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私の行っている眼窩内刺針の方法 ver.1.5

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1.はじめに

以前私は、「 眼窩内刺針が刺激対象とするもの Ver.2.12015-08-19 」と題したブログを発表した。

https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/e15b8546ecd13a7f5c065a1709f3472c

この記事を読んだとして、眼精疲労を主訴とする患者が来院した。眼精疲労の来院患者は少なくないが、その多くは頸コリや肩コリも同時に訴えていたり、精神的ストレスがあったりしている。主訴が眼精疲労のみを訴える患者は珍しいことであった。

ところで中国や日本で眼科疾患を中心に治療している針灸施設であっても、必ず眼窩内刺針を行っている訳ではない。それは医療過誤を恐れてのことに違いない。針先が強膜(

三叉神経第2枝知覚支配、毛様体神経支配)を傷つけこれが感染源となる危険性はゼロはなく、医療過誤を起こせば場所が場所だけに大変な事態になるだろう。それに加え、眼窩内刺針を行わないと結果が引き出せないとする情報もない。万が一の危険性を考慮すれば、眼窩内刺針を行うにしても切皮程度に留めておくのが無難であろう。

 

2.眼精疲労症例(21才♂、学生)

数年前から目が疲れる、とくに左右に眼球を動かすと目頭が疲れるとのこと。近くの針灸院に行って眼窩内刺針をやってほしいと頼んだが断られ、私のブログを見て当院来院した。眼窩内刺針を希望していた。眼瞼に内出血する可能性があることを理解してもらった後、眼窩内刺針その他を行ったところ、患者は、これまでにない効果があったと述べた。
実際の治療点は眼窩内刺針の他に頭維刺針、上天柱刺針を行ったが、ここでは眼窩内刺針の技法について記してみたい。


3.眼窩内刺針の技法

眼窩内刺針には上眼窩内刺針と下眼窩内刺針があり、上眼窩内刺針の方が上眼窩と眼球の間が広いので刺針しやすい。眼瞼の内出血を防ぐためと、眼球に過多な刺激を与えぬ用心のため、寸6#1などの細い針を使うことが多い。
細い針を使うこともあって、上眼窩内刺針と下眼窩内刺針とも響きはないのが普通である。眼瞼の内出血を避けるために雀啄などの手技針はせず、単刺や置針をする。

1)睛明

疲れ目に際しては、母指と示指で両方の目頭のやや上方をつまむように押圧する動作を自然に行いがちである。その部位こそが眼精疲労の刺針点として相応しいだろうと考えてみた。患者を仰臥位にさせ、寸6#2にて内眼角部のやや上方に睛明穴をとり、ゆっくり直刺すると2㎝ほど刺入すると硬いものに命中すると同時に眼に響きを得ることができた。別の眼精疲労患者対して上睛明刺針を行てみても、やはり2㎝刺入で硬いものあたると同時に眼球に響きを得ることができた。結構、再現性がある。
睛明の深部には上眼窩裂がある。ここから三叉神経第1枝(知覚)と眼球を動かす役割のある動眼・滑車・外転神経が出る。 しかし視力機能とは関係がない。
最近、黄斑変性の患者を治療する機会を得た。いろいろな鍼灸院に通院経験がある方なので、患者的にどのような眼窩針が効果あるかを身をもって知っているようだった。その患者が言うには、上睛明より数ミリ外方を刺入点にした方が、眼に響くというこなので、新たな治療点としてこの部位に深刺すると、眼に響くということで満足したようだった。眼に響くというのは三叉神経第1枝を刺激したということだろう。

睛明は、掃骨針法で知られる小山曲泉が記しているように、「眼窩内に指を折り曲げて按圧した際、患者に快痛が得られる部が、その患者に適した治療点で、この穴に3~5番で圧痛方向に刺針して軽く雀啄すようにすると、快痛の響きがある」ということである。


2)上睛明

睛明穴の5~10㎜上方を取穴。睛明穴深部に上眼窩裂があるならば、上睛明穴深部には視神経管がある。視神経管とは視神経が通る孔、視神経は視力機能をつかさどる役割がある。すなわち視力と密接に関係しているといえよう。


3)球後

外眼角と内眼角との間の、外方から1/4 の垂直線上で「承泣」の高さにとる。球後深部には、下眼窩裂がある。下眼窩裂は眼窩下神経(三叉神経第2枝の分枝)が通る裂孔で、臨床上は眼窩下孔(=四白)刺激と同じ意味合いになる。視力には関係ない。三叉神経第2枝の眼窩下神経は、下眼窩裂を通過して四白から頭蓋骨外に出る。四白(眼窩下孔で、眼窩下縁の下1㎝)から外眼角にむけて斜刺すると、下眼窩裂に入れることも可能である。

以上の理由から、球後刺針は下眼窩裂への刺針を目的としていない。「球後」とは、眼球の後側という意味で、中国では内眼病の治療に多用されている。球後から眼球の裏に達するほど深刺した場合、おそらく毛様体神経節の刺激になる。
この刺針の適応は不明だが、眼球の裏には毛様体神経節、長・短・鼻毛様体神経などに影響を与え、眼に対する副交感神経刺激になる。ワサビを食べると鼻にツーンと辛さを感じ涙が出るのは、鼻毛様体神経興奮による。患者は眼球が熱く腫れる感じを覚えるという。
    
    
          


4)魚腰

眉中央に魚腰をとる。眼窩上神経痛の場合、眼窩内病変や帯状疱疹などの二次性原因の他に、やはり特発性があり、特発性の場合、額から眉への水平刺が有効になることが多いが、このような施術の一貫として、魚腰穴あたりからの上眼窩刺針を行う方法がある。眼窩上神経は、顔面表情筋により絞扼されて眼窩上神経痛を起こすことが知られている。前頭部の皮神経痛を生ずる代表は眼窩上神経だとされる。(なお大後頭神経痛は、後頭部の頭半棘筋の絞扼が原因とされる)
(参考文献:清水暁:頭蓋表層の解剖学的要因による頭皮神経痛と頭痛-眼窩上神経痛・後頭神経痛・開頭術後頭痛-、臨床神経学、54巻4号(2014.5)

 

5)涙腺刺激

眼窩の外上方に涙腺がある。「このあたりを刺針すると涙腺刺激になるので、ドライアイに効果あるかも知れない」と考えるのは早計である。
ドライアイの主原因は涙量が減るのではなく、涙層の上にある油層が減ることで、眼球表面を覆う水層が蒸発しやすく理由による。
したがって、油層を多量に出すためには、その出どころである上瞼縁にあるマイボーム腺の分泌を活性化させるのがよい。それにはまず瞼の温罨法(蒸しタオルをあてる)などが推奨できる。針は、上眼瞼への散針を行う。

 

 


筋痙縮時の自己防衛策

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もう少し寝かせて成熟させて発表しようと思っていた題材があったのだが、「しゅう鍼灸院」の柏原修一氏から下記1の記事があることを教えてくれた。記事が鮮度を保っている間に、この内容を発表することにした。


1.マラソン中、足が痙攣したら安全ピンで刺した話
 
令和5年2月26日放送のフジテレビ「ジャンクSPORTS」の中で、(元マラソン選手の福士加代子は、高校時代に長距離走中に足が痙攣した際は、叩いたら痛みを忘れるとかあるとかで、安全ピンで自身の足を刺したという話をしていたという。

これはテレビで流して良い話ではない。マネされて事故が起きればテレビ局の責任になるからだ。ピンで刺すのは衛生面や安全面に問題はある。ただし強く痙縮する筋に対して、痙攣している部を自分の指腹で強く強圧して急場をしのぐ行為は、普通のことではないかと思った。
 

2.腹筋痙攣に対する自己対策
 
私は以前から無理な姿勢で上体を前屈した時などに、突然片側の内腹斜筋がつることがあった。年に1~2回のこと。つった瞬間は、自分でも分かり大した痛みはないが、数秒後から次第に腹筋か強く収縮して耐え難いほどの痛みになるのが常だった。それを必死で我慢すると、数分後に痛みは自然消失する(ときに筋の一部分に持続性収縮状態が残ることもあり)。

つった瞬間、から激しい痛みに至るまで、猶予は5秒間程度あるので、何とか激しい痛みにならないよう、自分なりに対策をたててみた。
対応A:前屈して腹筋をゆるめておく
 →でいつもより強い筋痙攣が生じ、最悪の結果だった。
対応B:腹臥位となって床に寝て、上体を起こすことで、腹筋を他動的に伸張させる
 →何もしないより痛みは2~3割減っただけ。
対応C:これから腹筋が痙攣するのを見越し、あらかじめ自分で腹筋を収縮させておく。
 →何もしないのと比べ、痛みは1/3程度となった。
  

なぜこのような結果になったのは不明だが、対応Cは制御された筋収縮になったのではないかと思っている。部位的に指頭で押圧すると、皮下組織が多いので筋を強圧するには無理があった。

太陽穴の局所解剖と瀉血意義

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1.頭痛薬「乙女桜」の話

伝統的に、頭痛はコメカミの具合が悪いと頭痛になると考えられたようで、かつて我が国では頭痛の民間治療として、コメカミに米粒やすりつぶした梅干をテープで貼り付けたりしていた。これにヒントを得て、明治時代末期には、コメカミに頭痛膏「乙女桜」(サロンパスを小さくしたようなプラスター剤)を貼ったりもしていた。昭和の時代、おばあさんが貼っているのをたまに見かけたものだ。
現代でも同様の貼薬である「点温膏」や「おきゅう膏」が市販されている。


2.牧畜民チャムスに伝わる「ンゴロト」

ケニアの牧畜民チャムスに伝わる伝承医学には、「ンゴロト」(弓矢式瀉血)という方法がある。通常の瀉血では治らない激しい頭痛の際には、矢じりの先数ミリを残して布のテープを巻きつける。患者の首を革ひもで絞め、こめかみに血管が浮き上がってきたところを、左右とも近距離から弓矢でいる。首の革ひもをといて、出血を弱める。血が止まるまで放置する。頭痛がするときは、こめかみから血が飛び跳ねるが、余分な血を抜くと、血管に適量の血液が流れるようになり、頭痛は鎮まるという。



3.側頭部局所解剖の特殊性
昔から頭痛の際には、コメカミ刺激が行われていたが、なぜコメカミに注目したのだろうか。この理由を局所解剖から探ることにした。

1)側頭筋の局所解剖
太陽穴から直刺すると、まず側頭部脂肪体をつらぬき、続いて側頭筋中に入る。側頭筋の浅層には側頭部脂肪体がある。側頭部脂肪体は表層。裏層ともに筋膜があるので、側頭筋部は弾力に富み、指頭で押圧するとグリグリと可動する。粗な組織である上に、静脈血流に富むので、静脈鬱血になりやすい。ごくたまに痩せた中高年者で、太陽穴あたりが凹んでいる者をみることがある。これは側頭部脂肪体が減った結果だが、老けてみられることもあるため、本人の気持ち次第だが美容整形の対象にはなる。

 

2)コメカミ瀉血の適応症
    
頭痛や眼の疲れを訴える場合、太陽穴付近が鬱血しているようなら、瀉血して放血させることがある。粗な組織の中に静脈が走っているので、止血しづらいので多量に放血できる。さらに浅層には浅側頭頭動脈があって、眼球自体の栄養血管である眼枝を分岐しているからか、眼がすっきりする効能もある。 
  

3)坂口弘(細野診療所医師)の経験
   
瞳子髎から耳のほうへ少し寄って一面に圧痛がある。ここへ太い針を刺す。私は注射針にてヤトレンカゼインを薄めたものをごく少量注射する。多くは針を抜くとタラタラと出血する。なるべくこの出血を十分出すように絞る。充血と流涙で目が開けられなかった者が、帰途にはパッチリとあくといったケ-スがよく見られる。(坂口 弘:得意とする疾病とその治療法、「現代日本の鍼灸」、医道の日本社、昭和50年5月) 

