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ドライアイの原因と眼の温熱治療

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1.ドライアイの原因  

涙は涙腺でつくられ、排泄溝を通って眼球表面に流出する。眼精疲労を訴える者の6割はドライアイ状態とされる。この原因は、涙液減少型はマレ(代表疾患はシェーングレン症候群)で、大部分は、涙が蒸発しやすい涙液蒸散型だとされる。

※目がショボショボするとは?
「目が乾きやすい」という乾燥感が主症状で、これに異物感、目の痛み、まぶしさ、目の疲れなど様々な症状が合わさったもの。

 

2.涙液の三層構造

眼球表面は涙液膜で覆われるが、外側から内側に油層・水層・ムチン層という三層構造になっている。最も内側にあるムチン層は、水層を眼の表面にとどまらせる接着剤の役割をする。目やにの主成分はムチンである。

角膜と水層を密着させる役割があり、外層の油膜は、水層の蒸発を防ぐ役割がある。ドライアイで問題となるのは、油層減少により涙蒸発量が増加した結果である。油層は、眼瞼縁にあるマイボーム腺で作られるが、油の性状が変化すると固まりやすくなり、分泌量が減少する。これをマイボーム腺梗塞とよぶ。


2.ドライアイの治療
 
マイボーム腺の分泌を回復させることが目標。眼瞼マッサージは、油が固まっていると効果がない。目やに状に固まったマイボーム腺を溶かすには、眼瞼を5分間以上40℃程度に温める必要がある。顔全体ではなく、目周囲のみ温めたいと言う場合、赤外線や遠赤外線は向かず、マイクロウェーブそもそも目の照射に禁忌である。ポリ袋に包んだ蒸しタオルを瞼の上にあてる方法がポピュラーだが保温持続時間が短くなってしまうのではないか。ホットアイマスクという製品(1000円~3000円)も市販している。ちなみに眼科で処方されるドライアイの点眼薬の主成分はヒアルロン酸である。


3.くるみ灸

東洋医学らしい治療としては、クルミ灸がある。クルミにはいくつかの種類があるが、殻が固くで厚い鬼クルミが適している。鬼グルミはわが国で自生しているクルミで、古くから食用とされてきた。味は良いのだが、殻が厚く固いので、専用のくるみ割り器具が必要になる。

鬼クルミを半分に割り、身を取り出す。鬼クルミの殻を、閉眼した瞼の上に置く。その上に小指頭大の粗悪モグサをのせ、点火する。クルミを少し濡らすとモグサが付きやすい。しかしクルミ灸は、被験者が少々顔を動かした場合、クルミも火のついた粗悪モグサも転がってしまうという大きな欠点がある。

中国では下写真のようなメガネ型の道具を使う者もいるらしい。メガネのレンズに相当する部分にクルミ殻を固定、その上には針金がとび出ていて、そこに棒灸欠片を串差しにして燃やすというもの。このスタイルであれば座位で治療もできる。見かけは不格好であるが。

 

このクルミ灸めがねには、進化形があって、モグサを取り付ける部分が金属メッシュのカゴになっている。これならば落下する危険性はない。アマゾンでも入手できる。

 

 

 

 


細絡刺絡の臨床的意義

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1.細絡の病態生理
  
   

上の図は「せきや針灸院」HPに載っていたものだが、細絡について明快に示されており感心したものである。動脈→小動脈→毛細血管→小静脈→静脈と血液が巡行する際、毛細血管を流れる血流量が増えたり、毛細血管が狭くなっている部はあると毛細血管のバイパスが形成される。その血流量は一定以上に増加すると視認できるまで太くなる。細絡は局所静脈圧の上昇を意味するので、痛みを誘発する。この状況で、細絡刺絡をすれば静脈圧が減少し、治癒機転が働く。

 

2.バトソン Batson静脈叢(傍脊椎静脈叢)
 
細絡があれば刺絡することを考えるのだが、症状部に細絡があるとは限らない。たとえば井穴刺絡は、指先に症状があるわけでなく、四肢の血行を改善することがある。これはグロムス機構を考えることで理解できる。しかし腰痛に対する委中刺絡は、昔から知られている定番治療であるが、その治効理論は説明できていない。

しかしバトソン静脈叢を考えることで説明できるとする見解がある。(上馬場和夫「コロナを乗り越える温故知新の智恵」第12会医鍼薬地域連携研究会⑨ 2020.5.4)
バトソン静脈叢とは、椎体の周囲および脊柱管内に存在する傍脊椎静脈叢ネットワークのことで、これらは、体幹や四肢にある多くの静脈と交流している。弁構造を持たないので静脈血を貯留し、血流は遅く鬱滞しやすい。その流れる方向は腹腔や胸腔内圧の変化により変化する。

臓器組織が慢性炎症や線維化などで静脈がうっ血すると、バトソン静脈叢の当該レベルもうっ血が強くなり、皮静脈の鬱血(=細絡)として出現するという。当該レベルの背部から、細絡刺絡あるいは皮膚刺絡をすると、うっ血した臓器の静脈圧も軽減し、末梢循環が促進され、臓器の機能も改善するという機序が働くとされる。腰痛時の上仙穴 細絡からの刺絡、それに腰痛時の委中からの刺絡はバトソン静脈叢に作用したという仮説が生まれる。

 

現代医療でのバトソン静脈叢に対する注目理由は、癌の血行性転移に関与していると考えられている点にある。この静脈叢を介すると、静脈系のフィルターとなる肝や肺を通らずに直接骨組織に到達する。とくに骨盤内蔵器から、最近感染や悪性腫瘍の椎体への転移の経路となるからである。

クルミ灸のための加工と試行錯誤 ver.1.2

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眼を患っている患者が来院した。眼ということで鬼クルミを使ったクルミ灸についての話をした。すると次週、鬼クルミを1袋(50個くらい)持ってきて、私に分けていただけるとのことだった。

 

1.クルミの殻を割る 

クルミにはいくつかの品種がある。一般に市販されているのは西洋クルミ(ウオールナッツ)といい、大きく殻が薄く中身が大きい。しかし鬼クルミは日本固有のもので山野に自生するという。殻が非常に硬いのが特徴。殻を割らないことにはクルミ灸ができない。

ペンチで割ろうとしたがびくともしない。隙間にカッターを入れて割ろうとしたがダメで、のこぎりで分断しようと思っても刃痕さえ残せなかった。カナヅチで叩いてみても、勢い余ってあらぬ方向に跳んでいく。どうしたらよいのかネットで調べてみた。<一晩水に浸し、干し、煎る。すると殻に隙間がでいるので、マイナスドライバーでこじ開けるとよい>ということが書かれていた。そこで一晩水に浸し、天日干しにして丸一日乾かし、フライパンで煎ってみた。

①一晩水に浸し、陰干ししている最中。

②フライパンで煎る。しかしコンロには加熱防止の安全装置がついているので、ある程度煎ると火は消えてしまう事態.。消えてはつけるを数回繰り返した。

③フライパンから出した直後も、殻は固く閉じたまま。
しかし10分ほど経ち、自然に冷えたためか、どの殻も少々隙間ができていた。
④そこにマイナスドライバーを入れ、こじ開け、何とか殻を二つに分断できた。

⑤爪楊枝で実を掘り出し、薄皮を剥いで完成。それにしても鬼クルミの殻は分厚い。
実を味わうまでには量が少なすぎた。

 

2.くるみ灸の試行

どのような温度感なのか、まずは自分の左手三里に試行してみることにした。
クルミ殻の上にアラビアノリを塗り、直径2㎝ほどの球形にまとめた粗悪モグサを乗せ点火した。アラビアノリを塗ったのは、モグサが転がっては大変だと思ったため。
だが数十秒しても何の温感も得られず燃焼終了。2壮目は直径2.5㎝にして再度実施。わずかに温感を得られた程度に終わった。

そこで棒灸を1/8にカットしたもの(これは普段は箱灸で使ってい)を、クルミ灸の上に置いて点火してみた。すると、ぬるい風呂程度の温感は得られた。気持ち良いが、物足りなさを感じた。そもそも、クリミ灸に興味をもったのは、ドライアイの治療で、目やに状に固まったマイボーム腺を溶かすには、眼瞼を5分間以上40℃程度に温める必要があるとの記事を発見したことに始まった。もっと温度を高くするには、殻の薄い西洋クルミを使う方が良いかもしれない。

 

3.クルミ灸をあきらめ、蒸しタオル温罨法に

冒頭の方とは違う眼疾患の患者が来院した、主訴は顕著な視力低下、視野狭窄、夜盲。従来から上下の眼窩内刺針で置鍼30分実施していた。もっと効果的な治療をと考え、眼の温熱治療を併用しようと思った。ただしクルミ灸の温熱作用は弱く、本患者のような置鍼30分間も温めることはできない。

そこで、月並みな方法だが、蒸しタオルで温めることを思いついた置鍼は寸6#2の針を使っているので、瞼の上に蒸しタオルを置いても、鍼はしなやかに傾くので支障がなかった。とりあえず次のように行った。施術後、患者に印象を問うと、なかなか気持ち良かったようで、”使える方法”だと思った。

①タオルを適度に水に濡らし、滴れないように手で絞し、薄いビニール袋で包む。
②500W電子レンジで2分加熱。
③手で持てないほど熱くなったので、タオルを広げて十数秒放置、適温であることを確認後、患者の瞼の上にペーパータオルを敷き、その上を蒸しタオルで覆う。
④10分ほど様子をみたが、あまり温度は下がっていなかったので、さらに10分置鍼を継続。
⑤20分置くと蒸しタオルの温度の低下が目立ったので、500W電子レンジで1分加熱し、再度蒸しタオルを10分間実施。(合計30分間の置鍼)

 

4.蒸しタオルを加熱して温める際の妥当なパラメーターとは

蒸しタオルをどの程度温めたらよいか、また放置した場合の冷え具合はどの程度かを勘で行ったが、それが妥当なのかを検証してみることにした。
蒸しタオルの温度は、タオル内に温度計を突っ込んで測定したので、実際に患者に加える温度は少し低くなり、タオルと瞼間にはペーパータオルを敷いているのでさらに温度は低く感じるだろう。

蒸しタオルを袋で包み、温度計を入れて温度を観察

 

タオルを水で濡らした直後の温度は15℃だった。これを500wレンジで2分間加熱すると72℃となった。これは直接手で持てないほどの温度である。高温すぎるので十数秒間広げるようにして冷まし、袋に入れてて温度変化を観察した。40℃以上の熱を保持できるのは、上表では15~20分となったが、実際に患者に加わる熱を考えれば15分程度だろう。今度はレンジで1分間加熱すると、驚くことに先ほどと同じ温度になった。
以上の結果から、今回試行した患者への蒸しタオル温熱の設定数値がは、ほぼ正しかったことが検証された。

 

 

 

 

 

 

 

令和5年 新年会のお知らせ

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 これまで大勢の先生にご参加いただきました奮起の会も第6回も無事終了できました。
つきましては以下の要領で< 令和5年新年会>を行います。
これまでの奮起のに参加いただいた先生は勿論、どなたでもご参加ください。新年の抱負など、未来志向で語りましょう。

宜しければ、皆様お誘い合わせの上ご参加ください。

1.月日 令和5年1月22日(日曜)
2.時間 午後6時~
3.場所 居酒屋「庄や」
国立駅南口徒歩3分   
国立市東1-15-22、1F 
電話042(576)6910

4.会費:一人5000円(当日実費支払い)
5.申込み締め切り:1月12日(木曜)午後6時 
6.参加申込み方法:以下にメールまたは電話でご予約ください。
発起人 似田敦
電話  045(576)4418
Eメール nitadakai825@jcom.zaq.ne.jp

歯周病に対する女膝の灸について ver.1.5

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1.現代の歯周病の診療

1)歯周炎の原因
   
①老化:30才を過ぎれば、誰でも多少は歯周炎は生じている。歯周炎の最大要因は老化。他に、強く咬む習慣など。

②糖尿病:糖尿病では口内の血流も悪くなるので唾液の分泌も減り、歯垢がつきやすくなるで、細菌易感染から歯周病を悪化させやすい。歯周病になると歯周ポケット内の歯垢部細菌を白血球が退治しようと集合する。集まってくるが、この時、白血球が歯周病菌の出す毒素に触れることでTNF―αと呼ばれる物質を放出する。TNF―αには血液中のインスリンの働きを妨げてしまう作用がある。歯周病の治療をすると血糖値も少し改善する。

2)歯周炎の症状

歯肉のむずがゆさ、歯肉縁の発赤と出血、唾液粘稠性の変化、口臭といった症状を生ずる。   
※歯垢(=プラーク)が歯の表面ではなく歯周ポケットにできると細菌にとって格好の住み家となる。
     歯槽膿漏の治療として歯石除去は基本である。歯石とは歯垢が石灰化して固くなったもの。

3)歯科での歯周病の治療と予防
  
①歯磨きブラッシングにより歯肉マッサージをすること。歯ブラシすると血が出るところ、押圧して痛みがあるところを重点的にラッシングする。毎日行うことで、歯茎を引き締め、歯磨き時に出血しにくくなる。歯磨きは、歯周病の原因菌数を減らすことが目的であって、原因菌を完全に消し去ることできず、再発を繰り返しやすい。効果不十分であれば外科処置となる。
  
②歯石を取り除く。歯垢(プラーク)は放置しておくと次第に硬くなり硬い歯石になる。歯を取り除くには、デンタルブラシやデンタルフロス(フロスとは細い糸の集合体)を使い、歯磨きブラシだけではとれない歯間の歯苔を除去する。
  
③糖尿病があれば、その治療を行うことが歯周炎の治療にもなる。


2.歯周病に対する鍼灸治療

1)江戸時代以前の歯科治療方針

①耐え難い歯痛では抜歯

ただし当時は麻酔などなかったから、冷やしたり痛み止めの漢方薬を虫歯に塗布したりして何とか我慢した。どうしても我慢できないほどの痛みは抜歯する他なかった(当然無麻酔で)。ただし徹底的に我慢すると歯や神経が崩壊して痛みはなくなるという。


②歯茎の腫れや出血では歯肉を切って血や膿を出した  

江戸時代の歯槽膿漏の治療法は、腫れた歯肉に鍼を刺し、膿を出す孔を開けることで鎮痛させたという記録がある。孔から膿を逃がすことが治療の一つとして選択された。

江戸時代以前、「おでき」は熱毒が体内にとどまり、外に逃がせない状態と考えられた。外に出すには皮膚に鍼で孔を開けたり打膿灸で膿ませて膿を出すことだった。桜井戸の灸(面疔に合谷の多壮灸)というのは、顔面にできたオデキの毒を合谷から排膿させるという治療原理である。これは桜井戸の灸に限らず、打膿灸の治効原理になる。


③虫歯地蔵への参拝

江戸時代以前には、虫歯の痛みをなくしてもらおうと、虫歯地蔵も各地に建てられた。煎った大豆を供えて平癒を祈ったという。煎ると殻が割れるが、その割れ目から歯中に入った虫を外に外に逃がそうとする願いがあったと思われた。

