Quantcast
Channel: AN現代針灸治療
Viewing all 655 articles
Browse latest View live

針灸臨床のための浅筋膜と刺激手法

$
0
0

以前、「筋膜(ファッシア)の問題点の整理 ver.2.0」題したブログを発表したが、鍼灸臨床にあまり関係ない内容を削除するとともに、臨床的側面を追加し、新たに、上記タイトルとして整理することにした。

1.ファッシアとは  

これまで慣習的に筋々膜性疼痛という言葉が使われたが、筋肉は痛まないので現在では筋膜性疼痛という用語に変化した。そして筋膜性疼痛を起こす病態のことを筋膜性疼痛症候群(MPS:Myofascial Pain Syndrome)とよぶ。MPSは、筋膜トリガーポイント(TP:Trogger  Point)によって引き起こされる知覚・運動・自律神経症状を呈する。筋肉から生じる関連痛は、1938年にケルグレム John Kellgren により報告された。1988年には、トラベル Janet  G.Travellと共同研究者の David G.Simons がMPSの概念を書籍にした。
 
わが国の医学者は、fascia(ファッシア)を筋膜と和訳したものだが、これは後々誤解を生じる元となった。fascia はラテン語の  fascis(ファスキス)「束」を意味する。意訳すると、人体における様々な構造物を「包むもの、隔てるもの」になる。その代表が深層筋膜であるが。皮下組織中には浅筋膜(浅層ファッシア)がある。


 

2.浅層ファッシア(=浅筋膜、皮下筋膜) Superficial fascia

 

 

「膜」といえば、筋を包む膜(=深筋膜 深層ファッシア)のみを考えがちであるが、皮下組織を包む膜もあって、これを浅筋膜(=浅層ファッシア)とよぶ。浅層ファッシアは、皮膚と筋の間にあり、互いに絡み合ってネットワークを形成しているので、どこか一か所を引っ張ること、全体的な緊張やバランスに影響をあたえる。
皮膚をオーバーコートと仮定すると、浅層ファッシアはコートの裏地のようなものである。皮膚と筋の間のスライドを援け、外部からの圧力に対して筋肉を保護する。もし浅層ファッシアがないとなれば、コートはゴワつくので着心地が悪いものとなる。

浅筋膜は広大な面として広がるので、個々の筋応じた深筋膜と箱となり。頭部・頚部・胸部とった身体区分で分ける。

  
3.浅層ファッシアへの刺激手法

1)挫刺針(塩沢幸吉著「挫刺針法」医道の日本社、1967より)

塩沢幸吉創案の挫刺針法は、この浅層ファッシアの癒着を剥がすので効果があると考える者がいる。塩沢は「挫刺針法とは、挫刺に適する針先が「J 」の字になっている特殊な針を使用し、表皮・真皮及び皮下組織の一部を極めてミクロな状況下において刺切し、挫滅することによって、‥‥」と記している。この治療は患者に強い痛みを与えるので、コリの強い者に対する最終手段として行うようだ。
   
塩沢の症例報告:右側の背部から肩頚部に強度の疼痛を発し、さらに右上肢に強い倦怠を訴えて通院する慢性胃炎の患者の鍼灸治療を1年2ヶ月色々な方法で治療してみたが疼痛は一向に軽快しなかった。しかし皮下組織とおぼしきところまで数回にわたって線維を引き出しては切除したところ、患者は今までの苦痛が一掃したとの治験を紹介した。

2)撮診


   
皮膚と皮下組織を一緒につまむと、痛みを強く感じる部とさほど感じない部があることに気づくが、この現象を治療に応用したのが成田夬助(かいすけ)が報告した撮診(=skin rolling  スキンローリング)である。撮診の異常所見で、「撮痛」は皮神経の閾値低下部位であろうが、痛みの有無は被験者にしか分からないことである。しかし撮診時、他部位と比べて「皮膚と皮下組織が分厚く感じる」のが常だが、これは検者が感じる所見である。分厚く感じるのは、浅層ファッシアの反応を捉えていると思えた。

日常的鍼灸臨床で、よくみるのは深層ファッシアが存在しない腱・腱鞘部の反応である。腱鞘炎時にいける手関節背面の撮診反応は、撮診すると跳び上がるような痛みを感じ、また撮んだ皮膚が厚ぼったく感じる。 厚ぼったく感じる理由こそ、 浅層ファッシア反応なのだろう。鵞足炎時の膝関節内下方の撮診でも同様のことがいえる。
結合織マッサージやロルフィング(1930 年代にアメリカでアイダ・ロルフによって開発された浅層ファッシア癒着を解放する治療)は同様の意義をもつと思えた。


4)走缶法(スライドカッピング) 
     
事前に皮膚面にオイルや石鹸水を塗り、滑りをよくしておく。  その上から吸玉を一つかぶせ、吸玉を手指で肌上で滑らす。陰圧が強ければ強刺激になる。陰圧が弱すぎれば、吸玉を滑らす際、空気が中に入って皮膚から外れやすくなる。通常の吸玉治療よりも短時間で皮膚を発赤/充血させることができる。
   
これは毛細血管を充血させ、浅層筋膜の緊張を緩めている。強い陰圧では吸玉痕が何日も残る   が,これは毛細血管が破れ内出血した状態である。この内出血は自然と皮膚に吸収されるが、完全に消失するには何   日もかかる。痕が消失した後でなければ、再び走缶法をするのは痕が消退しにくくなるなどの医療過誤を生ずる恐れがある。
走缶法をエステやリラクセーションの場で行い、患者に満足感を与えるのであれば営業として行う価値があるのだだろうが、医療的価値は判然としない。
 
5)刮痧(かっさ)療法
「刮(かつ)」には削るという意味で、「痧(さ)」は滞って動かなくなった血液を示している。つまり、刮痧とは「肌をこすることで滞っている血液を刺激し、滞りをなくす」療法をいう。
     
専用の板や中華料理のレンゲを使い、不調を感じる部分をこすることで、肌の表面に瘀血を浮き上がらせると同時に、血流やリンパの流れが促進されることで、老廃物をスムーズに排出することができるとされている。これも浅筋膜刺激になるだろう。

刮痧療法で肌をこすると、皮膚が充血・発赤して痛々しいほどに見える。これは内出血そのもので、これが瘀血だとするのは科学的な見方とはいえない。
毛細血管が切れた状態となるのではないか?
しかし透熱灸すると皮膚が火傷し、これが疾病治癒に効能があるとする論法からすれば、内出血させることが疾病治療に有益な作用をもたらすという見方もある。問題なのは、皮膚をこすって充血・発赤させる行為が度を越える危険性があることである。事情を知らない者が見たら、ムチで打たれた痕のように思うかもしれない。  前述した走缶法にも増して皮膚に痕がつくから、事前に患者に覚悟してもらった上で行う。痕がつくという欠点以上にメリットがあれば行う価値があるというものである。

 


急性足関節捻挫には局所強刺激単刺+テーピング Ver 1.5

$
0
0

1.捻挫の概念

関節捻挫とは、関節が一瞬ずれ、次の瞬間には元に戻るという状況である。関節が元に戻った後に来院するので、関節包や靱帯など、関節支持組織の損傷ということになる。足関節に好発する。
※今回は、急性足関節捻挫を説明し、次回は慢性足関節捻挫をとりあげる。

2.捻挫の好発部位

1)足関節外側捻挫(内反捻挫)

足関節の靱帯損傷は、外果縁(前距腓靱帯、踵腓靱帯)、と内果縁(三角靱帯)に起こりやすい。足関節の外側靱帯には前距腓靱帯・踵腓靱帯・後距腓靭帯がある。これらの靱帯損傷を総称して外側靭帯損傷とよぶが、外側捻挫はとくに前距腓靱帯損傷が多い。
2度(詳細後述)以上の重度の靭帯損傷があると、前距腓靭帯+踵腓靭帯損傷の形となることが多い。


2)二分靱帯捻挫

踵骨から舟状骨に、また踵骨から立方骨に靱帯が分かれしてついているので、この二つの靭帯を合わせて二分靭帯とよぶ。二分靭帯捻挫は、外側捻挫とほぼ同様の機序で発症する。二分靱帯はまれに剥離骨折を生ずることもある。
日常診療においては、足関節捻挫の最多好発部位である前距腓靭帯と部位が近いので、見逃しやすく、正確な触診による圧痛点(外果のやや前方の圧痛)の把握が診断に重要である。二分靱帯捻挫は、後遺症なく治るとされている。


3)足関節内側捻挫(外反捻挫)

足関節の外反捻挫は、前記の内反捻挫と比べて少ない。足の内果と足根骨は4本の靱帯で結合され、これを総称して三角靱帯と称する(4つの靱帯個々の名称は記憶する必要なし)。
三角靱帯は強靱なので、大きな捻挫を起こすことは稀である。一方、強力な力を受けた場合は、剥離骨折を生じることもある。

 
3.捻挫の自然経過と治癒過程

1)炎症過程(急性期) 
捻挫では関節包靱帯を損傷し、関節包靱帯の内面の滑膜層に炎症性の腫脹が発生する。腫脹の中身は滑膜層からの分泌物で、これが関節包の中に充満すると関節の可動範囲が狭まり、疼痛が発生する。
関節包靱帯やそれを補強する側副靱帯などが部分断裂を起こすと、その部分より出血を生じ、見た目にも青黒く皮下出血斑が広がっているのが確認できる。そのため、いち早いRICE処置が必要となる。


2)消炎期(治癒期)

3~4日の急性期が終わると、腫れも落ち着き、各組織が移動を始めて新しい組織を生み出す準備を開始し、組織修復が始まる。この頃になると、最初の炎症期のような激しい痛みはなくなる。この組織修復の原動力となるものは腱に含まれるコラーゲンであるという。


3)再生期(修復期)

腫れが引き、治癒の準備ができると組織は再生と修復を始める。筋肉や腱、靭帯などの組織は、受傷後3~4日して瘢痕組織を形成してしばらくの間、補強され、数ヶ月後にはほとんど元の組織に回復する。この瘢痕が存在する時期は、捻挫を再発しやすい時期でもある。この時期に捻挫を繰り返して瘢痕組織を傷つけると、捻挫が慢性化してしまう。
また受傷後の毛細血管はケガから2~3日で修復を開始し、新しい血管を形成していく。この段階は約4ヶ月も続くことがある。
新しい組織が強い構造(ケガの前の正常な構造配列)を形成するためには、ある程度のストレス(運動)が必要なことから、適切なリハビリが重要になる。


4.重症度分類と処置法

1)第1度

病態:靱帯断裂を伴わない軽度または微小な捻挫。
症状:ある程度の腫脹を伴う軽度の圧痛。
治療:安静とサポーター

2)第2度

病態:不完全または部分断裂を伴う中程度の捻挫
症状:明らかな腫脹、斑状出血、歩行困難
治療:膝下歩行、3週間のギブス固定

3)第3度

病態:完全な靱帯断裂
症状:腫脹、足関節不安定性、歩行不能
治療:ギブス固定または手術


5.針灸治療

1)針灸の適応とテーピング固定

針灸治療は第1度捻挫に著効する。第2度にもある程度適応がある。第3度には適応がない。要するに痛いながらも何とか歩けるものが適応になる。針灸治療自体は鎮痛消炎目的で行うので、ごく軽い捻挫を除き、治療院でも関節固定を行うべきである。とはいっても捻挫の固定は整形外科や整骨院が本業とするところなので、針灸院レベルではテーピング固定(伸縮性のないテープを使用)を行う程度となる。逆にいえば、テーピング固定しても歩行困難な患者は針灸適応外といえる。針灸治療だけで固定をしない場合、痛み自体は間もなく消退するが、靱帯がゆるんだまま炎症が治まった状態(これを慢性捻挫とよぶ)に移行しやすい。慢性捻挫では、一定の負荷の持続で、関節部が腫脹し痛みを訴える。また捻挫を起こしやすくなる。


2)針灸治療法

現代医学においても、打撲・捻挫などの外傷の時に、圧痛点に局所麻酔を打つと治癒が促進されることが知られている。痛みを放置した状態→反射的に筋肉の緊張が強くなる→交感神経の緊張が続き、腫れや血行障害が続く、ということで局麻注射は痛みの悪循環を遮断する意味がある。
   
圧痛点に針灸治療を行う意義も同様で、鎮痛→筋緊張緩和→交感神経緊張緩和→血行促進→自然治癒力増強という機序が作用する。

代田文彦は、「捻挫時の圧痛点刺針は、骨膜に至るまで深刺した方がよく、その理由として骨膜は広汎に響きを与えられるので、刺針効果の及ぶ範囲が広くなる」と話していた。針灸治療自体は容易で、捻挫部の圧痛点を数カ所みつけ、そこに強刺激の単刺法を行う。結果として阿是穴治療になることが多い。
刺針時の患者体位としては、捻挫部を広げて靱帯伸張させて刺針すると針が骨間の凹みの底に至りやすくなり、針の響きも広範囲になる。

 

 



3)第Ⅰ度の急性足関節内反捻挫の局所治療奏功例(2022.8.9 柏原修一氏報告)

患者:64歳、男

主訴:右足首の内反捻挫。

現病歴:2022.8/6に趣味のランニング中に道路の凹凸に足をとられて右足首の内反捻挫。

所見:内出血、発赤、熱感、腫脹なし。内反動作で右外果下部に動作痛および圧痛。重症度分類はⅠ度と推定。

治療:第5期針灸奮起の会 「下肢症状の治療技術」に基づきⅠ度の急性捻挫と診断し、右外果下の圧痛点5カ所に寸3-1で単刺。半米粒大の艾炷2壮を9分透熱灸。その後キネシオテープ3枚で固定。通常歩行動作で痛みのないことを確認。

考察:本症例は受傷後3日目の軽度急性捻挫と診断し、単刺と9分灸で消炎措置を行い、キネシオテープで固定して様子をみてもらうこととしました。本症例は、Ⅰ度の足  関節内反捻挫といことで、鍼灸はよく奏功するが、ここで必要となるのが、捻挫の重症度区分を見分ける知識である。Ⅰ度であれば歩ける。Ⅱ度であれば立てるが歩けない。Ⅲ度では立つこともできないという区分が役立つだろう。

足底筋膜炎の針灸治療 ver.2.4

$
0
0

1.病態
   
足底の筋は、表在性の足底筋膜に覆われている。足底筋膜は踵骨隆起から起こり、足の指に至って、足底の縦のアーチ維持に貢献している。過度の足底筋膜に加わる張力の反復により、足底筋膜に付着部の牽引ストレスが作用する。また足底筋膜の微小断裂を起こす。
   