※ヤトレンカゼイン:戦前の医学で、感染症に対して使われた注射液。牛乳のタンパク質を原料とする。
   

 

「五官科」現代針灸実技セミナー のお誘い

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第7期奮起の会「五官科」現代針灸実技セミナー

この度、第7期奮起の会として「五官科」領域の針灸実技講習会を4回シリーズで開催します。これまでの第1~第6回は整形外科疾患の針灸実技セミナーを実施してまいりましたが、五官科は今回が初になります。実施日程は1月頃に提示した予定とは少々異なり、6月に予定していた実技セミナーは針灸学校授業日程の関係により、7月実施に変更しました。

<<募集要項>> 
1.セミナー実施日
 第1回 4月16日(日曜)  第1章 耳科
 第2回 5月21日(日曜)  第2章 歯科   
 第3回 7月2日 (日曜)  第3章 鼻科・第4章 咽喉科     
 第4回 7月16日(日曜)  第5章 眼科・第6章 皮膚科   

2.実施時間:午後5時30分~午後8時頃

3.会場:国立市中1丁目集会所(国立駅南口下車 徒歩3分)

           

4.参加費:有資格者7,000円、針灸学生6,000円、見学3,500円(当日支払い)  オリジナルテキスト配布
5.参加資格:針灸師、医師
6.定員:各回12名 
7.持参品:筆記用具程度。テキスト、針、消毒用品は当方で支給
8.御申込方法 令和5年3月5日(日)より受付中
①参加希望のテーマと開催予定日、②氏名、③住所、④電話、⑤メールアドレスを、メールまたは電話でお伝えください。
折り返しご連絡を差し上げます。
9.参加〆切:各回実施前日まで(定員になり次第、締切ります)

10.お問い合わせは以下まで
似田 敦(にただ あつし) nitadakai825@jcom.zaq.ne.jp    電話:042(576)4418
〒186-0004 東京都国立市中1-11-26 あんご針灸院 

※講習会後は居酒屋で懇親会もします。(参加費は当日実費払い。3000円程度)

    五官科テキスト表紙

 

<<実技内容>> 残席数は、3月6日現在の情況です

第1回4月16日  耳科<残席数8>
第1章 耳科 テキスト14ページ  
実技項目
  1)耳介周囲穴の取穴と刺針(天牖、長野流翳明)
  2)耳鳴に対する顔面神経下顎縁枝(頬車~大迎)刺針
  3)耳鳴りに対する下関刺針
  4)耳鳴に対する下耳痕刺針
  5)耳鳴に対する鳴天鼓
  6)頸性めまいに対する座位にて天柱深刺
  7)頸性めまいに対する胸鎖乳突筋ストレッチ


第2回5月21日 歯科<残席数8>
第2章 歯科 テキスト12ページ      
実技項目                   
  1)下歯痛に対する頬車水平刺 ※耳鳴に対する顔面神経下顎縁枝(頬車~大迎)刺針と類似
  2)上歯痛に対する客主人斜刺    
  3)歯肉炎に対する歯肉への刺針
  4)口内炎に対する局所への線香火刺激
  5)口角炎に対しての口角部への小灸刺激
  6)舌痛に対する舌根刺激
  7)顎関節症Ⅰ型に対する咬筋刺激
  8)顎関節症Ⅰ型外側翼突筋下頭刺針(下関直刺)
  9)顎関節症Ⅰ型に対する顎二腹筋後腹への刺針
 10)顎関節Ⅱ型に対する耳門への刺針
 11)顎関節症Ⅲ型に対する下関から外側翼突筋上頭への斜刺


第3回 7月2日  鼻科と咽喉科<残席数8>
第3章 鼻科 テキスト6ページ  
実技項目  
  1)鼻閉に対する挟鼻刺針と上唇鼻翼挙筋マッサージ
  2)鼻閉に対するひろゆき氏の息止め手技
  3)鼻閉に対する顖会、上星の施灸
第4章 咽喉科 テキスト9ページ 
実技項目
  1)咽痛に対する洞刺
  2)咽痛に対する口蓋扁桃刺
  3)咽痛に対する上喉頭神経内枝刺
  4)咽痛に対する頸動脈洞刺
  5)咽の詰まり感に対する舌根(=上廉泉)刺針
  6)咽の詰まり感に対する舌骨上筋のストレッチ押圧
  7)咳嗽・気管支喘息に対する治喘・定喘の刺針施灸
  8)咳嗽・気管支喘息に対する天突移動刺針


第4回 7月16日  眼科と皮膚科<残席数8>
第5章 眼科テキスト14ページ 
実技項目 
  1)外麦粒腫に対する二間灸
  2)外麦粒腫眼瞼部の多数散針
  3)網膜疾患に対する上睛明刺針(注意)
  4)網膜疾患に対する球後刺針(注意)
  5)眼精疲労に対する強間~風府刺絡
  6)眼精疲労に対する伏臥位での上天柱深刺
  7)眼精疲労に対する座位での肩中兪深刺
  8)眼精疲労に対する太陽穴刺絡(注意)                     
第6章 皮膚科 テキスト 14ページ
実技項目
  1)面疔に対する下頤の灸と合谷患側合谷に多壮灸
  2)ヒョウソに対して圧痛ある患部指上の施灸
  3)アトピー性皮膚炎の痒みのある皮膚表層に対する刺絡
  4)アトピー性皮膚炎の痒みに対するペットボトル温灸

首下がり病に上部胸椎二行の刺針が有効な例(89才、女性)ver.1.2

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 本患者のこれまでの経緯

4年前(85才頃)ほど前から、急に顔が正面に向けづらくなってきた。右手のしびれと脱力感も出てきたので、整形訪問。手根管症候群と腱鞘炎と診断され、手術をうけた。それにより右手症状は改善したが、顔の上げづらさは不変。顔が下を向いた状態で、正面を見ることが非常に困難。マクラをしないと仰臥位になることはできない。握力は左8㎏、右10㎏。
 
この患者は以前から頸痛、背痛などでたまに当院に受診していた。今回は2年ぶりの来院で、その時に顔が下を向きっぱなしになっていたので、非常に驚いた。高齢であることから、頸椎圧迫骨折による変形性頸椎症とその時は思った。
 
そうなると、針灸治療の方針は、頸部に加わった力学的ストレスを一時的にでも緩和し、筋疲労をとることだと考え、頸椎と上部胸椎の一行深部筋(半棘筋や多裂筋など)をゆるめ、また頭蓋骨と頸椎間の筋疲労を改善するため、後頭下筋郡や頭半棘筋をゆるめることだと考えた。側臥位で、これらの筋に刺針し10分置針した。要するに一般理学療法のような施術をした。それ以外の治療法を思いつかず、効果も不明だった。こうした治療を年に数回行った。

最近、この患者がまた来院。大学病院を受診した結果、「首下がり症」と診断されたという。担当医は「後頭部を下に引っぱる筋がはずれていている(原文まま)。骨にボルトを入れ、頭を支える手術を行う手もあるが、高齢なので心配だ。自分はこれまで7例手術した」と説明した。頸椎変形については、特に指摘されなかった。顎が胸に付いている状態”chin on chest”でありで、後頭部よりも上部頸椎の方が上にあった。

「首下がり病(=首下がり症候群)」は初耳だった。関節の問題でなく、筋の問題であるならば針灸でも治療方法があるかもしれないこと、後頭部を下に引っぱる筋は多数あるので、はずれてしまった筋があっても残存する筋の収縮力を復活させることができれば、症状が軽減するかもしれないと思った。本患者の最も強い圧痛点は、C7~Th3の2行なので、頸半棘筋のアイソトニック筋収縮状態であり、頭蓋骨を前に倒れそうになるのを、防いでいると考察した。左上天柱の圧痛は頭半棘筋停止部反応。



針灸治療

ベッドを前にして椅座位。ベッドにはマクラを置くなどして高さを調節し、額をマクラにつけ、上体を前屈姿勢にする。この姿勢で、下部頸椎~上部胸椎一行の左右6~8箇所に雀啄後5分置針。後頭骨-C1間の頭半棘筋・大後頭直筋にも同様の手技針を行った。

直後効果

顎が少し持ち上がり、前を向くことができるようになった。治療効果があったので、週一回ペースでしばらく来院することになった。緊張し過収縮している筋に対して刺針すると、筋緊張がゆるみ筋長が増すというのが普通の考え方だが、今回の等張性筋収縮状態に対しては、これを緩めると、余計に頭が垂れてしまうのではないかとも思った。筋の起始停止に刺針するのは腱紡錘に加える刺激で、筋は伸張する。これに対して筋腹に対する刺針は筋紡錘に加える刺激ということなので、筋は収縮するのではないか?


再診時(1週間後)
 
前回治療前によりも顎が上がっているように見えた。再度頸部の圧痛点を探ってみたが、圧痛点分布は前回と変わりなし。要するに前頸部に圧痛なし、胸鎖乳突筋を除く側頸部筋も圧痛なし。後頸部では頭半棘筋の停止部と胸鎖乳突筋の乳様突起停止部に強い圧痛あり。後頸部膀胱経(頭・頸半棘筋筋)には弱い圧痛あり。ただしC6~Th2の高さの頭・頸半棘筋には非常に強い圧痛をみとめた。他に前胸部では小胸筋部に圧痛あり。
 
針灸治療は前回同様に実施した。しかし施術後、今回は治療後にも顎が上がらないと訴えた。これはある程度予想していた(意図的にC6~Th2傍刺針は単刺刺激にとどめたので)。そこで椅座位でC6~Th2の高さの頭・頸半棘筋に座位で手技針を入念に実施。すると顎が上げられるようになった。治療直後は、顎-胸骨間距離は2横指以上になった

スナップ写真なので明瞭な違いは不明だが、初回治療前(左)は、顎が胸の上に接触している状態。
右写真では顎-胸骨間距離は2横指以上に開大している。

患者の希望で中背部まで凝っているという訴えがもあったので、後頭骨~Th7の高全体にわたり、棘突起外方1.5寸あたりに左右合計10本程度での入念な雀啄施術をするという方法に落ち着いている。

 

コメント:頸部の深層筋と表層筋について

熱海所記念病院HPによると首下がり症の病態生理を次のように説明していた。
首を支えた状態で維持する筋肉と首を持ち上げる筋肉は異なる。前者はインナーマッスル(=深層筋)で、後者はアウターマッスル(表層筋)。アウターマッスルが働くと瞬間的に頭を持ち上げることはできても、それを維持することが困難である、と。首下がり症候群は、同じ姿勢を保持できないので、前者の深層筋の障害になる。このような重力に抵抗して姿勢を維持する筋を、抗重力筋とよぶ。
頸部の姿勢保持には、頭半棘筋、頚半棘筋、多裂筋などが作用しているということだが、多列筋は腰仙骨部で発達しているが、頸背部ではあまり機能していない。頭蓋骨は前方に重心があるので下を向いてしまうのが自然だが、それを引き留めているのは半棘筋。頭蓋骨の重さを支えているのはむろん頸椎だが、頸椎の上に上手に頭蓋骨を載せて重心をとっているのが半棘筋の役割である。もし半棘筋がゆるめば、頭は下に垂れてしまう。ゆえに半棘筋は静止時の姿勢保持に関与する。

一方、頭板状筋、肩甲挙筋などは頚部を持ち上げる動作時に作用するので、姿勢には直接関係しない。後頭下筋群は、体動によって変化する頭位の変化を中枢に伝達することで姿勢変化に対応している。ゆえに後頭部下筋はめまいの治療点となり得る。
本疾患は、重力に負けた状態なので、頭半棘筋と頸半棘筋を重点的に診るとよい。抗重力筋は、本人の無意識のものとで働いている。バランスを崩しそうになると。大きくバランスがずれる前に、いち早く短時間収縮してバランスを回復する。ロケットの姿勢制御噴射のようだ。よくある運動時の筋コリに対しては、コリを緩める目的で筋の起始停止に刺針するのが普通だが、安静時のコリに対しては筋腹に対する刺針がてきしているのではないかと思った。

 

下図も熱海所記念病院HPの図で、首下がり症では下部胸椎棘突起間が開きすぎていることを示している。これは下部胸椎~上部胸椎を引っ張り上げる筋力すなわち頸半棘筋に障害があるということらしい。実際、今回の症例でも下部胸椎~上部胸椎の一行に強い圧痛がみられ、刺針直後から顎が上がった。

半棘筋の”半”とは背骨の上半身にあることからの命名されたという。

頭半棘筋は太く発達しており、頭の重量を支持し、これに対して後頭下筋群は、体動によって変化する頭位の変化を中枢に伝達することで姿勢変化に対応している。ということは後頭下筋への刺激は、頸性めまいに有効なことが示唆されることになる。

 

JSカッサ治療入門セミナーは、ほぼ満席となりました。

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令和4月2日実施予定の、似田敦協賛「JSかっさ治療入門セミナー」まで、残すところ3週間になりましたが、早くも残席2名です。お早めにお申し込み下さい。満席後に希望される方は、「第二回 JSカッサ治療入門セミナー」開催時、優先的にご案内させていたきます。

※なお本セミナーは、4月2日午後3時~5時30分、国立市中1丁目集会所で実施予定。

https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/18379aaa8933257b844f8ead5722a368

JSカッサ入門セミナーのお誘い ↑

 

「JSかっさ治療」の症例をいくつかご紹介します。信じ難いかもしれませんが「JSかっさ治療」は、以下のような即効性ある効果がみられます!

