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痔疾の針灸治療 ver.3.0

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本内容は、令和5年10月15日奮起の会「下部消化器症状」で使用する現代針灸実技テキストからの抜粋になります。

1.痔疾の基礎的原因

肛門部における炎症を起こす攻撃因子が、肛門周囲の免疫力を上回った場合に痔となる。攻撃因子としては排便異常とくに便秘があり、免疫力低下因子としては疲労・ストレス・冷え・飲酒などがある。痔核・痔瘻・裂肛が、痔の三大疾患になる。

基本的訴え:内痔核→出血、外痔核→排便時痛、裂肛→排便時痛、痔瘻→痒み
※痔を「ぢ」と書くのは誤りで、正しくは「じ」である。「痔」は肛門静脈腫瘤ことで、それ自体は健常者にもあって疾患を意味しない。


2.痔核(いぼ痔)

1)病態生理(肛門上皮滑脱説)

痔核とは、血管が拡張・蛇行した静脈瘤様病変で、大便の摩擦により静脈瘤の支持組織が滑脱した結果が内痔核だとする。現在主流の学説である。

※旧説:血管起源説

人間は直立するので、静脈環流は四足動物より悪くなる。とくに直腸~肛門管の静脈(上・中・下直腸静脈)には静脈弁がないため、粘膜下の内痔静脈叢が鬱血し、静脈瘤を形成しやすい。排便痔の肛門周囲の静脈叢伸縮→静脈血管の弾性消失→静脈鬱血(血栓)という機序。排便時のイキミにより、直腸下部と肛門にある静脈血流が一時的に止まり、これが静脈瘤ができる原因となるという説。しかし今日では、肛門部の静脈瘤は誰にでもあり、それは便のストッパーとしての役割を果たしていることが明らかとなった。


2)分類と症状

痔核は歯状線を境として外痔核(少数)と内痔核(大部分)に大別され内痔核の方が圧倒的に多い。歯状線から内側は腸粘膜なので知覚はない。ゆえに内痔核は痛むことはないが、圧迫されにくい部なので出血は止まりにくい。内痔核は1度(軽度)~4度(重度)に細分化される。歯状線から外側は陰部神経の知覚支配なので、外痔核は痛むが、圧迫される部位なので出血は止まりやすい。 

※脱肛とは直腸や肛門の一部が肛門外に脱出することで、内痔核が進行して、それを覆っている粘膜ごと肛門外に脱出した状態である。
※アルコールを飲むと痔が悪化するというのは、静脈腫の血流が良くなり、腫瘤が拡大するため。かつて上直腸動脈から肝臓に行く静脈血液量が問題視されたが現在は否定されている。

3)現代医学的治療



①内痔核

1度:温罨法や鎮痛座薬治療

2度:内痔核硬化療法。注射薬であるALTA(商品名:ジオン注)を内痔核に注射して、核内に流れ込む血液量を減らして痔を硬くし、直腸粘膜に癒着固定させる。注射は内痔核(知覚がない)部    に行うので、痛むことはない。2~3日の入院が必要。

3度以上:結紮切除術。腰椎麻酔下で、内痔核に注入動脈を根元の部分でしばり、痔核を放射状に部分的に切除。1〜2週間程度入院が必要。
※昔の内痔核の手術は、ホワイトヘッド手術といい、痔核だけでなく、周囲の肛門上皮も全てリング状に取り除いてしまうものだった。この手術は非常に痛いため、患者に怖れられていた。  後遺症として腸の粘膜が、かなり手前まで下がってくる脱肛状態となり後遺症も問題だった。
 

②外痔核:硬化療法が使えないので、局所麻酔して痔を切開摘出。 


2.痔瘻

1)病態生理

肛門小窩(歯状線の凹んだ部分)に糞便が付着
→炎症を生じて肛門周囲に膿が溜まり非常な痛みと発熱(=「肛門周囲膿瘍」状態)
→膿疱が破れて後、管状の空洞(瘻管)ができる
→この瘻管から細菌侵入し炎症を惹起する。

2)症状:肛門掻痒感、下着が汚れる
3)現代医学治療:管の入口と瘻管を結紮する手術以外にない。針灸不適応。


3.裂肛(切れ痔)

1)病態生理

排便の際の肛門部外傷。とくに硬い便をいきんで排泄する際に生じやすい。破れるのは歯状線と肛門縁間にある1.5㎝くらいの部位。
 排便時刺激による会陰神経の興奮
 →内括約筋の痙攣
 →これがトリガーとなりさらに陰部神経興奮し続ける。

2)症状と現代医学的治療

排便時の激痛と出血。排便後もしばらく続く痛み
外傷程度が軽い場合は便を軟らかくしておけば自然治癒する。
しかし硬い便を繰り返し出すと同じ部位が何回も切れ、肛門潰瘍となり肛門が狭くなり、このためさらに切れやすくなるという悪循環が生じる。この場合には潰瘍部分の切除が必要。


4.痔核の針灸治療
痔疾で針灸が有効なのは、痔核と軽度の裂肛のみだだろう。そして軽度の裂肛であれば針灸に来院しなくても何とかなるから、実際には痔核治療のみであろう。痔瘻は針灸は効果ない。

1)肛門周囲圧痛点からの刺激 (国分壮・橋本敬三共著「鍼灸による速効療法」医歯薬1965年4月)
 痔核は肛門周囲に分布する静脈鬱血を改善させ、併せて肛門挙筋(陰部神経運動支配)の過緊張を緩め、肛門付近の皮膚を知覚支配している陰部神経興奮を緩和する方針で行う。
 
①鬱血した痔静脈に対する直接刺激
仰臥位でズボンとパンツを膝あたりまで下ろすよう指示。患者は大腿を持ち上げ、術者は肘で患者の下腿後側を押さえてこの体勢を保持。術者はゴム手袋を装着して、患者の肛門周囲を押圧し、硬結圧痛(=静脈腫瘤のあるところ)を発見。このシコリめがけて太く長い針で刺入する。するとズキッと響くが、抜針後の痛みは大幅に軽減する。要するに痔静脈の鬱血が改善される。
灸治療では、有痕灸は使わない。太い線香や蚊取り線香、たばこ灸などで肛門周囲のしこり部を加熱する。ある程度火を近づけると、ポカポカして気持ち良く感ずるが、さらに火を肛門に近づけるとアチッといって驚くので火を遠ざける。これを5~6回繰り返す。 
   
②患者心理的に肛門周囲の痔核を触診することがしづらい場合、仙骨骨外端に長強穴をとり、そこから外方3㎝。直刺で2寸ほど深刺する。肛門挙筋中に入る。この刺針は肛門静脈叢にも影響を与え、静脈鬱血を改善さえる作用もある。普通は10分間程度置針する。
 

2)孔最の灸

①澤田流孔最の取穴 
前腕長を1.25寸と定めた時、尺沢の下3寸。標準孔最の2.5寸上方。孔最のツボ反応は痔核の位置によって上下に移動する。指先の按圧感によって、その最高過敏点の硬結を取穴する(代田文誌)。

②適応
痔痛・痔核・痔出血・痔瘻・裂肛。脱肛には効かないこともある。灸治が適する(代田文誌「鍼灸治療基礎学」より)。

③孔最刺激の肢位(三島康之「今日から使える身近な疾患35の治療法」より)
痛みを我慢する姿勢は、歯を食いしばり、上下肢を含め全身に力を入れた状態になる。昔の排便スタイルはでは、膝を相当窮屈にまげた姿勢で、手は自然と結ばれ、前腕は屈筋に力が入った姿勢で、前腕屈筋群では、孔最穴あたりから手首に向かって一番力が入った状態になる。この体位で孔最を刺激するとよい。

④左右の沢田流孔最の移動反応(小島福松:痔疾、現代日本の鍼灸 医道の日本300回記念)
左右孔最の調べて、圧痛や硬結の多い方が患部である。まず硬結を目標に5~7壮施灸する。そしてその灸痕は、翌日になれば必ず移動している。毎日移動している硬結を求めて、その中心に施灸する。そのうち硬結の移動が止まる。この時が治癒の近づいた時である。痔痛が除かれても孔最の穴の移動している間は血齲したとはいえない。だいたい2~5週間くらいを要する。3ヶ月要した例もある。

 

 


前胸部ツボ名の由来 ver.1.1

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1.前胸部経穴位置の特徴
 
前胸部は肺、心臓、乳房、横隔膜などで他に気管や胃などの重要組織があるが、前胸部のツボは、胸骨上もしくは肋間に整然と並んで、一見すると没個性的なのようにも見受けられる。では実際どういう構成になっているのだろうか。ツボの特性を大きく4つに分類して色分けした(下図)。

 

①前胸部で<青色>で示したのは肺・呼吸器関係のツボである。昔の中国では肺はハスの花に例えられたこと、あるいは肺は現代と同じく呼吸作用で、他に宣散粛降作用がある関係で、解剖学敵な肺の位置より上になっているのだろうか。
②前胸部中央<赤色>には心臓・精神関連のツボがある。中医でいう心とは、血液ポンプ+ハート(精神)の作用だった。
③心関連のツボの周囲は<緑色>で、私の分類では区分・部屋・建物といった比喩的なものを示すツボがある。これには心を守る役割もあるのだろう。
大包は、私見であるが脾の大絡として胃泡の診察ポイントであり、胃や横隔膜の動きに関係していると解釈している。
④乳房と乳汁および胃の関連は<ピンク色>で示した。食竇穴は従来は食道と解釈すると位置的に横にありすぎて合理性がないので、私は胃泡を示すものにした。なお乳根穴は文字通り乳房と関係するが、胃の大絡として心尖拍動の診察点ともなる。

      

2.胸部経穴名の由来
巻末に提示した4種の文献を参考にしたが、不満が残ったので※印として自説を示した。

1)胸骨頸切痕ライン
①天突(任) 
胸骨希頚切痕の上に向かう形。
②気舎(胃) 
「舎」=場所。肺(気の出入り)のある場所。
③缺盆(胃)  
缺盆骨=鎖骨のこと。缺盆とは大鎖骨上窩。

2)鎖骨下窩
①璇璣(任)  
北斗七星で、璇(せん)は2番星、璣(き)は3番星で、どちらも美しいという意味がある。北斗七星が北極星を中心に規則正しく回転しているように、本穴も呼吸により上下に規則正しく動く。ちなみに1番星(北極星に最も近い星)の名は「天枢」という。天枢は回転扉の軸部分をいい、天枢を軸として上半身を折り曲げる処とした。扉は開閉により位置を変えるが、軸部分は位置を変えないので、北極星に似ている。

②兪府(腎)   
 a.腎経の走行は肋骨を上行し、最後には、この穴に集結することを示す。
※b.「府」=は集合で肺の宣発作用、「兪」=輸送で肺の粛降作用をいう。すなわち兪府とは肺のもつ宣発粛降作用のこと。
吸気時、体内の水分を一度肺の処まで引き上げ、息はく時に、その水分を内臓全体に、じょうろで水をまくようにする。これはポンプの仕組みと同じ。
③気戸(胃)  
※前胸で、鎖骨と第1肋骨の間の小さな間隙を戸に例えた。気の出入りをする肺の入口。

3)第1肋間
①華蓋(任)
肺は蓮の花の形のようで、天子の頭上にある絹の傘の形(蓋)に似ている。肺は五臓六腑中で最も高い地位にあることを示す。あるいは華蓋=肺そのもの。
②彧中(腎)  
※「彧」=区切り、枠取り。肺と心の区切りのこと。
③庫房(胃)
「庫」は倉庫、「房」は厨房とか工房。その下にある臓器「肺」を収納するための部屋。

4)第2肋間
①紫宮(任)  
天帝が住んでいる星、すなわち北極星を紫微星とよんだ。紫微星とは貴重な星の意味で、心臓の位置にある。
中国皇帝といえば代々黄色(五行色体表の五方すなわち東・西・南・北・中央の中で、中央に相当するのが黄色)を重要視していた。しかし貝からとれる紫染料が非常に希少で高価なことを知ると、紫も重視するようになった。北京にある昔の皇帝の住居(故宮)の別名を紫禁城という。これは一般人が入ることのできない特別な場所との意味がある。
ちなみに聖徳太子が制定した冠位十二階の最高位も紫色だったが、この染料は安価な紫芋によるものだった。無駄な処に金を使わないという賢明なところがある。

②神蔵(腎)  
心に近い紫宮の両側で霊墟の上にあり、神霊(心)を守る。
③屋翳(胃)  
「翳」とは屋根、「翳」は羽でできたひさし。
④周栄(脾)  
「栄」は活力源で栄養素と同じ。全身に栄養素を巡らす。

4)第3肋間
①玉堂(任)  
玉堂=高貴な場所。中国の科挙合格者の中でトップが配属される部門(歴史編纂、皇帝の発言を記録)。
②霊墟(腎)
「墟」は土で盛られた高い山。 仰臥位になると霊墟は前胸部の高い位置になることから。       
秦始皇帝が築いた運河。中国の桂林市興安県に現存。
③膺窓(胃) 
「膺」は胸、「窓」は気と光を通すところ。胸部の閉塞を通すため。
④胸郷(脾)
「郷」は人が集まる村々(=故郷など)のこと。胸郭はタル型をしていて、その側面中央の断面積が最も大きい処になる。
胸の断面積が最も大きい処として胸郷と名づけた。

5)第4肋間
①膻中(任)  
a.両乳間の間を膻という。膻にはヒツジのような生臭い。乳児がいる女性では仰臥位で寝ている時など、乳頭から漏れ出た乳汁がこの部に溜まるので生臭くなることがある。
b.君主(心)の住まいである宮城(心包)の別名。
②神封(腎)  
※「神」=心、「封」=境界線。胸中線の脇で心に近い部。
③乳中(胃)  
乳頭部
④天池(包)   
肋間のくぼみのような池(汗をかくところ)
⑤天渓(脾)  
この場合の「渓」は、乳汁分泌を川に例えている。
⑥輒筋(胆)  
「輒」は荷車の左右の側板をいい、荷崩れしないで多くの荷物を積めるようにしたもの。これが転じて胸横部の前鋸筋をさす。「輒」には耳タブのように軟らかいとの意味がある。これは前鋸筋筋腹の形容になっている。
⑦淵腋(胆)  
 脇の下に隠れる水溜まり。腋下の汗をかきやすい部。
                                   
6)第5肋間
①中庭(任) 
「庭」=宮殿(君主)正面の庭園。膻中(宮殿)の下に位置する。胸骨体下端の陥み(胸骨体下端)で、腹直筋停止部になる。
②歩廊(腎) 
「廊」とは建築用語で、2列の柱を繋ぐために作られた通路(腹直筋停止)のこと。歩道橋が代表的。中庭穴を跨ぐように左右の肋軟骨上に歩廊穴がある。
③乳根(胃)あ
 乳頭の根元。乳根は胃の大絡であり、心拍による左前胸部の上下動を虚里(わずかな振幅)の動ととらえた。
④食竇(脾)  
※「竇」=洞。左食竇は胃泡のこと。胃の中に食物が入る場所との意味。  
従来の説では「食道」と解釈するが、本穴の位置は前正中付近にはない。


7)胸骨弓縁、その他
①極泉(心)  
泉(汗)がわき出る最も高いところ。
②期門(肝) 
十二正経は肺経の中府から始まり、肝経の期門で終わる。一周りしたとの意味。
③日月(胆)   
日月(胆募)の上方5分には期門(肝募)がある。
※「肝胆相照らす」との表現にあるように、両雄とも影響を受け合う存在。期門と日月は影響を受け合うことを示す。
④章門(肝)  
※「章」=ひとまとまり。他の肋骨と異なり、本穴は第11肋骨前端という浮遊肋骨にあることを示す。
⑤京門(胆)
※「京」はみやことの意味の他に、高い丘の意味がある。京門は第12肋骨前端という浮遊肋骨にあることを示す。
⑥大包(脾)   
脾の大絡として、内臓診察点。
※左大包は胃泡を示す(打診で鼓音の存在で調べたのだろう)。その上の横隔膜の動きにも関与。横隔膜は陰である胸部臓腑と陽である腹部臓腑の境界。
⑦鳩尾(任)  
剣状突起が鳩の尾の形に似ていることから。

 

引用文献
①森和監修 王暁明ほか著「経穴マップ」医歯薬
②周春才著 土屋憲明訳「まんが経穴入門」医道の日本社
③ネット:翁鍼灸治療院 HP
④ネット:経穴デジタル辞典  ALL FOR ONE
⑤漢和辞典「漢字源」学研

 

経穴名の由来総覧(上) ア~ソ

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これまで何回か経穴名の由来について書いてきたが、ここでは正穴354穴と若干の奇穴について、五十音順に再整理することにした。今回は前編は、ア~ソまで。
次回は後編でタ~ワまでになる。経穴の由来には、色々な見解があり、今となっては何が正解なのかわからなくなってしまった。ただ、無味乾燥な経穴名を丸暗記するのではなく、古人が考察したであろう自然や社会、物の考え方を空想することは、同じ人間として楽しみの一つであろう。参考資料の一つとして、事典のように御活用ください。
      

ア・イ       

あもん     瘂門(督)  瘂=唖(おし)。声を出せない者のこと。発声するのに要となる部位
いき   譩譆(膀)  譩は「あ~」との発語。譆も「ああ」との感嘆表現。押圧されると嬉しく、ため息が出る部位。
いくちゅう 彧中(腎)
 ①彧は草木がや物事が盛んなさま。 
    ②「彧」=郁。いろどりの意味。この穴は肺の傍にあり、肺を滋養する役割がある。肺の形は蓮花や牡丹根に似ている。
いしゃ  意舎(膀)     脾兪の傍にあり、脾の精神エネルギーを蔵する。
いそう  胃倉(膀)     胃倉は胃兪の横にある。胃は「倉廩の官」と呼ばれる。「胃」は胃袋、「倉」は物は貯えるところ。
いちゅう   委中(膀)    委とは女性が腰をまげ、禾(=稲穂)を拾う様子。腰の治療穴であることを示す。
いどう    維道(胆)    維とは糸でつなぎとめる。みな一緒にとの意味がある。
いゆ     胃兪(膀)    胃の診療に用いる穴
   「兪」は元々は刃物で木を削って丸木舟をつくること。これは余分な木を削る→余分なものを除去することが治療と同じ。
     また丸木舟を叩いて味方に合図を送ること→身体を叩いて診察することが治療と同じ。(柴崎保三)
いよう    委陽(膀)    「委中」の外側(陽側)にある。
いんげき    陰郄(心)    「郄」は骨や筋の隙間。前側内側にあることから陰。
いんこう    陰交(任)    「交」=交わる。任脈・衝脈・腎経の陰経の三脈が交わる穴
いんこく 陰谷(腎)    「陰」=内側。膝の内側の谷間にあるという意味。
いんし       陰市(胃)    「市」=集まること。本穴は陽経に属しているが、下半身の冷え等の陰証に効く。
いんどう  印堂(奇)    眉間中央。「印」は木版、「堂」は場所。昔の人はこの場所に紅点を付けて装った.意思決定の場所でもある。
いんぱく  隠白(脾)     「隠」は隠す。隠れた白い部分。肺気がここに隠れている。
いんぽう  陰包(肝)    「陰」は足の内側のことで、肝経は足の内側に深く潜行する(=包み込む)ことから
いんもん        殷門(膀)    殷=真ん中。大腿中央にある穴。殷は中国大陸最初の王朝。
いんりょうせん   陰陵泉(脾)脛骨の内側顆を陰陵といい、湿気を出すので泉とした。
いんれん  陰廉(肝)    陰部辺縁にある穴。足の内側で「陰」、「廉」は辺縁。股関節内側にあるから。

