感できた浴室鏡のウロコ取り方法

$
0
0

 私は築三十年の家に住んでいる。浴室の鏡(縦47㎝横、36㎝の標準的なもの)は、月日の積み重ねにより、ひどく垢がつき曇っていて、自分を映し出すことはまったくできない。世間で効果的だとされている方法を何回か追試し、ダイヤモンドうろこ取りを使ってもすべて無駄に終わった。新品に交換するしか手がないかと思っていた。そうした矢先、新しい鏡磨きの方法をYouTubeでやっていた。気を取り直し、やってみることにした。

1.用意するもの
ダイヤモンド鏡うろこ取り(百均でも可)
トイレの洗剤サンポー  (9%希塩酸)、類似品は百均でも売っている。
 ディスポゴム手袋
キッチンペーパータオル
ラップ

 

2.方法

①両手にディスポゴム手袋を装着
②風呂オケを準備し、サンポール原液を入れる(コップ半分くらい)
③キッチンペーパータオルを完全に浸す
④鏡面全体に、そのキッチンペーパーを貼り付ける。乾燥防止にキッチンペーパーの上にラップで覆う。そのまま1~2時間放置。
⑤ラップとキッチンペーパーを剥がす
⑥ゴム手袋をした状態で、ダイヤモンド鏡うろこ取りでこする
⑦最後に鏡を水で洗浄する


3.効果と感想

①②③④⑤と手順通りに進行。見ると鏡面のこびりついた石鹸垢が浮き上がっているのを発見。ダイヤモンド鏡うろこ取りでこすってみると、面白いようにボロボロと垢が剥がれ、下に落ちていった。ただ予想外に垢が多量に出たので、鏡の1/3ほどこするうちに、うろこ取りが目詰まりし、使えなくなったが解決策は見えてきた。今度はダイヤモンドうろこ取りをあと3つ位用意し、再びトライしたい。下の写真で曇っている部分は、まだ垢が残っている部分。

ドレス色と静脈色の錯覚

$
0
0

1.ドレスの色の錯覚

2015年頃、「写真のドレスの色は何色か?」ということで世間を大いに賑わせた。問題となった写真を見ると、私には黄色+白色に見え、それ以外に見えようがなかった。しかし人によっては青色+黒色にも見え、正解のドレスの色も青色+黒色だという。

この謎現象について、非常に理解しやすい絵を発見したので、転載した。

 

上段の2枚の絵は、左の女の子が青+黒の服を着ていて、右の子は黄+白の服を着ているかに見える。しかし左図の黒色部分と右図の黄色部分は、実は同色である。四角で囲んだ色はどれも同じなのである。

下段の2枚の絵は、上段の図を反転させたものである。つまり補色になっている。青色の補色は黄色、赤色の補色は緑色といった具合に。上の絵で上段のドレスの青色が下段では黄色に変化しているのがわかる。上段の黒色は下段では灰色となるが、背景が濃い灰色なので相対的に白色と認識されるようだ。

2.静脈色の錯覚

これだけの話ならば、改めて本ブログで取り上げるような話ではない。ところがである。

昔から医学書では静脈が青色で示されているのが常識だったが、青く見える静脈は実は灰色だったということが判明してきた。人間の静脈は肌の色との対比による目の錯覚で青く見えているのであって、静脈の画像を物理的に確認しても、静脈の色は青ではなくむしろ灰色に近いという。(立命館大学文学部の北岡明佳教授による)

ブログ「現代医学的鍼灸」とテキスト「現代針灸臨床論」5年前との比較

$
0
0

「現代医学的鍼灸」という気負ったタイトルでブログを開始したのは、2006年3月11日からであった。今から約11年前のことになる。4月3日のアクセス数は閲数1,275、訪問者数566で、順位は793位(2,6,95,596ブログ中)となっていた。

最初の頃は、「現代針灸臨床論」という鍼灸学生用テキストとしてすでに存在した内容を、ブログとして発表しただけだったので、とくに苦労を感じなかった。現在の発表ブログ数は316だが、200を越えた頃から、発表するネタがなくなっていった。そこから先は、考えたり調べたりして新たな内容を創作していき、その内容をテキスト内容に付け加えるという作業を繰り返しつつ現在に至った。