1.慢性疲労症状群・シェーグレン症候群のの疑い(49歳、女性)

病歴:風邪をひいたことがきっかけで、8年間、寝たきり生活となっていた。
診断名:慢性疲労症候群、シェーグレン症候群の疑い。

治療:1回のJSかっさ治療で、様々な症状が消失し、その日から起き上がり、家事ができるようになった。
※8年間の慢性疲労症候群は瘀血が原因であったと思われた。

消失した症状:微熱、息苦しさ、動悸、食欲不振、不眠、思考力の低下、脱毛、起床時の吐き気、唾液が出ない、目の乾燥、口腔内や鼻の奥が熱い、喉の腫れと痛み、後鼻漏、
低血圧、起立時の頻脈、星が見える、手足の痺れ、体の痛み。
                               
                                

2.肩関節痛(50才、女性)

病歴:美容師をしている。疲労の蓄積により徐々に左腕が重く、肩が痛く挙がらなくなり、2カ月が経過していた。
治療:前腕部へのJSかっさ治療5秒間で痛みが消え、腕が挙がるまでに改善した。
 
   

  

3.月経痛(14才、女性)

病歴:中学2年。重い月経痛(下腹部痛、腰痛)。10歳で初潮を迎えてから4年間、毎回月経痛があり、起きられないこともある。
治療:10分間のJSかっさ治療で、翌月からの月経痛が消失。痛みのない月経は初めてのこと。
※JSかっさ治療では、ほとんどの場合、翌月からの月経痛が消失し、周期が整う。
月経が整うこと、腹部瘀血が排出されることで、子宝も授かりやすくなる。
                             
                              
                           

ベル顔面麻痺に下耳痕パルス ver.1.1

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1.ベル麻痺の病態と症状

ベル麻痺とは特発性末梢性顔面表情筋麻痺のことをいう。原因不明だが、顔面神経管の末端や茎乳突孔付近の浮腫による、顔面神経圧迫が想定されている。

2.ベル麻痺の症状と鑑別

突発的で急激に発症し、顔面麻痺中で最も高頻度。片側の顔面表情筋の麻痺。

・額のシワ寄せ可能→中枢性顔面麻痺(片麻痺など)
・顔面麻痺発症の数日前に顔面痛あり外耳道に水疱→ハント症候群
・両側性の顔面麻痺→ギランバレー症候群

3.ベル麻痺の経過と予後

3週間以内に回復が始り、80%は自然治癒。長い人では半年以上治癒や回復に時間がかかる者もいる。発病当初は、副腎皮質ホルモンの毎日の点滴、場合により毎日の星状神経節ブロック。期間が経つにつれ、間隔をあけていく。

4.ベル麻痺の針灸治療

麻痺筋のモーターポイントもしくは顔面上の顔面神経走行部に刺針し、10~20分間のパルス通電するという方法が最もよく行われている。非鍼灸治療群と比較しての有効性は証明されていないが、施術者・患者とも効いているという実感はある。
もしベル麻痺発症して1週間後から鍼灸治療を開始するならば、発病後8割は3週間以内に改善が始まるということなので、単なる自然治癒を鍼灸治療のお手柄だと誤認することにもなるだろう。鍼灸治療家としては有難いことである。


顔面神経は、茎乳突孔(翳風)から頭蓋外に出て、耳垂の深部(下耳痕)を通過してから、いくつかの分枝に分かれ、それぞれ顔面表情筋モーターポイントまで走行しているので、私は耳垂からいくつかある麻痺筋を直線で結び、その線上の要点を治療点として選ぶようにする。

ベル麻痺のパルス通電治療で筋を攣縮させる治療そして無理な顔面表情筋の訓練は、一部の医師から批判されている。治癒過程で共同運動を促進させることが、分離運動を不能にするという指摘からである。この立場からは軽いマッサージや温熱治療を推奨している。一方別の医師は、多少の共同運動が出現することはやむを得ないという見解をしている。パルスによる筋の単収縮が、パルス周波数に追従できないほど速くすること(たとえば100ヘルツ)で行えば、パルスの副作用を防止するとの見解もある。いろいろな意見があるので困る。

必須治療は下耳痕穴パルスである。ここは顔面神経が枝分かれする手前なので、針の深度角度の調整により、顔面のどの麻痺筋をも攣縮させることが可能である。翳風も同じことがいえそうだが、翳風から顔面神経に当てるのは技術的に難しく、無理に行うと患者に強い痛みを与えがちになるので使うことは難しい。
下耳痕刺針で、2㎝ほど深刺すると、舌咽神経の鼓室枝に命中し、耳中に響く。これは難聴・耳鳴の治療に用いる。
 
※下耳痕穴の位置
耳垂が頬部と付着している線の中央。1~2㎝刺入。パルス機のコードを針につなぎ、電流を流しながら刺針転向法を行い、目的とする顔面筋に攣縮を与える位置を探し、10~20分間通電する。この穴の深層には鼓室神経が走っているので、2~3㎝深刺して鼓神経に影響を与えた場合、鼓膜や鼓室に響きを与えることができる。このため、難聴・耳鳴の治療穴として筆者は行うことが多い。(パルスはせず、30~40分程度置針)

 


 




ベル麻痺に下耳痕置針 ver.1.1

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 1.ベル麻痺の病態と症状

ベル麻痺とは特発性末梢性顔面表情筋麻痺のことをいう。原因不明だが、顔面神経管の末端や茎乳突孔付近の浮腫による、顔面神経圧迫が想定されている。

2.ベル麻痺の症状と鑑別

突発的で急激に発症し、顔面麻痺中で最も高頻度。片側の顔面表情筋の麻痺。

・額のシワ寄せ可能→中枢性顔面麻痺(片麻痺など)
・顔面麻痺発症の数日前に顔面痛あり外耳道に水疱→ハント症候群
・両側性の顔面麻痺→ギランバレー症候群

    ※ギランバレー症候群の症状語呂:「獅子両面の手袋買いに」   
 獅子(四肢運動麻痺)両面(両側性顔面麻痺)の手袋(手袋足袋型の知覚麻痺)買いに(蛋白細胞解離)
 四肢の運動麻痺(脱力)、両側顔面神経麻痺、手袋足袋型の知覚障害、蛋白細胞解離

3.ベル麻痺の経過と予後

真性のベル麻痺であれば3週間以内に回復が始り、約7~8割は自然治癒するとされている。治癒率を下げている原因は、ハント症候群である。ベル麻痺と診断された中は、隠れハント症候群(疱疹がない「無疱疹性帯状疱疹」)が含まれているらしい。ベル麻痺の2割程度は完治しないのに対し、ハント症候群では3~4割完治しない。

ベル麻痺の発病当初は、副腎皮質ホルモンの毎日の点滴、場合により毎日の星状神経節ブロック。期間が経つにつれ、間隔をあけていく。

  


4.ベル麻痺の針灸治療

麻痺筋のモーターポイントもしくは顔面上の顔面神経走行部に刺針し、10~20分間のパルス通電するという方法が最もよく行われている。非鍼灸治療群と比較しての有効性は証明されていないが、施術者・患者とも効いているという実感はある。
もしベル麻痺発症して1週間後から鍼灸治療を開始するならば、発病後8割は3週間以内に改善が始まるということなので、単なる自然治癒を鍼灸治療のお手柄だと誤認することにもなるだろう。鍼灸治療家としては有難いことである。


顔面神経は、茎乳突孔(翳風)から頭蓋外に出て、耳垂の深部(下耳痕)を通過してから、いくつかの分枝に分かれ、それぞれ顔面表情筋モーターポイントまで走行しているので、私は耳垂からいくつかある麻痺筋を直線で結び、その線上の要点を治療点として選ぶようにする。

ベル麻痺のパルス通電治療で筋を攣縮させる治療そして無理な顔面表情筋の訓練は、一部の医師から批判されている。治癒過程で共同運動を促進させることが、分離運動を不能にするという指摘からである。この立場からは軽いマッサージや温熱治療を推奨している。一方別の医師は、多少の共同運動が出現することはやむを得ないという見解をしている。パルスによる筋の単収縮が、パルス周波数に追従できないほど速くすること(たとえば100ヘルツ)で行えば、パルスの副作用を防止するとの見解もある。いろいろな意見があるので困る。

必須治療は下耳痕穴パルスである。ここは顔面神経が枝分かれする手前なので、針の深度角度の調整により、顔面のどの麻痺筋をも攣縮させることが可能である。翳風も同じことがいえそうだが、翳風から顔面神経に当てるのは技術的に難しく、無理に行うと患者に強い痛みを与えがちになるので使うことは難しい。



※下耳痕穴の刺針深度と2つの用途

耳垂が頬部と付着している線の中央にとる。本穴は浅層に顔面神経が通り、深層には鼓室神経が通っている。したがって顔面神経麻痺の治療に際しては、1~2㎝刺入。パルス機のコードを針につなぎ、電流を流しながら刺針転向法を行い、目的とする顔面筋に攣縮を与える位置を探す。針先が顔面神経に当たっていることを確認できたら、パルスのスイッチを切り、10~20分間置鍼する(通電しない)。
難聴耳鳴の際には、下耳痕から2~3㎝深刺して鼓神経に命中させる。きちんと命中できれば鼓膜や鼓室に響きが得られる。その後、パルスはせず、30~40分程度置針する。

 


 

 

 


歯周病に対する局所刺針の方法と女膝の灸 ver.1.7

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1.現代の歯周病の診療

1)歯周炎の原因
   
①老化:30才を過ぎれば、誰でも多少は歯周炎は生じている。歯周炎の最大要因は老化。他に、強く咬む習慣など。

②糖尿病:糖尿病では口内の血流も悪くなるので唾液の分泌も減り、歯垢がつきやすくなるで、細菌易感染から歯周病を悪化させやすい。歯周病になると歯周ポケット内の歯垢部細菌を白血球が退治しようと集合する。集まってくるが、この時、白血球が歯周病菌の出す毒素に触れることでTNF―αと呼ばれる物質を放出する。TNF―αには血液中のインスリンの働きを妨げてしまう作用がある。歯周病の治療をすると血糖値も少し改善する。

2)歯周炎の症状

歯肉のむずがゆさ、歯肉縁の発赤と出血、唾液粘稠性の変化、口臭といった症状を生ずる。   
※歯垢(=プラーク)が歯の表面ではなく歯周ポケットにできると細菌にとって格好の住み家となる。
     歯槽膿漏の治療として歯石除去は基本である。歯石とは歯垢が石灰化して固くなったもの。