ウ・エ

うんもん  雲門(肺)    蒸器の上に集まった蒸気=雲にたとえた。蒸し器である体幹内臓の上にある蒸気のある部分のこと。
えいふう  翳風(三)    翳とは、鳥の羽。鳥の羽(耳介の比喩)が風よけとなって隠されている部。
えいめい  翳明(奇)    翳風穴の近くで、視力を良くする効能。
えいん         会陰(任)    外陰部と肛門との間。二つの陰の間にある。
えきもん  液門(三)    三焦経の2番目の穴で、第4中手指節関節の下すなわち指間の近くで手掌に近い手背に本穴はある。
    手掌は汗をかきやすいので、液門あたりまで汗で濡れている。液とは少量の水。   →「中渚」参照   
えそう   会宗(三)   三焦経の脈気が支溝から三陽絡へ行くには、支溝から出たのち必ず本穴に集まり三陽絡へ転入する。「宗」は集まるの意味。
えよう   会陽(膀)    前を会陰、後ろを会陽という。会陰と相対している穴。
えんえき  淵腋(胆)    脇の下に隠れる水溜まり



おうこつ  横骨(腎)    横骨とは恥骨の旧名。骨度法では横骨長は6.5寸となっているので恥骨結節両端間の長さと理解するとはできない
 恥骨上枝の左右外端の間の長さを意味するのだろう。

おくえい  屋翳(胃)   「翳」とは屋根、「翳」は羽でできた大きな扇子。屋翳とは、屋根やひさしに相当する。
おんる   温溜(大)   「温」は温暖なこと、「溜」は流注の意味である。温経散寒の効果がある。



がいかん  外関(三)   腕の外側にある関所。
かいけい     解渓(胃)  窪んだ場所を「谿(渓)」とよび「解」は開放するの意味。足関節の陥凹部にあり、靴ひもをほどく場所にある。
がいりょう    外陵(胃)  「外」は傍ら,突起したところを「陵」という。
 体に力を入れると、腹部に気が集まり、外側にある腹筋が盛り上がる様が陵のようである。
がいきゅう  外丘(胆)   この部の筋は丘のように隆起していることから。
かがい             華蓋(任)  華蓋とは、天子の頭上にある絹の傘。五臓六腑中で最も高い地位(=肺)にあることを示す。あるいは華蓋=肺そのもの。
      

 肺の形は、君主の頭上にある傘に似ている。     

        

 

かくかん    膈関(膀)   膈兪の傍にある、横隔膜の関所。
かくそん    角孫(三)   角とは耳上角、孫ちとは小血管=孫絡のこと。
かくちょう   鶴頂(奇)  膝蓋骨=鶴の頭に似ている。その頂にあるのが鶴頂
かくゆ           膈兪(膀)    横隔膜の診療に使う穴
かつにくもん 滑肉門(胃) 腹直筋上で、下衣を留めている腰ヒモが滑りやすい処。
かりょう       禾髎(大)   「禾」は稲束。「髎」は隙間。
がんえん           頷厭(胆)   「頷」は下顎骨、「厭」とは合わせること。下顎の運動で、この部の動くことを示す。
かんげん        関元(任)   下腹で臍と恥骨間を5寸とした場合、臍下3寸に関元がある。
 丹田は気海・石門・関元あたりを意味する部位で、その代表格が関元となる。丹とは紅と同様な意味で、火が燃えるような生命力のこと。
    道教では身体を三分割し、各部には上丹田・中丹田・下丹田とよばれる要所がある。
 上丹田(別名、泥丸宮)は脳中にあり知性をつかさどる。中丹田は心臓のそばには絳宮(こうきゅう)がある。絳とは深紅の意味で感情の起伏に関与している。
 下丹田は精を養っている部で、精に気が注入されて初めて神(正常な精神)ができる。精の源でもある。
かんこく   陥谷(胃)   「陥」は陥凹、「谷」は山の谷。距骨の間隙で、腱と腱の隙間にある。
かんこつ   完骨(胆)  完骨=乳様突起
かんし    間使(包)   「間」=隙間。「使」=命令を受けて使いをすること。
かんしょう  関衝(三)   「関」=関所、「衝」=要衝。経気がもっとも盛んな処。
かんちょう  環跳(胆)   環は丸いことで股関節回転軸。ジャンプ時に機能する。
かんもん   関門(胃) 「関」は関所、「門」の開閉を管理すること。
    胃と腸の境目で、閉門で食を受けつけず、開門で下痢が止まらない状況の患部になる。時に便秘にもなる。

キ       

きかい    気海(任)    元気、腎の精気が集まるところ。気海・石門・関元の3穴あたりを丹田とよび、生命力の火を示す。→「関元」参照
きけつ    気穴(腎)    腎気が集まるところで、ここに気を凝縮させる。
きこ     気戸(胃)    気は、口から脾・胃へ、鼻から肺へと通じる。本穴は、どちらへも通じるため、気の証に効果がある。
               扉のように開けば気を巡らせ、閉めれば気を蔵する.
きしゃ       気舎(胃)   「舎」とは部位のこと。本穴は気管の近くにあり気の出入りする部。
きしょう   気衝(胃)    鼠径部で、胃経が90度に折れ曲がって流れるところ。気血が衝突する(脈拍は触知しない)。 「衝」とは突き上げる動き。
きもん    箕門(脾)    古代中国で、箕星(みぼし)は南斗六星から柄を除いた四角形の部分。
 箕(米から籾殻を取り除く農器具)の形に似ている。箕を使う姿が、取穴時に膝を曲げて足を外展させた姿に似ている。


前漢時代の箕

きもん            期門(肝)   十二正経の最後のツボ。「期」=一周すること。肺経の中府から始まる気血が十二経すべてを巡り、期門が終点。
きゃくしゅじん 客主人(胆) 頬骨を隔てて主人である下関と対照的な部位。主人と同格の賓客。
きゅうきょ  丘墟(胆)   大きな丘を「墟」という。「丘」=小高い丘。くるぶしの形を墟にたとえた。
きゅうび   鳩尾(任)  剣状突起=鳩の尾の形
きょういん  頭竅陰(胆) 竅は強くひきしまった細い穴の意味。
       足竅陰(胆) 「竅」は強くひきしまった細い穴のこと。人体の穴は九竅ある。
              陽竅=耳孔(二)、目孔(二)、鼻孔(二)、口孔(一)
              陰竅=前陰と後陰(二陰)
     頭竅陰は頭部にあって眼、聾、舌強直、鼻閉、咳逆、口苦などの竅の病を治す。足竅陰は足にあり竅の病を治す。
きょうかん  強間(督)   後頭部の人字縫合にある部。→「顖会」参照
きょうきょう 胸郷(脾)   「郷」は人が集まる村々(=故郷など)。肋骨はタル状をしており、その側面中央が最も太くなる。タルの中身も豊富なので、郷に例えた。
きょうけい  侠渓(胆)   中足骨の狭い間隙にある。狭い渓谷の意味。
きょうしゃ  頬車(胃)  顎関節は車輪のようによく動く。頬にある車輪。
きょうはく  侠白(肺)   侠は挟む。上腕二頭筋の長頭と短頭中に挟まれた部位。
きょくえん     曲垣(小)   「垣」とは塀や垣根のこと。肩甲骨の形が低い塀のように弯曲していることから。
きょくこつ     曲骨(任)   古代、恥骨のことを曲骨とよんだ。→「横骨」参照
きょくさ      曲差(膀)   睛明からここまで一直線ではなく、曲がることを示した
きょくせん  曲泉(肝)  「曲」は屈曲する。「泉」は湧き出る。
きょくせん     極泉(心)  「極」は最上部、最深部。『泉』は水が湧き出る陥凹。わきの一番深いところにあり、心経の最も高い場所にある。
きょくたく  曲沢(包)   曲とは、関節を曲げるところ。関節部にある汗の出やすいところ
きょくち   曲池(大) 「曲」は肘関節の屈曲で、ここに現れる陥凹の形状が浅い池に似ている。
ぎょくちん  玉枕(膀) 玉=頭蓋骨のこと 寝る時にマクラが当たる部位
ぎょくどう     玉堂(任) 玉堂=高貴な場所 中国の科挙合格者の中でトップが配属される部門。歴史編纂、皇帝の発言を記録する役割。
きょくびん  曲鬢(胆) 鬢=額の左右にある髪の生え際のこと。
ぎょさい      魚際(肺)  母指球を魚に例えた。母指球の端にある部位。
きょりょう  居髎(胆)  居とはしゃがむ意味。「髎」は骨の陥凹部。膝を屈してできた陥凹部に取穴することから。
きらい          帰来(胃)  帰来=帰ってくること。病弱で子供が生まれず、実家に帰された女性が、このツボ刺激で元気になり夫の元へ帰れた。  
ぎんこう   齦交(督)  「齦」=歯茎。歯茎と上唇小帯の交わるところ。
きんしゅく  筋縮(督)   両肝兪の中点にあって、肝は筋を主る。痙攣、搐䐞(ちくでき、手足先の小さな痙攣=クローヌス)など、筋の諸症状を治療する。
きんもん   金門(膀)   金のように重要な処の意味。膀胱経の経気が注ぐ門戸。



けいきょ   経渠(肺)   渠=人工の水路。太淵(大きな流れ緩やかな場所)から発して水路を通るの意味。
  渠には明渠と暗渠の区別がある。蓋をした渠を暗渠といい、土地の有効活用のため都市部に多く見られる。

げいこう      迎香(大)   鼻治療の要穴。香り迎え入れるところ。
けいこつ   京骨(膀)   第5中足骨のこと
けいみゃく  ?脈(三)   「?」はひきつけ、痙攣の意味で、「脈」は絡脈の意味。
             耳後浅静脈の上にあり、小児の痙攣やひきつけなどの病症を治すことができるので。
けいもん   京門(胆)  「京」はみやこ。「門」は気血の往来するところ。胃の募穴であり、非常に重要なので京門と名づけられた。
げかん    下関(胃)   要所である顎関節のすぐ下
げかん             下脘(任)  脘=平たく伸ばした干し肉。すなわち腹直筋の上方の穴。
げきもん      郄門(包)   橈骨・尺骨の間である骨の隙間、
げこきょ    下巨虚(胃) 脛骨と腓骨の下の間隙を、大げさに巨大な空虚と捉えた。
けついんゆ   厥陰兪(膀) 心包の診療に用いる穴
けっかい   血海(脾)   女性は血を本とする。本穴は婦人病治療の要穴。
けつぼん   缺盆(胃)   缺盆骨=鎖骨のこと   缺盆とは大鎖骨上窩
げりょう   下髎(膀)   第4外仙骨孔。髎は骨の陥凹。
げれん     下廉(大)   「廉」は丘陵や菱形の角(前腕の菱形の筋肉)を意味。
 肘を曲げて拳を握ると、この部分の筋肉が菱形状に隆起。この菱形の上の角。
けんがいゆ    肩外兪(小)  「肩外」とは肩甲骨外側を示しており、「兪」は気が出入りすること。本穴は肩甲骨外側上縁にあるため。
けんぐう   肩髃(大)  肩甲骨肩峰端を「髃」という。
けんしょう  懸鐘(胆)   「懸」はつり下げる。昔、子供や踊り子が、この部位ぶ鐘の形をした鈴をつり下げていたことから。別名を絶骨。.
けんすう   懸枢(督)   扉の軸のこと。上下の胸椎と腰椎を繋げる役目がある。
けんせい   肩井(胆)   肩の上から缺盆を臨む。井戸のイメージ。
けんちゅうゆ  肩中兪(小)  第7頚椎と第1胸椎棘突起間の外2寸に取る。 肩こり、項強、肩背痛に効く。
 「肩は肩部、「中」は肩井・大椎2穴をつないだ中間の意味。
けんてい   肩貞(小)  「貞」=正確。本穴は腕を上げ下げしても、動かずに正しい位置にあるところから。
けんり    建里(任)  「建」=建ておく、位置する。「里」=居住地、ここでは胃にあたる。胃の通り道の途中に位置することから。
けんろ         懸顱(胆)   「懸」=ぶら下がる。「顱」=頭部。頭から出た髪の毛がぶら下がる部位。
けんり    懸釐(胆)   「懸」=ぶら下がる。「釐」=整える。頭から出た髪の毛を整える。
けんりょう  顴髎(小)  顴=頬骨、?は骨の陥凹
けんりょう  肩髎(三)  肩関節の隙間。「?」=隙間



こうかん   行間(肝)   足拇趾と示指の間にあることから名づけられた。
こうけい   後渓(小)    中手指節関節の後方を意味し、拳を握った時にできる尺側横紋の溝を「渓(谿)」に例えた。督脈との交会穴。
こうこう   膏肓(膀)   膏も肓も身体の脂肪の塊こと。脂肪とは現代でいう横隔膜に 相当。すなわち胸腔と腹腔を分ける部ということ。
ごうこく   合谷(大)   「合」は二つのことが合わさること。筋と筋とが合わさったくぼみ。別名「虎口」=虎の両指が開くと虎の口に似る。
  「谷」は、地表にある細長いくぼ地のこと。渓谷の「渓」のように山の間にあるものではない。
こうさい   孔最(肺)  昔の人はこの孔が「熱病で汗が出ない」のを治すのに最も効果的であると考えた。本穴が肺気を宣通し腠理を開泄する。
こうしん   交信(腎)  ①腎経は脾経の三陰交で交わるという説、②生理周期を月信といい、この経穴が生理不順に有効との説あり。
こうそん   公孫(脾)    脾経の分岐。本穴は脾経の絡穴であることから。
こうめい   光明(胆)    絡穴で肝経に絡む。目疾に効くことから。
こうもん   肓門(膀)   「肓」は肓膜(腸間膜)を指し、「門」は出入りするところという意味。
こうゆ       肓兪(腎)   「肓」=隠れた部分。横隔膜。「兪」=気の集まったくぼみ。衝脈との交会穴でもあり、婦人科系や消化器系に効果あり。
ごうよう   合陽(膀)   膀胱経の第1枝、第2枝はここで合流するとの意味。
こけつ          巨闕(任)   「闕」は宮殿の門。巨大な宮門のこと。肋骨弓の陥凹部。
ここつ       巨骨(大)     昔は鎖骨を巨骨とよんだ。
ごしょ    五処(膀)     膀胱経の5番目の穴
ごすう    五枢(胆)    「五」は五臓、「枢」は枢要。腹部の胆経の真ん中に五枢がある。五臓の気の集まる枢要な部。
ごちょう   後頂(督)    頭頂の後方
こぼう       庫房(胃)    「庫」は倉庫、「房」は厨房とか工房。貯蔵のための小部屋。その下にある臓器「肺」をしまっている所。
ごり     足五里(肝)  「里」=寸、集まることろ、村という意味もある。脾経の箕門の上5寸(=里)からきている。
                  手五里(大)    昔、「里」には「寸」の意味があった。肘を屈曲させ、肘尖から5寸であることから。
こりょう   巨髎(胃)     「巨」は大きい、「髎」は骨の隙間あるいは陥凹。頬骨と上顎骨の隙間にあるため。
こんもん   魂門(膀)     魂(たましい)。目に見えぬ気をつかさどる。
 魂は気をつかさどり死ぬと天にのぼり神となる。形(=肉体)を主どるのは魄。魄は地上に止まって鬼となる。「魄」は白+鬼で、白は骨のこと。鬼は、頭の大きい非人間的なものという理解になる。  こんろん   崑崙(膀)   崑崙山のこと。アキレス腱の高まりを崑崙山に例えた。
 崑崙山は、仙人が住むとさっる中国の西方にある伝説上の山。現在中国にある崑崙山脈とは別物。
                                                      
サ            

さんいんこう 三陰交(脾)  足の山陰経(脾経、腎経、肝経)が交わる処。
さんかん   三間(大)    指の第3関節(MP関節)のこと                 
さんしょうゆ 三焦兪(膀)  三焦の診療に用いる。
さんちく   攅竹(膀)   眉の内端にあるツボ。眉を竹に例えた。攅は「杖」の意味。攅竹には「竹の杖」の意味もある
さんようらく 三陽絡(三) 手の三陽経(大腸経、小腸経、三焦経)が交わる処。
さんり     手三里(大)  肘から3寸離れた部位。人体の長さを道の距離に例えた。「里」は村里、居住地の意味。



しいん    至陰(膀)    本穴は太陽の経脈の気が終るところで、ここで足少陰腎経に交代する。
 つまり陽気がすでに尽き、陰気が起ころうとていることからなづけられた。
しきゅう   紫宮(任)    古代中国では、天帝が住んでいる星、すなわち北極星で、北極星を紫微星(=貴重な星)とよんだ。心臓の位置にある。
    古代中国では五方分類の中央になる黄色が基調で、黄色い服は皇帝以外に着るのを禁止されていた。ある種の巻き貝からとれる紫染料が非常に高価だと知って後からは、紫(貝紫)も非常に貴重な存在に なった。現在、北京には市内中央に故宮(皇帝の住まいの史跡)があり、別名紫禁城とよばれる。ちなみに聖徳太子が定めた冠位十二階の最高位である紫の冠は、紫芋(芋紫)を染料に染めたもので、とくに高価なものではない。つまらぬことに金をかけない聖徳太子は聡明だった。

 

しこう    支溝(三)    「支」は肢に通じ、狭いところを「溝」という。前腕の骨と筋に挟まれたところにあるため。
じごえ    地五会(胆)  五とは五本指のこと。地面に足をつけてしっかり立つ。
じかん    二間(大)    指の第2関節=PIP関節のこと
ししつ    志室(膀)    腎兪の傍にあり、腎の精神エネルギーを蔵する部
しせい    支正(小)   「支正」は経脈の分支。「正」な主体という意味。小腸経は本穴から絡脈の分支が出て心経に連絡する。
しちくくう  絲竹空(三)   絲竹空とは細い竹筒で、眉毛のたとえ
しつかん   膝関(肝)    膝の関節部にあることから名づけられた。
しつがん   膝眼(奇)    膝蓋靱帯の両側にある陥凹を眼に例えた。
じつげつ   日月(胆)   日月で、日(=太陽)は胆、月は肝をさしている。期門と日月は、車の両輪のように協調していること。
 唐の文人、韓愈は、「肝胆相照らす」という成句を残した。徳の高い二人がいて、互いに相手に感化されつつ、心底親密な関係を築くという交友の理想を示してる。
              
しとく    四瀆(三)  
 ①瀆=溝のこと。瀆には、汚濁を海に流すという意味もある。
 ②中国の四大河。長江(下流は揚子江とよばれる)・黄河・淮水(わいすい)・済水。
    三焦経の水流:わずかな水(液門)が池(陽池)となり、やがては大河(四瀆)となるが、やがて流れはなくなり水溜まり(消濼)になる。

しはく     四白(胃)   白=空白。骨の小さな穴。
しまん           四満(腎)  「四」=四隅に広がるい。「満」=みたす。腹部の代表する不調(血・気・食積・水湿脹満)を主治とする。
じもん     耳門(三)  聴力の門。
しゃくたく   尺沢(肺)   沢は水の集まる処。
しゅうえい   周栄(脾)   「周」はすみずみまでという意味。用意周到という熟語がある。「栄」は営と同じ。栄養素の意味。
じゅえ     臑会(三)    上腕は「臑」は上腕、「会」は本穴が交会穴で三焦経と陽維脈の会うところ。 
じゅゆ        臑兪(小)   「臑」は上腕部で肌肉が豊富で骨に付着していない処.「兪」は気が出入りする兪穴の筒の意味。
しよう     至陽(督)   上背部は陽中の陽である。本穴は第7胸椎下で、これより上は陽部に到達する意味を指す。
しょうえい   正営(胆)    「正」は正確。「営」は営気の意味。頭部5穴の真ん中。
しょうかい   照海(腎)   「海」は水が溜まるような凹地。「照」は光り輝く、あるいは広いとの意味がある。
 照海は足の内果下方で、わずかに凹んだ部なので、広い凹みと捉えた
    腎経の流れ:湧泉穴から泉のように水が湧き出る。太谿の処で一つに集まり、大きな渓流となる。
 水の流れは太谿→大鐘→水泉→照海と内果の平らな処をグルリと回った後、再び上行して復溜穴に至る。