「現代針灸臨床論」では授業時間の兼ね合いから、一つの章を基本的に20ページ未満とにし、プリント配布の関係から白黒印刷に対応する図しか載せられなかった。しかし現在、教員を辞めて以来、こうした制約はなくなり自分の思うようなテキストに変化してきた。
その結果、テキストページ数は、かつての1.5倍で、必要に応じて、カラー図も増えていった。ネット上で「現代針灸臨床論」(売価10,000円)このテキスト販売を開始してから、約十年が経過した。コンスタントに月平均4枚程度購入希望者が連絡してくるのを嬉しく思っている。このテキストは頻繁に内容が刷新されているが、平成29年4月4日時点で目次は次のようになっている。

 

5年前に平成29年4月4日で目次を記したが、本日は令和4年4月26日で、あれから5年が経過した。この5年間にテキストがどのように変化したのか比較してみた。新たな内容を加えつつ、ページ数増大を防ぐため削除した内容も少なくなかった。全体で10%程度ページ数が増加となった。ブログ発表数は418題で、5年前の316題と比べ102増えた。
5年前が黒字、現在が赤字。

 

現代針灸臨床論Ⅰ(H29.4.4  計297ページ)→(R4.4.26  計330ページ)
整形・ペインクリニック領域

第1章 頭痛(p19)(p23)
 1節 針灸不適応の頭痛の除外
 2節 針灸適応となる頭痛の概要
 3節 頭痛の鑑別診断
 4節 頭痛の針灸治療

第2章 頸腕痛(p35)(p31)
 1節 頸腕痛疾患の概要  
 2節 頸肩腕症状の鑑別診断  
 3節 頸肩腕痛の針灸治療
 4節 肩こり性 

第3章 肩関節痛(p22)(p29)
1節 肩関節の動きと作用筋
2節 肩関節疾患の概要
3節 肩関節痛の鑑別診断
4節 肩関節痛の針灸治療

第4章 腰痛(p24)(p26)
1節 腰痛疾患の概要
2節 腰痛の不適応の判定
3節 効かせるための針の技法  
4節 殿部痛

第5章 腰下肢痛(p31)(p39)
1節 腰神経叢症状
2節 仙骨神経叢症状と腰椎椎間板ヘルニア
3節 脊柱管狭窄症  
4節 股関節疾患

第6章 膝関節痛(p29)(p31)
1節 針灸不適応の膝痛疾患  
2節 膝関節痛の鑑別診断  
3節 針灸適応の膝関節痛の針灸診療
4節 変形性膝関節症の針灸診療

第7章 顔面症状(p22)(p25)
1節 顔面痛
2節 顔面神経麻痺   
3節 顔面部の痙攣

第8章 上肢部症状(p34)(p36)
1節 肘関節痛 
 2節  手関節痛・手指痛
 3節 上肢の神経麻痺と神経絞扼障害

第9章 下肢部症状(p34)(p41)
1節 下肢の常見疾患 
2節 足部の常見疾患
3節  下肢の神経麻痺と神経絞扼障害

第10章 歯科症状(p21)(p24)
1節 歯の基礎知識
2節 歯科の主要疾患
3節 歯科領域の針灸治療
4節 口内炎
5節 顎関節症

第11章 治療効果を高める理論(p26)(p25)
1節  神経線維と運動制御
2節  MPS(筋膜性疼痛症候群)
3節『鍼治新書』の要点
               


現代針灸臨床論Ⅱ(H29.3.24 計356ページ)→(R4.4.26 計393ページ)
内科・眼科・耳鼻咽喉科・泌尿器科・産婦人科・皮膚科他 領域 
 
第1章 上中腹部消化器症状(p36) ( p39)
1節 腹痛の代表疾患
2節 針灸院における診察手順
3節 内臓体壁反射と針灸治療パターン
4節 横隔神経と体壁反応
5節 胃疾患と針灸治療
6節 肝炎患者の扱いと慢性肝炎の針灸治療
7節 胆道疾患と針灸治療
8節 膵炎と針灸治療        