私は令和3年の5月初旬に、奥多摩にハイキングに出かけたが、旧五日市街道沿いに虫歯地蔵尊を発見して少々驚いた。質素な石仏だった。


 

3.現代の歯科の鍼灸治療

1)歯肉に対する直接刺針

歯周炎に対する現代歯科での治療は、歯石の除去と自宅での歯ブラシでの入念な歯肉マッサージと歯間ブラシの使用であって、現代に至っても特効的な治療方法があるわけでない。歯肉に物理的刺激を与えるという意味で歯肉に対する鍼灸局所治療は、次のように行う。

①どこが腫れているのかを患者に聴取、その圧痛部を患者自身の指頭で指示してもらう。術者はその圧痛を確認後、1番針を使って圧痛点から数本直刺し、歯肉部に刺入。歯肉の血行促進を目的に単刺するか、雀啄により患部に軽く響かせた後、置針するなどの施術を行うのが普通である。圧痛点は口裂の上下一横指の頬部や下顎部に出現する。
下図は、木下晴都「最新鍼灸治療学」からの転用だが、上歯の反応点は外鼻孔の高さであり。下歯の反応点はもっと顎に近い部位になるだろう。

 

 

 

2)歯周炎に対する女膝の灸

①女膝の位置と灸治法
歯周病に対する特効穴としては、女膝(じょしつ)が知られている。女膝は女室と表記することもある。このツボの位置は、アキレス腱停止部にあり、歯茎との関係は不明だが、形が似ているものは何かしらの関係性があるとする東洋医学的整体観から考察すると次のことはいえるだろう。踵骨を後からみると、前歯と似た形をしている。歯は上半分が歯肉から出て、下半分は歯肉に埋まっている。その境界の歯茎から血や膿がでるのが歯槽膿漏ならば、その境界部分こそ患部であり、位置関係を踵骨に当てはめれば、女膝に相当することになるのではないだろうか。

江戸後期の浅井惟亨著『名家灸選』の中に女膝の記載がみられる。現代文に訳すと次の通り。

骨槽風(=歯槽膿漏)を治する法:足の後かかとの赤白肉の際で、女膝とよばれているところ。左右に各50壮灸すると、一ヵ月にして効き目がある。かって歯茎に孔があき、膿血がだらだらとたれていた者を救った経験がある。
 
山本俊男「鍼灸特効穴一発療法」源草社 1999.5)では次のような記載がみられる。
女膝施灸時の体位は、患者を伏臥位にさせ、足関節を最大限に底屈、踵後方にできる皺あたりを指で探ると、踵骨の上際中央付近に小さな凹みがあって、症状を持った患者であれば、顕著な圧痛があるので、ここが灸点になる。毎日10壮ずつ施灸すると炎症が治まってくる。
 
この文章から女膝の位置を推定したのが下図である。伏臥位で足関節を底屈すると、踵骨後部にる凸部やアキレス腱停止部である踵骨隆起が触知しやすくなる。

②女膝の名称

「膝」とは今日でいう膝関節に留まらず、折り畳んだ部分を「襞(ひだ)」とよびどの関節であっても膝とよんだという説が有力である(ネット「語源辞典」より)。女膝穴は足関節部にあるが、ここを膝と呼んでも差し支えない。

歯周病は、女性の方が男性よりもかかりやすい。掛かりやすい。その原因として考えられているのが、プロゲステロンやエストロゲンなどの女性ホルモンである。女性ホルモンには、歯茎の腫れや出血を起こしやすくする性質がある。女性ホルモンの分泌が増えるのは、初潮を迎えた頃や妊娠中で、ホルモンバランスが乱れるという点からは更年期も歯周病にありやすい。特に更年期は、口内での唾液の分泌量が低下して口の中が乾きやすくなるので、歯周病の進行がより一層進みやすくなる。以上のことからとくに「女」膝という名称になったと考察した。

正座のことを女膝ということがあるという。男膝との熟語はないようだが、正座以外の楽な姿勢で座ることだろう。正座姿勢では、足関節は強く底屈している状態なので、女膝穴の取穴に適しているといえるのではないか。


③女膝が水毒を治す

女膝は水毒を治すとされる。歯茎が腫れている状態を浮腫と捉えると、女膝の適応症と考えることもできる。
肩が凝ると歯が浮く感じがする者がいるが、頸肩のコリの治療が歯肉に対する治療に関係する場合がある。この場合は肩井や天柱などに対して鍼灸を行う。しかし頭蓋骨後面と踵骨後面を相似形と考え、天柱の代わりとして崑崙に施術するという考え方もある。崑崙と女膝は非常に近い部位にある。

<コメント> 桂蓮アップルバウム(2020.11.11)初めてコメントします。アメリカ住まいのケイレン・アップルバウムと申します。 女膝について初めて知りました。 それに歯茎との関連性も初めて知って,そう言えば、歯茎に炎症が会った時、 足のアキレス腱辺りが冷たくなり、いくら温めても冷気がしたことがありました。 それで、足の裏のマッサージをしたら気がつかないうちに口内炎も起こらなくなりました。 私はその関連性については全く分からずにすぎてしまいましたが、今この記事を読んで納得しました。 記事を全部読むことを目指して今日から頑張ります。

 

自動アルコールディスペンサーを購入

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当院では以前から手の消毒には、塩化ベンザルニコニウム10%水溶液の入ったプッシュ式の手掌消毒器を使ってきた。片手でレバーを押し、反対の手で消毒液を受けた後、両手を擦り合わせる方法。手をかざすと消毒液が噴霧する自動式に興味はあったが、30年前頃は約十万円と高価であり、形も大きいので購入をためらっていた。しかし昨今、新型コロナウィルスの流行にともない、大量生産しているためか、自動式の器械が数千円台で入手できるようになり、当院でも購入を検討することにした。


購入すべき自動アルコールハンドディスペンサーの条件

①現在使っているのは手動プッシュ式「ハンドサニタイザーS」で、百均のワイヤーカゴ(縦横とも9.7×9.7㎝)に入れ、壁に取り付けている。このカゴを引き続き使えること。
②なるべく安価であること。


以上の条件で選んだのが「TISOUアルコール消毒噴霧器」だった。ユーチューブ動画を見ても評価は悪くなかった。定価2,399円を1,580 円(消費税、送料込)で、アイホーム販売から購入した。2日後に製品到着、しかし電池を入れて作動させてみても、まったく反応しなかった。どうしたわけかと思い、器械の電池を接触させる金属パーツを見ると変に曲がっていて、これでは電池と接触不良になるわけだと思った。このクオリティーなので中華製は心配になる。ペンチでこのパーツの形を直し電源ボタンを押すと、今度は正常に作動した。

TISOUアルコール消毒噴霧器の直径は、「ハンドサニタイザーS」と同じだったので、以前の設置場所にきちんと納まった。本機は1回の噴霧量が「多」と「少」の2段階で、「少」にすると丁度良い量が出てくる。不良品ではあったが自分で修理することができたので、買って後悔しない製品であった。

 

百均のワイヤー性の容器(9.7×9.7㎝)
壁に取りつけて使用している。右上にある黒っぽいボトルは、カッサオイルで瘀血用と水滞用の2本。

 


「ハンドサニタイザーS」を使っていた。

 

「TISOUアルコール消毒噴霧器」を設置

 

手をかざし、噴霧させたところ

 

頭痛・眼精疲労時の太陽穴反応と刺針手技 ver,1.1

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1.太陽穴の名称
 
中国語でコメカミのことを太陽という。太陽穴との名称理由は不明だが、屋外で最も太陽に照らされる部位と考えたのではなだろうか(頭部は頭髪があるから陽は直接は当たらない)。ちなみにコメカミのことを英語ではテンプル temple という。これはお寺の temple とスペルも同じなのだが、外来語を英訳する際にたまたま同じ綴りになってしまった訳で両者間に関係はない。 


2.太陽穴の取穴

こめかみ部で、外眼角と眉毛外端を結んだ線の 中点から後 外方に約1寸の陥凹部にとる。頬骨の外縁で側頭筋前方になる。



3.太陽の局所解剖

太陽穴のある側頭筋は咀嚼筋の一つである。側頭筋の機能は下顎骨を挙上させ、食物を咀嚼することである。側頭筋は扇形に広がった形をしており、起始は側頭骨外周に、停止は下顎骨筋突起にある。力学的観点から、側頭筋は後方(緑矢印)に比べて太陽穴のある前方(赤矢印)に強い収縮力が起こることが理解できる。すなわち太陽は、側頭筋の筋収縮が起こりやすい部だといえよう。



4.緊張性頭痛と太陽穴

緊張性頭痛のタイプには、「きつい帽子をかぶっている」タイプと「頭に石が載っている」タイプの2種類あり、主に前者は側頭筋、後者は後頭筋由来だとされる。太陽の圧痛反応は、きつい帽子をかぶっているタイプに起こりやすい。トラベルによれば本筋のトリガーポイントが活性化すれば、上歯への放散痛が生じたり側頭筋~眉上の前頭筋部の痛みが生ずることがあると記している。ただし側頭筋緊張が眼部へ放散痛をもたらさないことに留意すべきである。
このような場合、コメカミへ自分の橈骨茎状突起を押しつけならがグルグル回すと症状緩和に効果ある。指先で押圧してグルグル回すのではポイントが限定されるぎるようだ。


5.緊張性頭痛と眼精疲労の相関関係

動物は敵と戦う手段として<噛みつき>攻撃を行う。人間でもその本能が残っていて、ストレスがあると無意識的に強く噛みしめることがある。ゆえにストレスが強いと、無意識下で咀嚼閉口筋である側頭筋緊張が起こりやすい。

また頭痛と眼精疲労は同時に起きやすいことは経験的にしられているが、両者には因果関係がない。ただしストレス→頸肩コリ→眼精疲労という関連はある。前述したようにストレスは側頭筋緊張→緊張性頭痛との流れも平行して起こるので、側頭筋緊張と眼精疲労は同時に起こりやすい。

なお眼精疲労の一因としてドライアイがあり、ドライアイの原因として最も多いのは、ディスプレーを集中して見続けることによりまばたき回数の減少にあるとされている。

 


6.側頭筋に対する運動針法

過収縮した筋を緩めるには、運動針が効果的なことが知られている。そのため側頭筋の圧痛硬結をさぐり、反応点に#2~#3程度で刺針。刺針した状態で、強く咬む動作を数回行わせるようにする。
これで満足すべき効果がみられない場合、タオル等を口に噛ませた状態で刺針。刺針したままタオルを強く噛む動作を数回行わせるとよい。

 

網膜色素変性症に対する中国での治療と針灸治験例(43歳男性 自営業) ver.1.3

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1.病名:網膜色素変性症による視力低下、視野狭窄、夜盲

2.現病歴

小5の時に上記診断がついた。小学生時代は何とか健常者と同じ学校に通学できた。以来、症状はゆっくり進行していたが最近は進行停止している。現在視力は0.06。
これまで日本各地の鍼灸院に通っている。最も効果があったのは中国の先生の治療だったが、その先生は鍼灸治療自体を引退してしまった。当針灸院にはブログを見て来院。職業は父親と共に自営業をしている。

 

3.網膜色素変性症の概略

眼科疾患の一つで、成人中途失明の3大原因の一つ。数千人に一人の頻度で起こるとされている。盲学校ではこの病気の生徒が一番多い。進行性眼科疾患で、遺伝的要因が大きい。
始めは桿体細胞(明暗に関係する細胞)が機能しなくなり、徐々に錐体細胞(視力や色に関係する細胞)も機能しなくなる。
まず夜盲→次に視野狭窄(横から飛び出してきた自転車を避けきれない、視野外にある茶椀をひっくりかえす)→発病20~30年後に失明
※改めて調査すると60歳以上で、7割の者が視力0.1以上を保っている。両眼とも失明(光も感じない)者は1%

 

4.網膜色素変性症に対する中国の鍼灸治療
 
1)昭和62年8月の新聞記事で、中国における網膜色素変性症の針灸治療の驚異的効果が紹介された。網膜色素変性症の患者が針や漢方薬による5ヵ月間の治療で、視力0.3が0.8となり、5°の求心性狭窄だった視野角が55°に広がったという。

2)これに対する日本医事新報(昭63.3.12)の質疑で次のような回答があった。中国における治療の前後にこの患者にあたった複数の医師によれば、「視力は治療前後で不変、治療後の検査で耳側に若干の視野拡大を認めた」とする報告もある。本疾患の本態が、視細胞外節に始まる網膜組織の変性、崩壊、消失であることを考えると、一旦変性に陥った細胞が再生することはありえず、視力が改善し視野が格段と拡大するような治療法は現在はありえない、と。


3)この日本医事新報の回答を読むと、回答者の見解が正しく、新聞記事の情報が眉唾ものに思えてくる。なぜなら網膜色素変性症は不治の病だというのが定説なのだから。
私もそのように認識し、だから中国の発表は信用できないのだと思った。しかし最近、当院通院中の網膜色素変性症の女性患者から、牟田口裕之著「暗闇からの生還 網膜色素変性症とたたかう」(自費出版)1991.11.19発行 をお借りできた。
非常に興味深い内容であり、中国での牟田口氏への治療が本当に効果があった事実だけでなく、社会的反響への戸惑いまで書かれている。すでに絶版でもあり、内容をかいつまんで紹介したい。


5.網膜色素変性症患者の中国での針治療内容  自費出版 
「暗闇からの生還」難病網膜色素変性症とたたかう 牟田口裕之著



1)著者の牟田口浩之氏1931年生(書店主)は昭和51年の40才の時に自分の目の異常に気づいた。野球をしていて外野フライを捕ろうとした際、球が消えるように見えなくなった。市内の眼科を受診したところ、網膜色素変性症だと診断された。 眼底を覗くと網膜変性が分かるので病名を出すのに誤診はまず起こらないという。50才を過ぎたあたりから進行は加速した。起床時は眼がかすみ、しばらくは何も見えない状態になった。
58才の時には、視野は左右5°まで狭窄が進行(健常者は左右それぞれ90°、上下は60~70°)。視力は右0.06 左0.08となった。視野5°というのは、竹筒を覗いて見ているという情況で歩行も困難になる。定期的に通院している医師からは、もう来なくてよいという話になり、「外国に行っても同じことで、成果は出ていない。ただし中国のことは分からないが・・・」と発言した。これをきっかけとして中国で治療する道もあるかもしれないと思い、一縷の望みをつないだ。

2)牟田口氏は静岡県の沼津市に住んでいるが、中国の岳陽市と友好都市の関係を結んでいた。山岳陽市に児童遊園地をつくろうという計画があり、日本の担当者にお願いして中国の病院探しをお願いした。山岳陽市の市長の計らいで、長沙の張懐安医師の紹介して下さった。張先生は、長沙市湖南中医学院第一付属医院眼科医師で、中国国内でも眼科の中医として有名な先生だった。