  

しょうかい   小海(小)  「小」は小腸経。肘を屈曲した陥凹部(=海)に取るため。
しょうかい   少海(心)   心経の気血流注は、この水合穴で海のように集まる、
じょうかん   上脘(任) 脘=薄くのばした肉のことで、腹直筋の形状の示す。腹直筋の上方。
しょうきゅう  商丘(脾) 「丘」は丘陵。脾の経金穴の金は五音では「商」音。
しょうきゅう  承泣(胃)   泣いた際に涙が垂れる場所
しょうきょく   商曲(腎)    肺とは大腸はともに金に属し、金の音は商。このツボは横行結腸が垂れ下がる処になる。
しょうきん   承筋(膀)   腓腹(ふくらはぎ)のふくらんだ場所。転筋とはこむらがえりのこと。
しょうこう   承光(膀)  天からの光を受け取り、、眼疾患を治す効能がある。
じょうこう   条口(胃)   細長いことを「条」という。出入する場所を口にたとえている。
 本穴の取穴時、患者を椅座位で足底を地面につけた後、足関節を背屈させると、筋肉が陥凹し、一すじの形状を呈する。
じょうこきょ 上巨虚(胃) 脛骨と腓骨の上の間隙を、大げさに巨大な空虚と捉えた。
しょうざん  承山(膀)    左右の腓腹の割れ目で筋に移行する部位。
しょうしょう 少商(肺)   末端は「少」という、「商」は五音の肺に金に属く。
しょうしょう    承漿(任)    漿(液体、この場は唾液)。垂れた唾液を受け止める処。
しょうしょう 少衝(心)    心経の井穴。「井」は水の出るところ。「衝」は突然、水が溢れ出る様な症状に有効。
じょうせい  上星(督)    天空の星を見上げた時に、星に最も近い場所。
しょうたく  少沢(小)  「少」は小と同意で小腸経。小腸経の最初の経穴のため、気血が潤沢にある。
しょうちょうゆ 小腸兪(膀)小腸を診療する処。
しょうふ   少府(心)
 ①「少」は少陰心経。「府」は集まるところ。少陰心経の内 府(内側のこと)の疾患。
    ②.古代中国の秦で初めて設置された官名。税と皇室雑務を管轄した。
しょうふ      承扶(膀)    扶=支える。殿部の重量を支える大腿基部にある穴。
しょうまん  承満(胃) 「承」は受納。「満」は充満。不容穴の下にあり、水穀で満タンという意味。
しょうもん  章門(肝)  「章」は明らかの意。八会穴の臓会で、脾経の募穴なので、脾の栄養を受けている。五臓の疾患を治す効果が明らか。
しょうもん  衝門(脾)   大腿動脈拍動部であるた、え
しょうよう  商陽(大)  「商」は五行では、肺経・大腸経ともに金に属し、肺経の少商が陰経、大腸経の商陽は陽経。
しょうよう  衝陽(胃)  「衝」は動くこと。足背にある足背動脈の拍動部。本穴は陽気の動脈拍動部にある。
じょうりょう 上髎(膀)   第1外仙骨孔
しょうれい  承霊(胆)   「承」は受ける、「霊」は神。のこと。頭頂で通天の傍らにあり、神の思惟活動に関与している。
しょうれき  消濼(三)   「濼」=水たまり。水流が消えて、水たまりになる。
 三焦経の流れ:少しの水(液門)が池(陽池)となり、大河(四瀆)となるが、やがて流れはなくなり水溜まり(消濼)になる。
じょうれん  上廉(大)  「廉」は丘陵や菱形の角(前腕の菱形の筋肉)を意味。肘を曲げて拳を握ると、この部分の筋肉が菱形状に隆起。この菱形の上の角にとる。
しょくとく  食竇(脾)   竇=通り穴。食?は食べ物の通過道であり食道のこと。
しまん    四満(腎)   腎経の腹部における四番目のツボ。?を散らし脹を消す。
じりょう   次髎(膀)    髎=骨の陥凹、2番目の孔
しんえ       顖会(督) 顖=大泉門のこと。小泉門のラムダ縫合は強間穴。

 

じんげい   人迎(胃)  「迎」は動くという意味。頸動脈の拍動を手に感ずる処。
 『素問・三部九侯論』でいう人間の体を上・中・下に分け、三部九侯(天・地・人)で表すと、このツボは人侯になる。
しんけつ   神闕(任)「神」は生命、「闕」は宮中の門。臍からへその緒をつたい、胎児は滋養されるので、臍は神の気の出入り口だとする。
しんちゅう  身柱(督)「身」は体幹、「柱」は支柱。身体の支柱である脊柱をさす。
しんてい   神庭(督) 脳は元神の府であり、「庭」は門庭(前庭)
しんぞう   神蔵(腎) 心に近い紫宮の両側で霊墟の上にあり、神霊(心)を守る。
しんどう   神堂(膀)  心兪の傍にあり、心の精神である神を蔵する部。
しんぽう   神封(腎) 読みは”しんぽう”。「神」=心、「封」=境界線。胸中線の脇で、心に近い部。
しんみゃく  申脈(膀)  申=樹木の果実が熟して固まっていくこと。足外果の直下にあるツボ。外果を果実にたとえた。
しんもん   神門(心)  心経の原穴。古代の心は大脳活動である神に影響している。
しんゆ    心兪(膀)  心の診療に用いる穴 「兪」→胃兪を参照
じんゆ    腎兪(膀)  腎の診療に用いる穴 「兪」→胃兪を参照

ス・セ・ソ

ずい     頭維(胃)  「頭」は頭部、「維」は額の髪と鬢の髪をつなぐこと。頭髪とヒゲをつないでいる部分。
すいこう   水溝(督)   鼻水の通る溝
すいせん   水泉(腎)   水泉は郄穴(経気が深いところにある)。腎は水の臓=水源。水源が深いところで溢れ出てくるという意。
すいどう   水道(胃)   「道」は道路のこと、本穴は膀胱の上部にあり治水をする役目あることから。
すいとつ   水突(胃)   「水」は漿液(食物の漿液)の意味で、「突」は突き出る意味である。
 水を飲み込む時に、ここが大きく上に動く様が気が上衝していくことに(突の状態)たとえられている。
すいぶん   水分(任)    昔、小腸と大腸の間から、不要な水分を腸外に出し、膀胱に至ると考えた。水分を分ける部位の意味。
せいめい   睛明(膀)    睛=ひとみ、くろめ
せいれい   青霊(心)    青は痛みを主る。霊は、病を治すのに霊験あらたか。青霊は、腕や胸、心臓の痛みに効果ある。
せいれいえん 清冷淵(三)  清く冷たい河川水流の緩やかな処。
せきかん   石関(腎)    「関」は物が通らないこと。石のように頑固な疾病を通す効果のある穴。便秘や不妊など。
せきちゅう  脊中(督)    頚椎7椎、胸椎12椎、腰椎5椎の計24椎の脊椎の真ん中に位置しているため。
せきもん   石門(任)    この部が石のように固い女を石女(不妊女性)といった。妊婦の禁針穴。機海・関元とともに丹田の一つ。
せんき        璇璣(任)  
  ①「璇  せん」は北斗七星の二番星、も「璣 き」は北斗七星の三番星。ともに美しいとの意味。
    ちなみに一番星は天枢

 ②回転仕掛けの天文器械。渾天儀(天球上の天体の動きを模した機器)

ぜんこく   前谷(小)  前方の谷間。この前穴の後渓と比較。渓の方が高低差が激しい渓谷。
ぜんちょう  前頂(督)   百会の前側                         
そっこく   率谷(胆)  「率」は寄り添う。「谷」は、ここでは頭骨の縫合をさす。
そっこつ   束骨(膀)   第5趾の基節骨を束骨という。その外側のキワにある穴。
そりょう   素髎(督)  「素」=空白、地のまま。「髎」は骨の陥凹。肺は鼻から開窮することから、鼻先の正中上にあるため。

 

 


      

   

 

 

 

頭部ツボ名の由来

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経穴の学習は大変だが、その中にあって最も難しいのが頭部になるだろう。頭部の経穴は、取穴となる目印が少なく、ツボ名自体も抽象的なものが多い。そこで今回、自分の学習を兼ねて、頭部の経穴の由来を整理してみることにした。ツボ名の由来には合谷、百会、手三里など各人一致した見解をみる穴も多いが、絡却・本神・懸顱・天衝・浮白・承霊など漠然としたイメージにしか浮かばない経穴もあり、こうした経穴の語源はやはり各書で意見が異なっている。結局何が正しいのは今となっては分からいので、最も興味深く印象に残る意見に従った。なかには書物の記述に満足できず、漢和辞典を調べた上、自分の考えを記した部分もある。

 

1.頭顔面経絡の流注概念

①頭顔面には督脈と6本の陽経が集まっている。陽経のうち、ツボが多数存在しているのは、膀胱経・胆経・三焦経それに督脈である。
②膀胱経:後頭部~頭頂部~前頭部(前頭~帽状腱膜~後頭筋)の矢状領域
③胆経:側頭部の側頭筋領域。陽がよく当たる処。
④三焦経:耳と側顔面の頬骨上域支配→老人になると耳遠くなり、頬上部(こめかみ部)がこける。頬上部がこける原因、加齢や栄養不良による側頭部脂肪体の減少。
⑤膀胱経:後頭部~頭頂部~前頭部(前頭~帽状腱膜~後頭筋)の矢状領域
  

2.前頭部~頭頂部のツボ

①神庭(督) 脳は元神の府であり、「庭」は前庭(神社の拝殿に相当すると思う) ※本神穴と呼応している。
②上星(督) 天空の星を見上げた時、星に最も近い場所。
③顖会(督) 顖=大泉門のこと
④前頂(督)  百会のすぐ前にある穴   
⑤百会(督)  多くの経絡が集まる部位。
⑥後頂(督)  百会のすぐ後にある穴
⑦曲差(膀)  「曲」=曲がる、「差」=不揃い。睛明からここまで膀胱経の流れは一直線ではなく、曲がることを示している。      
⑧五処(膀)  五処は承光の前、曲差の後にある。五処の両脇には上星と目窓がある。本穴を含めたこの5穴はどれも眼疾患に効果がある。さら五処は膀
 胱経の5番目の穴である。  ※膀胱経の流注:①睛明→②攅竹→③眉衝→④曲差→⑤五処...
⑨眉衝(膀) 眉頭の上方の髪際にある。眉毛を動かすとこのツボまで、突き上げるような動きがある。
⑩承光(膀) 天からの光を拝受するツボ。目に効くことを示す。 
⑪通天(膀)  天に届くほど高いこと。頭頂部の意味。
⑫絡却(膀) 「絡」は絡脈のことで小さな静脈、「却」は退却。眼の充血を消す効能がある穴。頭頂導出静脈関連?
⑬頭臨泣(胆)太陽経膀胱経最初の穴である睛明と少陽胆経最初の穴(内眼角)である瞳子髎(外眼角)は、ともに泣くと涙が出る処。本穴はこれら2穴
       の上方で、瞳孔線上。
⑭目窓(胆) 「窓」は光を入れる窓のこと。眼疾患を治し、眼の窓(瞳孔)を散大させる。
⑮正営(胆) 「正」=正確、「営」=営(現代でいう血液)。脳が正確に血を動かし全身に栄養を回している処。    
⑯本神(胆)  神庭穴の横にあるのが本穴で、本殿に相当すると思う。奧には脳(=ご神体)の入口に相当する頭維がある。脳は元神の府である。

 

 

 

⑰頭維(胃) 「頭」は頭部、「維」は額の髪とヒゲをつないでいる部分。
⑱強間(督) 後頭部の人字縫合にある部。小泉門部。

3.後頭部のツボ

①瘂門(督)  瘂=唖(おし)。声を出せない者のこと。発声するのに要となる部位
②完骨(胆)  完骨=乳様突起
③玉枕(膀)  玉=頭蓋骨のこと 寝る時にマクラが当たる部位。
④天柱(膀)  天を支える柱。天とは頭蓋骨のこと。頸椎を天柱骨とよぶ。
⑤脳空(胆)  「空」は孔や陥凹。脳戸の横で、外後頭隆起上の陥凹部に挟まれている。
⑥脳戸(督)   出入りする処を「戸」と呼び、脳の気が出入りする場所になる。
⑦風府(督)   風邪があつまるところ。風邪は頭項部を冒しやすい。
⑧風池(胆)   後頸部の陥凹部で風の吹きだまり。
                                                        

4.側頭部のツボ

①翳風(三)    翳とは、鳥の羽。鳥の羽により風よけとなっている部位。
②角孫(三)    角とは耳上角、孫とは小血管=孫絡のこと。
③頷厭(胆)  「頷」は頭を下げてうなづく。「厭」とはいやになる。頸が回らなかったり、うなづくことができないなどの症状を治す。
④頭竅陰(胆) 竅は強くひきしまった細い穴の意味。頭竅陰は頭部にあって眼、聾、舌強直、鼻閉、咳逆、口苦などの「竅」の病を治す。
 ちなみに足竅陰穴は足にあり竅の病を治す。
 ※人体の九竅:陽竅=耳孔(二)、目孔(二)、鼻孔(二)、口孔(一) 陰竅=前陰と後陰(二)
⑤曲鬢(胆)「鬢」=額の左右にある髪の生え際のこと。
⑥瘈脈(三)「瘈」はひきつけ、痙攣の意味で、「脈」は絡脈の意味。耳後浅静脈の上にあり、小児の痙攣やひきつけなどの病症を治す。
⑦顱息(三)「顱」=頭部。横向きに休息する際は、この部がマクラに当たる。
⑧懸顱(胆)「懸」=ぶら下がる。「顱」=頭部。側頭から出た髪毛がぶら下がる部位。
⑨懸釐(胆) 「懸」=ぶら下がる。「釐」=整える。側頭から出た髪毛を整える。
⑩承霊(胆)「承」は受ける、「霊」は神。本穴は頭の最も高い場所である「通天」の傍らにあり、神の思惟活動に関与している。
⑪率谷(胆)「率」は寄り添う。「谷」とはここでは側頭骨の縫合をさす。
⑫天衝(胆)「天」は頭頂にある百会穴のこと。「衝」はつきぬける。本穴は百会へとつきぬける道としての役割がある。
⑬浮白(胆)    脈気が軽く浮いて上昇し、天衝を経て、頭頂の百会に到る処。白は百に通じることから。
      
     
     

引用文献
①森和監修 王暁明ほか著「経穴マップ」医歯薬
②周春才著 土屋憲明訳「まんが経穴入門」医道の日本社
③ネット:翁鍼灸治療院 HP
④ネット:経穴デジタル辞典  ALL FOR ONE

 

 

 

 

 

 

 

 

経穴名の由来総覧(下)タ~ワ   

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前編は、ア~ソまでの経穴名の由来を整理した。ひきつづき、今回は後編としてタ~ワまでの経穴名の由来を整理する。



たいいつ   太乙(胃)
    ①.太一も同じ意味。北極星のこと。中国の古代思想で、天地・万物の生じる根源。
    ②「乙」=二番目という意味の他に、つかえて曲がって止まるとの意味がある。道なりに歩いていて途中で急に曲がる。これは大腸の走行を示している。
  漢方薬の乙字湯はわが国で考案された便秘の治療薬。
たいえん   太淵(肺)   淵=河川の流れが緩やかで深い場所。ここから渠(人工的な水路)が始めることも多い。  →「経渠」参照 
 肺経の流れ:沢の水(尺沢)から流れ出て、途中一部は支流(列缺)になって分岐する。本流は人工の水路(経渠)に入り、最後は流れがゆるやかになって大きく深い淵(太淵)に至る。
だいおう   大横(脾)   神闕から大きく離れた部位。
だいかく   大赫(腎)    赫=輝く、火が燃える。本穴の内部には子宮があって妊娠すると、この部が突出して見やすくなる。
たいけい   太渓(腎)    内踝の大きなくぼみ。湧泉から流れ出た腎気の流れがここで一つに集まり、大きな渓流となり、海へ注ぐ。
だいげい   大迎(胃)   大迎骨(下顎骨)と承泣穴と頭維穴からのびる2本の経脈が、このツボのところで迎合している。
だいこ    大巨(胃)  腹部で最も高く、大きく隆起した腹直筋部分

だいじょ   大杼(膀)   織機の、横糸の間に縦糸を通すのに使われる道具を「杼」という。脊椎の両側に伸びる横突起の形が杼に似ている。
 第7頸椎は最も大きい椎体なので大杼とした。

 

たいしょう  太衝(肝) 「太」は大きい、「衝」は要衝のこと。肝経の原穴であるから、旺盛な気血が巡る穴なので太衝と呼ぶ。
だいしょう  大鐘(腎)   踵骨を後からみると鐘のような形をしていることから。
だいちょうゆ 大腸兪(膀)  大腸の診療に用いる。
だいつい   大椎(督)    第7頸椎(隆椎)が隆起して大きいとの意味
だいと    大都(脾)    「大」は広い。「都」は集まるところ。諸病は広く大きいとこに集まる意味。
だいとん   大敦(肝)  「敦」は大きい、分厚いこと。拇趾の形を敦に例えた。
たいはく   太白(脾)
 ①古代中国の金星、とくに宵の明星。太陽、月に続く3番目に明るい星として認識されていた。その光が白銀を思わせるところから太白と呼んだ。
    ②中国には太白山と名のついた山が多数あるが、西安(長安)の西の宝鶏市にも太白山がある。この太白山は西安から見て宵の明星(金星)で、
  すなわち太白星がその山上に輝く位置、そして沈む位置にあることから命名。
 ③太白金星のこと。中国伝統神話に登場する白髪の老人で金星の神様。中国の民族宗教と道教の神。天界と地上との伝令役で、孫悟空を天界に案内した。

たいほう   大包(脾)  包はまとめるの意味。本穴が脾の大絡で、諸経をまとめることを意味。
たいみゃく  帯脈(胆)  腰に巻く帯の場所。
たいよう   太陽(奇)  最も日差しが強く当たる部位。頭部には髪があるで日差しから守られているので、とくにコメカミを太陽と名づけた。
だいりょう  大陵(包)  月状骨の隆起を、大きな丘陵にたとえた。
だたん          兌端(督) 本穴は上唇の上端正中にある。「兌」は変わるの意味で、外皮と粘膜の間の意味。その境界部であるため兌端と名づけた。
だんちゅう     膻中(任)  古来、両乳間の間を膻という。「膻」にはヒツジのような生臭い においのこと。別名、上気海、上丹田
 婦人が、寝ている時など母乳が漏れ出て、膻中あたりにたまり、ヒツジのようなにおいがする。 
たんゆ    胆兪(膀)  胆の診療に用いる穴
                         


ちき   地機(脾)
 ①本穴には女性の月経不順や精血不足、生殖能力の低下などの症状を改善する。その働きが大地に万物の生命が復活するようなので。
 ②原始的な織機を地機(じばた)とよぶ。地面に杭を立て、そこに糸を引っかけて編んだ。やがて高機(たかはた)に進化した。
  杭は、ヒラメ筋起始部が脛骨に付着している「地機穴」になる。

