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「五官科」現代針灸実技セミナー、歯科実技もうすぐ開催です。 

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第7期奮起の会「五官科」現代針灸実技セミナー

この度、第7期奮起の会として「五官科」領域の針灸実技講習会を4回シリーズで開催します。これまでの第1~第6回は整形外科疾患の針灸実技セミナーを実施してきましたが、五官科は今回が初になります。


第2回 5月21日(日曜)  第2章 歯科   残席数3 
(残席数は、5月13日の状況)
5月21日実施、歯科の実技テキストが完成しました。
セミナー出席者で事前学習を希望する方には、PDFファイルをメールに添付しますので、ご請求ぐださい。

第3回 7月2日 (日曜)  第3章 鼻科・第4章 咽喉科  残席数1     
第4回 7月16日(日曜)  第5章 眼科・第6章 皮膚科     残席数2

2.実施時間:午後5時30分~午後8時頃

3.会場:国立市中1丁目集会所(国立駅南口下車 徒歩3分)

           

4.参加費:針灸有資格者7,000円、針灸学生6,000円、見学3,500円(当日支払い)  オリジナルテキスト配布
5.参加資格:針灸師、医師
6.定員:各回12名 
7.持参品:筆記用具程度。テキスト、針、消毒用品は当方で支給
8.御申込方法 
①参加希望のテーマと開催予定日、②氏名、③住所、④電話、⑤メールアドレスを、メールまたは電話でお伝えください。
折り返しご連絡を差し上げます。
9.参加〆切:各回実施前日まで(定員になり次第、締切ります)

参加予約したのだけれど、急に都合悪く参加できなくなった、という方は事前にご連絡ください!

10.お問い合わせは以下まで
似田 敦(にただ あつし) nitadakai825@jcom.zaq.ne.jp    電話:042(576)4418
〒186-0004 東京都国立市中1-11-26 あんご針灸院 

※講習会後は居酒屋で懇親会もします。(参加費は当日実費払い。3000円程度)

 五官科テキスト表紙

 

<<実技内容>> 

第1回4月16日  耳科 終了

第1章 耳科 テキスト17ページ  
実技項目
  1)耳介周囲穴の取穴と刺針(天牖、長野流翳明)
  2)耳鳴に対する顔面神経下顎縁枝(頬車~大迎)刺針
  3)耳鳴りに対する下関刺針
  4)耳鳴に対する下耳痕刺針
  5)耳鳴に対する鳴天鼓手技
  6)頸性めまいに対する座位にて天柱深刺
  7)頸性めまいに対する胸鎖乳突筋ストレッチ


第2回5月21日 歯科<残席数3>
第2章 歯科 テキスト13ページ      
実技項目                   
  1)下歯痛に対する頬車水平刺 ※耳鳴に対する顔面神経下顎縁枝(頬車~大迎)刺針と類似
  2)上歯痛に対する客主人斜刺    
  3)歯肉炎に対する歯肉への刺針
  4)口内炎に対する局所への線香火刺激と口内炎部対側頬への刺針
  5)口角炎に対しての口角部への小灸刺激
  6)舌痛に対する舌根刺激
  7)顎関節症Ⅰ型に対する咬筋刺激
  8)顎関節症Ⅰ型外側翼突筋下頭刺針(下関直刺)
  9)顎関節症Ⅰ型に対する顎二腹筋後腹への刺針
 10)顎関節Ⅱ型に対する耳門への刺針
 11)顎関節症Ⅲ型に対する下関から外側翼突筋上頭への斜刺


第3回 7月2日  鼻科・咽喉科<残席数1>
第3章 鼻科 テキスト6ページ  
実技項目  
  1)鼻閉に対する挟鼻刺針と上唇鼻翼挙筋マッサージ
  2)鼻閉に対するひろゆき氏の息止め手技
  3)鼻閉に対する顖会、上星の施灸
第4章 咽喉科 テキスト9ページ 
実技項目
  1)咽痛に対する洞刺
  2)咽痛に対する口蓋扁桃刺
  3)咽痛に対する上喉頭神経内枝刺
  4)咽痛に対する頸動脈洞刺
  5)咽の詰まり感に対する舌根(=上廉泉)刺針
  6)咽の詰まり感に対する舌骨上筋のストレッチ押圧
  7)咳嗽・気管支喘息に対する治喘・定喘の刺針施灸
  8)咳嗽・気管支喘息に対する天突移動刺針


第4回 7月16日  眼科・皮膚科<残席数2>
第5章 眼科テキスト14ページ 
実技項目 
  1)外麦粒腫に対する二間灸
  2)外麦粒腫眼瞼部の多数散針
  3)網膜疾患に対する上睛明刺針(注意)
  4)網膜疾患に対する球後刺針(注意)
  5)眼精疲労に対する強間~風府刺絡
  6)眼精疲労に対する伏臥位での上天柱深刺
  7)眼精疲労に対する座位での肩中兪深刺
  8)眼精疲労に対する太陽穴刺絡(注意)                     
第6章 皮膚科 テキスト 14ページ
実技項目
  1)面疔に対する下頤の灸と合谷患側合谷に多壮灸
  2)ヒョウソに対して圧痛ある患部指上の施灸
  3)アトピー性皮膚炎の痒みのある皮膚表層に対する刺絡
  4)アトピー性皮膚炎の痒みに対するペットボトル温灸


経穴名からみた五神の理解

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五神の意味をツボ名を手がかりとして昔の中国人が考えた内容を調べてみることにした。なお五神とは五臓色体表の一項目で、神・魄・魂・意・志の精神のことをいう。いろいろな見解がある中で、シンプルであることを心がけた。

1.「神」の名がつけられた経穴   
古代中国人が考えた「神」は人間を超越した絶対的存在ではなく、万物のも非物質的側面をさしている。

1)脳
 大脳皮質機能と関係し、人間を理知的存在ならしめている。
①神庭(督):前頭部、前額髪際。脳は元神の府であり、「庭」は門庭(前庭)
②本神(胆):前頭部、神庭穴の傍。脳は人の根本。
 
2)心
心臓の前壁には神堂と神蔵はあり、心臓の後壁の肩甲背部には神堂がある。現代 いう心臓のポンプ機能と同じ。
古典では<心は神を宿す>と記している。これは心拍に変化をもたらすような感(喜怒哀楽)は、「こころ」により行われるとする意味だろう。
①神堂(膀):肩甲間部、心兪の傍。心の精神である「神」を蔵する部。
                 「神堂」は心兪の外方にあって膀胱経背部兪穴の一つになる・
②神蔵(腎):前胸部で紫宮の傍。霊墟の上にあり、神霊(心)を守る。
③神封(腎):前胸部で膻中外方。「神」=心、「封」=境界線。
④神門(心):手関節部。心経の原穴。「心」の臓に関係する。
 
3)先天の気=遺伝子
①神闕(任):臍部。臍は神の出門であるとされる。へその緒を伝い、胎児は滋養され、親から神(=先天の気、遺伝子)が伝わる。


2.「魄」「魂」「意」「志」の名がつけれた経穴
五臓に対応して一穴づつあり、背部兪穴とよばれる。背部兪穴は背部膀胱経上にあるが、それぞれ独立して五臓と関係し、その診察と治療に用いられる。 五臓兪穴の外方1.5寸にある背部膀胱経二行線上には、それぞれの内臓が蔵する 神(精神要素)の名称がつけれた経穴が並んでいる。
 

1)五神名のついた膀胱経二行線にある経穴
① 肺:魄戸(膀) 
 肺兪の傍にあり肺は魄を蔵する。呼吸停止(気が動かなくなる)して魂がなくなると、白骨死体だけが残る。魄の解字は白+鬼で魂を失った白骨死体。
②心:神堂(膀)
 心兪の傍にあり、心の精神である神を蔵する部。
③肝:魂門(膀) 
 魂とは、気を主どるものである。魂は死ぬと雲の上にのぼる。
④脾:意舎(膀)
 脾兪の傍にあり、脾の精神エネルギーを蔵する。
⑤腎:志室(膀)
    腎兪の傍にあり、腎の精神エネルギーを蔵する部


2)魄・魂・意・志の考察        
  「意」は音+心臓の合成文字で、行動や選択をする際の元となる内的な心の動きを示す。「志」は心臓の上に「之」(=向かい行く)がのった漢字で、心の向かうところ、心の目指すところという意味になる。一方、神・魄・魂は、よく知られている言葉ではあるが、いろいろな意味に使われていて、逆にイメージ漠然としたものになっている。
 
①魂
 生者は当然ながら「気」を有している。死ぬと気が失われるので、動かなくなり五官も働かなくなる。この気を主どるのが「魂」で、魂は雲+鬼の合成したものである。通常ならば魂は雲の上へとのぼって「神」なるのだが、天に上がれず、地をさまよう状況になれば鬼となる。
魂が強くなると、怒りっぽくなるという。これは雲が多い→悪天候→風雨がまるとの自然観察から生まれた考え方だと思われた。
   
②鬼
鬼の正体は判然とせず、「目に見えない何か」ということになる。「鬼」はグロテスクな頭部を持つ人という象形文字。右側のムの字は古字(現在使われなくなった字)で、モノを囲むとのが元の解釈で、そこから私という意味に転じた。人は死ぬと鬼になるとされているが、生前の人とは異なる姿形ということになる。人が死ぬと鬼籍に入るとは、生者の籍から離れ、死んだ人の名簿に入るという意味になる。強い者や大きい者の接頭語として鬼編集長、鬼軍曹などのように、鬼○○という表現があるが、これはわが国独特の表現である。赤い皮膚をして角があり、金棒をもつというのも我が国固有のイメージ。

 

 

③魄

人が死ぬと魂と魄に分かれる。魂は雲の上へとのぼって神となり、魄は白骨死体となり地に留まる。魄は白+鬼の合成した漢字である。白とは白骨死体のことだが、魄もは物質とての白骨死体そのものをさす。魄には、人間の外観、骨組み、生まれながらに持ている身体の設計図という意味もある。

一方、道教でいう「魄」は上述の意味とはかなり異なる。肉体を支配する感である喜び、怒り、哀しみ、懼れ、愛、惡しみ、欲望の7つをまとめて七魄と呼び、これらは肉体を支配する感情とした。通常であれば「魂」が制御しているのでこらの感情はあからさまに表に出ることはないが、魂が消失した状況下の「魄」は制御不能な感情を意味する。


3.「霊」の名がつけられた経穴
五行色体表の「五神」にはないが、魂とよく似た言葉に「霊」があり、霊の名がつられた経穴も3穴みられた。経穴における魂と霊の相違点はどういうものかを探った。  
①霊墟(腎):「霊」は死者の魂のこと。「墟」は土で盛られた高い山。霊墟は前胸部の山のような高いところにあるため。       
       秦の始皇帝が築いた運河。現在の中国の桂林市興安県に現存。
②霊台(督):「霊」は死者の魂のこと。「台」は高く平らな場所。物見台、天文台。        
      この穴位の前面は心臓であり、心臓疾患を治療する。
③霊道(心):前腕の心経上になる。死ねば魂は天に上って神になるという。

   

「魂」は死者の中だけでなく、生者の中の精神的要素を示す場合がある。この場合、”三つ子の魂百まで”(幼いころの性格や気質は大人になっても続く)という表現や、気力や心の活力いった意味にも使われる。
一方の「霊」は、死者の魂といった限定した意味で使われる。とくに死体を埋葬た墓が、霊のいる処とのイメージが強い。これまで死ぬと魂魂に分離する   記した手前、死者の魂という表現は矛盾した表現である。しかしながら病院などで死体を一時保管する部屋を霊安室、死体埋葬所を霊園と呼んだりすることは、間違った言葉の使い方だと騒ぎたてるのも野暮というものだろう

輒筋穴という名称の由来

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側胸部第4肋間で乳頭と並ぶ線で、中腋窩線上に淵腋穴をとり、その前方1寸に胆経上のツボとして輒筋(ちょうきん)穴をとる。
「輒」のは見慣れない漢字なのでネットで調べてみることにした。なお淵腋(胆)  は「脇の下に隠れる水溜まり(腋窩腺分泌)」の意味だろう。

 

すると①牛車(ぎっしゃと読ませるなどの両側の手すりのだという説明、②牛車のひさし部分をさすという説明、さらには③牛車をひかせるため、柄の端を牛の首に乗せる木のことだと説明したものもあった。これまで辞書というのは基本的には同じ内容が書かれているものと思っていただけに、バラバラであることに驚いた。

牛車各部の名称を図解したものもあって、長い柄の先には軛(くびき 首木)とよばれる横木があり、それを牛などの首に乗せ、車を牽かせるのだというが、③の解釈は、軛を輒と取り違えているようだ。

 

軛(くびき)をつけた牛の写真
 

香港で出版された辞書には、輒とは荷車の側板だと書かれていた。この側板は、板を何枚も並べて作られていた。板を比喩として肋骨に例えたのだろうと納得した。輒筋は肋骨間中にあるツボだからである。肋骨の間にある筋という意味でと輒筋と名づけられたと思った。


  

するとここで、新たな疑問がわいてきた。前胸部にあるツボの大多数は肋間にあるわけで、肋間筋にあるのは何も輒筋穴だけの特徴とはいえない。輒筋穴特有の解剖学的特徴はないのだろうかと、再び解剖図と経穴図を見比べ検討すると、側胸の一部分には前鋸筋があることに気づいた。前鋸筋も板が並んでいるように見える。すんわち輒筋の「筋」は肋間筋ではなく、前鋸筋のことだろうと理解した。

「輒」の字を分解すると、「車」+「耳」+「L(おつにょう)」になる。そして「耳」と「L」で、柔らかい耳タブを意味すると書いてあった。なるほどそういうことだったのか。前鋸筋のノコギリのようにみえる筋の一つ一つは、耳朶のようにも見えないこともない。

 

歯周病に対する局所刺針の方法と女膝の灸 ver.1.8

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1.現代の歯周病の診療

1)歯周炎の原因
   
①老化:30才を過ぎれば、誰でも多少は歯周炎は生じている。歯周炎の最大要因は老化。他に、強く咬む習慣など。

②糖尿病:糖尿病では口内の血流も悪くなるので唾液の分泌も減り、歯垢がつきやすくなるで、細菌易感染から歯周病を悪化させやすい。歯周病になると歯周ポケット内の歯垢部細菌を白血球が退治しようと集合する。集まってくるが、この時、白血球が歯周病菌の出す毒素に触れることでTNF―αと呼ばれる物質を放出する。TNF―αには血液中のインスリンの働きを妨げてしまう作用がある。歯周病の治療をすると血糖値も少し改善する。

2)歯周炎の症状

歯肉のむずがゆさ、歯肉縁の発赤と出血、唾液粘稠性の変化、口臭といった症状を生ずる。   
※歯垢(=プラーク)が歯の表面ではなく歯周ポケットにできると細菌にとって格好の住み家となる。
     歯槽膿漏の治療として歯石除去は基本である。歯石とは歯垢が石灰化して固くなったもの。

3)歯科での歯周病の治療と予防
  
①歯磨きブラッシングにより歯肉マッサージをすること。歯ブラシすると血が出るところ、押圧して痛みがあるところを重点的にラッシングする。毎日行うことで、歯茎を引き締め、歯磨き時に出血しにくくなる。歯磨きは、歯周病の原因菌数を減らすことが目的であって、原因菌を完全に消し去ることできず、再発を繰り返しやすい。効果不十分であれば外科処置となる。
  
②歯石を取り除く。歯垢(プラーク)は放置しておくと次第に硬くなり硬い歯石になる。歯を取り除くには、デンタルブラシやデンタルフロス(フロスとは細い糸の集合体)を使い、歯磨きブラシだけではとれない歯間の歯苔を除去する。
  
③糖尿病があれば、その治療を行うことが歯周炎の治療にもなる。


2.歯周病に対する鍼灸治療

1)江戸時代以前の歯科治療方針

①耐え難い歯痛では抜歯

当時は麻酔などなかったから、冷やしたり痛み止めの漢方薬を虫歯に塗布したりして何とか我慢した。どうしても我慢できないほどの痛みは抜歯する他なかった(当然無麻酔で)。ただし徹底的に我慢すると歯や神経が崩壊して痛みはなくなるという。


②歯茎の腫れや出血では歯肉を切って血や膿を出した  

江戸時代の歯槽膿漏の治療法は、腫れた歯肉に鍼を刺し、膿を出す孔を開けることで鎮痛させたという記録がある。孔から膿を逃がすことが治療の一つとして選択された。江戸時代以前、「おでき」は熱毒が体内にとどまり、外に逃がせない状態と考えられた。外に出すには皮膚に鍼で孔を開けたり打膿灸で膿ませて膿を出すことだった。桜井戸の灸(面疔に合谷の多壮灸)というのは、顔面にできたオデキの毒を合谷から排膿させるという治療原理である。これは桜井戸の灸に限らず、打膿灸の治効原理になる。