1987年(昭和62年)、眼の治療のため退職し3月から張先生の治療を開始した。牟田口氏はホテルに長期宿泊し、先生方がホテルに往診治療をするという形となった。
滞在後1ヶ月半して視力や視野に好転の兆しが現れ、計5ヶ月間治療を継続した。
治療内容は、鍼灸、推拿、漢方薬、薬膳、太極拳の総合的ものだった。
5ヶ月間の経過のなかで治療穴は次のように変わっていった。

①1ヶ月目:曲池、足三里
②2ヶ月目より:陽谿、霊道、外関あるいは支溝、陰陵泉、三陰交、懸鐘、脾兪、腎兪、肝兪
  5ヶ月間を通して行ったのは梅花針で以下の部位を軽く叩くこと
  眼の周り、頭項部から耳にかけて両側に下る、頭頂部中央から下って風池を充分に叩く、背部両側を上から下へ
③帰国後の医師による治療穴:睛明、承泣、球後、百会、風池、天柱、頭維、合谷、光明

5ヶ月間の中医治療を受け、次のように変化した。
視力 左0.08 →0,4   右0.06→0.6
視野 5°→50~55°
なお5ヶ月間の費用は治療費と滞在費を含め、合計200万円だった。

 

3)帰国後の反響
帰国後1ヶ月、著者の変貌ぶりが周囲の人々から伝わり、記者会見を開くまでになった。それはテレビでも放映されたことで、その晩からら問い合わせの電話が殺到することとなった。それは私も中国で治療を受けてみたいというものもあったが、網膜色素変性症は治らないのだから、あなたの話は信じられないというものが大半だった。
その翌朝の朝刊には「中国の針と漢方薬で5ヶ月で回復」もいった記事が載った。あまりにも反響が大きく、詳しい話を聴きたい者が多いことから、沼津市民センターで3時間の説明会を開くことにした。すると800名の人が集まり会場に入りきれない情況にもなった。

本症が治る筈のない病気であって、もし改善したというのであれば、それは網膜色素変性症ではなかったのではないかと考えたのが東大病院の医師で、牟田口氏はわざわざ東大に出向き、何枚も眼底写真を撮られたあげく、やはり網膜色素変性症で間違いないことが判明した。

網膜色素変性症の日本人患者が改善したことが日本で知られるようになったことが中国にも伝わり、中国の病院にも千通を超えるほど届くようなった。観光ビザで中国の病院に直接出向く人も出てきた。日本人相手だとすると中国人側も治療費を値上げし、400万円,600万円、800万円とはね上がっていった。

医師が治らないといった病気が、中医治療をしたからといって治るわけがないといった日本の医師の感情。また中国側の日本人を手玉にとった商魂。この2つが絡み合い、事態はどうかるかと思えた。すると岡崎嘉平太氏(実業家で戦後全日空をはじめ多くの企業を造った)の事務所から連絡があった。この先生の力が絶大で、中国医師を招聘して講演会、日本から中国へ円滑に患者を送る手筈などについて協力する旨の返事を頂戴することができた。

4)中国に5ヶ月滞在するとなれば費用もかさんだものになる。もう少し安い費用で国内で治療ができないものだろうか。この切実な悩みに対して、群馬中国医療研究協会(略称は群馬中医研)が対応を示した。新しい診療病棟が完成し、これまで使っていた古い診療所を合宿治療所として転用できるようになった。20名定員で、網膜色素変性症患者を3ヶ月間ほど合宿させる。費用は色々含めても1日5千円を超えない。この施設の治療には、クルミ灸も行った。針がねでメガネの枠をつくり、クルミの殻をはめ込み、上から温灸モグサで温める、なおこのクルミの殻は、クコの実や菊花を浸した液に一昼夜つけ込んだもの。

5)中国に患者を送り続けて4年目。この間、個人的なツテを頼って行った者も含めると、すでに500名近い人数にのぼっている。

長沙の湖南中医学員第一附属医院から送られてきた28名分の治療成績は、視力・視野ともかなり改善2名、視力好転2名、視野好転6名。多少効果あった者は視力で7名、視野で9名だった。
岳陽中医医院の41名の治療成績は、総合有効率81%でそのうち顕著な有効率は51%だった。たとえば視野が50°以上に広がった者2名、30°以上に広がった者2名となった。
北京広安医院での治療成績は、治療終了した者全員71名にアンケート調査をした。回答者は54名(回収率76%)。その結果、視力改善は12名(22%)、視野改善は
17名(33%)。中国の病院も最初のうちは治療成績にばらつきがあったが、回を重ねるごとに治療成績も似たようになりどこも向上していた。

厳しくみて快方に向かっている人は30%を越え、進行が止まった人まで含めると50~60%が、「治療を受けてよかった」と感じている。
それでも日本の眼科医は、以前としてこの現実を認めようとしていない。


6.当院での鍼灸治療

1)患者の要望に応える

この患者は、いろいろな鍼灸治療を試みており、どの治療が最も効果的だったかを自分自身知っているので、どういう施術を希望するか聴取し、次の回答を得た。
①針は中国鍼のような太い針がよい
②眼窩内刺針で、とくに睛明あたりからズンとくるような響きが欲しい
③眼窩内刺針ではたまに眼瞼に内出血することがあるが、自分は針先が血管に当たったことが分かる。その感覚があった際、伝えるのでそれ以上深く入れないでほしい。
⑤眼窩内刺針以外には、頭頂部に針が欲しい。太陽・頭維・天柱・風池の刺針はとくに効果を感じない。

2)睛明付近眼窩内刺針

①仰臥位。眼窩の骨際と眼球の境に指を曲げて按圧しつつ、眼窩内縁の硬結を探る。発見した反応(睛明~上睛明部位となることが多い)点から2番針(ときに4番針)を用い、2本程度刺入、内部で緊張した筋内に針先を入れる。深度3㎝前後。左右計4本。30分置針。10分毎に眼窩内刺針を雀啄刺激。置針中、時々自分で黒目をぐるぐると動かす運動を行うよう指示。なお使用鍼では中国鍼も使ってみたが、刺痛が強いので和針に切り換えた。
睛明穴の深部には、上眼腋裂があり、ここから眼球を動かす役割のある神経が伸びている。睛明のすぐ上の上睛明穴の深部には視神経孔があり、これは視力そのものをつかさどる神経なので、視力と最も関係が深い。

②百会あたり数本30分置針。
③坐位にて上天柱、下風池手技針 
④他の部位は施術せず

 

3)球後刺針

球後とは眼球の後側という意味で、文字通り眼窩下縁で、深部に下眼窩裂があるあたりを取穴する。ただし下眼窩裂は三叉神経第2枝が正円孔を出て眼窩下孔(=四白穴)に向かう途中にすぎないので、臨床的意味はあまりないと思われた。(四白である眼窩下孔を刺入点として外眼角方向に刺入すると、下眼窩裂に達するが)
むしろ眼球後部中央に広がる毛様体神経節に影響を与えているのではないだろうか。内眼病治療穴として中国で最も頻用されている。

 

4)治療効果と感想

睛明や上睛明には解剖学的な特異性があるとは思えないが、誰しも眼の疲れを感じた時、鼻根をつまむように内眼角を押圧する癖がある。この深部にあるのは内直筋で、眼球を内転させる機能、つまり左右の眼球を鼻側に寄せて近見視しすぎるデスクワークのような作業と関係しているのかもしれない。

上記の当院の治療を行うと、毎回施術後に視力向上するも、その効果は当日止まりといった状況である。ただしこの患者は、片道1時間の通院時間にもかかわらず、週1回ですでに6ヶ月通院を続けていることを勘案すると、この治療に何らかの長所があると感じているらしい。

※眼窩内刺針については、20210年1月8日発表「眼窩内刺針が刺激対象とするもの ver.2.2」ブログ参照のこと。


私の行っている眼窩内刺針の方法 ver.1.4

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1.はじめに

以前私は、「 眼窩内刺針が刺激対象とするもの Ver.2.12015-08-19 」と題したブログを発表した。

https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/e15b8546ecd13a7f5c065a1709f3472c

この記事を読んだとして、眼精疲労を主訴とする患者が来院した。眼精疲労の来院患者は少なくないが、その多くは頸コリや肩コリも同時に訴えていたり、精神的ストレスがあったりしている。主訴が眼精疲労のみを訴える患者は珍しいことであった。

 

2.眼精疲労症例(21才♂、学生)

数年前から目が疲れる、とくに左右に眼球を動かすと目頭が疲れるとのこと。近くの針灸院に行って眼窩内刺針をやってほしいと頼んだが断られ、私のブログを見て当院来院した。眼窩内刺針を希望していた。眼瞼に内出血する可能性があることを理解してもらった後、眼窩内刺針その他を行ったところ、患者は、これまでにない効果があったと述べた。
実際の治療点は眼窩内刺針の他に頭維刺針、上天柱刺針を行ったが、ここでは眼窩内刺針の技法について記してみたい。


3.眼窩内刺針の技法

眼窩内刺針には上眼窩内刺針と下眼窩内刺針があり、上眼窩内刺針の方が上眼窩と眼球の間が広いので刺針しやすい。眼瞼の内出血を防ぐためと、眼球に過多な刺激を与えぬ用心のため、寸6#1などの細い針を使うことが多い。
細い針を使うこともあって、上眼窩内刺針と下眼窩内刺針とも響きはないのが普通である。眼瞼の内出血を避けるために雀啄などの手技針はせず、単刺や置針をする。

1)睛明

疲れ目に際しては、母指と示指で両方の目頭のやや上方をつまむように押圧する動作を自然に行いがちである。その部位こそが眼精疲労の刺針点として相応しいだろうと考えてみた。患者を仰臥位にさせ、寸6#2にて内眼角部のやや上方に睛明穴をとり、ゆっくり直刺すると2㎝ほど刺入すると硬いものに命中すると同時に眼に響きを得ることができた。別の眼精疲労患者対して上睛明刺針を行てみても、やはり2㎝刺入で硬いものあたると同時に眼球に響きを得ることができた。結構、再現性がある。
睛明の深部には上眼窩裂がある。ここから三叉神経第1枝(知覚)と眼球を動かす役割のある動眼・滑車・外転神経が出る。 しかし視力機能とは関係がない。
最近、黄斑変性の患者を治療する機会を得た。いろいろな鍼灸院に通院経験がある方なので、患者的にどのような眼窩針が効果あるかを身をもって知っているようだった。その患者が言うには、上睛明より数ミリ外方を刺入点にした方が、眼に響くというこなので、新たな治療点としてこの部位に深刺すると、眼に響くということで満足したようだった。眼に響くというのは三叉神経第1枝を刺激したということだろう。

睛明は、掃骨針法で知られる小山曲泉が記しているように、「眼窩内に指を折り曲げて按圧した際、患者に快痛が得られる部が、その患者に適した治療点で、この穴に3~5番で圧痛方向に刺針して軽く雀啄すようにすると、快痛の響きがある」ということである。


2)上睛明

睛明穴の5~10㎜上方を取穴。睛明穴深部に上眼窩裂があるならば、上睛明穴深部には視神経管がある。視神経管とは視神経が通る孔、視神経は視力機能をつかさどる役割がある。すなわち視力と密接に関係しているといえよう。


3)球後

外眼角と内眼角との間の、外方から1/4 の垂直線上で「承泣」の高さにとる。球後深部には、下眼窩裂がある。下眼窩裂は眼窩下神経(三叉神経第2枝の分枝)が通る裂孔で、臨床上は眼窩下孔(=四白)刺激と同じ意味合いになる。視力には関係ない。三叉神経第2枝の眼窩下神経は、下眼窩裂を通過して四白から頭蓋骨外に出る。四白(眼窩下孔で、眼窩下縁の下1㎝)から外眼角にむけて斜刺すると、下眼窩裂に入れることも可能である。

以上の理由から、球後刺針は下眼窩裂への刺針を目的としていない。「球後」とは、眼球の後側という意味で、中国では内眼病の治療に多用されている。球後から眼球の裏に達するほど深刺した場合、おそらく毛様体神経節の刺激になる。
この刺針の適応は不明だが、眼球の裏には毛様体神経節、長・短・鼻毛様体神経などに影響を与え、眼に対する副交感神経刺激になる。ワサビを食べると鼻にツーンと辛さを感じ涙が出るのは、鼻毛様体神経興奮による。患者は眼球が熱く腫れる感じを覚えるという。
    
    
          


4)魚腰

眉中央に魚腰をとる。眼窩上神経痛の場合、眼窩内病変や帯状疱疹などの二次性原因の他に、やはり特発性があり、特発性の場合、額から眉への水平刺が有効になることが多いが、このような施術の一貫として、魚腰穴あたりからの上眼窩刺針を行う方法がある。眼窩上神経は、顔面表情筋により絞扼されて眼窩上神経痛を起こすことが知られている。前頭部の皮神経痛を生ずる代表は眼窩上神経だとされる。(なお大後頭神経痛は、後頭部の頭半棘筋の絞扼が原因とされる)
(参考文献:清水暁:頭蓋表層の解剖学的要因による頭皮神経痛と頭痛-眼窩上神経痛・後頭神経痛・開頭術後頭痛-、臨床神経学、54巻4号(2014.5)

 

5)涙腺刺激

眼窩の外上方に涙腺がある。「このあたりを刺針すると涙腺刺激になるので、ドライアイに効果あるかも知れない」と考えるのは早計である。
ドライアイの主原因は涙量が減るのではなく、涙層の上にある油層が減ることで、眼球表面を覆う水層が蒸発しやすく理由による。
したがって、油層を多量に出すためには、その出どころである上瞼縁にあるマイボーム腺の分泌を活性化させるのがよい。それにはまず瞼の温罨法(蒸しタオルをあてる)などが推奨できる。針は、上眼瞼への散針を行う。

 

 

咳嗽の針灸治療

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1.鎮咳の現代薬物療法
     
鎮咳薬として、病・医院では中枢性鎮咳薬(延髄の咳中枢の閾値を上げる)を処方することが多い。末梢性鎮咳薬(気管気管支に作用)はあまり効果がないからである。中枢性鎮咳薬には麻薬系と非麻薬系があり、もちろん麻薬系の方が効果が高い。麻薬であるが使用量はわずかなので、中毒の危険性はないが、副作用として便秘になることはある。麻薬系にはリン酸コデイン(商品名リンコデ)があり、非麻薬系にはデキストロメトルファン(商品 名メジコン)がある。

いずれにせよ鎮咳に効果的な薬物といえど、疾患自体を治すものではない。鎮咳薬が効かないということは、気道内部に何らかのアレルギー反応が関与した炎症が生じ、気道平滑筋のスパズム(収縮)が起きていること示唆する(例:咳喘息)。
※咳喘息:一見すると気管支喘息のようにみえるが、喘鳴や息苦しさを伴わず、咳だけを唯一の症状とする。慢性の咳の原因としては最も頻度が高くい。   

