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腰背部刺針、四つの狙い処 総集編

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背部一行刺針(棘突起肺胞5分)刺針と、棘突起外方1寸刺針、さらに棘突起外方3寸からの刺針の相違について整理した。断片的には、これまでも当ブログ内で部分的に説明したものだが、それぞれの違いについても記してみた。私の私見も多く入っているので、初心者向き内容とはいえないが、本質的な内容を問うものとなっている。

1.固有背筋の種類
     起始・停止とも腰背部にある筋を固有背筋とよぶ。固有背筋は次のように分類されている。


             
     

2.浅層筋
 
固有背筋は浅層筋は起立筋で、起立筋は抗重力筋として作用する。起立筋は棘筋・最長筋・腸肋筋の3種類あるが、これら3筋間はしっかりとした筋膜(ファッシア)で隔離しているわけではないので、筋膜癒着による痛みは起こらない。たとえば最長筋と腸肋筋の筋間はファッシアがないので、ファッシア癒着による痛みは起こりようがない。

起立筋浅層は胸腰筋膜浅葉に覆われるが、腰痛症で腎兪や大腸兪に圧痛はあまり出ないことから、起立筋筋膜は腰痛との関連は薄いと私は理解するようになった。
起立筋を覆う浅層ファッシアや皮下筋膜をターゲットとして1㎝程度の多数浅刺置針をすることはある。背中全般のコリ、体調不良、あるいは不眠症というような、交感神経緊張症に対するリラクセーション目的の治療に使うのが自分流である。


3.深層筋(棘突起外方5分)
棘突起外方5分は、昔から背部一行あるいは夾脊(ないし華佗夾脊)と名づけられた。

第1胸椎棘突起から第5腰椎棘突起までの、棘突起から外方5分(あるいは棘突起直側)から直刺深刺すると、針は浅層で棘筋を貫通して深層で半棘筋・多裂筋・長短の回旋筋それぞれの起始部に入る(腰椎部に棘筋はなく、その代わりに多裂筋が発達しており、多裂筋刺針になる)。支配神経は、脊髄神経後枝内側枝。

専門医の間でも急性腰痛の原因筋として多裂筋が問題だとする見解がみられるようだが、腰椎の棘突起傍の圧痛を調べると、Th12/L1間とL5/S1間を除き、他の腰椎棘突起傍5分には圧痛がみられることはめったにないという事実があるので、私としては多裂筋を急性腰痛の主因と考えることはできないと考えている。

背部一行で圧痛が多発するのは胸椎部で、ここは長・短回旋筋である。胸椎は左右の回旋可動域が大きいので、過剰な回旋のストッパーとしての機能が長・短回旋筋に与えられている。

胸椎の正常可動域を越えた回旋では、長・短回旋筋に伸張ストレスが加わり、これが痛みの原因となるだろう。半棘筋は頸椎~胸椎に分布しているが、頭や頚の重量を支持する意味があるので、胸椎運動との関わりは、長・短回旋筋ほど密接ではない。
 

脊椎一行に圧痛は多発するが、椎体棘突起の側面を母指腹でこすりつけるように押圧した際、圧痛を伴うグリグリした肥厚を触知する部が治療点となる。健常部はこのような肥厚はみられない。正常であれば皮下組織の上層と下層は身体の動きによって滑走するのだが、この間のファッシアの癒着があると、上層のみつまみあげることができず、上層と下層ともにつまむので分厚くしかも撮痛を感ずる。これは撮診法による撮痛部であることを示し、浅層ファッシアの癒着部であることを示している。胸椎背部一行の皮膚知覚支配は、脊髄神経後枝内側枝であり、深部の半棘・多裂・長短の回旋筋も同様に後枝内側枝が運動支配している。


胸椎の棘突起外方5分から深刺して長短回旋筋に刺入すると、後枝外側枝興奮による背痛だけでなく、前枝症状である側胸腹部~前腹部の痛みまで改善できることは、解剖学的に考えにくいことだが、私はこの長期間の現象を観察してきた。たとえば本態性肋間神経痛による側~前胸部痛が、多裂筋刺針で改善できるケースが非常に多いことを確認した。

この数十年、慢性虫垂炎と診断された右下腹に限局した痛みも、Th12/L1レベルの夾脊刺針で改善できたりする。 横突棘筋の圧痛と、症状部の位置関係は、脊髄神経の後枝皮枝の走行に従うことを発見した。撮痛帯を調べると、結果として背部一行上の圧痛点を始点として外下方60°(あるいは45°)方向に出現する。

 

筋筋膜性疼痛症候群(MPS)とは? 日本では「筋痛症」と言われる事

 

 

  このような反応パターンで最も臨床で遭遇するのが、メイン症候群(Th12/L1間椎間関節症を原因とした腸骨陵上部の放散痛)といえる。実際の針灸臨床では、症状部を確認したら、その内上方60°の棘突起傍の反応を調べ、その圧痛点に刺針するという逆の手順で行う。

4.深層筋(棘突起外方1寸)

腰背部の深層筋は椎体の棘突起~横突起間にあるのが特徴で、その起始停止より横突棘筋と総称される。横突棘筋は、浅層から深層の順に、半棘筋・多裂筋・長短回旋筋となる。
 棘突起の外方1寸から深刺すると、まさしく横突棘筋を刺激できる。横突棘筋を刺激するなら、前述の棘突起外方5分からの深刺と大差ないのではないかと思うだろうが、外方1寸からの深刺には、体幹前前に回り込むように響くという性質がある。外方5分からの深刺では遠くまで響くような針響はまず起こらない。

1)本態性肋間神経痛の針治療につて

本態性肋間神経は、肋間神経走行部周囲筋(内・外肋間筋)が緊張し、神経を絞扼した結果、
その部より末梢を走行する神経痛だとされていた。しかし改めて基本に立ちかえると、知覚神経は上行性の神経でって、たとえば足関節捻挫の痛みは上行性の知覚神経を通って中枢に伝わって、脳が「痛い」と認識される。これと同様に考えると、肋間神経痛は実は筋のトリガーポイント活性の結果として出現した筋の放散痛だろうとする認識がある。これがMPS(筋々膜性疼痛症候群)の考え方になる。肋間神経痛様症状は、横突棘筋のトリガー活性が主因で、その放散痛がたまたま肋間領域に現れたと理解する。

 

2)咳嗽、喘息に対する針治療について

成書をみると、咳嗽や喘息といった副交感亢進状態となった胸部症状に対して、座位でTh1~Th5棘突起の外方1寸から深刺(または多壮灸)するという治療法が数多く書かれていて、定番治療となっているかのようである。座位で施術するのは、交感神経優位に誘導するための方法。そこに上部胸椎の背部一行に強刺激を与える。肺や気管支の内臓体壁反射中心帯はTh1~Th5なのでこれ体壁内臓反射をねらった施術であると同時に、強刺激することで交感神経優位にするねらいがある。
ところでTh1~Th5棘突起の外方1寸からの深刺は、横突棘筋への刺激を目的としているのだが、このような刺針をすると、脊柱に沿って下方に響いたり前胸壁に響いたりする。これも横突棘筋を刺激した放散痛といえる。


3)柳谷素霊の五臓六腑の針について

膈兪~脾兪付近の高さの横突棘筋に刺入すると、肋間に沿って回り込むような響きが得られるこもあるが、それ以上に横隔神経を刺激できることが重要である。Th7~Th12の高さの胸郭深部には、横隔膜停止部が付着している。横隔膜の閾値は低いので、横隔膜に響かせることもできる。
横隔膜への針響は、被験者にとっては未経験なことが多く、胸に響いた、胃に響いた、みぞおちにに響いたなどと表現する。柳谷素霊が「秘法一本針伝書」で示した五臓六腑の針(膈兪、脾兪、腎兪)は、この横隔膜神経に響かせたものであると説明できる。腎兪は横隔膜辺縁部ではなく、横隔膜脚を刺激するという意味がある。


                       

             

5.背部3行線(棘突起の外方3寸)
  
背部3行線とは膀胱経背部2行線のことで、志室・胃倉などが並ぶラインである。
志室の取穴は、解剖学的には腸肋筋と腰方形筋の筋間を取穴する。腸肋筋は脊髄神経後枝支配、腰方形筋は分類適には腹筋の一部で腹筋は脊髄神経前枝支配。両者の筋間には胸腰筋膜深葉という強靱な筋膜が発達していて、深部に腰神経叢もあるので、この2筋間を刺入点として針を横突起に向けて刺入すると、広範な針響を与えることができる。
主な適応は慢性腰痛の他に、下腹部・鼠径部・陰部・大腿前面・大腿内側症状に適応があり、尿路結石疝痛の鎮痛にも有効である。