ちくひん   築賓(腎)  迎賓館をつくり来賓を待つという意味。「賓」とは主人と並ぶ大切な来客。来客に当たるのが、腓腹筋・ヒラメ筋(もしくはアキレス腱)。その境目に属す。
ちそう    地倉(胃)  倉=穀物の貯蔵庫。人は「地」から五味を得て、口から食べて胃の中におさめる。
ちっぺん   秩辺(膀)   「秩」は順序。「辺」は側とか遠いという意味。本穴は背部穴は秩序正しく並んでいる第二行線の最下部に位置するため。
ちゅうきょく 中極(任)   恥骨の上縁の湾曲したところにあるから
ちゅうかん  中脘(任) ①脘=平たく伸ばした干し肉。すなわち腹直筋の中央の穴。
             ②胃の中央、小湾部
ちゅうしょ  中渚(三)  三焦経で液門穴の次に中渚がある。「液」は少量の水、「渚」は波打ち際。
 波に濡れる時と乾いた時がある境界部分であり、液門に比べると乾いている。
ちゅうしょう 中衝(包)  中指動脈の拍動部。「中」=中指、「衝」=要衝、重要な場所。心包経の気血は、中衝から、流れ込むから。
ちゅうすう  中枢(胃)  「天」は上部を指し、「枢」は枢軸・要の意味。臍の傍にあり、臍を境に天と地(上半身・下半身)の境目の要所。
ちゅうちゅう 中注(腎)  この内側には胞宮や精巣があり、腎気が集まるところで、ここから胞中(子宮)へ注がれるから。
ちゅうてい  中庭(任) 「庭」=宮殿(君主)の庭園。膻中(宮殿)の下に位置する。胸郭は庭園で膻中は宮殿真下にある中庭。
ちゅうと   中都(肝)  『中』は中央、『都』は集合する意味。気血がここに集まる。
ちゅうとく  中瀆(胆)  せまい水道のことを「瀆」という。腸脛靱帯と大腿二頭筋との間にできる溝を狭い排水路である瀆に例えた。
ちゅうふ   中府(肺)  「府」は圧痛なる、肺経の気はここから体表に現れる。
ちゅうふう  中封(肝)   「中」は真ん中、「封」は封鎖される。長母指伸筋と前脛骨筋に挟まれた中央。
ちゅうりょう 肘髎(大)  「髎」は骨の突起の近くにある陥凹、あるいは間隙を指す。肘関節の外側陥凹にある。
ちゅうりょう 中髎(膀)    第3後仙骨孔の穴
ちゅうりょゆ 中膂兪(膀) 「膂」とは背中の左右の筋群。膂骨とは背骨。膂力は背中の筋肉の力で、腕力は腕の筋肉の力。
ちょうえ      聴会(胆)    「会」は集まる。本穴は耳聾や気閉を治し、音が集まり、聴覚が戻るという意味。
ちょうきゅう 聴宮(小)    聴力にとって要となる場所
ちょうきょう 長強(督)    脊柱は長く強い骨。督脈は全身の陽気が集まりその気は強く盛んであるため
ちょうきん  輒筋(胆)   「輒」(ちょう)は荷車の側板のこと。並んだ板が肋骨に似ている。「輒」んみは耳朶のように軟らかいとする意味がある。
 これは側胸部の前鋸筋の筋腹が、耳朶のように軟らかく丸い形に見えることから連想されている。
 
      

   

  ツ

つうこく   足通谷(膀)   通りすぎることを「通」、陥凹を「谷」という。足の経気が通りすぎるところのため名づけられた。経気が腎経の然谷に向かうところ。
       腹通谷(腎)    黄帝内経に『谷の道は脾を通ず』とある。水穀(飲食物)を上から下へ流す穴という意味。
つうてん   通天(膀)    頭頂部の意味。
つうり    通里(心)    絡穴。心経の気血の流れはここで裏まで通り、太陽経小腸 経に絡む。



てんけい   天渓(脾)   この場合の「渓」は乳汁分泌を川に例えている。
てんしょう  天衝(胆)   「天」は頭頂にある百会穴のこと。「衝」は通ずる道のこと。 本穴は百会へ通ずる道の役割を持つ。
てんすう      天枢(胃)  
 ①北斗七星の第一星  →「璇璣」参照
 ②上半身と下半身は、この軸枢を境にして分ける。「枢」は蝶番が発明される以前は、回転扉の回転軸のことだった。

てんせい   天井(三)    「天」=上半身。「井」=陥凹。本穴は肘の後ろで肘を屈曲したときにできる陥凹部にあり、経気が深部に集まるところ。
てんせん      天泉(包)   肋間に溜まった池の水(天池)が、上腕二頭筋筋溝(天泉)に流入する部。
てんそう   天宗(小)   「天」は上部、「宗」は中心。肩甲骨の中心にあることから名づけられた。
てんそう   天窓(小)   「天」は頭を指し、「窓」を穴。頭部にある七つの竅(耳・眼・鼻・口)。七竅の疾患を治すため。窓を開け気の通りをよくする穴。
てんち       天池(包)   
 ①天池との地名は多数あるが、代表的なのは、中国と北朝鮮の国境にある白頭山にある池のこと。
    ②肋間のくぼみのような池。
てんちゅう  天柱(膀)   天を支える柱。天とは頭蓋骨のこと。頸椎を天柱骨とよぶ。
てんてい   天鼎(大)  鼎とは三つの脚と二つの耳をもった煮炊き用食器。三脚とは左右の胸鎖乳突筋と後頸部筋。耳は取っ手の部分。
てんとつ      天突(任)   胸骨頚切痕の上に向かう形状より
てんぷ       天府(肺)  
 ①天は上部の意味で気が肺の上部に集まること。 
    ②天から与えられた肥沃な土地。成都のこと。
てんゆう   天牖(三)  「天」は人体の上部を指し、ここでは頭項部のことである。
 「牖」は窓口で、頭部に竅があるという意味である。このツボが主に頭風、耳竅などの病変を治す。
てんよう      天容(小)   「天」=頭部、「容」=引き入れる・受け入れる。頭頚部の疾患に有効なため。
てんりょう  天髎(三)   肩甲骨上角の隙間。「髎」は隙間このこと。



どうしりょう 瞳子髎(胆)「瞳子」=瞳孔。「髎」は骨の隙間。眼窩との隙間。
とうどう   陶道(督)  かまどで陶器をつくる火の通路のこと。解熱の要穴。
とくび    犢鼻(胃)  犢=仔牛。膝蓋靱帯を仔牛の鼻に例えた。ちなみに仔牛の両目は、内膝眼と外膝眼になる。


ナ行

ないかん   内関(包)  腕の内側にある関所。
ないてい   内庭(胃) 「内」=深部、「庭」=居住地。遠く離れた頭部・心部・腹部などの疾患を治す。その作用は表より内や裏にあることから。
にゅうこん  乳根(胃)  乳頭の根元
にゅうちゅう 乳中(胃) 乳頭部
ねんこく   然谷(腎)   然骨とは舟状骨のこと。
のうくう   脳空(胆)  「空」は孔や陥凹。本穴は脳戸の横で、後頭骨下部の陥凹部に挟まれている。
のうこ       脳戸(督)   出入りする処を「戸」と呼ぶ。脳の気が出入りする場所。



はいゆ    肺兪(膀)  肺の診療に用いる穴
はくこ    魄戸(膀)  肺兪の傍にあり肺は魄を蔵する。死ぬと呼吸をしなくなる(気が動かない)ので、魄も消滅する。
 魄の解字は白+鬼で、魂(=気)を失った白骨死体をさす。戸は門(中に入るのを防ぐ)で、この場合の骨とはとくに肋骨を示す。
はっかんゆ  白環兪(膀)「白」は白色、「環」は金や玉の貴重品。女性の帯下や男性の精液は白色なので、人体の性を蔵するところ。




ひかん     髀関(胃)  「髀」は大腿骨上部をさす。関は関節の意味。
ひじゅ    臂臑(大)  「臂」は上腕部。「臑」は柔らかい肉で、三角筋と上腕三頭筋の間をさす。
ひゃくえ   百会(督)   多数の経絡が会する場所。
びしょう   眉衝(膀) 眉毛を動かすとこのツボまで、突き上げるような動きがある。
ひゆ     脾兪(膀)   脾の診療に用いる穴
ひよう    飛陽(膀)   膀胱経は、ここで絡脈が分かれ、絡脈は腎経へ行く。



ふうふ      風府(督)   風邪があつまるところ。風邪は頭項部を冒しやすい。
ふうち    風池(胆)   後頸部の陥凹部で風の吹きだまり
ふうもん   風門(膀)   風邪が侵入する門
ふくあい   腹哀(脾)  「哀」は泣き叫ぶこと。腹の音が悲鳴のように聞こえること。
ふっけつ   腹結(脾)   腹気すなわち腸の蠕動を調整する。腹の脹満を治する。
ふくと    伏兎(胃)   ウサギが丸まって伏せている形
ふくりゅう  復溜(腎)   水の流れは太谿→大鐘→水泉→照海と、内果下の平らな処を一回りした後、再びここへと上行する。
ふげき    浮郄(膀)  「浮」は上下に漂っている状態。「郄」は孔や陥凹をさす。委陽穴の上の陥凹部にあるため。
ふしゃ    府舎(脾)  「府」は腑と同じ。「舎」は部位。六腑の治療に関係する。
ふとつ    扶突(大)   一扶とは四本指を並べた幅(3寸)のこと。突とは喉頭隆起のこと。喉頭隆起の横にある鎖骨から3寸上にある穴。
ふはく    浮白(胆)   脈気が軽く浮いて上昇することを指す。「白」は昔から「百」に通ずる。脈気が天衝を経て、頭頂の百会に到る。
ふぶん    附分(膀)   「大杼」穴から分かれて支脈となり本経と並走する。
ふよう    不容(胃)   胃の噴門にある。本穴の高さまで食物が達したらそれ以上は受容不可能(受容能力の限界)との意味、
ふよう    跗陽(膀)   「跗」は足背のこと。足背にある陽のツボ。

ヘ・ホ

へいふう  秉風(小)     禾は稲束、秉は稲束を手にもつこと。稲束を背中に背負い、風をさえぎる。風邪をさえぎっている。

へんれき  偏歴(大)    「偏」は斜め、「歴」は通過を意味。大腸経の絡穴で、ここから分かれて肺経に向かって斜めに走ること。
ほうこう  胞肓(膀)    「胞」は子宮、「盲」はあぶらみの膜。子宮内膜 のこと。
ぼうこうゆ 膀胱兪(膀)  膀胱の診療に用いる穴
ほうりゅう 豊隆(胃)    下腿前面の筋が豊かに隆起した部位。
ぼくしん  僕参(膀)    僕=自分をへりくだった名称。昔、しもべの者がご主人に挨拶するとき、膝を屈し指先をこの部までもっていった。
ほろう         歩廊(腎)     建築用語で、二列の柱を繋ぐための通路・回廊のこと。「中庭穴」を跨ぐように歩廊がある。歩廊により腹直筋停止が連結している。 

          

   

歩廊の一例

ほんじん  本神(胆)     脳は人の根本で、元神の府である。本穴は前頭部で、神庭穴の横にあり、その内部には脳がある.。
 神社の建物でいえば、神庭は拝殿、本神は本殿、その先には脳(=御神体)へ通ずる頭維がある。

メ・モ・ユ 

めいもん  命門(督)    臍帯は胎児に栄養と酸素を送る、いわば生命のよりどころ。その裏側になるので、命の門と名づけた。
もくそう  目窓(胆)    「目」は眼、「窓」は光を入れる窓のこと。眼疾患を治し、眼の窓(瞳孔)を散大させる。
ゆうせん  湧泉(腎)     足底にあり。足の腎経の気血が沸いてくる部。
ゆうもん  幽門(腎)    「幽」はかくされたものを指し、「門」は門戸を指す。胃の上部を指している。腹から胸に経気が流れるため。
              解剖学の胃の下門とは無関係。
ゆふ    兪府(腎)     「兪」は輸送する。「府」は集まるところ。腎気が足から胸へ運ばれ、最後にここに集結するから。

ようかん     腰陽関(督)  足陽関と区別する必要から腰陽関とした。陽気の関所。
      足陽関(胆)  「陽」は膝外側(陽側)、「関」は関節を指す。

ようけい  陽渓(大)  「陽」は陽経の意。「谿」は山に挟まれた溝、肉の小会するところ。
    手首を曲げるときに現れる陥凹部が山間の谷に似て いるため。また、この経穴は大腸経の経火穴である。
ようこう  陽交(胆)   胆経と陽維脈の交会穴であることから。
ようこう  陽綱(膀)  「綱」は統括すること。本穴は膀胱経に属し、胆兪の横にあり、胃兪・三焦兪・大腸兪・小腸兪・膀胱兪の上にある。
 六腑は陽であり、本穴はその最上位にあって、他の陽を統括している。
ようこく  陽谷(小)  「陽」は陰陽の陽の意味で、「谷」は陥凹。尺骨頭と三角骨の間の陥凹部にあり、形が谷のようであることから名づけられた。

ようそう  膺窓(胃) 「膺」は胸、「窓」は気と光を通すところの意味であり、胸部の閉塞を通すため。
ようち   陽池(三)   手関節背面を背屈してできる中央の陥凹を池にたとえた。
ようはく  陽白(胆)   前額部にある。日の当たる小さな孔。白=小孔
ようほ   陽輔(胆)   古代、腓骨を外輔骨と呼んだことから。
ようゆ        腰兪(督)  「兪」は輸送の意味。腰の脈気がここから転輸されるため。
ようりょうせん 陽陵泉(胆)「陽」は外側、「陵」は腓骨頭、「泉」はその下方の陥凹
ようろう  養老(小)  「養」は有益の意味で、老化に対して有効であることから。

ラ行

らっきゃく     絡却(膀)   絡とは脳に絡む。却は再び体表の本経に戻るの意味
りょうきゅう    梁丘(胃)    土地の高いところを丘、丘の上の背部分を梁と称した。
りょうもん     梁門(胃)   「梁」=柱のハリ。上腹部に現れる横梁のような硬いもの。腹直筋の腱画部にあるため。
りんきゅう        頭臨泣(胆) 「泣」=声を上げずに泣くこと。人は泣く寸前に鼻腔から前頭部にかけて涙があふれてくる。この上腋(=涙)の道を鼻水と涙が下るところ。
              「臨」は下に対して上に含まれるという意味。
りんきゅう        頭臨泣(胆)  痛みが甚しい時、涙が反射的 に出る処。
れいきょ      霊墟(腎)   ①「墟」は土で盛られた高い山。 霊墟は前胸部の高いところにあり、心神と関係している。
             ②秦始皇帝が築いた運河。現在の中国の桂林市興安県に現存。
れいこう     蠡溝(肝)    蠡=虫が食べた孔。脛骨の凹みをそのように例えた。
れいだ      厲兌(胃)    「厲」は疫病、疾病のことだが、ここでは胃の激しい症状をいう。「兌」は門戸だが、ここでは口をさす。
                             口がゆがむなどの症状を治すのに使われる。
れいだい   霊台(督)  「霊」は心霊、「台」は高く平らな地域。物見台のこと。
              この穴位の前面は心臓であり、心臓疾患を治療する。
れいどう   霊道(心)    心は神を蔵し神が変化して、霊となる。「霊」は精神、「道」は通路。
れっけつ   列缺(肺)    肺経の列から分かれて欠けるの意味。
れんせん     廉泉(任)    廉はすだれ。舌骨につく筋肉をすだれに例えた。舌下腺の
ろうきゅう  労宮(包)   
 ①「宮」は手掌中央。道具を握ると中指先がここに当たる。
 ②手を酷使する労働で出現する反応点
ろうこく   漏谷(脾)  「漏」はにじみ出る、「谷」はくぼみ」。脛骨の後ろのくぼみにあり、利尿作用があることを示す。
ろそく    顱息(三) 「顱」は頭、「息」は休息。頭を休めるツボ



わりょう   和髎(三)     聴力を調和させる骨の陥凹。
わんこつ   腕骨(小)   「腕骨」とは尺骨茎状突起の旧名称。

 

引用文献
①森和監修:王暁明ほか著「経穴マップ」医歯薬
②周春才著:土屋憲明訳「まんが経穴入門」医道の日本社
③ネット:翁鍼灸治療院 HP
④ネット:経穴デジタル辞典  ALL FOR ONE
⑤漢和辞典「漢字源」学研

柳谷素霊著「秘法一本鍼伝書」五臓六腑の鍼の解説 ver.3.0

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 柳谷素霊著、秘法一本鍼伝書の中に「五臓六腑の鍼」がある。2022年6月26日の当ブログ<いわゆる胃に響かせる刺針目標と技法 ver.2.0>で、この検討したが、その後に新たな知見もあったので、これを削除し、書き改めることにした。なお次の内容は、針灸奮起の会 内科症状、<第1回 上・中腹部消化器症状の現代針灸>で示したものになる。

1.柳谷素霊「五臓六腑の鍼」の概説
  実際の記事を表に整理すると次のようになる。五臓六腑の鍼とは、膈兪、脾兪、腎兪の3種類をいう。各穴は、標準部位である棘突起下外方1.5寸ではなく、外方1寸としていることは、臨床的に重要な意味をもっている。さらに理解を助けるため、本内容を図示してみた。

 

 

 

2.横隔膜の神経支配

横隔膜中心部の神経支配はC3~C4、横隔膜辺縁部の神経支配はT7~T12肋間神経である。五臓六腑の針における響きを理解するには、横隔膜辺縁部の神経を興奮させることにあるらしい。

 

内臓は自律神経支配なので、針で響きを与えることはできないが、内臓を支配する体性神経神経は、横隔神経と陰部神経の2つあって、これが内臓症状に対する針灸治療の可能性を追求する部分になっている。仮にこれらの体性神経支配が無くなったとすれば、1~2分間呼吸を止めて我慢することができず、洗顔もできなくなり。排尿排便も我慢できず、室内は排尿物だらけになる。


3.一本鍼伝書で説明されている経穴

1)膈兪の針と脾兪の一本針

①外方1寸とする意義
一本鍼伝書の膈兪はTh7棘突起下外方1寸に、脾兪はTh11棘突起下外方1寸にとる。気胸予防だけでなく、このあたりが筋膜の重積部であると同時に筋膜癒着症状を起こしやすい部位になるからである。

②深部にある筋層を刺激する方法
気胸を避けるため、棘突起方向に向けて直刺する。1寸ほど刺入すると硬い筋膜にぶつかる。
硬い筋膜に針先が命中しても、ただちに響くことは少ない、。5~10秒間雀啄を続けているうちに、波紋のように響きが拡大する。響きの強弱は、雀啄の上下同の振幅で調整できる。細かな上下の雀啄の方が刺激が軟らかくなるなる。
なお1寸ほど直刺して硬い筋膜にぶつからない場合、響かせることはできないので、刺針部位を少しずらして再試行してみる。

③増強法
この技術は、少々難易度が高いので、経験の浅い者は、腹臥位ではなく座位で起立筋を緊張させた体位で、使用針も1~2番ではなく、5番程度を使い、響きを与えやすい条件で行うとよい。
膈兪・脾兪の針刺激→T7~T12肋間神経刺激→横隔膜辺縁部の響き(内臓に響いたような感覚)刺激との機序になる。


2)腎兪の一本針

横隔神経はTh7~Th12なので、腎兪から横隔神経を狙うのは難しいように思える。しかし腎兪レベルの椎体前面には横隔膜脚が付着しているので、この組織に影響を与えれば理論的には横隔神経に響かせることが可能かもしれない。石川太刀雄は、腎兪あたりに硬結が生ずる。小ささな硬結なので見逃されることも多いと「内臓体壁反射」で記している。ただし横隔膜脚は椎体前面に付着しているので、この部への刺針は非常な深刺となり、他の組織に与えるダメージが危惧される。
確かに、柳谷は、腎兪の刺針深度を、寸6~4寸と幅をもたせて示しているが、4寸針を使えば横隔膜脚への直接刺針は可能なのかもしれない。
柳谷は、膈兪や脾兪と異なって腎兪の響く部位を明記していない。また膈兪や脾兪が正座位で施術するのに対し、腎兪は長座位(膝を伸ばした座位)で刺針するとしている。長座位にするのは、腸腰筋を緊張させて刺針刺激に反応しやすくするためではないだろうかとも思う。