鎮咳の民間療法だが、ハチミツで市販の咳止めよりも効果があることが実証されている。ハチミツ中に含まれる酵素グルコースオキシダーゼが過酸化水素をつくり、これが強力な殺菌作用を持つ。またハチミツには、荒れた粘膜を保護作用もある。とくに子どもの咳に対して就寝前のスプーン一杯のハチミツが非常に有効だとする報告がある。
 


2.咳嗽の針灸でのアプローチ<交感神経を優位にすること>
   
咳嗽は自律神経症状なので、咽痛のように知覚神経の鎮静という治療方針は成り立たない。咳嗽により身体は副交感神経優位になっているので、針灸により交感神経優位に誘導することが重要になる。これは夜に咳が出たり、身体が温まったらせきが出るという者に適した治療方針になる。気管支喘息の治療でも同じことがいえる。喘息の薬物療法は、ステロイド+気管支拡張剤である。気管支拡張剤とは、交感神経興奮させる目的で交感神経β2を刺激している。
 
※語呂:β2刺激で気管支拡張→ 別(β2)機関(気管支)を開く(拡張)
いわゆるβブロッカーとは、これと反対に交感神経緊張を抑えることで血圧や心拍数を下げる薬。
 

3.治喘穴・定喘穴
   
①意義
頭蓋骨部器官全般の交感神経は、交感神経の下頚神経節(別名、星状神経節)から出発する。この下頚神経節と連結している体性神経はTh1脊髄神経なので、大椎付近の刺激は、頚部交感神経節刺激としての意義をもつ。

②取穴
座位。大椎(C7Th1棘突起間)の外側5分。定喘(大椎の外方1寸)や肩外兪(大椎の外方2寸)でも同様の治効あり。
   
③刺針
3~5番針を6分~1寸刺入する。すると咽頭の方に響くことが多い。
 

4.天突移動穴(林家福、山下良平「応症針治」現代書房、昭和41年)
    
気管や気管支は内臓体壁反射が起こらないので、針灸治療は交感神経優位に誘導する方法を行う。しかしこれは気管支喘息時の気管支拡張作用に効果あっても、咳にターゲットを絞った治療ではない。

①取穴
教科書「天突」は胸骨上縁で頚窩の中央にとるが、本穴はそれよりわずかに上方。座位にて胸骨上部に示指先を当て、そのまま指を上方に1㎝ほど撫で上げると、爪先に気管軟骨がひっかかる。この部は押圧すると咳を誘発しやすい特異な部位である。
  
②刺針
寸6#2で直刺。3分ほど刺針し、雀啄を1分間実施。さらに1分ほど刺入して再び雀啄、またさらに1分ほど刺入して雀啄。刺針中に咳を誘発しやすそうになったら、患者に手をで合図させ、ただちに皮下まで抜針)。この方法を2回3回と反復施術。

刺針すると気管軟骨にぶつかって針は止まる。針が止まらずどこまでも刺入できる場合、上下の気管軟骨間をすりぬけていると思えた。気管壁への刺針は針響が生じにくい。
  
③適応
上位気管が患部となる咳嗽、嗄声。気管支や肺の病変による咳嗽には効果不確実。
   
※伝統的な天突刺針:座位で天突から気管に向けて直刺する。仰臥位で頭を伸展させた肢位で天突から気管に向け胸骨下に水平に入れる方法を行う。ともに気管壁に分布する迷走神経刺激になる。

 

顎関節症の針灸治療 改訂2版

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1.顎関節症の概念                                                                               

咀嚼や開口時の顎関節とその周囲の疼痛、開口障害と開口時雑音などを主体とする。3大症は、①顎関節痛(開口時、ものを咬む時)、②開口不全(開口しづらい。3横指以下)、③関節雑音(顎の関節がカクカク、ジャリジャリと音がする)。  
 
Ⅰ型~Ⅳ型に分類。それらに当てはまらないものをⅤ型とする。 Ⅴ型の多くは心身症。
Ⅰ型は筋肉の障害。Ⅱ型は靭帯の障害。Ⅲ型は軟骨の主に動きの障害。Ⅳ型は軟骨が変形したもの。痛みが出るタイプはⅠとⅡである。
2つ以上の型を合併することも多い。

                
   <顎関節症の分類> 1996年、日本顎関節学会
   
顎関節症Ⅰ型:筋肉の障害  <噛む時の痛みで咀嚼筋痛。 関節音なし>
顎関節症Ⅱ型:関節包・靱帯の障害。<顎関節周辺の大きな負荷→炎症→疼痛>。
顎関節症Ⅲ型:関節円板の障害。<開口制限あり。コキッというクリック音>
顎関節症Ⅳ型:変形性顎関節症   <強く咬む時の痛み、ジャリジャリ音がする>
顎関節症Ⅴ型:上記に当てはまらないもの(心身症によるものを含む)。      

顎関節症分類 語呂:「訴訟法人、内緒で変形精神」                                         
①訴訟 咀嚼筋障害(I型) ②法人 関節包・靭帯障害(Ⅱ型) ③内緒 顎関節内障(Ⅲ型)  ④変形 変形性顎関節症(IV型) ⑤精神精神的因子によるもの(Ⅴ型)                        

2.顎関節症Ⅰ型(筋肉痛タイプ)

1)病態
頬や顎の筋肉の炎症が原因した顎関節障害。開口時に痛みがあったり、片頭痛・頬がだるい・重たい・腫れぼったい・顔がゆがむといったもの。口を動かしたり噛んだりするときに必要な筋肉が緊張して炎症を起こし、筋肉に負荷が加わると痛みや、開口制限が出現する。

①閉口筋は、側頭筋・咬筋・内側翼突筋であるが、側頭筋過緊張は側頭部痛を生じ、内側翼筋過緊張時は、下奥歯痛を生じるのみで、顎関節症との関連は薄い。
②開口筋は、外側翼突筋が障害の中心である。
③顎二腹筋は咀嚼筋に分類されず、胸鎖乳突筋と同様に側頸筋に分類される。顎二腹筋には前腹と後腹があるが、顎関節症と関係するのは後腹のみである。

 
2)咬筋刺針
 顎関節症Ⅰ型の治療で治療対象となることが非常に多い。高頻度にみられるのは、咬筋の付着部の多数の圧痛である。患者を強く歯をくいしばった状態にさせ、咬筋の起始・停止の痛点(頬車、大迎、下関など)に刺針する。


 

3)外側翼突筋の役割
①開口筋として
”外側翼突筋を制する者は、顎関節症を制す”といわれるほど、外側翼突筋は重要。閉口筋機能である咬む力は食物を咬んだり敵と戦うために欠かせないものであるため、ヒトにおいても側頭筋・咬筋・内側翼突筋など3種の筋が存在するが、開口筋はそれど強い筋力を必要としないので、外側翼突筋単独で担っている。
  
②下顎の突き出し
口を大きく開ける際、下顎頭の回転すると同時に前下方への2横指ほど滑走し、「顎のき出し」運動を行っている。下顎の突き出しが出来ないと大きな開口もできない。本筋の麻痺では下顎が前に突き出せない状態に、本筋の過緊張では下顎が前に出た状態のままになる。
 
外側翼突筋が下顎頭を前方滑走させる作用なのに対し、顎二腹筋後腹は下顎頭を後方に引く作用をする。このような表現をすると両筋には拮抗作用があるかのようだが、作用ベクトルが異るので両筋協調することで下顎の回転運動が可能になる。下図で顎二腹筋は舌骨舌筋群に所属する。

③下顎の横づらし
 奥歯で穀物をすり潰す際は、上下の奥歯穀物を入れ、下顎を横にずらしてすり潰す運動必要である。この横ずらし運動は内側翼突筋との共同運動で行われる。
(臨床的には、横づらし機能は「下顎の突き出し」ほど問題にならない)
 
4)外側翼突筋下頭刺針(下関直刺)
 下関から外側翼突筋へ直刺1~2㎝直刺。刺したまま、痛くない範囲で患者に開口運動下顎の横づらし運動を10回ほど行わせる。。
  

5)顎二腹筋後腹への刺針

顎二腹筋は、は舌骨上筋群(舌骨と下顎骨の間にある筋群)の一つで、咀嚼筋ではなく、鎖乳突筋と同じく側頸筋の分類に入る。前腹(三叉神経支配)と後腹(顔面神経支配)に大する。顎関節症で問題となるのは後腹である。後腹の起始は、乳様突起内側の側頭骨乳突切痕で、停止は中間腱になる。

<開口補助筋としての顎二腹筋の機能>
①顎二腹筋は下顎を後に引きつける作用がある。頭位に応じて、顎の位置を変化させので、上を向くと自然に下顎は後に引っぱられる。
②顎二腹筋後腹は開口筋という点では、外側翼突筋と共同筋である。
一方外側翼突筋が下顎頭を前方滑走させるのに対し、顎二腹筋後腹は下顎頭を後方に引く作用があるので、両筋は拮抗関係があるかのようだが、作用ベクトルが異なるので両筋が機すると下顎の回転運動に機能する。

③「 歯ぎしり」とは、強くかみしめた状態で下顎を側方や後方に強く引きつける動作で、これには顎二腹筋が強く働く。その状態が続くと顎二腹筋に痛みを生ずる。
歯ぎしりは、それが関わる運動が障害されることで生じるだけでなく、不安や恐怖、強い神的な緊張、ストレス、中枢性の病気などでも緊張が高まる。
④顎二腹筋の筋力低下時には、顎を奥に引っぱる力が不足するので、大きく開口できなくなる。この時の理学検査は、顎下に指を置き顎先を喉側に押し、大きく開口させてみる。指で押た方が大きく開口できるならば、顎二腹筋前腹の筋力低下を疑う。

 

<顎二腹筋後腹の治療>
 顎下三角(下顎骨の下縁と顎二腹筋の前腹と後腹がつくる三角)中央の陥凹を押圧するとスジばり感じる。これが顎二腹筋の前腹。舌骨と乳様突起の結んだ線上にあるのが顎二腹の後腹。顎二腹筋の緊張では筋硬結を触知でき、押圧で痛みを感じる。
後腹の治療点は、ツボでいうと頬車~天容穴あたりになる。顔を上に向かせて本筋を伸させて刺針するとよい。

3.顎関節症Ⅱ型(関節包・靭帯障害)
 
1)病態
顎関節の関節包や靱帯の炎症による痛み。「痛み」が出るのは、Ⅰ型とⅡ型のみである。顎関節周辺の大きな負荷→炎症→疼痛という病態で、開口時の痛みは顎関節関節包(とに関節内膜)の炎症に由来。痛みは聴会穴あたりに出現する。

耳珠3穴の語呂:門(耳門)の宮(聴宮)の前で会(聴会)う、巫女(三・小)たち(胆)  
※耳前3穴は、外耳道炎の際の圧痛が出ることが知られている。  

 


大きく開口した際、耳珠やや下方に陥凹を触知できる。聴会穴はこの陥凹にとる。


2)治療
痛みは顎関節部(耳門穴のやや前方)あたりに限局する。経過は比較的短く、放置していも痛みは軽快に至る。顎関節過使用によるから、過使用を避ける生活習慣を指導する。大きな開口を避ける。圧痛ある顎関節部局所に浅刺+円皮針。
    

 

4.顎関節症Ⅲ型(顎関節円板のずれ)
  
顎関節症で最も多いのがⅢ型。治療せず放置している者も多い。下顎頭は生理的に下顎窩から前方脱臼し、滑走することで大きな開口ができる仕組みになっている。正常であれば、滑る際にはに下顎頭上に関節円板が載っている。関節円板の位置がずれているのをⅢ型顎関節症とよび、の2タイプがある。
 
Ⅲa型
閉口時に下顎頭に乗っている関節円板がズレてはずれる時、ポキッと音がする。
下顎頭はその下に無理に戻ろうとする。戻る瞬間にカックンと音がする。
純粋なⅢ型の顎関節症では痛みを生じないが、Ⅰ型などと合併しているケースでは痛みをずる。

Ⅲb型 
常に関節円板がずれているので、口を開けようとしても引っかかったように開かない(音はしない)。
大きく口を開けようとすると痛みがある。最大開口で縦に指が1~2本しか入らない (正常では3~4横指入る)。

 

1)外側翼突筋上頭への刺針

外側翼突筋上頭の停止は関節円板であり、外側翼突筋上頭収縮時(つまり開口時)によって関節円板が前方に移動する。もし外側翼突筋上頭の収縮力が弱まれば、顎関節円板を十分前方に引っ張ることができず、関節円板の脱臼が起こる。本筋上頭へ刺針すること筋力を回復できるのならば、それが治療効果を生むかもしれないという考え方ができるで   ろう。この理論の是非については、次の報告がヒントを与えてくれる。外側翼突筋の上頭:起始は蝶形骨、停止は顎関節円板。
    

    

※顎関節症Ⅲa型の治験報告(19才、女性)
(皆川陽一ほか明治国際医療大学研究員著:顎関節症Ⅲa型に鍼治療を試みた一症例 転位した関節円板と伴症状に対する 全鍼誌 2010年第60巻5号)
 開口障害、開口・咀嚼時痛が主訴。外側翼突筋に対する刺針を中心とした施術を行い、施術2回目から効果が現れ、治療8回で運動制限と開口障害の改善をみた。だしMRIでは関節円板の転位に著変はなかった。すなわち、外側翼突筋に刺針しても顎関節の転移に変化はないにもかかわらず、運動制限と開口障害の改善をみている。

このことはバネ指や腱鞘炎の治療の考え方とそっくりだと感じた。 
バネ指で、指の腱にできた腫瘤が、腱鞘内を通過できなくても、腱につながる筋がストレッチできていれば、指が伸びる。したがって母指屈筋や深浅指屈筋中に貼りして運動針させるこがバネ指の治療になる。関連筋緊張を緩める(筋を長くする)ことで、腱に加わる張力を減らし、それが症状緩和に役立つということだろう。
すると顎関節の針灸治療は、Ⅰ型は当然のこと、Ⅱ型・Ⅲ型・Ⅳ型においても筋緊張を緩めることで、ある程度の治効果をもたらすといえるのではないかと思った。問題は顎関節症の型ではなく、重症度の問題になるだろう。

 

<下関から顎関節円板に向けての刺針技法> 

①耳孔前(聴宮穴)に指先をあて開口を指示し、術者は下顎骨筋突起の動きを観察。同時にクリック感やシャリシャリ感などの有無を聴取する。
②仰臥位。寸3#2針にて下関穴からを聴宮穴方向に2~3㎝斜刺。針先を顎関節円板方向に向ける。
③刺入したまま、ゆっくりと10回程度開口と閉口を指示。最大限に開口させた肢位にさせ、下関からやや上方に向けて直刺 2.5㎝で外側翼突筋上頭に到達する。
④まず、ある程度開口させた状態で下関に深刺を行っておき、次に3秒間できるだけ大きく口するよう指示する。術者は「1、2、‥‥」とカウントしつつ針に上下動の手技を加えつつ「3」で静かに抜針するようにすると、治療効果が増す。


 