この微小断裂は、夜間就寝中に治癒機転が働いて固くなる。しかし朝、固まった損傷部に体重が加わると、再び引き伸ばされて激痛となる。長距離の選手に多い。

 

2.症状

痛みの直接原因は脛骨神経末端興奮による。

1)脛骨神経内側踵骨枝刺激
歩行開始時や走行中に、踵に近い部分が、ビリビリと痛む。踵骨前方の圧痛。

2)内側足底神経刺激:母趾背屈時の足底痛。
 
3.所見:X線で、足底部の踵骨内前方に骨棘。

4.整形治療:整形での治療は安静。ときに筋膜付着部への局麻注射を行う。スポーツ再開までには、数ヶ月の安静が必要。
(治癒まで半年以上かかる例が10%ある)
 

5.足底筋膜炎の鍼灸治療

 1)下腿三頭筋と足底筋膜   

新生児では足底筋膜は踵骨を経由して下腿三頭筋とつながっているが、生後1年して歩行する頃になると両者は踵骨を境に独立したものとなる。治療的には、足底筋膜と下腿後側筋と一体として考えるとよい。 下腿三頭筋とくにヒラメ筋が短縮緊張すると、足底筋膜がひっぱられる力が増し、外的衝撃により足底筋膜が傷つきやすくなる。ゆえに下腿三頭筋とくにヒラメ筋のトリガーポイント(承山・承筋などの圧痛点)を見つけて刺針する。

 


2)短母趾屈筋への刺針

公孫位置: 足の第1中足指節関節の後、内側陥凹部に太白をとり、その後1寸。     
然谷位置:足内果の前下方、舟状骨と第1楔状骨の関節面の下際。


 

 

公孫・然谷刺針は母趾外転筋→短母趾屈筋と入っていく。なお長趾屈筋と長母趾屈筋はこのあたりでは腱となっているので、刺針する意義は少ない。これら長趾屈筋と長母趾屈筋本体に刺針するには下腿から行うのがよい。


3)長母趾屈筋と長趾屈筋への刺針

これら2筋は。足母趾および足第2趾~第5趾の屈曲作用である。足底部では腱になっていて筋は下腿後側になる。長母趾屈筋腱の停止は腱となって足の内側に、長趾屈筋の停止は腱となって足の外側にあるが、下腿後側では二筋はクロスし、長母趾伸筋起始は下腿の外側に、長趾伸筋起始は下腿の内側になっているので要注意。これら二筋の代表穴として、筆者は陽交穴・地機穴を使っている。

 

※以前の下腿中央断面図では、「陽交」と「外丘」の位置が入れ替わっていた。40年前に私が学習してた頃にそういうことだったが、現在では変化したらしい。現在の規定に沿って、図

地機位置:下腿内側ほぼ中央脛骨内縁骨際で、ヒラメ筋起始部。深部に長趾屈筋がある。   
陽交位置:下腿外側ほぼ中央。長腓骨筋とヒラメ筋の間。深部に長母趾屈筋がある。

 

この刺針のアドバンス治療は、伏臥位で下腿下方にマクラを入れて足をベッドから浮かせた状態にして外丘から長母趾屈筋に、地機から長趾屈筋に置針。その状態で足指の屈伸運動を行わせると治療効果が増大する。  

 

 

 

4)局所刺針  

刺痛をなるべく与えないよう細針を使い、足底の圧痛点に直接浅刺刺針。
跪座位(両足の指を立て、踵の上に腰を下ろした姿勢をさせ、足底筋膜のストレッチ運動を行わせる。徐々に体重をかけていく。1~2分筋運動実施させた後に抜針する。

6.足底筋膜炎に対する鍼灸の追試報告(柏原修一氏による)2022.8.11.

1)主訴:両踵部の痛み、および両ふくらはぎの筋肉痛

2)現病歴:肥満体形。毎日水産加工会社で立仕事している。2年ほど前から反復性の踵痛でたまに来院している。今回も症状が増悪し両踵部痛と内側・外側腓腹筋痛が痛むという。痛みのレベルはVAS(痛みの十段階評価)2~7の範囲。平均5。本日は7。踵の失眠圧痛(-)だった。

3)診断:足底筋膜炎

4)治療:跪座位にて踵骨隆起の圧痛点に寸3-01置鍼。跪座位のまま足底筋膜のストレッチ動作10回。
立位に腓腹筋内側頭、外側頭の圧痛部に寸3-01置鍼。腓腹筋ストレッチの運動鍼。ヒラメ筋の圧痛点に寸3-01置鍼。ヒラメ筋ストレッチの運動鍼。
その後腹臥位にて刺鍼個所に台座灸。最後にかかとにキネシオテーピングを実施した。

5)治療効果:治療後のVASは7→3に改善。

6)症例を振り返って

①治療内容は、第5回針灸奮起の会鍼灸実技講習会、「下肢症状」で学習した内容を追試した。本来ならばもう少し太い鍼でしっかりと筋中に刺入したかったが、患者は鍼刺激に過敏なため細い鍼で浅刺せざるを得なかった。跪座位にすると足底筋膜は伸張されるので、治療効果が高まる反面、強刺激になりがちになる。
②本例は失眠圧痛(-)だったが、失眠圧痛(+)ならば踵脂褥炎を疑う。踵脂褥炎とは、踵中央部が痛み、歩行困難になる疾患。
③足底筋膜炎では、しばしば下腿三頭筋の痛みを同時に訴えることがある。これは足底筋膜→→踵骨→アキレス腱→下腿三頭筋という筋膜の連動(アナトミートレイン≒膀胱経の流注)が想定されるため。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


  




 

 

 
     

 

 

 
      
 

 

第6期、針灸奮起の会(現代針灸実技講習会)開催のお知らせ

$
0
0

令和4年3月6日(日曜)~6月19日、第五期針灸奮起の会を行いましたが好評につき、令和4年10月3日から第六期針灸奮起の会を開催致します。

テキスト序文より
本テキストを<症状から学ぶ現代鍼灸実技>とよぶ。奮起の会針灸実技講習会用として改良を重ね、今回で第6版になる。第5期テキストは鍼灸臨床の現場で遭遇ことの多い疾患を絞ることで、各疾患ごとの現代針灸治療の病態把握法と効果的な針灸治療技法を十分なスペースを設けて説明した。第6版も同じ方針だが、先回実施して判明した煩雑な部分をさらに取捨選択しており、さらに洗練度が増した内容とした。基礎的内容というより実践的内容(来院患者の要請に対応できる)になっている。各単元は9~11ページとコンパクトにまとめられているが、それでも現在の私の針灸技法の6~7割は紹介しており、最初のステップとして十分なものと確信している。

 
<<募集要項>>

1.初回実施日時:令和4年10月2日(第1日曜日) 午後5時半~8時頃
 以降、12月4日までの計5回。基本的に毎月の第1、第3日曜。
 ※情況次第で、さらに別のテーマ(上肢症状、下肢症状など)を追加し、実技講習会を継続することもあります。

2.場所:国立駅南口下車 徒歩3分、国立市中1丁目集会場

 

3.定員:12名 定員になり次第、受付終了します。
     満席になってもキャンセルが出ることもあり、そのたびに残席カウントが変化します。受講が絶対不可能ということではありません。

4.指導:似田敦、
     ほかに臨床経験豊富な現代針灸研究会メンバー(小野寺文人、岡本雅典、吉村英 各先生) 
5.参加費:針灸師7,000円 針灸学生6,000円(見学3,500円 見学は最大2名まで)
6.持参品:筆記用具程度。テキスト、針、消毒用品は当方で支給
7.懇親会 講習会後、駅前の居酒屋で実施(希望者のみ) 

8.受講お申し込み方法
8月14日からお申込み受付けます。参加御希望の方は、①参加希望会のテーマと開催予定日、②氏名、③住所、④電話 ⑤メールアドレスを、メールまたは電話でお伝えください。 折り返しご連絡を差し上げます。参加費は当日お支払いください。
 あんご針灸院 似田 敦(にただあつし) 電話042(576)4418 メールアドレスnitadakai825@jcom.zaq.ne.jp


 (第五期第一回奮起の会集合写真 令和4年3月7日)


<<日程>>

タイトル:症状から学ぶ現代鍼灸実技

第1回 A.腰背痛の治療技術<令和4年10月2日>

症状A-1 膈兪~肝兪付近(胸椎部で肋骨がある部)に感じる痛み  【胸椎椎間関節症】
症状A-2 背部と腰部の境界あたりに感ずる慢性的なコリ、胃の不調【腰方形筋起始部痛】
症状A-3 肩甲間部のコリと痛み 【胸椎短背筋痛または胸腸肋筋々膜痛】
症状A-4 上体前屈時に大腸兪付近に感ずる痛み 【腰椎-仙椎移行部椎間関節症】
症状A-5 志室の深部に自覚する痛み    【 大腰筋製腰痛】
症状A-6 腰下部に慢性的な鈍重痛感。圧痛点は不明瞭。 L5棘突起下に細絡【オ血性腰痛】
※補講:八髎穴への刺入技法と治療点の選択

 

第2回 B.殿下肢痛の治療技術<10月16日>

症状B-1 片側の殿部~大腿後側~下腿(前面・外側・後面)が痛む。【梨状筋症候群】
症状B-2 上外殿部から大腿外側の運動時痛 【中・小殿筋緊張症】
症状B-3 上殿部外側の痛み・鼠径部痛。歩行時の鼠径部に感じる違和感【変形性股関節症】
症状B-4  同じ姿勢を続けている時に生ずる腰部の鈍重感と下肢不定症状【仙腸関節機能障害】
症状B-5 5分間ほど歩行すると足が前に進まなくなる。腰をかがめて数分間座って休憩すると再び歩行可能となる。【脊柱管狭窄症】

 

第3回 C.膝痛の治療技術<11月6日>

※補講:膝関節痛治療に多用される穴
症状C-1 慢性的な膝関節前面の痛みで、鶴頂穴圧痛(+)時  【大腿直筋過緊張】
症状C-2 膝蓋骨外縁(外膝蓋)または内縁(内膝蓋)の痛み。【外側広筋または内側広筋の過収縮】
症状C-3 膝関節前面の痛みで、内外膝眼圧痛(+)時 膝関節包過敏】
症状C-4 膝関節内側の鵞足部の痛み     【鵞足炎】
症状C-5 膝窩が鈍く痛む    【膝窩筋腱炎】
症状C-6 中学生。脛骨粗面部が痛む【オスグッド病】
※補講:膝の痛み以外の主な症状と対処法  

 

第4回 D.頸碗痛の治療技術<11月20日>

※補講:後頸部筋の構造と常用刺針点の整理
症状D-1 顔を下に向けづらい(顎を引けない)。 上項部が重苦しい。【後頭下筋(とくに大後頭直筋)緊張症】
症状D-2 頭を左(または右)に回しにくい。無理に回すと痛む。  【頭板状筋緊張症】
症状D-3 デスクワークなどで顔を下にした姿勢を続けていると後頸部が疲れる。 【頭半棘筋緊張症】
症状D-4 頸を動かした際に、後頸部、肩甲上部、肩甲間部などが痛む。 【脊髄神経後枝痛(長・短回旋筋緊張症)】
症状D-5 頸部が痛く、片側の上肢の感覚が鈍い。前中斜角筋に圧痛(+)   【(前)斜角筋症候群】
症状D-6 頸部が痛く片側の上肢がピリピリする。烏口突起内側の圧痛(+) 【小胸筋症候群】
症状D-7 ムチウチ1ヶ月後に、めまい・嘔気・不眠・耳鳴・眼精疲労が出てきた。 【バレリュー症候群】


第5回 E.肩関節痛の治療技術<12月4日>

※補講:針灸に来院する肩関節障害の概要     
症状E-1 肩関節を外転で、90°を超えると肩関節~上腕・肩甲骨周囲に痛みが出て上げられない。他動外転は正常。  
    【肩腱板炎とくに棘上筋腱炎(または棘上筋腱部分断裂)】
症状E-2 肩に痛みが出て結髪動作ができない。他動的には可能。  【肩腱板炎(棘下筋、小円筋の伸張制限)】
症状E-3 肩関節前面~外側の動作時痛。とくに結帯動作時痛み出現。 他動的には可能。 【肩腱板炎(棘下筋、小円筋の伸張制限)】
症状E-4 五十代男性。肩の動きが悪く、結帯動作、結髪動作ができない。
      外転70°で自動・他動ROMとも同様。ただし肩関節痛はあまり感じない。【凍結肩】

 

 

 

 

 

 

内転筋管と陰包刺針肢位 ver.1.2

$
0
0

1.内転筋管とは

1)局所解剖

ハンター管ともよぶ。大腿の下方内側にある。大内転筋の筋膜が伸びて内側広筋につながった部の下にできた間隙をいう。この間隙には、大腿動・静脈および伏在神経が通る。

四肢にある太い血管は伸側ではなく屈側を通過しているのを常としている。これは筋伸張の際、血管も伸張しないようにする巧妙な仕組みである。股関節では屈側が前面であるが、膝関節では後面となる。そのため、大腿動・静脈は大腿部では前面、下腿部では後面を通ることになるが。折れ曲がったりすることなく、前面から後面にスムーズに移るための管が内転筋管である。伏在神経も大腿動静脈を一緒に内転筋管に入るが、膝内側~下肢内側皮膚知覚をつかさどる関係から、途中で別れ内転筋管から出てくる。

 

2)ハンター管症候群

内転筋管の中で伏在神経が圧迫を受けてしまう神経障害。 症状:膝の内側やすねの内側の痛み、しびれ、感覚異常 ・ハンター管の部分を押さえると膝の内側やすねの内側へ放散するような痛みが走る ・知覚神経であるため、麻痺がおこって動かなくなったり筋肉が痩せてくることはない。

原因: タイツやスパッツなどにより太ももの内側が締めつけられるようなことがある場合や ハンター管周辺の筋肉が硬くなって緊張が強くなることによって圧迫される場合。 膝の人工関節の手術を受けた際にも合併症として発症することもある。

 

2.陰包穴

1)陰包の取穴:曲泉穴と足五里穴を結ぶ線上で、大腿骨内側上顆の上4寸、縫工筋と薄筋の間

 

 

2)陰包の特異性   

大腿内側の代表穴に陰包がある。一般的には血海と同様に泌尿生殖器の疾患に適応があるとされるが、比較的マイナーな穴だろう。

陰包を探るには、普通は仰臥位で行う。しかし圧痛硬結は容易に触知できるが、意外なことに刺針しても意外に筋緊張部にぶつかってという手応えのがないし、響きもしない。 陰包に興味をもったのは、内転筋管部に相当すると思えることと、とくに内転筋管内を伏在神経が走行するので、伏在神経刺激点として有用かもしれないと思ったことによる。