腸腰筋刺針ということならば、側腹位で起立筋と腰方形筋の筋溝から横突起方向に刺入した方が技術的に容易なものとなるだろう。これは胸腰筋膜刺激中葉刺激となる。これは膀胱経3行線上(棘突起外方3寸)となる。これについては稿を改めて解説したい。


4.膈兪・肝兪・脾兪から心窩部~胃に響かせる針(森秀太郎)

内臓に響かせる針は、森秀太郎「はり入門」医道の日本社刊にもあり、柳谷と同じようなる内容のことを記してる。以下に該当部を抜粋する。

膈兪以上の高さの背部兪穴は正座させて取穴刺針し、肝兪以下の高さの背部兪穴は、伏臥位で取穴刺針している。胃部の痛みがはななだしいときは、背を丸めて膈兪・肝兪・脾兪などの経穴で圧痛のはなはだしいものを選び、刺針し雀啄法を行う。内側に向けてやや深く刺入すると心窩部に響き、胸がすいてくる。(以下略)
胃部に突然急激な痛みが起こり、しばらくしていると一時楽になるが、また痛くなるのを一般に痙攣性胃痛という。胆石疝痛、胃炎、胃潰瘍、回虫症などがあって原因はさまざまだが、(中略)まずは痛みを止めることが先決である。
止める方法は急性胃炎の場合とよく似ているが、脊柱の両側とくに膈兪、肝兪・脾兪などの経穴で圧痛の顕著なところを選び、5~6号のやや太い豪針で胃部に響くような雀啄法をしていると痛みが和らいでくる。

外縫線と胃倉・魂門・外志室

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最近、外縫線という言葉を学習した。この外縫線が膀胱経二行線(棘突起外方3寸)が関係あるように思えた。中背部~腰部の膀胱経二行線は鍼灸治療の刺針点として多用される理由も、このあたりにありそうだ。なお本ブログは、第8期、鍼灸奮起の会、第1回「上中腹部消化器症状」で紹介した内容である。

1.腹筋の構造
 
体幹側面には、外・内腹斜と腹横の4種の腹筋があり、これが腰部にある腰方形筋へと腱で結合している。
前壁→腹直筋               
側壁→内・外腹斜筋と腹横筋 
後壁→腰方形筋        

これらの腹筋群は、腰部の胸腰筋膜に連結している。腰部の脊柱起立筋(棘筋・最長筋・腸肋筋)は胸腰筋膜の浅葉と中葉で包まれている。これらの胸腰筋膜と腹筋群はさらに腱で連結されている。この腱結合部を外縫線とよぶ。なお棘筋は頚棘筋と胸棘筋に細分化されるが腰部に棘筋はないので、上図では描かれていない。外縫線部は多くの筋が結合していて筋膜癒着(=重積)が起こりやすく、痛みを  生じやすい。


2.胃倉刺針
   
代田文誌は、胃倉が胃痙攣(現在の胆嚢症)の痛みを頓挫する名灸穴としている。
位置:側臥位。Th12棘突起下外方3寸または胃兪の外方1.5寸。腰方形筋が第1浮肋骨に付着する部。
刺針:側臥位で第12肋骨端下方、圧痛点を触知。2寸~2.5寸#4で腰仙筋膜深葉中に刺入。中背部全体に広範囲に心地よく響くように、ゆったりした雀啄手技を続ける。 

3.魂門刺針
Th9棘突起下に筋縮をとり、その外方3寸。刺針要領は胃倉と同じ。
 
4.外志室刺針

位置:側臥位。Th12棘突起下外方で、起立筋と腰方形筋の筋溝
刺針:3寸#8を使用。横突起方向に深刺すると胸腰筋膜中葉に入る。深部には腰神経叢から出る神経枝     が多数ある。大腿外側痛には外側大腿皮神経を刺激し、陰部痛には陰部大腿神経を刺激し、大腿前面痛には大腿神経を刺激し、大腿内側には閉鎖神経を刺激する。患者の訴える症状部位は閾値が低くなっているので、患者の感覚としては症状部位に自然に響いてくれるように感じる。

肋間神経痛の針灸治療 ver.3.0

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本ブログ内容は、奮起の会「内科症状」第3回、令和5年11月5日実施予定、胸部症状の現代針灸で行われる内容の一部になります。

1.肋間神経痛の原因

特発性は比較的若い女性に多く、左側の第5~第9肋間領域に多い。成書には、特発性は少なく大部分は症候性であると記されているものが多いが、針灸に来院する患者の大部分は特発性であり、帯状疱疹による肋間神経痛も来院する。


2.肋間神経の走行と神経支配

①第1~第6肋間神経
肋間を胸骨縁に向かって走行し、前胸の肋骨に相当する部の肋間部の筋運動と、深部知覚を支配する。その皮枝は前胸壁皮膚知覚を支配する。皮枝には外側皮枝の外側枝と内側枝、皮枝の外側枝と内側枝がある。
②第7~第12肋間神経
途中までは肋間部を走行するが、腋窩線あたりから内腹斜筋と腹横筋の間を走行し、腹白線に至る。腹壁筋の運動と深部知覚を支配する。その皮枝は鼡径部を除く腹壁の知覚を支配する。要するに腹部の大半は肋間神経支配になる。
 


3.旧来の針灸治療法
   
特発性(原因不明)の肋間神経痛は、これまで神経の刺激によるものと考えられていた。そして神経が深層から表層に出る部が治療点だとされていることから、脊柱点・外側点(側胸点)・前胸点を取穴するのが定石だった。まあこの治療点を刺激しても大した効果は得られず、ゆっくりと改善するのが常だった。これでは自然治癒なのか鍼灸の効果なのか判然とせず、悔いの残る治療となることも多々あった。
  
①脊柱点:脊柱外方3㎝の処。胸神経後枝が表層に出る部。
②側胸点(外側点):前腋窩線上。前枝の外側皮枝が表層に出る部。
③前胸点(胸骨点):胸骨外方3㎝。前枝の前皮枝が表層に出る部。
第6肋間神経以下は腹部肋間神経痛として現れ、前胸点に相当する圧痛点は腹直筋外縁に出現し、「上腹点」と称する。

実際にはある範囲全体がまんべんなく痛むようで、特定の圧痛点を見いだすのは困難であることが多い。教わったことと違っている事実を知り、愕然とする。

 

 

 

 

4.特発性肋間神経痛の新しい方法

近年、特発性肋間神経痛は胸椎の椎間関節や肋椎関節の機能異常や炎症によるものだと認識されるようになった。椎間関節は脊髄神経後枝支配なので、問題となる関節は肋椎関節と胸椎部の回旋筋群系(後枝支配)であるが、肋椎関節の関節症が真因だとしても、結局は回旋筋群系のトリガーが活性化して肋間神経(=胸部脊髄神経前枝)痛を起こすことになる。
胸椎背面の筋構造は次の通りである。
   
1)背部一行の最浅層に脊柱起立筋の棘突起側の筋として棘筋がある。棘筋は頸椎~胸椎に存在する。
2)棘筋の下層は回旋筋群系で、椎体の横突起と棘突起を結ぶことから、横突棘筋ともばれる。横突棘筋は、浅層から深層にかけて順に、半棘筋、多裂筋、長(短)回旋筋になり、どれも脊髄神経後枝支配。胸椎は左右の回旋性に富むので、長(短)回旋筋が発達している。肋間神経痛の原因筋を
 

上図で、脊柱起立筋(棘筋、最長筋、腸肋骨筋)は肋間神経痛にはあまり関係がない。棘筋の深層にある回旋系筋が関係する。胸部回旋筋群は、浅層から深層に半棘筋、多裂筋、長短の回旋筋になる。とれもこれらの回旋筋の筋膜癒着が、おそらく肋間神経痛に関与している。

回旋筋のオリジナル語呂:浅層から深層方向に、は(半棘)だ(多裂)か(回旋)

5.肋間神経痛の針灸治療
 
症状部に応じた短背筋群に対して刺針する。座位で棘突起外方1寸(1.5 ~2㎝)から2~3㎝深刺して緊張して硬くなっている回旋筋々膜まで針先を入れる。最深部の短背筋群の硬結に対して、細かな雀啄手技を行い、症状のある肋間神経痛部に響かせる。

上図は、遺体解剖から描いたもので、横突棘筋に刺入する。横突棘筋とは、半棘筋、多裂筋、長短の回旋筋の総称で、横突起とその上方の棘突起を結んでいることから、この名称がつけられた。
どれも小さな筋なので、この3筋のどれに刺入すべきかは判断きない。2~3㎝刺入して、硬い筋膜に到達したら、それを緩めるためこまかな上下動の手技針をしたり置針する。


なお第7~第12肋間神経は、横隔膜辺縁を知覚支配しているので、棘突起外方1寸から深刺 は、刺針刺激が肋間神経に沿って側面~前側に響くというより、横隔膜中へ響くように感ずる。
これが柳谷素霊著「秘法一本鍼伝書」の五臓六腑の膈兪針と脾兪針の原理だと思われた。

 

6.特発性肋間神経痛に対する傍神経刺について

肋間神経痛の治療は、反応ある胸椎(第5~9肋間が多い)に対応する肋横突関節および関節周囲の肋間筋に対する施術を行う。この治療法は、木下晴都氏の創案した「肋間神経痛に対する傍神経刺」そのものである。(木下晴都:肋間神経痛に対する傍神経刺の臨床的研究、日鍼灸誌、29巻1号、昭55.2.15)

①2寸#5針を使用
②症状にある胸椎棘突起から外方2横指(3㎝)を刺入点とする。
③10°内方にむけて直刺4㎝。この時、気胸には十分注意する。
④5秒留めて静かに抜針  
⑤最初の2~3回は毎日、その後は隔日、または1週間に2回程度の施術とした。
⑥102例の肋間神経痛患者に対して傍神経刺をおこなったところ、91%が優、6%が良、3%が不変、悪化例はなかった。うち優の結果を得た93例をみると、発症1~7日の52例では平均2.9回治療。8~15日の18例では4.6回、16~30日の12例では7.9回、3ヶ月以上経過した4例では11.5回だった。

 

上記の報告は非常に内容が充実していて、刺針方法は今回の私が説明しているものに似ている。ただし上図「肋間神経痛の傍神経刺」は間違いがあるので、これを指摘しておく必要がある。
この図は肋骨や胸椎横突起が描かれていない。針は外肋間筋にまで刺入することになっているが、これは肋間神経に影響を与えることを目的としているからで、刺針深度も4㎝と深い。これでは肋骨にぶつかることもあり、外肋間筋のすぐ深部には肺実質があるから気胸事故も起きることがあるかもしれない。

今回私が説明しているのは、横突棘筋(脊髄神経後枝支配)の癒着を緩めることを目的とした刺針なので、木下の考えとは異なるものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


肛門挙筋と直腸性便秘

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 1.肛門挙筋

肛門と直腸は、立位や仰臥位では肛門直腸角が直角に折れまがっているので、この姿勢では糞便が通過しにくい構造になっている。洋式トイレの場合は椅座で排便するので、肛門直腸角は水平に近づくので、排便しやすい体勢になる。さらに上体を前傾してつま先立ち姿勢にすると、肛門直腸角度はより水平に近づくので、もっと排便しやすくなる。
この肛門直腸角を生むのはで恥骨から直腸を紐でひかっけ、たぐり寄せるような構造になっている。この役割は肛門挙筋の一つである恥骨直腸筋である

 

肛門挙筋には3種類あって、恥骨直腸筋・恥骨尾骨筋・腸骨尾骨筋があり、それぞれ機能が異なる。
チッチ、チビ、チョビという語呂で記憶するのが便利である。すなわち「小ちゃな(チッチ)チビ(チビ)が、ちょびった(チョビ)った大便」という意味。

恥骨尾骨筋はPC筋ともよばれ、オルガムスで収縮する。これはペニスの中折れ防止の目的で、陰茎海綿体に送られた血液が体内へ逆流するのを防ぐ役割がある。また腸骨尾骨筋は、犬などの動物が恐怖や不安を感ずる際、身体内に尾をしまい込む作用がある。この2筋は便秘とは関係がない。便秘と関係するのは恥骨直腸筋(=外肛門括約筋)になる。


2.恥骨直腸筋の意義
  
十年ほど前、私が主催した勉強会で、TK氏が「排便困難時は、便器に座って左右の合谷を強圧すると排便しやすくなる」(代田文彦編、玉川病院生情報会著「鍼灸臨床生情報②」医道の日本社にも掲載)と、発言した。それを聞いた私は、合谷は大腸経に属するので、「そうなんですか」と言ったが、それ以上は話を膨らますことはできなかった。以来この発言内容は、私の中で未解決課題として保留されつづけた。

後に恥骨直腸筋(=外肛門括約筋)について調べる機会があった。恥骨直腸筋は、恥骨から投げ縄のように筋が出ていて、通常は直腸を恥骨側に引っ張って直腸にくびれをつくっているので、大便が漏れ出ないような仕組みがあるということだった。大便がスムーズに出にくい場合、くびれをとって直腸をまっすぐにして(=肛門直腸角を大きくして)排便しやすくするには、和式便器がよく、洋式便器の場合には、座位で前傾斜して踵を上げるような姿勢にするとよいということだった。


三島泰之は、スムーズに排便できない場合、いきむ力を増すことになる。和式の排便スタイルはでは、膝を相当窮屈にまげた姿勢で、手は自然と結ばれ、前腕は屈筋に力が入った姿勢となる。前腕屈筋群では、孔最穴あたりから手首に向かって一番力が入った状態になる。痔の痛みの中での排便のポーズは、この延長上である。排便困難→いきみ→痔核の悪化という機序をたどる。(「今日から使える身近な疾患35の治療法」医道の日本社刊 2001年3月1日出版)と記している。

すなわち上体を前傾して前腕屈筋に力をいれる姿勢が排便を促進するのだとしたら、それは合谷押圧の姿勢と同じような意味になるのではないかと考察した。


3.肛門直腸筋刺針

では肛門直腸筋を刺激するような刺針はどのようにすべきか? 解剖学的には、四つんばい位で肛門周囲を刺激すればよいことになるが、これを治療室で行うには現実的ではない。
そこで腹臥位になり、会陽から深刺することになる。

 

 

ちなみに内痔核の局所針灸治療では、内痔静脈叢の鬱血を改善することが治療になる。それには会陽から直刺すると内肛門括約筋に入るが、内痔静脈はその上方に位置するので、仙骨方向に向けて斜刺する方がよいだろう。

 

 

 

 

 

 

勃起障害(ED)の針灸治療 ver.2.2

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1.勃起とその消退の機序
 血中の化学物質により勃起がコントロールされる。次の3つの化学物質が関与する。
         
①「cGMP」で勃起が起る。cGMPとは、環状グアノシン-リン酸の略で陰茎中の血管拡張物質。 

②「PDE5」で勃起が萎える。 PDE5とは、ホスホジエステラーゼ5の略。
前立腺や尿道の筋肉を緩める作用がある。勃起状態を消退させる作用もある。バイアグラは、PDE5の作用をブロックすることで勃起状態を持続させる。

③勃起の反応は、性的興奮により「NO」(一酸化窒素)産生が引き金となる。


2.勃起と関係する筋
EDに関係する筋としてPC筋とBC筋が注目を集めている。 
 
1)PC筋

肛門の筋は骨盤神経(副交感神経支配)で肛門内側にある内肛門括約筋と、陰部神経支配の肛門外側にある肛門挙筋に大別される。肛門挙筋は、体性神経なので、自分の意思が関与する。肛門挙筋3種類あり、肛門から近い側から、恥骨腸骨筋・恥骨尾骨筋・腸骨尾骨筋になり、それぞれ独自の役割がある。勃起と関係するのが恥骨尾骨筋で、PC筋(Pubococcygeus Muscle)ともよばれている。

PC筋は、ペニスが勃起するときに、海綿体に血液を送るポンプの働きをする。精液を出す時には律動的に動く。

2)BC筋

球海綿体筋をBC筋(Bulbocavernosus Muscle)と略す。ペニスが外に出ているのは全体の 3/4で、根元1/4は、骨盤底筋群の隙間に埋まっている。この根元にあるのがBC筋で、ペニス全体を下支えしている。球海綿体筋が強いとペニスの根元もしっかりして上向きのペニスとなり簡単には「中折れ」を起こさない。

球海綿体筋には尿道から尿や精液を押しだす役割もある。球海綿体筋が鍛えられることで射精の勢いが強まり、射精時の快感が増すとされる。 球海綿体筋が弱ると、尿のチョイ漏れを起こす。

 

 

3.PC筋・BC筋に対する物理的刺激



PC筋に対する局所刺激点は肛門の刺激になる。会陰穴である。BC筋は会陰穴のやや前方で陰嚢との境界部になる。この部に相当する奇穴はあるのかと、陸痩燕・朱功著、間中喜雄訳「奇穴図譜」医道の日本社、昭46.6.10刊をみると、<陰嚢下横紋>という穴を発見した。BC筋の刺激点とはペニス基部の刺激になる。

男性であれば理解可能かと思うが、意思で肛門を引き締めようとすればPC筋が作用し、小便終了時にペニス内に残存する尿を外に出そうとすればBC筋が作用する。PC筋とBC筋は完全に独立して機能せず、同時に筋収縮することも多い。

ツボはある椅座位でこのあたりにゴルフスボール(直径4㎝程度)などをあてがい、上体を前傾させると、PC筋・BC筋の押圧刺激になる。リズミカルに数分間、前傾したり元の姿勢に戻したりの運動を行うことででPC筋・BC筋を鍛えることができる。  


4.PC筋とBC筋の筋力トレーニング
PC筋とBC筋の筋力トレーニングの意義は、筋力増強ではなく、血行改善になる。  

①PC筋のトレーニングとしてオシッコを止める動作を5秒ほどかけて行い、今度はオシッコをするような動作を5秒ほどかけて行う。締める、緩めるの動作をゆっくり10回行い、毎日3~5セット続ける。
  
②BC筋を意識しながら5秒ほどかけて肛門を力強く締める動作をする。今度は肛門をゆっくり緩めていく。締める、緩めるの動作をゆっくり10回行い、これを3~5セット毎日続ける。
  
③椅座位で、上体を前傾斜すると骨盤底筋が座面に当たる。この辺りに直径4㎝くらいのボールををあてがい、前屈動作を反復する。PC筋・BC筋指圧効果が得られる。
(ピンポン球ほどの大きさがよいが、ピンポン球では圧力をかけるとつぶれそうだ。硬質ゴム製のスーパーボールがよいと思う)

4.EDの針灸治療

PC筋・BC筋を直接刺激するには、会陰穴からの刺針になるが、治効のエビデンスが不足している。PC筋・BC筋への刺針には筋力トレーニング効果はないが、血行改善効果はありそうだ。このためには置針やパルス針が剥いているのかもしれない。 
  
1)針灸とバイアグラの効果の比較研究 
 
辻本孝司は、針灸とバイアグラの効果を比較し、「EDに対する中髎刺針は有効だが、その効果はバイアグラに及ばない」との結論づけた。それは次のような内容である。
ED患者26名に対し、2寸#8の針を中髎に5㎝刺入し、回旋刺激を10分間施行。治療は週に1回で、平均11回施術した。著効と有効を合わせると有効率は62%だった。有効例は、心因性(著効33%)よりも、内分泌性(著効88%)や静脈性(60%)の方が高かった。しかしバイアグラの有効性は50mgで70~80%で、重篤な副作用もみられないことから、針治療よりもバイアグラ内服の方が効果的である。バイアグラが効果なかったという者の大半は、内服方法に誤解があるからで、服薬指導と数回の針灸治療で改善させる。(辻本孝司:EDの治療-バイアグラと針に求められるものは,針灸OSAKA.vol.19 No.1.2003.Spr)
 