胃倉は下中背部でTh12/L1棘突起間の外方3寸にある。このあたりは筋構造が複雑な外縫線部(側腹筋と背筋の接合部で筋が複雑に入り組んでいる)部なので筋膜癒着が起きやすい。胃倉は慢性背痛の他に胆石症の鎮痛に効果がある。

 

6.まとめ

1)背腰痛は脊髄神経後枝興奮症状なので、背部一行(棘突起外方5分)刺針を用いる。後枝内側枝興奮の原因は、横突棘筋ファッシアの癒着による滑走不良の結果である。

2)体幹前面が痛むのは脊髄神経前枝興奮症状されるが、これは横突棘筋のトリガー活性した筋放散 痛だろうと考えている。針治療としては棘突起外1寸から深刺して横突棘筋に刺入する。この好例として、本態性肋間神経痛に対する横突棘筋への刺針があげられる。

3)Th7~Th12の高さの横突棘筋刺針は、横隔膜辺縁部を支配する肋間神経支配なので、この範囲の棘突起外方1寸からの深刺は、横隔神経を刺激し、横隔膜に響く。これを被験者は胃に響く、あるいはみぞおちに響くなどと表現することが多い。 この刺法を柳谷素霊は、五臓六腑の針と称したのであろう。

4)棘突起外方3寸の流れは、中背部では外縫線、腰部では胸腰筋膜深葉の存在により筋膜癒着の好発部位である。筋膜を刺激して滑走性を回復させる目的で、胃倉や志室から刺針する。


ブログ「現代針灸治療」とテキスト「現代針灸臨床論」10年前との比較

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「現代医学的鍼灸」という気負ったタイトルでブログを開始したのは、2006年3月11日からであった。今から17年9ヶ月前で、私が53才の頃だった。すなわち現在、古希を迎えた。あとどれくらい頑張って続けられるかは分からない。当記事約1年ほど前からは、タイトルを現在の「現代針灸治療」とシンプルなものにした。

最初の頃は、「現代針灸臨床論」という鍼灸学生用テキストとしてすでに存在した内容を、ブログとして発表しただけだったので、とくに苦労を感じなかった。現在の発表ブログ数は473題だが、200題を越えた頃から、発表するネタがなくなっていった。そこから先は、考えたり調べたりして新たな内容を創作し、その内容をテキスト内容に付け加えるという作業を繰り返しつつ現在に至った。

「現代針灸臨床論」では授業時間の兼ね合いから、一つの章を基本的に20ページ未満とにし、プリント配布の関係から白黒印刷に対応する図しか載せられなかった。しかし現在、教員を辞めて以来、こうした制約はなくなり自分の思うようなテキストに変化してきた。
その結果、テキストページ数は、かつての1.5倍で、必要に応じて、カラー図も増えていった。ネット上で「現代針灸臨床論」(売価11,000円)このテキスト販売を開始してから、約十年が経過した。コンスタントに月平均4枚程度購入希望者が連絡してくるのを嬉しく思っている。このテキストは頻繁に内容が刷新されているが、平成29年4月4日時点で目次は次のようになっている。

 

5年前に平成29年4月4日で目次を記したが、本日は令和4年4月26日で、あれから5年が経過した。この5年間にテキストがどのように変化したのか比較してみた。新たな内容を加えつつ、ページ数増大を防ぐため削除した内容も少なくなかった。全体で10%程度ページ数が増加となった。ブログ発表数は418題で、5年前の316題と比べ102増えた。
5年前が黒字、現在が赤字。

 

現代針灸臨床論Ⅰ(H29.4.4  計297ページ)→(R4.4.26  計330ページ)
整形・ペインクリニック領域

第1章 頭痛(p19)(p23)
 1節 針灸不適応の頭痛の除外
 2節 針灸適応となる頭痛の概要
 3節 頭痛の鑑別診断
 4節 頭痛の針灸治療

第2章 頸腕痛(p35)(p31)
 1節 頸腕痛疾患の概要  
 2節 頸肩腕症状の鑑別診断  
 3節 頸肩腕痛の針灸治療
 4節 肩こり性 

第3章 肩関節痛(p22)(p29)
1節 肩関節の動きと作用筋
2節 肩関節疾患の概要
3節 肩関節痛の鑑別診断
4節 肩関節痛の針灸治療

第4章 腰痛(p24)(p26)
1節 腰痛疾患の概要
2節 腰痛の不適応の判定
3節 効かせるための針の技法  
4節 殿部痛

第5章 腰下肢痛(p31)(p39)
1節 腰神経叢症状
2節 仙骨神経叢症状と腰椎椎間板ヘルニア
3節 脊柱管狭窄症  
4節 股関節疾患

第6章 膝関節痛(p29)(p31)
1節 針灸不適応の膝痛疾患  
2節 膝関節痛の鑑別診断  
3節 針灸適応の膝関節痛の針灸診療
4節 変形性膝関節症の針灸診療

第7章 顔面症状(p22)(p25)
1節 顔面痛
2節 顔面神経麻痺   
3節 顔面部の痙攣

第8章 上肢部症状(p34)(p36)
1節 肘関節痛 
 2節  手関節痛・手指痛
 3節 上肢の神経麻痺と神経絞扼障害

第9章 下肢部症状(p34)(p41)
1節 下肢の常見疾患 
2節 足部の常見疾患
3節  下肢の神経麻痺と神経絞扼障害

第10章 歯科症状(p21)(p24)
1節 歯の基礎知識
2節 歯科の主要疾患
3節 歯科領域の針灸治療
4節 口内炎
5節 顎関節症

第11章 治療効果を高める理論(p26)(p25)
1節  神経線維と運動制御
2節  MPS(筋膜性疼痛症候群)
3節『鍼治新書』の要点
               


現代針灸臨床論Ⅱ(H29.3.24 計356ページ)→(R4.4.26 計393ページ)
内科・眼科・耳鼻咽喉科・泌尿器科・産婦人科・皮膚科他 領域 
 
第1章 上中腹部消化器症状(p36) ( p39)
1節 腹痛の代表疾患
2節 針灸院における診察手順
3節 内臓体壁反射と針灸治療パターン
4節 横隔神経と体壁反応
5節 胃疾患と針灸治療
6節 肝炎患者の扱いと慢性肝炎の針灸治療
7節 胆道疾患と針灸治療
8節 膵炎と針灸治療        

第2章 下腹部消化器症状(p27)( p31)
1節 下腹痛と体壁反応  
2節 針灸院での下腹診察と針灸治療
3節 下痢
4節  便秘
5節 下痢・便秘の針灸治療
6節 虫垂炎と針灸治療
7節 痔疾と針灸治療         

第3章 鼻科・咽喉科症状  (p30)  (p33)
1節 鼻の疾患
2節  咽頭の疾患
3節 喉頭の疾患
4節 くしゃみ・しゃっくり
5節 かぜ症候群

第4章 胸部症状(p24)( p30)
1節 胸痛の針灸診療
2節 動悸・息切れ
3節 咳嗽・喀痰の針灸治療
4節 気管支喘息の針灸診療     

第5章 末梢循環器症状(p32)( p33)
1節 冷え症

2節 ほてり・のぼせ
3節 末梢動脈閉塞性疾患
4節 メタボリックシンドローム
5節 低血圧症

第6章 精神症状と全身症状( p37)(p43)
1節 不眠症
2節 疲労倦怠および貧血
3節 不定愁訴症候群・神経症・更年期障害
4節 肥満 

第7章 腎・泌尿・生殖器症状(p31) ( p35)
1節 腎・泌尿器と体壁反応  
2節 主な腎疾患  
3節 疼痛を生ずる尿路疾患
4節 頻尿・尿失禁・排尿困難
5節 夜尿症
6節 ED          

第8章 産婦人科症状( p29)(p31)
1節 性周期とホルモン
2節 婦人科の主要疾患   
3節 婦人科疾患の体表反応と針灸治療
4節 月経異常  
5節 月経随伴症状と針灸治療  
6節 不妊症 
7節 産科の主要疾患
8節 乳房症状             

第9章 眼症状(p31)(p37)
1節 眼の構造と機能 
2節  代表的な眼症状と鑑別診断
3節 代表的な眼科疾患
4節 全身疾患の一部としての眼科症状
5節 眼科の針灸治療            

第10章 耳科症状( p37)(  p39)
1節 耳の構造と機能
2節  難聴・耳鳴の診察
3節 めまいの診察
4節  中耳炎と針灸治療
5節  耳科疾患の概要
6節 難聴・耳鳴の針灸治療
7節 めまいの針灸治療    

第11章 皮膚科症状(p23)(p25)
1節 皮膚腫瘤
2節 アトピー性皮膚炎
3節 毛髪の異常

第12章 その他の主要疾患( p19)( p20)
1節  関節リウマチ
2節 脳血管障害 
3節 パーキンソン病
  巻末資料:体性神経デルマトーム図    

 