3)陰包刺針の体位と針響 

仰臥位で刺針しても緊張筋に当たらないので、治療側を下にしたシムズポジション(側腹位)で陰包を探ることにした。真下に押圧すると容易に筋緊張を捉えることができ、筋硬結が逃げることもなかったので、寸6#2でゆっくりと直刺してみた。すると2㎝ほど刺入した時、ドンとくるような響きを下腿内側~下肢に与えることができた。これは結構、再現性がある現象だった。この肢位で刺針しないと安定して響かせることは難しいと思われた。

ドンという響きが下方に行ったという点から、上行性である知覚神経である伏在神経を刺激したものでないこと、それに伏在神経自体は非常に細いので、コンスタントに響かせることは難しいことなどから、大内転筋-内側広筋間にある筋膜刺激と判断した。

大内転筋や内側広筋の筋々膜緊張により、伏在神経を刺激する病態(=ハンター症候群)もあるように、陰包刺針が伏在神経症状に効果のある可能性もある。すなわち鵞足炎や下腿内側皮膚痛にも適応があるかもしれない。

筆者はたまに、陰包部の深い処が重く痛くなる部位だった。問題箇所が深部にある感じだったが、深く押圧しても硬結を触知した感覚が得られなかった。これは私だけの反応かとあまり注目していなかったが、本日(2022.8.15)「陰包が痛む」と訴える患者が来院した。陰包を押圧すると確かに圧痛があったので、上記のシムズポジションで寸6#2で陰包穴に直刺し、強い針響を得た。伏在神経が関係しているのかと思って、下腿内側の圧痛・撮痛反応を調べると異常は発見できなかったので、陰包の痛みが伏在神経と関係ないらしく大内転筋の筋膜症と思えた。


3)眼痛に対する陰包刺激(=別称:清眼穴)(国分壮、橋本敬三著「鍼灸による速効療法-運動力学的療法、医歯薬出版)

本著には次のような記述がある。「大腿内側下1/3のところで内転筋管部の圧痛がある場合、ここに一本刺針すると目の奥が痛む、ゴロゴロした異物感があるとかは即時にとれる。目の結膜充血は見ているうちに消退してきて、かすんだ目は透徹清明となり視力が増してくる。」この々大げさな表現は国分壮氏が書いた部分だろうと思う。

橋本敬三のいう操体法は次のように行うとも記されている。「患者を仰臥させ膝屈曲、股関節外転する(アグラをかく姿勢)よう誘導しておき、外転運動の最終段階で、少しずつ抵抗を与えておき、一挙に急速脱力させると、内転筋緊張はとれ、眼疾に対する効果もあがる。」


 

右下肋部打撲への円皮針治療を通しての教訓(自験例 68才、男)

$
0
0

10日前に懇親会に出席した。酩酊しての帰り道の際、右下肋部をどこかにぶつけたらしい。打撲部は擦り傷はないが、わずかに内出血がある。発赤・腫脹なし。起きている時は自覚症状ないが、横になる際、寝返り時に打撲部が痛む。しかしそのうち自然治癒するだろうと放置していた。

しかし1週間経っても症状に変わりはないので、強い圧痛点を3カ所選び、円皮鍼をしてみた。そのまま横になってみたが痛みはなく、寝返りの際もほとんど痛みを感じなかった。これで略治するだろうと予想したが、円皮鍼をした2日後から以前の半分程度の痛みがぶり返した。そこで再び圧痛点を探り、最大圧痛点5カ所に円皮鍼を追加した。その結果、前回ほどの著効は得られず、症状も7割減程度であった。
 このような症例は決して珍しいものではないが、次の2つのことに思い至った。

コメント
1.強い症状は少数穴に短時間治療、弱い症状にはツボ数を増やし、長時間治療になる傾向

代田文彦先生は次のように話してくれた。
限局した強い痛み→局所への少数穴治療で大幅に痛み減少
やや広い範囲の弱い痛み→やや広い範囲への多数穴治療で、小幅に痛み減少

 

2.円皮針・皮内針の治療理論

30年以上前、中国から初輸入された円皮針は針体長2㎜、太さは和針の#8程度だった。しかし現在、わが国の円皮針は長さは最長でも1.5㎜程度、太さは和針の#1~2程度となっている。つまり真皮層は刺激するが、その深部にある皮下結合組織層を刺激しないようにしているらしい。表皮厚は0.2㎜、その深部の真皮厚は平均2㎜となっているからだ。

真皮には血管や神経があるので、刺針によりこれらの組織を刺激する。末梢神経に弱い刺激を与えると、ゲートコントロール理論により強い痛みを鎮痛できる。また血管を刺激すると内出血するが、その損傷再生過程で、組織の改編が行われる。

あえて皮下組織に針先を入れないのは、円皮鍼を身体に入れている間、皮下筋膜(浅層ファシア)を刺激することでチクチクするのを避けるためだと考えた。

歯のくいしばりに対して顎二腹筋後腹への運動針が有効な例(57才、女性)

$
0
0

1.主訴:ふと気づくと、無意識に歯をいしばっているのを自覚する

2.現病歴:20年来、歯のくいしばり症状がある。歯科受診したが、マウスピースを作っただけだった。整骨院や整体院に行くもまったく効果なかった。

3.所見
①開口は正常に可能→外側翼突筋の伸張性は正常。
②下顎を前に突き出す動作(下顎頭の前方滑走)が不足→外側翼突筋下頭の過緊張を疑う。
③下顎を前に突き出した姿勢で、顎の左右ずらしは正常→内側翼突筋の緊張度は正常
④本例の顎二腹筋後腹の圧痛(+)→下顎頭を後方に引く作用筋緊張

4.病態分析
①直接原因は、顎二腹筋後腹の過緊張過により下顎後方引きつけ力の増強による。
②外側翼突筋下頭の緊張も強い。外側翼突筋には下顎頭を前方滑走させる作用があって、顎二腹筋後腹と外側翼突筋下頭の協調運動により下顎が前に出しての開口動作を容易にしている。このことから外側翼突筋下頭も下顎後方への引きつけに関係しているのだろうか。

③動物は、敵と戦う際に噛みつくため、歯を強く食いしばる。その原始的本能がヒトに残っていると、緊張や不安を感じる時に歯をくいしばるのであろう。

5.針灸治療

1)外側翼突筋下頭刺針(下関直刺)
 下関から外側翼突筋へ直刺1~2㎝直刺。直刺では外側翼突筋下頭中に入る。刺したまま痛くない範囲で患者に開口運動、下顎の横づらし運動を10回ほど行わせる。
 ※外側翼突筋上頭への刺針は、顎関節症Ⅲ型時(開口時に関節音、開口不十分)に使用する。

2)顎二腹筋後腹への刺針
仰臥位で上背部にマクラを入れ、頸を過伸展肢位にする。これは顎二腹筋を伸張させた状態にするものである。この状態で顎二腹筋後腹(天容~舌骨部あたり)圧痛硬結に刺針。

6.初回治療直後効果:下顎のつき出し程度が改善。下関部の圧痛軽減


7.解説
歯ぎしりや歯の食いしばりは、マウスピース治療を除き、歯そのものに対する治療で治すのは困難とされている。歯ぎしりは、就寝している際に無自覚的に生ずる強い歯の食いしばりで、その強さによりギシギシと音をたてるほどである。この力のために歯にダメージを与えることはあってマウスピースを推奨するのだが、一方ではストレス発散の一手段だとする見方もあって、たまの歯ぎしりは放置しておいてよいとする見解もある。
歯のくいしばりは、ただし歯ぎしりに比べて、噛む力は弱く、噛む時間も短いが、 顎関節症の一部と捉えることもできるので治療の対象となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カッサ治療の意義と適応の考察

$
0
0

1.乾吸における皮下出血

乾吸(瀉血なしの吸玉)もある一定時間(10分程度)すると、皮下出血することが多い。
これは毛細血管が破れて皮下出血した結果であり、毛細血管の破壊が大きいほど、陰圧をかける時間が長いほど、皮下出血は大きくなる。一度血管外に出た静脈血は再び静脈管内にもどることはなく、自然に組織から吸収される。しかし程度を越えた皮下出血斑は完全に吸収されることなく半永続的に残存することもある。
半月経って次回鍼灸来院時にもも皮下出血斑が残るようであれば刺激量過剰とする判定をするのが普通であろう。皮下出血斑が残っている状態だと、同部位に再び吸玉治療しづらい。

乾吸で皮下出血斑を出すことは、乾吸療法で必ずしも必須のものではなく、最も重要なことは皮膚に陰圧を加えることで生ずる交感神経緊張および乾吸終了直後のリバウンドを利用して副交感神経優位状態にすることに意義があると私は考えている。

 

2.皮下出血とは

 皮下組織の血管が破れ、血液がたまる状態を皮下出血という。皮膚の真皮や皮下組織にある毛細管や静脈血管が破れ、血管周囲に広がる出血である。皮下組織には細い静脈が走行しているが、真皮にはさらに多数の細い静脈が走行している。なお表皮に血管は走行していない。

 

3.カッサによる皮下出血
 
積極的に皮下出血を起こそうとする治療にカッサ(刮痧)療法がある。皮膚に潤滑油を塗布し、ヘラのような道具で皮膚をこすりつける。同じ部位を何回もこすることで、皮膚色がピンク色になり皮膚温も上昇する。さらにこすり続けると内出血斑が現れる部とそうならない部位がある。皮下出血斑を出現させることをカッサの目標であり、頸部・肩甲上部・肩甲骨上・背腰部を中心に行うのが基本である。というのはカッサでは、この内出血斑を瘀血とよび、施術終了の目安と考えている。内出血斑を瘀血と称してよいものか否かは微妙なところである。とかく民間療法はこのあたりの詰めが弱い。


4.カッサによる皮膚の擦過手技
 
実際に体験してみて、サッカは結合識マッサージと似た面をもっていると感じた。従来のマッサージが筋肉を刺激対象として「なで」「もみ」「こねる」のに対し、結合織マッサージは皮下結合織に引っ張るような刺激を与えるため、「皮膚をずらす」ようにする手技だけを行う。本手技が認知されたのは1952年ドイツのディッケ女史が著書を発表した後からであるが、現代的にいうなら皮下筋膜刺激ということになると思われる。

結合織マッサージの興味深いところは、単に手技を示しているだけでなく、ヘッド帯、マッケンジー帯を利用した反射帯という領域を治療対象としてい点で、カッサの治療理論に転用できるものであろう。また結合識マッサージで指をすべらす方向性もカッサに利用できるだろう。

5.鍼灸臨床にカッサを取り入れることの意義
 
結合織マッサージもカッサも施術すると、必ずといってよいほど皮膚の発赤と皮膚表面温度の上昇がみられる。鍼灸でもこのような反応は得られることはあるが、必発ではない。このことから従来の鍼灸治療の不足部分を、カッサで補うことができるかもしれないとも考えている。皮下出血を起こすことは、皮下出血斑が組織に吸収するまで治癒反応は続くと考えることもできるが、筆者はまだカッサの初心者なので積極的に皮下出血を起こす段階に至っていない。要するに結合識マッサージ的な意味でカッサを行っているのだが、カッサの方が効率的であり、また元々は中国民間療法なので、同じ中国生まれである鍼灸とは親和性がよい。東洋医学であることを前面に謳えるので。
 
私は現在、いつも通りに鍼灸治療する一方、いろいろな患者にカッサ治療を試みている。カッサは鍼灸治療にとって代わるものではないので、鍼灸で効果出しにくい症状に対してカッサを試みている段階であるが、冷え性、便秘、精神疾患、肩関節周囲炎など鍼灸単独治療では治療に限界がある症状に適応がありそうに思っている。

1)冷え性:腹部皮膚表面低下、下痢傾向、小便が近いなどの腎陽虚に対し、下腹部と仙骨部にカッサを実施。カッサ実施部の発赤・皮膚温上昇がみられるので治効が得られるだろうという考え。

2)精神疾患:軽度の統合失調症、鬱病、自閉症などに対し、座位で上背部にカッサを実施。これまで抗精神作用の意味で胸部督脈の施灸と背部一行に刺針をしたが、はっきりし効果が得られなかった。これは刺激療法としては弱すぎるのではないかと考え直し、カッサに変更した。

3)五十肩:五十肩は常見整形外科疾患の中では最も治療に難儀するものであろう。まずは凍結肩になっていないことが前提となるが、インピンジメントがあってROM改善を目安に施術しても<筋が伸張できない>という病態ではなく、交感神経緊張の要素が多々あり、それを少しずつ緩めるような治療が必要である。施術直後に効果あったと思っても、次回来院時には元の状態にもどっていることも少なくない。こうした一朝一夕に処理しづらい問題に対し、肩関節・肩甲骨・三角筋・大胸筋など広範囲にカッサ治療をすることで、場の改善をはかりたいとするもの。


実技セミナー「根拠のある変形性膝関節症の鍼治療をめざして」三重県津市で開催

$
0
0

以下の日程で愛知・岐阜・三重 三県合同鍼灸研修会があり、私も演者の一人となります。新型コロナの影響で長らくオンラインセミナー中心で実施していましたが、コロナが下火になった現在、久しぶりに以下の要領で第55回「愛知・岐阜・三重 三県合同鍼灸研修会を実施することになったとのことです。私も遠路、三重県の津市まで出向いて講演します。ご興味ある先生がたは、この機会にご参加ください。

1.研修会実施要領

日時:令和4年10月30日(日曜)午後1時~午後4時
場所:
三重県鍼灸会館(津駅より徒歩10分)
三重県津市栄町2丁目325  電話059(227)3345
時間割:
午後1:00~2:30  鍼灸のエビデンス  砂川 正隆 先生(昭和大学医学部 生理学講座整体制御学部門 教授)
午後2:30~4:00    根拠のある変形性膝関節症の鍼治療をめざして  似田 敦(あんご針灸院 院長)

参加費:会員3,000円 一般4,000円 学生会員1,000円 一般学生1,500円
※お支払いは、事前にpeatixサイトより完了させてください。
定員:コロナ感染防止の都合上、35~40名先着順となります。お早めにお申し込みください
申込期限:10月23日16時