3)歯科での歯周病の治療と予防
  
①歯磨きブラッシングにより歯肉マッサージをすること。歯ブラシすると血が出るところ、押圧して痛みがあるところを重点的にラッシングする。毎日行うことで、歯茎を引き締め、歯磨き時に出血しにくくなる。歯磨きは、歯周病の原因菌数を減らすことが目的であって、原因菌を完全に消し去ることできず、再発を繰り返しやすい。効果不十分であれば外科処置となる。
  
②歯石を取り除く。歯垢(プラーク)は放置しておくと次第に硬くなり硬い歯石になる。歯を取り除くには、デンタルブラシやデンタルフロス(フロスとは細い糸の集合体)を使い、歯磨きブラシだけではとれない歯間の歯苔を除去する。
  
③糖尿病があれば、その治療を行うことが歯周炎の治療にもなる。


2.歯周病に対する鍼灸治療

1)江戸時代以前の歯科治療方針

①耐え難い歯痛では抜歯

当時は麻酔などなかったから、冷やしたり痛み止めの漢方薬を虫歯に塗布したりして何とか我慢した。どうしても我慢できないほどの痛みは抜歯する他なかった(当然無麻酔で)。ただし徹底的に我慢すると歯や神経が崩壊して痛みはなくなるという。


②歯茎の腫れや出血では歯肉を切って血や膿を出した  

江戸時代の歯槽膿漏の治療法は、腫れた歯肉に鍼を刺し、膿を出す孔を開けることで鎮痛させたという記録がある。孔から膿を逃がすことが治療の一つとして選択された。江戸時代以前、「おでき」は熱毒が体内にとどまり、外に逃がせない状態と考えられた。外に出すには皮膚に鍼で孔を開けたり打膿灸で膿ませて膿を出すことだった。桜井戸の灸(面疔に合谷の多壮灸)というのは、顔面にできたオデキの毒を合谷から排膿させるという治療原理である。これは桜井戸の灸に限らず、打膿灸の治効原理になる。


③虫歯地蔵への参拝

江戸時代以前には、虫歯の痛みをなくしてもらおうと、虫歯地蔵も各地に建てられた。煎った大豆を供えて平癒を祈ったという。煎ると殻が割れるが、その割れ目から歯中に入った虫を外に外に逃がそうとする願いがあったと思われた。

私は令和3年の5月初旬に、奥多摩にハイキングに出かけたが、旧五日市街道沿いに虫歯地蔵尊を発見して少々驚いた。質素な石仏だった。


 

3.現代の歯科の鍼灸治療

1)歯肉に対する直接刺針

歯周炎に対する現代歯科での治療は、歯石の除去と自宅での歯ブラシでの入念な歯肉マッサージと歯間ブラシの使用であって、現代に至っても特効的な治療方法があるわけでない。歯肉に物理的刺激を与えるという意味で歯肉に対する鍼灸局所治療は、次のように行う。

①どこが腫れているのかを患者に聴取、その圧痛部を患者自身の指頭で指示してもらう。
②術者はその圧痛を確認後、1番針を使って圧痛点から数本直刺し、歯肉部に刺入。
③歯肉の血行促進を目的に単刺するか、雀啄により患部に軽く響かせた後、置針するなどの施術を行うのが普通

※圧痛点は口裂の上下一横指の頬部や下顎部に出現する。
下図は、木下晴都「最新鍼灸治療学」からの転用だが、上歯の反応点は外鼻孔の高さであり。下歯の反応点はもっと顎に近い部位になるだろう。私が考えた施術点の図を後に加えてみた。

 


2)歯周炎に対する女膝の灸

①女膝の位置と灸治法

歯周病に対する特効穴としては、女膝(じょしつ)が知られている。女膝は女室と表記することもある。このツボの位置は、アキレス腱停止部にあり、歯茎との関係は不明だが、形が似ているものは何かしらの関係性があるとする東洋医学的整体観から考察すると次のことはいえるだろう。踵骨を後からみると、前歯と似た形をしている。歯は上半分が歯肉から出て、下半分は歯肉に埋まっている。その境界の歯茎から血や膿がでるのが歯槽膿漏ならば、その境界部分こそ患部であり、位置関係を踵骨に当てはめれば、女膝に相当することになるのではないだろうか。

江戸後期の浅井惟亨著『名家灸選』の中に女膝の記載がみられる。現代文に訳すと次の通り。
骨槽風(=歯槽膿漏)を治する法:足の後かかとの赤白肉の際で、女膝とよばれているところ。左右に各50壮灸すると、一ヵ月にして効き目がある。かって歯茎に孔があき、膿血がだらだらとたれていた者を救った経験がある。
 
山本俊男「鍼灸特効穴一発療法」源草社 1999.5)では次のような記載がみられる。
女膝施灸時の体位は、患者を伏臥位にさせ、足関節を最大限に底屈、踵後方にできる皺あたりを指で探ると、踵骨の上際中央付近に小さな凹みがあって、症状を持った患者であれば、顕著な圧痛があるので、ここが灸点になる。毎日10壮ずつ施灸すると炎症が治まってくる。
 
この文章から女膝の位置を推定したのが下図である。伏臥位で足関節を底屈すると、踵骨後部にる凸部やアキレス腱停止部である踵骨隆起が触知しやすくなる。

②女膝の名称

「膝」とは今日でいう膝関節に留まらず、折り畳んだ部分を「襞(ひだ)」とよびどの関節であっても膝とよんだという説が有力である(ネット「語源辞典」より)。女膝穴は足関節部にあるが、ここを膝と呼んでも差し支えない。

歯周病は、女性の方が男性よりもかかりやすい。掛かりやすい。その原因として考えられているのが、プロゲステロンやエストロゲンなどの女性ホルモンである。女性ホルモンには、歯茎の腫れや出血を起こしやすくする性質がある。女性ホルモンの分泌が増えるのは、初潮を迎えた頃や妊娠中で、ホルモンバランスが乱れるという点からは更年期も歯周病にありやすい。特に更年期は、口内での唾液の分泌量が低下して口の中が乾きやすくなるので、歯周病の進行がより一層進みやすくなる。以上のことからとくに「女」膝という名称になったと考察した。

正座のことを女膝ということがあるという。男膝との熟語はないようだが、正座以外の楽な姿勢で座ることだろう。正座姿勢では、足関節は強く底屈している状態なので、女膝穴の取穴に適しているといえるのではないか。


③女膝が水毒を治す

女膝は水毒を治すとされる。歯茎が腫れている状態を浮腫と捉えると、女膝の適応症と考えることもできる。
肩が凝ると歯が浮く感じがする者がいるが、頸肩のコリの治療が歯肉に対する治療に関係する場合がある。この場合は肩井や天柱などに対して鍼灸を行う。しかし頭蓋骨後面と踵骨後面を相似形と考え、天柱の代わりとして崑崙に施術するという考え方もある。崑崙と女膝は非常に近い部位にある。

  <コメント> 桂蓮アップルバウム(2020.11.11)初めてコメントします。アメリカ住まいのケイレン・アップルバウムと申します。 女膝について初めて知りました。 それに歯茎との関連性も初めて知って,そう言えば、歯茎に炎症が会った時、 足のアキレス腱辺りが冷たくなり、いくら温めても冷気がしたことがありました。 それで、足の裏のマッサージをしたら気がつかないうちに口内炎も起こらなくなりました。 私はその関連性については全く分からずにすぎてしまいましたが、今この記事を読んで納得しました。 記事を全部読むことを目指して今日から頑張ります。4.女膝への施灸で、歯肉が引き締まる例(細江久美子氏)女膝への施灸が、歯周炎に対して実際どのような感じで効果あるのか疑問だった時、代田文彦編、玉川病院生情報会著「鍼灸臨床生情報」②の中に、上述タイトルの症例報告を八件したので、かいつまんで紹介する。45才女性。歯槽膿漏で歯が浮いてぐらつき、歯肉がブヨブヨするとのこと。胃腸機能をためるような全身的な治療を行い、最後に女膝を透熱するまで灸をすえた。左7壮、右13壮で透熱。次回来院時にその効果を問うと、「歯肉がギュッと締まって歯茎が少しピンク色になった。リンゴをかじることもできた」とのことで、その時も女膝に同様の透熱灸を行った。2診目の治療後も歯肉はピシッと引き締まった。ただし持続効果は乏しい。。肩が凝るとのことで来院。。、

4)女膝への透熱灸の効果(細江久美子氏)

女膝への灸が効果あるとすれば、それはどのような感じなのだろうか。疑問に感じていた時、代田文彦監修、日産玉川病院生情報会著「針灸臨床生情報②」の中に、「女膝の施灸で歯肉が引き締まる例(45才、女性)の症例報告を発見した。かいつまんで紹介する。

数年間から歯槽膿漏で歯のグラツキ、歯肉がブヨブヨする感じがあった。症状は右側に強い。歯科治療は受けているが歯槽膿漏に対しては効果は乏しい。胃腸機能を高める全身的治療に加え、最後に女膝へ透熱灸を行った。左7壮、右13壮で透熱。次回来院時、歯槽膿漏の具合を聴取すると、「歯肉がギュッと締まって、歯肉が少しピンク色になった。リンゴもかじることができた」とのこと。今回も女膝に透熱灸を実施。この治療直後も歯肉はピシッと引き締まった。ただしその効果の持続性は長くない。毎日施灸を続ければ効果が長くなるかもしれない。

針灸師のための肥満の最新薬物治療の理解

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1.単純性肥満とⅡ型糖尿病
  
過体重ではメタボリック症候群になりやすく、生活の質を下げることになりやすい。そこでダイエットが推奨されているが、実際には非常に困難なことが少なくない。頑張って一時的に2~3㎏痩せても、努力を怠るとすぐに元の体重に戻ってしまう。残りの人生が数十年あると思えば、ダイエット生活を継続することは、難しいことなのである。
  
肥満はとくにⅡ型糖尿病との関係が深い。Ⅱ型糖尿病の薬物治療薬は血糖値を上げないようにすることが基本で、これにメタボリック症候群として高血圧・高脂血症などの治療薬を併用する。しかしこれは血糖値を上げないという対症療法なので、数十年におよぶ継続的な治療になり、目的も「治す」ことにはおかれていない。糖尿病の1タイプとして、体重減すれば血糖値が大幅に下がるタイプの患者がいる。このような者は、体重減少させることは非常に大きな要望となり得る。
   
一昔前、単純性肥満は、摂取カロリー>消費カロリー状態なので、食事量を減らし身体運動量を増やせばよいと考えられていた。それができないのは、もっぱら本人の意志の弱さの問題だとして軽く扱われていた。しかし1990年代になって肥満と食欲の関係について、大きな進展がみられた。

2.血糖値のコントロール
  
血糖値をコントロ-ルするホルモンは3種類ある。膵臓β細胞から分泌されるインスリンと膵臓α細胞から分泌されるグルカゴンは古くから知られたものだが、現在では小腸から分泌される インクレチンもインリン分泌に関与し、かつ満腹感にも関与していることが判明した。


 
1)インスリン
血液中のブドウ糖が筋肉などへ取り込まれるのを助けることにより、体の中で唯一血糖値を低下させる働きがあるホルモンである。

2)グルカゴン
肝臓で分解されたブドウ糖を血液中に放出するのを助ける ことにより、血糖を上昇させる働きがあるホルモン。


3.食欲抑制ホルモン「レプチン」食欲増進ホルモン「グレリン」
 
1)レプチンの発見 

1994年に体脂肪から分泌され、食欲抑制作用のあるホルモンであるレプチンが発見された。血中にレプチンを注入すると、視床下部の摂食中枢がレプチンを感受して満腹感が得られるので食欲抑制される。しかし一部の肥満者では、視床下部でのレプチン受容体の感受性が低下しているのでレプチンを投与しても満腹感が得られず、食べ続けるようになる。その食欲は、血糖値が上昇しても抑制されない。
  