③虫歯地蔵への参拝

江戸時代以前には、虫歯の痛みをなくしてもらおうと、虫歯地蔵も各地に建てられた。煎った大豆を供えて平癒を祈ったという。煎ると殻が割れるが、その割れ目から歯中に入った虫を外に外に逃がそうとする願いがあったと思われた。

私は令和3年の5月初旬に、奥多摩にハイキングに出かけたが、旧五日市街道沿いに虫歯地蔵尊を発見して少々驚いた。質素な石仏だった。


 

3.現代の歯科の鍼灸治療

1)歯肉に対する直接刺針

歯周炎に対する現代歯科での治療は、歯石の除去と自宅での歯ブラシでの入念な歯肉マッサージと歯間ブラシの使用であって、現代に至っても特効的な治療方法があるわけでない。歯肉に物理的刺激を与えるという意味で歯肉に対する鍼灸局所治療は、次のように行う。

①どこが腫れているのかを患者に聴取、その圧痛部を患者自身の指頭で指示してもらう。
②術者はその圧痛を確認後、1番針を使って圧痛点から数本直刺し、顔面皮下組織→口腔前庭→歯肉→歯槽骨と入る。
 しっかりと押手を強くして刺入していくと、簡単に歯肉部に響かせることができる。
③歯肉の血行促進を目的に単刺するか、雀啄により患部に軽く響かせた後、置針するなどの施術を行うのが普通

※圧痛点は口裂の上下一横指の頬部や下顎部に出現する。
下図は、木下晴都「最新鍼灸治療学」からの転用だが、上歯の反応点は外鼻孔の高さであり。下歯の反応点はもっと顎に近い部位になるだろう。私が考えた施術点の図を後に加えてみた。

 


2)歯周炎に対する女膝の灸

①女膝の位置と灸治法

歯周病に対する特効穴としては、女膝(じょしつ)が知られている。女膝は女室と表記することもある。このツボの位置は、アキレス腱停止部にあり、歯茎との関係は不明だが、形が似ているものは何かしらの関係性があるとする東洋医学的整体観から考察すると次のことはいえるだろう。踵骨を後からみると、前歯と似た形をしている。歯は上半分が歯肉から出て、下半分は歯肉に埋まっている。その境界の歯茎から血や膿がでるのが歯槽膿漏ならば、その境界部分こそ患部であり、位置関係を踵骨に当てはめれば、女膝に相当することになるのではないだろうか。

江戸後期の浅井惟亨著『名家灸選』の中に女膝の記載がみられる。現代文に訳すと次の通り。
骨槽風(=歯槽膿漏)を治する法:足の後かかとの赤白肉の際で、女膝とよばれているところ。左右に各50壮灸すると、一ヵ月にして効き目がある。かって歯茎に孔があき、膿血がだらだらとたれていた者を救った経験がある。
 
山本俊男「鍼灸特効穴一発療法」源草社 1999.5)では次のような記載がみられる。
女膝施灸時の体位は、患者を伏臥位にさせ、足関節を最大限に底屈、踵後方にできる皺あたりを指で探ると、踵骨の上際中央付近に小さな凹みがあって、症状を持った患者であれば、顕著な圧痛があるので、ここが灸点になる。毎日10壮ずつ施灸すると炎症が治まってくる。
 
この文章から女膝の位置を推定したのが下図である。伏臥位で足関節を底屈すると、踵骨後部にる凸部やアキレス腱停止部である踵骨隆起が触知しやすくなる。

②女膝の名称

「膝」とは今日でいう膝関節に留まらず、折り畳んだ部分を「襞(ひだ)」とよびどの関節であっても膝とよんだという説が有力である(ネット「語源辞典」より)。女膝穴は足関節部にあるが、ここを膝と呼んでも差し支えない。

歯周病は、女性の方が男性よりもかかりやすい。掛かりやすい。その原因として考えられているのが、プロゲステロンやエストロゲンなどの女性ホルモンである。女性ホルモンには、歯茎の腫れや出血を起こしやすくする性質がある。女性ホルモンの分泌が増えるのは、初潮を迎えた頃や妊娠中で、ホルモンバランスが乱れるという点からは更年期も歯周病にありやすい。特に更年期は、口内での唾液の分泌量が低下して口の中が乾きやすくなるので、歯周病の進行がより一層進みやすくなる。以上のことからとくに「女」膝という名称になったと考察した。

正座のことを女膝ということがあるという。男膝との熟語はないようだが、正座以外の楽な姿勢で座ることだろう。正座姿勢では、足関節は強く底屈している状態なので、女膝穴の取穴に適しているといえるのではないか。


③女膝が水毒を治す

女膝は水毒を治すとされる。歯茎が腫れている状態を浮腫と捉えると、女膝の適応症と考えることもできる。
肩が凝ると歯が浮く感じがする者がいるが、頸肩のコリの治療が歯肉に対する治療に関係する場合がある。この場合は肩井や天柱などに対して鍼灸を行う。しかし頭蓋骨後面と踵骨後面を相似形と考え、天柱の代わりとして崑崙に施術するという考え方もある。崑崙と女膝は非常に近い部位にある。

  <コメント> 桂蓮アップルバウム(2020.11.11)初めてコメントします。アメリカ住まいのケイレン・アップルバウムと申します。 女膝について初めて知りました。 それに歯茎との関連性も初めて知って,そう言えば、歯茎に炎症が会った時、 足のアキレス腱辺りが冷たくなり、いくら温めても冷気がしたことがありました。 それで、足の裏のマッサージをしたら気がつかないうちに口内炎も起こらなくなりました。 私はその関連性については全く分からずにすぎてしまいましたが、今この記事を読んで納得しました。 記事を全部読むことを目指して今日から頑張ります。4.女膝への施灸で、歯肉が引き締まる例(細江久美子氏)女膝への施灸が、歯周炎に対して実際どのような感じで効果あるのか疑問だった時、代田文彦編、玉川病院生情報会著「鍼灸臨床生情報」②の中に、上述タイトルの症例報告を八件したので、かいつまんで紹介する。45才女性。歯槽膿漏で歯が浮いてぐらつき、歯肉がブヨブヨするとのこと。胃腸機能をためるような全身的な治療を行い、最後に女膝を透熱するまで灸をすえた。左7壮、右13壮で透熱。次回来院時にその効果を問うと、「歯肉がギュッと締まって歯茎が少しピンク色になった。リンゴをかじることもできた」とのことで、その時も女膝に同様の透熱灸を行った。2診目の治療後も歯肉はピシッと引き締まった。ただし持続効果は乏しい。。肩が凝るとのことで来院。。、

4)女膝への透熱灸の効果(細江久美子氏)

女膝への灸が効果あるとすれば、それはどのような感じなのだろうか。疑問に感じていた時、代田文彦監修、日産玉川病院生情報会著「針灸臨床生情報②」の中に、「女膝の施灸で歯肉が引き締まる例(45才、女性)の症例報告を発見した。かいつまんで紹介する。

数年間から歯槽膿漏で歯のグラツキ、歯肉がブヨブヨする感じがあった。症状は右側に強い。歯科治療は受けているが歯槽膿漏に対しては効果は乏しい。胃腸機能を高める全身的治療に加え、最後に女膝へ透熱灸を行った。左7壮、右13壮で透熱。次回来院時、歯槽膿漏の具合を聴取すると、「歯肉がギュッと締まって、歯肉が少しピンク色になった。リンゴもかじることができた」とのこと。今回も女膝に透熱灸を実施。この治療直後も歯肉はピシッと引き締まった。ただしその効果の持続性は長くない。毎日施灸を続ければ効果が長くなるかもしれない。

変形性膝関節症に対する膝蓋骨ストレッチの意義 ver,1.1

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1.私の膝OA治療の要点

膝痛患者に対し、仰臥位で股関節を屈曲、膝をできるだけ屈曲させた姿勢にさせ、膝蓋上縁すなわち大腿四頭筋の停止部の圧痛を探る、そして圧痛あれば、圧痛点(=鶴頂穴)に単刺または直接灸3壮程度を行うことで、痛みが改善することが多かった。
この治療理論は、Ⅰb抑制を利用して大腿四頭筋をゆるめるというものだった。ちなみにⅠb抑制とは、筋が外力によって急激に引き伸ばされた際、筋断裂を防ぐための防御機能であって、受容器は。その筋の腱紡錘にある。すなわち四頭筋を緊張状態にして、鶴頂を刺激すると、さらに四頭筋が緊張したので、このままでは筋断裂すると身体が解釈して四頭筋緊張を緩めることになる。

また内・外膝眼に圧痛を認めた場合には、立位で内・外膝蓋に直刺2~3㎝程度の単刺をして関節包刺激をしている。立位にして施術する理由は、立位にすると四頭筋収縮にともない、膝蓋骨位置が高くなり、内・外膝蓋の陥凹に刺針しやすくなると同時に、膝関節包も緊張状態になって、刺針有効性が増大すると予想するため。

ところで最近、61才女性(看護師)の変形性膝関節症の治療を行っている。だいたい週1回ペースで行い、上記の鶴頂灸と立位で内外膝眼刺針で関節包刺激を行うことが多かった。今回は今ひとつ膝痛の治療効果があがらないので、最近覚えた徒手矯正手技を加えてみると、1週間後再来した折、あれは効いたからもう一度やって欲しいといわれたので、その手技を紹介したい。


2.膝蓋骨ストレッチ

1)ためしてガッテンの方法

四頭筋が過緊張して膝蓋骨が可動しづらくなっているのであれば、施術者が膝蓋骨を積極的に上下左右に動かすことで四頭筋を緩める方が、より直接的かもしれない。膝蓋骨-大腿骨の滑走しやすさのきっかけをつくることにもなるだろう。NHKためしてガッテンでは次の内容が放映された。

①膝を完全伸展させてから脱力。膝蓋骨が水平方向に動くことを確認。
②膝蓋骨縁に両手の親指を重ね、膝蓋骨のヘリを押す(上下左右、斜めなど8方向) 。押す時間は1か所につき5秒程度。
③1回のストレッチは3分まで。1日2回が目安

 

 

このような手技療法は、整体治療としてYoutubeなどで知ることができ、これにも種々のバリエーションがある。一般人向けの紹介動画だからか「このような症状の時には、このようにして治す」というパターンが多く、背後にある治療理論についての説明はほとんどないのが残念なところ。もっとも、現在の針灸の発表スタイルも同じようなものだろう。最低でも「なるほど、そういうことか」と共感できるレベルであって欲しいものだ。

 

3.膝蓋骨圧迫テストの意味

実はこの手技の膝蓋骨を押圧しつつ上下に動かす動作は、膝蓋骨圧迫テストと同じことをしているように見受けられた。膝蓋骨圧迫テストの場合、膝蓋骨を動かすことで、患者の感ずる痛みの有無や検査者の指頭に感ずるざらつきを調べている。異常があれば大腿膝蓋関節の異常ありと判断する。かつて膝蓋骨骨膜と大腿骨骨膜をこすりつけた際の痛みだから、大腿膝蓋関節症とくに大腿膝蓋関節の摩耗と判断した。



確かに検者の指頭にかんずるザラツキは、大腿膝蓋関節の摩耗を示すものだが、この関節部に知覚はない。骨膜はなく関節包もないから痛みは感じることはないのであっる。ではなぜ患者は痛みを感ずるのかといえば、周囲筋筋膜の伸張痛による痛みといえる。従って、膝蓋骨圧迫テスト時に患者の発する痛みは針灸で軽減できるといえるのである。NHKで紹介された膝蓋骨を上下に動かす運動は、大腿四頭筋の伸張運動のことで、四頭筋を動かすことで関節包内膜の滑液包から関節滑液の分泌を活発化させることで、ザラツキにも良い影響を与えることができるだろう。

 

 

 

円皮針こぼれ話

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   皮内針は1950年代、周知のように赤羽幸兵衛により発明された。その頃の話は過去の医道の日本誌で知ることができる。 
 
医道の日本プレイバック(10)赤羽幸兵衛「皮内針法こぼれ話」(1976年)
        https://www.idononippon.com/topics/4313/
   
圧痛点にただ皮内針を貼り付ければよいというのではなく、症状部膚を緊張状態にしておき、圧痛点に皮内針をすると効果があるとの記述が一つの示唆を与える。

 

一方、皮内針にヒントを得たのか中国では円皮針を造りだし、1975年頃から中国から日本に円皮針が輸入され始めた。一袋10個入400円だった。
当時中国針も10本入1000円程度と高額だった。当時、日本人で中国に行った者はあまりいなかったので、中国の物価事情も分からなかった。輸入ブローカーがボロ儲けしたのだろう。
 
その円皮針はリング径2㎜、針長2㎜、太さ8番程度と大きく太いものだった。小袋のラベルには、華佗牌 撳針(きんしん)(中国語発音 チェンゼン)と書かれていた。「撳」は手で押すの意味。しかし我が国では馴染みのない漢字なので、医道の日本社が円皮針という名前をつけた。当時私は針灸学校通学の一方、医道の日本社新宿支店でアルバイトをしていた。すでに死去した医道の日本社前社長の戸部雄一郎氏の妹君(薬剤師)も働いていて、その本人から「私が考えた名前よ」と教えてくれた。まさにぴったりなネーミングで、たちまち本製品の固有名詞にとどまらず、円皮針という名称でわが国に普及したのだった。

 

 

頭部ツボ名の由来

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経穴の学習は大変だが、その中にあって最も難しいのが頭部になるだろう。頭部の経穴は、取穴となる目印が少なく、ツボ名自体も抽象的なものが多い。そこで今回、自分の学習を兼ねて、頭部の経穴の由来を整理してみることにした。ツボ名の由来には合谷、百会、手三里など各人一致した見解をみる穴も多いが、絡却・本神・懸顱・天衝・浮白・承霊など漠然としたイメージにしか浮かばない経穴もあり、こうした経穴の語源はやはり各書で意見が異なっている。結局何が正しいのは今となっては分からいので、最も興味深く印象に残る意見に従った。なかには書物の記述に満足できず、漢和辞典を調べた上、自分の考えを記した部分もある。

 

1.頭顔面経絡の流注概念

①頭顔面には督脈と6本の陽経が集まっている。陽経のうち、ツボが多数存在しているのは、膀胱経・胆経・三焦経それに督脈である。
②膀胱経:後頭部~頭頂部~前頭部(前頭~帽状腱膜~後頭筋)の矢状領域
③胆経:側頭部の側頭筋領域。陽がよく当たる処。
④三焦経:耳と側顔面の頬骨上域支配→老人になると耳遠くなり、頬上部(こめかみ部)がこける。頬上部がこける原因、加齢や栄養不良による側頭部脂   肪体の減少。
⑤膀胱経:後頭部~頭頂部~前頭部(前頭~帽状腱膜~後頭筋)の矢状領域
  

2.前頭部~頭頂部のツボ

①神庭(督) 脳は元神の府であり、「庭」は門庭(前庭) ※本神穴と呼応している。
②上星(督) 天空の星を見上げた時、星に最も近い場所。
③顖会(督) 顖=大泉門のこと
④前頂(督)  百会のすぐ前にある穴   
⑤百会(督)  多くの経絡が集まる部位。
⑥後頂(督)  百会のすぐ後にある穴
⑦曲差(膀)  「曲」=曲がる、「差」=不揃い。睛明からここまで膀胱経の流れは一直線ではなく、曲がることを示している。      
⑧五処(膀)  五処は承光の前、曲差の後にある。五処の両脇には上星と目窓がある。本穴を含めたこの5穴はどれも眼疾患に効果がある。さら五処は膀
 胱経の5番目の穴である。  ※膀胱経の流注:①睛明→②攅竹→③眉衝→④曲差→⑤五処...
⑨眉衝(膀) 眉頭の上方の髪際にある。眉毛を動かすとこのツボまで、突き上げるような動きがある。
⑩承光(膀) 天からの光を拝受するツボ。目に効くことを示す。 
⑪通天(膀)  天に届くほど高いこと。頭頂部の意味。
⑫絡却(膀) 「絡」は絡脈のことで小さな静脈、「却」は退却。眼の充血を消す効能がある穴。頭頂導出静脈関連?
⑬頭臨泣(胆)太陽経膀胱経最初の穴である睛明と少陽胆経最初の穴(内眼角)である瞳子髎(外眼角)は、ともに泣くと涙が出る処。本穴はこれら2穴
       の上方で、瞳孔線上。
⑭目窓(胆) 「窓」は光を入れる窓のこと。眼疾患を治し、眼の窓(瞳孔)を散大させる。
⑮正営(胆) 「正」=正確、「営」=営(現代でいう血液)。脳が正確に血を動かし全身に栄養を回している処。    
⑯本神(胆)  神庭穴の横にあるのが本穴で、奧には脳がある。脳は元神の府である。
⑰頭維(胃) 「頭」は頭部、「維」は額の髪とヒゲをつないでいる部分。
⑱強間(督) 後頭部の人字縫合にある部。小泉門部。