 

古希祝と第八期針灸奮起の会打ち上げ

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令和5年12月10日は第八期奮起の会の最終回「腎泌尿器の針灸治療」を行った。先月私は古希(70才)になったこともあって、奮起の会常連の方を中心に私を含めて十名の方が参加し、盛大にお祝いをしていださった。勉強会終了したのが当日午後8時。午後8時30分頃から国立市のイタリアンに席を用意してくれた。なかなか雰囲気のよいレストランで、和気あいあいで楽しむことができた。

来年からの奮起の会は、久しぶりに整形ぺイン領域に戻り、5~7回シリーズで考えている。また<奮起の会ベーシック>初心者向けの内容や、動画をアップすることも模索中。まだまだ引退できそうにない。

 

 

脱毛症に関する最近の知見と針灸治療 ver.1.1

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現代医学の脱毛症に関する研究と治療は、この十数年間に長足の発展をとげた。病理機序がかなり明らかになったということは、馴染みのない医学単語が頻出することでもあり、鍼灸師も改めで勉強し直す必要性を感じる。効果のある新薬が出てきたことは、針灸治療する上での考察のヒントにもなるだろう。

脱毛症は、男性型脱毛症(AGA:Androgenetic Alopecia)と円形脱毛症が2大疾患になるが、現在では女性型脱毛症についても関心がもたれるようになった。針灸治療は円形脱毛症に効果のあることが判明しているので、本稿では、この2大疾患についてコンパクトに整理し、円形脱毛症は針灸治療についても言及する。(AGAは鍼灸適応症として認識されていない)

 


1.男性型脱毛症(AGA:Androgenetic Alopecia)

1)原因
 わが国で抜け毛や薄毛に悩む者は、1300万人といわれるが、その大半はAGA。男性ホルン分泌が原因。遺伝8割。
 
2)病態生理
   
①ヘアサイクルの短期化

毛は生えてきたら、ある一定期間はえ続け、やがて抜け落ちる。これを毛周期(ヘアサイクル)という。髪の毛の1本1本には独立したヘアサイクルが存在し、全体として混然一体となっている。AGAでは毛周期が短縮し、毛髪が十分太く長く育たないうちに成長期の初期段階で抜けてしまう。
一生涯に繰り返しできるヘアサイクルは約40回と決まっている。ヘアサイクル期間は、常者なら3~5年だが、AGAでは100日程度と極端に短くなるので、短期間にヘアサイクがカウントされ、規定の回数に達すると、以降は髪の毛は生えてこなくなる。
   
②悪玉テストステロンの生成
       
AGAには血液中の男性ホルモンのテストステロンが、毛乳頭にある5α還元酵素と結合し、DHT(ジヒドロテストステロン、通称悪玉テストステロン)を生成。

3)治療薬
   
①プロペシア内服
DHTには発毛抑制作用がある。DHT生成をブロックする治療薬がプペシア。AGA治療薬として日本の厚生省認可した唯一の薬。
  
②デュタステリド・フィナステリド内服
5α還元酵素を阻害することで DHTの合成を阻害。男性ホルモンの影響を弱くする作用。本来前立腺肥大の薬として開発された。
  
③ミノキシジル塗布
毛包に作用しタンパク質の合成と細胞増殖を促す。休止期に入っている毛髪を成長期に移行させる薬。4〜6か月薬を継続すれば効果が実感できる。商品には育毛剤リアップなどがある。薬局などで購入できる手軽さがある。ミノキシジルには発毛効果はあるが、使用中止すと作用もなくなる。元々は高血圧薬として開発されたもの。


2.円形脱毛症  Alopecia areata
 
1)原因

ウイルスや細菌を排除するリンパ球が、毛根を「異物」と誤認し攻撃し、毛根が炎症を起す。毛の根元が細くなったり、途中で切断したりする。脱毛機序は、ヘアサイクルとは無関係。かつては精神的ストレスに由来するとされた。これはストレス→交感神経緊張→頭皮の血収縮→末梢の血流障害という病態生理を想定したものである。現在では以前ほど精神的要因重視されていない。

2)症状・所見

突然頭髪の一部が円形、楕円形に脱毛。健康部との境界は明確。毛髪を引っぱると簡単に抜ける。抜けた髪を観ると、根元ほど細い毛で、感嘆符(!)が特徴。
進行期:毛根を異物をみなしたリンパ球が集まり攻撃 →炎症が起こり脱毛する。
固定期:毛が抜けて止まる →自然に新たな毛が生えてくるか否かは予測困難
 
3)AGAと円形脱毛症の相違点

4)分類と予後  
    
単発型と多発型が多い。十人に一人は生涯に一度は経験する。
①単発型:10円玉ほどの脱毛が、1~数個できる。自然治癒が多いが再発しやすい
②多発型:単発型が融合した状態。単発型と同様、自然治癒が多いが、再発しやすい。
③汎発性:多発型を繰り返して全身の毛まで抜ける。治療的予後は不良。


 

 

※全頭型円形脱毛症の症例(32才、女性)

本患者は脱毛症だと訴えるものの見た感じでは頭髪は正常のように思えた。しかし自らカツラをとると、驚いたことに頭皮の3/5ほどに頭髪がなく、ところどころに髪が密集している状態。治療室にて灸点数カ所を刺激し鎮静作用のある体鍼を併用すること数ヶ月。目立った効果ないので、家庭用電気灸器を購入させ、毎日頭皮数十箇所に灸するよう指示した。それから頭皮の状態は急速に改善したとのことで治療終了。
本患者は1年後再来。編み物に熱中しすぎたせいか3ヶ月ほど前からまた髪が抜けてきた(左頭維のやや前方、2×3㎝の楕円)という訴えだった。カツラをとるように指示すると、これは地毛だということで非常にびっくりした。よくもここまで回復したものだ。


※多発型円形脱毛症の自験例(56才、男性)

針灸学校の非常勤教員をしていた一時期、学科主任と折り合いが悪く非常にストレスを感じた時があった。すると間もなく円形脱毛症を発症。毎日パラパラと頭髪が落ち続け、広汎な円形脱毛症となった。外見はどうでもよかったが、寒い時期だったので頭が寒いことを初体験した。
何も治療しないうちに髪は抜けにくくなり、春頃には頭皮が全体的に髪で隠れるようになった。明らかに精神的ストレスが原因と思われた症例だった。


5)円形脱毛症の現代医学的治療
  
①セファランチン服用

始まったばかりで小範囲しか脱毛していない場合に使用。本剤には抗アレギー作用、血流促進作用、末梢血管を拡張、末梢循環障害改善があり副作用が少ない。経過が長引くようなら脱毛部にステロイドを局所注射。
  
②局所免疫療法

広く脱毛して6ヶ月以上も続いている場合、本療法が適応になる。かぶれを起こす特殊な薬品(SADBE、DPCPなど)を脱毛部に塗って、弱いかぶれの皮膚炎を繰り返し起こさせる治療法。1~2週に1回実施。T細胞を毛根ではなく炎症部分に集めるのが狙い。有効率は60%以上。現在最も有効な円形脱毛症の治療法。平均3ヵ発毛が見られる。自費診療。
  
③振動圧刺激
    
最近の研究では、振動圧刺激が薄毛治療に効果があることが明らかになった(ヘアメデカルグループ・日本医科大学形成外科・株式会社アンファーの共同研究)。毛髪を生やそとするシグナルを出す毛乳頭細胞に、超音波でブルブル…と振動圧を与えたところ、無刺の場合と比較し、この細胞が約1.3倍細胞が活性化した旨。
    
もともと「マッサージで血行が良くなると髪にも栄養が行きわたって良い」といったモノのいい方は、何となくあったが、血行促進が発毛効果につながるいうエビデンスはなかった。今回の実験によって刺激による血行促進ではなく、刺激そのものが細胞に働きかけ、発毛に効果的だということがわかった。発毛剤によく含まれる成分ミノキシジルを細胞に投与しても、振動刺激と同じように1.3倍程度細胞が活性化し、振動との併用では平常時の1.5倍ほどに効果がアップすることが判明した。

 

3.円形脱毛症の針灸治療
   
1)脱毛部への施灸

現代医学の局所免疫療法と似たような考えに、脱毛頭皮部に対する施灸がある。脱毛部が直径1㎝以内の時はその中央に半米粒大灸3~5壮する。脱毛部が直径2㎝大のは脱毛面境界部を1㎝間隔で単刺し、半米粒大灸を中心あたりに2箇所行う。脱毛部が直径㎝以上の時は鍼は単刺を同様に行い、境界部に3~4箇所施灸する数か月後に治癒する。(木下晴都著「最新針灸治療学」)
   