<顎関節円板の徒手矯正法>
示指の指腹を前側(鼻方向)にして外耳口に入れ、持続的に押圧する。押圧の際、患者にの開閉を20~30回行なうよう指示する。施術者の示指腹は顎関節の動きを触知でき、持続敵押圧により下顎頭の位置を調整する。

 

5.顎関節症Ⅳ型<変形性顎関節症>

口を開けようとすると痛みがある。引っかかる感じ。関節はカクカクではなく、ザラザラ、ジャリジャリ、ゴリゴリ音と擦れるような音がする。骨と骨の間のクッションがずれ、加齢とともに軟骨が薄くなることで骨同士が直接接触し、変形していく。すると周囲筋の緊張が始まり、口が開かなくなる。以上が急性症状。
 
しかし1週間もすると、症状が治まったかのように顎の痛みがなくなることがある。これは顎関節の骨が変形や摩耗によって滑らかになることで適応し、慢性的な状態になったことを意味する。 

当院では以前、この記述にそっくりの患者が来院していた。口を開け閉めするだけで顎が ガクガクしてスムーズに動かなかった。最近、同じ患者が別の主旨で来院したことがあった。この時の顎関節症は、滑らかに動いていたので非常に驚いた。良くなった理由を尋ねると、熱心に整体治療をした成果だと話してくれた。いつまでこの状態を維持できるかが問題なのだが。

令和5年新年会のご報告と本年上半期の講習会計画

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去る令和5円1月22日(日曜)、地元の居酒屋にて新年会を行った。参加したのは私をを含めて10名。「鍼灸奮起の会」後の懇親会に毎回参加する常連の方々はもちろん、珍客も参加(徳島県からも参加)し、賑やかなひとときを過ごすことができた。

私はこの席上で、本年上半期の講習会日程を紹介した。講師として私が主導するのは、五官科の現代針灸である。なお五官科科とは身体への情報入力器の総称で、眼科、耳鼻咽喉科、歯科、皮膚科のことをいう。講習会についての詳細は、後日説明していく。

1.カッサ入門
4月2日(日曜) 午後3時~5時30分
「JSカッサって何? 何ができるの? 」講習会  講師:徐園子(大和かっさ治療院)
会場:国立市中1丁目集会場
定員25名位? 参加費3,500円

2.五官科の現代針灸<第7期鍼灸奮起の会>
原則として第1第3日曜、午後5時30分
会場:国立市中1丁目集会場 各回定員12名。参加費7,000円

第1回4月16日 耳科と鍼灸実技 
第2回5月21日 歯科と鍼灸実技  
第3回6月4日 鼻科と咽喉科の鍼灸実技 
第4回6月18日 眼科と皮膚科の鍼灸実技  

何故かカメラのフラッシュが光らず、暗い写真になってしまった。
下段の女性たちは、「喜び組」日本支部の面々。

 

カッサの意義 

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カッサは次の2つの統合刺激である。すなわち「皮膚をこする」こと、次に「皮下出血させる」ことである。個別に検討をしていく。

1.皮膚をこすること
 
1)結合識マッサージから皮下筋膜刺激へ
  
皮膚や皮下組織に機械的刺激を与える治療として、我が国では按摩・指圧が、中国で は推拿が、そして西洋でははマッサージが行われてきた。西洋でのマッサージの新しい技法として1952年、ドイツのエリザベート・ディッケは結合織マッサージを考案し、命名した。

従来のマッサージは、なでる・さするなどの皮膚刺激をするのに対して、結合織マッサージでは、結合識(皮膚・皮下組織・筋々膜・腱・靱帯・血管壁など)に対するマッサージを行う。本法は、指頭を皮膚の押し当て、指先に皮膚の皺をつくりつつずらせていく。このようにすると健康な部は弾力的で皺ができやすいが、病的な結合識では皺ができにくくざらザラザラした状態を指先に感じる。結合識マッサージのもう一つの特徴は、反射帯(内臓反応が皮膚に投影されたヘッド帯、および内臓反応が筋に投影されたマッケンジー帯)に施術する点にある。このような方法で身体を調べると、どのような疾患であっても脊柱を中心に腰~殿部(L2~S4)にかけてと、項の部分(C8)に反応点が集中する傾向があった。これは内臓と特定の体表部位との間につながりがある領域ということになる。ちなみにドイツのシャイトは脊髄神経系と内臓支配する自律神経が互いに影響を受ける領域として、C8.L2、S2を移行分分節とした。要するに、この領域のデルマトームは内臓治療にも使えるという意味になる。

結合織マッサージを行うと、従来の皮膚に対するマッサージに比べて皮膚温が上昇し、関節可動域が向上するなどの効果が得られた。しかしながら現在では結合識マッサージという言葉はあまり用いられなくなった。結 合識はあまりに広い概念で、真皮・皮下組織・粘膜下組織・骨膜・筋膜・腱・血管外膜など、すべて結合組織になってしまうので、結局何をマッサージしているのか判然としないことが原因だろう。現代では結合識に変わり皮下筋膜(=ファッシア)という言葉を使うようになった。

※皮膚は、浅層から順番に表皮・真皮・皮下組織からなる。皮下組織の下層には皮下筋膜(SMAS)があり、その下に筋肉がある。

※筋膜という単語は、以前は筋肉を包む膜という意味で使われた。しかし現在では異なる組織を隔てている膜という意味に拡大され、皮下組織と筋の間にある皮下筋膜も筋膜としての役割をもつというように理解が進んだ。こうなると従来の「筋膜」という語意が相応しいものでなくなり、「ファッシア」という言葉が使われるようになった。

2)ストレッチから皮膚ストレッチ(skin stretch スキンストレッチ)へ
    
筋を伸張させることを(筋)ストレッチといい、1970年代にアメリカで開発された。ストレッチは柔軟性を高めるための運動として、筋肉ならびに結合組織の柔軟性を改善し、関節可動域を広げる。じっとしているなどの不活発な状態が続いたり、トレーニングなど特定の部位が疲労すると膜が硬くなり、膜と筋肉との間の滑走(すべり)性が悪くなる。また、疲労や老化によって筋膜細胞の減少や弾力性が無くなると、滑走性が悪くなり、痛みがでたり動きにくくなり、柔軟性も低下する。これは筋膜と隣接する結合組織が癒着している状態であり、これを開放(リリース)させることが大切になる。これを「筋膜リリース」と呼ばれている。
   
一方筋膜のストレッチだけでは効果不十分だとして皮膚(正確には浅筋膜)もストレッチすべきだとする考えも生まれた。従来のマッサージは深層刺激の方法を開発して結合織マッサージを創案したのに対して、筋ストレッチはそれだけでは不十分だとして皮膚マッサージを指向したのが興味深い。皮膚をこすることは皮下筋膜に影響を与え、外皮-皮下組織-筋間の滑走をよくする。すなわちファッシアの動きを回復させる効能がある。

皮膚マッサージは皮膚を金属製のヘラでさするような刺激を与えるもので、強くさすることは推奨されない。これにより浅筋膜の滑走を良くし、痛みの軽減や柔軟性を改善させる。スキンストレッチは、カッサ(詳細後述)の現代版と捉える意見がある。筋緊張状態にある部位にタオルをあてがい、一方向に20回ほど軽くさする。したがって非常に弱刺激になる。



2.皮下出血させること
  
皮膚をこすることは、ファッシアの機能を回復させる機能があるので、筋の柔軟性を高め関節可動域を増すことができる場合が多く、現在でも盛んに行われている。この点については「カッサ」も同様である。しかし「カッサ」のユニークな点は、皮下出血を起こす程度にヘラで何度も皮膚をこすりつけることにある。

皮下出血とは、表皮に血管はないが、真皮より深い組織には血管がある。皮膚を何度 も強くこすると、皮膚は発赤し、やがては皮下出血するまでになる(身体の部位別に皮下出血しやすい部位としにくい部位がある)。皮下出血とは皮下にある静脈血管に傷がつき、血液が血管外に漏れ出すことをいう。動かない余分な血液のことを東洋医学では瘀血とよぶが、この意味では皮下出血も瘀血といってよいだろう。一度漏れた血液は血管内に戻ることなく、数日~7日程度で組に自然に吸収される。


  
意図的に皮下出血させる意義について医学的エビデンスははっきりしたものがない。 しかし皮下出血を組織に自然吸収させるためには自然治癒力を活用しているのだから、 この部分の代謝が活発化し以前の状態に戻そうとしている。この生体反応を疾病治療に活用しているといえる。カッサ施術後の皮下出血は端から見れば、ムチで叩かれたような痛々しいものになるが、皮下出血斑は数日間で急速に改善され、数日中には殆ど消失するという特徴がある。これは打撲傷時の皮下出血に比べ、出血部分は浅層からのものだと思われた。

カッサ後に観察される治癒的効果は小規模のあざに対する生理学的反応かもしれないとする見方もある。擦るという物理的なシグナルが皮膚の免疫機能を引き出す。擦った後(点状出血)の自然回復が次から次へと生理学的反応を誘発すると考えるわけだ。皮下出血させるというマイナス面を上回る治効があるのか否かは、いろいろな疾病に対して、カッサを試みることが大事で、少しずつ適応症の感触をつかむことが必要になるだろう。

 

麦粒腫への二間の灸と面疔への合谷多壮灸

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鍼灸師の間では、麦粒腫に対して患側(健側でもよい)の二間穴に灸をすると、腫脹吸収あるいは排膿促進につながるというのが常識である。しかしながら患者も鍼灸治療で麦粒腫を治す目的は来院せず、麦粒腫瘍そのものも自然治癒しやすいので、鍼灸院でも患者に治療する機会は多くない。自分自身や自分の身内に試みるくらいなので、症例集積まで至らないのである。わかっていることは以下のごとくであろう。

①麦粒腫というのは、おそらく外麦粒腫のことである。
②二間穴は学校協会教科書の二間(「十四経発揮」の二間)と澤田流二間があるが、ともに同程度の効果がある。麦粒腫の治効として有名なのは澤田流二間の方である。学校協会の二間は、第2中手指節関節の下、橈側陥凹部になるのに対し、澤田流二間は示指PIP関節裂隙の橈側に取穴する。

 

③二間は、健側治療、患側治療とも同程度の効果がある。
④二間の針は、効果が乏しい。
⑤せんねん灸でも、有痕灸でも効果がある。有痕灸では艾炷の大きさや壮数ともさまざまであるが、効果優劣は不明である。
⑥腫脹しているタイプは腫れが引き、膿が出ているタイプは排膿を促進させる。

筆者も内・外麦粒腫に対しては二間へのゴマ大灸施灸5壮程度を行うことが多い。これで眼のうっとうしさは少し軽減するが、症状消失までには至らない。しかし施灸した翌朝には眼が気にならない程度になるのが普通である。多壮灸の方が効果あるともいうがその経験はない。
 

1.麦粒腫の知識 

眼瞼縁からの分泌腺には、眼球結膜側から、マイボーム腺(涙の上層を覆う油液分泌)・モル腺(汗分泌)・ツァイス腺(睫毛を潤す脂分泌)の順になっている。この腺孔から黄色ブドウ球菌などの細菌が感染した病態が麦粒腫である。

1)外麦粒腫
睫毛腺(アポクリン汗腺)からの細菌感染症。眼瞼の充血・浮腫・腫脹・疼痛を生じる。外麦粒腫は通常2日から4日以内に病変は自潰し,排膿すると疼痛が治まる。

2)内麦粒腫
眼瞼腺(マイボーム腺)からの細菌感染症。内麦粒腫は外麦粒腫に比べて少ない。外麦粒腫は皮膚側へ腫れるが、内麦粒腫は結膜側へ腫れるのが普通で、瞼を返して診察する必要がある。内麦粒腫は眼瞼結膜表面に限局する疼痛・発赤・浮腫が生じる。内麦粒腫の自潰はまれで、再発が多い。内麦粒腫の治療は抗生物質内服、必要があれば切開および排膿である。

 

2.麦粒腫になぜ二間を使うのか?

麦粒腫は、眼自体の疾患というより、眼瞼という皮膚疾患であることから、経絡的には大腸経病変とみなすのは古典的解釈になる。ただし大腸経上の経穴が多数ある中で、なぜ二間なのだろうか? 昔から不潔な指で目をこすったりすると麦粒腫になることが経験的に知られていて、目をこする指の部分が二間あたりになるからだと考えた。「手当て」という素朴な認識から、麦粒腫の治療穴として二間を思いついたのかもしれない。

ちなみに、代田文彦先生は、「眼球前の皮膚には二間を、角膜・結膜あたりの病変には曲池を、網膜あたりの病変には風池・天柱を使う」と話していた。さらに「膜」には血流があるので鍼灸が奏功する理由があるとも語った。その意味で、白内障の鍼灸の効果に対しては否定的だった。


3.眼瞼の血流増多が治効を生むのか?

針灸治療で二間の灸は有名だが、二間の針では効果がないという。麦粒腫に対する現代医学的治療は眼瞼部の温罨法、ときに抗生物質内服である。唐麗亭は、閉眼させ1.5吋30号針で、眼瞼全体を上下に6回、左右に6回程度まんべんなく接触刺して皮膚が発赤し、患者の患部周囲が気持ちよく感じるまで行うと記している(三種刺法在眼病的応用、「北京中医学院三十年論文選」、北京中医学院編 1956~1986、中医古籍出版社)。この治療法は原理的に、温罨法と同じものだろう。                  

瞼への温罨法や接触針で、麦粒腫が改善するということは、血流を豊富にすると良いらしい。ということは、二間の灸の治効も、眼瞼の血流改善に効果があるらしいと推定できる。顔面の血流増加を意図するという点では、面疔に対する合谷多壮灸も同じである。

 

4.面疔には合谷多壮灸

1)面疔とは

 

面疔とは顔面にできたセツのこと。黄色ブドウ球菌の感染症で毛嚢炎が悪化した状態である。セツそのものは重篤な疾患ではない。

病巣部である眼窩や鼻腔、副鼻腔などは薄い骨を隔てて脳と接しているため、抗菌剤が普及していない時代には、敗血症や脳膜炎の原因となり死亡することもあった。沢田流鍼灸創始者の沢田健も面庁で死亡した。


2)合谷多壮灸

面疔の治療といえば、合谷が有名である。昭和中期まで、「桜井戸の灸」といって、静岡県の清水で面疔の治療で名をはせた名家があった。1日500人の患者が来院し、近所には患者宿泊用の旅館もでき、駅(静岡鉄道の草薙駅)もできた。

平成6年頃まで、熱心に当院に来院していた当時95歳の男性がいた。この患者は、なんと桜井戸の灸のことを実体験として知っていた。下足番もいたという。
治療は合谷への数十から二百壮の多壮灸で、面疔の痛みが取れるまで壮数を重ねた。患者は自宅への復路、東海道線に乗ったが、途中で再び痛くなると、列車内で灸する者もいたという。