2.似田発表「根拠のある変形性膝関節症の鍼治療をめざして」の序文

スポーツ外傷のように突然生じた膝関節痛や、化膿性膝関節炎のように膝関節部に強い熱感・腫脹・自発痛がある場合は針灸不適応である。しかし慢性的な膝関節痛であれば針灸禁忌の例はまずない。慢性膝痛に対し、医師は変形性膝関節症という診断名をつけ、理学療法を行うことが多いが、理学療法は即効性に難がある。
変形性膝関節症に対する針灸治療は昔から行われてきているが、今日になっても治療理論に中身がなく、せいぜい膝周りの圧痛点に針灸をしているかのようだ。
私も鍼灸臨床を続けること四十年を越え、これまでの知識・技術を多くの先生方へ広めるべき段階となった。この機会に、変形性膝関節症の針灸治療において、①どこが悪いのか、②なぜ症状が出ているのか、③どのように施術すると症状が緩和されるのか、という一連の疑問点に、自分なりの解を提示したい。実技を交えて解説する。

治療中の笑話 Ver.1.8

$
0
0

  長らく治療に携わっていると、ときには面白い話にぶつかる。思いつくままに紹介する。


1.50才台男

患者:「昔、40才頃の頃、20代の愛人がいましたよ」
私「それは、うらやましいことで‥‥」
患者:「愛人だけど、愛はなかったけどね。」
    「恋人には愛があり、愛人には愛がないか」


2.40才台男性患者

患者「大学でラグビーやっていた頃、足を痛めてベンチにいると、先輩がこう言った」
先輩「おまえは、顏が痛いのか」
患者「いえ、痛いのは足です」
先輩「だったら、痛そうな顔するな」

 同じような話を、以前父親から聞かされた。
私「父が軍隊にいた頃、古年兵が冗談を言い、皆を笑わせた。しかし父だけ笑わなかった。」
  「その時、古年兵が言った。<おかしくて、笑えないのか!>」


3.統合失調症の患者50才台女性 幻聴があるらしい。

先輩鍼灸師Y先生が、私の隣のベッドで、仰臥位で治療している。
患者:突然がばっと上体を起こし、こう言った。
   「神様は、そう、おっしゃいませんでした!」

Y先生はびっくりし、付添の夫は心配そうにし、私は声を立てないように笑った。


4.患者A(70才台女性)と患者B(40才台男性)は親子。

患者Aが友人にこう話したという:「あの先生(私のこと)は商売っ気がないので、貧乏しているらしいよ」
患者B:「先生は、もしかして、お金を汚いと思ってやしませんか?」

5.患者(60才台女性)の夫は、小さな会社の重役で、勤勉で温厚な紳士である。ただし、顔は土方の親方風だった。それでも背広を着るとマシになるが、その日はあいにく作業着姿で、仕事の打ち合わせで、相手方の社員食堂で、待たされていた。

食堂のおばさんが、その夫に、「はいよ」といって、エロ漫画雑誌を手渡した。

‥‥夫は激怒したという。


6.60才台女性

患者:「老化現象のつぎは、階段現象ですか。まるで建築現場ですね」

 

7.50才台 男性 僧侶

僧侶の患者さんの治療が終了し、次に待っていた患者が治療室に入ってきた。その時、僧侶の患者とすれ違った。治療室に入ってきて一言私に言った。

「いまのは、ヤクザですか、それともお坊さんですか?」

 

8.精神科医が患者として来院した。その先生が、こう言った。

「人生の中の出来事で、8割はイヤなことですね」

 

9.玉川病院指導鍼灸スタッフH先生の話

ある時、仰臥位にて痩せた高齢者女性の治療をしていた。知熱灸をしていた時のこと、八分まで燃えた知熱灸を取り除こうとして、誤ってその女性の乳頭をつまんでしまった。

その女性患者は、「ヒーッ」といって、両手を上げたという。

後に我々に、「その人の乳頭は、黒くて燃えた知熱灸の灰と区別がつかなかった」と弁解した。

 

10 ある日、常連の患者に紹介され、近所の歯医者が来院した。首が痛むという。首に針を刺したが、非常に痛がる。針を寸3#0に交換して、細心の注意をはらって浅刺しても痛がる。

一緒にいた常連患者も私も、あきれて言った。「先生、これまで自分が患者にさんざん、痛いことをしてきて、いざ自分の番になると痛がるというのは、おかしくないですか?」

歯医者がこう言った。「痛いのは患者であって、自分は痛くないのだから関係ない」

以来、二度とその歯医者は来なかった。

 

11.代田先生の内科外来時、たまたま患者が途切れた時があった。見学中のK君とO君が、尊敬してやまない代田文彦先生に質問した。

すると代田先生は、目を閉じ、顔をやや上に向けた。熟考している様子だった。

K君とO君は、先生の思考の邪魔にならぬよう、メモ帳を手にしつつ、静かに返事を待っていた。

待つこと少々‥‥ 小さないびきが聞こえた。

 

12.代田文彦先生が病院の当直の日には、我々研修生も一緒に泊まり込む日になっていた。それに先だって、夜8時頃、先生と一緒に全病棟のナースステーションを回診した。代田先生と一緒に歩いていると、研修生は何となく緊張し、沈黙に耐えられなくなる。その折の出来事。

先生に向かって私が言った「今、空きのベッドは、いくつあるでしょうね?」(そう言いながら、なんとつならない質問をしたのかと後悔した)

先生は答えた「そんなこと、知るか!」

 

13.某医学部学生の女性が、浪人時代から当院に来院していた。患者として来院してすでに4年ほど経ち、患者としても、すでにかなり針の通(ツウ)になっていた。その医学部のサークル活動の一つに、東洋医学クラブがあったので、覗いてみたことがあったという。そして次のように私に話した。

そのリーダーである先生が、患者役の者に刺針すると、必ずといってよいほど出血した。その先生は、針をすると出血するのは当たり前だと説明した。

その傍らで見学していた医学生は、真剣な顔で頷いていたという。

 

14.代田先生の奥様は、目鼻立ちがくっきりした美人の女医さんである。昔、代田先生がその人と結婚したいと、先方の御両親に挨拶に行った。

先方のお父様がこう言ったという。「あの、サルでいいんですか?」

 

15.イギリス人と日本人のハーフの男性が来院している。外見はまったくの外国人だが、日本生まれ日本育ちであって、海外生活の経験はない。日本語は得意だが、英語は苦手としている。

その彼がこう言った。「街を歩いていると、すぐ外人が話しかけてくるんで困るんですよね」

 

16.トルコ人男性と結婚した日本人女性が来院している。この女性の外見は、どこか日本人離れしていて、中近東風な雰囲気があった。

彼女がこう言った。「日本語お上手ですねといわれる。」

こうも言った。「夫の国トルコに行くと、トルコ人とは思われず、キリギス人かと聞かれる」

 

17.患者の息子さんに世界的なチェリストの毛利伯郎さんという方がいる。その毛利さんに、やはり世界的なチェリストであるヨーヨーマ(中国系アメリカ人)が話しかけた。
ヨーヨーマ「キミは、チェロが上手なんだって? 」
毛利「そうでも、ないです」
ヨーヨーマ「ああ、そうですか」

その返事を聞いて毛利さんは苦笑いした。やはり中国人だなと思ったという。

 

18.常連患者のN夫人の話。ある日の夜、子供も寝たことだし、というので久しぶりに夫と仲良くテレビゲーム「桃太郎電鉄」を始めた。

ゲーム途中で、その時は、N夫人にキングボンビーがついていた。しかし「特急カード」と「ぶっとびカード」を持っていたので、「特急カード」で夫のコマを追い越し、次に「ぶっ飛びカード」で、夫のコマからはるかに遠ざかってしまった。
それを見ていた夫は、「お前はそんな人間だったのか」と言って突然怒り出し、「そういう時のために、コンピュータ自動操作のコマがある」と訳の分からないことを言い、とうとうその夫人を泣かせてしまった。

それまでおとなしく寝ていた息子は、夫のどなり声で目覚め、何事が起きたのか、とリビングに行った。テレビ画面を見ると、キングボンビーが出ていたので、息子は恐くなって泣き出したという。

ゲーム中止になったことは、云うまでもない。



20.当院通院中の患者で高齢の元開業医がいる。この家は、奥様と娘夫婦の4人暮らしである。犬も一匹飼っている。犬というのは、ボスが誰であるかを敏感に認識する。犬の世話をするのが娘が一番多いのだが、残念ながら第2位の偉さであって、ボスはその亭主である。三番は元医者の奥様、最下位は彼自身である。 



21.後輩針灸師のK君が私に言った。「先生の電話って、アメリカみたいですね」
そう言われて一瞬何のことが分からなかったが、なにかカッコイイものを予想した。
少々期待しつつ、「どうして?」と聞くと、
「自分の用件が済むと、相手の返答を待たず、ガッチャッと電話をきる」と返事をした。



22.某女子大の非常勤講師(日本史)をしている患者がいる。
「女子大で教えるなんて、いいですね」と私は言った。
患者は予想外の返答をした。
「私の教えている教室には20名の女子大生がいる。すると誰かしら生理中の人がいるわけで、教室には血の臭いがするんです」
※この患者は、博識で専門書も2冊著している。その患者がこんなことも教えてくれた。
「はたけ」という漢字には、畑と畠があり、姓にも畑山とか畠山の2通りがある。前者の畑は、火があるが、焼き畑農法としての畑である。一方、後者の畠には白があって、これは水を意味しており、水田農法としての畠である。つまり畠の方が近代なのだという。


23.玉川病院勤務時代の代田先生へ一通の手紙が届いた。ビートルズのジョン・レノン(ポール・マッカートニーだったかも)からのもので、「1千万円払うから、1年間自分の処にきて主治医をやってくれないか」と書いてあった。代田先生は、1億円くれるならば行ってもよい。日本の玉川病院に来るなら、1回3500円で治療してやる」と返信した。

その後、ジョン・レノンからの手紙は途絶えた。



24.玉川病院時代、代田先生の同輩に、光藤英彦先生(前、愛媛県立中央病院付属東洋医学研究所所長)という医師がいて、代田先生と共同で鍼灸の研究や臨床に活躍した。当時玉川病院の鍼灸治療費は、初回4500円、二回目以降は3500円に設定していたのだが、光藤先生の治療は、自分で1回5000円と設定していた(これは自分の懐に入らず、病院の収入になる)。また病院内部のスタッフには、通常は治療費を取らなかったが、光藤先生は、同額を請求した。

病院スタッフが、自分の身体に対して光藤先生にちょと相談しても、相談後には5000円の請求書を渡したので、皆から恐れられた。明るく実力がある先生だったので、それでも相談しない訳にはいかない。そこで、請求書を渡されないよう、診察室に入らず、診察室のドアから首だけを出した状態で、光藤先生に相談するようになった。

 

25.元高校教員の患者から聞いた話。ある年、新人の高校教員がやってきた。新人挨拶とのことで、その人は、「まだ若輩ですが、‥‥」と言った。以来、あだ名が若輩となった。五十過ぎた現在でも、若輩のままである。

 

26.老夫婦・娘夫婦と、家族ぐるみで当院にかかっている人たちがいる。その老夫婦は、娘の車に乗せてもらい、当院までの送り迎えをしている。両親の食事もつくるなど、結構親孝行の娘である。
ある時、老夫婦が治療に来ていて、私に言った。娘は結婚して随分変わり、しっかり者になった。けれども昔の独身時代は家の仕事は一切しなかったので、「フン製造機」と呼んでいた。 

27.脊椎圧迫骨折による背痛ということで、90代の女性の家に往診に出かけた。頭は全然ぼけていない様子だった。ふとリビングを見ると、少年ジャンプとムー(宇宙人とか空飛ぶ円盤とかを扱う、トンデモ雑誌)が何冊か置かれていた。同居している息子(60代)ともども、愛読者なのだという。 

 

28.ある鍼灸の大御所が自分の主催する研究会の参加者名簿を見ていたら、現代的な女性の名前が2人もあった。そこにはエリ、フミエと書かれていた。当日楽しみにして待っていると、この2人がやってきた。井上恵理と小野文恵だった。
(上地栄「昭和鍼灸の歳月」より)

 

29.当院患者のご主人のことで、奥様から聞いた話。主人は心臓が悪いため、定期的に病院に通院している。いつもは薬をもらうだけだが、たまには診察も受ける必要があるといわれ、しぶしぶ受診した。本人は「心臓が少し苦しい感じがする」ということもあり心電図をとった。すると明らかに心筋梗塞を伺わせる所見で、医師は仰天した。早速救急車を手配した。救急隊の人も、意外に元気な患者をみて不審がったが、医師から心電図を見せられ、仰天したという。早速都内専門病院に搬送され、カテーテルでステントを入れる治療を行った。

その手術実施中、つい患者はうとうとし、やがて目覚めた。「少し眠ってしまったようだ」と医師に話した。するとその医師は言った「あなた心臓が止まっていたんですよ」。そのご主人は無事に治療終了したが、奥様にこういった。「死ぬって、簡単なことなんだな」

 

30.私は診療時間中であっても、眠たい時には患者の予定が入っていない時はベッドで寝ることにしている。もちろん目覚まし時計をセットしてからだが。ベッド傍にも治療院用の電話を置いているのでスムーズな応接ができるというつもりだった。

ある日、ベッドで寝ている時、電話のベルが鳴った。眠りながらもベルの数をかぞえた。5回ベルが鳴った後、頭がボーッとしつつ電話に出た。窓の外をみると薄暗く、時計を見ると5時半だった。当院では午後6時受付終了なので、これから患者が来院する予約電話かと思った。
「はい、あんご鍼灸院です」と伝えた。
すると電話主(声の調子から70~80代の女性)は、「今何時だと思っているの?朝の5時半よ!」と言った。
次第に頭がはっきりしてきた。確かに今は午前5時半であると。冬の終わり頃の話なので、5時半といえば午前も午後も同じように外は薄くなっている。
「電話したのはそちらでしょう」と言っても、「そちらが電話したのでしょう」と言って譲らない。何度か押し問答して拉致があかず、患者でもないようなので、「何かの間違いなので、切らせてもらいますよ」といって電話を切った。

実に不思議な体験だった。



31.改めて言うまでもなく、当院は「あんご針灸院」という。これは作家の坂口安吾にちなんだもの。
数日前、昔当院にかかっていたという80代男性から電話があった。
「もしもし あんまはりきゅう ですか?」と言ってきた。
「しんきゅう」を「はりきゅう」と呼ばれるのは珍しくもないが、「あんま」と呼ばれたのは開業以来初めてのこと(私はあんまの免許は持っていない)。