2)神経性食思不振者
   
神経性食思不振者は、レプチン過剰分泌しているので食欲が抑制されているが、ある一定以上に脂肪細胞が減少すると、いくら体細胞がレプチンを多量に分泌して血中濃度が高くなっても、死亡を回避するため、視床下部のレプチン受容体がレプチンに反応しなくなるというリバウンド状態になる。この時は、体脂肪が一定以上に増加するまで、いくら食べても満腹感がないドカ食い状態となる。
 
3)グレリンの発見
   
グレリンは1999年に日本の研究者によって発見された。長時間食事をとらないと低血糖状態になるが、それ以前に胃がカラになるだけで空腹感が生じている。これは胃がカラになると、胃壁から強力な食欲増進ホルモングレリンが分泌されることによる。グレリン濃度と血糖値は関連がない。
正常な身体のバランスの状態では、グレリンは肥満になると低下し、やせると上昇する。つまり体重を適正にするように調整がなされている。しかし太りやすい体質の人では、食後にもグレリンが低下せず、このことが太り易い原因の一つと考えられている。
 
4)ダイエット途中での失敗理由

ダイエットが順調にすすむと、ときに突然猛烈な食欲に襲われることがある。これもカラになった胃壁からグレリンが大量に分泌された結果であり、ダイエットを行う上で失敗原因になる。グレリンは最強のホルモンで、分泌されると摂食せずにいられなくなる。
胃の中にある程度食べ物が入ると、速やかにグレリン分泌は減少するので胃を膨らませるもの(例えば豆腐やこんにゃく)を食べ5分間ほど我慢することで、食欲が消退する。
 
5)睡眠不足と肥満
   
睡眠不足ではグレリン分泌亢進し、食欲増進する。とくに1日睡眠5時間以内の者はとくに夕食後のお菓子や夜食などを摂ることが多いので体重増加を招きやすい。したがって肥満を防ぐ意味でも、1日8~9時間の睡眠が必要である。
睡眠不足をつくる原因の一つに天然の睡眠薬であるメラトニン分泌不足があるので、就寝数時間前からメラトニン分泌を増やる落ち着いた環境形成が大切になる。
 
6)夜食べると太る原因
    
これまで漠然と夜食べると太ることが知られていたが、その科学的根拠がわかってきた。
1997年池田正明は遺伝子中にBMAL1(ビーマルワン)を発見した。BMAL1の生成量は人の概日リズムや自律神経の活動リズムと連動していて、昼間は量が少なく、夜間多くなるという性質があり、日中は少ないが夜10時~深夜2時頃が増加のピークになる。夜間はエネルギーをため込みやすい(太りやすい)時間帯であるといえる。


4.インクレチン

 


 
1)インクレチンの作用
インクレチンは小腸から分泌されるホルモンで、LGP-1(グルカゴン様ぺプチド1)とGIP(グルコ-ス依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)の2種類ある。食事をするとGLP-1 は小腸上部から分泌され、GIP小腸下部から分泌される。 GLP-1 の作用は次の通り。(GIPの作用は研究が遅れた)      
  
①脳へ:満腹感を得る
②膵へ:グルカゴンの作用を抑える。膵臓のβ細胞を増殖させ血糖値を下げる。β細胞を死ぬのを抑える。
③胃へ:食べ物を胃から腸へと送る速度を遅くする
 
2)インクレチンを分解する薬剤の誕生
 
インクレチンは血糖値上昇を阻止する作用があるが、DDP-4(ジペプチジルぺプチダ-ゼ)とよばれる酵素により、すぐに分解され消滅してしまう。ならばインクレチンの作用が消えないようにする方法はどうするかと研究し、次の2タイプの新薬が誕生した。
  
①DDP-4阻害薬
DDP-4の働きを阻害することで、インクレチンの血糖上昇阻止作用を維持する。内服薬。ジャヌビアなど
  
②GLP-1 受容体作動薬
GLP-1 の構造を分解されにくように変えたもの。食欲抑制作用があり、自然な減量を期待できる。
※オゼンピック(週1回注射):半年から1年程度使用すると5~6kg痩せるという。1回代金3割負担者で、2000円~6500円/月(診察代・検査代は別途)かかる。使用中止したら元にもどる。
※リベルサス(内服薬):オゼンピックに比べるとパワー不足だが、1日1回、起床時に飲むだけ。3割負担の場合、薬価は1ヶ月1200~4500円(診察代・検査代は別途)

5.持続性GIP/GLP-1受容体作動薬マンジャロの新登場
   
近年、GLP-1受容体作動薬が普通に使われるようになったが、小腸から分泌されるもう一つの ホルモンGIPは研究者の興味を惹かなかった。しかしマウスによる実験で、GIPを投与すると 血糖値が上がりにくく、食欲も低下し、肥満しにくかったというデータが発表され、それ以来GIPの作用はGLP-1よりも強いのではないかと考えられるようになった。なおGIP投与時の体重減少作用の機序は不明。
  
2023年のうちに、持続性GIP/GLP-1受容体作動薬、チルゼパチド(商品名マンジャロ)が販売予定である。GIPとGLP-1の二つの受容体に単一分子として作用する世界初の薬剤で、最強の減 量薬となることが予想されている。週1回皮下注射によって投与される。

※マンジャロの名称理由:私が通院中の医師から聴いた話。マンジャロとはアフリカの最高峰キリマンジャロ(キリマンジェロは間違い)からきたらしい。キリマンジャロは台形状の形をしていて頂上が平坦になっている。このことから一定以上の血糖値をカットするというイメージからの命名したとのことだ。

5.SGLT2阻害薬(カナグル、ジャディアンスなど)
   
上述のような血糖値をコントロールする薬剤とは別に、尿としての糖排泄を増やすことで、結果として血液中の糖(血糖)を減らす薬が誕生した。
体内にはSGLT2という尿から血管へ糖を運 ぶ運び屋のような物質が存在する。本剤はその働きを阻害し、尿として糖や水分を排泄し血糖値を下げる。
1日300キロカロリーの糖を強制的 排泄するので減量効果がある。
 ・糖尿病患者様にカナグル1錠を約1年程使用すると、平均2~3kg痩せるというデータがある。カナグルの値段1錠170円、これを月に30錠使用。3割負担では1月約1500円。

ちなみに筆者はこの十年ほどⅡ型糖尿病で2ヶ月に一度の定期通院をしている。筆者の糖尿病の増悪因子は肥満であることが分かっているが、自分の意志だけで食事制限を続けることは難しかった。筆者の肥満に対する薬物療法は、3年ほど前からDDP-4阻害薬(ジャヌビア)から始まった。グリコヘモグロビン値の上昇を食い止めるには効果はあったのだが、減量には不十分だったので、半年前からSGLT2阻害薬(ジャディアンス)を追加使用している。体重減少には一定の効果があるようだ。ジャヌビアやジャディアンスはよく効くのだが、ジェネリック薬がないので費用も高くなるのが欠点。

 

JSカッサ入門セミナーの概要と印象

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去る令和5年4月2日、午後3時~午後5時30分。東京都国立市中1丁目集会所で、JSカッサ入門セミナーを開催した。参加者は20名で、これに受け入れ側として主指導スタッフ徐園子(大和かっさ治療院)、実技指導スタッフ徐由実(中央鍼灸接骨院)と上川 晋一(みその整骨院)と主催の私(あんご針灸院)、元医道の日本社編集部の赤羽博美とカメラマン木村博が加わり、総計26名となった。熱気あふれる会場となった。※いずれも敬称略
なお会場は、鍼灸奮起の会(参加者定員12名)を行っている場所である。

現在カッサ治療は、我が国でもいろいろな流派が存在しているが、そうした中にあって、整体やリラクセーションとは一線を画しているのがJSカッサとなる。ちなみにJSとは、Japanese Style の略。

私が15分ほどカッサと浅層ファッシア刺激に関する撮診法の相違点などを説明した後、徐園子先生によるカッサの理論とこれまでの症例紹介を1時間余り実施。徐園子先生は、すでに十数年間治療にカッサを取り入れて治療されていて、臨床経験は豊富なことを、改めて知ることができた。これまでの現代医療そして鍼灸治療においても、うまく治せなかった病態に対処できる治療技法となっている。具体的な症例を多数提示し、カッサでどのように改善したかを解説した。カッサの適応が、予想していた以上に広いものであることを認識できた。

その後、徐先生による頸肩背部のカッサのデモをした後、2人一組でカッサの実技練習を行った。
 
☆好評につき、JSカッサ入門セミナーを、6月に鎌倉でも実施します。

第2弾<JSかっさ治療入門セミナー> 日時:6月18日(日)13時30分~17時 会場:鎌倉市生涯学習センター きらら鎌倉 第6会議室    (鎌倉市小町1-10-5 JR鎌倉駅東口徒歩3分) 会費:5000円 内容:①JSかっさ治療とは ②症例の紹介 ③JSかっさ治療理論 ④診断法 ⑤リスク管理 ⑥JSかっさ治療体験 ⑦背部のかっさ治療(実技) コロナ後遺症をはじめとする難治性の症状、婦人科系症状、運動器症状に効果の高い「JSかっさ治療」をご体験ください。 お身体のご不調を治してお帰りいただくセミナーといたします。

 

下段中央が筆者。その左隣が徐園子先生。

鼠径部周囲穴の整理と運用 ver.1.1

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骨度法では、横骨長は6.5寸と定められている。横骨とは現代でいう恥骨のことだが、これを恥骨結節両端間の距離とすることは無理があるので、おそらく恥骨上枝の左右外端の間の長さを意味すると私は考えている。
以下の赤線で示されるのが古人の考えた横骨長で、6.5寸になる。なお横骨長には < むご(6.5寸)い横骨 > という語呂がある。

1.曲骨(任)、横骨(腎)

「曲骨」(任)は恥骨結合の直上にとる。横骨は恥骨の意味であるとともに、腎経の穴名でもある。「横骨」(腎)は曲骨の外方5分なので、恥骨結合の外縁になる。横骨は腹直筋上であるが、曲骨は白線上にある。白線とは筋を包む結合識で、外腹斜筋や内腹斜筋、腹横筋それぞれの腱のつながりである。筋ではなく腱なので刺針時には抵抗を感じるのを避け、曲骨の代用として横骨に刺針するという使い方もある。神経は陰茎背神経(陰部神経の枝)なので、膀胱炎やEDで使われることが多い。もっとも曲骨から刺針してペニスに響かせてもEDが治る訳ではない(尿道炎の鎮痛には効いたことがある)。曲骨の灸(毎日7壮以上)は慢性反復性膀胱炎に適応がある。抗生物質内服をいつまでも続ける訳にはいかないが、服薬中止すると症状が再発しやすいが、施灸を継続すると症状再発がない。曲骨の灸3壮では再発し、7壮に増やしてから症状が治まったという経験がある。


2.衝門(脾)

前正中線の曲骨(任)から横骨端は、横骨長の半分で、3.25寸になる。「衝門」(脾)は曲骨の外方3.5寸なので、横骨外端から0.25寸すなわち5㎜外方なので、実際上は横骨外端としてよい。「衝門」は大腿動脈拍動部でもあるので取穴上の基準点になる。理論的には下肢の血流改善の目的での治療点となるだろう。下肢閉塞性動脈硬化症では衝門の拍動作が減弱することがある。


3.気衝(胃)

「気衝」は”衝”の文字がついてはいるが動脈拍動部ではない。下肢から上行してきた胃経は、髀関穴で直角に折れ曲がり、気衝で再び折れ曲がって、下腹部を上行する。経絡がぶつかって流れが急変するという意味で、”衝”の文字がつけられたのだろう。衝突の”衝”である。
衝門は曲骨と衝門の中点から外方0.25寸(=約5㎜)外方を取穴する。この部はスカルパ三角部になるので、陥凹している。その深部には恥骨筋があり、股関節骨頭が触知できる。先股脱臼では、スカルパ三角部に股関節骨頭が触知できないことがあり、これを「スカルパ三角の空虚」とよぶ。治療に使われる頻度は少ない。