3.後頭部のツボ

①瘂門(督)  瘂=唖(おし)。声を出せない者のこと。発声するのに要となる部位
②完骨(胆)  完骨=乳様突起
③玉枕(膀)  玉=頭蓋骨のこと 寝る時にマクラが当たる部位。
④天柱(膀)  天を支える柱。天とは頭蓋骨のこと。頸椎を天柱骨とよぶ。
⑤脳空(胆)  「空」は孔や陥凹。脳戸の横で、外後頭隆起上の陥凹部に挟まれている。
⑥脳戸(督)   出入りする処を「戸」と呼び、脳の気が出入りする場所になる。
⑦風府(督)   風邪があつまるところ。風邪は頭項部を冒しやすい。
⑧風池(胆)   後頸部の陥凹部で風の吹きだまり。
                                                        

4.側頭部のツボ

①翳風(三)    翳とは、鳥の羽。鳥の羽により風よけとなっている部位。
②角孫(三)    角とは耳上角、孫とは小血管=孫絡のこと。
③頷厭(胆)  「頷」は頭を下げてうなづく。「厭」とはいやになる。頸が回らなかったり、うなづくことができないなどの症状を治す。
④頭竅陰(胆) 竅は強くひきしまった細い穴の意味。頭竅陰は頭部にあって眼、聾、舌強直、鼻閉、咳逆、口苦などの「竅」の病を治す。
 ちなみに足竅陰穴は足にあり竅の病を治す。
 ※人体の九竅:陽竅=耳孔(二)、目孔(二)、鼻孔(二)、口孔(一) 陰竅=前陰と後陰(二)
⑤曲鬢(胆)「鬢」=額の左右にある髪の生え際のこと。
⑥瘈脈(三)「瘈」はひきつけ、痙攣の意味で、「脈」は絡脈の意味。耳後浅静脈の上にあり、小児の痙攣やひきつけなどの病症を治す。
⑦顱息(三)「顱」=頭部。横向きに休息する際は、この部がマクラに当たる。
⑧懸顱(胆)「懸」=ぶら下がる。「顱」=頭部。側頭から出た髪毛がぶら下がる部位。
⑨懸釐(胆) 「懸」=ぶら下がる。「釐」=整える。側頭から出た髪毛を整える。
⑩承霊(胆)「承」は受ける、「霊」は神。本穴は頭の最も高い場所である「通天」の傍らにあり、神の思惟活動に関与している。
⑪率谷(胆)「率」は寄り添う。「谷」とはここでは側頭骨の縫合をさす。
⑫天衝(胆)「天」は頭頂にある百会穴のこと。「衝」はつきぬける。本穴は百会へとつきぬける道としての役割がある。
⑬浮白(胆)    脈気が軽く浮いて上昇し、天衝を経て、頭頂の百会に到る処。白は百に通じることから。
      
     
     

引用文献
①森和監修 王暁明ほか著「経穴マップ」医歯薬
②周春才著 土屋憲明訳「まんが経穴入門」医道の日本社
③ネット:翁鍼灸治療院 HP
④ネット:経穴デジタル辞典  ALL FOR ONE

 

 

 

 

 

 

 

 

地機、承山、跗陽の触診と刺針の体位  Ver.1.5

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1.教科書記載の地機穴の位置
 
地機穴は脾経の郄穴でもあるので古典的鍼灸で多用される経穴の一つである。東洋療法学校協会編教科書「経絡経穴概論」の地機の取穴は、「内果上8寸で脛骨後縁の骨際」とある。下腿内側長を1尺3寸と定めるので、下腿内側を3等分し、ほぼ上から1/3の処になる。ただし教科書には築賓の反応の取り方についての記載はない。

2.地機の取穴と意味
 
股関節外転かつ膝関節45度屈曲位、すなわち一方の足底を他方のフクラハギ内側に付けた姿勢(パトリック試験をするその手前の姿勢)をさせ、曲げた下腿内側の反応を調べていくことにする。指頭は脛骨際を容易に触知できるが、地機の高さに相当する部だけは、筋肉が邪魔して骨がうまく触知できないことに気がつく。その筋肉は誰でもシコっていて、軽く押圧しただけでも非常に痛がる。

私は、長い間このシコリの意味が分からなかったのだが、最近になって尾崎昭弘著「図解鍼灸臨床手技の実際」を何気なく読み返してみると、「地機はヒラメ筋の起始部である」と明記されていた。つまりシコリの正体はヒラメ筋の起始部だったわけだ。

補足:ヒラメ筋と腓腹筋(内側筋と外側筋がある)は併せて下腿三頭筋とよばれる。腓腹筋の起始は大腿骨で停止は踵骨の二関節筋であり、足関節伸展と膝屈曲作用があるのに対し、ヒラメ筋の起始は腓骨頭と脛骨、停止は踵骨の単関節筋であり、足関節伸展作用のみがある。仰臥位で膝屈曲肢位では、膝に負荷がかかっているわけではなく、足関節底屈の弱い負荷がかかっている。したがって両筋とも弱い負荷がかかっている訳だが、一般に二関節筋は関節の伸展状態で優位に働き、単関節筋は関節の屈曲状態で優位に働く特性があるので、膝屈曲位ではヒラメ筋の方が緊張している状態にある。ヒラメ筋緊張を増強させるにはさらに足関節伸展位にするとよい。(介護予防主任運動指導員、古賀真人氏の指導による)

※地機の語源

ネットで「地機」を検索すると、ツボの地機以上に、織機の地機の記事が上位に並ぶことに気づく。機織り機の種類にはいくつかあるが、次第に改良されつにつれ、その構造も複雑になっていった。現在の機織り機は、<高機(たかばた)>とよばれ、歴史ドラマなどでたまに目にすることがある。それに対して<地機>(じばた)は、原始的な織機で、地面に直接杭を打って、タテ糸を引っ張り力を保つ方式になっている。つまり地機の語源は、地面に設置された織機という意味であろうか。高機は、よこ糸が表にくるが、地機はタテ糸が表にくる。
地機におけるタテ糸の緊張とは、ヒラメ筋の緊張を意味するのだろうか。下の写真は、中近東のある部落にみる地機であり、ネットで発見したものである。地面に、じかにタテ糸を引っ張っている。人体の場合、地面に相当するのは、脛骨であろう。


 

※大杼の語源

地機穴を織機を結びつけるのは、唐突な考えではないのか思うこともあったのだが、後に大杼穴(上背部、第1胸椎(T1)棘突起下縁と同じ高さ、後正中線上の外方1.5寸)の由来が機織りの、横糸の間に縦糸を通すのに使われる道具であることを知った。脊椎の両側に伸びる横突起の形が杼に似ている。第1胸椎は最も大き椎体なので大杼となったという。やはり当時の中国人も織物は関心事だったに違いない。地機と大杼には共通項があった。

 



3.仰臥位での承山・承筋刺針の体位

先に地機はヒラメ筋上にあるので、ヒラメ筋は緊張し腓腹筋は弛緩する体位となる股関節外転かつ膝関節屈曲位にして、地機刺針を行うこ効果的であることを説明した。
では、仰臥位の時、腓腹筋を緊張位で承筋や承山に刺針するにはどうすればよいだろうか。

それには、まず治療側の膝をのばした状態で下肢を挙上30度程度にする。この体位にすると腓腹筋、ヒラメ筋の両方が緊張している。患者の下腿後側とベッド間に術者の一側の膝をもぐりこませつつ、術者の両前腕で患者の下腿を抱え込み保持。次に術者の手指を上手に使って承山や承筋に刺針するとよい。


4.跗陽の触診方法

跗陽は、外果の上3寸でアキレス腱前縁にとる。膀胱経ではあまり目立たない穴だが、陽蹻脈の郄穴となっている。もっとも奇経は八宗穴が治療でよく使われるが郄穴の使い方はよく分かっていないのだが・・・ 跗陽の反応は、仰臥位で術者の手を被験者の踵とベットの間に入れ、少し下腿を挙上させ、もう片方の手指で押圧しつつ擦過するようにするとよい。隆起していれば陽性とする。もともと圧痛はあまり出ない。 

 





仙腸関節異常の病態生理と針灸治療技法の完成 ver.1.3

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私はこれまで、何回か仙腸関節刺針についてブログに書いてきた。これは10年以上にわたる学習と臨床の段階的成果なのだが、今振り返ると古かったり、同じような内容を別のところで断片的に書いていたりで、まとめて見ることも難しくなってきた。そこで今回は、仙腸関節刺針について、これまでの報告を整理する一方、過去の断片的内容を削除することにした。


1.仙腸関節異常の概念

整体やカイロの治療で、たびたび仙腸関節の異常が指摘されるが、整形外科ではあまり注目されていない。一部の医師の間ではAKA療法(エイケーエイ療法 Arthr oKinematic Approach 関節運動学的手法)または、博多節夫医師によるAKA博多法が行われている。AKA療法は仙腸関節の隙間を手で広げたり、関節面同士を辷らしたりすることで動かなくなっていた仙腸関節の動きを回復させるようにするものだが、術者自身の手指の感覚で微妙な力加減を要するもので、独学で習得することは難しい。当院にもAKA療法を受けたという患者がこれまでに何人か来院していて、その治療法で改善はなかっととのこと。結局AKAとても万能でないことを示唆するものとなっている。

仙腸関節の遊びは3ミリほどあり、少しグラついている状態が正常である。このグラつきは中腰姿勢で最も大きい。中腰姿勢で腰を捻ったりして異常な外力が仙腸関節に加わると、関節の遊びを越え、関節面は少しずれた状態で固定してしまう。古い雨戸を引っ張り出そうと変に力を入れた途端、雨戸は中途半端な位置のまま、動かなくなるのと同じ状態である。

2.症状

関節のズレた状態そのものは痛みをもたらさないが、間もなく周囲の筋や靱帯が異常興奮し、仙腸関節部に鈍痛を覚えるようになる。人によっては下肢の大腿部や足首に関連痛を感じ、むしろ関連痛部位を苦痛として感じる者がおり、診断を難しくさせている。

3.診断

ただし関連痛部位には圧痛所見はないこと。仙腸関節部に顕著な圧痛(これをワンフィンガーテストとよぶ)があること。静的腰痛(同じ姿勢を続けていると痛む)であることなどから、本症であることを推察できる。なおパトリックテストは正常であることが大部分なので参考にならない。
要するに神経学的に説明のつかない下肢症状とワンフィンガーテスト圧痛(+)であれば、仙腸関節機能障害を疑う。そして仙腸関節部を刺激して症状が改善することが治療的診断になる。



4.私の針灸治療の発展

1)初期:患側下の側臥位で行った仙腸関節刻面への刺針

脊柱骨盤模型で観察すると、仙骨腸関節は意外と深い処にあり、その関節刻面は台形になっていることを再発見した。骨盤背部から仙腸関節関節面に刺入するには、左右の上後腸骨棘と同じ高さにある仙骨棘突起を結ぶ直線の中点を刺入点とし、外下方に斜め45度方向に4~5㎝入すればよいことを確認した。なお鍼をその角度で刺入するには、患側を下にした側臥位またはシムス肢位で実施するのがやりやすいので、この方法で実際の仙腸関節機能障害を疑う患者に試してみた。
この刺針でうまく症状部に一致した再現痛が得られれば効果大だが、響かないことの方が多く、この場合には治療効果はほとんど得られなかった。


2)改良その1:患側上の側臥位で行った仙腸関節刻面への刺針

前記の方法でなぜ効かなかったのかを考えてみると、仙腸関節に力学的ストレスが加わらず、この周囲筋が緩んだ状態になっている処に刺針してはダメだと思い、今度は仙腸関節刺針に運動鍼を併用するため、患側上の側臥位で仙腸関節刻面(正確には骨間仙棘靱帯)への刺針(置針10分)に替えてみた。この体位で仙腸関節に入れるには、切皮した鍼を斜め上前方45度の角度で入れる必要があって、多少面倒だったが、慣れてくるとスムーズにできるようになった。

さらに所定の処に鍼先が達した後、患側(上になった下肢)の大腿前面を自分の腹に近づけ、そして遠ざける自動運動を10回実施させた。この時、仙腸関節は少々動くことになり、施術者は患者の動きに合わせて鍼を雀啄した。
この工夫により、治療効果は驚くほどになった。

 

 

 

3)改良その2:股関節屈伸自動運動から、股関節外旋運動への変更

仙腸関節の動きは、大腿前面を腹に近づける動作(股関節屈曲)よりも、側臥位で横になった大腿を立てる運動(股関節外旋)の方が、より大きいのではないかと考え、股関節外旋自動運動に変更した。「殿と踵を動かさないように固定し、膝を立てたり横にしたり」と説明して、患者の足首を押さえながら膝を立て、再び横に戻すという動作を指導するとよい。なお刺針自体は前記と同じである。
この運動方法に変更して、治療効果が改善したとは思えないが、前記の大腿屈伸運動は、当院のようにベッドが壁に寄せて設置している場合には、施術者側にもっと近づいて横になるように体位変更が必要となることあって、少々面倒だった。これが解消できたことは実地面で助かっている。


3)改良その3(最近の方法):立位前屈、できるだけ深く屈して手は患者自身の膝部に)

まず十年ほど前、私はMPS研究会に入会していた際に知った技法を紹介する。

①仙腸関節神経ブロック法(村上栄一・黒澤大輔両氏による)

ベッドの手前に立たせ、両手をベッドの上において、上体を30度屈曲位置で安静させる。仙腸関節上内方から斜め外下方に23Gブロック注射 針を入れて、骨間靱帯に入れる。痛みが症状部に放散すれば成功。この後に局麻液を注射する。



最近、2ヶ月来の左上殿部~大腿外側という症例を経験した。先ずは患側上の側臥位で2寸針を使って患側上の仙腸関節運動鍼法を行ったが、患部に響かせることはできず、治療効果も乏しかった。そこで今度は村上栄一・黒澤大輔両氏の立位前屈30度で、両手をベッドにおく姿勢で鍼灸鍼で刺激してみた。すると患部にズンと響かせることができ、症状も非常に軽減した。
    
立位状態前屈位で仙腸関節を刺激する方法は、仙腸関節周囲の筋や靱帯が張り詰めた状態にあるせいか、従来の私の方法に比べ、症状部に響きを与えやすい印象をもった。本法では2㎝ほど斜刺すると抵抗のある組織に当たるが、抵抗ある中を刺入していき、症状部に響きを得ることができれば成功である。   抵抗ある組織とは、ある程度の柔らかさがあることから後仙腸靱帯ではなく、多裂筋なのかもしれない。


②上記方法を何度も繰り返し行ううちに、直後効果として大幅な改善をみた例と、さほどの効果がない例の2パターンに分かれることが判明した。医者であれば仙腸関節に拡散性のある局麻剤を使えるので、狙うマトは大きいのだが、針治療のマトはピンポイントなので技術的に難しいのかもしれない。
最初は、立位前屈では、ベッドの横で、ベッド向きに立たせ、両手掌をベッド天板につけるように行ったのだが、これでは効果が劣った。ベッドに両手をつけさせるのではなく、ベッドは無関係で、できるだけ深く前屈させ、手は患者本人の膝~下腿にもってくるように変更した。この肢位にさせた状態で、患側仙腸関節に1㎝間隔で2寸#8中国針を3本刺入、雀啄10秒実施し抜針。このように刺針体位をマイナーチェンジしたことにより、つらかった腰仙部鈍重が、急激になくなるのだった。十年以上の試行錯誤で、ついに完成形に達したと思った。

 

6.仙腸関節矯正手法  

前述した鍼の技法は、仙腸関節に溜まった筋痙攣や疼痛を、針によって一過性に軽減するものであって、あくまでも対症療法である。本治法は、仙腸関節のズレたまま固まった状態を、ズレのない状態に戻すことであるが、仙腸関節の筋や靭帯を針で緩めている状態であれば、何かのきっかけでロックがはずれて正常に復しやすくはなるだろう。そのきっかけをつくるのが次の仙腸関節ストレッチ体操である。

1)左右の仙腸関節を開くための徒手矯正


 

仙腸関節を背面からみると、仙骨は腸骨にハの字型にはめ込まれている。仙腸関節は上体を前屈する(これを仙骨前傾とよぶ)と少し緩むので、前方(腹側)に動きやすくなる。また上体を反らす(仙骨後傾)ときつく噛み合うことになる。仙腸関節のズレの多くは、上体前屈時の仙腸関節が緩んで関節が動きやすくなった時に生ずる。

 

2)仙腸関節のひねり是正の徒手矯正

積極的に仙腸関節のひねりによるゆがみを矯正するには、健側下肢を引くようにベッドに載せ、下腹を突き出すような重心移動を行う。この姿勢を1回1~3分間保持する。(最初は1分間くらい)この場合、健側の右仙腸関節は締まる動きとなるが、左仙腸関節は開く動きとなる。

 


 

3)骨盤矯正ゴムベルト療法(商:リフォーマーベルト)

リフォーマーベルドはそれなりの効果があるが、XL・L・M・Sとい4種類のサイズが市販されていて、常時ラインアップを揃えておかないと肝腎な時に役立たない。送料の関係で不足分を一枚だけ買い足すことは割高になり、面倒なので当院では取り扱いを中止し、前述したような仙腸関節徒手矯正を行うことにした。どうしても必要な場合、患者自身ネットで注文するようにお願いした。