いったい何を言っているのか?
どうやら「あんご」を「あんま」と記憶していたらしい。

地機刺針は股関節外転膝関節屈曲位で、承山刺針は股関節屈曲膝関節完全伸展位で行う  Ver.1.3

$
0
0

1.教科書記載の地機穴の位置
 
地機穴は脾経げき穴でもあるので古典的鍼灸で多用される経穴の一つである。東洋療法学校協会編教科書「経絡経穴概論」の地機の取穴は、「内果上8寸で脛骨後縁の骨際」とある。下腿内側長を1尺3寸と定めるので、下腿内側を3等分し、ほぼ上から1/3の処になる。ただし教科書には築賓の反応の取り方についての記載はない。

2.地機の取穴と意味
 
股関節外転かつ膝関節45度屈曲位、すなわち一方の足底を他方のフクラハギ内側に付けた姿勢(パトリック試験をするその手前の姿勢)をさせ、曲げた下腿内側の反応を調べていくことにする。指頭は脛骨際を容易に触知できるが、地機の高さに相当する部だけは、筋肉が邪魔して骨がうまく触知できないことに気がつく。その筋肉は誰でもシコっていて、軽く押圧しただけでも非常に痛がる。

私は、長い間このシコリの意味が分からなかったのだが、最近になって尾崎昭弘著「図解鍼灸臨床手技の実際」を何気なく読み返してみると、「地機はヒラメ筋の起始部である」と明記されていた。つまりシコリの正体はヒラメ筋の起始部だったわけだ。

補足:ヒラメ筋と腓腹筋(内側筋と外側筋がある)は併せて下腿三頭筋とよばれる。腓腹筋の起始は大腿骨で停止は踵骨の二関節筋であり、足関節伸展と膝屈曲作用があるのに対し、ヒラメ筋の起始は腓骨頭と脛骨、停止は踵骨の単関節筋であり、足関節伸展作用のみがある。仰臥位で膝屈曲肢位では、膝に負荷がかかっているわけではなく、足関節底屈の弱い負荷がかかっている。したがって両筋とも弱い負荷がかかっている訳だが、一般に二関節筋は関節の伸展状態で優位に働き、単関節筋は関節の屈曲状態で優位に働く特性があるので、膝屈曲位ではヒラメ筋の方が緊張している状態にある。ヒラメ筋緊張を増強させるにはさらに足関節伸展位にするとよい。(介護予防主任運動指導員、古賀真人先生の御指導による)

※地機の語源
ネットで「地機」を検索すると、ツボの地機以上に、織機の地機の記事が上位に並ぶことに気づく。機織り機の種類にはいくつかあるが、次第に改良されつにつれ、その構造も複雑になっていった。現在の機織り機は、<高機(たかばた)>とよばれ、歴史ドラマなどでたまに目にすることがある。それに対して<地機>(じばた)は、原始的な織機で、地面に直接杭を打って、タテ糸のテンションを保つ方式になっている。つまり地機の語源は、地面に設置された織機という意味であろうか。高機は、よこ糸が表にくるが、地機はタテ糸が表にくる。
地機におけるタテ糸の緊張とは、ヒラメ筋の緊張を意味するのだろうか。下の写真は、中近東のある部落にみる地機であり、ネットで発見したものである。地面に、じかにタテ糸を引っ張っている。人体の場合、地面に相当するのは、脛骨であろう。




3.仰臥位での承山・承筋刺針の体位

先に地機はヒラメ筋上にあるので、ヒラメ筋は緊張し腓腹筋は弛緩する体位となる股関節外転かつ膝関節屈曲位にして、地機刺針を行うこ効果的であることを説明した。
では、仰臥位の時、腓腹筋を緊張位で承筋や承山に刺針するにはどうすればよいだろうか。

それには、まず治療側の膝をのばした状態で下肢を挙上30度程度にする。この体位にすると腓腹筋、ヒラメ筋の両方が緊張している。患者の下腿後側とベッド間に術者の一側の膝をもぐりこませつつ、術者の両前腕で患者の下腿を抱え込み保持。次に術者の手指を上手に使って承山や承筋に刺針するとよい。


 




肛門奥の痛みに肛門挙筋刺針が有効だった症例の考察 ver.1.5

$
0
0

最近、肛門奥の痛みを訴える患者(51才、男)に対し、治療1回目から大幅に鎮痛できた経験をした。本患者は、10年来、肛門奥の鈍痛でとくに小便時に肛門の違和感を感じる。右8左2の割合で痛むとのこと。これまで色々な医療施設を受診したが、症状の改善はなかった。その中で最も効果あった治療は、直腸へ局麻注射で数字間の鎮痛を得た。私のブログを見て自ら内閉鎖筋刺針を希望してきた。そこで内閉鎖筋刺針を行い、症状軽減した。ただし詳しく問診すると、肛門奥の痛みは鎮痛できたが、肛門表面の痛みは改善していないとのことだった。肛門奥の痛みは肛門挙筋の筋緊張によるもので,肛門挙筋刺針で改善したが、肛門表面の痛みはまた別の種類(外肛門括約筋もしくは陰部神経の痛み)ということだろうか。(内肛門括約筋は体性神経支配ではないので痛みを感じない)

これまで肛門奥の痛みは何例も治療にあたってきたが、効果が出せず色々な方法を試していたが、やっと結果が出た。そこでこれまでも書いてきたことではあるが、肛門奥の痛みについて整理してみたい。


1.肛門奥の痛みについて

これまで肛門奥の痛みを、慢性前立腺炎だろうと判断し、それには陰部神経刺針という方式で行ってきた。しかし慢性前立腺炎だという診断は不確かなものである。病態はあまり解明されておらず、非細菌性で、 <前立腺に由来すると考えられる頻尿、排尿痛、排尿時不快感、残尿感、下腹部~会陰部~鼡径部の不快感など多彩な訴え>といった訴えを慢性前立腺炎の類だろうとしているらしい。
 
一方、特発性肛門痛といった病名のあることも知った。それは「排便とは無関係に突然肛門が痛くなる。長く座っていると肛門が痛くなる」といった訴えがあるも、肛門診察では明確な所見は認めないというもので、治療に決め手を欠くという。本症の原因として、肛門挙筋の筋肉の痙攣が考えられているという。これをとくに肛門挙筋症候群というらしい。なお肛門挙筋は体性神経である陰部神経支配。



2.陰部神経刺針は仙棘靭帯を目標にしているのか
 
陰部神経刺針として陰部神経刺針点から深刺して針先を陰部神経に命中させ、肛門、肛門奥、性器などに響かせる方法が代表である。(陰部神経刺針の方法について本ブログに紹介済)。この方法が効果あるのは、梨状筋症候群のトリガー活性で坐骨神経痛様症状を生ずるのと同じように、陰部神経が縦走する仙棘靭帯を目標に刺針しているのではないかと考えるに至った。実技的にも陰部神経刺針と仙棘靭帯刺針の技法はほぼ同一になる。




3.陰部神経に影響を与える筋・靭帯には、前術の仙棘靭帯以外に、仙結節靭帯・内閉鎖筋・肛門挙筋がある。

1)仙結節靭帯と内閉鎖筋
 
骨盤下方の陰部神経は、内閉鎖筋と仙結節靭帯にサンドイッチされて走行している。
仙結節靭帯に緊張があれば、坐骨結節の内上方5㎝あたりに圧痛が出現するので、これが治療点となる。
内閉鎖筋は深いので殿部からは触知できない。①仰臥位で膝を立てさせる、②術者は坐骨結節を確認し、坐骨結節の内縁を深々と押圧して圧痛硬結の触知に努める。触知できれは、硬結目指して3寸8番針で5㎝ほど刺入する。

これで触知できない場合、患側大腿を高く挙上させ載石位をとらせ、同時に膝裏に術者の肘を入れて股関節屈曲姿勢を保持。パンツを下の方にずらすが、誤解を避ける意味で、肛門や性器を露出させないこと。トランクス型のパンツではパンツを下ろさず、裾のから指を潜らせ、坐骨結節の内縁を深々と押圧して圧痛硬結を触知する。触知できれは、3寸8番針で5㎝ほど刺入する。アルコック管・内閉鎖筋方向に水平刺する。誤って直刺すると坐骨神経に影響を与え下肢に響きを与えてしまう。

上述の砕石位にさせて内閉鎖筋刺針を行うことは、患者の下肢の体重を術者の肘で押しつけている訳で、術者側の力を結構必要とする。力を入れた状態で内閉鎖筋の圧痛硬結を探り、刺針することは大変体力を使う。そこで私は、以下の肢位をすることを思いついた。以来、ずいぶんやりやすくなった。
なお刺針方向は仙骨に沿うように斜刺する。直刺した場合、大腿後側に響くが後大腿皮神経を刺激した結果で、大腿後側痛に適応がある。

2)肛門挙筋症候群
   
特発性肛門痛では、肛門挙筋の痙攣による痛みが関係しているという見解がある。肛門挙筋は陰部神経(体性神経)支配となる。
肛門挙筋を刺激する目的で、私は尾骨外端の外方3㎝あたりから5~7㎝直刺深刺している。この刺針の体位も、砕石位のような体位で行うので、結果的には先に記した内閉鎖筋刺針とよく似た方法になる。両者は結局同じこをとをしているのかもしれない。

膝関節痛の部位別針灸治療と考察のまとめ ver.1.5

$
0
0

私の膝関節治療の方法は、現在ではi以下の 1~4 のように場合分けされシンプルになってきた。これまでブログで発表してきたことなのだが、個々の技術の誕生には時間差が相当あるので、まとめて紹介することはできなかった。以上に加え近頃、膝蓋骨両縁(内膝蓋、外膝蓋)の痛みを訴える患者に対して効果的な方法を発見したので、5・6の項を追加し併せて説明する。

同種の内容に、筆者が3年前に発表した「膝OAに対する鍼灸治療 Ver.2.0」がある。これも併せてご覧いただきたい。
https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/870c279ba4b953cc9c8193fa0b273992

 

1.鶴頂の圧痛(+)時     <大腿直筋停止部症>

診察:膝蓋骨あたりに痛みを訴えた場合、仰臥位で膝を立てた状態で、膝蓋骨上縁(鶴頂穴)をさぐってみる。
治療:強い圧痛があれば、この姿勢で鶴頂に速刺速抜+施灸する。
(体位的に不安定なので置針は難しい)
治療効果:多くの場合、治療直後から痛みは半減する。
アセスメント:大腿直筋の膝蓋骨停止部の筋膜症が、膝蓋骨前面の痛みを感じている。大腿直筋をできるだけ伸張させた体位で、その圧痛ある停止を刺激することで、大腿直筋が緩む。この治療機序は、生理学的にⅠb抑制を利用している。

 


2.内膝眼、外膝眼の圧痛(+)時   <膝関節包過敏>

診察:膝蓋骨下縁と脛骨がつくる左右の陥凹(内、外膝眼穴)を、押圧して痛む場合。
治療:立位にして圧痛ある内外膝蓋に直刺し、膝関節包を刺激。速刺速抜する。
(体位的に不安定なので置針は難しい)
治療効果:多くの場合、治療直後から痛みは半減する。
アセスメント:内、外膝眼の直下には筋組織がない。直刺すると、皮膚→膝蓋下脂肪体→膝関節関節包と入る。しかしながら仰臥位で内、外膝眼に刺入しても針響はあまり起きない。というのは仰臥位では膝関節包はゆるんだ状態にあるため。立位にすると上体を支持しようとして四頭筋は収縮し、膝蓋骨が上に移動する。この時膝関節包も緊張する。
この状態で内外膝蓋に刺入すると、膝関節の奥に響くようになり、再現痛が得られ治療効果があかる。

 

3.鵞足の圧痛(+)時  <鵞足炎>

診察:仰臥位で鵞足部をつまんで(撮診して)、明瞭な撮痛がある場合
治療:撮痛点数カ所に印をつけ、この部に円皮針数カ所を置く
治療効果:多くの場合、治療直後から痛みは半減する。歩こうとすると鵞足が痛くて、実際には歩けない者であっても、治療直後から歩行可能になることもある。

アセスメント:鵞足部皮膚を走行するのは伏在神経(大腿神経の分枝で皮膚を知覚支配)で、この皮膚の痛みが症状をもたらしている。皮膚の痛みの有無は、押圧するより撮診するほうが把握できる。また皮膚の痛みなので、灸刺激または皮内針・円皮針の方が適している。


①エピソード紹介
私が日産玉川病院東洋医学内科研修生であまり臨床経験がなかった頃。同期M・Y君がいた。M・Y君はある日往診を依頼され、患者宅に行った。「立ち上がり際、膝の内側が痛く、動けない」という。鵞足炎と診断し、とりあえず圧痛ある鵞足部に皮内針をしてみたところ、患者は痛みなく立ち上がり、歩けるようなったので、他に何もせず帰ってきた」と私に自慢した。それ以来、鵞足炎には皮膚刺激というイメージができあがった。あれから約30年後、私の処にも膝痛で歩けないという往診依頼の電話がきた。高齢女性の患者宅に行き、診ると鵞足炎たっだ。皮内針治療を行い、症状は大幅に軽減した。

 

②柏原修一氏による追試報告 
鵞足炎の痛みに対してパイオネックス貼付が著効した例(60才、男) 

現病歴:1週間前の作業中、転落防止用ハーネスにて右膝を強打。直後から立ち上がり動作で右膝内側に発痛。整外未受診。
所見:内出血、発赤、熱感、腫脹なし。右鵞足部、右内膝蓋部、右内側広筋筋腹部に圧痛あり。
治療:立位にて右鵞足部を擦診。発痛部にパイオネクス0.6mm貼付。同じく立位にて右内膝蓋及び内側広筋筋腹部に寸6-3にて単刺、得気。
効果確認:ベッドからの立ち上がり動作および歩行にて痛みが顕著に改善していることを確認し、治療終了。
所感:私は従来は経筋療法にて足趾の当該経絡の圧痛個所に皮内鍼を貼付する方法でそれなりの効果をあげておりましたが、今回先生の方法で顕著な直後効果を確認することができましたので、今後とも是非活用させていただたいと思います。

 

4.委中の圧痛(+)時  <膝窩筋腱炎>

診察:膝裏部中央が痛む者に対し、膝関節90度屈曲位にして膝窩(委中穴)あたりを深々と押圧した際、委中付近に2~3カ所膝窩筋の硬結があり、硬結を押圧すると非常に痛がる。これをもって膝窩筋腱炎と判断する。
治療:膝関節90度位(四つん這い、または膝立ち)にし、圧痛ある委中あたりの膝窩筋の硬結数カ所に刺針。速刺速抜。(体位的に不安定なので置針は難しい)
伏臥位で、症状部である委中に刺針してもスカスカした感じになり、筋緊張部に刺入したという感触は得られず、当然治療効果もない。要するに膝窩筋を収縮させた体位で見いだした圧痛硬結に刺入すべきである。
治療効果:多くの場合、治療直後から痛みは半減する。
アセスメント:膝窩筋の機能は、膝関節完全伸展位(体重は骨で支持しているので、筋への負荷は少ない)から膝屈曲動作へチェンジする際のスターターである。もし膝窩筋が存在しなかったらスムーズにひざが曲がり始めないので歩行動作はギクシャクしたものになる。膝窩筋が緊張した結果、膝の完全伸展しづらくなり、立位を保つために四頭筋の緊張を強いられることになろう。逆に四頭筋が過緊張状態にあれば、代償的に膝窩筋も筋腸することになる。