※スカルパ三角の三辺を構成する語呂には、<三角だけと長(長内転筋)方(縫工筋)形(鼠径靱帯)>というものがある。



4.陰廉、足五里

大腿内側にあり、アグラをかいた際、隆起してくる長内転筋の起始(恥骨外縁)から2寸下方になる。「陰廉」の”廉”はヘリの意味で、この場合は長内転筋のヘリという意味になる。陰廉からさらに1寸下方には「足五里」(肝)がある。
「足五里」の五里は5寸の意味だが、長内転筋の起始からは下方3寸なので、つじつまが合わない。これは「箕門」(脾)を起点とし、その上方5寸の意味だという。
「陰廉」や「足五里」は、鼠径部痛症候群の一部である長内転筋緊張症に使われるだろう。 

※「箕門」の位置:膝蓋骨内上角の上8寸。あくらをかいた状態では、大腿直筋と縫工筋の交点なので取穴しやすい部位。恥骨の触診は羞恥しやすい部なので、下の方から上へ指をすべらせて取穴するようにしたことが考えられる。
私見だが、「箕門」の”箕(み)”は、 穀物と塵埃やもみ殻などをえり分ける竹製の農具である。箕を裏返すと、正座をした時の大腿の形に似ている。とくに箕を両手で持つ処が、大腿内側の箕門の位置に似ていると思う。


ちなみに手三里は、肘髎(大)の下3寸、足三里は犢鼻の下3寸、手五里は上腕骨外側上顆の上5寸である。
※肘髎の位置:上腕骨外側上顆の上際、上腕三頭筋外縁の陥凹部。腕橈骨筋と長橈側手根伸筋の間にとる。

 

5.髀関(胃)

”髀”は大腿の意味。学校協会教科書では「上前腸骨棘の下方、縫工筋と大腿筋膜張筋の間、陥凹部」とある。このあたりの解剖学的要所は、下前腸骨棘であり、この部は大腿直筋の起始部でもある。髀関は私は、ここを取穴している。



6.急脈(奇)

教科書では「急脈」(奇)は、<鼠径部で曲骨の外方の2.5寸の拍動部>とある。すなわち曲骨の外方2寸にある「気衝」の、外方わずか約1㎝外方になり、効能も気衝とほぼ同等になる筈である。”脈”との名がついてはいるが、大腿動脈の拍動は触知できない。
<医心方>によれば「急脈の別名を羊矢(ようし)という。羊矢とくに陰部の腹と股が相接するところ」とある。したがって急脈は陰嚢と鼠径溝の境界で精索あたりをさすと理解している。急脈の位置は、曲骨からの骨度法による寸法ではなく、体表解剖学的観点からの取穴になるのではないかと思う。急脈は生殖器と関連がありそうだとの観点からすれば、急脈の”脈”とは勃起時の脈動を示しているのだろうと推測する。急脈の拍動は勃起時に限定するので、正穴ではなく奇穴として認定したのだろう。

カッサの効果 浅層ファッシア刺激と皮下出血効果 ver.1.1

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カッサは次の2つの統合刺激である。すなわち「皮膚をこする」こと、次に「皮下出血させる」ことである。個別に検討をしていく。皮下出血させることを目的とする施術は珍しいものだが、皮膚をこするという方法は、同じような手技療法がいくつか存在している。こすって何を診ているのかといえば、今注目を集めている「浅層ファッシアの癒着」の有無を調べており、カッサをすることは浅層ファッシアをリリースすることになる。


1.浅層ファッシア刺激の方法
 
1)結合識マッサージ
  
皮膚や皮下組織に機械的刺激を与える治療として、我が国では按摩・指圧が、中国では推拿が、そして西洋でははマッサージが行われてきた。西洋でのマッサージの新しい技法として1952年、ドイツのエリザベート・ディッケは結合織マッサージを考案し命名した。

従来のマッサージは、なでる・さするなどの皮膚刺激をするのに対して、結合織マッサージでは、結合識(皮膚・皮下組織・筋々膜・腱・靱帯・血管壁など)に対するマッサージを行う。患者さんの皮膚をつまんだり、両手で寄せてシワを作らせたりして、少しつつずらせていく。このようにすると健康な部は弾力的で皺ができやすいが、病的な結合識では皺ができにくくざらザラザラした状態を指先に感じる。

結合識マッサージのもう一つの特徴は、反射帯(内臓反応が皮膚に投影されたヘッド帯、および内臓反応が筋に投影されたマッケンジー帯)に施術する点にある。このような方法で身体を調べると、どのような疾患であっても脊柱を中心に腰~殿部(L2~S4)にかけてと、項の部分(C8)に反応点が集中する傾向があった。これは内臓と特定の体表部位との間につながりがある領域ということになる。ちなみにドイツのシャイトは脊髄神経系と内臓支配する自律神経が互いに影響を受ける領域として、C8.L2、S2を移行分節とした。移行分節とは聞きなれない単語だが、脊髄の一段と太い部分(頸膨大・腰膨大)に相当し、上肢と下肢の神経の出るところといった意味がある。S2は人間では退化したが、尻尾の出るとことだろう。

要するに上肢や下肢の刺激は、体幹内臓治療にも使えるということを示唆している。

結合織マッサージを行うと、従来の皮膚に対するマッサージに比べて皮膚温が上昇し、関節可動域が向上するなどの効果が得られるのだが、では指圧・按摩と似たような手技になってしまうので、現在では結合識マッサージという言葉はあまり用いられなくなった。”結合識”とは広い概念である。真皮・皮下組織・粘膜下組織・骨膜・筋膜・腱・血管外膜など、すべて結合組織になってしまうので、結局何をマッサージしているのか判然としないことが原因だろうと思われた。現代的認識では、結合識マッサージとは、皮下筋膜(=ファッシア)に対する刺激手段となるだろう。

2)ストレッチ
    
筋を伸張させることを(筋)ストレッチといい、1970年代にアメリカで開発された。ストレッチは柔軟性を高めるための運動として、筋肉ならびに結合組織の柔軟性を改善し、関節可動域を広げる。じっとしているなどの不活発な状態が続いたり、トレーニングなど特定の部位が疲労すると膜が硬くなり、膜と筋肉との間の滑走(すべり)性が悪くなる。また、疲労や老化によって筋膜細胞の減少や弾力性が無くなると、滑走性が悪くなり、痛みがでたり動きにくくなり、柔軟性も低下する。これは筋膜と隣接する結合組織が癒着している状態であり、これを開放(リリース)させることが大切になる。これを「筋膜リリース」と呼ばれている。
   
やがて筋膜のストレッチだけでは不十分で、浅筋膜もストレッチすべきだとする考えも生まれた。皮膚をこすることは皮下筋膜に影響を与え、外皮-皮下組織-筋間の滑走をよくする。すなわちファッシアの動きを回復させる効能がある。

 

3)クラストンテクニック  

グラストンテクニック Graston Technique とは筋膜スリック(筋膜を滑らかにする)一つの技法であり、1994年前に米国のアスリートによって発案された。専用の医療器具を用いて皮膚を擦り、浅筋膜の癒着を開放しようとするものである。グラストンテクニックで使われるのは、いろいろな形をしたステンレス製の道具で、擦る部位により使用する道具を変える。グラストンテクニックは、カッサそのものであるが、浅筋膜刺激を目的とするもので、皮下出血は必要としない。グラストンテクニックの主眼は浅筋膜リリースであり、皮下出血は必らずしも必要とない病理機序として扱った。
皮膚をどの程度の強さで押しつけるのか、何回くらい上下にスライドさせるのがよいかは意見が異なるようである。軽刺激でよいとする立場では、筋緊張部位にタオルをあてがい、一方向に20回ほど軽くこする。強刺激がよいとする立場ではカッサと同様、赤く皮下出血が起こるまで擦り続ける。

 

グラストンテクニックにより生じた皮下出血斑

 

4)撮診法(成田夬助)
 

皮膚と皮下組織を一緒につまむと、痛みを強く感じる部とさほど感じない部があることに気づくが、この現象を治療に応用したのが成田夬助(かいすけ)で、撮診法とよんだ。西洋では skin rolling  スキンローリングとよばれている。撮診の手技は、皮膚と皮下組織をつまんで、圧痛の有無を診るというものだが、撮診で痛む部は、他部位と比べて皮膚と皮下組織が分厚く感じる。つまむとつねられているように感じるのは皮神経か過敏になっているからだろがが、分厚く感じるのは、浅層ファッシアが皮下組織と癒着しいることを示している。すなわち撮痛部位はイコール浅層ファッシア癒着部と考えてよい。


2.カッサによる皮下出血について
 
表皮に血管はないが、真皮より深い組織には血管がある。皮膚を何度も強くこすると、皮膚は発赤し、やがては皮下出血するまでになる(身体の部位別に皮下出血しやすい部位としにくい部位があるが)。皮下出血とは皮下にある毛細血管や細静脈血管に傷がつき、血液が血管外に漏れ出すことをいう。
 
一度血管外に漏れた静脈血は二度と血管内に戻ることはない。動かない血液すなわち瘀血である。内出血は自然と皮膚に吸収されるが、修復する際の自然治癒力を利用して治療効果企図する。カッサの皮下出血斑は意外にも1~2日で自然消退するのは、吸玉による皮下出血斑では消えるには1~2週間を要することとは対照的である。

カッサによる皮下出血斑は、1~2日後にはほぼ消退することから、浅い部分の毛細血管または小静脈の血管から漏れ出た血液であろう。皮下出血を皮膚は吸収しようとして、新たな生理機序(=自然治癒力)を引き出す。
意図的に皮下出血させる意義について医学的エビデンスははっきりしたものがない。しかし皮下出血を組織に自然吸収させるためには自然治癒力を活用しているのだから、この部分の代謝が活発化し以前の状態に戻そうとしている。この生体反応を疾病治療に活用しているといえる。カッサ施術後の皮下出血は端から見れば、ムチで叩かれたような痛々しいものになるが、皮下出血斑は数日間で急速に改善され、数日中には殆ど消失するという特徴がある。これは打撲傷時の皮下出血に比べ、出血部分は浅層からのものだと思われた。カッサではこの皮下出血斑を瘀血として捉えている。瘀血といっても内臓病変とは無関係で、静脈血流の部分的停滞のことをいう。

3.カッサの研究

皮下出血させると色々な疾病に効果のあることは、カッサの症例から推測されるが、その具体的機序については、いつの間にか世界中の医学者が研究しており、こちらが驚かされるほどである。

この状況は、まず「google  shcolar 」の検索サイトに行き、そこで「covid-19  guasha」で検索をかけてみると知ることができる。google shcolar とは
グーグル検索で、とくに学術論文を集積されたサイトのこと。covid-19は新型コロナウィルス感染症、  guashaはカッサのこと。

たとえば現在コロナ後遺症患者は、わが国にも数十万人いる。疲労倦怠・関節筋肉痛・咳喀痰・息切れな・胸痛など多くの症状が残ったまま、何も手立ての方法がない状況である。このような状況にあって、カッサ治療もある程度の役割を果たせるのではないかと症例集積が始まり、手応えのある感触が得られている。

 

 

   

魚際と合谷の局所解剖と意図するもの

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1.合谷刺針
 合谷から教科書通りに刺入すると、まず第1背側骨間筋に入り、続いて母指内転筋に入る。この2筋は意外なことに、ともに尺骨神経支配である。ゆえに尺骨神経麻痺時に、骨間筋萎縮と母指内転筋萎縮によってフローマン徴候(+)が出現する。

手掌部・小指球部・手背部の筋は尺骨神経支配で、母指球は正中神経支配が主だが、例外的に母指内転筋のみが尺骨神経支配である。脳卒中後遺症で手指の痙縮が強く、指が伸びない患者に対し、合谷から小指方向に向けて深刺すると、速効的に指が伸びるようになることを経験するが、これは骨間筋の痙縮を解除した結果であろう。

 なお合谷部周囲の皮膚は橈骨神経支配である。すなわち合谷施灸は橈骨神経刺激、合谷刺針は主として尺骨神経刺激となる。

合谷への皮膚刺激として有名なのは次の2つである。

かつて桜井戸の灸があった。面疔(顔面にできた桜井戸の灸は、 患側の合谷穴に100壮~200壮灸をすえた。50壮くらいで、面疔のズキズキする痛みが止まってくるが、そこで灸をやめると、また痛みだすので続けてすえる。すると再び痛みが泊まって、そのうち面疔部分から自然に排膿される。(深谷伊藤三郎「家伝灸物語」より)

柳谷素霊の喉の一本鍼というのは、正座させ、丸竹を握らせた状態で、腹に力を入れ腕にも力を入れ、寸3の2番で合谷部の硬結下縁に傾斜させて刺針、反復的に1分~3分刺針。抜針を皮膚が赤くなるまで繰り返すというものであった。ただしここでいう”喉”とは、咽のことらしく、とくに扁桃炎に効果ありと記載されている。



2.魚際刺針
 
魚際刺針は母指対立筋(文献によっては短母指屈筋)への刺針となり、正中神経支配である。皮膚も正中神経が支配する。母指内転筋は、魚際と合谷の中間点にあるので、魚際や合谷のいずれからでも第1中手骨縁に刺し、母指内転筋運動鍼をすれば母指内転筋症に効果を発揮できることが多い。

岡本先生指圧を語る ユーチューブ動画 ver.1.1

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奮起の会スタッフの岡本雅典先生が、フランス人を対象に指圧講習会を行いました。

今回が約20回目の渡仏だそうです。是非ご覧下さい。時間は約10分間です。
変な姿勢でアグラをかいているのは格好つけているわけではなく、股関節が開かないため。
私のことも話しています。フランス語版、日本語版とも「いいねボタン」を押していただけると嬉しいです。

岡本先生、指圧を語る!