ただし治療期間が長くなる。自宅施灸治療はどうしても続けるのか難しくなりがちである。このような場合、私はカツラ用 のクシ(ブラシ部分が金属でできており先端は丸くなっている。500~1000円程度) 頭皮を叩くよいアドバイスしている。梅花針や七星針では消毒に難があるため。

 

2)閻(えん)三針

1980年代、北京灯市口病院の中医師、閻世燮(エン・スーシェ)が考案した特殊な頭針療法。脱毛症は結局、自律神経の乱れから起こるとして、自律神経を調節する作用のある治療として考案された。有効率80%と大変な効果があると中国で評判になった。円形脱毛症に対する下記穴を梅花針、毫鍼等で刺激する。
この治療法は毎日のように針治療に通うことを原則としているが、日本では週一回の治療でなければ続けられないということから、明治鍼灸大学と共同研究で、体鍼と併用する治療法を確立した。
     
灸頭針もよく行われるが、これにはちょっとした秘密がある。灸頭針の場合でも皮膚面に対して水平刺するが、皮膚から出た部から針を直角に折り曲げるのが秘密で、一見すると頭皮に直刺しているように見える。そして灸頭針を行うようにする。
   
① 生髪(しょうはつ):風府と風池をつなぐ線の中心
② 防老:百会の後ろ1寸:針尖を斜め前方に向けて鍼柄が患者の頭皮と平行に成るように皮膚に沿わせる。得気を確認すること。
③ 健脳:風池の下5分:鍼尖を下に向けて0.2寸(約3ミリ)刺入する。このツボは頭皮中にあり、ぴったりに刺入しなければ効果が薄い。


※信頼性の乏しかった、かつての中国の報告

1980年代、我が国では中国製の「101」という発毛剤が一大ブームとなった。有効率が97.5%という触れ込みだが、背後に日本人の仕掛け人がおり、それに週刊誌が飛びついた結果だった。しかし使用者にカブレがおこるという事例が多々あり、ブームはあっという間に終わった。今になって振り返れば、カブレが起こることは局所免疫療法に類似したものがあるといえるかもしれない。

同じ類のもとして、以後も禁煙香(禁煙に効果あるとする薬草を嗅ぐ)や痩身に効果ありとする海草石鹸などが評判となったが、効果の有無は不明のまま、大衆に飽きられてブームは下火になった。 

 

4.女性型脱毛症の治療薬について

女性ホルモン「エストロゲン」が加齢によって減少し、 ホルモンバランスが乱れることによって起こる脱毛症 。 早い人では女性ホルモンが減少し始める30代半ばから抜け毛が増えます。 頭頂部と前頭部(髪の生え際)から薄毛が始まるのが特徴の男性のAGAとは異なり、髪が細く弱っていき、かつ全体的に薄くなる。
外用薬ではミノキシジル(休止期に入っている毛髪を成長期に移行させる塗布薬)は、男性型・女性型ともに有効。海外の研究によると、女性型脱毛症には、男性ホルモンの影響を止める作用であるデュタステリド・フィナステリド内服は効果を認めなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


  

 

 



居髎と環跳の位置と臨床運用  ver.1.1

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居髎や環跳は、文献により場所が相当違ってくるが、文献的にどちらに正統性があるかを問うよりも、針灸臨床での使い道という観点から整理した方が、実りあるものになるだろう。

1.居髎
 
居髎の「居」とは蹲踞(そんきょ)の「踞」と同じで、尻を踵の上にのせること。「髎」とは骨のすきま。要するに正座をした時にできる下腹と大腿間にできる隙間のこと。本間祥白著『図解針灸実用経穴学』によれば、「居髎(胆)は上前腸骨棘の縫工筋付着部の後方、大腿筋膜張筋の付着部、圧して痛むところ」と記載されている。
 この居髎の解剖学的特徴は、鼠径靱帯下に大腿外側皮神経が通過する部であり、神経絞扼障害の好発部位になると思われる。      
 

(別説)居髎の位置は、大転子と上前腸骨棘を結んだ中点とする説もあって、この方が主流だろう。何といっても東洋療法学校協会教科書での居髎はこの位置。
この取穴では、中・小殿筋緊張緩和を治療目標としているようで、この使い方は納得できるものである。しかしながらこの位置に居髎をもっていくと、日本流環跳(後述)とだぶる結果となり、都合上が悪くなる。この部位は日本流環跳に譲ることにした。



 

2.環跳

環跳(胆) は、「環」は丸いことで股関節回転軸のこと。歩行時、とくに跳躍のような股関節を大きく可動する時に動くことを示している。この語源から、股関節裂隙~大腿骨頭あたりに穴位があることが予想できる。環跳の位置は大きくわけて日本式と中国式に分類できる。日本式は大転子の前方にとるのに対し、中国式は大転子の後方である。「困学灸法」では、側臥位で患側大腿を体幹にできるだけ近づける姿勢で取穴する旨が描かれている。
環跳では正座位すなわち股関節屈曲90°位で鼠径溝のつくる皺の外端を取穴するのに対し、環跳は股関節最大屈曲位で鼠径溝のつくる皺の外端を取穴するという違いがあると思われた。

1)日本式環跳

上前腸骨棘と大転子の頂点とを結ぶ線を3等分し、大転子の頂点から3分の1のところに取る。この部位は前述した居髎取穴の別法によく似ている。中・小殿筋刺針である。

中・小殿筋刺針は、単に側臥位で深刺するよりも、横座り位置で深刺行うと非常に効果的な刺針になる。それは硬く緊張した中・小殿筋が筋緊張真っ最中だからである。
 上図のような横座り位になると、重心が右になるのでこれに対抗するため上体を左にひねる。その結果、中・小殿筋に強い収縮が必要となる。その場合、中・小殿筋のコリをゆるめるには、横座り位にして刺針すると効果が高い。


2)中国式環跳

仙骨裂孔(督脈の腰兪)と大転子の頂点とを結ぶ線を3等分し、大転子の頂点から3分の1のところに取る。 

中国流環跳の取穴は、坐骨神経ブロック点とよく似ている。坐骨神経ブロック点は、側腹位にせしめ、上後腸骨棘と大転子を結んだ中点から直角に3㎝下った処にある。坐骨神経ブロック点から直刺深刺すると、梨状筋→坐骨神経と刺激できる。

3.まとめ

①居髎は上前腸骨棘の内縁で、縫工筋の上前腸骨棘起始部にとる。その意義は、正座した際にできる鼠径溝外端で、大腿外側側神経の絞扼障害の改善。
②日本式環跳は、側臥位にして上前腸骨棘と大転子を線で線び、大転子寄りの1/3の部にとる。中・小殿筋緊張の改善を目的として刺針する。治療効果不足の場合、中小殿筋を強い収縮状態にすることになる横座り位で環跳から深刺すると治療効果が高まる。
③中国式環跳は、坐骨神経ブロック点とほぼ同じで、上後腸骨棘と大転子を結んだ中点から3㎝直角に下ったところにとる。梨状筋症候群や坐骨神経痛で用いる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メイン症候群と上殿皮神経痛の針灸治療の違い

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針灸臨床治療で常見疾患の一つにメイン症候群がある。本疾患は上部腰椎~胸腰腰椎移行部~上部腰椎の高さから出る脊髄神経後枝が、外下方に延び、腸骨陵を越えた上殿部に痛みを訴える疾患である。治療は、後枝の出処であるTh12~L2棘突起傍(背部一行)へ深刺することで効果的な針灸治療となる。メイン症候群については、本ブログでもいろいろと報告してきた。

さまざまな適応がある中殿筋刺針(2022.2/3)
https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/9de6364bec37c3367dcd2e8d83463b9c 

一方、上殿部の痛みを訴えるもので、Th12~L2脊髄神経後枝が腸骨陵を乗り越え、上殿皮神経と名前を変えたあたりで、皮下筋膜の絞扼を受けることで強い痛みを生じる場合があり、これを上殿皮神経痛とよぶ。主訴のみから2疾患を判別することは困難だが、触診や撮診で鑑別することは難しくない。今回、上殿皮神経痛の針灸治療を経験して、気づいたことがいろいろ出てきた。


1.症例報告(85才女性)

主訴:左上殿部の劇痛
5日前から強い左上殿痛が生じた。近くの整形2カ所に行くも、X線をとられて腰椎の老化を指摘され、鎮痛剤の処方をうけるという同じ診療を受けたのだが、痛みは軽減しなかった。

初回治療
S)知人に当院を紹介されて来院した。本日で発症5日目。痛みが激しい時もあれば痛みのない時もあるとのことで初回来院時は痛みがない状態だった。
O)左殿部に圧痛
A)中殿筋の緊張によるTP活性状態
P)側臥位で環跳あたりに2寸#4で数本手技+置鍼10分