2)陰茎背神経刺針

亀頭など性器の触覚を支配しているのは陰部神経なので、以前から陰部神経知覚枝を刺激することがEDの改善になることが期待され、陰部神経刺針が用いられてきた。
骨盤底筋を鍛える目的で、大腿内転筋トレーニングの一環として陰包や足五里を刺激することも行われているが、これが効果的だとする印象はあまりない。
   
①曲骨から下方にむけて深刺
陰部神経の終枝である陰茎背神経は、陰茎から亀頭に達するので、針響も陰茎先端まで得られやすい。陰茎にまで響かせる方法は、ゆっくり斜刺して硬い処(=筋膜)まで針先をもっていく → 針尖を筋内に入れたら雀啄をする → 雀啄しつつ針全体の動きとして深度を深くする、といった手技を行う。
  
②曲骨の針響と治療効果(日野勝俊:「はりきゅう」治療でしぜんな妊娠あんしん出産、2006年11月)
日野勝俊は「正常男性に曲骨から刺針をすると、ペニスの先まで針響を感じるが、重症のEDでは刺針した部位のみの刺激感のみになる。しかし繰り返しの治療で、ペニス先端部近くまで針響が届くようになる」記している。一般的なEDの場合には症状に応じて、週に1~2回程度の治療を4ヵ月間続けて経過をみる。効果がすぐに現れるケースでは、初回の治療直後から、遅い時でも2ヵ月ぐらいで症状の改善が認められるとのこと。
※曲骨や中局へ針してペニスに響かせる方法は、急性・慢性膀胱炎での常套法(慢性膀胱炎には中極に10壮程度の多壮灸がよい)なので、EDに対しても効き目がありそうだ。そう思って、筆者はこの方法を10例以上行ってみた。しかしED治療に効果あることの感触は得られなかった。
  
③正座位にて、関元、中極、腎兪、裏合谷の多壮灸(陽不起の標治灸 柳谷素霊選集下より)
 裏合谷は「掌中、母指球の尺側、合谷穴と相対するところ、之を按ずれば極めて痛み透るところ」とする。 正座させ、関元・中極・腎兪には最初小灸にして漸次灸壮を増やし、腰腹部春陽の如くポカポカと温暖となるまで施灸する。温暖にならざれば効果が薄い。裏合谷には灸7壮。
筆者註:裏合谷は、房事過多による腎陰虚に使うという意見がある。下腹部正中に施灸する際、座位で行った方が腹筋に力が入るとくに椅座位で上体を前傾すると、BC筋を刺激できる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

JSカッサ治療講習会 コロナ後遺症治療と整形疾患の治療対決

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1.徐園子 序
去る令和5年4月、似田敦先生にご協賛いただき、初めての入門セミナーを行なった「JSかっさ治療」は、半年後の現在、全国の患者様よりお問い合わせをいただき、医師に採用され医療機関でも行われる治療法へと発展しつつあります。今回は再び「JSかっさ」の特別講座を開講致します。

未だ治療法が確立せず、国内だけでも数百万人の方が苦しむコロナ後遺症、ワクチン後遺症の様々な症状に対しても「JSかっさ」は効果を発揮し、注目を集めました。今回の講座では、コロナ後遺症の患者様の治療もご覧いただき、一人でも多くの施術者様にコロナ後遺症をご理解いただくとともに、今後「JSかっさ」を用いた治療に携わっていただけることを期待しています。根治、即効性、難治性症状の改善をめざし創り上げた「JSかっさ」の効果をご覧いただきたく、ぜひご参加下さい。

現代医学的針灸の似田敦先生は、医学的知識、科学的根拠に基づく治療をされることでご高名な先生。徐園子は似田先生の不出来な教え子、医学的知識をすべて傍らに置いて直感でポイントを見つけ治療をするタイプ。この真逆な凸凹師弟が即興で創り出す治療をお楽しみいただけるでしょう。今回は針灸に来院することの多い痛みを中心とした整形外科症状を訴える初見の患者様に対し、ぶっつけ本番で行ない、その場で改善させるための真剣勝負になりそうです。

2.講座内容

第一部
①JSかっさ治療とは 症例紹介
②コロナ後遺症患者様への治療
第二部
①現代医学的鍼灸の観点から似田敦先生が診察して解説。
②JSかっさで徐園子が治療。
③万が一、JSかっさ治療で変化が起きなければ、似田先生より鍼灸でのアプローチを実施。


3.お申し込み方法

1)受講資格:国家試験医療免許取得者、または学生
2)日時:令和5年11月19日、午後2時~午後5時
3)場所:国立市中1丁目集会所 国立駅南口より徒歩3分
 
 

4)モデル患者は、受講者御自身または 受講者様のお知り合いの方(患者可)になります。治療御希望の方は、事前に次の項目を知らせて下さい。
  ①年齢、性別、②主訴、③現病歴、④(可能ならば)診断名、⑤治療歴
5)定員:20名(定員になり次第締め切り)
6)参加費:10,000円(当日お支払い)
7)申込手続:下記URLまたはQRコード
   https://00m.in/jRS6L

8)お問合わせ先:徐 園子(じょう そのこ)大和かっさ治療院  
  電話046(780)2829  鎌倉市扇ヶ谷1-8-5, 3F

 

前回(令和5年4月)の「JSカッサ」講習会集合写真

腕橈骨筋痛に対する針灸治療

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75才男性

主訴:右前腕橈側部の運動時痛

現病歴と考察
会社停年後、トレーニングによる体づくりに努力を続けている。最近、右上腕橈側部が痛むとのことで来院した。上腕橈側部痛で最も多くみるのはバックハンドテニス肘だろうと考え、右手三里のわずかに尺側の短橈側手根伸筋を押圧して圧痛もあったので、テニス肘だと判断。この圧痛点に刺針し、手関節背屈動作5回、さらに針を刺した状態のまま回外動作5回を行わせ抜針して初回治療を終了した。ちなみにテニス肘では手関節背屈痛と回外動作痛がともに出現しやすいが、偶然にも手三里の深層として回外筋があるので、手三里の針だけで、両方の運動針が可能になる。

経過
1週間後に来院、右上腕橈側部の痛みはやはり痛むとのこと。前回の治療は自信をもって行っていたので意外に思って、右上腕橈側の圧痛点をもう一度調べ直してみると、短橈骨手根屈筋上ではなく、腕橈骨筋上に圧痛硬結を発見した。この症状は、腕橈骨筋の運動時痛だと判断して、腕橈骨筋の運動針を行なった。すると圧痛点が移動して今度は、腕橈骨筋の起始部(肘髎穴のやや上方)あたりが痛むというので同様に運動針を行った。腕橈骨筋の運動針は、肘関節屈伸(術者は軽い抵抗を加えて)を5回行い、治療を終了した。後日さらに来院した際に、右腕の調子を問いただすと、あれ以来痛むことはなく、トレーニングを継続できているとのことだった。

考察
腕橈骨筋はその筋長の大部分は前腕部に位置するのだが、分類的には上腕屈筋に属する。従って腕橈骨筋の機能は、肘関節屈曲である。一方、腕橈骨筋に隣接する長・短橈骨手根伸筋は前腕伸筋に分類され、その機能が手関節背屈なので、運動針の方法がまったく異なってくる。本患者のトレーニングの一つとしてテーブルに肘をつき、鉄アレイを握って肘の屈伸運動するのをルーチンとしているという。この運動過剰により腕橈骨筋の筋膜癒着を起こしたのではないかと思えた。

前胸部ツボ名の由来 ver.1.1

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1.前胸部経穴位置の特徴
 
前胸部は肺、心臓、乳房、横隔膜などで他に気管や胃などの重要組織があるが、前胸部のツボは、胸骨上もしくは肋間に整然と並んで、一見すると没個性的なのようにも見受けられる。では実際どういう構成になっているのだろうか。ツボの特性を大きく4つに分類して色分けした(下図)。

 

①前胸部で<青色>で示したのは肺・呼吸器関係のツボである。昔の中国では肺はハスの花に例えられたこと、あるいは肺は現代と同じく呼吸作用で、他に宣散粛降作用がある関係で、解剖学敵な肺の位置より上になっているのだろうか。
②前胸部中央<赤色>には心臓・精神関連のツボがある。中医でいう心とは、血液ポンプ+ハート(精神)の作用だった。
③心関連のツボの周囲は<緑色>で、私の分類では区分・部屋・建物といった比喩的なものを示すツボがある。これには心を守る役割もあるのだろう。
大包は、私見であるが脾の大絡として胃泡の診察ポイントであり、胃や横隔膜の動きに関係していると解釈している。
④乳房と乳汁および胃の関連は<ピンク色>で示した。食竇穴は従来は食道と解釈すると位置的に横にありすぎて合理性がないので、私は胃泡を示すものにした。なお乳根穴は文字通り乳房と関係するが、胃の大絡として心尖拍動の診察点ともなる。

      

2.胸部経穴名の由来
巻末に提示した4種の文献を参考にしたが、不満が残ったので※印として自説を示した。

1)胸骨頸切痕ライン
①天突(任) 
胸骨希頚切痕の上に向かう形。
②気舎(胃) 
「舎」=場所。肺(気の出入り)のある場所。
③缺盆(胃)  
丸い鎖骨窩を二分するのが鎖骨。これを欠けた鉢に例えた。缺盆骨=鎖骨のこと。

2)鎖骨下窩
①璇璣(任)  
北斗七星で、璇(せん)は2番星、璣(き)は3番星で、どちらも美しいという意味がある。北斗七星が北極星を中心に規則正しく回転しているように、本穴も呼吸により上下に規則正しく動く。ちなみに1番星(北極星に最も近い星)の名は「天枢」という。天枢は回転扉の軸部分をいい、天枢を軸として上半身を折り曲げる処とした。扉は開閉により位置を変えるが、軸部分は位置を変えないので、北極星に似ている。

②兪府(腎)   
 a.腎経の走行は肋骨を上行し、最後には、この穴に集結することを示す。
※b.「府」=は集合で肺の宣発作用、「兪」=輸送で肺の粛降作用をいう。すなわち兪府とは肺のもつ宣発粛降作用のこと。
吸気時、体内の水分を一度肺の処まで引き上げ、息はく時に、その水分を内臓全体に、じょうろで水をまくようにする。これはポンプの仕組みと同じ。
③気戸(胃)  
※前胸で、鎖骨と第1肋骨の間の小さな間隙を戸に例えた。気の出入りをする肺の入口。

3)第1肋間
①華蓋(任)
肺は蓮の花の形のようで、天子の頭上にある絹の傘の形(蓋)に似ている。肺は五臓六腑中で最も高い地位にあることを示す。あるいは華蓋=肺そのもの。
②彧中(腎)  
※「彧」=区切り、枠取り。肺と心の区切りのこと。
③庫房(胃)
「庫」は倉庫、「房」は厨房とか工房。その下にある臓器「肺」を収納するための部屋。

4)第2肋間
①紫宮(任)  
天帝が住んでいる星、すなわち北極星を紫微星とよんだ。紫微星とは貴重な星の意味で、心臓の位置にある。
中国皇帝といえば代々黄色(五行色体表の五方すなわち東・西・南・北・中央の中で、中央に相当するのが黄色)を重要視していた。しかし貝からとれる紫染料が非常に希少で高価なことを知ると、紫も重視するようになった。北京にある昔の皇帝の住居(故宮)の別名を紫禁城という。これは一般人が入ることのできない特別な場所との意味がある。
ちなみに聖徳太子が制定した冠位十二階の最高位も紫色だったが、この染料は安価な紫芋によるものだった。無駄な処に金を使わないという賢明なところがある。

②神蔵(腎)  
心に近い紫宮の両側で霊墟の上にあり、神霊(心)を守る。
③屋翳(胃)  
「翳」とは屋根、「翳」は羽でできたひさし。
④周栄(脾)  
「栄」は活力源で栄養素と同じ。全身に栄養素を巡らす。

4)第3肋間
①玉堂(任)  
玉堂=高貴な場所。中国の科挙合格者の中でトップが配属される部門(歴史編纂、皇帝の発言を記録)。
②霊墟(腎)
「墟」は土で盛られた高い山。 仰臥位になると霊墟は前胸部の高い位置になることから。       
秦始皇帝が築いた運河。中国の桂林市興安県に現存。
③膺窓(胃) 
「膺」は胸、「窓」は気と光を通すところ。胸部の閉塞を通すため。
④胸郷(脾)
「郷」は人が集まる村々(=故郷など)のこと。胸郭はタル型をしていて、その側面中央の断面積が最も大きい処になる。
胸の断面積が最も大きい処として胸郷と名づけた。

5)第4肋間
①膻中(任)  
a.両乳間の間を膻という。膻にはヒツジのような生臭い。乳児がいる女性では仰臥位で寝ている時など、乳頭から漏れ出た乳汁がこの部に溜まるので生臭くなることがある。
b.君主(心)の住まいである宮城(心包)の別名。
②神封(腎)  
※「神」=心、「封」=境界線。胸中線の脇で心に近い部。
③乳中(胃)  
乳頭部
④天池(包)   
肋間のくぼみのような池(汗をかくところ)
⑤天渓(脾)  
この場合の「渓」は、乳汁分泌を川に例えている。
⑥輒筋(胆)  
「輒」は荷車の左右の側板をいい、荷崩れしないで多くの荷物を積めるようにしたもの。これが転じて胸横部の前鋸筋をさす。「輒」には耳タブのように軟らかいとの意味がある。これは前鋸筋筋腹の形容になっている。
⑦淵腋(胆)  
 脇の下に隠れる水溜まり。腋下の汗をかきやすい部。
                                   
6)第5肋間
①中庭(任) 
「庭」=宮殿(君主)正面の庭園。膻中(宮殿)の下に位置する。胸骨体下端の陥み(胸骨体下端)で、腹直筋停止部になる。
②歩廊(腎) 
「廊」とは建築用語で、2列の柱を繋ぐために作られた通路(腹直筋停止)のこと。歩道橋が代表的。中庭穴を跨ぐように左右の肋軟骨上に歩廊穴がある。
③乳根(胃)あ
 乳頭の根元。乳根は胃の大絡であり、心拍による左前胸部の上下動を虚里(わずかな振幅)の動ととらえた。
④食竇(脾)  
※「竇」=洞。左食竇は胃泡のこと。胃の中に食物が入る場所との意味。  
従来の説では「食道」と解釈するが、本穴の位置は前正中付近にはない。


7)胸骨弓縁、その他
①極泉(心)  
泉(汗)がわき出る最も高いところ。
②期門(肝) 
十二正経は肺経の中府から始まり、肝経の期門で終わる。一周りしたとの意味。
③日月(胆)   
日月(胆募)の上方5分には期門(肝募)がある。
※「肝胆相照らす」との表現にあるように、両雄とも影響を受け合う存在。期門と日月は影響を受け合うことを示す。
④章門(肝)  
※「章」=ひとまとまり。他の肋骨と異なり、本穴は第11肋骨前端という浮遊肋骨にあることを示す。
⑤京門(胆)
※「京」はみやことの意味の他に、高い丘の意味がある。京門は第12肋骨前端という浮遊肋骨にあることを示す。
⑥大包(脾)   
脾の大絡として、内臓診察点。
※左大包は胃泡を示す(打診で鼓音の存在で調べたのだろう)。その上の横隔膜の動きにも関与。横隔膜は陰である胸部臓腑と陽である腹部臓腑の境界。
⑦鳩尾(任)  
剣状突起が鳩の尾の形に似ていることから。

 

引用文献
①森和監修 王暁明ほか著「経穴マップ」医歯薬
②周春才著 土屋憲明訳「まんが経穴入門」医道の日本社
③ネット:翁鍼灸治療院 HP
④ネット:経穴デジタル辞典  ALL FOR ONE
⑤漢和辞典「漢字源」学研

 

頭部ツボ名の由来

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経穴の学習は大変だが、その中にあって最も難しいのが頭部になるだろう。頭部の経穴は、取穴となる目印が少なく、ツボ名自体も抽象的なものが多い。そこで今回、自分の学習を兼ねて、頭部の経穴の由来を整理してみることにした。ツボ名の由来には合谷、百会、手三里など各人一致した見解をみる穴も多いが、絡却・本神・懸顱・天衝・浮白・承霊など漠然としたイメージにしか浮かばない経穴もあり、こうした経穴の語源はやはり各書で意見が異なっている。結局何が正しいのは今となっては分からいので、最も興味深く印象に残る意見に従った。なかには書物の記述に満足できず、漢和辞典を調べた上、自分の考えを記した部分もある。

 

1.頭顔面経絡の流注概念

①頭顔面には督脈と6本の陽経が集まっている。陽経のうち、ツボが多数存在しているのは、膀胱経・胆経・三焦経それに督脈である。
②膀胱経:後頭部~頭頂部~前頭部(前頭~帽状腱膜~後頭筋)の矢状領域
③胆経:側頭部の側頭筋領域。陽がよく当たる処。
④三焦経:耳と側顔面の頬骨上域支配→老人になると耳遠くなり、頬上部(こめかみ部)がこける。頬上部がこける原因、加齢や栄養不良による側頭部脂肪体の減少。
⑤膀胱経:後頭部~頭頂部~前頭部(前頭~帽状腱膜~後頭筋)の矢状領域
  

2.前頭部~頭頂部のツボ

①神庭(督) 脳は元神の府であり、「庭」は前庭(神社の拝殿に相当すると思う) ※本神穴と呼応している。
②上星(督) 天空の星を見上げた時、星に最も近い場所。
③顖会(督) 顖=大泉門のこと
④前頂(督)  百会のすぐ前にある穴   
⑤百会(督)  多くの経絡が集まる部位。
⑥後頂(督)  百会のすぐ後にある穴
⑦曲差(膀)  「曲」=曲がる、「差」=不揃い。睛明からここまで膀胱経の流れは一直線ではなく、曲がることを示している。      
⑧五処(膀)  五処は承光の前、曲差の後にある。五処の両脇には上星と目窓がある。本穴を含めたこの5穴はどれも眼疾患に効果がある。さら五処は膀
 胱経の5番目の穴である。  ※膀胱経の流注:①睛明→②攅竹→③眉衝→④曲差→⑤五処...
⑨眉衝(膀) 眉頭の上方の髪際にある。眉毛を動かすとこのツボまで、突き上げるような動きがある。
⑩承光(膀) 天からの光を拝受するツボ。目に効くことを示す。 
⑪通天(膀)  天に届くほど高いこと。頭頂部の意味。
⑫絡却(膀) 「絡」は絡脈のことで小さな静脈、「却」は退却。眼の充血を消す効能がある穴。頭頂導出静脈関連?
⑬頭臨泣(胆)太陽経膀胱経最初の穴である睛明と少陽胆経最初の穴(内眼角)である瞳子髎(外眼角)は、ともに泣くと涙が出る処。本穴はこれら2穴
       の上方で、瞳孔線上。
⑭目窓(胆) 「窓」は光を入れる窓のこと。眼疾患を治し、眼の窓(瞳孔)を散大させる。
⑮正営(胆) 「正」=正確、「営」=営(現代でいう血液)。脳が正確に血を動かし全身に栄養を回している処。    
⑯本神(胆) 神庭(拝殿)の横にあるのが本穴で、本殿に相当する。外方には骨に段差があって、頭維をとる。山門(神庭)→本殿(本神)→御神体(頭維の奧にある脳)という境内は神社の様式である。古代中国に神社はないが、代わりに道教寺院がある。道教寺院は、神仙思想すなわち仙人のようになって長寿を得るための修行の場だった。しかし現在中国にある道教寺院はすっかり観光化してしまった。
 この段差から骨中に入り、奧には御神体(=脳)がある。脳は元神の府である。

 

 