第2章 下腹部消化器症状(p27)( p31)
1節 下腹痛と体壁反応  
2節 針灸院での下腹診察と針灸治療
3節 下痢
4節  便秘
5節 下痢・便秘の針灸治療
6節 虫垂炎と針灸治療
7節 痔疾と針灸治療         

第3章 鼻科・咽喉科症状  (p30)  (p33)
1節 鼻の疾患
2節  咽頭の疾患
3節 喉頭の疾患
4節 くしゃみ・しゃっくり
5節 かぜ症候群

第4章 胸部症状(p24)( p30)
1節 胸痛の針灸診療
2節 動悸・息切れ
3節 咳嗽・喀痰の針灸治療
4節 気管支喘息の針灸診療     

第5章 末梢循環器症状(p32)( p33)
1節 冷え症

2節 ほてり・のぼせ
3節 末梢動脈閉塞性疾患
4節 メタボリックシンドローム
5節 低血圧症

第6章 精神症状と全身症状( p37)(p43)
1節 不眠症
2節 疲労倦怠および貧血
3節 不定愁訴症候群・神経症・更年期障害
4節 肥満 

第7章 腎・泌尿・生殖器症状(p31) ( p35)
1節 腎・泌尿器と体壁反応  
2節 主な腎疾患  
3節 疼痛を生ずる尿路疾患
4節 頻尿・尿失禁・排尿困難
5節 夜尿症
6節 ED          

第8章 産婦人科症状( p29)(p31)
1節 性周期とホルモン
2節 婦人科の主要疾患   
3節 婦人科疾患の体表反応と針灸治療
4節 月経異常  
5節 月経随伴症状と針灸治療  
6節 不妊症 
7節 産科の主要疾患
8節 乳房症状             

第9章 眼症状(p31)(p37)
1節 眼の構造と機能 
2節  代表的な眼症状と鑑別診断
3節 代表的な眼科疾患
4節 全身疾患の一部としての眼科症状
5節 眼科の針灸治療            

第10章 耳科症状( p37)(  p39)
1節 耳の構造と機能
2節  難聴・耳鳴の診察
3節 めまいの診察
4節  中耳炎と針灸治療
5節  耳科疾患の概要
6節 難聴・耳鳴の針灸治療
7節 めまいの針灸治療    

第11章 皮膚科症状(p23)(p25)
1節 皮膚腫瘤
2節 アトピー性皮膚炎
3節 毛髪の異常

第12章 その他の主要疾患( p19)( p20)
1節  関節リウマチ
2節 脳血管障害 
3節 パーキンソン病
  巻末資料:体性神経デルマトーム図    

 

 

第5期、針灸奮起の会(現代針灸実技講習会)只今実施中です

$
0
0

これまで月2回ペースで現代針灸の実技講習会を行ってきましたが、この2年間コロナ禍により開催できませんでした。しかし最近になって、やっと開催できそうな状況に好転しました。そこでいよいよ令和4年3月6日(日曜)より、第5期「奮起の会」として再スタートすることにしました。

テキスト序文より
本テキストを<症状から学ぶ現代鍼灸実技>とよぶ。奮起の会針灸実技講習会用として改良を重ね現在第5版になる。第5期テキストは鍼灸臨床の現場で遭遇ことの多い疾患を絞ることで、各疾患ごとの現代針灸治療の病態把握法と効果的な針灸治療技法を十分なスペースを設けて説明することにした。実践的内容となっており、必ずしも基礎的内容に限定されてはいない。各単元は9~11ページとコンパクトにまとめられているが、それでも現在の私の針灸技法の6~7割は紹介しており、最初のステップとして十分なものと確信している。

 
<<募集要項>>

1.初回実施日時:令和4年3月6日(第一日曜日) 午後5時半~8時頃
 以降、6月末までの計7回。基本的に毎月第1、第3日曜。

2.場所:国立駅南口下車 徒歩3分、国立市中1丁目集会場

 

3.定員:12名 定員になり次第、受付終了します。
     満席になってもキャンセルが出ることもあり、そのたびに残席カウントが変化します。受講が絶対不可能ということではありません。