①生ゴムでできたバンドを、左右の上後腸骨棘を中心軸として覆うように巻きつける。
②腸関節の上に親指を入れ動かせる程度のきつさにする。
③肩幅程度に足を広げて立つ。腰を水平に、大きく円を描くようにゆっくり回す。朝晩2回、左回しと右回しをそれぞれ50回行なう。腰を回す時、膝をあま   り曲げず、足を浮かさず回すのがコツ。運動時以外はゆるく巻いておいてもよい。就寝時はベルトをはずす。

胃の大絡と脾の大絡の考察

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最近私は、ツボの由来に興味があり、本ブログにも数回報告してきた。この次は前胸部のツボの由来に取り組もうという段になり、「胃の大絡」「脾の大絡」という単語が出てきた。かすかに鍼灸学校で勉強した覚えは残っていたが、内容については何も記憶してなかった。自分なりに調べてみると、胃の大絡は良いとして、脾の大絡について納得できる説明は見つからなかった。私だけでなく、多くの針灸師も脾の大絡について理解できていないのではなかろうか。そこで胃の大絡について一通り説明した後、脾の大絡について私独自の見解を記すことにした。

1.胃の大絡=左乳根       
 
1)胃の大絡とは何か
   
胃の大絡の別名を虚里(こり)という。「虚」とはむなしい、うつろになっている状態、「里」とは距離を意味するので、虚里とは勢いの乏しい動きのこと示すと思えた。虚里の動とは左乳下三寸のにある心拍動をさす。虚里の動は、「胃の気」と「宗気」に関係していて、元気の衰えや残された生命力を測る反応になる。胃の大絡とは、胃から直接出る1本の大絡脈で、胃から上に行き、横隔膜を貫通して肺に連絡した後、外に向かって分かれ出て、左乳下の心尖拍動部する部に分布するとされる。
 
2)心尖拍動
     
心収縮期に心尖部(最も左外側で触知する心臓の左前方の尖端)が前胸壁に突き当たり、その部分が心臓の拍動とともに持ち上がる現象。心尖部が胸壁に衝突して起こる胸壁上の隆起。心臓の収縮期に正常では第5肋間、左乳線より1横指内側の心臓の外端より少し内側(乳根~歩廊穴だろう)にあたる位置で触診できる。心尖拍動の診察により左室拡大、左室肥大の有無などが分かる。
※乳根:胃経。第4肋間外方4寸の乳頭部に「乳中」をとり、その下1寸で第5肋間に「乳根」をとる。
 歩廊:腎経。「乳根」の内方2寸。「中庭」の外方2寸。


3)虚里の動の自説
   
肌に触れている服の上からでも拍動を確認できる状況では、すでに臓腑の気が衰弱して、宗気が外に漏れ出ていることのあらわれで、生命を維持できない危うい状態を示しているとされる。

※私は三焦について三段蒸し器のイメージをもっている。下段には水が入っていて、下から加熱して沸騰し、蒸気を出している。中段には食べ物が入っていて、下段からの蒸気で蒸している。上段は蒸気が溢れている。蒸し器上段のフタに隙間があれば、そこから蒸気(蒸し器上段の気=宗気)が漏れ出るので、上手に食物を蒸すことはできない。蒸気の漏れは、心尖拍動として観察できるのではないだろうか。



2.脾の大絡=左大包
 
1)一般的な脾の大絡の説明
   
十二経絡には、経脈から分かれて働く細かい分枝1本づつあり、これを絡脈とよぶ。これに陽を束ねる督脈、陰を束ねる任脈、脾の大絡の三つを加えて「十五絡脈」とよぶ。脾だけは絡脈が2本あることになるが、この理由に「後天の気」を重要視しているからだとする意見がある。
脾の大絡は、脾から直接分かれ、側胸壁の「大包穴」から出て、胸脇部に散布する。
 
2)大包穴

全身に巡る気血を統括し、臓腑四肢、つまり全身にくまなく滋養をする働きがある。
大包の位置:中腋窩線上の第6肋間。「包」には、包む、包容力といった意味がある。
  

3)脾の大絡についての大胆な仮説
     
繰り返すが胃の大絡では虚里の動を診ている。虚里とは心尖拍動のことで、心臓の収縮具合を観察することで、疾病の状況を診察している。このような説明であれば十分に理解しやすい。一方、脾の大絡は、<気血を統括するとか全身を滋養する>などと説明はなされていても、脾の大絡ならではの必然性についての説明はない。
   
そうした状況なので、私は脾の大絡は横隔膜のことではないかと考えるようになった。横隔膜のすぐ左下には胃泡があり、これは左下肋部の聴打診により認知できる。このように考えると、胃の大絡と脾の大絡は次のように同列に考えることができるだろう。
例として気胸では、肺が縮小するので胃泡の位置が上がってくる。呑気症では胃泡が拡大する(鼓音領域が拡大)などが観察できる。
       
胃の大絡(左乳根)=心尖拍動を診る→心臓機能
脾の大絡(左大巨)=胃泡を診る→横隔膜の動き(肺機能)

 

 

4)食竇穴の名称について
   
食竇(脾)穴の位置は、乳根穴(胃)の外方2寸にある。食竇の名称由来を調べると、「竇」=通り穴。食竇は食べ物の通過道であり食道のこと」と説明されていることが多いが、おそらくこれは間違いだろう。もし食道を意味するとなれば、食竇穴の位置は前胸部胸骨あたりになくてはならない。私は「竇」の使われ方を調べてみると、中国では副鼻腔各洞の名前で、蝶形骨洞を蝶竇とよんでいる。つまり竇には洞穴、空洞といった意味もあったのだった。
これは何を意味していのだろうか。左大包と同様、左食竇も胃泡部を意味していると考えるに至った。確かに大包と食竇は近い位置にある。 
   

 

    
   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前胸部ツボ名の由来

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1.前胸部経穴位置の特徴
 
前胸部は肺、心臓、乳房、横隔膜などで他に気管や胃などの重要組織があるが、前胸部のツボは、胸骨上もしくは肋間に整然と並んで、一見すると没個性的なのようにも見受けられる。では実際どういう構成になっているのだろうか。ツボの特性を大きく4つに分類して色分けした(下図)。

 

①前胸部で<青色>で示したのは肺・呼吸器関係のツボである。昔の中国では肺はハスの花に例えられたこと、あるいは肺は現代と同じく呼吸作用で、他に宣散粛降作用がある関係で、解剖学敵な肺の位置より上になっているのだろうか。
②前胸部中央<赤色>には心臓・精神関連のツボがある。中医でいう心とは、血液ポンプ+ハート(精神)の作用だった。
③心関連のツボの周囲は<緑色>で、私の分類では区分・部屋・建物といった比喩的なものを示すツボがある。これには心を守る意味もあるだろう。
大包は、私見であるが脾の大絡として胃泡の診察ポイントであり、胃や横隔膜の動きに関係していると解釈している。
④乳房と乳汁および胃の関連は<ピンク色>で示した。食竇穴は従来は食道と解釈することが多いが、私の理解では胃泡を示す。なお乳根穴は文字通り乳房と関係するが、胃の大絡として心尖拍動の診察点ともなる。

      

2.胸部経穴名の由来
巻末に提示した4種の文献を参考にしたが、不満が残ったので自説を示した。※印は自説。

1)胸骨頸切痕ライン
①天突(任) 
胸骨希頚切痕の上に向かう形。
②気舎(胃) 
「舎」=場所。肺(気の出入り)のある場所。
③缺盆(胃)  
缺盆骨=鎖骨のこと。缺盆とは大鎖骨上窩。

2)鎖骨下窩
①璇璣(任)  
北斗七星で、璇(せん)は2番星、璣(き)は3番星で、ともに美しいという意味。北斗七星が北極星を中心に規則正しく回転しているように、本穴も呼吸により上下に規則正しく動く。ちなみに1番星(北極星に最も近い星)の名は「天枢」という。
②兪府(腎)   
 a.腎経の走行は肋骨を上行し、最後には、この穴に集結することを示す。
※b.「府」=は集合で肺の宣発作用、「兪」=輸送で肺の粛降作用をいう。すなわち兪府とは肺のもつ宣発粛降作用のこと。
吸気時、体内の水分を一度肺の処まで引き上げ、息はく時に、その水分を内臓全体に、じょうろで水をまくようにする。これはポンプの仕組みと同じ。
③気戸(胃)  
※前胸で、鎖骨と第1肋骨の間の小さな間隙を戸に例えた。気の出入りをする肺の入口。

3)第1肋間
①華蓋(任)
肺は蓮の花の形のようで、天子の頭上にある絹の傘の形(蓋)に似ている。肺は五臓六腑中で最も高い地位にあることを示す。あるいは華蓋=肺そのもの。
②彧中(腎)  
※「彧」=区切り、枠取り。肺と心の区切りのこと。
③庫房(胃)
「庫」は倉庫、「房」は厨房とか工房。その下にある臓器「肺」を収納するための部屋。

4)第2肋間
①紫宮(任)  
天帝が住んでいる星、すなわち北極星を紫微星とよんだ。紫微星とは貴重な星の意味で、心臓の位置にある。
中国皇帝といえば代々黄色(五行色体表の五方すなわち東・西・南・北・中央の中で、中央に相当)を重要視していた。しかし貝からとれる紫染料が非常に希少で高価なことがわかると、紫も重視するようになった。北京にある昔の皇帝の住居(故宮)の別名を紫禁城という。これは一般人が入ることのできない特別な場所との意味がある。
ちなみに聖徳太子が制定した冠位十二階の最高位も紫色だったが、この染料は安価な紫芋によるものだった。

②神蔵(腎)  
心に近い紫宮の両側で霊墟の上にあり、神霊(心)を守る。
③屋翳(胃)  
「翳」とは屋根、「翳」は羽でできたひさし。
④周栄(脾)  
「栄」は活力源で栄養素と同じ。全身に栄養素を巡らす。

4)第3肋間
①玉堂(任)  
玉堂=高貴な場所。中国の科挙合格者の中でトップが配属される部門(歴史編纂、皇帝の発言を記録)。
②霊墟(腎)
「墟」は土で盛られた高い山。 仰臥位になると霊墟は前胸部の高い位置になることから。       
秦始皇帝が築いた運河。中国の桂林市興安県に現存。
③膺窓(胃) 
「膺」は胸、「窓」は気と光を通すところ。胸部の閉塞を通すため。
④胸郷(脾)  
※「郷」は人が集まる村々(=故郷など)の他に、地区という意味がある(=白川郷、吉野梅郷など)。胸筋の代表は大胸筋であり、本穴は大胸筋区画といった意味になる。

5)第4肋間
①膻中(任)  
a.両乳間の間を膻という。膻にはヒツジのような生臭い。
b.君主(心)の住まいである宮城(心包)の別名。
②神封(腎)  
※「神」=心、「封」=境界線。胸中線の脇で心に近い部。
③乳中(胃)  
乳頭部
④天池(包)   
肋間のくぼみのような池(汗をかくところ)
⑤天渓(脾)  
この場合の「渓」は、乳汁分泌を川に例えている。
⑥輒筋(胆)  
※側胸部の前鋸筋をさす。「輒」には耳タブのように軟らかいとの意味がある。
⑦淵腋(胆)  
 脇の下に隠れる水溜まり。腋下の汗をかきやすい部。
                                   
6)第5肋間
①中庭(任) 
「庭」=宮殿(君主)正面の庭園。膻中(宮殿)の直下にある。
②歩廊(腎)  
※「廊」=通路。両側の肋骨弓をゆっくり歩く。
③乳根(胃)
 乳頭の根元。乳根は胃の大絡であり、心拍による左前胸部の上下動を虚里(わずかな振幅)の動ととらえた。
④食竇(脾)  
※「竇」=洞。左食竇は胃泡のこと。胃の中に食物が入る場所との意味。  
従来の説では「食道」と解釈するが、本穴の位置は前正中付近にはない。


7)胸骨弓縁、その他
①極泉(心)  
泉(汗)がわき出る最も高いところ。
②期門(肝) 
十二正経は肺経の中府から始まり、肝経の期門で終わる。一周りしたとの意味。
③日月(胆)   
日月(胆募)の上方5分には期門(肝募)がある。
※「肝胆相照らす」との表現にあるように、両雄とも影響を受け合う存在。期門と日月は影響を受け合うことを示す。
④章門(肝)  
※「章」=ひとまとまり。他の肋骨と異なり、本穴は第11肋骨前端という浮遊肋骨にあることを示す。
⑤京門(胆)
※「京」はみやことの意味の他に、高い丘の意味がある。京門は第12肋骨前端という浮遊肋骨にあることを示す。
⑥大包(脾)   
脾の大絡として、内臓診察点。
※左大包は胃泡を示す(打診で鼓音の存在で調べたのだろう)。その上の横隔膜の動きにも関与。横隔膜は陰である胸部臓腑と陽である腹部臓腑の境界。
⑦鳩尾(任)  
剣状突起が鳩の尾の形に似ていることから。

 

引用文献
①森和監修 王暁明ほか著「経穴マップ」医歯薬
②周春才著 土屋憲明訳「まんが経穴入門」医道の日本社
③ネット:翁鍼灸治療院 HP
④ネット:経穴デジタル辞典  ALL FOR ONE
⑤漢和辞典「漢字源」学研

 

腹部ツボ名の由来

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先回、前胸部ツボ名の由来を調べ、当ブログで報告した。この作業は知的好奇心を刺激するものだった。そういう訳ならば同じ方式で腹部ツボの名称の由来を調べてみることにした。腹部のツボについて、中脘などの「脘」は腹直筋を示すこと。ブログ「鼠径部の経穴」と「天文学と経穴」において、天枢の「枢」は扉の回転軸であることを示した。ツボの五枢の「五」とは五方のことで、ここでは全方向を指し、「五枢」が股関節がいろいろな方向に可動性があることを示している。気衝の「衝」は脈拍ではなく、胃経走行の直角に折れ曲がる様を表現している。太乙の「乙」とは大腸が折れ曲がって走行する様であり、膏兪の「膏」は横隔膜ではなく、膏膜(現在の腸間膜)であることを指摘した。

1.腹部経穴の分布傾向

①上腹部は、予想通り胃に関係する経穴(赤)が多い。すぐ下層には胃と腸の境界を意味する経穴(オレンジ色)も多数あり、両者は分離されてる。
②臍の横のライン、恥骨上のラインは、鼠径溝は取穴する上で基準となるものである。
これらの穴名には、解剖学的特性の名前が優先されてつけられている(黄緑色)。
③臍下2寸ラインにある石門、四満は腸を示す名称になる(黄色)。
④腸に関係するツボの下には、腎・膀胱を示す経穴がある(紺色)。
⑤さらにその下には婦人科の妊娠関連を示す大赫や帰来がある(紫色)。

 


2.腹部経穴の由来
※印は独自の解釈

1)臍上6寸
①巨闕(任)    「闕」は宮殿入口にある大きな門のこと。肋骨弓基部の陥凹部。
②幽門(腎)    「幽」は幽閉の幽で、隠すとの意味。胃の上部が肋骨弓で隠される。解剖学の胃の下口である幽門とは無関係。
③不容(胃)   胃の噴門に相当。胃の受納能力の限界が、このあたりになる。

2)臍上5寸
①上脘(任)  a.胃の上部
       ※b.「脘」には平たくのばした肉の意味があり、腹直筋を意味する。腹直筋の上部のこと。
②腹通谷(腎)    内経には<谷の道は脾を通ず>とある。水穀(飲食物)を上から下へ流す所。
③承満(胃)  「承」は受納。「満」は充満。不容穴の下にあり、水穀で満タンという意味。

3)臍上4寸
①中脘(任) 
a.胃の中央、小湾部
※b.腹直筋の中央のこと(「上脘」の説明を参照)。
②陰都(腎) 
a. 腎経の流注が、胃の両側にある胃経と交わる。その様子が、村から都に上がる者のように晴れがましい気持。
b.胃の近くにあるので、胃を整える作用がある。別名「食宮」」「食府」。
③梁門(胃)   「梁」=柱のハリ。上腹部に現れる横梁のような硬いもの。心下痞満(心窩部がつかえた感じ)すなわち、胃のつかえ、消化不良、胃の脹満)治療の門戸。

4)臍上3寸
①建里(任)  「建」=建ておく、位置する。「里」=居住地で、ここでは胃をさす。胃の通り道の途中にあるツボ。
②石関(腎)   石が邪魔しているように物が通らないこと。胃や腸の通過障害。
③関門(胃)  「関」は関所、「門」の開閉を管理すること。胃と腸の境目で、閉門時には食を受けつけず、開門時には下痢が止まらない状況になる。
④腹哀(脾)   悲しげな泣き声(この場合は腹鳴)を哀鳴という。腹痛、腹鳴の愁訴を治す。