第2診(3日後)
S)前回治療の翌日から右殿部が激しく痛み非常につらかった。
O)中殿筋に圧痛強く広範囲に存在
A)中殿筋緊張の悪化
P)側臥位で環跳あたりに2寸#4で10本以上の局所集中置鍼10分

第3診(前回治療から3日後)
S)右殿痛は痛む時と痛まない時がある状態は、初診前と変わらない。
O)中殿筋に圧痛(-)となった。腰宜穴の圧痛(+)、胸腰痛一行の圧痛(-)
A)上殿皮神経痛かも
P)側臥位で、腸骨陵縁を撮む揺り動かす手技(筋膜リリース目的)+腸骨陵縁あたりに2寸#4で5本水平刺、置鍼10分

第4診(前回治療から7日後)
S)この一週間痛みがなかった。
O)腰宜穴の圧痛(+)
 ※腰宜穴(奇穴)の位置:L4棘突起外方3寸。腸骨陵最高点のやや内側
A)上殿皮神経痛と確信
  本当に中殿筋に異常はないか、横座り位で中殿筋を押圧すると、きつい痛みが出現したので、この肢位で3寸#8で深刺追加。

P)前回と同治療。

 

2.症例を通じて学んだこと

1)上殿皮神経痛とメイン症候群の鑑別
    両疾患の知識があれば鑑別は容易だが、知らなければ病態把握は難しい。
 共通点は上殿部痛、違う処はTh12~L2一行に圧痛があるか否かである。

2)上殿皮痛と中殿筋緊張の病態の相違

上殿部部痛はよくみる症状である。通常は中殿筋は上殿神経支配で、上殿神経は近く成分をもたない運動神経なので、コリは現れても痛みは出ない。痛みが出るのは、ここにTPが活性化したからだと考察した。
この上殿神経は、仙骨神経叢の枝である。しかしこの部の皮膚は上殿皮神経は上部腰椎の脊髄神経後枝の枝なので、筋と皮膚の神経支配はまったく違う。これは以前から不思議に思っていた。
今回の症例では、上殿皮神経痛(撮痛陽性となる)だったが、押圧して中殿筋に圧痛はなかったのだが、横座り位で、中殿筋を過収縮状態にして押圧すると強い圧痛が現れたのだった。本症例に関する限り、中殿筋過緊張と上殿皮神経痛は同時にみられたのだった。

 

 

 

 

 

 

痛み以外の膝症状への対処 ver.1.1

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膝関節痛で最も多い症状は膝痛であるが、膝痛と同時に「膝に水が溜まっている」「膝が腫れるている」といった訴えも少なくない。それらの対処法について整理する。

1.関節の熱感・腫脹

1)病理   
関節の軟骨が摩耗し、軟骨の破片が関節液中を浮遊。それが関節滑膜を刺激して関節内に炎症を起こして熱感・腫脹を起こす。この反応で知覚神経を刺激すれば膝関節痛も起こる。  

2)針灸の是非と方法  
熱感が強い時、針灸を行うと炎症が悪化しやすい。今から1~2週間後に熱感が落ち着いた後に治療する旨を患者に伝達。 治療にはチクッとした灸熱が適するのであって、熱量を多量に与えるせんねん灸は不適。糸状灸~ゴマ大灸を腫脹しいるエリアに広範囲に5~6点施灸する。 自宅施灸するのがよいが、近年自宅施灸不可とする患者が多くなってしまった。


2.関節水腫

1)病理       
関節液(=関節滑液)は関節滑膜が血液を材料として製造し、関節の栄養と潤滑油として機能し関節滑膜から吸収され常に一定量を保持している。 しかし関節軟骨の摩耗スピードが速いと関節軟骨の辷りが悪くなり、その代償的に滑液分泌量がふやして滑りを維持しようとする。関節軟骨片も関節液中に浮遊し、これが関節包を刺激する。  


2)関節水腫の理学検査

①膝蓋跳動作テスト    
水腫があれば膝蓋骨は大腿骨から浮いている。膝蓋骨を叩くと、大腿骨にぶつかるので、コツコツと音がするものを(+)とする。本テスト(-)では水腫ではなく、関節包の肥厚を示唆する。膝関節に加わる刺激が強いので、それに対処するた関節包も厚くなり、膝関節を守ろうとしている。
関節に水がたまると関節液の粘性が少なくなり、潤滑油としての性能が低下するので、炎症が増大しやすい。

昔は変形性膝関節症で膝が大きく腫れている者が針灸に多数来院していたのだが、最近では膝痛は以前ほど来院せず、とりわけ膝水腫の来院は少なくなったことを感ずる。これは整形外科で行ったヒアルロン酸注射の効果といわざるを得ない。

  

②膝蓋骨圧迫テスト        
膝蓋骨を圧迫しながら、上下左右に動かした際、正常であればスムーズに動くのだが、関節面が変形してるいると膝蓋骨底の捻髪感(ザラツキ感)を感じる。これをもって大腿-膝蓋関節の変形(または膝蓋骨軟骨化症)を考える。 

  一部の成書には、「膝蓋骨圧迫テストでは痛みが出現する」と書かれている。実際にも本テストでは被験者は痛みを感じることも多い。ただし膝蓋-大腿関節には関節包がないので、痛みを発生する要因がない。この痛みの正体は大腿四頭筋の筋腱付着部症と考えられているので、鶴頂など膝蓋骨の大腿四頭筋停止部に刺針して有効である。  

3)関節水腫の治療

基本的にまずは安静・固定・圧迫・冷却・挙上、膝圧迫包帯(または膝圧迫サポーター)。整形で関節から関節液を抜いてもらうと、治療直後は良好だが、数日後には関節水腫状態に戻ってしまうことが多い。 結局炎症があるから、水が溜まるのであって、炎症を鎮めないことには水腫は治らない。軽度の関節水腫は針灸治療の対象となり、とくに水腫部を中心に直接灸することで次第に水は消退していくが、それには長期間かかる。 
代田文彦は、水腫には灸が有効なのだが長期間かかるので、まず整形で水を抜いてもらい、その直後から灸をすると、水が溜まりにくくなり、その方が直りが早いと語った。灸治療により水腫の再発を防ぐ。

肩関節の語呂 ver.1.1

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先日、奮起の会「肩関節痛」の講習会を実施した。肩関節は他の関節に比べ、動きが複雑なこともあって、記憶すべき内容が多くなる。この対策として医語呂を活用している。

1. 四つの肩種腱板の名前は?

語呂:消極的ケンカ
消(小円)極(棘上・棘下)的ケンカ(肩甲下)


2.結髪動作の複合動作と、結帯動作の複合動作

結髪動作:髪(結髪)が、く(屈曲)さくて、かゆい(外転)かゆい(外旋)。

結帯動作:帯(結帯)が伸(伸展)びて、ふが(外転)いない(内旋)。(力士のまわしが伸びて、格好悪い)

    

 

 

4.肩関節周囲筋の支配神経

1)肩甲上神経の運動支配 

語呂:献上した二曲
献上(肩甲上神経)した二曲(棘上・棘下)棘上筋、棘下筋 
肩甲上神経は、棘上筋・棘下筋を運動支配   


2)腋窩神経の運動支配筋

語呂:硝酸液か
硝(小円筋)酸(三角筋)液か(腋窩神経)! 
腋窩神経は、小円筋・三角筋を運動支配


3)肩甲下神経の運動支配筋

語呂:ケンカ多かった
ケンカ(肩甲下神経)多(大円筋)かった(肩甲下筋)  
肩甲下筋は、大円筋と肩甲下筋を運動支配 


4)筋皮神経支配筋
 
語呂:きんぴらウニ椀定食
きんぴら(筋皮神経)ウ(烏口腕筋)ニ椀(上腕筋・上腕二頭筋)定食


肩関節外転制限の針灸治療

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1.肩関節の外転運動の機序

①肩甲上腕関節(いわゆる肩関節のこと)において、凹面である肩甲骨関節窩は広く、この凹面上を、小さな凸面である上腕骨頭が上下にスライドする仕組みになっている。
②上腕骨頭を回転させて上腕を外転させるには、まず上腕骨頭の回転軸を定めなければならない。そのため肩腱板が緊張して上腕骨頭と肩甲骨関節窩を固定させる必要がある。
③回転軸を固定した後に、棘上筋だけでなく三角筋中部線維が収縮して上腕骨の外転運動が行われる。
④上腕外転運動は、三角筋中部線維と棘上筋の協調運動で行われる。
⑤上腕骨の外転90°までは、手掌を下にしても動かすことはできるが、それ以上外転すると上腕骨大結節が肩峰に衝突(=インピンジメント症候群)して、それ以上外転不能となる。
⑥上腕骨の大結節が肩峰にぶつからないようにするには、上腕骨を外旋し上腕骨大結節を肩峰に潜らす必要がある。そのためには手掌を上に向けた状態(外旋位)で外転させるのことで、外転180度はできるようになる。
⑦上腕挙上時の上腕骨の外旋運動は、肩関節肩腱板(棘上筋、棘下筋、小円筋)の筋収縮により起こる。肩腱板の障害では外転90°未満になることが多い。その代表疾患は肩腱板炎、肩腱板断裂(完全、部分とも)である。