3)なぜ合谷なのか

古人は発赤や腫脹などの炎症所見に対して、軽症ではやがて自然治癒するが、重症では化膿して、それが排膿した後に治癒すると考えていたらしい。排膿しなければ治らないのだから、毒素を体外に排出するため、皮膚に出口をつくる必要があった。多壮灸や打膿灸でわざと化膿させるのは、毒素の出口をつくるのが目的だったらしい。大腸経は、下顔面と関係が深いことが知られていたので、合谷を取穴したのだろう。面疔の治療穴として頤(かい)の灸がしられている。頤はオトガイで下顎のでっぱり部分をさす。頤の灸も面疔の排膿の意味があると思われた。

 

 

 

 

難聴・耳鳴に対する側頸部治療穴の理解 ver,1.1

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下図は、佐々木和郎氏が報告した耳鳴りで多用する局所治療穴である。これらが示すツボは、ほぼ予想はつくので、筆者の見解を示した。さらにこれらのエリア内にあるツボの位置を図示してみた。耳鳴りの針灸治療で、とくに多用する穴を赤丸で区別した。各穴について説明する。


                


1.乳様突起後方
天柱、風池、完骨
後頭骨-頸椎間の動きに関係する。頭蓋骨の可動性を改善する。種々の疾患に適応がある。
「完骨」とは乳様突起の昔の名称である。頭蓋骨が終わるところ。


2.乳様突起直下(翳明、安眠、天牖)
胸鎖乳突筋の停止部に治療穴が多い。

1)安眠(新)
乳様突起下端(翳明穴)から下方1寸。  

2)天牖(三)
下顎角の高さで胸鎖乳突筋の後縁。患者を仰臥位にさせ、手掌を上にして骨際にとる。松本岐子氏は「チューインガムが骨についた感触で圧痛のある処にとる。天牖の下1寸に東風という新穴があり、このツボ反応も天牖と同時に調べていく」と記している。(松本岐子:長野式を中心としためまい・耳鳴り・難聴の治療、疾患別治療大百科5 耳鼻咽喉科、医道の日本社、2001.10.15)

3)翳明(新)
教科書的には完骨穴の下で耳垂と同じ高さにとる。

①松本岐子氏の方法:「患者を側臥位にさせ、術者は後から乳様突起の際を探っていくと硬結に触れる。胸鎖乳突筋中にとる。乳様突起の内側に向けて刺針する。必ずしも一穴ではない。長野潔は翳明穴として2~3穴、硬結に捻針していた」と記してる。

②柳谷素霊著「秘法一本針伝書」耳中疼痛の鍼である「完骨」と似している。眼疾一切の針である「風池」にも似ているようだ。

柳谷「完骨」:乳様突起尖端後側、胸鎖乳突筋付着部。この部に指を当て、頭をやや後側に曲げると胸鎖乳突筋が乳様突起に付着する部に陥むところがある。ここを完骨穴とする。患側上の側臥位で脱力させ、閉眼・開口。乳様突起尖端の内側下端をくぐるように耳孔の方に向けて刺入。1寸~1寸2、3分で手応えがある。本穴に対する刺針は、鼓膜を知覚支配する鼓室神経(舌咽神経の分枝)刺激になっていると思えた。

柳谷「風池」:乳様突起後方に軟骨様の小突起がある。これは三角形で尖端は下方に向いている。これはゴリゴリの強度なものである。按ずるとコメカミに響くところ。患側上の側臥位で脱力させ、目は半眼で顎はやや開口。口呼吸させる。鍼を上内方に向け、鍼先を三角形の小隆起下を通過ときに貫通、眼底方向に刺入。5分~2寸刺入。側頭部または眼底に針響を得る。本穴から2寸刺入する場合もあるといことから、C1~C3頸神経後枝刺激となり、大後頭-三叉神経症候群の機序で三叉神経第1枝である眼神経に影響を与えていると思えた。

C
 

4)翳風(三)
翳風の「翳」は、鳥の羽で隠すという語意がある。耳垂を鳥の羽にたとえ、その羽により風から隠れた場所という意味になる。深部に顔面神経管があり、顔面神経が頭蓋骨から出てくる部。顔面神経ブロック点で、ベル麻痺の治療で多用される。
 

3.下顎枝部

1)頬車

①下顎枝の外縁には咬筋があり、内縁には内側翼突筋がある。下顎の動きに関係する。顎関節症や下歯痛に使用することがある。

②柳谷素霊の秘法一本針伝書の耳鳴の鍼に似ている。この刺針は下歯痛の穴と同じと記載されている。頬車または大迎あたりの下顎枝縁の内側から下顎骨に沿うように刺入、下歯槽神経を刺激することが下歯痛の治療になる。耳鳴の治療では、下歯に響きがあれば刺針転向して鍼先をやや上方に進めると、耳閉感や耳鳴が少なくなり、それをもって抜針する。二度三度繰り返して刺針してもよい。

 

③顔面神経下顎枝刺激部位

佐藤意生(耳鼻科医)は、感音性耳 鳴患者の顔面神経下顎縁枝に経皮的に反復電気刺激で蝸牛神経の異常を抑制できるのではないかと考え、大迎と頬車に表面ツボ電極をつけ、2~30ヘルツのパルス低周波刺激を2分間加えた。それにより半数の者が耳鳴りは5割減となる好成績だったが、持続効果は8割が1週間以内であることも判明した。
91例中耳鳴が5/10以下 に 減少→47例(51.6%)、6/10~8/10 に減少→34例(37.4%)、9/10~10/10に減少→28例(11.0%)となった。治療有効者(53例)で、効果続期間は1週間以内に元に戻ったのは43例(81.1%)で、このうち持続期間が2~3日だった者は17 例(32.0%)だった。4週間経過後にも耳鳴が以前より軽いと答えた例も5例(9.4%)あった。(佐藤意生:顔面神経下顎縁枝刺激による耳鳴の抑制:耳鼻咽喉科臨床。98巻11号(2005))


4.耳珠部

1)耳門、聴宮、聴会
耳前三穴として知られる。 
語呂:門の宮で会う巫女(みこ)たち  門(耳門)の宮(聴宮)で会(聴会)う巫女(みこ)(三、小、胆)たち。
上から順に、耳門(三)、聴宮(小)、聴会(胆)と並ぶ。 

①外耳炎のツボ反応は耳孔周囲に出現するので、圧痛を目安に上記の耳介前穴に施灸。耳介後方では、側頭部の胆経反応穴に施灸。針灸治療は著効することが多い。(郡山七二「針灸臨床治法録」より)

②耳掃除などで耳穴を触った後、耳介を引っぱった際に痛むのは外耳炎である。
中耳炎では耳介を引っぱっても痛みは増悪することはなく、耳奥が痛むと訴える。圧痛点も耳前三穴には現れない。

③中耳炎のツボ反応
中耳の範囲は広く、病巣部位に応じて反応点も変わってくるだろう。中村辰三氏は、ある患者(針灸師)の慢性中耳炎の圧痛を、手術前→術後1ヶ月→術後2~3ヶ月に分けて記録した。合谷に圧痛がみられ、耳周囲としては側頭部のロソク・後髪際であるケイ脈・完骨、側頸部の天ユウには常に圧痛がみられた。実後は、圧痛が耳介外縁の側頭部全体に拡大した。(中村辰三:慢性中耳炎の圧痛、医道の日本、第500号(昭和61年4月)

この中で、とくに興味深いのは天ユウで、芹沢勝助氏が耳鳴り圧痛点とし指摘していた部も、天ユウあたりになることである。

②顎関節の関節包・靱帯の障害。顎関節症Ⅱ型(関節包の痛み)時に反応が出る。顎関節周辺の大きな負荷→炎症→疼痛
③耳介側頭神経の神経ブロック点 。耳介~外耳道の神経痛は三叉神経第Ⅲ枝痛だが、Ⅲ枝の分枝の耳介側頭神経痛によるもので、これを「神経性耳痛」とよぶことがある。この治療に耳介側頭神経ブロックを行うことがある。

 

5.側頭部

1)角孫
①側頭筋中にとる。きつい帽子を被ったような感じの緊張性頭痛時の施術点となる。
②慢性中耳炎の反応点。
③胸鎖乳突筋トリガーの放散痛エリアである。

 


<JSカッサ治療入門セミナー>のお誘い

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カッサって何? 何に効くの?     
 <JSカッサ治療入門セミナー>のお誘い
現代針灸  似田 敦 協賛

講師:徐 園子(じょう そのこ)  
日本かっさ治療学会、大和鍼灸かっさ治療院


1.セミナー受講のお勧め

<JSかっさ治療>(JS=Japanese-Style)とは、「難治性症状に即効性ある治療法」を探求し、伝統かっさ療法を進化・発展させた手技療法です。三毒の排出、浅層筋膜の調整を目的とする他、独自に開発した投影マップを治療点とすることで様々な症状を速やかに改善させられる治療法となりました。

コロナ後遺症は、未だ治療法が確立せず、国内だけでも20万人を越える方が苦しんでいます。その現状を打開すべく、ヒラハタクリニック 平畑光一医師と共同で、JSかっさ治療の効果を検証してきました。そして、すべての症例において後遺症を初回の治療から改善できることを確認しました。

肩こり、腰痛、膝痛などの運動器症状、月経痛、PMS、つわり、不妊などの婦人科症状、ムズムズ脚症候群、線維筋痛症、黄色靭帯骨化症、強直性脊椎炎などの難治性症状、片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛などに対しても、JSかっさ治療は即時的効果をみせています。

まずはぜひ一度、入門セミナーにご参加いただき、JSかっさ治療がどのようなものか、実際にご自身で体験してみてださい。実技指導は私の他に、徐 由実(中央鍼灸接骨院)、上川 晋一(みその整骨院)が担当致します。医療効果に重点をおいているため、JSかっさ治療セミナーの参加資格を、医療系有資格者のみに限定しました。


2.セミナー内容

1)かっさの歴史
2)JSかっさ治療とは
3)症例の紹介
4)診断法(問診、脈診、舌診、腹診)
5)リスク管理
6)JSかっさ治療体験(座位で背部を出す)
7)新しい治療法「JS投影マップ」紹介


3.JSかっさ治療入門セミナー募集要項

1)日時:2023年4月2日(日)15時~17時半
2)会場:東京都国立市中1丁目集会場

 

3)ご持参いただくもの:①患者衣(患者衣がない方はバスタオル)、②筆記用具

   ・当日の貸与品:黒水牛角カッサ板、特製カッサオイル、油拭き取りペーパー
  ・カッサの用具はお分けすることもできます。

 

  定価: 黒水牛角カッサ板3,500円(税別)→当日限定で2,000円(税別)
                  特製カッサオイル8,000円(税別)→当日限定で4,000円(税別)

4)参加資格:医療系国家資格所持者限定(医師、看護師、PT・OT、針灸師、あマ指師、柔整師)

5)参加費:テキスト代含 4,500円(当日払い)

6)定員:25名程度
7)申込〆切:3月31日(ただし定員になり次第、受付終了します)
8)申込フォーム

https://www.jskassa.com/%E3%82%BB%E3%83%9F%E3%83%8A%E3%83%BC%E7%94%B3%E3%81%97%E8%BE%BC%E3%81%BF

9)お問合わせ先:徐 園子(じょう そのこ)大和かっさ治療院 
メールアドレス info@jskassa.com  
電話046(780)2829  鎌倉市扇ヶ谷1-8-5, 3F
                          
※「治療入門セミナー」から次のステップへ
入門セミナー後、より深くカッサの講義・実技受講をご希望の方のために、次の3コースを企画しています。
1.コロナ後遺症(平畑光一医師と共同)
2.婦人科系症状
3.運動器系症状

お灸のトリビア ver.1,1

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1.灸治療が庶民に広まったのが江戸時代

もぐさは西暦500年頃、朝鮮を経由して仏教とともに日本へ伝わってきた。中国にある棒灸は、日本のお灸の原型と考えられるが、お灸は日本独自に進化した伝統的な治療法。西暦700年頃僧侶が行う治療として隆盛を極め、江戸時代には庶民にも広まった。江戸時代には、「弘法大師が中国から持ち帰った灸法」というふれこみで打膿灸も普及した。


2.いくさにおけるモグサの利用法

もぐさは<戦さ>で使われていた。<戦さ>で怪我をした際にもぐさを使って傷口を焼いて、肉を盛り上がらせ、血止め・消毒をしていた。


3.庶民が行っていた灸治療

鍼は鍼医という専門家が行うもので、鍼医は今日での鍼治療以上に、膿を切開するなど簡単な外科手術も行っていた。古代九鍼のうち、鋒鍼は膿を出す穴を開ける用途で、鈹鍼は膿を皮膚切開して膿を出す用途として用いられた。これに対して灸は、庶民同士が行う素朴な医術だったので、灸医というものはなかったが、漢方薬(富山の薬売りが有名)は高価だったこともあって、治療の主流はお灸だった。多くは痛いところや、切り傷にお灸するとかの原始的方法だった。


4.乾燥したよもぎ葉を石臼で挽く理由

もぐさは、よもぎの葉を乾燥させ、繊維部分を石臼で挽いて細かくし、竹簾でふるいにかけてフワフワの状態に仕上げたもの。よもぎの総量の3%ほどしかつくれない。
石臼挽きを重ねたもぐさは線維が細かく、線維間に空気を多く含むのでフワッとしていて、燃焼温度も比較的低い。中国製のものは乾燥したヨモギ葉を電気式ミキサーで粉々にカットするが、このような製法では繊維間の空気含有が少なく、燃焼温度が高くなるので有痕灸用としては不適切である。
 

5.お灸の壮数について
   
お灸の壮数は、ほとんどが3・5・7壮と奇数になっている。これは古代中国において奇数が陽の数字としての意味をもち、灸をすえるという行為事態に「陽の気を補う」という意味が込められたことを反映している。(鍼灸甲乙經)
お灸の壮数で、病が深く浸透している者は、数を多くすえる。老人や子供では成人の半分位の量に減らす。扁鵲の灸法では、五百から千壮に至ったというが、明堂本經では鍼は6分刺し、灸は3壮と記し、また曹氏の灸法では、百壮することも五十壮することもあった(千金方) ということで、当時としても多様な考え方があった。

お灸のすえ方として、江戸時代頃までは、打膿灸と多壮灸が主流だったらしい。しかし現在の状況では、両者とも行い難い方法になってしまった。

 

6.排膿口がある場合に鋒鍼、排膿膿口がない場合には打膿灸
 
血が停滞して体内に熱をもって体内に腫瘤形成される。これを取り去るには内科的には湯液治療だが、鍼灸的には鍼による皮膚切開と、打膿灸による排膿の方法が行われていた。

1)皮下に腫瘤の存在が明瞭で、排膿できそうな場合

鋒鍼(△型に尖った鍼。三稜鍼)や火鍼(鋼鉄の太鍼を火で加熱)で皮膚を切開し、排膿口をつくって膿を外に出す。膿が溜まった部分の皮膚は知覚鈍麻しているので火鍼を行っても我慢できる程度だという。
 