⑰頭維(胃) 「頭」は頭部、「維」は額の髪とヒゲをつないでいる部分。
⑱強間(督) 後頭部の人字縫合にある部。小泉門部。

3.後頭部のツボ

①瘂門(督)  瘂=唖(おし)。声を出せない者のこと。発声するのに要となる部位
②完骨(胆)  完骨=乳様突起
③玉枕(膀)  玉=頭蓋骨のこと 寝る時にマクラが当たる部位。
④天柱(膀)  天を支える柱。天とは頭蓋骨のこと。頸椎を天柱骨とよぶ。
⑤脳空(胆)  「空」は孔や陥凹。脳戸の横で、外後頭隆起上の陥凹部に挟まれている。
⑥脳戸(督)   出入りする処を「戸」と呼び、脳の気が出入りする場所になる。
⑦風府(督)   風邪があつまるところ。風邪は頭項部を冒しやすい。
⑧風池(胆)   後頸部の陥凹部で風の吹きだまり。
                                                        

4.側頭部のツボ

①翳風(三)    翳とは、鳥の羽。鳥の羽により風よけとなっている部位。
②角孫(三)    角とは耳上角、孫とは小血管=孫絡のこと。
③頷厭(胆)  「頷」は頭を下げてうなづく。「厭」とはいやになる。頸が回らなかったり、うなづくことができないなどの症状を治す。
④頭竅陰(胆) 竅は強くひきしまった細い穴の意味。頭竅陰は頭部にあって眼、聾、舌強直、鼻閉、咳逆、口苦などの「竅」の病を治す。
 ちなみに足竅陰穴は足にあり竅の病を治す。
 ※人体の九竅:陽竅=耳孔(二)、目孔(二)、鼻孔(二)、口孔(一) 陰竅=前陰と後陰(二)
⑤曲鬢(胆)「鬢」=額の左右にある髪の生え際のこと。
⑥瘈脈(三)「瘈」はひきつけ、痙攣の意味で、「脈」は絡脈の意味。耳後浅静脈の上にあり、小児の痙攣やひきつけなどの病症を治す。
⑦顱息(三)「顱」=頭部。横向きに休息する際は、この部がマクラに当たる。
⑧懸顱(胆)「懸」=ぶら下がる。「顱」=頭部。側頭から出た髪毛がぶら下がる部位。
⑨懸釐(胆) 「懸」=ぶら下がる。「釐」=整える。側頭から出た髪毛を整える。
⑩承霊(胆)「承」は受ける、「霊」は神。本穴は頭の最も高い場所である「通天」の傍らにあり、神の思惟活動に関与している。
⑪率谷(胆)「率」は寄り添う。「谷」とはここでは側頭骨の縫合をさす。
⑫天衝(胆)「天」は頭頂にある百会穴のこと。「衝」はつきぬける。本穴は百会へとつきぬける道としての役割がある。
⑬浮白(胆)    脈気が軽く浮いて上昇し、天衝を経て、頭頂の百会に到る処。白は百に通じることから。
      
     
     

引用文献
①森和監修 王暁明ほか著「経穴マップ」医歯薬
②周春才著 土屋憲明訳「まんが経穴入門」医道の日本社
③ネット:翁鍼灸治療院 HP
④ネット:経穴デジタル辞典  ALL FOR ONE

 

 

 

 

 

 

 

 

円皮針こぼれ話 ver.1.1

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   皮内針は1950年代、周知のように赤羽幸兵衛により発明された。その頃の話は過去の医道の日本誌で知ることができる。 
 
医道の日本プレイバック(10)赤羽幸兵衛「皮内針法こぼれ話」(1976年)
        https://www.idononippon.com/topics/4313/
   
圧痛点にただ皮内針を貼り付ければよいというのではなく、症状部膚を緊張状態にしておき、圧痛点に皮内針をすると効果があるとの記述が一つの示唆を与える。

 

一方、皮内針にヒントを得たのか中国では円皮針を造りだし、1975年頃から中国から日本に円皮針が輸入され始めた。一袋10個入400円ぐらいだった。
当時中国針も10本入1000円程度と高額だった。その頃は、中国は近くて遠い国だったので、中国の物価事情もよく分からなかった。輸入ブローカーがボロ儲けしたのだろう。
 
その円皮針はリング径2㎜、針長2㎜、太さ8番程度と大きく太いものだった。小袋のラベルには、華佗牌 撳針(きんしん)(中国語発音 チェンゼン)と書かれていた。「撳」は手で押すの意味。しかし我が国では馴染みのない漢字なので、医道の日本社が円皮針という名前をつけた。当時私は針灸学校通学の一方、医道の日本社新宿支店でアルバイトをしていた。すでに死去した医道の日本社前社長の戸部雄一郎氏の妹君(薬剤師)も働いていて、その本人から「私が考えた名前nなの」と教えてくれた。まさにぴったりなネーミングで、単なるこの製品の固有名詞にとどまらず、一般名称円皮針としてわが国に普及することになるのだった。


皮内針を施術する時には、皮内針の他に、皮内針専用ピンセット、皮内針用テープ(マイクロポアを使うことが多い)が必要である。さらに皮内針用テープを切るためのハサミ、皮内針のマクラの作成など、いろいろ手間がかかる。痛みをほとんど与えず刺入するテクニック、刺入方向なども勉強する必要があって手間のかかるものだった。しかし今日ではテープつき円皮針が市販されるようになり、かっての皮内針の面倒な手技は必要なくなってしまった。その結果、皮内針を行う機会はあまりなくなった。


現在の円皮針は、大手メーカーのセイリンの円皮針(商品名パイオネックス)では、5種類のタイプが販売されている。そのどれもが、昔の中国製円皮針と比べて細く短い。5種類の規格があるとはいえ、すべて針長は1.5㎜以内になっている。この理由は円皮針を入れた状態で、皮膚が動いても痛みを与えないためだろうと推測した。

昔、月刊医道の日本誌を見ていたら、「皮下針」を考案したとする者が現れた。しかし知人等にそのことを話しても、少し長い皮内針に過ぎないとして、評価してくれなかった。そこで柳谷素霊に「皮内針とは何か?」という質問をしてみた。すると素霊は、「皮内針とは小さく短い針を水平刺して針先を皮内にとどめるものなり」と返答したという。引き続き「皮下まで入れる針も、皮内針と呼んでいいものでしょうか」と質問を続けた。すると「皮下に入れるのは皮内針とはいえない」と答えた。この問答をもって、自分の考案した皮下針は、従来の皮内針とは異なることのお墨付きを頂戴したとユーモラスに語っていた。

表皮は0.2㎜、真皮は1~3㎜の厚みがある。皮内針とは針先が真皮にとどめるべく水平刺する。もし皮下組織に入るようなら、日常動作で、皮膚と皮下組織間にあるファシアがずれる際、チクッと刺痛を生ずることが多くなる。針のメーカーであるセイリンも当然この辺あたりのことは研究しているだろうから、針先は皮下組織に到達しない深さということで最長でも針長は最長でも1.5㎜にとどめたのだろう。

 


前胸部ツボ名の由来 ver.1.1

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1.前胸部経穴位置の特徴
 
前胸部は肺、心臓、乳房、横隔膜などで他に気管や胃などの重要組織があるが、前胸部のツボは、胸骨上もしくは肋間に整然と並んで、一見すると没個性的なのようにも見受けられる。では実際どういう構成になっているのだろうか。ツボの特性を大きく4つに分類して色分けした(下図)。

 

①前胸部で<青色>で示したのは肺・呼吸器関係のツボである。昔の中国では肺はハスの花に例えられたこと、あるいは肺は現代と同じく呼吸作用で、他に宣散粛降作用がある関係で、解剖学敵な肺の位置より上になっているのだろうか。
②前胸部中央<赤色>には心臓・精神関連のツボがある。中医でいう心とは、血液ポンプ+ハート(精神)の作用だった。
③心関連のツボの周囲は<緑色>で、私の分類では区分・部屋・建物といった比喩的なものを示すツボがある。これには心を守る役割もあるのだろう。
大包は、私見であるが脾の大絡として胃泡の診察ポイントであり、胃や横隔膜の動きに関係していると解釈している。
④乳房と乳汁および胃の関連は<ピンク色>で示した。食竇穴は従来は食道と解釈すると位置的に横にありすぎて合理性がないので、私は胃泡を示すものにした。なお乳根穴は文字通り乳房と関係するが、胃の大絡として心尖拍動の診察点ともなる。

      

2.胸部経穴名の由来
巻末に提示した4種の文献を参考にしたが、不満が残ったので※印として自説を示した。

1)胸骨頸切痕ライン
①天突(任) 
胸骨希頚切痕の上に向かう形。
②気舎(胃) 
「舎」=場所。肺(気の出入り)のある場所。
③缺盆(胃)  
丸い鎖骨窩を二分するのが鎖骨。これを欠けた鉢に例えた。缺盆骨=鎖骨のこと。

2)鎖骨下窩
①璇璣(任)  
北斗七星で、璇(せん)は2番星、璣(き)は3番星で、どちらも美しいという意味がある。北斗七星が北極星を中心に規則正しく回転しているように、本穴も呼吸により上下に規則正しく動く。ちなみに1番星(北極星に最も近い星)の名は「天枢」という。天枢は回転扉の軸部分をいい、天枢を軸として上半身を折り曲げる処とした。扉は開閉により位置を変えるが、軸部分は位置を変えないので、北極星に似ている。

②兪府(腎)   
 a.腎経の走行は肋骨を上行し、最後には、この穴に集結することを示す。
※b.「府」=は集合で肺の宣発作用、「兪」=輸送で肺の粛降作用をいう。すなわち兪府とは肺のもつ宣発粛降作用のこと。
吸気時、体内の水分を一度肺の処まで引き上げ、息はく時に、その水分を内臓全体に、じょうろで水をまくようにする。これはポンプの仕組みと同じ。
③気戸(胃)  
※前胸で、鎖骨と第1肋骨の間の小さな間隙を戸に例えた。気の出入りをする肺の入口。

3)第1肋間
①華蓋(任)
肺は蓮の花の形のようで、天子の頭上にある絹の傘の形(蓋)に似ている。肺は五臓六腑中で最も高い地位にあることを示す。あるいは華蓋=肺そのもの。
②彧中(腎)  
※「彧」=区切り、枠取り。肺と心の区切りのこと。
③庫房(胃)
「庫」は倉庫、「房」は厨房とか工房。その下にある臓器「肺」を収納するための部屋。

4)第2肋間
①紫宮(任)  
天帝が住んでいる星、すなわち北極星を紫微星とよんだ。紫微星とは貴重な星の意味で、心臓の位置にある。
中国皇帝といえば代々黄色(五行色体表の五方すなわち東・西・南・北・中央の中で、中央に相当するのが黄色)を重要視していた。しかし貝からとれる紫染料が非常に希少で高価なことを知ると、紫も重視するようになった。北京にある昔の皇帝の住居(故宮)の別名を紫禁城という。これは一般人が入ることのできない特別な場所との意味がある。
ちなみに聖徳太子が制定した冠位十二階の最高位も紫色だったが、この染料は安価な紫芋によるものだった。無駄な処に金を使わないという賢明なところがある。

②神蔵(腎)  
心に近い紫宮の両側で霊墟の上にあり、神霊(心)を守る。
③屋翳(胃)  
「翳」とは屋根、「翳」は羽でできたひさし。
④周栄(脾)  
「栄」は活力源で栄養素と同じ。全身に栄養素を巡らす。

4)第3肋間
①玉堂(任)  
玉堂=高貴な場所。中国の科挙合格者の中でトップが配属される部門(歴史編纂、皇帝の発言を記録)。
②霊墟(腎)
「墟」は土で盛られた高い山。 仰臥位になると霊墟は前胸部の高い位置になることから。       
秦始皇帝が築いた運河。中国の桂林市興安県に現存。
③膺窓(胃) 
「膺」は胸、「窓」は気と光を通すところ。胸部の閉塞を通すため。
④胸郷(脾)
「郷」は人が集まる村々(=故郷など)のこと。胸郭はタル型をしていて、その側面中央の断面積が最も大きい処になる。
胸の断面積が最も大きい処として胸郷と名づけた。

5)第4肋間
①膻中(任)  
a.両乳間の間を膻という。膻にはヒツジのような生臭い。乳児がいる女性では仰臥位で寝ている時など、乳頭から漏れ出た乳汁がこの部に溜まるので生臭くなることがある。
b.君主(心)の住まいである宮城(心包)の別名。
②神封(腎)  
※「神」=心、「封」=境界線。胸中線の脇で心に近い部。
③乳中(胃)  
乳頭部
④天池(包)   
肋間のくぼみのような池(汗をかくところ)
⑤天渓(脾)  
この場合の「渓」は、乳汁分泌を川に例えている。
⑥輒筋(胆)  
「輒」は荷車の左右の側板をいい、荷崩れしないで多くの荷物を積めるようにしたもの。これが転じて胸横部の前鋸筋をさす。「輒」には耳タブのように軟らかいとの意味がある。これは前鋸筋筋腹の形容になっている。
⑦淵腋(胆)  
 脇の下に隠れる水溜まり。腋下の汗をかきやすい部。
                                   
6)第5肋間
①中庭(任) 
「庭」=宮殿(君主)正面の庭園。膻中(宮殿)の下に位置する。胸骨体下端の陥み(胸骨体下端)で、腹直筋停止部になる。
②歩廊(腎) 
「廊」とは建築用語で、2列の柱を繋ぐために作られた通路(腹直筋停止)のこと。歩道橋が代表的。中庭穴を跨ぐように左右の肋軟骨上に歩廊穴がある。
③乳根(胃)あ
 乳頭の根元。乳根は胃の大絡であり、心拍による左前胸部の上下動を虚里(わずかな振幅)の動ととらえた。
④食竇(脾)  
※「竇」=洞。左食竇は胃泡のこと。胃の中に食物が入る場所との意味。  
従来の説では「食道」と解釈するが、本穴の位置は前正中付近にはない。


7)胸骨弓縁、その他
①極泉(心)  
泉(汗)がわき出る最も高いところ。
②期門(肝) 
十二正経は肺経の中府から始まり、肝経の期門で終わる。一周りしたとの意味。
③日月(胆)   
日月(胆募)の上方5分には期門(肝募)がある。
※「肝胆相照らす」との表現にあるように、両雄とも影響を受け合う存在。期門と日月は影響を受け合うことを示す。
④章門(肝)  
※「章」=ひとまとまり。他の肋骨と異なり、本穴は第11肋骨前端という浮遊肋骨にあることを示す。
⑤京門(胆)
※「京」はみやことの意味の他に、高い丘の意味がある。京門は第12肋骨前端という浮遊肋骨にあることを示す。
⑥大包(脾)   
脾の大絡として、内臓診察点。
※左大包は胃泡を示す(打診で鼓音の存在で調べたのだろう)。その上の横隔膜の動きにも関与。横隔膜は陰である胸部臓腑と陽である腹部臓腑の境界。
⑦鳩尾(任)  
剣状突起が鳩の尾の形に似ていることから。

 

引用文献
①森和監修 王暁明ほか著「経穴マップ」医歯薬
②周春才著 土屋憲明訳「まんが経穴入門」医道の日本社
③ネット:翁鍼灸治療院 HP
④ネット:経穴デジタル辞典  ALL FOR ONE
⑤漢和辞典「漢字源」学研

 

尿路結石の疝痛は、側臥位での外志室深刺が効く理由 ver.1.1

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1.尿路結石の概要

尿路とは腎杯、腎盂、尿管、膀胱、尿道に至るまでをさす。尿路結石は腎臓の腎盂で尿の成分の一部が結石を作り、尿路の中に存在している状態で 尿管などにつまると激しい痛みなどをおこす。95%は上部尿路結石(腎杯~尿管)である。

 

2.尿路結石疝痛の疼痛反応の意味 


  
三主徴は、突然の激痛・血尿・結石排出。尿路結石は突然生ずる激しい痛みが特徴。

1)腰痛~鼠径部痛

尿路結石の痛みは腎盂内圧の上昇および尿管壁の急激な伸展刺激のため、突然に排尿困難+腰痛が出現。内臓体壁反射は、Th11~L2デルマトーム領域で、片側の腎臓~側腹~下腹部~睾丸あたりの疝痛となる。腎臓~尿路は交感神経優位な内臓なので、Th11~L2の交感神経デルマトーム(=臨床上は体性神経デルマトームの利用可)反応が出現すると考えがちだが、そういう訳ではない。

脊髄のL1~S2領域は、内臓体壁反射を起こさないからである。なぜ内臓体壁反射が起こらないのか。それはこの部分の脊髄は下肢の知覚・運動を担当していて、仕事量が多く内臓反応を呈する余裕がないのである。内臓の病的反応としてL2に入力された反応は、それを交感神経反応として体壁に反映されることなく、L2の前枝・後枝の体性神経反応として出現することになる。L2前枝は、とくに腸骨下腹神経あるいは腸骨鼠径神経として鼠径部~大腿内側に痛みが放散する。体性神経痛ということは、針灸が得意とする整形外科的な腰痛と同じ性質の痛みなので、針灸が非常に効果があるのも当然である。

 

   

尿路結石疝痛の薬物療法は、一般的な腹痛止めであるブスコパン(抗コリン剤で、鎮痙作用、消化管運動抑制作用)などの鎮痙剤はあまり効果なく、鎮痛剤が効果あることも、この考察を裏付ける。

 

2.尿路結石の針灸

体性神経性の痛みには針灸は効果を発揮する。筆者は側臥位で志室外方に生じた最大押圧部位に深刺して強刺激を与え、体性神経性の痛み(筋々筋膜痛)を緩和させるようにしている。これは腰神経叢刺激になっている。筆者は病院での研修時代、尿路結石疝痛3例に行い、すべて鎮痛できた。なお外志室への刺針や持続強圧指圧によっても速効する。代田文彦医師は、医師になりたてで薬物治療の経験があまりない頃、尿路結石の患者の志室に持続圧痛して鎮痛させた経験を話してくれた。

代田文彦医師は、「鎮痛させることが結石排石につながるかどうかは、確認する方法がないので不明だが、感触としては排泄につながるのはないか」と語っている。患者が尿路結石疝痛鎮痛後に、小便をした際、たまに小さな結石が出たのを視認するケースがあり、このような申告を聴けば即刻退院となる。


3.文献

①90%は上部尿路系結石であり、仙痛は結石の部位に関係なく、第3腰椎横突起の高さで 大腰筋外側線近傍に圧痛が出現し、この押圧により速効する。鎮痙・鎮痛剤が無効だった者でも速効 し(有効率100%)、再発率も少ない 疼痛部位も志室外方の側腹部であることが多い。
田中亮「東洋医学の泌尿器.科的疾患の応用」(日本医事新報、昭54.6.23)
 
②針を受けた腎疝痛の患者群は、より速やかに鎮痛効果が始まり、副作用もなく、標準的な鎮痛処置を受けた患者群と同様の疼痛緩和が得られた(Lee 1992)  (Edzard Ernest & Adrian White 山下仁ほか訳「鍼による科学的根拠」医道の日本社 2001.6)

前胸部ツボ名の由来 ver.1.1

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1.前胸部経穴位置の特徴
 
前胸部は肺、心臓、乳房、横隔膜などで他に気管や胃などの重要組織があるが、前胸部のツボは、胸骨上もしくは肋間に整然と並んで、一見すると没個性的なのようにも見受けられる。では実際どういう構成になっているのだろうか。ツボの特性を大きく4つに分類して色分けした(下図)。

 