4.指導:似田敦、
     ほかに臨床経験豊富な現代針灸研究会メンバー(小野寺文人、岡本雅典、吉村英) 
5.参加費:鍼灸師6,000円 針灸学生5,000円(見学3,000円)
6.持参品:筆記用具程度。テキスト、針、消毒用品は当方で支給
7.懇親会 講習会後、駅前の居酒屋で実施(希望者のみ) 

8.受講お申し込み方法
参加御希望の方は、①参加希望会のテーマと開催予定日、②氏名、③住所、④電話 ⑤メールアドレスを、メールまたは電話でお伝えください。 
あんご針灸院 似田 敦(にただあつし) 電話042(576)4418 メールアドレスnitadakai825@jcom.zaq.ne.jp

<現代針灸臨床論CD>入手希望の方は、前日までにご連絡くださると、代金引換で講習会の際に手渡しできます。Ⅰのみ5千円、Ⅱのみ6千円、ⅠⅡ同時購入では1万円。2回目以降購入の場合、6割引。

第5期の参加者はすでに定員に達しましたが、令和4年秋には第6期「針灸奮起の会」を実施予定です。参加者募集のお知らせは7月頃からになります。

<<日程>>

タイトル:症状から学ぶ現代鍼灸実技

第1回 C.膝痛の治療技術<3月6日>満席  終了しました

※補講:膝関節痛治療に多用される穴
症状C-1 慢性的な膝関節前面の痛みで、鶴頂穴圧痛(+)時  【大腿直筋過緊張】
症状C-2 膝蓋骨外縁(外膝蓋)または内縁(内膝蓋)の痛み。【外側広筋または内側広筋の過収縮】
症状C-3 膝関節前面の痛みで、内外膝眼圧痛(+)時 膝関節包過敏】
症状C-4 膝関節内側の鵞足部の痛み     【鵞足炎】
症状C-5 膝窩が鈍く痛む    【膝窩筋腱炎】
症状C-6 中学生。脛骨粗面部が痛む【オスグッド病】
※補講:膝の痛み以外の主な症状と対処法  

集合写真。受講生12名とスタッフ3名

懇親会(5名参加)

 

第2回 D.頸碗痛の治療技術<3月20日>満席   終了しました

※補講:後頸部筋の構造と常用刺針点の整理
症状D-1 顔を下に向けづらい(顎を引けない)。 上項部が重苦しい。【後頭下筋(とくに大後頭直筋)緊張症】
症状D-2 頭を左(または右)に回しにくい。無理に回すと痛む。  【頭板状筋緊張症】
症状D-3 デスクワークなどで顔を下にした姿勢を続けていると後頸部が疲れる。 【頭半棘筋緊張症】
症状D-4 頸を動かした際に、後頸部、肩甲上部、肩甲間部などが痛む。 【脊髄神経後枝痛(長・短回旋筋緊張症)】
症状D-5 頸部が痛く、片側の上肢の感覚が鈍い。前中斜角筋に圧痛(+)   【(前)斜角筋症候群】
症状D-6 頸部が痛く片側の上肢がピリピリする。烏口突起内側の圧痛(+) 【小胸筋症候群】
症状D-7 ムチウチ1ヶ月後に、めまい・嘔気・不眠・耳鳴・眼精疲労が出てきた。 【バレリュー症候群】


第3回 E.肩関節痛の治療技術<4月3日>満席 終了しました

※補講:針灸に来院する肩関節障害の概要     
症状E-1 肩関節を外転で、90°を超えると肩関節~上腕・肩甲骨周囲に痛みが出て上げられない。他動外転は正常。  
    【肩腱板炎とくに棘上筋腱炎(または棘上筋腱部分断裂)】
症状E-2 肩に痛みが出て結髪動作ができない。他動的には可能。  【肩腱板炎(棘下筋、小円筋の伸張制限)】
症状E-3 肩関節前面~外側の動作時痛。とくに結帯動作時痛み出現。 他動的には可能。 【肩腱板炎(棘下筋、小円筋の伸張制限)】
症状E-4 五十代男性。肩の動きが悪く、結帯動作、結髪動作ができない。
      外転70°で自動・他動ROMとも同様。ただし肩関節痛はあまり感じない。【凍結肩】