2)皮下に腫瘤がない場合

打膿灸で排膿口をつくる。そして火傷部に膏薬を貼ってわざと治癒を遅らせ排膿を長くする。4~6週で膿を出し尽くす。すなわち傷口内部に砂や木片が残っているとなかなか治癒しない。同じく、傷部に異物(「無二膏」など)を接触させていると、治癒が遅くなることを利用している。
多壮灸による排膿をねらったものに、面疔に対する合谷多壮灸があり、戦前には桜井戸の灸とし賑わった。「面口合谷収む」とは四総穴の一文である。

 

 

 

7.つぼの効能

今日でのお灸は、半米粒大の艾炷で、1カ所3~7壮程度が標準とされているが、昔は数百といった多壮灸が普通だったのかもしれない。ということは、灸治療の効果も、今日の常識を越える効き目があったのではないだろうか。

1)足三里 

①旅人のツツガムシ病の予防する

江戸時代になると、旅の道中もモグサを携帯するようになった。旅の途中、川を渡るとツツガムシ病に感染する恐れもあることから、お灸で予防していた。松尾芭蕉も奥の細道の旅立ちを控え、「三里」のツボに灸をすえて...と詠んでいる。(富士治左衛門(釜屋社長)東京 日本橋の観光・グルメ・文化・街めぐり情報サイト2015年02月【第52号)より)
  
※ツツガムシ病:オリエンティア・ツツガムシという病原体を生来もっているダニの一種。河川敷や草みらに幼虫は生息していて、そこに人が通ったりすると、皮膚にとりつき管を体内にいれて体液を吸着する。人の体内にその病原体が入ったときに発病する。発熱、刺し口、発疹は主要3徴候とよばれ、およそ90%以上の患者にみられる。また、患者の多くは倦怠感、頭痛を訴える。

 
②中高年者のノボセを下げる

<千金翼方>では「三十歳以上では頭に灸をする。四十歳で足三里にもお灸をしないと、気が頭に上って目が見えなくなる」書かれている。それが後の<外台秘要>では「人、四十にして三里に灸せざれば、目暗きなり」となっていて、文章の最初の「頭に灸する」の語句が抜けた。それ以後「年をとったら三里の灸をしなければならない」と伝わってしまった。もともと足三里の灸は、のぼせを下げるための意味付けが強かった。(一本堂学術部「 江戸の鍼灸事情と養生法」) 

頭寒足熱が理想の体調状態だが、これが逆転して頭熱足寒になると不健康になりやすいとは昔からいわれている。頭部より足部の温度が高いほうが人間快適であり、ゆえに床暖房がもてはやされる。就寝時、足冷でアンカを使うことはあっても、頭は掛け布団の外に出ていても意外に平気である。

 

2)膏肓
   
<千金方>で初めて膏肓穴が登場した。古い文献に膏肓は記載がない。膏肓の名前の由来は、「病膏肓に入る」の故事より。<晋公の病はすでに膏の上、肓の下にあるので治療できない>と医師の緩は語ったことによる。
   
しかし孫思邈(ばく)は、当時の医療では膏肓の取穴がきちんとできなかったからであり、このツボは万病に効く。600~1000壮すえることで、自分の身体補養になると言っている。  600~1000壮という壮数は、「医心方」にもあって、医心方中最も多い壮数となっている。


3)関元

南宗の時代の<扁鵲心書>では、罪人でつかまっていたが、90才過ぎても快活で1日十人の女性と交わっても衰えることがなかった。刑吏がその理由を聞くと、夏から秋への季節の変わり目に、関元に灸を千壮すえているだけだと言った。しばらくこれを続けていると、寒暑を恐れることがなくなり、何日も食事をしなくても飢を覚えることがなくなったと返答した。関元へのお灸は、百壮単位で行うのがよいらしい。

 

8.家伝の灸
 
家伝灸とは、ある一個人が自分の病気を灸で治した経験から,同じ方法で同一の病気を治そうと他に施し、それを子孫が伝えているものである。家伝灸の多くは打膿灸だった。わざわざ遠方まで打膿灸されに出向くこと、熱さに耐えること。こうした苦労を克服したからこそ御利益もあるという思いだったろう。要するに神仏にすがる思いと同種のものであった。
以下は代表的な家伝灸

1)中風予防の<熊ヶ谷の灸>膝眼穴

目的:中風予防の打膿灸取穴
刺激法:大豆倍大にして一ヶ所三壯、打膿灸(吸いだし灸)。
実施日:六月一日の二日の2日間のみ。治療代は一人2~3円。この2日間だけで6万円(現在の価値では6千万円)があった。小田急の鶴川駅はこの灸のためにできた。

2)面疔に対する<桜井戸の灸> 合谷穴 

https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/f383507bdb11c90225c42c9f3a6b8bf1

目的:面疔。昭和 28 年頃は副鼻腔炎に対しても行っていた。
方法:手三里と合谷に 30 壮~ 100 壮灸する。これを1日3回やる。面疔の治療は、化膿を待って切開するのか常で、したがって手の一穴(合谷)へ灸をすえれば必ず口が開いて排膿できるという。膿の出る口を開けるには、吸い出し膏薬を貼る。(代田文誌著「簡易灸法」) 痛みが出たら、再び合谷に数十~二百壮連続で、痛みがとれるまですえる。

面疔には下頤(かい)の灸というのも知られていていた。頤は「おとがい」とも読み、下顎の尖った先部分をいう。下顎中央の縦溝下端の骨上を取穴。灸の熱感が浸透して排膿するまで5~20壮(入江靖二著「灸療夜話」緑書房)。鼻は骨のでっぱりだが、顔面の中で、同じように骨のでっぱりという共通項から頤を選んだのだろうと思われた。

※面疔:目や鼻周囲にできた黄色ブドウ球菌感染症。常在菌である黄色ブドウ球菌が顔面の毛孔から侵入し、毛嚢炎が悪化して化膿し、セツの状態になったもの。抗生物質が有効。面疔は強烈に痛んだり、悪寒発熱など全身症状の出ることもある。軽度な面疔であれば、排膿後2 週間ほどで自然治癒する。病巣部である眼窩や鼻腔、副腔などは薄い骨を隔てて脳と接しているため、抗生物質を服用しないと髄膜炎や脳炎などを併発し 手遅れになることもある。沢田健は面疔で死亡した。
 

3)眼病に対する「四つ木の灸」臂臑  

上腕外側、臂臑穴に行う打膿灸。眼病に効果あり。

 


9.施灸時の体位

1)紐を使った取穴 

取穴を大仰(おおぎょう)にする演出で、この類には次のようなものがあった。患者は、おそれいったことだろう。
 
①騎竹馬の灸→第10胸椎の両側各5分のところ。 灸30壮。癰疔などの悪性潰瘍を主治する。 乳腺炎等。
②四花・患門→呼吸器疾患、心臓疾患  
③脊背五穴 
④五処穴など 

2)施灸体位

現在では、鍼も灸も仰臥位または伏臥位で施術されることが中心となったが、残された古文書をみると、座位で背中にお灸した図を見る機会が多い。深谷灸法にあっても、「治療は座位で行なう。座位ができない場合は寝て取穴する。当然ツボの位置はずれる。」とある。

座位で鍼する方法は、柳谷素霊「秘法一本鍼伝書」の五臓六腑の鍼で紹介されている。
鍼でも灸でもこれは背部筋を弛緩した状態で鍼灸刺激するよりも、自重を背筋緊張で自重を支持して鍼灸するのでは、後者の方が効果が高いことを知っていたのだろう。
 

中国の宋代とは、糖につづく時代で、我が国の鎌倉時代にほぼ一致する。上絵は打膿灸を行っている。

     

椅座位での足三里の灸

 

会陰への灸

 

 

座位で、台の上に両肘をつけて背中に灸する様子を描いている。肩甲骨を左右に開くことで大・小円筋や大・小菱形筋をストレッチ状態にさせ、また胸腸肋筋を目標に施灸していたことが発見できて、今日でも参考になる。この体位を開甲法(「困学灸法」より)とよぶ。

 

 

灸頭針の歴史と方法、および適用について ver1.1

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1.灸頭針の歴史

昭和6年、東京の芝で開業していた笹川智興氏発案による。婦人雑誌へ発表した処から一般に知られるようになった。発表当時は、鍼頭灸という名称だった。笹川智興の方法は、今川正昭氏「灸頭鍼の周辺」(医道の日本、昭和60年10月号)に詳しく載っている。それによると、元々の方法は比較的長鍼を用いて斜刺し、モグサを丸めて鍼柄にからめて点火する方法だった。浅刺の場合には、鍼はモグサの重みで倒れぬよう、丸めたモグサで鍼を支えていたということである。

 

田中博氏によれば、柳谷素霊は笹川氏自身から教えを受け、柳谷素霊の門下生である西沢道允氏が赤羽幸兵衛にそれを伝え、赤羽幸兵衛が「灸頭鍼法」を執筆して広く知られるに至った、という流れとなるらしい。(「灸頭鍼入門(6)笹川智興氏の軌跡」医道の日本、昭和61年5月号)。なお田中博氏の同上文献によれば、灸頭鍼という名称を考案したのは柳谷素霊であり、この名称が広く普及したのは赤羽幸兵衛著「灸頭鍼法」によるということである。 

当時の鍼は、鍼柄と鍼体がハンダで連結されているだけで、熱はもちろん、ちょっと力を入れると継ぎ目で折れてしまうほどで実用にならず、赤羽氏も相当苦労した。結局、太めのステンレスの鍼で、鍼柄を半田ではなく、カシメで方式でつなぎ、その上に中央部に鍼柄が被さる塔のような管がついた金属製のお皿を乗せ、お皿の上でもぐさを燃やす方法を考案した。1970年代以降は、鍼もステンレス製が中心になり、鍼柄も大半がカシメ式になったため、現在では鍼に直接もぐさをつけるようになった。


2.灸頭針の基本手技(田中博氏の見解を中心に)

1)ステンレス針柄、ステンレス鍼を使用する。
鍼の太さは直径0.2㎜(3番鍼)以上が必要。鍼が細いと艾炷の重さに耐えきれず、鍼が彎曲する。一般に顔面では1寸、腰殿部では寸6、四肢体幹部では寸3と使い分ける。

2)灸頭針に通常の透熱灸モグサを使うとコスト高かつ温感が弱すぎて使いづらい。温灸用の下等モグサは安価で燃焼熱量が高いが、パサついて球状に丸めにくく煙の量も非常に多い。無理に丸めて針柄にとりつけても、燃焼中落下の危険がある。ということでその中間である灸頭針用モグサを使うのが普通である。価格も透熱灸用モグサと温灸モグサの中間くらい。近年、灸頭用モグサとしてあらかじめ丸く固めてあるものが市販されている。多量に使う治療院ではコスト高になるだろうが、たまに使う分には必要十分だろう。

3)皮膚と艾炷底面との距離は2.5㎝で、艾炷直径は1.8㎝(0.5g)。なお艾は、いわゆる灸頭針用艾すなわち中級艾を使用し、できるだけ固く丸める。鍼の長さが変わっても、皮膚と艾炷底面との適切な距離は変わらない。

※ちなみに一円硬貨の直径は2㎝である。艾炷直径1.8㎝というのは、私のイメージからすると小さ目である。先輩から教わったのは、直径2~2.5㎝すなわち1円玉~10円玉硬貨大で、フワッと固からず軟らかからずに丸めるというもの。これは固く丸めすぎると、点火しづらくなるため。この艾炷の大きさしたなら、艾炷と皮膚との適正距離は3~4㎝である。

4)点火は、マッチやライターでもよいが、使い勝手は、チャッカマンタイプの方が使い勝手は良い。
点火する部位は、艾の下側から行う方が熱効率は良い。艾炷の上側から点火するなら燃焼するにつれ、針体が倒れ、皮膚に近づくので、患者は熱くて悲鳴をあげるなりかねない。艾の重量で針が傾いている場合、傾いている側(皮膚に近づいている側)から点火した方が、艾が燃えるにつれ、針の傾きが修正されるのでお勧めである。

直刺した針柄にとりつけた艾炷であっても、艾炷の上から着火するより、下から着火した方がよい。上から艾炷を燃焼させると、患者が暖かさを感じるまで時間を要し、結局暖かく感じる時間が短くなってしまう。


5)灸頭鍼は、通常は3~5壮行う。1壮目が燃え切ったら、燃えかすを軽く取り除き、2壮目をつけるが、その際、鍼柄は非常に熱くなっているので、火傷防止の意味で術者の手指が鍼柄に触れないような注意が必要である。指が針柄に触れることなく、艾炷を丸めることは意外に難しい。燃えかすを取り除くには、専用の器具を使う方法もあるが、カットした乾綿でも間に合う。2枚のカット綿を使い、灰を挟むようにして両側からすくい上げ、灰皿に捨てる。

6)目的とする壮数を燃焼したら、燃えかすを取り除いた後、ピンセットまたはカット綿で針体をつまみ、抜針する。不用意に針柄を指でつまんて抜針しようとすると火傷することがある。

7)万一燃焼中の艾炷が患者皮膚に落下した場合、すばやく艾を取り除かないと患者が火傷するばかりでなく、熱さに驚いて急に体を動かすことにより、他部位の燃焼中の灸頭針艾が落下したり、折針したりする大事故にもなりかねない。取り除くための道具を探すような時間的余裕はないので、術者は間髪を入れず、素手で燃焼中の艾炷をつかみ、灰皿に入れる他ない。ごく短時間に行う操作なので、術者の手指はほとんど熱く感じない。患者もほとんど熱さを感じない。

艾炷落下防止のため、灸頭針キャップを使うのも一つの方法であるが、灸頭針キャップは重いので針がしなりやすく、それを避けるためにはさらに太い針を使わざるを得ない。灸熱を金属で遮蔽していることになり温熱効果が弱まる。何回も灸頭針キャップを使っていると、キャップがモグサのヤニで汚れ見た目が悪くなる。


8)艾炷の熱さを弱めるための道具を自作しておくことをお勧めする。ティッシュ箱を分解して、直径5㎝ほどの円に切る。”ハスの葉”のように下図のように一部を切り取った道具を何枚か用意しておく。患者に「熱い」といわれたら、その部に”ハスの葉”を置くと、熱さは大幅に緩和される。

 

 
3.灸頭針の利点(私見)

単に置針+温熱効果を期待するならば、置針した状態で赤外線を照射したり、置針した上から箱灸をするのが簡便である。それでも灸頭針を行うメリットは、刺針ポイントに対して十分な熱量を与えることができることにある。同じこと赤外線で行うと、広範囲に熱量を与えることができるものの、単位面積あたりの熱量は比較的弱いものとなる。
刺針点を中心に、熱量は距離の二乗に反比例した熱量を周囲に放射する。その結果次のメリットが生ずる。(たとえは不適切であるが、広範囲に被害を与えるため、原爆は地表ではなく、高い高度で爆発させたのと同じ)