 


5.膝蓋骨内縁の圧痛(+)時 <内側広筋付着部症>

1)出端氏の考えた大腿膝蓋関節裂隙刺針<内膝蓋、外膝蓋>

※30年ほど前、出端昭男氏が「診察法と治療法」という本を医道の日本社から出版した。これは現代医学をあまり勉強してこなかった鍼灸師向けに書かれたようであって、初学者が独習するには適した本だった。しかし当時の本にありがちだか、本書にも取穴根拠には触れていなかった。すなわち疾患ごとの整形外科的病態生理の紹介の後、いきなりどこそこに鍼灸治療をするという結論を示すものだった。この膝蓋骨内縁の圧痛部への刺針は、<大腿膝蓋関節の間隙に入れるように刺針する。ただし直刺すると骨にぶつかるので、斜刺するようにする>と書いてあった。確かに、膝蓋骨の裏面は隆起しているので、直刺するとすぐに骨にぶつかるので斜刺するように書かれている。  
 内膝蓋圧痛(+)で大腿骨圧迫テスト(+)の者に対し、大腿膝蓋関節内へ斜刺を試みてみたが、効いた感触が得られなかった。

内・外膝蓋の圧痛出現理由は、大腿膝蓋関節症ということらしいが、膝蓋骨圧迫テスト時の痛みは、関節包を刺激しているわけではないので、これは筋性の痛だろう。

 

 

2)外膝蓋、内膝蓋の圧痛は、外側広筋、内側広筋の付着部痛か

膝蓋骨圧迫テストでは大腿膝蓋関節の状態をみるが、ガリガリとした術者の指に伝わる感覚は、大腿膝蓋関節の不適合を意味するが、圧痛は四頭筋の伸張痛由来だろう。

大腿四頭筋の膝蓋骨停止部は、膝蓋骨直上にある。では内側広筋・外側広筋の膝蓋骨停止部はどこになるだろうか。以前私は下血海・下梁丘だと考えていたが、そうではなく、内膝蓋・外膝蓋ではないかと考えるようになった。

内膝蓋や外膝蓋の圧痛点を術者が強圧した状態で、膝関節の自動運動を10回程度で行わせる。その後立たせ、治療前の痛みとの違いを比較させる。軽くなっていれば、強圧した部に運動針を実施。変化ないようであれば、内側広筋上の別の圧痛を見出し、同様の施術を実施。

あるいは直接、仰臥位で膝を伸ばした肢位で、内膝蓋または外膝蓋に刺針。そのまま膝をゆっくり屈曲させると、内側広筋と外側広筋が伸張されるので、運動針効果が併用され効果が増強される。


3)内膝蓋、外膝蓋刺針の奏功アセスメント

内側広筋の部分的筋緊張により、内側広筋が短縮して膝蓋骨内側縁を引っぱり上げた状態。これにより膝蓋骨の位置がずれ、大腿膝蓋関節の不適合に発展した。治療により、その逆の機序が働き、大腿膝蓋関節が適合するまでになったと推察した。外膝蓋の圧痛の場合も、これと同じ考えになる。

 

4.内側広筋、外側広筋のトリガー活性による放散痛

上のトラベルの図によれば、外膝蓋~下梁丘にある外側広筋上のトリガー活性化すると、大腿前外側から大腿外側にかけて広範な痛みが出現するよう示されている。


鍼灸師K.E氏は、ネット上で外側側副靱帯損傷に対し腸脛靱帯への運動針が効果あったと書いていた。腸脛靱帯は靱帯であり筋ではないので、トリガーは発生しないだろう。ただし腸脛靱帯の両サイドは外側広筋になるので、外側広筋に生じたトリガーが鎮静化できれば、外側側副靱帯あたりの放散痛は改善するだろう。しかしながら外側側副靱帯損傷という病態が存在しているのならば、放散痛軽減させただけでは、すぐに症状再発することだろう。

 

仙腸関節異常の病態生理と鍼灸治療の総括 ver.1.1

$
0
0

私はこれまで、何回か仙腸関節刺針についてブログに書いてきた。これは10年以上にわたる学習と臨床の段階的成果なのだが、今振り返ると古かったり、同じような内容を別のところで断片的に書いていたりで、まとめて見ることも難しくなってきた。そこで今回は、仙腸関節刺針について、これまでの報告を整理する一方、過去の断片的内容を削除することにした。


1.仙腸関節異常の概念

整体やカイロの治療で、たびたび仙腸関節の異常が指摘されるが、整形外科ではあまり注目されていない。一部の医師の間ではAKA療法(エイケーエイ療法 Arthr oKinematic Approach 関節運動学的手法)または、博多節夫医師によるAKA博多法が行われている。AKA療法は仙腸関節の隙間を手で広げたり、関節面同士を辷らしたりすることで動かなくなっていた仙腸関節の動きを回復させるようにするものだが、術者自身の手指の感覚で微妙な力加減を要するもので、独学で習得することは難しい。当院にもAKA療法を受けたという患者がこれまでに何人か来院していて、その治療法で改善はなかっととのこと。結局AKAとても万能でないことを示唆するものとなっている。

仙腸関節の遊びは3ミリほどあり、少しグラついている状態が正常である。このグラつきは中腰姿勢で最も大きい。中腰姿勢で腰を捻ったりして異常な外力が仙腸関節に加わると、関節の遊びを越え、関節面は少しずれた状態で固定してしまう。古い雨戸を引っ張り出そうと変に力を入れた途端、雨戸は中途半端な位置のまま、動かなくなるのと同じ状態である。

2.症状

関節のズレた状態そのものは痛みをもたらさないが、間もなく周囲の筋や靱帯が異常興奮し、仙腸関節部に鈍痛を覚えるようになる。人によっては下肢の大腿部や足首に関連痛を感じ、むしろ関連痛部位を苦痛として感じる者がおり、診断を難しくさせている。

3.診断

ただし関連痛部位には圧痛所見はないこと。仙腸関節部に顕著な圧痛(これをワンフィンガーテストとよぶ)があること。静的腰痛(同じ姿勢を続けていると痛む)であることなどから、本症であることを推察できる。なおパトリックテストは正常であることが大部分なので参考にならない。
要するに神経学的に説明のつかない下肢症状とワンフィンガーテスト圧痛(+)であれば、仙腸関節機能障害を疑う。そして仙腸関節部を刺激して症状が改善することが治療的診断になる。



4.私の針灸治療の発展

1)発端:患側下の側臥位で行った仙腸関節刻面への刺針
脊柱骨盤模型で観察すると、仙骨腸関節は意外と深い処にあり、その関節刻面は台形になっていることを再発見した。骨盤背部から仙腸関節関節面に刺入するには、左右の上後腸骨棘と同じ高さにある仙骨棘突起を結ぶ直線の中点を刺入点とし、外下方に斜め45度方向に4~5㎝入すればよいことを確認した。なお鍼をその角度で刺入するには、患側を下にした側臥位またはシムス肢位で実施するのがやりやすいので、この方法で実際の仙腸関節機能障害を疑う患者に試してみた。
この刺針でうまく症状部に一致した再現痛が得られれば効果大だが、響かないことの方が多く、この場合には治療効果はほとんど得られなかった。


2)改良編:患側上の側臥位で行った仙腸関節刻面への刺針

前記の方法でなぜ効かなかったのかを考えてみると、仙腸関節に力学的ストレスが加わらず、この周囲筋が緩んだ状態になっている処に刺針してはダメだと思い、今度は仙腸関節刺針に運動鍼を併用するため、患側上の側臥位で仙腸関節刻面(正確には骨間仙棘靱帯)への刺針(置針10分)に替えてみた。この体位で仙腸関節に入れるには、切皮した鍼を斜め上前方45度の角度で入れる必要があって、多少面倒だったが、慣れてくるとスムーズにできるようになった。

さらに所定の処に鍼先が達した後、患側(上になった下肢)の大腿前面を自分の腹に近づけ、そして遠ざける自動運動を10回実施させた。この時、仙腸関節は少々動くことになり、施術者は患者の動きに合わせて鍼を雀啄した。
この工夫により、治療効果は驚くほどになった。

 

 

 

3)現行編:股関節屈伸自動運動から、股関節外旋運動への変更

仙腸関節の動きは、大腿前面を腹に近づける動作(股関節屈曲)よりも、側臥位で横になった大腿を立てる運動(股関節外旋)の方が、より大きいのではないかと考え、股関節外旋自動運動に変更した。「殿と踵を動かさないように固定し、膝を立てたり横にしたり」と説明して、患者の足首を押さえながら膝を立て、再び横に戻すという動作を指導するとよい。なお刺針自体は前記と同じである。
この運動方法に変更して、治療効果が改善したとは思えないが、前記の大腿屈伸運動は、当院のようにベッドが壁に寄せて設置している場合には、施術者側にもっと近づいて横になるように体位変更が必要となることあって、少々面倒だった。これが解消できたことは実地面で助かっている。


5.仙腸関節神経ブロック法(村上栄一・黒澤大輔両氏による)

ベッドの手前に立たせ、両手をベッドの上において、上体を30度屈曲位置で安静させる。仙腸関節上内方から斜め外下方に23Gブロック注射 針を入れて、骨間靱帯に入れる。痛みが症状部に放散すれば成功。この後に局麻液を注射する。



最近、2ヶ月来の左上殿部~大腿外側という症例を経験した。先ずは患側上の側臥位で2寸針を使って患側上の仙腸関節運動鍼法を行ったが、患部に響かせることはできず、治療効果も乏しかった。そこで今度は村上栄一・黒澤大輔両氏の立位前屈30度で、両手をベッドにおく姿勢で鍼灸鍼で刺激してみた。すると患部にズンと響かせることができ、症状も非常に軽減した。
    
立位状態前屈位で仙腸関節を刺激する方法は、仙腸関節周囲の筋や靱帯が張り詰めた状態にあるせいか、従来の私の方法に比べ、症状部に響きを与えやすい印象をもった。本法では2㎝ほど斜刺すると抵抗のある組織に当たるが、抵抗ある中を刺入していき、症状部に響きを得ることができれば成功である。   抵抗ある組織とは、ある程度の柔らかさがあることから後仙腸靱帯ではなく、多裂筋なのかもしれない。

 

6.仙腸関節矯正手法  

前述した鍼の技法は、仙腸関節に溜まった筋痙攣や疼痛を、鍼によって一過性に軽減するものであって、あくまでも対症療法である。本治法は、仙腸関節のズレたまま固まった状態を、ズレのない状態に戻すことであるが、仙腸関節の筋や靭帯を鍼で緩めている状態であれば、何かのきっかけでロックがはずれて正常に復しやすくはなるだろう。そのきっかけをつくるのが次の仙腸関節ストレッチ体操である。

1)左右の仙腸関節を開くための徒手矯正


 

仙腸関節を背面からみると、仙骨は腸骨にハの字型にはめ込まれている。仙腸関節は上体を前屈する(これを仙骨前傾とよぶ)と少し緩むので、前方(腹側)に動きやすくなる。また上体を反らす(仙骨後傾)ときつく噛み合うことになる。仙腸関節のズレの多くは、上体前屈時の仙腸関節が緩んで関節が動きやすくなった時に生ずる。

 

2)仙腸関節のひねり是正の徒手矯正

上記は左右の仙腸関節が同じような動きをした場合であり、仙腸関節症状も両側性のことが多い。一方、骨盤にねじれ歪みが作用した場合、片側の仙骨が前傾すれば、同側の仙腸関節は締まろうとし、反対側の仙骨は後傾してその側の仙腸関節は緩もうとする。換言すれば、後ろにひねった側の仙腸関節は痛み、前に出た側の仙腸関節は痛みをまぬがれる。

この骨盤のねじれによる仙腸関節異常は、ゲンスレンテストで確認できる場合がある。ゲンスレンテストは仙腸関節機能異常をみる理学テストである。
患肢(下図では右)をベッドから垂らして仰臥位にすると、右下肢の重みで右腸骨が前方回旋→右仙骨後傾→右仙腸関節が締まる→右仙腸関節周囲の痛み誘発。
右仙腸関節が痛む場合、仙腸関節を緩ませるには、下図とは逆に左下肢をベッドから垂らすようにすると、これが仙腸関節のズレを是正できる場合もある。

 

もっと積極的に仙腸関節のひねりによるゆがみを矯正するには、健側下肢を引くようにベッドに載せ、下腹を突き出すような重心移動を行う。この姿勢を1回1~3分間保持する。(最初は1分間くらい)この場合、健側の右仙腸関節は締まる動きとなるが、左仙腸関節は開く動きとなる。

 


 

3)骨盤矯正ゴムベルト療法(商:リフォーマーベルト)

リフォーマーベルドはそれなりの効果があるが、XL・L・M・Sとい4種類のサイズが市販されていて、常時ラインアップを揃えておかないと肝腎な時に役立たない。送料の関係で不足分を一枚だけ買い足すことは割高になり、面倒なので当院では取り扱いを中止し、前述した仙腸関節徒手矯正を行うことにした。どうしても必要な場合、患者自身ネットで注文するようにお願いした。


①生ゴムでできたバンドを、左右の上後腸骨棘を中心軸として覆うように巻きつける。
②腸関節の上に親指を入れ動かせる程度のきつさにする。
③肩幅程度に足を広げて立つ。腰を水平に、大きく円を描くようにゆっくり回す。朝晩2回、左回しと右回しをそれぞれ50回行なう。腰を回す時、膝をあま   り曲げず、足を浮かさず回すのがコツ。運動時以外はゆるく巻いておいてもよい。就寝時はベルトをはずす。

三重県津市、偕楽公園内<杉山和一、生誕の碑>参拝

$
0
0

  令和4年10月30日の日曜、「三県合同鍼灸研修会」講師として招かれ、三重県津市の三重県鍼灸師会ビル内で講演をする運びとなった。講演内容に関してはは稿を改めて記すことにする。”三県”とは三重県・愛知県・岐阜県のことである。同時に講演したのは昭和大学医学部、生理学講座生体制御学部門教授の砂川正隆先生だった。その前夜、隣駅の立川駅前を夜10時45分出発、夜行高速バスに乗ること6時間半で早朝5時30分に津駅前に到着した。三重県津市は東京から遠いイメージがあったが、意外と近いことに驚きだった。
 