5)臍上2寸
①下脘(任) 
a.胃の下部。
※b.腹直筋の下部のこと(「上脘」の説明を参照)。
②商曲(腎)    このツボの内部は大腸の横行結腸が下に垂れ下がり弯曲しているところ。商」は五行では五音の金に属し、肺・大腸に関係する。
③太乙(胃)   
a.中国の古代思想で、天地・万物の生じる根源。北極星のこと。
        古代中国では北極星という星は限定されなかった。北極星は二等星に過ぎないので、特別な星とみなさなかたためだろう。
※b.「乙」=二番目という意味の他に、つかえて曲がって止まるとの意味がある。
 道なりに歩いていて途中で急に曲がる。すなわち腸の形を示しているのではないだろうか? 「太」は腸の中での太い部分すなわ大腸のことだろう。 「乙字湯」は江戸時代からつくられた痔疾の和製漢方薬。


6)臍上1寸
①水分(任)    臍上1寸にあって水分が分かれ出る部。飲食物のうち水液は腎臓→膀胱に入る。この下にある小腸には清を吸収し、濁(植物残渣)は 
       大腸  に入る
②滑肉門(胃)  
a.「滑」=骨(関節)+水(さんずい)で、骨端が関節にはまって滑らかに動くこと。関節(腎)と筋肉(脾)に関わりがある。
b.舌は滑利の門とよばれ、ここを治療すると舌が滑らかに動くようになる。吐舌、舌の強ばりに対して使用。

 
7)臍部
①神闕(任) 「神」は生命、「闕」は宮中の門。臍からへその緒を伝って胎児は滋養される。
②肓兪(腎)  腎の流注は、この部から深く潜り肓膜(=腸間膜)に向かい入っていく。腹痛、泄瀉、便秘などを主治とする。
③天枢(胃)   
a.北斗七星の一番星(北極星に最も近い星)
b.「枢」とは回転扉の軸構造をいう。金属製のちょうつがいが発明される以前、木の棒を丸ほぞ(凸構造)と丸ほぞ受け(凹構造)の2通り加工し、組み合わせて扉を開閉する仕組みをつくった。体を折り曲げるところで、ここを境に上半身と下半身を区分する。
④大横(脾)    神闕から大きく離れた部位。
⑤帯脈(胆)    腰に巻く帯の位置。


8)臍下1寸
①陰交(任)    「交」=交わる。任脈・衝脈・腎経の陰経の三脈が交わる穴
②中注(腎)   深部には 腎気が集まる胞宮や精巣があり、ここから胞中(子宮)へと腎気が注がれる。
③外陵(胃)  「外」は傍ら、「陵」は突起したところ。
       体に力を入れると、腹部に気が集まり、外側にある腹筋が盛り上がる様子が陵(=豪族の墓)のように見えることから。


9)臍下1寸5分
①気海(任)    先天の気が広く集まるところ。腎の精気が集まるところ。
②腹結(脾)    腹気すなわち腸の蠕動を調整する。腹の脹満を治する。


10)臍下2寸
①石門(任)       この部が石のように詰まって固い状態。大便秘訣、尿閉、この部が固く不妊女性のことを石女とよんだ。
②四満(腎)  臍~腸の瘀血による、切られるような劇痛に対して、瘀を散らし脹を消す効能がある。
③大巨(胃)       腹部で最も高く、大きく隆起した場所


11)臍下3寸
①関元(任)   「関」は要の場所。田=これを産する土地。不老不死を得るための修行を練丹術とよんだ。丹とは火の燃えているような朱色のこと。
        道教では人体の要所は下丹田(関元)、中丹田(膻中)、上丹田(印堂)の3カ所あり、中でも重要視したのは下丹田だった。
       ※朱の原材料は硫化水銀で、西洋では賢者の石とよばれた。熱すると硫黄と水銀に分離できた。水銀は猛毒なのだが、当時は不老不死に                                      なる霊薬とされ珍重された。非常に高価で服用できたのは王貴族に限られた。ただし、この霊薬を飲んだ者は水銀中毒死したのだった。
②気穴(腎)    腎気が集まるところ。腎は納気を主どる。これは深く息を吸い込んで、大気を下腹までもっていく道教での呼吸法。
③水道(胃)    「道」は道路のこと、本穴は膀胱の上部にあり治水をする役目がある。


12)臍下4寸
①中極(任)      本穴は全身のほぼ中心にあたる。一方、腹部任脈の端なので「極」と名づけた。極とは南極北極、月極駐車場の「極」である。
        深部に膀胱があるので、膀胱の募穴でもある。
②大赫(腎)    「赫」=赤々という他にはっきりと現れるとの意味がある。本穴の内部には子宮があり、妊娠すると、この部が脹らみ突出する。
③帰来(胃)   a.帰来とは、還って戻るの意味。呼吸法で、息を吐き出した後、再び息を吸って、この場所に気が戻ること。
                     b.帰来=帰ってくること   病弱で子供ができず、実家に帰された女性が、このツボ刺激で元気になり夫の元へ帰れた。 
④府舎(脾)   「府」=腑と同じ、「舎」=住居する場所。腹部には六腑が集まることを示す。


13)臍下5寸
①曲骨(任)   かつては恥骨のことを横骨とよんだ。本穴は恥骨上縁で弯曲した処なので曲骨とした。
       ※骨度法では横骨幅6.5寸としているが、これを恥骨結節両端間の距離と解釈するのは無理がある。恥骨上枝の、左右外端の間の長さのことだろう。
②横骨(腎)    恥骨の旧名を横骨という。
③気衝(胃)   ※鼠径部で、上行した胃経が衝突するように折れ曲がる部位。本穴の「衝」は脈拍とは無関係。
④衝門(脾)    「衝」は脈拍部で、突き上げる様をいう。大腿動脈拍動部。


14)その他の部位
①五枢(胆)    ※「枢」には枢要という意味の他に、扉の回転軸との意味がある。「五」は五方(東西南北と中央)のこと。
  本穴は腹部と大腿部の境にある鼠径部近くにあって股関節部にあり、広い関節可動域をもつことを示す。
②維道(胆)    「維」とはつなぎとめること。本穴は体幹側面を下行する胆経(縦糸)と臍周りを一周する帯脈(横糸)をつなぎとめる交会穴になる。



引用文献
①森和監修:王暁明ほか著「経穴マップ」医歯薬
②周春才著:土屋憲明訳「まんが経穴入門」医道の日本社
③ネット:翁鍼灸治療院 HP
④ネット:経穴デジタル辞典  ALL FOR ONE
⑤漢和辞典「漢字源」学研

治療中の笑話 Ver.1.9

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  長らく治療に携わっていると、ときには面白い話にぶつかる。思いつくままに紹介する。


1.50才台男

患者:「昔、40才頃の頃、20代の愛人がいましたよ」
私「それは、うらやましいことで‥‥」
患者:「愛人だけど、愛はなかったけどね。」
    「恋人には愛があり、愛人には愛がないか」


2.40才台男性患者

患者「大学でラグビーやっていた頃、足を痛めてベンチにいると、先輩がこう言った」
先輩「おまえは、顏が痛いのか」
患者「いえ、痛いのは足です」
先輩「だったら、痛そうな顔するな」

 同じような話を、以前父親から聞かされた。
私「父が軍隊にいた頃、古年兵が冗談を言い、皆を笑わせた。しかし父だけ笑わなかった。」
  「その時、古年兵が言った。<おかしくて、笑えないのか!>」


3.統合失調症の患者50才台女性 幻聴があるらしい。

先輩鍼灸師Y先生が、私の隣のベッドで、仰臥位で治療している。
患者:突然がばっと上体を起こし、こう言った。
   「神様は、そう、おっしゃいませんでした!」

Y先生はびっくりし、付添の夫は心配そうにし、私は声を立てないように笑った。


4.患者A(70才台女性)と患者B(40才台男性)は親子。

患者Aが友人にこう話したという:「あの先生(私のこと)は商売っ気がないので、貧乏しているらしいよ」
患者B:「先生は、もしかして、お金を汚いと思ってやしませんか?」

5.患者(60才台女性)の夫は、小さな会社の重役で、勤勉で温厚な紳士である。ただし、顔は土方の親方風だった。それでも背広を着るとマシになるが、その日はあいにく作業着姿で、仕事の打ち合わせで、相手方の社員食堂で、待たされていた。

食堂のおばさんが、その夫に、「はいよ」といって、エロ漫画雑誌を手渡した。

‥‥夫は激怒したという。


6.60才台女性

患者:「老化現象のつぎは、階段現象ですか。まるで建築現場ですね」

 

7.50才台 男性 僧侶

僧侶の患者さんの治療が終了し、次に待っていた患者が治療室に入ってきた。その時、僧侶の患者とすれ違った。治療室に入ってきて一言私に言った。

「いまのは、ヤクザですか、それともお坊さんですか?」

 

8.精神科医が患者として来院した。その先生が、こう言った。

「人生の中の出来事で、8割はイヤなことですね」

 

9.玉川病院指導鍼灸スタッフH先生の話

ある時、H先生は仰臥位にて痩せた高齢者女性の治療をしていた。知熱灸をしていた時のこと、八分まで燃えた知熱灸を取り除こうとして、誤ってその女性の乳頭をつまんでしまった。するとその女性患者は、「ヒーッ」といって、両手を上げたという。

後に我々に、「その人の乳頭は、黒くて燃えた知熱灸の灰と区別がつかなかった」と弁解した。
どのようにその女性が反応したのかを、H先生が身振り手振りで再現。かつてアフリカ原住民が神様を拝むときのように両腕を上げたのだった。

 

10 ある日、常連の患者に紹介され、近所の歯医者が来院した。首が痛むという。首に針を刺したが、非常に痛がる。針を寸3#0に交換して、細心の注意をはらって浅刺しても痛がる。

一緒にいた常連患者も私も、あきれて言った。「先生、これまで自分が患者にさんざん、痛いことをしてきて、いざ自分の番になると痛がるというのは、おかしくないですか?」

歯医者がこう言った。「痛いのは患者であって、自分は痛くないのだから関係ない」

以来、二度とその歯医者は来なかった。

 

11.代田先生の内科外来時、たまたま患者が途切れた時があった。見学中のK君とO君が、尊敬してやまない代田文彦先生に質問した。

すると代田先生は、目を閉じ、顔をやや上に向けた。熟考している様子だった。

K君とO君は、先生の思考の邪魔にならぬよう、メモ帳を手にしつつ、静かに返事を待っていた。

待つこと少々‥‥ 小さないびきが聞こえた。

 

12.代田文彦先生が病院の当直の日には、我々研修生も一緒に泊まり込む日になっていた。それに先だって、夜8時頃、先生と一緒に全病棟のナースステーションを回診した。代田先生と一緒に歩いていると、研修生は何となく緊張し、沈黙に耐えられなくなる。その折の出来事。

先生に向かって私が言った「今、空きのベッドは、いくつあるでしょうね?」(そう言いながら、なんとつならない質問をしたのかと後悔した)

先生は答えた「そんなこと、知るか!」

 

13.某医学部学生の女性が、浪人時代から当院に来院していた。患者として来院してすでに4年ほど経ち、患者としても、すでにかなり針の通(ツウ)になっていた。その医学部のサークル活動の一つに、東洋医学クラブがあったので、覗いてみたことがあったという。そして次のように私に話した。

そのリーダーである先生が、患者役の者に刺針すると、必ずといってよいほど出血した。その先生は、針をすると出血するのは当たり前だと説明した。

その傍らで見学していた医学生は、真剣な顔で頷いていたという。

 

14.代田先生の奥様は、目鼻立ちがくっきりした美人の女医さんである。昔、代田先生がその人と結婚したいと、先方の御両親に挨拶に行った。

先方のお父様がこう言ったという。「あの、サルでいいんですか?」

 

15.イギリス人と日本人のハーフの男性が来院している。外見はまったくの外国人だが、日本生まれ日本育ちであって、海外生活の経験はない。日本語は得意だが、英語は苦手としている。

その彼がこう言った。「街を歩いていると、すぐ外人が話しかけてくるんで困るんですよね」

 

16.トルコ人男性と結婚した日本人女性が来院している。この女性の外見は、どこか日本人離れしていて、中近東風な雰囲気があった。

彼女がこう言った。「日本語お上手ですねといわれる。」

こうも言った。「夫の国トルコに行くと、トルコ人とは思われず、キリギス人かと聞かれる」

 

17.患者の息子さんに世界的なチェリストの毛利伯郎さんという方がいる。その毛利さんに、やはり世界的なチェリストであるヨーヨーマ(中国系アメリカ人)が話しかけた。
ヨーヨーマ「キミは、チェロが上手なんだって? 」
毛利「そうでも、ないです」
ヨーヨーマ「ああ、そうですか」

その返事を聞いて毛利さんは苦笑いした。やはり中国人だなと思ったという。

 

18.常連患者のN夫人の話。ある日の夜、子供も寝たことだし、というので久しぶりに夫と仲良くテレビゲーム「桃太郎電鉄」を始めた。

ゲーム途中で、その時は、N夫人にキングボンビーがついていた。しかし「特急カード」と「ぶっとびカード」を持っていたので、「特急カード」で夫のコマを追い越し、次に「ぶっ飛びカード」で、夫のコマからはるかに遠ざかってしまった。
それを見ていた夫は、「お前はそんな人間だったのか」と言って突然怒り出し、「そういう時のために、コンピュータ自動操作のコマがある」と訳の分からないことを言い、とうとうその夫人を泣かせてしまった。

それまでおとなしく寝ていた息子は、夫のどなり声で目覚め、何事が起きたのか、とリビングに行った。テレビ画面を見ると、キングボンビーが出ていたので、息子は恐くなって泣き出したという。

ゲーム中止になったことは、云うまでもない。



20.当院通院中の患者で高齢の元開業医がいる。この家は、奥様と娘夫婦の4人暮らしである。犬も一匹飼っている。犬というのは、ボスが誰であるかを敏感に認識する。犬の世話をするのが娘が一番多いのだが、残念ながら第2位の偉さであって、ボスはその亭主である。三番は元医者の奥様、最下位は彼自身である。 



21.後輩針灸師のK君が私に言った。「先生の電話って、アメリカみたいですね」
そう言われて一瞬何のことが分からなかったが、なにかカッコイイものを予想した。
少々期待しつつ、「どうして?」と聞くと、
「自分の用件が済むと、相手の返答を待たず、ガッチャッと電話をきる」と返事をした。



22.某女子大の非常勤講師(日本史)をしている患者がいる。
「女子大で教えるなんて、いいですね」と私は言った。
患者は予想外の返答をした。
「私の教えている教室には20名の女子大生がいる。すると誰かしら生理中の人がいるわけで、教室には血の臭いがするんです」
※この患者は、博識で専門書も2冊著している。その患者がこんなことも教えてくれた。
「はたけ」という漢字には、畑と畠があり、姓にも畑山とか畠山の2通りがある。前者の畑は、火があるが、焼き畑農法としての畑である。一方、後者の畠には白があって、これは水を意味しており、水田農法としての畠である。つまり畠の方が近代なのだという。


23.玉川病院勤務時代の代田先生へ一通の手紙が届いた。ビートルズのジョン・レノン(ポール・マッカートニーだったかも)からのもので、「1千万円払うから、1年間自分の処にきて主治医をやってくれないか」と書いてあった。代田先生は、1億円くれるならば行ってもよい。日本の玉川病院に来るなら、1回3500円で治療してやる」と返信した。

その後、ジョン・レノンからの手紙は途絶えた。



24.玉川病院時代、代田先生の同輩に、光藤英彦先生(前、愛媛県立中央病院付属東洋医学研究所所長)という医師がいて、代田先生と共同で鍼灸の研究や臨床に活躍した。当時玉川病院の鍼灸治療費は、初回4500円、二回目以降は3500円に設定していたのだが、光藤先生の治療は、自分で1回5000円と設定していた(これは自分の懐に入らず、病院の収入になる)。また病院内部のスタッフには、通常は治療費を取らなかったが、光藤先生は、同額を請求した。

病院スタッフが、自分の身体に対して光藤先生にちょと相談しても、相談後には5000円の請求書を渡したので、皆から恐れられた。明るく実力がある先生だったので、それでも相談しない訳にはいかない。そこで、請求書を渡されないよう、診察室に入らず、診察室のドアから首だけを出した状態で、光藤先生に相談するようになった。

 

25.元高校教員の患者から聞いた話。ある年、新人の高校教員がやってきた。新人挨拶とのことで、その人は、「まだ若輩ですが、‥‥」と言った。以来、あだ名が若輩となった。五十過ぎた現在でも、若輩のままである。

 

26.老夫婦・娘夫婦と、家族ぐるみで当院にかかっている人たちがいる。その老夫婦は、娘の車に乗せてもらい、当院までの送り迎えをしている。両親の食事もつくるなど、結構親孝行の娘である。
ある時、老夫婦が治療に来ていて、私に言った。娘は結婚して随分変わり、しっかり者になった。けれども昔の独身時代は家の仕事は一切しなかったので、「フン製造機」と呼んでいた。 

27.脊椎圧迫骨折による背痛ということで、90代の女性の家に往診に出かけた。頭は全然ぼけていない様子だった。ふとリビングを見ると、少年ジャンプとムー(宇宙人とか空飛ぶ円盤とかを扱う、トンデモ雑誌)が何冊か置かれていた。同居している息子(60代)ともども、愛読者なのだという。 