①刺針直下のポイントでも、耐え難い熱さにはならない。
②数十秒間の持続した加熱により、深部温も上昇する。
田中博によると、灸頭針後には、刺激部位の皮膚温は、処置前皮膚温に比して約3度上昇し、治療後30分経過しても皮膚温は約1度高く維持されるという。
③加わる熱量は刺針部位から離れるにつれ、同心円状に連続的に減少する。これは熱したい部位を、集中的に熱することが可能という意味になる。 


4.灸頭針の欠点

①燃焼中、煙が多量に出るので、換気扇を回していても治療室の空気を汚す。
※近年、煙のでない灸頭針用艾が販売されている。艾を炭状にしたもの(炭化艾という)が発売された。わずかな衝撃でも欠けやすくモロいこと、値段が高いことが欠点であろう。私見では、火持ちが良すぎることは、治療時間が長引くので、これも欠点になると思う。

②落下の危険防止と熱管理のため、艾燃焼中は術者はベッドサイドで見守る必要がある。同時に行える灸頭針は4カ所程度まで。燃焼中、患者が「熱い熱い」と叫んだ場合、その灸頭針の熱量を減らさねばならないが、もたついているうちに別の場所の灸頭針も「熱い!」と叫ぶ自体になることがあり、対処できなくなる。すると患者は熱さに我慢できず、動くので燃焼中の艾炷が落下したり、針が折れたりする危険性もある。また灸頭針として使った針は針柄が焼け焦げるので、見た目に悪いばかりでなく、再利用時には針管に通りにくくなり、挿管時に支障が出ることも多い。

灸頭針最大の欠点は、艾炷落下による火傷である。それが怖いので筆者は30年以上灸頭針をしていない。その代わりに箱灸を行っている。この箱灸は自家製である。数本置鍼しておき、その上に箱灸を設置する。艾炷落下の危険性がないので、術者は患者のそばにつきっきりになる必要はない。

箱灸の自作
https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/640d8106132c7fbf9e0d4a15657e5f73

上写真のモグサは、中国棒灸を八等分にカットしたものを使用。煙が多量に出るが、実際にはフタをして燃焼させるので業務に支障はない(換気扇を使用)。

 

③適切な加熱のため、皮膚から針柄までの距離を2~3㎝に保つ必要がある。深部にあるツボに針先をもっていくのではないので、刺針が浅すぎたり深すぎたりすることもある。
④原則として直刺しかできない。

⑤艾はかなりの重量になるので、針柄がたわたわまないためには、ある程度太い番程の針を使用しなければならない。(#2以下は使用し難い)


5.灸頭針の臨床応用

灸頭針の長所は、患者に無理なく、大きな熱量をスポット的に与えることができることにあると思った。その点、通常の刺針や施灸はエネルギー的には小さなものであるから、古典でいう「気血を動かす」ことは可能だとしても、気や血のエネルギーを増やすことは困難だろう。

灸頭針を行うと、針+灸の作用ということで、患者は特別な治療をされているという満足感が得られることも多い。実際、心地よい熱感を感じる。しかしあえて艾を多くしたり、艾と皮膚の距離を短くすることで、耐えられる限界あたりまで、皮下組織深部の皮下組織まで加熱することも行われる。これは通常の針灸をしても同じ場所が頑固に痛む場合の場合に行う切り札ともいえる。

 

首下がり病に上部胸椎一行の刺針が有効な例(89才、女性)

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 本患者のこれまでの経緯

4年前(85才頃)ほど前から、急に顔が正面に向けづらくなってきた。右手のしびれと脱力感も出てきたので、整形訪問。手根管症候群と腱鞘炎と診断され、手術をうけた。それにより右手症状は改善したが、顔の上げづらさは不変。顔が下を向いた状態で、正面を見ることが非常に困難。マクラをしないと仰臥位になることはできない。握力は左8㎏、右10㎏。
 
この患者は以前から頸痛、背痛などでたまに当院に受診していた。今回は2年ぶりの来院で、その時に顔が下を向きっぱなしになっていたので、非常に驚いた。高齢であることから、頸椎圧迫骨折による変形性頸椎症とその時は思った。
 
そうなると、針灸治療の方針は、頸部に加わった力学的ストレスを一時的にでも緩和し、筋疲労をとることだと考え、頸椎と上部胸椎の一行深部筋(半棘筋や多裂筋など)をゆるめ、また頭蓋骨と頸椎間の筋疲労を改善するため、後頭下筋郡や頭半棘筋をゆるめることだと考えた。側臥位で、これらの筋に刺針し10分置針した。要するに一般理学療法のような施術をした。この治療効果は不明だったが、それ以外の治療法を思いつかなかった。こうした治療を年に数回行った。

最近、この患者がまた来院。大学病院を受診した結果、「首下がり症」と診断されたという。担当医は「後頭部を下に引っぱる筋がはずれていている(原文まま)。骨にボルトを入れ、頭を支える手術を行う手もあるが、高齢なので心配だ。自分はこれまで7例手術した」と説明した。頸椎変形については、特に指摘されなかった。顎が胸に付いている状態”chin on chest”でありで、後頭部よりも上部頸椎の方が上にあった。

「首下がり病(=首下がり症候群)」は初耳だった。関節の問題でなく、筋の問題であるならば針灸でも治療方法があるかもしれないこと、後頭部を下に引っぱる筋は多数あるので、はずれてしまった筋があっても残存する筋の収縮力を復活させることができれば、症状が軽減するかもしれないと思った。本患者の最も強い圧痛点は、C7~Th3の1行なので、頸半棘筋のアイソトニック筋収縮状態であり、頭蓋骨を前に倒れそうになるのを、防いでいると考察した。左上天柱の圧痛は頭半棘筋停止部反応。



針灸治療

ベッドを前にして椅座位。ベッドにはマクラを置くなどして高さを調節し、額をマクラにつけ、上体を前屈姿勢にする。この姿勢で、下部頸椎~上部胸椎一行の左右6~8箇所に雀啄後5分置針。後頭骨-C1間の頭半棘筋・大後頭直筋にも同様の手技針を行った。

直後効果

顎が少し持ち上がり、前を向くことができるようになった。治療効果があったので、週1ペースでしばらく来院することになった。緊張し過収縮している筋に対して刺針すると、筋緊張がゆるみ筋長が増すというのが普通の考え方だが、今回の等張性筋収縮状態に対しては、これを緩めると予定頭が垂れてしまうのではないかとも思ったので、実は症状が改善した理由は不明である。


再診時(1週間後)
 
前回治療前によりも顎が上がっているように見えた。再度頸部の圧痛点を探ってみたが、圧痛点分布は前回と変わりなし。要するに前頸部に圧痛なし、胸鎖乳突筋を除く側頸部筋も圧痛なし。後頸部では頭半棘筋の停止部と胸鎖乳突筋の乳様突起停止部に強い圧痛あり。後頸部膀胱経(頭・頸半棘筋筋)には弱い圧痛あり。ただしC6~Th2の高さの頭・頸半棘筋には非常に強い圧痛をみとめた。他に前胸部では小胸筋部に圧痛あり。
 
針灸治療は前回同様に実施した。しかし施術後、今回は治療後にも顎が上がらないと訴えた。これはある程度予想していた(意図的にC6~Th2傍刺針は単刺刺激した)。そこで椅座位でC6~Th2の高さの頭・頸半棘筋に座位で手技針を入念に実施。すると顎が上げられるようになった。治療直後は、顎-胸骨間距離は2横指以上になった

スナップ写真なので明瞭な違いは不明だが、初回治療前(左)は、顎が胸の上に接触している状態。
右写真では顎-胸骨間距離は2横指以上に開大している。

 

コメント:頸部の深層筋と表層筋について

熱海所記念病院HPによると首下がり症の病態生理を次のように説明していた。
首を支えた状態で維持する筋肉と首を持ち上げる筋肉は異なる。前者はインナーマッスル(=深層筋)で、後者はアウターマッスル(表層筋)。アウターマッスルが働くと瞬間的に頭を持ち上げることはできても、それを維持することが困難である、と。首下がり症候群は、同じ姿勢を保持できないので、前者の深層筋の障害になる。
頸部の姿勢保持には、頭半棘筋、頚半棘筋、多裂筋などが作用しているということだが、多列筋は腰仙骨部で発達しているが、頸背部ではあまり機能していない。頭蓋骨は前方に重心があるので下を向いてしまうのが自然だが、それを引き留めているのは半棘筋。頭蓋骨の重さを支えているのはむろん頸椎だが、頸椎の上に上手に頭蓋骨を載せて重心をとっているのが半棘筋の役割である。もし半棘筋がゆるめば、頭は下に垂れてしまう。
一方、頭板状筋、肩甲挙筋などは頚部を持ち上げる動作時に作用するので、姿勢には直接関係しない。
要するに頭半棘筋と頸半棘筋を重点的に診るとよいらしい。
 

下図も熱海所記念病院HPの図で、首下がり症では下部胸椎棘突起間が開きすぎていることを示している。これは下部胸椎~上部胸椎を引っ張り上げる筋力すなわち頸半棘筋に障害があるということらしい。実際、今回の症例でも下部胸椎~上部胸椎の一行に強い圧痛がみられ、刺針直後から顎が上がった。

 

 

こむら返りの病態生理と対応

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1.こむらがえりとは

「こむら(=腓)返り」とはふくらはぎが、つ(=攣)ること。腓腹筋痙攣 cramp in the calf で、これは有痛性筋痙攣の一種。腓腹筋に起こることが多いが、大腿、前脛骨筋、足指、足裏にも起こる。
 

2.病態生理

近年の研究では、“こむら返り”は、筋肉そのものではなく筋紡錘や腱紡錘(ゴルジ腱器官)がトラブルを起こした結果、発症するものと考えられるようになった。
  
1)運動時に起こるこむら返り
    
筋が伸びるとその中にある筋紡錘も伸びる。すると「筋が引っぱられた」との信号を中枢に送る。すると脳は「これ以上伸びると危険なので縮め」との指令を出し、運動ニューロンを介して筋が縮む。運動をしている最中や運動の直後に、こうした状態になりやすい。筋紡錘の機能が過剰亢進すると筋肉が収縮し続けるので、こむら返りをきたす。
 
事例:かつて95才男性が当院に来院していた。ゴルフマニアで冬でも週1~2回はコースを回るのを生き甲斐としている。しかし最近はプレイ途中でふくらはぎが痙攣し、どうしても途中棄権してしまうと訴えた。私はとりあえず痙攣しそうな処に、痙攣する前に円皮針を貼るよう指導した。すると次回来院時に言うには、以降ふくらはぎの痙攣はなくなり最後までコースを回れたと非常に感謝された。本患者は円皮針を外すことなく、次々に追加して貼ったので、ついに片側の下肢だかで数十個貼っている状態となった。風呂に入るのなで自然にとれるまで貼っておくと話していた(風呂で足裏に針が刺さるというので家族には不評だった)。
 

2)睡眠時に生ずるこむら返り
    
腱紡錘は、主に筋の縮みを感知するセンサー。筋が縮むと、腱紡錘はその縮みを感知。それを中枢に伝達。脳は「腱に負担がかかり過ぎになりそうになると、筋肉や腱を守るために、「これ以上縮むな」との指令を出す。ところで、<こむら返りとは骨格筋が強烈に縮む>ことである。脳は「これ以上縮むな」という命令を出しているのだが、腱紡錘の機能低下により、筋紡錘は勿論、腱紡錘も緩む方向に誘導できず、筋収縮を止められない。この結果としてこむら返りが生ずる。

 

図1:一つの筋中に筋線維は多数あり、筋紡錘もこれに並列に並んでいる。筋紡錘自体は、筋収縮する機能はなく、筋の伸張程度をモニターしている。筋線維が伸長すると「引っぱられた」との情報を得る。
図2:腱紡錘は筋腱移行部に直列で存在する。筋線維が収縮すると、腱紡錘は「引っぱられた」との情報を得る。この時、筋紡錘は無反応。

 

3.腱紡錘の働きが鈍る原因

こむら返りは、激しい運動中でも起こるが、安静にしていて起こる方が多い。とくに睡眠中にこむら返りが起こると、痛くて目が覚めるほどになる。安静時にこむら返りが起こるのは、腱紡錘の働きが鈍るのが原因である。ではなぜ働きが鈍化するのだろうか。
  
1)睡眠中
睡眠中は、筋肉の弛緩が長時間続く。これは腱紡錘への刺激がない状態が長時間続くということでもある。すると腱紡錘が休眠してしまい、腱が引っ張られたことを感知できなくなる。その結果、筋肉の収縮を抑制せずに、筋肉が収縮したままの状態になる。

2)電解質の異常
筋肉の収縮の調節にかかわるのがMgとCa。不足すると神経伝達に支障が生じ、腱紡錘の働きも鈍くなり足がつる。これはスポーツ中に脚がつるなどの場合の原因になるが、加齢や疲労、脱水、冷えなどによってもミネラルバランスはくずれ、同様の機序で足がつる。高齢者では咽の渇きを感じにくいので脱水に注意する。
  
3)冷え
布団から足が出ていたりして足が冷えると、血流が滞るので、これも足がつる原因になる。
   
4)器質的疾患
脊髄疾患:脊柱管狭窄症、腰椎椎間板ヘルニア
代謝疾患:糖尿病、腎臓病、肝臓病     ←入院で輸液が必要になる程度の電解質異常がある場合
血管疾患:閉塞性動脈硬化症、下肢静脈瘤
 

4.つった時の対処法
  
1)筋収縮が生じた筋肉を他動的に伸ばすことで、ゴルジ腱器官を刺激。腓腹筋痙攣発作時には、経験的に発作が治まるまで母趾を強く背屈させて腓腹筋ストレッチをすることが有効である。夜間の発作の最中この動作をするのは、起き上がらねばならないので面倒である。しかし患側の足母指のMP関節を強く背屈させて、腓腹筋のストレッチをするよ   うにすれば仰臥位のままできる。



2)手足、とくに足の保温につとめる。具体的には腓腹筋部に保温のためのサポーターを施す。

3)芍薬甘草湯:つったときに頓服的に服用する。ただし事前に服用しても効果あり。 効果発現まで平均6分。効果持続時間は4~6時間。内臓平滑筋痙攣も適応になる。
 

5.深腓骨神経ブロック(局麻注射)
   
高山瑩・伊藤博志は、腰椎変性疾患に伴うこむら返りで日常生活に支障が出ていた患者32人に対し、太衝穴から深腓骨神経ブロック(局麻注射)を実施。全例でこむら返りの発生頻度が1カ月に1回以下に減少すると発表した。一度行えば数カ月間、効果が持続する。なお中封からの深腓骨神経ブロックも試みたが、太衝ブロックよりも効果は劣った。   (「腰痛などを伴っているこむら返りに難渋している症例に対しての治療効果」:日本腰痛会誌、8(1):126--130.2002)

※この神経ブロックは、原理的に足母指を強力に背屈させるのと同じだが、持続作用があるらしい。太衝に円皮針を置いても効果あるだろうか?

6.腱紡錘の反応性鈍化が原因だとすれば、腓腹筋がアキレス腱に移行する部である承山・承筋への刺激が有効となるかもしれない。

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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