 バスに乗車の際、運転手が私のチケットを調べた。それを見て「ツーですか?」と質問した。私はなぜここでなぜいきなり two と言ったのか理解できなかったので「ツーとは?」と聞き返した。運転手はこれを無視し、「似田様ですか」と質問したので「そうです」返事した。これでチェック終了。後に分かったことは、津の住民は津のことをツーと伸ばして発音する方言なのだという。

 話を本題に戻す。津に出かけたのは研修会のためだが、もう一つの目的は杉山和一生誕の碑を見ることだった。この石碑は、津駅から徒歩10分の偕楽公園内にある。もとは伊勢津藩主、藤堂高猷(とうどう たかゆき)の敷地だった。藤堂は幕末から明治初期にかけ、軍や警察方面で活躍した偉人で、藤堂の死後、津の人々にこの敷地を下賜した。偕楽公園はとくに規模の大きい公園というわけではないが、起伏に富む地形を利用して山や谷を造成し、中央には池もある。春の花見時期には大賑わいをみせるという。この公園を特徴づけるのは、郷土の偉人たちの石碑が、十基ほども建っていることだろう。子供の遊具やSL展示もあり、盛りだくさんである。

津市、偕楽公園入口 。 朝の6時頃なので青く写っている

SL(D51 通称デコイチ)展示

偕楽公園内の池

 


杉山和一の石碑もその中の一つ。高さ50㎝で2メール四方の台座の周りに柵があり、台座中央にはさらに50㎝ほどの台座、その上に2mほどの大きな石碑があった。石碑の表には、「鍼聖杉山総検校頌徳」と刻まれ、裏目には細かな文字で本人の生涯の内容が掘られていた。

 

杉山和一の石碑(遠景)

 

杉山和一の石碑(近景)

 

石碑クローズアップ 「鍼聖杉山総検校頌徳」と刻まれている

石碑裏面 杉山和一の生涯を紹介

 

2メートル四方の台座のへりには12本の円柱状の杭があって、うち端や角の6本の杭は鉛筆の芯が飛び出ているような形をしていた。この形は両国の弥勒寺にある「針灸供養塔」と同じ意匠であり、鍼管からとびだした鍼柄を示しているものだろう。鍼管発明者にふさわしいといえる。

 

両国の弥勒時にあるはり供養塔。杉山和一墓に隣接している。

 

石碑の左奥には、高さ50㎝ほどの白く小さな石碑があって、「鍼塚」とあり、右肩には「杉山弁財天」と彫られていた。両国の杉山神社は、杉山和一が江ノ島にある宗像神社の辺津宮に願をかけだのだが、辺津宮の女神が美人であったことから弁財天として人々に人気があった。このような背景があって、杉山和一と弁財天が関係した。杉山和一は尊敬の対象ではあっても信仰の対象ではなかった。しかし「杉山弁財天」とすることで鍼聖杉山総検校頌徳に対しても人々は手を合わせる対象となることもできた。

 

 

偕楽公園には十基内外の石碑を数えたが、その中でも最も立派だったのは、職務中に殉職した警察職員を慰霊のもので、警察徽章である金色に輝く五角形星が埋めこまれていた。藤堂高猷が警察関係でも活躍していたことを示すともいえる。

 

杉山和一は津で生まれたことは、一般人は知らなくて当然だが、津市在住の鍼灸師でも知らない者が多い。偕楽公園に杉山和一生誕の石碑があることを知らない。知っていても特に行ってみたいとも思わないらしい。和一は津で生まれたのだが、活躍したのは江戸であった。このことが、地元民にとり杉山和一の知名度が低さに関係しているのだろう。


美容鍼入門講座(全1回)実施しました(再録)

$
0
0

令和4年9月11日、美容鍼講座を実施した。その時の模様は、すでにブログに載せたが、別の原稿を上書きして消去してしまった。あまりのショックに長らく放置していたが、あれから2ヶ月経った。気を取り直し、まだ私の記憶に残っているうちに、かいつまんで内容を紹介する。講師の小村はるみ先生は、新潟県長岡市でエステサロンを経営していたが、約10年前から美容鍼を取り入れているとのこと。

日時:令和4年9月11日8日曜)午後4時~8時
会場:国立市中1丁目集会所
指導者:小村はるみ(新潟県長岡市にて開業)

開催者:似田敦
実技助手:岡本雅典
参加者:11名

 

美容鍼の作用の似田私見(小村はるみ先生監修)

総論
1.顔面表情筋のコリをゆるめる作用
  皮膚と筋の乖離が減る → シワ、タルミが減る
                          ↑
                  両者を密着させているのがスマス
 
2.シワ≒リガメント( 筋をつなぎ留めるクイ)リガメント部分にスマスはない。
   シワを目立たなくさせるには真皮機能を復活させる。
   それには真皮を刺激・微細内出血させ、線維芽細胞を増産すること。
   これによりエラスチン・コラーゲン・ヒアルロン酸の分泌復活。
   リガメントの上下左右にこそスマスがある。スマスが緊張すると柔軟性を失った真   皮にシワができる。真皮の柔軟性を復活させることが重要。
      ※真皮の構成語呂:エ(ラスチン)コ(ラーゲン)ヒ(アルロン酸)いきした真否

各論
1.たるんだ頬のリフトアップ
 前頭筋(前頭後頭筋の)と側頭筋(側頭頭頂筋の)の筋収縮力を復活させる?
 それには皮膚を上方に引っ張りつつ上方に向けて斜刺、数秒間そのまま。
 30分置鍼(10分程度の置鍼では不足)
    代表穴は、前者が頭臨泣穴、後者が太陽穴や曲鬢穴
2.目の下のクマ
  眼輪筋緊張度がゆるんだことで、眼球の重みに耐えきれず、眼輪筋が前方にふくれる。  これは眼輪筋の筋力トレーニングを実施。目を閉じ、自分で上まぶたをおさえながら、  目を開けようとするトレーニング。

3.ゴルゴライン
  目の下から頬にかけて斜め下方にのびる溝のこと。
  目の下のクマと同様、頬部皮下組織の重さを支えきれず、垂れ下がった状態。 
  治療:①ライン直上からは真皮に対する浅刺(リガメントに対して) 
          ②ゴルゴライン下のリガメント近辺にある拘縮した上唇挙筋郡筋腹の拘縮を取るために硬結点に15㎜ほど直刺で何本か刺針
 4.ほうれい線
   大・小頬骨筋の過収縮。顴髎のコリをゆるめる鍼。
      マリオネットラインの治療も同時に実施

5.マリオネットライン
   口角下制筋の過収縮。地倉外下方のコリを緩める鍼。

 

 

 

間中喜雄著「PWドクター沖縄捕虜記」と平和碑  ver.2.1

$
0
0

1.「PWドクター 沖縄捕虜記」とは

間中喜雄先生は医師となって間もなく招集を受け、5年余を軍隊で過ごしている。この間の最後の1年、すなわち終戦直前から沖縄本島での捕虜生活の様子が、自著「PWドクター 沖縄捕虜記」(1962年金剛社刊)に記録されている。なおPWとは、prisoner of war (戦争捕虜)のことである。私は35年ほど前に古本で800円で入手したが、すでに絶版で入手困難である。
間中先生が世間に広く知られる存在になるのは1950年の日本東洋医学会設立時頃からであり、以後は中国、アメリカ、フランス等世界中で講演活動することになる。
本書は、いわゆる"世に出る"前の下地形成の資料として格好な読み物となっている。

2.間中喜雄の前半生の年譜
明治44年 小田原生まれ
昭和10年(24歳)京都帝国大学医学部卒業。その後、東京で2年間の外科研修
昭和12年(26歳)父親の代から続く小田原の「間中外科病院」を継承
昭和15年7月(29歳)招集 東部12部隊野戦化学実験部に配属。その後復員。
昭和16年(30歳)宮古島、豊部隊山砲兵第28連隊に陸軍軍医中尉として再度配属。
昭和19年10月 アメリカ軍の宮古島空爆開始、以後連日のように空爆を受ける。
昭和20年9月(34歳)無条件降伏 
昭和20年11月 アメリカ占領軍が宮古島初上陸。捕虜となり、沖縄本島へ輸送。
         屋嘉戦争捕虜収容所で10日間過ごす
昭和20年末 嘉手納第7労働キャンプに移動。医師として10ヶ月間労働
昭和21年12月(35歳) 那覇港→名古屋、復員。10ヶ月間の労働賃金は90ドル。
           (以後省略)

3.PWドクター時代の間中先生の日常

間中喜雄先生(本書では新納仁としている)は沖縄の一孤島である宮古島(本書でM島としている)に陸軍軍医中尉として配属された。宮古島は沖縄の遙か南200㎞下った孤島である。
宮古島に間中先生が配属されて数年後からアメリカ軍の空爆が連日のように始まり、軍事基地だけでなく市街地も廃墟同然となり、深刻な食糧難、非衛生状態の蔓延から、風土病であるマラリアが大流行していた。当時宮古島には、終戦当時、2万人の日本兵がいた。

しかし本書は、そうした凄惨な状況には触れていない。基本的にはユーモラスな自伝であり、終戦宣言後の、混乱状態から書き起こしている。宮古島では激しい爆撃はあったが、アメリカ軍の上陸による戦闘はなかったせいか、戦後に来島したアメリカ占領軍に対しても、敵愾心がおきないらしく、元日本兵は従順にアメリカの指示通りに動いた。
(沖縄地上戦の後に捕虜となったものは、宮古島出身兵と異なり、極限的な体験をしたので、捕虜生活というのは魂の抜け殻のようだったらしい。)

嘉手納労働キャンプで、初めてナマでアメリカ人の社会の一端を知ることとなり、カルチャーショックに襲われた。豊富な物資、機械化、スピーディーな事務処理、あけっぴろげな人間性について、驚きは大きかった。一方、厳しい軍紀下にあった日本軍内での将校や兵も、同じ捕虜として対等な立場になった。いままでの価値観や規律は一気に崩壊した。

本キャンプには、二千名ほどの捕虜が集められたが、英語の達者な者は2名のみ(うち1名は二世)。間中先生も、少々英語を操れるというので、重宝された。
元々秀才だった間中先生にしても、ナマの英語を身近で見聞きするという生活は、初めての訳で、実践英語の良い英語訓練の場となった。手元に辞書がないので、相手の言っていることを推理する他なかった。アクセントを間違えたら、ありふれた言葉も通じないこと。自分は、アメリカ日常用語を知らないことを痛感した。間中先生は、近い将来、国際的に活躍することになるが、その下地が形成されたらしい。
  report→出頭する(報告せよ) observe→出席する(見る)
  火が消える→go out   火を消す→put out    cot→簡易ベッド
  必要である:It is indispensable. →I cannot do without it.
英語では、このDO  TAKE  MAKE  PUT  GO  GET というようなやさしい言葉の組み合わせで、いろいろな言い廻しができる。読み物もないので、米軍娯楽用の小説を図書館から借り受けて読んだ。辞書がないので、判らない字は飛ばして読むのだが、こうした楽な読み方が非常に英語の勉強になるという。

一般兵(将校以外)は、強制労働で、木工、土工、給仕、コック、ペンキ吹きつけ、倉庫番、荷役、掃除など。午前8時出発、作業中止が午後4時、午後5時到着。土曜は半休で午後はスポーツ。祝祭日は休み。食い物は米軍と質・量ともに同じ。きびしく鍛え上げられた日本兵からすれば、非常に楽な生活だった。日本人は働き者が多く、しばらく作業所に通っているうちに信任を得てアメリカ軍の監督なしで作業する者も多くなった。
終いには、爆弾庫の管理、武器の管理まで捕虜に任せた。
敵と戦う必要がなく、食べ物も豊富にあるとなると、暇つぶしの方法が問題になってくる。

捕虜の一人が踊りのお師匠さんがいて、踊りの稽古が始まった。これが高じて、カテナ納涼大会が発足。盛大に踊りの輪ができた。やがて風呂設備や床屋、スポーツ施設(野球、ピンポン、バトミントン、バレーボール、バスケットボール)も完備。収容所同士のリーグ線や米軍と試合するのもできた。土俵もつくり、番付までできた。最も豪華だったのは演芸分隊で、田舎の芝居小屋ぐらいにはできた。この演芸が収容所生活最大の慰安だった。手元には脚本や参考書もないはずなのに、毎週出し物を工夫した。

4.面白かった文章の一部

1)宮古島の対空射撃について:我が軍の対空砲砲火は、まったく敵飛行機に当たらなかった。後期になると、砲弾を節約するため豊式爆弾を使用。豊式爆弾というのは要するに打ち上げ花火のことである。これで飛行機が落ちますか?と問うと「落ちはしまいが、敵は驚くだろう」(大きな音がするので)と答えた。
2)終戦後、宮古島にも飛行機がDDT(新型殺虫剤)を散布。人畜無害なのに、目立って蚊や蠅が減り、その効果に驚いた。
3)宮古島から沖縄本島への輸送船内では、あちらこちらで車座になってサイコロ、トランプなどの賭博横行。湯飲み大の缶詰を2缶配給された。1つはビスケット・レモンジュース・ジャム、もう1缶には、肉や豆が入っている。久しぶりの美味に、こんなうまいもんが世の中にあったのかと思う。
4)かつての大隊長も同じ捕虜キャンプに集められた。間中先生の姿をみて大隊長曰く「やあ貴公もここへ来たかや」と言ったといって、ご機嫌だった。同じ不幸は仲間が多いほど慰められるし、同じ幸福なら仲間が少ないほど得意なものである。
5)カデナ労働キャンプ内には、他に医師もいた。大柄なその医師に身長を問うと、「目の下170です」と奇妙な挨拶をした。
6)毎日、ジャムの5ガロン缶が十人に1つの割合で配給がある(1ガロン≒3.8リットル)。始めは珍しくてペロペロなめていたが、だんだんと飽きて見向きもしなくなる。そのジャムとイーストを混ぜて五ガロン缶に入れておいた。次の日衛生兵が大声を挙げて「できました。こりゃいけます‥‥」とジャム酒をもってきた。甘口のどぶろくと化した。酒の醸造法も、たちまちカデナ全体の流行になった。
7)ラジオが日本の君が代を放送した。日本を敵として戦ってきたはずの米兵たちが起立して敬意を表している。日本の捕虜たちは戦争が負ければ国家もくそもあるものかいといった顔で知らん顔している。