第4回 F.上肢症状の治療技術<4月17日>  10名参加 終了しました

症状F-1 テニスでバックハンドでボールを打ち返す際、右肘付近に痛みが走る。【バックハンドテニス肘】
症状F-2 ゴルフクラブでボールをインパクトする時、効き手の肘内側が痛む。【ゴルフ肘】
症状F-3 重い物を右手に持つと右側母指の橈側基部が痛む   【狭窄性腱鞘炎】
症状F-4 右IP関節を屈曲した母指を伸展しようとしてもスムーズにできない。
      無理に伸ばそうとするとバネのように弾けて伸びる           【母指バネ指(弾撥指)】
症状F-5 物を右手の母指と示指でつまむ時、右側の合谷深部に痛みを感じる     【母指内転筋症】
症状F-6 手掌と手掌側の母指・示指・中指にピリピリ感、疼痛がある。 【手根管症候群】
症状F-7 50才女性。手指のDIP関節が脹らみ、自発痛がある。   【へバーデン結節】
    
                                                                           
第5回 G.下肢症状の治療技術<5月15日> 8名参加 終了しました

症状G-1 歩行中、左足首をひねり、歩く動作で足外果の直下が痛む。痛みを我慢すれば、何とか歩くことができる。   【急性足関節外側捻挫】
症状G-2 両側の足拇趾基部が「く」の字型に曲がり、腫れて痛む    【外反拇趾】
症状G-3 体重をかけると両足の踵中央部が痛むため、歩行困難。         
       踵中央部に強い圧痛がある。      【踵脂肪体萎縮(=踵脂肪褥炎)】
症状G-4 ランニングをしていると、足裏の土踏まずあたりが痛み、運動を続けられない。 【足底筋膜炎】
症状G-5 歩くと片足の第3・第4指間がピリピリと電気が走る。じっとしている分には痛みはない。 【モートン病】
症状G-6 座骨神経痛で下肢が痛む。とくに大腿後側・下腿前面・下腿外側に痛みが放散する。  【殷門、足三里、陽陵泉、懸鐘の刺針法】  

 

第6回 A.腰背痛の治療技術<令和4年6月5日>満席 13名参加 終了しました

症状A-1 膈兪~肝兪付近(胸椎部で肋骨がある部)に感じる痛み  【胸椎椎間関節症】
症状A-2 背部と腰部の境界あたりに感ずる慢性的なコリ、胃の不調【腰方形筋起始部痛】
症状A-3 肩甲間部のコリと痛み 【胸椎短背筋痛または胸腸肋筋々膜痛】
症状A-4 上体前屈時に大腸兪付近に感ずる痛み 【腰椎-仙椎移行部椎間関節症】
症状A-5 志室の深部に自覚する痛み    【 大腰筋製腰痛】
症状A-6 腰下部に慢性的な鈍重痛感。圧痛点は不明瞭。 L5棘突起下に細絡【オ血性腰痛】
※補講:八髎穴への刺入技法と治療点の選択

 

第7回 B.殿下肢痛の治療技術<6月19日>満席    最終回

当日使用するテキストが完成しました。講習会参加者で、事前に学習したい方はPDFをお申し込みください。添付メールします。(6/6)

症状B-1 片側の殿部~大腿後側~下腿(前面・外側・後面)が痛む。【梨状筋症候群】
症状B-2 上外殿部から大腿外側の運動時痛 【中・小殿筋緊張症】
症状B-3 上殿部外側の痛み・鼠径部痛。歩行時の鼠径部に感じる違和感【変形性股関節症】
症状B-4  同じ姿勢を続けている時に生ずる腰部の鈍重感と下肢不定症状【仙腸関節機能障害】
症状B-5 5分間ほど歩行すると足が前に進まなくなる。腰をかがめて数分間座って休憩すると再び歩行可能となる。【脊柱管狭窄症】

第5回奮起の会、全7回皆勤の先生には、以下の目次を差し上げます。
(ブログ上では、情報量が多いので鮮明にできない)

 

 