 

28.ある鍼灸の大御所が自分の主催する研究会の参加者名簿を見ていたら、現代的な女性の名前が2人もあった。そこにはエリ、フミエと書かれていた。当日楽しみにして待っていると、この2人がやってきた。井上恵理と小野文恵だった。
(上地栄「昭和鍼灸の歳月」より)

 

29.当院患者のご主人のことで、奥様から聞いた話。主人は心臓が悪いため、定期的に病院に通院している。いつもは薬をもらうだけだが、たまには診察も受ける必要があるといわれ、しぶしぶ受診した。本人は「心臓が少し苦しい感じがする」ということもあり心電図をとった。すると明らかに心筋梗塞を伺わせる所見で、医師は仰天した。早速救急車を手配した。救急隊の人も、意外に元気な患者をみて不審がったが、医師から心電図を見せられ、仰天したという。早速都内専門病院に搬送され、カテーテルでステントを入れる治療を行った。

その手術実施中、つい患者はうとうとし、やがて目覚めた。「少し眠ってしまったようだ」と医師に話した。するとその医師は言った「あなた心臓が止まっていたんですよ」。そのご主人は無事に治療終了したが、奥様にこういった。「死ぬって、簡単なことなんだな」

 

30.私は診療時間中であっても、眠たい時には患者の予定が入っていない時はベッドで寝ることにしている。もちろん目覚まし時計をセットしてからだが。ベッド傍にも治療院用の電話を置いているのでスムーズな応接ができるというつもりだった。

ある日、ベッドで寝ている時、電話のベルが鳴った。眠りながらもベルの数をかぞえた。5回ベルが鳴った後、頭がボーッとしつつ電話に出た。窓の外をみると薄暗く、時計を見ると5時半だった。当院では午後6時受付終了なので、これから患者が来院する予約電話かと思った。
「はい、あんご鍼灸院です」と伝えた。
すると電話主(声の調子から70~80代の女性)は、「今何時だと思っているの?朝の5時半よ!」と言った。
次第に頭がはっきりしてきた。確かに今は午前5時半であると。冬の終わり頃の話なので、5時半といえば午前も午後も同じように外は薄くなっている。
「電話したのはそちらでしょう」と言っても、「そちらが電話したのでしょう」と言って譲らない。何度か押し問答して拉致があかず、患者でもないようなので、「何かの間違いなので、切らせてもらいますよ」といって電話を切った。

実に不思議な体験だった。



31.改めて言うまでもなく、当院は「あんご針灸院」という。これは作家の坂口安吾にちなんだもの。
数日前、昔当院にかかっていたという80代男性から電話があった。
「もしもし あんまはりきゅう ですか?」と言ってきた。
「しんきゅう」を「はりきゅう」と呼ばれるのは珍しくもないが、「あんま」と呼ばれたのは開業以来初めてのこと(私はあんまの免許は持っていない)。

いったい何を言っているのか?
どうやら「あんご」を「あんま」と記憶していたらしい。

 

32.R5.5.15 新ネタ。66才女性。最近の話で、既述の9とよく似ている。乳がんにより右乳房全摘術をうけ。左乳房も乳がんだったが、こちら側は上部切開による癌組織摘出術で寛解した。乳頭があるのは左のみだけである。左肋間神経痛が常にある。
左側胸部が痛むとのことで、毎回寸6#2で数カ単刺していた。今回も同じように施術しようすると、ブラが邪魔だったので少々上にずらした。するとエレキバンを貼ってあるのを発見した。周囲皮膚にくらべ明らかに濃い肌色で、中央には直径1㎝ほど丘状に扁平隆起していた。少々古そうな感じだったので、指先でエレキバンを剥がそうとした。しかし数回試みると粘着性がよく、剥がれる様子はなかった。
 
その患者は大いに驚き、そこは乳頭だと声を上げた。それにしても実にマグレインにうり二つで、それにしれは乳頭輪にしては色は薄く、乳頭もこんなに扁平になるものかと思った。なぜエレキバンに間違えたのかを患者に説明すると、患者はうんざりした声で「もう、いいから!」と言った。

 

 

 

「五官科」現代針灸実技セミナー開催中。次回は鼻科と咽喉科

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第7期奮起の会「五官科」現代針灸実技セミナー

この度、第7期奮起の会として「五官科」領域の針灸実技講習会を4回シリーズで開催します。これまでの第1~第6回は整形外科疾患の針灸実技セミナーを実施してきましたが、五官科は今回が初となります。

第3回 7月2日 (日曜)  第3章 鼻科・第4章 咽喉科  残席数1     

五官科セミナー、鼻科と咽喉科のテキスト(計15ページ)ができました。本セミナー参加者で事前に勉強しておきたい方は、メールでご連絡ください。PDFファイルをお送りします。

第4回 7月16日(日曜)  第5章 眼科・第6章 皮膚科     残席数2


2.実施時間:午後5時30分~午後8時頃

3.会場:国立市中1丁目集会所(国立駅南口下車 徒歩3分)

           

4.参加費:針灸有資格者7,000円、針灸学生6,000円、見学3,500円(当日支払い)  オリジナルテキスト配布
5.参加資格:針灸師、医師
6.定員:各回12名 
7.持参品:筆記用具程度。テキスト、針、消毒用品は当方で支給
8.御申込方法 
①参加希望のテーマと開催予定日、②氏名、③住所、④電話、⑤メールアドレスを、メールまたは電話でお伝えください。
折り返しご連絡を差し上げます。
9.参加〆切:各回実施前日まで(定員になり次第、締切ります)

参加予約したのだけれど、急に都合悪く参加できなくなった、という方は事前にご連絡ください!

10.お問い合わせは以下まで
似田 敦(にただ あつし) nitadakai825@jcom.zaq.ne.jp    電話:042(576)4418
〒186-0004 東京都国立市中1-11-26 あんご針灸院 

※講習会後は居酒屋で懇親会もします。(参加費は当日実費払い。3000円程度)

 五官科テキスト表紙

 

<<実技内容>> 

第1回4月16日  耳科 終了

第1章 耳科 テキスト17ページ  
実技項目
  1)耳介周囲穴の取穴と刺針(天牖、長野流翳明)
  2)耳鳴に対する顔面神経下顎縁枝(頬車~大迎)刺針
  3)耳鳴りに対する下関刺針
  4)耳鳴に対する下耳痕刺針
  5)耳鳴に対する鳴天鼓手技
  6)頸性めまいに対する座位にて天柱深刺
  7)頸性めまいに対する胸鎖乳突筋ストレッチ


第2回5月21日 歯科  終了
第2章 歯科 テキスト13ページ      
実技項目                   
  1)下歯痛に対する頬車水平刺 ※耳鳴に対する顔面神経下顎縁枝(頬車~大迎)刺針と類似
  2)上歯痛に対する客主人斜刺    
  3)歯肉炎に対する歯肉への刺針
  4)口内炎に対する局所への線香火刺激と口内炎部対側頬への刺針
  5)口角炎に対しての口角部への小灸刺激
  6)舌痛に対する舌根刺激
  7)顎関節症Ⅰ型に対する咬筋刺激
  8)顎関節症Ⅱ型外側翼突筋下頭刺針(下関直刺)
  9)顎関節症Ⅱ型に対する顎二腹筋後腹への刺針
 10)顎関節症Ⅲ型の顎関節徒手矯正法
 11)顎関節症Ⅲ型に対する下関から外側翼突筋上頭への斜刺


第3回 7月2日  鼻科・咽喉科<残席数1>
第3章 鼻科 テキスト6ページ  
実技項目  
  1)鼻閉に対する挟鼻刺針と上唇鼻翼挙筋マッサージ
  2)鼻閉に対するひろゆき氏の息止め手技
  3)鼻閉に対する顖会、上星の施灸
第4章 咽喉科 テキスト9ページ 
実技項目
  1)咽痛に対する洞刺
  2)咽痛に対する口蓋扁桃刺
  3)咽痛に対する上喉頭神経内枝刺
  4)咽痛に対する頸動脈洞刺
  5)咽の詰まり感に対する舌根(=上廉泉)刺針
  6)咽の詰まり感に対する舌骨上筋のストレッチ押圧
  7)咳嗽・気管支喘息に対する治喘・定喘の刺針施灸
  8)咳嗽・気管支喘息に対する天突移動刺針


第4回 7月16日  眼科・皮膚科<残席数2>
第5章 眼科テキスト14ページ 
実技項目 
  1)外麦粒腫に対する二間灸
  2)外麦粒腫眼瞼部の多数散針
  3)網膜疾患に対する上睛明刺針(注意)
  4)網膜疾患に対する球後刺針(注意)
  5)眼精疲労に対する強間~風府刺絡
  6)眼精疲労に対する伏臥位での上天柱深刺
  7)眼精疲労に対する座位での肩中兪深刺
  8)眼精疲労に対する太陽穴刺絡(注意)                     
第6章 皮膚科 テキスト 14ページ
実技項目
  1)面疔に対する下頤の灸と合谷患側合谷に多壮灸
  2)ヒョウソに対して圧痛ある患部指上の施灸
  3)アトピー性皮膚炎の痒みのある皮膚表層に対する刺絡
  4)アトピー性皮膚炎の痒みに対するペットボトル温灸

良性発作性頭位めまい症とメニエール病に対する針灸治療の根拠

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針灸院に来るめまいの2大疾患は、項部の筋コリを別格とすれば、良性発作性頭位性めまい症とメニエール病であろう。両疾患とも、特別な針灸治療法があるわけでなく、項部の筋コリを緩めることで改善していくというのが実情のようで、治療のアセスメントにしっかりとしたものはないようだ。
最近、上記2疾患の病態生理に共通点のあることが指摘された。卵円囊、正円囊から剥がれた耳石片が原因をつくるのだという。

 

1.平衡覚センサーとしての平衡斑とプクラ

  

内耳の前庭には卵形囊と球形囊がある。半規管近くには卵円囊があり、蝸牛近くには球形囊があって、それぞれの内部には平衡斑(=耳石器)がある。平衡斑内部には耳石があり、この動きにより自分の頭位情報を中枢に伝えることで、体をまっすぐに保つ静的平衡覚に関係している。身体の動きにあわせてバランスを保ち、まっすぐに体を保つことができるのは平衡斑の働きによる。
   
卵形嚢と球形嚢の平衡斑は互いに直交していて、卵形嚢では水平方向の直線加速度(電車発着の加速度など)を感知し、球形嚢では垂直方向(エレベーター昇降の加速度など)の動きを感知している。
  
一方半規管の根元の膨大部にはプクラ(=膨大部頂)があり、プクラ内部には感覚毛集合体がある。半規管内部にはリンパ液が充満している。頭を動かすと半規管内部のリンパ液が動き、これにつれてプクラも動く。プクラの動きは、回転加速度(=動的平衡)の情報を中枢に送る役割がある。半規管は互いに直角になるよう3本ある。


2.良性発作性頭位めまい 

1)原因と病態生理

  

 

卵形嚢の平衡斑にある耳石から小さな耳石片が剥がれ、それが半規管内に混入することがある。この砂粒様の耳石片は細かいので、リンパの動きに影響を与えることはない。しかし長期寝たきりや外傷などで、耳石が長時間同じ場所に集まると、次第に結合して大きな塊になり、リンパ液の流れを乱すまでになり、めまい発作を起こすようになる。
 
耳石片は、やがてリンパ液中に溶けていくので1ヶ月以内に7割が自然治癒する。しかし次々に新しい耳石片が剥がれるケースでは、回復には長期間を要する。


2)症状
   
①特定の頭位変換で誘発される回転性のめまい。30秒ほどすると自然消滅。
②難聴・耳鳴(-)                   
③減衰現象(+):ある特定の方向を向いて、数秒後にめまい出現するが繰り返すうちに、 めまい減衰。


3.メニエール病
 
1)原因と病態生理


   

蝸牛管内のリンパは絶えず産生され排出され、一定量を保持している。しかし球形嚢内で耳石が剥離し、耳石片が内リンパ液の通路を塞ぐと、内リンパ液は行き場を失い、蝸牛は内リンパ水腫となり、難聴・耳鳴りが起きる。内リンパ水腫がある限界に達すると、外リンパ液との境界(=ライスネル膜)が破れ、リンパ液の乱流がおこり、その際に回転性めまいが起こる。
しばらくするとライスネル膜は自然修復され、内外のリンパ圧は等しくなるので、症状は寛解するが、数週間~数ヶ月後には同じ機序で発作を繰り返す。

メニエール発作とは、発作性反復性に生ずる回転性めまいをいう。これを<前庭型メニエール病>とよぶことがある。メニエール病には<蝸牛型メニエール病>もある。これは従来、急性低音障害型感音性難聴に分類されていたものである。めまいを伴わずに低音域の難聴と耳鳴りだけが反復。人の声は中音域なので、あまりコミュニケーションに不自由しない。このタイプはと分類され、緩解しやすいが再発もしやすい難聴として知られる。20~40代の若い女性が多く発症。 


2)症状   

本疾患は、めまいの4割近くを占める。40~50才台に好発。性差なし。
 三主徴は、めまい(回転性)、耳鳴り、難聴
①水圧が上昇して音を感ずる細胞を圧迫→鼓膜からの振動が伝達しにくい→感覚細胞を乗せて震動する蝸牛基底板の動きを全体的に悪くするので、低音障害型の難聴となる。
②水圧上昇し、膜迷路が膨張し、ライスネル膜が破れると発作性回転性めまい(反復性)
③難聴耳鳴は一側性。難聴、耳鳴が同時に起こる。補充現象(+)
④めまい発作は2~3時間程度、ときに半日続く(30分程度で治まるということはない)。
⑤めまい発作は、発作性反復性に起こる。めまい発作が治まり、寛解期に移行すれば、難聴・耳鳴も消失する。

 

4.めまいの針灸治療の検討
 
1)頚部性めまいの針灸治療
   
針灸治療は頚性めまいに効果あるとされている。すなわち内耳平衡機能障害によらず、頸コリにより生じた非回転性めまいに針灸は有効ということだ。非回転性とは、フラフラした足が地面につかない感じ。あるいはまっすぐに歩くつもりでも、片一方に寄ってしまうというような状態をいう。
内耳の障害ではないので、前庭症状(-)、回転性めまい(-)、難聴・耳鳴り(-)。   

 平衡感覚に関する情報は、①内耳から、②目から、③深部感覚から来た情報が橋・延髄移行部にある前庭神経核に集められ、互いに照合されて平衡機能としての用を成す。頚性まいとは、③の深部感覚情報の誤作動で前庭脳の情報処理に矛盾をきたした結果である。深部感感覚は全身的に存在しているが、頭位とのかかわりを考えた場合、頸部深部筋との関わりが深い。頸部深部筋とは、後頭下筋、頭板状筋・頭最長筋・頭半棘筋などをさす。
 
前庭は左右独立して機能しており、一側前庭の興奮は同側の筋緊張を高めている。左右同じ程度に前庭が働くことで、筋の左右バランスがとれ、正常な平衡感覚を保つことができる。もし左右一側の頚部深部筋の緊張がると、その側の前庭機能のみ亢進するので、平衡感覚異常が生ずる。したがって一側の頚コリを改善することが、平衡感覚異常の治療になる。
 
 
2)良性発作性めまいの針灸治療
   
本症は椅座位から仰臥位になるなどの体位変換時に、地面がひっくりかえるような感じがするので、患者は恐怖感がある。これは一瞬にしておこる激しい症状なので、発作時は独歩して針灸院に通院することはない。膝痛など他の疾患で治療していて体位変換を指示する際、良性発作性めまい発作が突発することはあるが、患者は慣れており、数十秒じっと動かないでいると自然に発作はおさまることを知っている。したがって、この時も針灸の出番はない。
   
良性発作性めまいについては、半規管内に混入した耳石片を、元の耳石器位置にもどす矯正手技(エプリー法やランバート法)は知られているが、耳石片を消すような薬物療法はない。ただ応急処置としてメイロン静注(炭酸水素ナトリウム)が行われ、数分後には寛解することが多い。メイロンの作用機序は耳石に作用して加速刺激感受性を低下させたり、内耳血管を拡張して効果をもたらす。剥がれた耳石片が半規管内リンパに溶け込めば治ったといえるだろうが、次々に新たな耳石片が半規管中に混入するとなると、治癒までは長期間かかる。
 

3)メニエール病の針灸治療
     
40年も昔になるが、東京女子医大耳鼻科の研究で、メニエールの発症には自律神経が関与しているらしいので、針灸治療が効果あるかもしれないから、実際に効果あるのかどうかやってみようという話になった。針灸施術は代田文彦が行った。臨床研究は十年以上続けられ、次の好成績を得た。
①めまい(3年間観察):著効 65% 、有効 26%、無効 18% 、判定不能 4%(計23例)。
②聴力(5年間観察):改善 5.6%、不変 91.5% 悪化 2.8%(計59例、71耳)
※聴力改善の成績はあまりよくないが、薬物療法よりは効果がある。   