 

5.間中喜雄の「平和碑」について

私は「PWドクター沖縄捕虜記」を読み、間中喜雄にとって、太平洋戦争が世間一般の常識とは異なり、苦しみの体験という印象はあまりないように感じた。ところが最近、間中の地元である小田原市郊外の東泉院という寺に、間中作の「平和碑」のあることを知った。間中が死去したのは1989年なので、少なくとも30年以上前にはそこにあったことになる。間中は書画の才能もあったので、石像まで自作したという。石碑の文章をみると、間中の戦争体験が悲痛であったことを改めて知らされた。

東泉院入口

 

 

以前は違ったが、石碑の文字の周りが白くなっている。タワシなどで擦ったのだろうか。誰かが文字を鮮明にさせるためにやったものだろう。

「何のために死んだのか判らない人たちに捧ぐる碑」
平成元年十一月、間中喜雄によって小田原市久野の東泉院に造立された慰霊碑)

間中喜雄 平和碑

戦争の狂気が国々を侵すとき無数の
無垢の人々がいたましくもその犠牲になって殺されてゆく

 

この碑文は、民間人が戦争で殺された不条理に対する無念を表しているものだが、具体的には原爆で亡くなった犠牲者に対する無念のようだ。脇にある詩碑の写しには次のように示されている。

九泉の地底より 千仞の天まで
一と数え 拾百千と読み 万億兆と叫び 
血を吐きて、なお反響も無き寂滅 
頭を打ちつけ 地団駄を踏み 転輾反側すれど こたえも無き無明 
迷蒙より諦観へ 暗黒より光明へ身をもんで求むれと無
真理は虚妄 善は仮象 愛染も空し
右顧左眄して 眼睛何を見んとするや 
須是を永遠とし 屈折し 展しまさぐり 喝仰し 何をか得たる
神神は死し 大地は枯渇し 七つの海に魚も住まず 
魂魄も息づかざるに いづかたに理想あるや
うめけ泣け苦しめ是れ 形骸を烈火に点し 無に帰れ 
すべてのもの失せて消滅せん

原爆の日にうたえる

間中喜雄(印)
平成元年十一月

 

 

足冷の針灸治療理論とテクニック

$
0
0

 ネットを色々と見ていると、<寝るときの靴下はあり?なし?医師に聞く →「絶対良くない」「リスク大きい」>とする記事を見つけた。回答しているのはK医師で、「靴下を履き、強制的にあたたかくすると、体温が下がらないので安眠につながらない」と説明している。これを見てあきれた。とても医師の意見だとは思えない。これは冷え性と安眠を混同している意見であって、「冷え性の者が靴下をはいて寝ることは、冷え性の改善にはならないが、眠りにつきやすくする一つの策だ」というのが正しい。睡眠中、足が適温になったら無意識的に靴下を脱ぐだろう。このあたりのことを説明したい。

1.四肢温度と核心温度
  
恒温動物の深部温度(=核心 core 温度)は、内部  環境保持のため一定温度(ヒトでは37℃)に保たれて  いる。深部温度とは体幹深部と頭蓋骨内の温度である。これに対し、皮膚表層温度(=外殻温度)は易変動性で、通常は気温に比例する。(皮膚温が高くなりすぎると、発汗して冷却するが)
  
体幹深部で温められた血液は、血流を通して末梢を温めるが、四肢の体温は末梢に近いほど外気温に平行して下降する。これは限られた熱エネルギーを分配する中で、内臓活動機能に不可欠な核心温 度を保持するための対策である。


   

2.機能的冷え症の病理機序
 
1)熱の産生不足
   
体幹部核心温度低下しそうになたら、身体の産生熱量を増加させようとする機序が働く。熱源は内臓(とくに肝臓熱)と骨格筋(ふるえ熱)であり、これらの代謝亢進のために、甲状腺刺激ホルモンや副腎髄質のカテコルアミン分泌が増加する。
 
2)皮下動静脈吻合(AVA arterio-venous-anastomoses =グロムス機構)の役割
   
血液循環は、動脈→毛細血管→静脈という基本構造をもち、毛細血管では酸素や栄養素の受け渡しをする。これとは別に、末梢毛細血管を経由しないで、細動脈→細静脈へと、あるいは細動脈→細動脈へと血流がショートカットする部分が、唇や耳鼻、手指や足指(要するに洋服で覆われない部分)に存在する。このような部位を動静脈吻合とよぶ。真皮にある動静脈吻合の役割は余分な熱を逃がすことにある。
   
暑い日には、動静脈吻合を開いて、末梢の血流量を増やすことで、放熱量を増加させて核心温の上がり過ぎを防いている。寒い日には、動静脈吻合を閉じて、末梢血流量を減らすことで、熱の逃げるのを防ぎ、核心温を下がり過ぎないようにしているが、その代償が「手足の冷え」である。

 
3)不眠と冷え性の関係
    
睡眠は第一義的には脳の加熱を防ぐことにあり、睡眠時には脳血流量が減るので深部温も下げられる。その時の余剰の熱は手足か放散される。この熱が布団に伝わり、布団が暖かくなり、手足も温まる。身体が副交感神経優位体勢となって眠る体勢が整う。
   
足冷が強い者は、四肢から放熱できるほどの熱量が十分ない(四肢から放熱するなら、核心温度が下がり過ぎて内臓機能を維持できない)。こうした場合、靴下をはいて布団に入ると、下肢からの熱の放散も少なくてすみ。核心温度を下げ過ぎるというリスクが減る。

就寝中に脳内血流が減り、四肢から熱を放散できる情況になったら、無意識的に靴下を脱ぐだろう。すなわち靴下をはいて寝ることは、冷え性の治療にはならないが、睡眠促進にはなる。寒冷時、就寝前に風呂に入ることは、脳の加熱を促進させる行為なので、睡眠時には多くの余剰の熱を手足から放散するので、布団に入った瞬間からポカポカと手足が温かく、快適な睡眠が得られやすい。

 

3.冷え症の針灸治療
  
冷え症の3大原因は、①熱が逃げる(放熱)、②熱の製造力不足、③熱が回らない、である。 衣類による防寒は①の対策である。①の熱の製造不足についてであるが、針灸治療で基礎代謝上昇ホルモンに直接働きかけることは困難である。したがって原始的であるが「身体を温める」ことをまず考える。
  
立位や座位状態にある患者を、十数分間仰臥位を保持させるだけで、理論的には身体は副交感 神経優位になり、結果として足の温かくなる計算であるから、冷え症の治療は仰臥で行うのが前提となる。治療としては②と③である。
 
1)腰仙部の長時間温補(筆者の方法)

①腰仙部の赤外線照射(または箱灸)
治療室内は適温に保つ。伏臥位にて腰仙部を露出させ、赤外線照射(または箱灸)を実施する。加熱部以外はバスタオルで覆い熱を逃がさない工夫をする。深部までの加熱を行うため照射時間は、温和な加熱で20分またはそれ以上必要である。この考え方は、ローストビーフを芯まで上手に焼く要領ににている。肉の芯まで火を通すには、長時間の弱火がよい。短時間の強火では熱がるだけで、芯は温まらない。この時重要なのは、足は直接温めないということである。腰仙を温めることにより、足部皮膚温を上昇させねばならない。換言すれば、足部皮膚温が正常になるまで、腰仙を温め続けるべきである。 
  
温罨法に熱湯で温めたコンニャクを20~30分仙骨部に貼り付けるというのは湿熱なので興味深いが、該当部位に置針ができなくなるので、針灸院で行う方法としては適切とはいえない。自宅療法としては好ましい。


②腰仙部の多壮灸(郡山七二「現代針灸治法録」)
「冷え症には、腰仙骨部の経穴を数カ所(たとえば、大腸兪や次髎)選び、多壮灸する。他の治療を行う暇があるならば、壮数を増やすことを考える」といった大胆な記載がある。追試してみたが、手間の割に効果が乏しい印象をもった。
 

2)動静脈吻合に働きかけるテクニック
   
動静脈吻合の開閉は、そこにある交感神経により支配されている。寒い日には末梢血管にまとわりつく交感神経は緊張して血管は細くなり、動静脈吻合は閉じるので、熱が漏れにくい。意図的に閉じている動静脈吻合を開くことができれば、そこから末梢の血流がよくなり冷えも改善されるが、手関節部、指間部、指尖部などに刺針しても、大して手足の血流は改善しないという苦い事実がある。動静脈吻合への刺激の加えかたが妥当でないのかもしれない。
   
先日、針灸実技講習会<奮起の会>でご協力いただいている岡本雅典氏と話す機会があり、手足のグロムスを開放する手技療法についてご指導いただいた。患者の手指足指の背側から指間に術者の指を入れ、数回強く掌屈・底屈させるという方法で、手足の指間にある虫様筋・指間筋の伸張刺激になる。私も被験者としてやってもらったが、かなり痛かった。その程度強くやらないと効きかないらしい。


※指間の筋の構造と動静脈吻合のおさらい

 

指間には、背側・掌側骨間筋および虫様筋の2種類の筋がある。背側骨間筋は、指の外転(パーを出すように五指を広げる)に、掌側骨間筋は、指の内転(五指を中指に近づける)運動を行う。虫様筋は指の伸展運動に関係し、トランプを広げて持つ時のようにMP屈曲、IP伸展という形をつくる。通常筋は、骨と骨をつないでいるが、虫様筋は腱と腱をつないでいる。
以上の内容は難解だが重要ポイントは次のようである。深部に動脈弓があり、ここを基点に各指に小動脈が伸びている点が重要で、その枝分かれ部にグロムス機構(動静脈吻合、動々脈吻合)があって、血流方向を制御していることである。

慢性鼻炎・慢性副鼻腔炎に対する上星の長期施灸とマクロライド少量長期投与療法

$
0
0

1.上星・顖会への長期的透熱灸の効果

1)急性鼻炎の治療の耳鼻咽喉科治療は抗生物質投与がよく効くが、慢性化すると抗生物質を使うと改善するが中止すると元に戻るという情況を繰り返しているという現状がある。

2)一方、針灸治療では、鼻周り(挟鼻や攅竹など)への置鍼を行うとともに、前頭部の上星(前髪際を入ること1寸)や顖会前髪際を入ること2寸)に長期的に透熱灸をするのが定番化していると思っている。上記のツボはすべて三叉神経第1枝知覚支配だが、同じ三叉神経第1枝知覚支配の鼻粘膜に刺激を与え、それが交感神経を興奮させ、鼻甲介の充血を減らすので、鼻の通りをよくする。

3)鼻周りに灸をしないのは灸痕をつけたくないからで、前頭部は頭髪中にあるので施灸しても灸痕が目立たないという判断である。

4)急性鼻炎は耳鼻科で治療手段があるのであまり針灸に来院しないが、慢性症では相対的に針灸の価値が増してくる。その治療効果の秘密は長期施灸することにある。

5)半月~3ヶ月の反復刺施灸(自宅施灸)を与えることで良好な状態を長期間保つ間に、鼻粘膜の修復が行われ、施灸中止後も、しばらく症状は消失状態を保つことができる。このことは、慢性鼻炎・慢性副鼻腔炎の治療として有用であることを示すものといえる。
例1:1週間、外来処置や薬物治療すれば→直接アレルギー反応が抑えられるので、その間は調子がいい。
例2:  2ヶ月、外来処置や薬物治療すれば→粘膜が正常化してゆくので、治療後もしばらくは調子がいい。
(医道の日本社 発表は医師だが氏名は失念)


2.マクロライド少量長期投与について
 
近年、3~6ヶ月間という長期間、抗生物質マクロライドを投与するという方法が考案され効果を上げることができるようになった。この方法は長期施灸とよく似た考なのが興味深い。マクロライド治効理由は、副鼻腔~気道の絨毛粘膜上皮の機能回復にあるとされ、これがそのまま上記の透熱灸治効の根拠になっているように思えた。
 
マクロライド系抗菌薬は、従来的な抗菌作用とは別に、免疫の調整や炎症を抑制する保護的作用のあることが発見された。現在は慢性副鼻腔炎に対する標準的な薬物療法として広く用いられるようになった。通常の抗生物質は長くても2週間程度しか連用しないが、この治療法では通常使用量の半分を、3~6月少量長期投与する。
 
本来、副鼻腔壁には絨毛があり、副鼻腔の中に侵入した病原体や異物を粘液とともに鼻腔に向けて動いて運び出す機能がある。この絨毛機能が障害され、慢性副鼻腔炎へと移行してしまう。以前は手術によってこの粘膜を完全に除去することを目的とした「副鼻腔根治手術」が治療の中心だったが、この方法により副鼻腔~気道の絨毛粘膜上皮の機能回復という作用があることが判明した。

肩関節の語呂

$
0
0

先日、奮起の会「肩関節痛」の講習会を実施した。肩関節は他の関節に比べ、動きが複雑なこともあって、記憶すべき内容が多くなる。この対策として医語呂を活用している。以下に紹介する。

1. 四つの肩種腱板の名前は?

語呂:消極的喧嘩
消(小円)極(棘上・棘下)的、喧嘩(肩甲下)


2.結髪動作とは、どのような動作を複合したものか? 結帯動作とは、どのような動作を複合したものか?

語呂:髪(結髪)は外(外転・外旋)に曲(屈曲)げ、帯(結帯)は内(内転・内旋)に伸ばす(伸展)。←似田新作
     結髪動作は、外転・外旋・屈曲
     結帯動作は、 内転・内旋・伸展 

 平安時代の十二単をイメージ

 

3.結髪の外旋制限は何筋の過緊張によるものか? 結帯の内旋制限は、何筋の過去緊張によるものか?

 

 

結帯の内旋制限時→小円筋(臑兪)の過緊張
結髪の外旋制限時→大円筋(肩貞)の過緊張

 

4.肩関節周囲筋の支配神経

1)肩甲上神経の運動支配は? 

語呂:献上した二曲
献上(肩甲上神経)した二曲(棘上・棘下)棘上筋、棘下筋 
肩甲上神経は、棘上筋・棘下筋を運動支配   


2)腋窩神経の運動支配筋は?

語呂:賞賛の易か
賞(小円筋)賛(三角筋)の易(腋窩神経)か 
腋窩神経は、小円筋・三角筋を運動支配


3)肩甲下神経の運動支配筋は?

語呂:ケンカ多かった
ケンカ(肩甲下神経)多(大円筋)かった(肩甲下筋)  
肩甲下筋は、大円筋と肩甲下筋を運動支配 


          

 

Viewing all 655 articles
Browse latest View live