バネ指の針灸治療 ver.3.3

$
0
0

本原稿は約3年前に発表した「バネ指の針灸治療」を全面的に改定したものである。

1.手の指の腱・腱鞘・靭帯の構造 

指に向かう深指屈筋腱と浅指屈筋腱は、運動量が大きく力も強大なので、他の組織との摩擦を 防ぎ、滑りをよくするため、遠位中手骨から指先までを腱鞘で覆われている。 さらに指の掌側には、腱の浮き上がり防止のため、滑車装置である輪状靱帯(靱帯性腱鞘)が   腱鞘を補強している。輪状靱帯は、示指~小指それぞれに5カ所(母指は2カ所)ある。

バネ指の原因として最も多いのがA1輪状靱帯によるもので、次いでA2輪状靱帯に多い。A3~A5輪状靱帯とC十字靱帯はバネ指を起こさない。




 3.バネ指の概要

1)病態生理  

指の屈曲動作は前腕部の指屈筋が収縮し、その筋から指の末節骨・中節骨に停止した腱が体幹側に引っ張られることで行われる。この腱と靱帯への機械的刺激が過度になっても、通常は一晩休めば炎症は鎮まる。しかし自然修復できる限度を超えた刺激が繰り返されれば、徐々に輪状靱帯は肥厚し、腱を締めつけるまでになる(これが狭窄性腱鞘炎状態)。 輪状靱帯に腱が繰り返し衝突することで腱の一部にシワが寄り、シワは次第に大きくなって結節に発展する。


2)分類・症状・所見  

<第1期>    
MP関節の手掌側に痛みや圧痛があり、指の運動時痛がある。バネ現象はなく関節の動きも正常。日常生活にほとんど支障がない。このまま自然治癒することもある。治療は安静。  


<第2期>     
腱鞘内への注射(局所にステロイド+局所麻酔剤)をした直後は効果を実感しないが、数週間でじんわりと効いてくる。この効果は9割の者が実感できるが、やがては元にもどることも多い。腱への注射は腱を傷つけることでになるので、2ヶ月に1回計2~3回注射して、それでも元にもどる場合は手術に踏み切る。   

①バネ現象陽性
指が一定の角度に達すると、自動運動が障害され、これを自動的・他動的に強制屈曲させる時には、弾撥性に屈曲する。かろうじて指は屈伸できるが、曲げた指がスムースに伸びない現象。重度バネ指でなければ、無理に伸展させると、轢音を発し、完全伸展可能。   

②モーニングアタック出現
夜間就寝中に、無意識に指を屈曲するせいか起床後に指を再伸展させる際に強く痛む。   

③MP関節掌側部の圧痛・運動痛。腫瘤を触知  

 

<第3期>       
関節拘縮状態。 バネ現象は消失するが、指の完全屈伸はできなくなる。日常生活で非常に支障をきたす。A1輪状靱帯の開放手術以外に方法がない。        重症の場合、A1切開とともにA2手掌側の下半分を切開することもある。A1とA2両方を完全切開することは、指屈曲時に腱が浮き上がってくるので実施できない。

 

 

2.代田文誌先生の運動療法
 
代田先生は、得意とする針灸が非常に多い方だったが、バネ指を苦手とし、独自に考えた運動療法を行っていた。成書よりその方法を転記する。「障害指の屈筋を中心に、患者の手首を術者の片手で固く握りしめ、その状態で患者に全力で指を十回~数十回屈伸するよう命じる。すると今まで自力では屈伸できなかった指が、突然自力で屈伸できるようになる」

記方法を筆者は追試してみた。確かに効果はあるが満足する程度ではないこと。またやはり針での治療法を知りたいと思っていた。
 
以下は筆者の考えた方法である。代田文誌先生の運動療法よりも効果的であるようだ。 


3.バネ指の針治療
 
バネ指にも軽症と重症がある。対する鍼灸の治療効果は、当然のことであるが、軽症の方に適応がある。具体的には他指で補助することなく、屈曲した指の再伸展できる者に効果的である。

1)母指バネ指の針灸
    
母指バネ指の症状は、母指IP関節の屈曲時にポキッとして自動的に折れ曲がる現象と、屈曲状態にあるIP関節を伸展した際のポキッとした自動伸展現象(重症の場合、自力では再伸展不能)となることである。
    