メニエール病に針灸治療する意義とは、頭部や項部の針灸刺激により、これらの筋緊張が緩和され、そのことが前庭-脊髄反射の逆の作用を起こし、前庭機能を強化するのだろう。ただしメニエール発作を改善させるのではなく、次に起こる発作までの期間を長引かせる作用になると代田文彦は考察した。

 

4)慢性メニエール病の針灸治療
   
メニエール病の活動期と安定期を長期間繰り返しているうちに、症状か慢性化する状態をいう。めまい発作を繰り返すうちに、ライスネル膜は厚くなるので、膜の破綻は起きにくくなるが、常に内外のリンパ圧が違うことで、コルチ器が正常に機能せず、持続的な難聴・耳鳴を生ずるようになる。慢性メニエールは恒常的に内リンパに圧の圧力が高まっているので、耳閉感が主訴(頭がパンパンになる)となる。このような症状改善が治療目標となる。

治療原理は急性メニエール病と同 じく前庭脊髄反射により、項部~側頸部が非常に緊張するので、天柱・上天柱・風池・百会などの筋緊張部に刺針(できれば中国針)20~30分間することで、前庭機能によい影響を与える。ただし完治するのではなく、週1回程度の定期的通院で快適な生活を過ごせることが治療目標になる。


勃起障害(ED)の針灸治療 ver.1.1

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1.勃起の機序と勃起が萎える機序
 
1)勃起の起こる機序
大脳皮質の性的興奮→  (副交感神経)→陰経海綿体の細胞から一酸化窒素(NO)を血中に放出
→NOが陰茎中の血管拡張物質cGMP(環状グアノシン-リン酸)を増加
→陰茎の動脈の平滑筋を弛緩させ、血管を拡張 → 陰茎海綿体に血液が充満
   
勃起の機序は複雑だが、重要ポイントとなるのがNOが体内で生成され、これにより血管拡張効果が生ずることにある。
 

2)勃起が萎える機序
性的興奮が収まるとPDE5(ホスホジエステラーゼ5)という血管拡張物質cGMPを壊す酵素が放出。これにより起状態消失する。バイアグラはPDE5の作用をブロックする働きがある。

要するに「cGMP」で勃起が起き、「PDE5」で勃起が萎える。この一連の反応を引き起こすのは性的興奮によるNO産生が引き金になっている。

 

2.EDに関係する筋

EDに関係する筋としてPC筋とBC筋が注目を集め、これらの筋の筋トレが行われている。PC筋とBC筋などの骨盤底部の筋群を総称して骨盤底筋とよぶ。骨盤底筋は排泄(尿や精液)をコントロールする役割がある。排尿を止める時や肛門を締める時にペニスが動くのも骨盤底筋の働きによる。
 
1)PC筋
Pubococcygeus Muscle の略で恥骨尾骨筋のこと。睾丸の後から肛門をはさんで伸びて仙骨をつなぐ深層筋。肛門挙筋を構成する筋の代表。恥骨尾骨筋は排尿の流れを制御し、尿キレも関係する。オルガスム中に収縮する。肛門挙筋を意識的に緊張させることもできる。代表的な局所治療点は会陰穴になる。

 

2)BC筋

 Bulbocavernosus  Muscle の略で球海綿体筋のこと。ペニスが外に出ているのは全体の3/4で、根元1/4は、骨盤底筋群の隙間に埋まっている。この根元がペニス全体を下支えしている。球海綿体筋が強いとペニスの根元もしっかりして上向きのペニスとなり、簡単には「中折れ」を起こさない。 尿道から尿や精液を押しだすのも球海綿体筋の役目もある。

球海綿体筋が鍛えられることで射精の勢いが強まり、射精時の快感が増すとされている。射精のタイミングもある程度コントロールできるので、本筋を鍛えることは、早漏治療にも適している。局所治療点は、奇穴の囊底穴(ペニスの基部で陰嚢の外縁)

 


3.EDの現代医療

1)テストステロンの投与
男性ホルモンのテストステロン分泌は20才頃が最大で、それ以降はゆっくりと下がる。中年になると性欲も体力も低下するのは自然なことである。それにも増して性交回数が多かったり、仕事がきつかったりすると、余計に性欲も低下する。
なおテストステロン分泌が不足してる者に対し、テストステロンを投与しても、勃起とは直接関係が薄く、性欲がゆっくりと増す(短期間の投与では効果ない)。
    
※誰の意見なのか、年令別の適正性交回数として、9の法則というのがあり、一応の目安となっていった。 
20才:20×9=18(10日に8回) 
30才:30×9=27(20日に7回)
40才:40×9=36(30日に6回) 
50才:50×9=45(40日に5回)
 

2)PC筋とBC筋の筋力訓練
骨盤底筋体性神経で、勃起時のペニスを下から支える機能があるので、骨盤底筋の筋トレは行う価値がある。
  
①PC筋・BC筋のトレーニングとして肛門を締める運動を行う。肛門を締め5秒間、緩めるを5秒間と10回1セットで毎日5セットを目安に続ける。
②椅座位で、上体を前傾斜すると骨盤底筋が座面に当たる。この辺りにテニスボールなどを当て前屈すると指圧効果が得られる。

4.EDの針灸治療

針灸刺激も、EDに直接的効果を与えるものではないが、体調を整える一環の結果として、EDに効果ある可能性はあるかもしれない。
 
1)針灸とバイアグラの効果の比較研究 
辻本孝司は、次のような調査を行い、針灸とバイアグラの効果を比較し、「EDに対する中髎刺針は有効だが、その効果はバイアグラに及ばない」との結論した。
ED患者26名に対し、2寸#8の針を中髎に5㎝刺入し、回旋刺激を10分間施行。治療は週に1回で平均11回施術した。著効と有効を合わせると有効率は62%だった。有効例は、心因性(著効33%)よりも、内分泌性(著効88%)や静脈性(60%)の方が高かった。しかしバイアグラの有効性は50mgで70~80%で、重篤な副作用もみられないことから、針治療よりもバイアグラ内服の方が効果的である。バイアグラが効果なかったという者の大半は、内服方法に誤解があるからで、服薬指導と数回の針灸治療で改善させる。(辻本孝司:EDの治療-バイアグラと針に求められるものは,針灸OSAKA.vol.19 No.1.2003.Spr)
 
2)陰部神経刺
亀頭など性器の触覚を支配しているのは陰部神経なので、以前から陰部神経知覚枝を刺激することがEDの改善になることが期待され、陰部神経刺針が用いられてきた。
骨盤底筋を鍛える目的で、大腿内転筋トレーニングの一環として陰包や足五里を刺激することも行われているが、これが効果的だとする印象はあまりない。
   
①曲骨から下方にむけて深刺
陰部神経の終枝である陰茎背神経は、陰茎から亀頭に達するので、針響も陰茎先端 まで得られやすい。陰茎にまで響かせる方法は、ゆっくり斜刺して硬い処(=筋膜)まで針先をもっていく → 針尖を筋内に入れたら雀啄をする → 雀啄しつつ針全体の動きとして深度を深くする、といった手技を行う。
  
②曲骨の針響と治療効果(日野勝俊:「はりきゅう」治療でしぜんな妊娠あんしん出産、2006年11月)
日野勝俊は「正常男性に曲骨から刺針をすると、ペニスの先まで針響を感じるが、重症のEDでは刺針した部位のみの刺激感のみになる。しかし繰り返しの治療で、ペニス先端部近くまで針響が届くようになる」記している。一般的なEDの場合には症状に応じて、週に1~2回程度の治療を4ヵ月間続けて経過をみる。効果がすぐに現れるケースでは、初回の治療直後から、遅い時でも2ヵ月ぐらいで症状の改善が認められるとのこと。
※筆者はこの方法を10例以上追試してみた。曲骨刺針でペニスに響かせることは容易だが、そのことがED治療に効果あることの印象は得られなかった。
  
③正座位にて、関元、中極、腎兪、裏合谷の多壮灸(陽不起の標治灸 柳谷素霊選集下より)
 裏合谷とは、「掌中、母指球の尺側、合谷穴と相対するところ、之を按ずれば極めて痛み透るところ」とする。 正座させ、関元・中極・腎兪には最初小灸にして漸次灸壮を増やし、腰腹部春陽の如くポカポカと温暖となるまで施灸する。温暖にならざれば効果が薄い。裏合谷には灸7壮。


3)PC筋・BC筋に対する刺激

PC筋に対する局所刺激点は会陰穴であり、BC筋は会陰穴のやや前方で陰嚢との境界部になる。椅座位でこのあたりにテニスボールをあてがい、上体を前傾させると、PC筋・BC筋の押圧刺激になる。リズミカルに数分間、前傾したり元の姿勢に戻したりの運動を行うことででPC筋・BC筋を鍛えることができる。ボールの大きさは直径4㎝程度が適切で、本当はテニスボールでは大き過ぎる。ピンポンボールが丁度よい大きさなのだが圧をかけると潰れそうだ。おもちゃのスーパーボール(よく弾むゴム製のボール)
には色々サイズがあるので探してみるのもよいだろう。

 

 

 

古代中国の天文学と経穴名 ver.1.3

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最近、経穴の語源について調べているのだが、そうこうしているうちに経穴の中に星や星座と関係する経穴がいくつかあるのを発見したので、354正穴の中からピックアップしてみた。昔の中国人の考え方の一端を知ことができて感慨深い。とくに前胸部の胸骨に特徴的なツボが並んでいる。


                                       
      
1.紫宮(任)    
華蓋の下1寸にある。紫宮穴は心臓の位置にある。古代中国では、天帝が住んでいる星すなわち北極星を紫微星(しびせい)とよんだ。紫微とは、価値のある星の意味。紫が尊いということは、道教の思想である。北京にあったかっての中国皇帝の住まい(故宮)のことを紫禁城と称した。これは、紫微城の地を一般人の立ち入りを禁ずるというところからきている。一方、それ以前からあった五行説では五方(東西南北と中央)ので中央にあるのは黄だとして、中国黄帝以外に黄色の服は着てはいけないとの規則をつくった。

紫色染料の原料として、アクキガイ科の巻き貝の内臓からとれる分泌腺を利用してきたのだが、1gの染料を採るのにアクキガイ科の巻貝が約2000個必要だった。大変高価なものだったので王様や貴族など、ごく少数の富裕層の服飾にのみ使用された。紫が尊い理由は、貝からとれる染料(これを貝紫とよんだ)が高価なもだという理由による。ちなみに聖徳太子のつくった冠位十二階の最高位も紫だが、こちらは植物の紫根を染料にしたので安価だった。紫根は現代では、紫雲膏の原料として知られている。

紫微星は一つの星ではなく、北極付近の星々のことを指している。紫微星の北には北斗七星、南には南斗六星がある。

 


2.華蓋(任)  
華蓋穴は、胸骨角(胸骨柄と胸骨体の接合部の骨隆起)中央にとる。
華蓋とは、五臓六腑の中で最も高い位置にある肺のこをいう。ただし華蓋は高貴な身分の者の頭上にかざした、上質の絹でできた傘をさすことが多い。



ちなみにキノコの一種のキヌガサタケ(衣笠茸)は絹傘茸とも書く。華蓋の形状に似ていることからつけられた名前であろう。

 

3.璇璣(任)
華蓋の上1寸にある。   
①璇(せん)と璣(き)は北斗七星を構成する星で、どちらも美しいとの意味がある。
ちなみに天枢とは北斗七星の一番目の星、

②回転仕掛けの天文器械。渾天儀(天体の位置を観測するために用いられた器械)の別称。

4.天枢(胃)
天枢穴、臍の外方2寸にある。
北斗七星の七つ星のうち、最も紫微に近い星も天枢とよぶ。これはどういうことだろうか。
「枢」は、もともと回転扉の回転軸部をいう。現在では金属製の丁番(=ちょうつがい)が当たり前に使われるが、昔は金属は高価で金属加工技術も低かったこので、丁番に代わる方法を工夫した。扉の片側に凸状の出っ張りをつけ、片方を凹の部分と噛ませることで扉を開閉させていた。凹凸の部品は枢で、和名は「くるる」とした。この回転のしくみが元となり、回転の軸となるものを枢とよぶようになった。


一方、臍の高さは、お辞儀をする際に上半身を前屈する境界となる。すなわち天枢は身体を上半身と下半身を分ける境目線としての意味があるのだろう。
これが回転軸という意味になった。天枢とは動く部分と動かない部分の境界というのが語源だろう。

 

5.太乙(胃)
 天枢穴の上2寸、下脘穴の外2寸。
太乙は北極星をさすが、なぜ甲ではなく「乙」なのか不明。中国語の発音では、太乙と太一は同一なので、太一から変化したのだろうか。太乙も太一も、中国の古代思想で、天地・万物の生じる根源。太極という意味もある。太極は万物の根源であり、ここから陰陽が生じるという易学における根源の概念である。


6.箕門(脾)    
①箕門穴は、大腿内側の上1/3で縫工筋と長内転筋の間、大腿動脈拍動部に取穴する。箕門膝を曲げて足を外転させた姿勢で取穴する。その姿が箕(み)に似ていることから命名。箕は竹で編んだザルのような農具で、米などの穀物の選別の際に殻や塵を揺すって外に取り除くために用いた。ちなみに蓑(みの)はワラで作った雨具のことで別物。

②古代中国で「箕星(みぼし)」は南斗六星から柄を除いた四角形の部分をいう。南斗六星は北斗七星に比べて暗く規模も小さいものだが、はるか昔の夜空は暗く空気も澄んでいたから、容易に発見できたことだろう。

     


7.太白(脾)  
足の第1中足趾節関節の後、内側陥凹部。
①古代中国の金星。太陽、月に続く3番目に明るい星として認識されていた。その光が白銀を思わせるところから太白と呼んだ。本来は明けの明星を啓明,宵の明星を長庚または太白と呼んで区別した。
②中国には太白山と名前のついた山が多数あるが、西安(唐の都長安のこと)の西の宝鶏市にも太白山(標高3767m)がある。ここは太白峰の別名がありかつて道教の聖地たっだ。この太白山は西安から見て「宵の明星金星、すなわち太白星がその山上に輝く位置、そして沈む位置」にあることから命名。
③太白金星のこと。中国伝統神話に登場する白髪の老人で金星の神様。中国の民族宗教と道教の神。天界と地上との伝令役で、孫悟空を天界に案内した。もともとは若い女性の神様(西洋の美の女神ビーナスを連想させる)だったが、時代を下ると老人の神様ということになってしまった。しかし老人になってからの方が人気がでてきた。


8、日月(胆)
9肋軟骨付着部の下際に期門(肝経で、肝募)をとり、その直下5分に日月(胆経上で胆募)をとる。期門穴と日月穴は1㎝ほどしか離れていない。たとえば期門に針や灸をすれば、その作用は日月にも波及するだろう、その逆もしかり。このことが日月という穴名にも関係している。

日月で、日(=太陽)は胆、月は肝をさしているが、天体としての太陽・月との結びつきは弱い。
唐の文人韓愈は、「肝胆相照らす」という成句を創案した。これは「教養ある立派な二人がいて、互いに相手に感化されつつ、心底親密な関係」という意味である。五行での肝は戦略構想を計画し、胆はそれに基づき決断実行するということ。すなわち肝は計画、胆は実行ということ。

期門と日月は、車の両輪のように協調しつつ、疾病に対処するといった意味になるだろう。


         

 

 

足三里の効能

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1.俳人、松尾芭蕉は著書「おくのほそ道」の中で、旅立つ際は足三里に灸する旨の記載があったことが針灸師にはよく知られている。このようなイメージから足三里には健脚の効能があるとされるようになった。ただし中国では足三里の効能に「健脚」は見当たらない。
 
2.江戸時代になって一般民衆の文化水準が向上すると、世の中の動きにも興味をもつ者が多くなり、神社仏閣参りを口実に、旅に出かける者も増えた。江戸時代の旅人の心配事は、道中で病に倒れることだった。旅人にとって”食あたり”は体力を消耗する致命傷となった。足三里の灸は、あたりを予防の意味があったらしい。
 
3.最近になり、旅人はツツガムシ病を恐れたのではないかとの見方が出てきた。ツツガムシ病は、かつては風土病の一つで、夏になると川沿いの草原に入った農民や旅人の間に、突然高熱(38~40℃)を発し,身体中に赤い発疹が現れ、意識朦朧状態になった。10人に4~5人は14~15日から20日のうちに死んでいく熱病だった。抗菌治療が行われない場合の致死率は3~60%。ツツガムシ病に対しては足三里の灸もあまり効果なかったことだろう。
 
4.江戸時代後期、とびぬけて長寿の家系として百姓の万平の一族がいた。長寿のお祝いとして当将軍、徳川家斉の招待を受けた。その折長寿の秘訣を聞かれた。すると万平は「両足の三里に灸するだけ」と返事した。万平一族は月の初旬の8日間、生涯にわたりお灸を続けていた。当時、中風(脳卒中)になるのぼせの結果だとされ、足三里の灸は、気を下にさげる効果があるとされ、長寿の灸としても推奨された。