 

 

2.棘上筋の退行変性の病態生理 

1)棘上筋障害を生ずる代表疾患

肩関節疾患のほとんどは上腕ROM制限と痛みを生ずる。上腕外転筋は、棘上筋と三角 筋中部線維である。両筋に障害を生ずるのは、肩腱板炎・肩腱板部分断裂・凍結肩など主要な肩疾患である。
 
2)肩外転における棘上筋と三角筋中部線維の協調作用

肩関節の外転運動は、骨頭を上方に引っぱる三角筋中部線維と、体幹側に引きつける棘上筋が協調して円滑に行うことが可能になる。三角筋も棘上筋も老化するが、棘上筋の老化スピードが速い。この場合、肩関節を外転させようとすると、上腕骨を体幹に引きつける力不足で、上腕骨頭を中心軸とした回転運動が起こらず、上腕骨頭は上方に辷る。この状態で上腕を外転させようとすると、上腕骨大結節は烏口肩峰アーチの下をくぐることができない。上腕外転90度前後までしか可動できなくなる。無理をして上腕を動かそうとするので、肩関節の外転・外旋筋である棘上筋・棘下筋の運動支配神経である肩甲上神経が過敏になる。 
 

3)脆弱な棘上筋腱部の肩腱板

肩腱板、とくに棘上筋につづく腱板部分は、肩峰下滑液包や肩甲棘に圧迫されたり、摩擦されたりするため虚血が生じやすく、変形・断裂・石灰沈着などを引き起こしやすい。この部をカリエは危険区域と称した。現在でも筋腱付着部症(エンテソパチー enthesopathy)とよばれる病態の一タイプになる。 

筋が緊張し、短縮すると腱に加わる牽引力は増し、とくに構造的に脆弱な腱付着部に大きな負担が加わる。腱付着部に微小外傷が生じ、その発生と修復のバランスが崩れることで症状が引き起こされる。

なお間違った病態把握として棘上筋の筋力不足で、上腕を外転するだけの力がないというものがある。筋力不足の筋に対して刺針しても、それで筋力増強する訳がない。

肩腱板のすぐ上には肩峰下滑液包があり、腱板の炎症は二次的に肩峰下滑液包炎を起こしやすい。そして肩峰下滑液包炎の程度が強ければ、夜間痛関節の腫脹・熱感など急性の関節炎症状を併発する。
なお肩腱板炎は肩腱板部分断裂と問診や理学検査のみからは鑑別がつきにくいが、高齢者ではほとんどが肩腱板部分断裂である。


 

4)腱板炎の炎症拡大
    
肩腱板に生じた炎症は、すぐ上方に接する肩峰下滑液包に波及し、摩擦を減らすために滑液量滑量が増えたり滑膜が肥厚してくる。この状態を肩峰下滑液包炎とよぶ。滑液包の体積が増すので、肩峰下との摩擦はさらに増加して痛みも増加する。筋の滑りが悪くなった結果、上腕をぐるぐる回すと、そのたびに肩峰の奥あたりがコキコキあるいはジャリジャリ音を発し、音がするというあたりに術者の手を当てると、震動を感じることができる。

 

3.肩関節外転制限の針灸治療技法
 
1)肩髃から棘上筋腱への刺針

肩腱板炎の多くは棘上腱に相当する腱板部位に限局して痛む。棘上筋腱は、大結節に付着するので、その経穴部位である圧痛ある肩髃に刺針し、針先を棘上筋腱に入れる。
 ※学校協会教科書では、肩髃は本テキストの肩前の位置に定めている。       
 
まず始めに、昔の方法を示すことにする。肩髃穴から肩甲上腕関節内に刺入するには、肩甲上腕関節の関節裂隙を拡げて行う。肩関節を外転すると、上腕骨大結節の隆起が烏口肩峰靱帯を通過する必要があるため、肩腱板の力で上腕骨下が下方に押し下げられることを利用する。しかし外転90°近くになると、上腕骨自体が肩髃刺針を邪魔するので、45°前後の外転姿勢に保持する。さらに肩関節内に刺入するためには肩関節部筋を弛緩させるのも重要なので、助手に前腕を保持してもらうか、前腕を机などに置いて肩部筋を脱力させる。この姿勢で床面に対して水平に刺入する。

かつての肩髃刺針の方法は上図のように行っていたが、適当な高さ小テーブルが必要をした。治療室では丸椅子に患者を座らせ、電動昇降ベッドに患側を載せて、高さを調節した。現在ではもっとシンプルになり座位で手を腰に当て、45°外転位を保持するものに改良した。これで十分だった。ただし外転制限に対する治療効果は、後述する巨骨斜刺に及ばないようだ。肩髃から水平刺しても、カリエのいう危険区域まで到達させることが困難だからではないか。

 

2)肩髎から肩髃への透刺(柳谷素霊の方法)
       
柳谷素霊の棘上筋に連続した肩腱板部の痛みに対しては、2寸針を用いて、肩髎から肩髃へ刺針を得意としていた。講習会などで五十肩患者がいると大いに喜んだという。肩髎から肩髃への透刺は、カリエの述べた危険区域部への刺激として、適切であることがわかる。単に肩髃や肩髎から刺針する場合と異なり、刺激目標が明確になる。
 
3)巨骨から棘上筋部への刺針

巨骨から直刺深刺すると、僧帽筋→肩峰下滑液包→棘上筋→肩甲骨に入るが、これでは治療効果が得られにくい。棘上筋の障害部は棘上筋の筋よりも腱部分なので、巨骨から肩峰方向に刺針して棘上筋腱に命中させる。
体位:側臥位でタオルを畳んでマクラにして頸を側屈位にさせる。
治療点:巨骨斜刺を行う。(刺入点は肩井)
刺針:3寸針を用い、肩井を刺入点として巨骨方向に斜刺し、針先を棘上筋腱部付近に到達させる。針に抵抗がなくなるまで置針。巨骨から棘上筋腹中に直刺しただけでは効果薄。
※治療者によっては3寸のような長針は使いたくないという者がいるだろう。3寸斜刺に比べて効果は劣るが、坐位にして寸6#3で巨骨から直刺して僧帽筋→肩峰下滑液包→棘上筋と入れ、痛くない範囲で上腕の外転運動を行わせてもよいだろう。

 

 

 

4)三角筋停止部刺針(臂臑)

頻度は少ないが、料理人やウエイトレスなど重量物を持つことの多い職業では、上腕骨の三角筋粗面(三角筋の上腕骨停止部)に骨付着部炎を生じ、上腕が上がらないことがある。この圧痛点の存在を患者は気づかないことが多く、本症のことを治療者が知らない場合は効果のある治療ができない。

本症も三角筋停止部の筋腱付着部症(=エンテソパチー)である。
三角筋停止部刺針(臂臑)の圧痛点に刺針しながら肩の自動外転運動を行わせると改善することが多い。なお臂臑は、腕の付け根と肘を結んだの中央にとるとされるが、実際には三角筋停止部に取穴した方がよい。

※使用した経穴の位置(現行の学校協会の方法とは異なる)

肩前:新穴。上腕骨頭部前面、結節間溝部。この結節間溝に上腕二頭筋長頭腱が走る。
肩髃:教科書に「上腕90度外転時、肩関節付近にできる2つの穴のうち、前方の穴]と記載されている。本稿では中国の文献に従い、肩峰と大結節間にできる溝中を肩髃穴とした。
肩髎:教科書に「上腕90度外転時、肩関節付近にできる2つの穴のうち、後方の穴」とある。本稿では肩峰外端の後下際にとる。大結節を挟んで、前方が肩前穴、後方に肩髎。

 