フランス語版

https://www.youtube.com/watch?v=JqaH7zODnBQ

 

日本語版

https://www.youtube.com/watch?v=iZzb_gzAbCk&ab_channel=Yubizen


岡本雅典、フランス指圧講習紀行

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前回ブログでは、岡本雅典氏のユーチューブ動画を取り上げた。そのことが耳科の現代針灸講習会後の懇親会2次会で話題になると、「こんなのもあるが」といって写真数枚をその場でPCに送ってくれた。私は翌日、この写真をユーチューブ動画記事に追加したのたが、さらに翌日、きちんと流れを追った旅行写真を送ってくれた。なかなか見応えがあった。ただ写真枚数が多いので、私がある程度編集して今回発表することにした。以下の写真と説明文は岡本氏によるもの。

1.往路

令和5年3月30日夕方まで立川の治療院で仕事しており、バスで立川から羽田空港へ。フライトは夜10時10分。ロシア上空を飛べれば、羽田~パリ間は直行便で11時間半で済むところだが、戦争中のためロシア上空を迂回して13時間半のフライトとなった。

 


31日朝7時30分、パリ=シャルル・ド・ゴール空港へ到着

 

パリは3月から始まったストライキの影響でゴミ収集車が来ない。


フランス滞在している日本人通訳者からの写真が送られてきた。ご子息の中学は、中学校を封鎖してのストライキ中。日本人にもこういう気概が欲しい

 

ストライキのせいか、予約したタクシーがこないというハプニングがありましたが、
何とか始発駅へ辿り着き、パリ郊外から特急電車で北の方角へ2時間半移動。

 

2.指圧講習会

ノルマンディー地方のヴィレ・シュル・メール(Villers Sur Mer) という人口3千人以下の海岸沿いの街へ向かう。ノルマンディーは第二次世界大戦当時、フランスを占領していたドイツ軍に対して、アメリカ軍が強襲上陸した地。「地上最大の作戦」で映画化された。
近くには、世界的観光地であるモン・サン・ミッシェル修道院がある。古い話になるが、大女優カトリーブ・ドヌーブ主演「シェルブールの雨傘」の撮影地、シェルブールもこの近く。



今回の指圧講習会広告。心憎い演出で感謝です。

 

曇天や雨が多い地域ですが、晴天時の空と海は絶景。


見事な海原




絵画のような街並み。道路の左側にトラックが停車していたのが雰囲気を台無しにしている。

 

宿泊先はホテルではなく、アパートに。

近所のスーパーで3日分の朝食を買い込み。
無添加のフランスパン、塩気の効いたバターと生ハム、しっとりとしたチーズをサンドウィッチにした贅沢な朝食。

腹ごしらえを済ませたら、さぁ、歩いて研修会会場へ♪

研修会会場は、室内から湖が見渡せる好立地

 

我ながらNice Shot !!

 

研修風景(4月1日~3日計18時間)

現在フランスでは、医師以外の者が針灸することは認められていないが、指圧に関した規制はない。
そうなると指圧も玉石混淆とならざるを得ない。そうした一方で日本の指圧を学ぼうとする者は、まじめに指圧を勉強している者なのだが、西洋人にありがちなのは東洋医学思想とくに経絡とか気といった知識を有り難がるというようなオカルト崇拝がある。これは困ったことだと岡本氏は嘆いている。

一番手前のジル(Gilles)はモンテリマール(Montélimar)の指圧の指導者で僕の研修会は10回以上のリピーター
その奥の緑の服を着ているのはダミアン(Damien)で今回動画を作ってくれた人

 

イザベル(Isabelle)。この女性ももう6回くらい参加のリピーター


初日午前終了、海辺のレストランでランチ♪
左から:日本人通訳の真弓さん、パリのオペラで鍼灸指圧院を開業、動画制作者ダミアン、
今回のホストであるオリビエ(Olivier)、オリビエの協力者で、来年、僕をベルギーに呼んでくれる予定のピオートル (Piotr )た。



世界三大珍味のフォアグラ(Foie Gras)は外せません


昼食を食べ過ぎたので、ディナーは生ガキやエビ・蟹をボイルしたものを白ワインでさっぱりと

 

最後のランチ後の記念撮影

 

終了証を渡した後は記念撮影のサービス、
ジル、終了証が逆さまだよ!!


指圧講習会の参加者たち。今回はアフターコロナの不景気の影響から集まりが悪いが、いつもは50名ほど集まる。

 

3.帰路

夕方4時に講習会は終了、1時間後の特急電車でパリに戻ります。
車窓から。渡仏回数を重ねるほど、パリより田舎のほうが良くなる。

 

 

車窓からみえる酪農家の家と厩舎。

 

いたるところにある教会風景


4月のパリは、まだ寒そうです。

 

カフェを観ると、ここはフランスなんだなぁ・・・って痛感


さよなら、フランス

 


オーストリア上空。眼下にはアルプス連山が見える。

無事着陸、1時間遅れの午前9時30分頃、着陸ゲートに到着

昼12時ごろ立川についた途端、うどん屋へ駆け込みました(笑)
そして午後2時から仕事再開、これで時差ボケは最小限に止まります。

 

治療室ホスピターレ
〒190-0023 東京都立川市柴崎町3-3-3櫻岡ビル4F
TEL/FAX:042-526-0766 
URL:www.hospitale.jp E-Mail:mail@hospitale.jp
 

 

 

 

 


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首下がり病に長・短回旋筋と頸椎骨膜刺針が有効な例(89才、女性)ver.2.0

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 1.本患者のこれまでの経緯

4年前(85才頃)ほど前から、急に顔が正面に向けづらくなってきた。右手のしびれと脱力感も出てきたので、整形訪問。手根管症候群と腱鞘炎と診断され、手術をうけた。それにより右手症状は改善したが、顔の上げづらさは不変。顔が下を向いた状態で、正面を見ることが非常に困難。マクラをしないと仰臥位になることはできない。握力は左8㎏、右10㎏。

患者の写真

椅子に座ると、自然と背中を反らした姿勢となり、首下がりの状況を目立たなくしている。
立位になると、後頭部より隆椎の方が低くなる。

 

この患者は以前から頸痛、背痛などでたまに当院に受診していた。今回は2年ぶりの来院で、その時に顔が下を向きっぱなしになっていたので、非常に驚いた。高齢であることから、その時点では頸椎圧迫骨折による変形性頸椎症だと考えた。
 
そうなると、針灸治療の方針は、頸部に加わった力学的ストレスを一時的にでも緩和し、筋疲労をとることだと考え、頸椎と上部胸椎の一行深部筋(半棘筋や多裂筋など)をゆるめ、また頭蓋骨と頸椎間の筋疲労を改善するため、後頭下筋郡や頭半棘筋をゆるめることだと考えた。側臥位で、これらの筋に刺針し10分置針した。要するに一般理学療法のような施術をした。それ以外の治療法を思いつかず、効果も不明だった。こうした治療を年に数回行った。

最近、この患者がまた来院。大学病院を受診した結果、「首下がり症」と診断されたという。担当医は「後頭部を下に引っぱる筋がはずれていている(原文まま)。骨にボルトを入れ、頭を支える手術を行う手もあるが、高齢なので心配だ。自分はこれまで7例手術した」と説明した。頸椎変形については、特に指摘されなかった。顎が胸に付いている状態”chin on chest”でありで、後頭部よりも上部頸椎の方が上にあった。

「首下がり病(=首下がり症候群)」は初耳だった。関節の問題でなく、筋の問題であるならば針灸でも治療方法があるかもしれないこと、後頭部を下に引っぱる筋は多数あるので、はずれてしまった筋があっても残存する筋の収縮力を復活させることができれば、症状が軽減するかもしれないと思った。本患者の最も強い圧痛点は、C7~Th3の2行なので、頸半棘筋のアイソトニック筋収縮状態であり、頭蓋骨を前に倒れそうになるのを、防いでいると考察した。左上天柱の圧痛は頭半棘筋停止部反応。

2.初期の針灸治療

この患者は、頸を左右に回旋する際につらいのではなく、単に座って静止している状態で頸が前に垂れ、それが持ち上がらないのが苦痛である。ゆえに、頭板状筋や頸板状筋に対して施術するのではなく、まずは側臥位で頭半棘筋~頸半棘筋~胸棘筋の筋疲労(=過去収縮)を改善する目的で刺針することにした。を姿勢にする。また大後頭直筋に対しても同様の手技針を行った。

この方法の治療直後効果は、「頸が持ち上げられる」というものだったが、他覚的には頸の前屈の程度はあまり変化がないように見受けられた。
実は、上記の治療には疑問が残っていた。緊張し過収縮している筋に対して刺針すると、筋緊張がゆるみ筋長が増すというのが普通の考え方だが、今回の等張性筋収縮状態に対しては、これを緩めると、余計に頭が垂れてしまうのではないかとも思ったのだった。
ただ、患者が針が効いたと返答したので、まずはよかったのではないかと自分を納得させた。


3.1ヶ月後の治療

週に1回程度の頻度で、当患者を治療した。圧痛点は毎回、下玉枕(頭半棘筋停止部)とC6~Th2突起直側すなわち半棘筋と思える部に存在した。また胸鎖乳突筋の乳様突起停止部に強い圧痛があった。要するに体表所見は初回とくらべて大した変化はなかったので、初回と同様の針灸治療を行った。しかし施術後、今回は治療後にも顎が上がらないと訴えた。そこで側臥位ではなく椅座位にしてC6~Th2の高さの頭・頸半棘筋にしっかりと数分間雀啄してみると、今度は頸が上がるようになったとのこと(他覚的に前屈は改善したようにみえなかったが)。

しかしながら、座位で上記の筋に同じように雀啄した場合、効く場合と効かない場合があって、毎回試行錯誤で微妙に刺激点を変えねばならなかった。

 

4.長・短回旋筋に対する治療へ

初期の治療計画は、もともと合理性がなかったのだが、効果があったので結果オーライとした。しかしやはり無理があった。
そこで別の角度からの治療を考えてみた。頸下がりの現状は変えようがないが、頸が下がってつらいとする苦痛を改善すればよいのではいかと考えることにした。すなわち筋に対する施術ではなく、神経に対する施術に変更である。