 

写真の人、原 志免太郎は健康灸として腰部八点灸を提唱した医師で、針灸師ならば誰でも知っている。これまで針灸医学史上の人物だと思っていたのだが、昭和58年2月号の針灸専門月刊誌「医道の日本」に本人の写真が口絵をかざった。福岡市内で百才を越えてもまだ医師を続けているということで、長寿としての灸の効果を身をもって証明した格好になり、読者を喜ばせた。結局104歳まで聴診器を持ち、「男性長寿日本一」として108歳で逝去した。

 

気管支喘息に対して天突から胸骨裏への水平刺が効いている例 ver.1.1

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岡本雅典 氏 レポート 2022年7月18日

A.気管支喘息の症例報告

普段から体月2回ほど身体のメンテナンスで来院する48才男性。ある日の来院時、「今回また喘息発作が治まり、呼吸が浅くて息苦しい。いつもこの状態が1カ月ぐらい続く」と訴えることがあった。

その時は、仰臥位にて迷走神経刺激目的で天突に2寸♯5の鍼で、鍼体を90度くらいに曲げ、胸骨の裏に這わすように刺針。「喘息には天突」というのは教員養成科での授業で教わったもの。天突から直刺しなかったのは、気管壁へ直接刺激するのを回避する意味。
固いところに当たったら「響きましたか?」と問うとYes と返答するような具合に行った。得気が得られたらそれ以上深刺せず、また廉泉には寸6#5で刺針し、両者をクリップでつないで1ヘルツ20分間の通電を行った。廉泉刺針は、喉の奥への響きを得やすく呼吸が楽になるかもしれぬという思いからで、迷走神経刺激の意図もある。刺激が不足するようならば、徐々に100ヘルツまで上げていった。1~2分間ほど通電していると、「呼吸が深くなって、楽に呼吸できる」と喜んでいただいた。
喉を湿らすために、寸3♯1で両側の顎下腺にも鍼刺し、ここにもパルスを流した。

その後の来院の際にも天突水平刺や簾泉刺針をしたが、パルス通電はしていない。これは天突に水平刺しただけでも「呼吸が深くなる」という効果が得られたため。このような治療により、これまでリバウンドの経験はない。定喘や治喘は一度も使っていない。

なお41才、女性で同様の症状を訴える患者に対しても天突から胸骨裏への水平刺が有効だった。

※周波数の使い分けについて、現在の僕は1Hzは気管支喘息発作後、深く呼吸が出来るようにする。(2診目以降はパルスなし)、10Hzは花粉症などで喉がイガイガする場合。
100Hzは風邪で喉が痛い場合といったように一応使い分けているが、厳密に比較検討したものではない。

 

B.気管支喘息の薬物療法から考える鍼灸治療の整理

1.気管支喘息に対する現代薬物療法の概略

40年前頃までは、気管支喘息で鍼灸に来院する患者は珍しくなかった。当時の治療はステロイド内服が中心だった。しかしステロイドには強い副作用があることから、過度には使わせず、ギリギリの処でコントロールされていた。予想外の大発作が起こると、呼吸困難となり、救急車で病院に搬送されるのが常だった。
しかし現在、気管支喘息で鍼灸に来院する者はマレとなった。その意味するところは、現代医療が進歩し、代替医療として鍼灸に頼る必要が薄れた結果でもある。

治療の2本柱は、吸入ステロイド薬+気管支拡張剤である。治療の重点は気管支の炎症を軽くして気管支の腫れを引かせる方に置かれるようになった。炎症改善にはステロイド剤が最も効果的である。その投与法はステロイド錠の内服ではなく、気道狭窄の度合いを調べ、必要十分な量のステロイドを吸入する方式に変わった。これによりステロイドの使用量は数十分の一程度と激減したので、昔ほど副作用をあまり心配する必要がなくなった。
 
気管支拡張剤とは、交感神経β2刺激剤のことである。発作時は副交感神経優位になっているので、気管狭小し気管分泌物も多くなり呼吸困難になっている。この自律神経バランスを交感神経優位にする目的で気管支拡張剤を点滴する。


2.気管支喘息に対する鍼灸治療法の整理
以下は、似田敦著「現代鍼灸臨床論」の中から大幅に引用させて頂いた。自分の行った治療が気管支喘息の鍼灸治療体系の中で、どういう位置づけになるのか知ることができる。

1)交感神経優位を目的にする施術

気管支喘息の鍼灸治療は、ステロイド剤のような強力な抗炎症作用はないので、発作時に必ず効くという保証がない。鍼灸治効の基本原理は、副交感神経優位の状態を交感神経優位に誘導させるという意味では、上述の気管支拡張剤的といえるだろう。それには2つの方法が広く行われている。

①臥位での天突刺針
天突刺針は、30年以上昔から、天突から胸骨裏にむけて水平刺(事実上は斜刺)する方法が知られていたが、仰臥位で上背部にマクラを入れ、頸を過伸展位にさせるのが大変なのか、中国でも天突から直刺する方法に変わったようだ。

②肺気管支の脊髄神経断区としてTh1~Th5(とくにTh1~Th3)の高さの起立筋施術として治喘、定喘、肺兪など(伏臥位)への刺針がある。
本来、肺・気管支は副交感神経優位作動性なので、基本的に内臓体壁反射は生じにくい。そのため交感神経優位の胃の治療に中脘や脾兪、同じく交感神経優位の心臓の治療に心兪や巨闕などという兪募穴治療パターンは使いづらい。

③人為的に交感神経優位の情況を作り出すため、強刺激治療や座位での治療を実施する。これには欠点もあり、強刺激になりすぎ、数時間後(とくに夜間)にリバウンド(発作の再発)しやすくなることがある。自律神経は振り子のようなもので、自然に振れ動いている限り問題ないが、人為的に大きく振り子を動かすと、反対方向にも大きく動いてしまうのである。

④このような失敗を防ぐため、筑波大の西条一止先生は太い鍼で短時間(単刺施術)・少数穴治療という考え方を誕生させた。イメージ的には、熱いバスタブに短時間入る感覚である。熱いバスタブに長時間入ると火傷するので問題外。ぬるいバスタブに長時間入ると副交感神経がさらに優位となるので逆効果。ぬるいバスタブに短時間入るならば、風呂に入る意味はそもそもなくなる。パルスをすると、どうしても長時間置針になるので、短時間治療という原則からは外れるのである。ただし軽度の喘息発作では、振り子の振れ幅も小さいのでパルスをしても、リバウンドについては心配するに至らなくてすむ。
 
2)首コリ肩こりの治療
 
故・高岡松雄医師は、気管支喘息患者発作時に皮内針治療を実施したところ、同じ患者でも、効く場合と効かない場合のあることを経験し次の結論を得た。患者によっては、アレルゲンや感染によって発作が起こるのではなく頚肩部の筋のコリが発作の誘因になっている場合がある。コリを緩めることで発作が楽になることもある」。アレルギーが発作の誘因ならば皮内鍼治療の効果はないとの解釈を提示した。
(高岡松雄「痛みの治療」医道の日本社)


3)灸痕による異種蛋白療法

40年ほど前の医道の日本誌に、「ガットグートつぼ療法」の記事が載っていた。ガットとはガットギターのガットのこと(昔のギターの弦は羊の腸を原料としていた)。グートは小腸のこと。すなわち羊や豚の小腸を細くしたものを、注射注射器で体内に入れる治療法である。ガットグートは体内で自然に溶けて消滅する。要するに埋没針療法の一種である。       

これは減感作療法と似た面をもつ。身体の中に異物が入ってくると、身体は退治しようとして、アレルギー反応が起きる。しかし、その異物は大した悪さをしないことが分かると、同じような刺激にあっても以降は過敏反応を呈さなくなる。そこで用いられるのが手術用の糸や絹糸の埋め込みである。

異物を皮下に埋め込む方法は日本の鍼灸師には許可されていないが、その代用として透熱灸があると浅野周氏は記した。これは皮膚を焼いて蛋白質を変性させることにより、異物を皮下に埋めたのと同様の効果がある。ただし皮下に異種蛋白ができなければならないので、上質モグサでは効果が乏しい。灸頭針用の質の悪いモグサを使い、米粒大の灸をすえる。浅野氏による喘息に対する施灸による異種蛋白療法は次のように行う。
伏臥位。大椎~至陽(督脈上の棘間穴の中から、圧痛の強い2穴を選択)、左右の肺兪と左右の膏肓(できるだけ肩甲骨を開かせてその内縁)を選択。計6点を選ぶ。灸頭針用もぐさを使用。底辺直径2~3㎜、高さ5㎜大の艾炷をつくり、上記穴に9壮づつすえる。9壮×6ヶ所=54壮になる。熱さは1壮で30秒間ほど続く。粗悪もぐさを使う処が治療のカギ(異種蛋白をつくる)である。10日前後または発作時に、再び同様に施灸する。3回程度の治療で改善するのが普通で、1年に3回治療というパターンを継続する。10日毎ならば何回すえてもよい。

ただし似田がこの方法を試してみようと、喘息患者に大椎の透熱灸を行い、人為的に火傷をつくったことがあったが、あまり手応えはなく残念な結果に終わった。異種蛋白療法として施灸痕を考える方法は、興味深いものだが、神経痛や筋肉痛の鍼灸治療などどは異なり作用機序は複雑になる。今後とも喘息のタイプ別の分類、体位や施灸刺激量などを試行錯誤による検討が必要だろう。

 

4)ヒストキシンからヒートショックプロテインへ

「異種蛋白(ヒストキシン)療法は、興味深いものではありが、実効性は疑問にある」と私(似田)は以前から思っていた。ヒストトキシンという単語が生まれたのは1930年頃で、以後は研究の進化みられていない。これに対して、現在は医学界でヒートショックプロテイン(Hsp)が注目されてきた。灸の火傷作用の効果は、Hspによるものではないか?
Hsp70について、分かっていることを簡単にまとめる。

①Hspは細胞が様々なストレスを受けた際に細胞の中で作られて放出される蛋白質で、なかでも熱に反応するのがHsp70という。Hsp70には炎症を抑制する作用がある。
②ただし自己免疫疾患(アレルギーや膠原病など)の場合には却って症状が悪化することもある。
③Hsp70を分泌させることが、免疫システムに対して良い影響を与える。たとえば40℃の湯船に20分つかると、体温は核心温度1℃上昇するので免疫反応を活性化するという。④直接灸は熱いが熱量的には大したことはないので、たとえば気管支喘息に大椎に7壮の半米粒大灸をしたからといって、Hsp70が上昇して治効をもたらすかどうかの疑問は残る。これが打膿灸になると話は別で、打膿灸の治効はHsp70増加によるものかもしれない。

  
5)次回発作までの期間を長引かせる全身治療

発作時の治療は現代医療に任せ、鍼灸は次回発作までの期間を長引かせること。すなわち発作が起こりにくい身体にすることが重要だといわれている。これは方向性としては妥当だが、実際の施術方法まで示すものではない。

 

上写真:外国人向け指圧講習会2022年。下段中央が筆者(高野山宿坊にて)

 

岡本  雅典
あはき師、元東京医療専門学校講師     
オフィス:The 立川鍼灸院 治療室ホスピターレ
     東京都立川市柴崎町3-3-3 櫻岡ビル4F
                  電話 042-526-0766

 

内転筋管症候群の針灸治療 ver.2.0

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 1.内転筋管とその役割

大腿神経は大腿前面の知覚と四頭筋筋力を支配するが、その一部は伏在神経となり、大腿内側下方で内転筋管(=ハンター管)に入る。
この内転筋管は、大腿内転筋群と内側広筋が互いの筋収縮により干渉しないための間隙にある管で、いわば配管配線のために設けられたスペースである。内転筋管内は大腿動・静脈と伏在神経が縦走している。伏在神経は大腿動・静脈とともに内転筋管に入るが、膝内側~下肢内側皮膚知覚をつかさどる必要性があり、中途で別れ内転筋管から出てくる。伏在神経は筋を支配することなく、大腿内側~下腿内側の皮膚知覚を支配している。すなわち今日でいうとことの浅層ファシアの障害と関わってくる。

 

2.内転筋管症候群(=ハンター管症候群)

内転筋管の中で伏在神経が圧迫を受けて生ずる伏在神経神経絞扼障害を内転筋管症候群(=ハンター管症候群)とよぶ。これはタイツやスパッツなどで大腿内側を圧迫を続けると、内転筋管周辺の筋緊が伏在神経を絞扼した結果である。ツボで言うと陰包付近が障害部になる。
症状は歩行時の大腿内側とくに陰包穴あたりの運動時痛で、伏在神経の走行部である下腿内側、膝内側も起こることがあるが、伏在神経は皮膚のみ知覚支配するので運動麻痺は起こらない。
 
※余談:ハンター舌炎
ハンター管症候群ときくと、すぐにハンター舌炎を思い浮かべてしまうのは元教員の性癖。両者は全く違う病態である。ハンター舌炎での舌は発赤し、痛みを感ずる。この原因は悪性貧血で起こり、悪性貧血はvB12不足で起こる。萎縮性胃炎の結果、VB12吸収障害が起こる。
 ※語呂:ハンター(ハンター舌炎)は悪(悪性貧血)い住人(ビタミンB12)


3.陰包刺針肢位の試行錯誤
   
大腿内側が痛むとの訴えはあまり多くないが、大腿内側を軽い押圧しても痛みは生ぜず、深々とした押圧で圧痛を感じる程度のものが多かった。しかもこの圧痛点にある程度深く刺入しても、スカスカするのみで筋緊張の手応えはなく、響きも得られない。これは刺針でツボが動いて逃げてしまっている現象だろう。

どうすればズンという筋膜刺激を与えられるのかを検討してみると、以下のようなシムズ肢位で陰包刺針することがよいことが分かった、ただし刺針側はシムズ肢位にした時の下側の陰包であることが通常の施術とは異なることに留意する。2~3㎝直刺でズンという響きを与えられることが多いようだった。伏在神経は皮膚知覚支配なので。ズンとする響きは筋トリガーポイント刺激よるものだろう。大内転筋-内側広筋間にある筋膜刺激であり、本筋膜緊張による伏在神経圧迫の開放を目的になる。


今振り返ると、陰包を強く押圧して初めて出現する圧痛という程度であれば、それはすでに内転筋症候群とはいえないようだ。軽い押圧でも飛び上がるほど痛く感じない場合は、それは筋膜痛であって、伏在神経痛とはいえないだろう。それは以下に示した症例の針灸治療をしてみての感想である。

 

4.その他の伏在神経症状
 
伏在神経は、途中から大腿動脈と分かれ膝関節内側の表層に出て、次の2枝に分かれる。これらの皮膚痛が、内転筋症候群によるものであればて陰包刺激が適応となる。
 
1)膝蓋下枝
縫工筋を貫き、膝関節下内側の皮膚に行く枝。この枝が鵞足炎時の膝内側痛をつくる。鵞足部の鵞足穴や膝蓋骨内縁の内膝眼に圧痛があれば、伏在神経膝蓋枝痛を考慮する。鵞足の圧痛点には皮膚刺激である円皮針を貼る。内膝眼は皮膚が厚い部でかつ摩擦されやすい部なので、円皮針よりも灸刺激が適する。

2)内側下腿皮枝
下腿内側および足背内側の皮膚に分布。この領域の皮膚反応の探索には撮診法が適する。代表穴には三陰交・地機・築賓であり、これらのツボ上の皮膚の撮痛反応を探る。治療は撮痛部に円皮針を貼る。
下腿陰経の圧痛というと泌尿器や産婦人科系の疾患を思い浮かべがちだが、それ以前に伏在神経痛であるかもしれない。伏在神経痛は内転筋症候群、鼠径部における大腿神経絞扼障害によることもある。

 

3.ハンター管症候群の針灸治験
 
1)症例1(40才、女性)
「右陰包あたりが痛む」と訴えるが来院した。陰包を押圧すると確かに圧痛があったので、前記のシムズポジションで寸6#2で陰包穴に直刺し、強い針響を得た。なお下腿内側や鵞足部に圧痛はなかったので、伏在神経の支流は問題ないようだった。大内転筋を中心に、5~6本集中5分間集中刺針して症状改善に至った。
 ことは難しいことなどから、大内転筋-内側広筋間にある筋膜刺激と判断した。
 
2)症例2(51才、男性)
数週間前から左陰包あたりが痛むと訴えて来院した。臥位で左陰包を軽く押圧すると、跳び上がるほど痛む。この患者はスポーツマンで筋肉質の身体をしている。整形医師の診察では、左内側半月板の外縁が少し削れているが手術するほどではないといわれた。確かに内膝眼・外膝眼にも圧痛があったが、内膝蓋や外膝蓋には圧痛がなかった。
以上から、本症はハンター管症候群であり、伏在神経の膝蓋枝まで反応が及んでいるものと診断した。
治療は、仰臥位で寸6#2で陰包に刺針するとズンと響いた。陰包を中心に5~6本集中置針で5分置鍼。他に内膝眼・外膝眼にも置鍼5分で治療終了した。

 

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