母指バネ指では、長母指屈筋腱上に結節ができる。長母指屈筋の走行は、は前腕骨間膜を起始とし、母指末節骨に停止している。仮にこの筋の筋トーヌスも筋長も生理的範囲内であれば、腱に加わる伸張力は弱くなり、再伸展の際に結節が存在したとしても、輪状靱帯にぶつからなくてすむのではないだろうかと考えてみることにした。
     
具体的には、前腕屈筋側中央に郄門をとり、同じ高さの肺経上に治療点を定める。そこから長母指屈筋に向けて斜し、母指屈筋の運動針を指示する。長母指屈筋中に刺入できていれば、母指の動きと同期して針柄が上下に動くことを観察できる。


  

 

 

母指バネ指治療に使う部位には正穴がなく不便なので、既存の正穴位置をヒントに、裏偏歴と名付けた。正穴の偏歴は前腕橈側、手関節横紋屈筋側の橈側(=陽谿)から曲池穴に向かい上3寸の大腸経なので、その裏側である肺経沿いにあるから、裏偏歴とよぶことにした。

2~5指治療に使う治療部にはで使うにも正穴名がなく不便なので、既存の正穴位置をヒントに、裏支正と名付けた。正穴の支正は前腕尺側、手関節横紋から尺側手根伸筋の上5寸の小腸経にある。その裏側である心経沿いにあるので裏支正と呼ぶことにした。

 

2)第2~第5指バネ指の針灸
    
親指以外の4本指でDIP関節屈曲は深指屈筋、PIP関節屈曲は浅指屈筋、MP関節屈曲は虫様筋というように役割分担されていて、比較的大きな物を握る時は深指屈筋が働き、握力計や比較的握りやすい物を握る時は浅指屈筋が働き、握りしめたり細い物を握る時は虫様筋が主に働く。ただし実際には独立して働く事はほとんど無く互いに協調して握力を生み出す。



バネ指は、浅・深指屈筋腱にできた結節が、腱共通の輪状靱帯を通過できなくなった状態である。もし浅・深指屈筋が弛緩・伸張した状態では結節が腱鞘に入らなくても指伸展が可能となると考え、前腕屈筋側中央に心包経の郄門をとり、その高さの心経ルート上を刺入点とし、浅指屈筋または深刺屈筋中に至る斜刺を行ない、置針した状態で、母指を除く4指の屈伸運動を行わせる。深指屈筋中に刺入できていれば、母指の動きと同期して針柄が上下に動くことを観察できる。(臨床上、浅指屈筋中に刺入しても治療効果はあがる)
 

4.バネ指腫瘤部への局所刺激と小鍼刀の検討

バネ指の運動障害の原因は、A1輪状靱帯部における腱の圧迫が最多なので、輪状靱帯を切開して腱の通りをスムーズにしてやればよい。輪状靱帯を切開しても、腱は安定した位置にあるので、指の曲げ伸ばしの動作に支障は起きないという。

かつて注射針によるばね指手術(局所麻酔注射後、腫瘤部に注射針をか刺して、鍼先を小刻みに動かすことで小分けして輪状靱帯を切断する)も行われてきた。この技法は、屈筋腱損傷などの合併症が報告されていて、現在では医療施設ではあまり行われないが、中国では小鍼刀(鍼先がマイナスドライバーのようになっている鍼)が考案され、輪状靱帯を突っついて押し切るばね指治療も行われているようだ。エコー装置を使えば針先と腱鞘の位置関係が確認できる。この方法は、法的に日本での鍼灸術の範疇に入るかどうかは微妙であし、」また無麻酔で施術することになるので患者にとってはかなり苦痛だろう。しかし通常の豪針で、輪状靱帯を鍼先で少々突いただけでは、輪状靱帯の圧迫は取り除くことは難しい。

腫瘤部に円皮針の貼り付けや施灸により効果があることもある。これは局所刺激としての限定的効果であろう。

   

 

 小針刀を使ったバネ指(板機指)治療の動画

 https://www.youtube.com/watch?v=w60t6_Ox3VA

 

 

  

 

Viewing all 655 articles
Browse latest View live