頭・頸半棘筋の深層には長・短回旋筋がある。これは椎間関節部にも付着していて、脊髄神経後枝支配である。C2より下位の頸椎棘突起外方1寸あたりを刺針ポイントとし、頸椎にぶつかるまで深刺するようにする。針先は、長短回旋筋と椎間関節両方を刺激することになるだろう。表現を変えれば、<頸下がり症>の苦痛の一部は、頸部椎間関節症の痛みに由来するのではないか、と大きく考えを変化させた。

本患者を座位にして、寸6#2針でC2~Th3両側の棘突起外方1寸から2㎝程度の間隔で数本直刺深刺(針体の2/3ほど入った)して椎体にぶつけて、コツコツと骨膜をタッピングしてみると、これだけで自覚的には首があがるようになったとの効果をえた。これまで苦労しきた筋に対する治療はいったい何だったのか。

改めて言えることは、複雑に考えた治療ほど効果がなくなるということである(語弊をまねくかもしれぬが、その典型は中医理論だろう)。
物事を説明するために使う理論は、なるべく単純なほど正解に近い。これを「オッカルの剃刀(かみそり)」という。

 

 

 

 

古代中国の天文学と経穴名

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最近、経穴の語源について調べているのだが、そうこうしているう中で経穴の中に星や星座と関係する経穴がいくつかあるのを発見した。昔の中国人の考え方の一端を知ことができて感慨深い。とくに前胸部の胸骨に特徴的なツボが並んでいる。


                                       
      
1.紫宮(任)    
華蓋の下1寸にある。紫宮穴は心臓の位置にある。古代中国では、天帝が住んでいる星すなわち北極星を紫微星(しびせい)とよんだ。紫微とは、価値のある星の意味。ただ紫微星は一つの星ではなく、北極付近の星々のことを指している。紫微星の北には北斗七星、南には南斗六星がある。

 


2.華蓋(任)  
華蓋穴は、胸骨角(胸骨柄と胸骨体の接合部の骨隆起)中央にとる。
華蓋とは、五臓六腑の中で最も高い位置にある肺のこをいう。ただし華蓋は高貴な身分の者の頭上にかざした、上質の絹でできた傘をさすことが多い。



ちなみにキノコの一種のキヌガサタケ(衣笠茸)は絹傘茸とも書く。華蓋の形状に似ていることからつけられた名前であろう。

3.璇璣(任)
華蓋の上1寸にある。   
①璇(せん)と璣(き)は北斗七星を構成する星で、どちらも美しいとの意味がある。
ちなみに天枢とは北斗七星の一番目の星、

②回転仕掛けの天文器械。渾天儀(天体の位置を観測するために用いられた器械)の別称。

 

4.箕門(脾)    
①箕門穴は、大腿内側の上1/3で縫工筋と長内転筋の間、大腿動脈拍動部に取穴する。箕門膝を曲げて足を外転させた姿勢で取穴する。その姿が箕(み)に似ていることから命名。箕は竹で編んだザルのような農具で、米などの穀物の選別の際に殻や塵を揺すって外に取り除くために用いた。ちなみに蓑(みの)はワラで作った雨具のことで別物。

②古代中国で「箕星(みぼし)」は南斗六星から柄を除いた四角形の部分をいう。南斗六星は北斗七星に比べて暗く規模も小さいものだが、はるか昔の夜空は暗く空気も澄んでいたから、容易に発見できたことだろう。

     

 

 

 

 

 

 


         

 

 

水の動態に関する手足の経穴と経絡の考察 ver.1.1

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経絡はしばしば川の流れに例えられるが、それは初学者に向けての大ざっぱな紹介にすぎないものたっだ。肘から先、膝から先には五兪主病といった井榮兪経合の性質をもつツボがあることも教わったが、あまりにも画一的であり単なる古典的修辞だとして真剣には学んでこなかった。なお私は過去に五兪穴について調べたことがあって、これを本ブログに載せているのでご覧いただきたい。

五兪穴のイメージ(ニーダムの見解を中心に)
https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/5566d414c785a766265f459e87fc2efd

ではどのようなアプローチをすれば経絡経穴について建設的な発見が得られるのだろうか。今回私は、354穴の正穴名の語源を調べたり想像したりもして、手足の水流に関係している経穴名をピッアップし、続いて水の流れの動態変化を調べるため、経絡ごとにこれらの経穴の関連づけを行うことにした。その結果、次のことがわかった。

①水流に関係した経穴があったのは十二正経の中の四本の経絡に限定された。
②その四つの経絡とは次の通り。(  )内は水流動態に関係した経穴数。
三焦経(4)、肺経(4)、腎経(5)、心包経(2)
※一見するとこの経穴数は少ないように感じられるかもしれないが、合谷や後渓というような、単なる地形を示すツボは含まれていない。また水路ではなく一般的な水に関係する穴(例:水分、水溝)なども省略した。体幹部にある穴も含まれない。たとえば腎経の中注穴(臍の外方5分下方1.3寸)は、一見すると水を注いているイメージだが、「中注の内側には胞宮や精巣があり、腎気が集まるところで、中注から胞中(子宮)へ腎気注がれる」といのがツボ名の解釈であって、今回のテーマ「水路」とは無関係である。


1.三焦経

水路といってまず思い浮かべるのは三焦経である。三焦は決瀆の官(運河開発管者)すなわち三焦経は水質代謝の通路。「決」は堰(せき)の扉を開いて水を開通せること、「瀆」には汚れを流すドブという意味があるも、四瀆は中国の4本の大河を意味している。四瀆の意味を総合して考察すると、汚物を流すための大河ということ。すなわち決瀆とは、体内の水の代謝(水を巡らせ汚水を流す)するという意味になるだろう。

☆「堰」といえば中国2200年前の歴史的利水工事となった中国四川省の都市、都江堰(とこうえん)が有名で世界遺産にもなっている。それまで四川盆地を流れる大河は洪水や干ばつで人々を困らせていた。そこで李冰(りひう)は8年の工期を経て、川を本流と支流にわけ、それぞれに堰築き、水量を調節するような堰を完成させた。以降、成都は肥沃な土地としてよみがえり、天府と称されるまでになった。ちなみに都江堰は道教発祥の地である。

1)三焦経の経穴
①液門:液とは少量の水。
②四瀆:a.「瀆」=汚水を流すドブや溝。
    b. 四瀆は中国の四大河(長江、黄河、淮水、済水)をさす。
③消濼:濼=水たまり。水流が消えて水溜まりになる。
④陽池:手関節背面を背屈してできる中央の陥凹を池にたとえた。
 
2)三焦経の水の動態
少しの水(液門)が池(陽池)となり、大河(四瀆)となるが、やがて流れはなくなり水溜まり(消濼)になる。
  
2.肺経

1)肺経の経穴
①尺沢:沢は水の集まる処。
②列缺:肺経の列から分かれて欠けるの意味。
③経渠:渠=人工の水路。現在では暗渠との単語が使用されている。水路に蓋をしものを暗渠という。暗渠は土地の有効活用であり都市に多くみられる。  ④太淵:淵=河川の流れが緩やかで深い場所。
 
2)肺経の水の動態
沢の水(尺沢)から流れ出て、途中一部は支流(列缺)になって分岐。本流は水に入り、最終的には流れがゆるやかになり大きく深い淵(太淵)に至る。
 
3.腎経  

1)腎経の経穴
①湧泉:泉のように水が湧き出る。
②太渓:湧泉から流れ出た水が(太渓)の処で一つに集まり、大きな渓流となる。
③水泉:水が深いところから溢れ出てくる。
④照海:「照」は<光り輝く>のほかに<広い>との意味もある。たとえば照合は、広く比較することである。海は平らで水がたまるような凹んだ処。すなわち照海は水が溜まる広い凹みをいう。
 足内果下は、皮下組織が薄く、やや凹んで平らな部なので、照海となづけたのだろう。
⑤復溜:ふたたび流れてくるの意味。水の流れは太谿→大鐘→水泉→照海と、内果の平らな処をグルリと回った後、再びこの部へと上行する。
 
2)腎経の水の動態



湧泉から湧き出た水が集まり大きな渓流(太渓)となり、水深の深い処から溢れて(水泉)、足の内果下の平たい処を一巡して広い凹み(照海)に入った後、再び上行(復溜)する。
※復溜穴の由来を調べていくうちに、足内果下あたりで腎経がグルリと回っている理由が理解できる。これは水が渦巻きのように回転していることを示すものだろう。用を足した後のトイレの水流を起想させる。

 

4.心包経

1)心包経の経穴
①天池:肋間のくぼみのような池。
②天泉:天池から、心包経の気が泉のように流れ入る処。
 
2)心包経の水の動態
肋間に溜まった池の水(天池)が、上腕二頭筋筋溝(天泉)に流入。

グロインペインと針灸治療 ver.2.0

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グロインペイン症候群 groin pain  syndrome とは鼠径部痛症候群の英語名で、  groinとは「股間」のこと。

グロインペインはスポーツとくにサッカー選手に多く、ランニングやボールを蹴る動作で出現する。変形性股関節症では外殿部痛とともに鼠径部痛を訴えることがある。その一方で鼠径部痛の原因追求が難しい場合も少なくない。アスリートの鼠径部周囲に出現する慢性障害ということになるが、真の原因を特定しにくい。キック動作やランニングやなどの繰り返しの運動によって、鼠径部、股関節周辺、骨盤に機械的ストレスが  加わって痛みとなる。1~2ヶ月の安静で改善することが多いが、緊張が高い鼠径部の筋への押  圧刺激やストレッチだけでは改善しないこともある。

 

1.ドーハ分類

世界中の股関節専門家が2014年11月カタールのドーハにて提唱したgroin painの分類。

 

2.上前腸骨棘周囲の痛み(足のつけねの痛み)
   
股関節周囲の疼痛,ひっかかり、クリック可動域制限(外転、屈曲)など。股関節外旋筋には中殿筋と小殿筋があるが、小殿筋は大転子の前方に停止している。一方、大腿直筋の起始は右図のように3つに分岐していて、大腿直筋第3頭が小殿筋と連結している。
このことから外殿部痛を生ずる小殿筋の緊張は大腿直筋緊張に連動し、鼠径部とくに足のつけ根の痛みを生ずることが判明した。
  

 

針治療は、臥位にて小殿筋刺針および大腿直筋起始(髀関穴)に、対する刺針が効果的となる。髀関は下前腸骨棘で、縫工筋と大腿筋膜張筋の間にとる。下前腸骨棘は上前腸骨棘の下方1寸内方1寸の処にある。

 

3.鼠径部の痛み

変股症では、鼠径靱帯外1/3の処(=外衝門)にある腸骨神経ブロック点に圧痛をみる。この圧痛は腸骨筋の緊張を意味している。腸骨筋は、鼠径靱帯下を横断して大腿骨小転子に停止しているので、股関節と腸骨筋の間で摩擦されて炎症や癒着が起こりやすい。とくに腸腰筋が短縮している時、鼠径部痛をきたすことがある。        
鼠径部から腸骨筋に刺入するには、股関節にぶつかるまで深刺し、癒着を剥がすように局麻剤を注入するが、かなり力を入れないと剥がれなかった(木村裕明医師)という。これは腸腰筋膜下ブロックとよばれる方法である。(下図×印)   
つまり腸骨筋は、股関節との間で摩擦されて炎症や癒着が起こりやすい。とくに腸腰筋が短縮している時、鼠径部痛をきたすことがある。

 

 

 

4.恥骨外縁の痛み

股関節内転筋の主動作筋で恥骨外端から起始している。パトリックテストの肢位をすると、隆起してつまみやすくなる。股関節外転不十分な者に対して、陰廉や足五里から刺針して長内転筋を弛めると、外転角が増す(あぐらがかけるようになる)ことが多い。大腿内側に刺針する時、患側下の側臥位で健側の膝を立てた肢位で行うと、経穴上鍼響きを与えやすいようだ。治療ポイントは主に長内転筋で、足五里や陰廉など。

  

 

 



 



  




 

 

 

 

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