①前胸部で<青色>で示したのは肺・呼吸器関係のツボである。昔の中国では肺はハスの花に例えられたこと、あるいは肺は現代と同じく呼吸作用で、他に宣散粛降作用がある関係で、解剖学敵な肺の位置より上になっているのだろうか。
②前胸部中央<赤色>には心臓・精神関連のツボがある。中医でいう心とは、血液ポンプ+ハート(精神)の作用だった。
③心関連のツボの周囲は<緑色>で、私の分類では区分・部屋・建物といった比喩的なものを示すツボがある。これには心を守る役割もあるのだろう。
大包は、私見であるが脾の大絡として胃泡の診察ポイントであり、胃や横隔膜の動きに関係していると解釈している。
④乳房と乳汁および胃の関連は<ピンク色>で示した。食竇穴は従来は食道と解釈すると位置的に横にありすぎて合理性がないので、私は胃泡を示すものにした。なお乳根穴は文字通り乳房と関係するが、胃の大絡として心尖拍動の診察点ともなる。

      

2.胸部経穴名の由来
巻末に提示した4種の文献を参考にしたが、不満が残ったので※印として自説を示した。

1)胸骨頸切痕ライン
①天突(任) 
胸骨希頚切痕の上に向かう形。
②気舎(胃) 
「舎」=場所。肺(気の出入り)のある場所。
③缺盆(胃)  
丸い鎖骨窩を二分するのが鎖骨。これを欠けた鉢に例えた。缺盆骨=鎖骨のこと。

2)鎖骨下窩
①璇璣(任)  
北斗七星で、璇(せん)は2番星、璣(き)は3番星で、どちらも美しいという意味がある。北斗七星が北極星を中心に規則正しく回転しているように、本穴も呼吸により上下に規則正しく動く。ちなみに1番星(北極星に最も近い星)の名は「天枢」という。天枢は回転扉の軸部分をいい、天枢を軸として上半身を折り曲げる処とした。扉は開閉により位置を変えるが、軸部分は位置を変えないので、北極星に似ている。

②兪府(腎)   
 a.腎経の走行は肋骨を上行し、最後には、この穴に集結することを示す。
※b.「府」=は集合で肺の宣発作用、「兪」=輸送で肺の粛降作用をいう。すなわち兪府とは肺のもつ宣発粛降作用のこと。
吸気時、体内の水分を一度肺の処まで引き上げ、息はく時に、その水分を内臓全体に、じょうろで水をまくようにする。これはポンプの仕組みと同じ。
③気戸(胃)  
※前胸で、鎖骨と第1肋骨の間の小さな間隙を戸に例えた。気の出入りをする肺の入口。

3)第1肋間
①華蓋(任)
肺は蓮の花の形のようで、天子の頭上にある絹の傘の形(蓋)に似ている。肺は五臓六腑中で最も高い地位にあることを示す。あるいは華蓋=肺そのもの。
②彧中(腎)  
※「彧」=区切り、枠取り。肺と心の区切りのこと。
③庫房(胃)
「庫」は倉庫、「房」は厨房とか工房。その下にある臓器「肺」を収納するための部屋。

4)第2肋間
①紫宮(任)  
天帝が住んでいる星、すなわち北極星を紫微星とよんだ。紫微星とは貴重な星の意味で、心臓の位置にある。
中国皇帝といえば代々黄色(五行色体表の五方すなわち東・西・南・北・中央の中で、中央に相当するのが黄色)を重要視していた。しかし貝からとれる紫染料が非常に希少で高価なことを知ると、紫も重視するようになった。北京にある昔の皇帝の住居(故宮)の別名を紫禁城という。これは一般人が入ることのできない特別な場所との意味がある。
ちなみに聖徳太子が制定した冠位十二階の最高位も紫色だったが、この染料は安価な紫芋によるものだった。無駄な処に金を使わないという賢明なところがある。

②神蔵(腎)  
心に近い紫宮の両側で霊墟の上にあり、神霊(心)を守る。
③屋翳(胃)  
「翳」とは屋根、「翳」は羽でできたひさし。
④周栄(脾)  
「栄」は活力源で栄養素と同じ。全身に栄養素を巡らす。

4)第3肋間
①玉堂(任)  
玉堂=高貴な場所。中国の科挙合格者の中でトップが配属される部門(歴史編纂、皇帝の発言を記録)。
②霊墟(腎)
「墟」は土で盛られた高い山。 仰臥位になると霊墟は前胸部の高い位置になることから。       
秦始皇帝が築いた運河。中国の桂林市興安県に現存。
③膺窓(胃) 
「膺」は胸、「窓」は気と光を通すところ。胸部の閉塞を通すため。
④胸郷(脾)
「郷」は人が集まる村々(=故郷など)のこと。胸郭はタル型をしていて、その側面中央の断面積が最も大きい処になる。
胸の断面積が最も大きい処として胸郷と名づけた。

5)第4肋間
①膻中(任)  
a.両乳間の間を膻という。膻にはヒツジのような生臭い。乳児がいる女性では仰臥位で寝ている時など、乳頭から漏れ出た乳汁がこの部に溜まるので生臭くなることがある。
b.君主(心)の住まいである宮城(心包)の別名。
②神封(腎)  
※「神」=心、「封」=境界線。胸中線の脇で心に近い部。
③乳中(胃)  
乳頭部
④天池(包)   
肋間のくぼみのような池(汗をかくところ)
⑤天渓(脾)  
この場合の「渓」は、乳汁分泌を川に例えている。
⑥輒筋(胆)  
「輒」は荷車の左右の側板をいい、荷崩れしないで多くの荷物を積めるようにしたもの。これが転じて胸横部の前鋸筋をさす。「輒」には耳タブのように軟らかいとの意味がある。これは前鋸筋筋腹の形容になっている。
⑦淵腋(胆)  
 脇の下に隠れる水溜まり。腋下の汗をかきやすい部。
                                   
6)第5肋間
①中庭(任) 
「庭」=宮殿(君主)正面の庭園。膻中(宮殿)の下に位置する。胸骨体下端の陥み(胸骨体下端)で、腹直筋停止部になる。
②歩廊(腎) 
「廊」とは建築用語で、2列の柱を繋ぐために作られた通路(腹直筋停止)のこと。歩道橋が代表的。中庭穴を跨ぐように左右の肋軟骨上に歩廊穴がある。
③乳根(胃)あ
 乳頭の根元。乳根は胃の大絡であり、心拍による左前胸部の上下動を虚里(わずかな振幅)の動ととらえた。
④食竇(脾)  
※「竇」=洞。左食竇は胃泡のこと。胃の中に食物が入る場所との意味。  
従来の説では「食道」と解釈するが、本穴の位置は前正中付近にはない。


7)胸骨弓縁、その他
①極泉(心)  
泉(汗)がわき出る最も高いところ。
②期門(肝) 
十二正経は肺経の中府から始まり、肝経の期門で終わる。一周りしたとの意味。
③日月(胆)   
日月(胆募)の上方5分には期門(肝募)がある。
※「肝胆相照らす」との表現にあるように、両雄とも影響を受け合う存在。期門と日月は影響を受け合うことを示す。
④章門(肝)  
※「章」=ひとまとまり。他の肋骨と異なり、本穴は第11肋骨前端という浮遊肋骨にあることを示す。
⑤京門(胆)
※「京」はみやことの意味の他に、高い丘の意味がある。京門は第12肋骨前端という浮遊肋骨にあることを示す。
⑥大包(脾)   
脾の大絡として、内臓診察点。
※左大包は胃泡を示す(打診で鼓音の存在で調べたのだろう)。その上の横隔膜の動きにも関与。横隔膜は陰である胸部臓腑と陽である腹部臓腑の境界。
⑦鳩尾(任)  
剣状突起が鳩の尾の形に似ていることから。

 

引用文献
①森和監修 王暁明ほか著「経穴マップ」医歯薬
②周春才著 土屋憲明訳「まんが経穴入門」医道の日本社
③ネット:翁鍼灸治療院 HP
④ネット:経穴デジタル辞典  ALL FOR ONE
⑤漢和辞典「漢字源」学研

 

肋間神経痛の針灸治療 ver.3.1

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1.肋間神経痛の原因

特発性は比較的若い女性に多く、左側の第5~第9肋間領域に多い。成書には、特発性は少なく大部分は症候性であると記されているものが多いが、針灸に来院する患者の大部分は特発性であり、帯状疱疹による肋間神経痛も来院する。


2.肋間神経の走行と神経支配

①第1~第6肋間神経
肋間を胸骨縁に向かって走行し、前胸の肋骨に相当する部の肋間部の筋運動と、深部知覚を支配する。その皮枝は前胸壁皮膚知覚を支配する。皮枝には外側皮枝の外側枝と内側枝、皮枝の外側枝と内側枝がある。
②第7~第12肋間神経
途中までは肋間部を走行するが、腋窩線あたりから内腹斜筋と腹横筋の間を走行し、腹白線に至る。腹壁筋の運動と深部知覚を支配する。その皮枝は鼡径部を除く腹壁の知覚を支配する。要するに腹部の大半は肋間神経支配になる。
 


3.旧来の針灸治療法
   
特発性(原因不明)の肋間神経痛は、これまで神経の刺激によるものと考えられていた。そして神経が深層から表層に出る部が治療点だとされていることから、脊柱点・外側点(側胸点)・前胸点を取穴するのが定石だった。まあこの治療点を刺激しても大した効果は得られず、ゆっくりと改善するのが常だった。これでは自然治癒なのか鍼灸の効果なのか判然とせず、悔いの残る治療となることも多々あった。
  
①脊柱点:脊柱外方3㎝の処。胸神経後枝が表層に出る部。
②側胸点(外側点):前腋窩線上。前枝の外側皮枝が表層に出る部。
③前胸点(胸骨点):胸骨外方3㎝。前枝の前皮枝が表層に出る部。
第6肋間神経以下は腹部肋間神経痛として現れ、前胸点に相当する圧痛点は腹直筋外縁に出現し、「上腹点」と称する。

実際にはある範囲全体がまんべんなく痛むようで、特定の圧痛点を見いだすのは困難であることが多い。教わったことと違っている事実を知り愕然とした。

 

 

 

 

4.特発性肋間神経痛の新しい方法

近年、特発性肋間神経痛は胸椎の椎間関節や肋椎関節の機能異常や炎症によるものだと認識されるようになった。椎間関節は脊髄神経後枝支配なので、問題となる関節は肋椎関節と胸椎部の回旋筋群系(後枝支配)であるが、肋椎関節の関節症が真因だとしても、結局は回旋筋群系のトリガーが活性化して肋間神経(=胸部脊髄神経前枝)痛を起こすことになる。
胸椎背面の筋構造は次の通りである。
   
1)背部一行の最浅層に脊柱起立筋の棘突起側の筋として棘筋がある。棘筋は頸椎~胸椎に存在する。
2)棘筋の下層は回旋筋群系で、椎体の横突起と棘突起を結ぶことから、横突棘筋ともばれる。横突棘筋は、浅層から深層にかけて順に、半棘筋、多裂筋、長(短)回旋筋になり、どれも脊髄神経後枝支配。胸椎は左右の回旋性に富むので、長(短)回旋筋が発達している。
3)横突棘筋の語呂:浅層から深層に向けて、は(半棘筋)だ(多裂筋)か(長短の回旋筋)
 

上図で、脊柱起立筋(棘筋、最長筋、腸肋骨筋)は肋間神経痛にはあまり関係がない。棘筋の深層にある回旋系筋が関係する。胸部回旋筋群は、浅層から深層に半棘筋、多裂筋、長短の回旋筋になる。とれもこれらの回旋筋の筋膜癒着が、おそらく肋間神経痛に関与している。

回旋筋のオリジナル語呂:浅層から深層方向に、は(半棘)だ(多裂)か(回旋)

5.肋間神経痛の針灸治療
 
症状部に応じた短背筋群に対して刺針する。座位で棘突起外方1寸(1.5 ~2㎝)から2~3㎝深刺して緊張して硬くなっている回旋筋々膜まで針先を入れる。最深部の短背筋群の硬結に対して、細かな雀啄手技を行い、症状のある肋間神経痛部に響かせる。

上図は、遺体解剖から描いたもので、横突棘筋に刺入する。横突棘筋とは、半棘筋、多裂筋、長短の回旋筋の総称で、横突起とその上方の棘突起を結んでいることから、この名称がつけられた。
どれも小さな筋なので、この3筋のどれに刺入すべきかは判断きない。2~3㎝刺入して、硬い筋膜に到達したら、それを緩めるためこまかな上下動の手技針をしたり置針する。


なお第7~第12肋間神経は、横隔膜辺縁を知覚支配しているので、棘突起外方1寸から深刺は、刺針刺激が肋間神経に沿って側面~前側に響くというより、横隔膜中へ響くように感ずる。
これが柳谷素霊著「秘法一本鍼伝書」の五臓六腑の膈兪針と脾兪針の原理だと思われた。

 

6.特発性肋間神経痛に対する傍神経刺について

肋間神経痛の治療は、反応ある胸椎(第5~9肋間が多い)に対応する肋横突関節および関節周囲の肋間筋に対する施術を行う。この治療法は、木下晴都氏の創案した「肋間神経痛に対する傍神経刺」そのものである。(木下晴都:肋間神経痛に対する傍神経刺の臨床的研究、日鍼灸誌、29巻1号、昭55.2.15)

①2寸#5針を使用
②症状にある胸椎棘突起から外方2横指(3㎝)を刺入点とする。
③10°内方にむけて直刺4㎝。この時、気胸には十分注意する。
④5秒留めて静かに抜針  
⑤最初の2~3回は毎日、その後は隔日、または1週間に2回程度の施術とした。
⑥102例の肋間神経痛患者に対して傍神経刺をおこなったところ、91%が優、6%が良、3%が不変、悪化例はなかった。うち優の結果を得た93例をみると、発症1~7日の52例では平均2.9回治療。8~15日の18例では4.6回、16~30日の12例では7.9回、3ヶ月以上経過した4例では11.5回だった。

 

上記の報告は非常に内容が充実していて、刺針方法は今回の私が説明しているものに似ている。ただし上図「肋間神経痛の傍神経刺」は間違いがあるので、これを指摘しておきたい。
これは椎体の外縁を通り抜け、肋骨間をすりぬけるように刺入している。針は外肋間筋にまで刺入することになっているが、これは肋間神経に影響を与えることを目的としているからで、刺針深度も4㎝と深い。外肋間筋のすぐ深部には肺実質があるから気胸事故も起きるかもしれない。この図は肋骨や胸椎横突起が描かれていないので、その危険性が分かりにくくなっている。

今回私が説明しているのは、横突棘筋(脊髄神経後枝支配)の癒着を緩めることを目的とした刺針なので、木下の考えとは異なる。特発性肋間神経痛の発端として神経痛が特発するのではなく、横突棘筋の緊張あるいは筋膜癒着によりトリガー活性化して二次的に肋間神経痛が生じたものではないか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

肛門奥の痛みに肛門挙筋刺針が有効だった症例の考察 ver.1.5

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2022.10.4発表ブログ

最近、肛門奥の痛みを訴える患者(51才、男)に対し、治療1回目から大幅に鎮痛できた経験をした。本患者は、10年来、肛門奥の鈍痛でとくに小便時に肛門の違和感を感じる。右8左2の割合で痛むとのこと。これまで色々な医療施設を受診したが、症状の改善はなかった。その中で最も効果あった治療は、直腸へ局麻注射で数字間の鎮痛を得た。私のブログを見て自ら内閉鎖筋刺針を希望してきた。そこで内閉鎖筋刺針を行い、症状軽減した。ただし詳しく問診すると、肛門奥の痛みは鎮痛できたが、肛門表面の痛みは改善していないとのことだった。肛門奥の痛みは肛門挙筋の筋緊張によるもので,肛門挙筋刺針で改善したが、肛門表面の痛みはまた別の種類(外肛門括約筋もしくは陰部神経の痛み)ということだろうか。(内肛門括約筋は体性神経支配ではないので痛みを感じない)

これまで肛門奥の痛みは何例も治療にあたってきたが、効果が出せず色々な方法を試していたが、やっと結果が出た。そこでこれまでも書いてきたことではあるが、肛門奥の痛みについて整理してみたい。


1.肛門奥の痛みについて

これまで肛門奥の痛みを、慢性前立腺炎だろうと判断し、それには陰部神経刺針という方式で行ってきた。しかし慢性前立腺炎だという診断は不確かなものである。病態はあまり解明されておらず、非細菌性で、 <前立腺に由来すると考えられる頻尿、排尿痛、排尿時不快感、残尿感、下腹部~会陰部~鼡径部の不快感など多彩な訴え>といった訴えを慢性前立腺炎の類だろうとしているらしい。
 
一方、特発性肛門痛といった病名のあることも知った。それは「排便とは無関係に突然肛門が痛くなる。長く座っていると肛門が痛くなる」といった訴えがあるも、肛門診察では明確な所見は認めないというもので、治療に決め手を欠くという。本症の原因として、肛門挙筋の筋肉の痙攣が考えられているという。これをとくに肛門挙筋症候群というらしい。なお肛門挙筋は体性神経である陰部神経支配。



2.陰部神経刺針は仙棘靭帯を目標にしているのか
 
陰部神経刺針として陰部神経刺針点から深刺して針先を陰部神経に命中させ、肛門、肛門奥、性器などに響かせる方法が代表である。(陰部神経刺針の方法について本ブログに紹介済)。この方法が効果あるのは、梨状筋症候群のトリガー活性で坐骨神経痛様症状を生ずるのと同じように、陰部神経が縦走する仙棘靭帯を目標に刺針しているのではないかと考えるに至った。実技的にも陰部神経刺針と仙棘靭帯刺針の技法はほぼ同一になる。




3.陰部神経に影響を与える筋・靭帯には、前術の仙棘靭帯以外に、仙結節靭帯・内閉鎖筋・肛門挙筋がある。

1)仙結節靭帯と内閉鎖筋
 
骨盤下方の陰部神経は、内閉鎖筋と仙結節靭帯にサンドイッチされて走行している。
仙結節靭帯に緊張があれば、坐骨結節の内上方5㎝あたりに圧痛が出現するので、これが治療点となる。
内閉鎖筋は深いので殿部からは触知できない。①仰臥位で膝を立てさせる、②術者は坐骨結節を確認し、坐骨結節の内縁を深々と押圧して圧痛硬結の触知に努める。触知できれは、硬結目指して3寸8番針で5㎝ほど刺入する。

これで触知できない場合、患側大腿を高く挙上させ載石位をとらせ、同時に膝裏に術者の肘を入れて股関節屈曲姿勢を保持。パンツを下の方にずらすが、誤解を避ける意味で、肛門や性器を露出させないこと。トランクス型のパンツではパンツを下ろさず、裾のから指を潜らせ、坐骨結節の内縁を深々と押圧して圧痛硬結を触知する。触知できれは、3寸8番針で5㎝ほど刺入する。アルコック管・内閉鎖筋方向に水平刺する。誤って直刺すると坐骨神経に影響を与え下肢に響きを与えてしまう。

上述の砕石位にさせて内閉鎖筋刺針を行うことは、患者の下肢の体重を術者の肘で押しつけている訳で、術者側の力を結構必要とする。力を入れた状態で内閉鎖筋の圧痛硬結を探り、刺針することは大変体力を使う。そこで私は、以下の肢位をすることを思いついた。以来、ずいぶんやりやすくなった。
なお刺針方向は仙骨に沿うように斜刺する。直刺した場合、大腿後側に響くが後大腿皮神経を刺激した結果で、大腿後側痛に適応がある。

患者にとって最も羞恥心が少なくて済むのは、ジャックナイフ位だろう。

2)肛門挙筋症候群
   
特発性肛門痛では、肛門挙筋の痙攣による痛みが関係しているという見解がある。肛門挙筋は陰部神経(体性神経)支配となる。
肛門挙筋を刺激する目的で、私は尾骨外端の外方3㎝あたりから5~7㎝直刺深刺している。この刺針の体位も、砕石位のような体位で行うので、結果的には先に記した内閉鎖筋刺針とよく似た方法になる。両者は結局同じこをとをしているのかもしれない。

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