4.上腕二頭筋長頭腱々炎について

肩関節痛を生じる有名な疾患の一つに上腕二頭筋長頭腱々炎がある。この疾患は一般的な肩関節疾患と比べて患部に独立性があってユニークなのだが、鍼灸治療に来院することはまれで、ヤーガソン、スピード、ストレッチテストも試みる機会も乏しく、上腕二頭筋長頭腱自体に並行にっすべく、結節間溝を刺入点として曲池方向に水平刺といった治療を行う治療の機会はまれであろう。私の40年間の臨床でも出会った記憶がない。
本症には独立疾患としての上腕二頭筋長頭腱々炎と上腕二頭筋長頭腱々炎を合併している五十肩がある。前者は、投球時のコックアップ(手首を過伸展させる動作)期から加速期の痛みで起こりやすい。後者は上腕二頭筋長頭腱部の炎症が、肩甲上腕関節にまで拡大し、癒着性関節包炎となって五十肩症状に移行するケースが多い。
臨床上前者であることは非常に少なく、後者でれば肩腱板炎の治療(肩髃から上腕骨大結節に向けた斜刺や肩髃からの肩甲上腕関節刺)に準ずる。

肩関節の結髪動作制限に対する針灸治療 ver.2.0

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結髪制限の針灸については、2021.6.27.ブログに書いたが、内容が古くなったので改めて整理し直すことにした。

1.結髪動作とは

髪を後頭で結ぶ動作が十分にできないものを結髪動作制限という。洗濯物を干したり 電車の吊革を持つ時なども結髪動作に含める。結髪動作は、肩関節の屈曲(前方挙上)+外転+外旋の複合動作になる。肩関節の内旋・外旋は、上腕骨頭軸の回転のことで、 肩関節腱板の筋運動による運動である。
      ※結髪動作の語呂:髪(結髪)がくさくて(屈曲)、かゆい(外転)かゆい(外旋)。
 

2.結髪動作の運動分析

1)外転制限

結髪動作の一部となる外転動作の主動作筋は棘上筋である。肩の軟部組織において外転制限の主要原因は、棘上筋腱付着部症(=エンテソパチー)にある。したがってこの筋腱付着部への施術である巨骨斜刺が有効となる場合が多い。単純明快な治療なので間違いがない。

この詳細ついては「肩関節外転制限の針灸治療」ブログ 2024/1/5 を参照
https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/dafa685b2881c701e46c5361477219d2


2)外旋制限   

※四つの肩腱板の語呂:「消極的ケンカ」消(小円)極(棘上・棘下)的ケンカ(肩甲下)



肩関節外旋の主動作筋は、棘下筋と小円筋である。もしも棘下筋や小円筋の筋力不足で、腕を外旋することができないのであれば、これら2筋の筋力増強トレーニングをするのがよいだろう。しかし外旋ROM低下原因は、棘下筋や小円筋の拮抗筋である肩甲下筋や大円筋の過緊張に原因がある場合がほとんどである。他動的に外旋動作をさせると、肩甲下筋や大円筋の筋伸張痛が出ることになる。針灸治療は、肩甲下筋や大円筋を刺激する。

 

3.外旋制限に対する肩甲下筋刺針(膏肓水平刺)


肩甲下筋が伸張して初めて肩の外旋運動が可能になる。治療は本筋のストレッチ目的で側臥位で膏肓から肩甲下筋に刺針する。つまり針を肩甲骨と肋骨の隙間に入れる。

膏肓(膀)水平刺:患側上の側臥位にて、Th4棘突起下外方3寸、肩甲骨内縁を刺入点とする。3寸#8で5~7㎝水平刺するとズーンとする強刺激が得  られる。トリガーポイントに当たらなければ響かない。強い響きが欲しい場合には、肩甲下筋に刺針したまま、ゆっくりと肩関節の自動外転動作を行う。

側臥位で肩甲骨-肋骨間に刺入するには、肩甲骨外縁(肩貞)から刺入する方法もある。この方法では短い刺入(3~5㎝)で響く。これも肩甲下筋トリガーポイント刺激になる。

 

4.外旋制限に対する大円筋刺針

大円筋は、肩の内転と内旋に作用する。過緊張状態にある大円筋は、外転・外旋運動で伸張を強いられ、結髪動作の制限と痛みが生ずる。
 
1)側臥位にて大円筋刺針
 肩貞(小):腋窩横紋上端から上1寸。大円筋中。
針灸治療は、側臥位にての結髪動作を指示。肩甲骨が上方回旋し、肩甲骨下角が外にとび出してくるので、検者の腕は、患者の肩甲骨外縁を触知して大円筋を押圧しつつ肩貞を取穴。肩甲骨外縁に向けて刺針。

   

 

2)大円筋ストレッチ

下図はヨガで「ネコの背伸びポーズ」、通称「ネコストレッチ」といわれるもの。四つん這いになり、尻をに引くようにする。3~5呼吸ほどキープする。上腕骨を強く挙上させることで、肩甲骨-上腕骨間にある大円筋を強く伸張させている。
この姿勢のまま、大円筋刺となる肩貞や肩甲骨下角あたりに刺針してもよい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

肩関節の結帯動作制限に対する針灸治療  ver.2.0

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肩関節の結帯動作制限に対する針灸治療のブログは、2021.6.15に発表済だが、内容が古くなったので書き改めることにした。

 

1.結帯動作制限と障害筋
   
エプロンやブラジャーをする動作または排便後にお尻を拭くという動作を結帯動作という。これは上腕骨の伸展+内旋+外転の複合動作で、これに肩甲骨の下方回旋を伴う。

結帯動作の語呂:帯(結帯)が伸(伸展)びて、不甲斐(外転)ない(内旋)
            お相撲さんのマワシがのびて、格好悪い様子。

2.外転障害

棘上筋腱付着部症なので巨骨斜刺をするとよい。「外転制限に対する針灸治療」ブログ参照のこと

https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/dafa685b2881c701e46c5361477219d2

 

3.棘下筋の障害による外旋障害

1)棘下筋の過収縮    
 
結帯動作(肩関節の伸展+外転+内旋)では、内旋に作用する大円筋と肩甲下筋が収縮する。かりに大円筋は肩甲下筋が筋力低下している状態であれば  内旋作用ができず、従って結帯作用もできない。
ただしこのようなケースは例外的で、実際には棘下筋が過収縮状態にあり、結帯動作では、棘下筋の伸張を強いられるので、痛みを生ずることになる。
 

2)天宗運動針 

 肩の内旋動作では、棘下筋が伸張を強いられる。したがって過緊張状態にある棘下筋を刺激して伸張させることを治療目標とする。次の2方法がある。
①座位で天宗刺針したまま上腕骨を内旋運動させる。
②患側上のシムズ肢位で、患側手掌をベッドにぴたりとつけ、肘を90°屈曲位で天宗圧痛点に刺入したまま、肘の円運動させるとよい。棘下筋に響きを与
えることができる。激量を患者自身で決めることができるメリットがある。我慢できる痛みの範囲内で10回~30回、回すよう指示する。

最新の知見では、結帯動作で母指が体幹を越える処までは、棘下筋下部線維が収縮し、母指が背中を上行する処からは棘下筋上部線維(=肩甲棘の直下)が収縮するとされる。これは天宗の圧痛位置も変化するという。症状の重い結帯動作障害では肩甲骨の下方を刺激し、症状が軽ければ肩甲骨棘窩窩の上方を刺激することがよいのだろう。教科書的に天宗を取穴するのではなく、反応点を探して刺激することが重要だろう。

   

天宗(小):肩甲棘中央と肩甲骨下角を結んで三等分し、上から 1/3の処。棘下筋中。肩甲上神経(純運動性)刺激。
 
3)棘下筋のTPの放散痛

棘下筋のTPが活性化すると上腕外側に痛みが出ることがある。逆に上腕外側痛を訴えるケースでは、天宗刺針で症状の再現痛が生じ、治療効果も良好である場合が多い。天宗から刺入して上腕外側に響かせるには、肩甲骨骨膜に十回ほどノックするような刺針刺激を行うとよい。患者は症状のある上腕外部を触ることはできるが、棘下筋を触れないので、患者自身は肩の前方が痛むと訴えることになる。

かつて中国では、上腕外側痛に対して肩髃から曲池に向けて水平刺をやっていた。これはおそらく上腕皮神経痛を治療しているのだろうが、治療効果は持続しないことが多かった。
   

 

4.小円筋の障害による外旋制限
 
1)小円筋の過収縮  

結帯動作は、伸展+内旋+外転の複合動作である。このうち内旋に働くのは大円筋だが、大円筋の筋力低下による内旋制限は臨床上きわめてマレで、内旋障害は小円筋の過収縮によることがほとんどである。治療は小円筋の緊張を緩めることが目標になる。

なお小円筋は肩腱板筋の一つとして上腕骨頭を肩甲骨に引き留めつつ外旋させる作用がある。小円筋は腋窩神経運動支配。
 
2)臑兪運動針
 
結帯動作肢位にして、臑兪から小円筋に刺入。肘を体幹前方に動かし、小円筋をストレッチする。臑兪への刺針は単に坐位や伏臥位で刺入するとスカスカするのみで筋に当たったとの手応えがない。椅坐位で肘をテーブルにつけて下向きに力を入れ、小円筋を緊張させた状態で筋硬結に刺入するとよい。

臑兪(小): 腋窩横紋後端の上方、肩甲棘外端の下際陥凹部で小円筋中。臑兪は側臥位にて肩甲骨外縁を刺入点とし、骨にぶつけるよう刺入する。  
    腋窩神経の筋支配語呂:賞(小)賛(三)の駅(腋窩)か。小円筋、三角筋は腋窩神経支配 
 

  


※肩貞と臑兪の位置についての私見
学校協会教科書では、肩貞は腋窩横紋の後端から上1寸にとり、臑兪は肩甲棘外端の下際陥凹部にとる。しかし本稿では肩貞を腋窩横紋の下で大円筋上にとり、臑兪を腋窩横紋下で小円筋上にとっている。その方が臑兪は結帯動作の治療穴に、後述する肩貞は結髪髪動作の治療穴として理解しやすいため。

 

 

 

 

凍結肩の運動療法の整理および外科手術の適応

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拘縮期の五十肩に対しては、鍼灸治療であっても、あまり効果的な方法がない。肩関節癒着には無効なのであって、治療の中心は運動療法主体になる。なお運動療法に温熱療法を併用することの効果は広く認められているが、電気をかけたり磁石を貼ったりするのはエビデンスに乏しい。

 

1.古典的な運動療法 

 

2.関節モビリゼーション

1)モビリゼーションとは
整体手技の一種で、瞬間的矯正をかけることなく、関節に細やかな運動を繰り返し与え、硬直した関節部分を動くように回復させたり、痛みを軽減させるテクニックのことをいう。関節モビリゼーションともいう。
 
2)癒着をゆるめ、肩関節腔を拡大する手技 
凍結後であれば通常の針灸では治療法に乏しく、ROM拡大を目的とする手技療法が主体となる。関節包下方が短縮していたり、腱板の骨頭を関節窩に引きつける求心力が低下している場合、自動運動で上肢を挙上すると、骨頭の下方移動が障害され、上腕骨頭を包む腱板と、これを上方から覆う烏口肩峰アーチと衝突が生じ、運動痛を誘発したり、この部分の炎症を生じさせる。
この衝突を避けるため、上肢の長軸に沿った遠位方向への牽引力もしくは徒手的に骨頭の下方移動を働かせながら可動域を拡大する方法が考案されている。

 

 

 2)凍結肩に対する筆者の工夫した関節モビリゼーション
  
肩関節腔を拡大する手技として、以前筆者は、「側方引き出し運動」を参考に、下写真の手技を考案した。十年ほどこの方法を実践していたが、術者が力を入れて上腕を引っぱっている割に、肩関節腔拡大に作用する力の効率が低かった。

現在は上腕骨を下方に強く引っぱるのではなく、関節を外旋を加えつつ上下に動かすようなった。仰臥位、患者の脇の下に術者の足先を入れ、これを支点に患肢を保持する。患者に痛みを与えない範囲で、ゆっくりと外転・外旋の他動運動を実施する。一度に3分間以上繰り返し行う。この方法により可動域が拡大できることが多い。

 

 

3.PNF(proprioceptive neuromuscular facilitaition;固有受容性神経筋促通法)手技

上図は五十肩に対するホールドリラックスで、カリエはこれを「リズミックスタビリゼーション(律動固定)」と名付けた。
①患者はセラピストの指示に従い、上腕を上下左右に動かす。その時セラピストは患者の上腕を持って腕の動きと逆方向に力を入れる。
②患者、セラピストとも筋力を使っているのだが、その力が拮抗し打ち消しあっているので、上腕はあまり動かない(等尺性運動になる)。
③力を入れた主動作筋に対して、反対側にある拮抗筋は緩むという性質を利用する。これをⅠa抑制とよぶ。筋の緊張を緩めることで関節可動域の拡大を図る狙いがある。
④鍼治療では、肩関節付近の最大圧痛点に浅刺した状態で本法を行うとよいだろう。

 

 

4.凍結肩の観血的治療(医師)

凍結肩が6ヶ月以上経っても改善の方向性が見通せなかったり、痛みが続いて我慢できない場合、医師は観血的治療を選択することがある。これは少なからず手術後遺症を残すことがあるので、慎重な判断が必要である。近年、お笑い芸人かまいたちの一人である山内氏がこの治療を受けたことで一般に広く知られるようになった。

1)サイレントマニピュレーション

関節の徒手的他動伸張運動による治療行為のこと。エコーを使ってC5C6神経に局麻注射。その後、固まった肩関節を全方向に他動的に動かし、縮んだ関節包を剥がしていく。この時に関節包の剥がれるベリベリという音がするが痛みは感じない。その時の音が小さいので、サイレントという名称がつけられた。最後に三角巾で腕を吊す。日帰り治療できる。術後7~10時間で麻酔が切れ、肩や肘の動きが元に戻る。以降はリハの運動療法を行い、積極的に肩を動かすようにする。

肩ROMは大きく改善することが多いが、腱や関節包に損傷を与える危険性があり、少数ではあるが痛みが持続する例もある。この治療を受けた山内は、治療直後から腕が動くようになり非常に驚いて医師に感謝の言葉を告げた。その医師は「まあ可動域はよくなるのですが・・」と返事した。実際、術後数時間して麻酔が切れた後、強い肩痛が出現するようになった。麻酔下でマニプレーションをする際、筋腱や靱帯、関節包に損傷を与えても、その時は気づかないのである。

2)肩関節関節包切開術

凍結肩の関節包癒着に対し、全身麻酔下で医師は硬くなった関節包をメスで切開する手術がある。この手術によりADLは術後から大きく改善できる。この手術が患部を視認しながら実施するので、上記のサイレントマニプレーションに比べて医療過誤は少なくなる。1週間程度の入院が必要。先の山内は、最終的に肩関節関節包切開術を受けることで、凍結肩は完治に至った。

 


 

肩関節痛に対する「条口から承山への透刺」の適応 Ver.1.3

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1.五十肩に対する条口から承山への透刺の方法 

この刺針法は中国の清代以降に発見されたらしいが、わが国では1970年以降に、中国からの情報として知られるようになった。五十肩に対して健側の条口から承山に透刺(2穴を貫く)する方法で、条山穴と略称される。実際に2穴を貫くには5~6寸もの長針が必要である。


肩関節痛患者に対し、仰臥位または椅座位にさせて、4~10番相当の針を用い、健側の条口(足三里から下5寸、前脛骨筋中)から深刺する。そして針を上下に動かしながら、肩関節部の自動外転運動を行わせると、肩関節周囲への施術だけでは改善できなかった肩可動域制限も、半数程度の患者では可動域増大すことを経験する。なお元々は健側刺激となっているが、患側治療でも大差ない効果となる。しかし持続効果は短いのが欠点である。健側の下肢を刺激することが原法であるが、試しに患側を刺激してみたこともあったが、治療効果に大差なかった。


2.奏功要因

なぜ条山穴は、肩関節痛に効果があるかに解答することは困難だが、どういうタイプの肩痛に適応となるかを、台湾の中医師である陳潮宗氏は次のように報告した。

陳医師は、発症後1ヶ月以上を経過した者で、外転角100°未満、外旋45°未満、内旋45°未満であった14例の五十肩患者に条口-承山透刺を行った。その結果、肩甲上腕関節の外転可動域は、ほとんど改善しない(平均1.7°)が、肩甲胸郭関節の上方回旋可動域が改善(平均6.7°)したと発表した。(條口透承山穴治療五十肩、中国中医臨床医学雑誌 1993.12)
陳医師の治療成績が、あまり芳しくないのは、凍結肩状態にある患者を選んだためだろうが、結果的にこの結果が本研究の信憑性を増している。結局、条山穴透刺は、肩甲上腕関節の動きではなく、肩甲胸郭関節の動きに効果がるようた。

五十肩で上腕が十分には外転できないのは、肩関節包の癒着の問題を別にすれば、筋緊張が強すぎて短縮状態にある筋を、無理して伸張させようとした状態である。それは肩甲上腕関節の主要外転筋である棘上筋と三角筋中部線維と、肩甲骨上方回旋の主動作筋である肩甲下筋と大円筋である。このたび条山穴刺針が肩甲骨の可動性を改善した結果、肩の外転可動性が増すことが判明したので。条山穴刺針は肩甲下筋刺針や大円筋刺針と同じような作用をすると思われた。  

3.条山穴刺針の治効理由

条山穴を透刺するには6寸針もの長針が必要である。これは長すぎるので、筆者は条口から1寸、承山から1寸刺入を続けて刺入することにしたが、塗料効果はそれなりにあるようだった。さらに省略する者もいて、条口一穴から2寸ほど刺入しても、一定の効果は得られるようだ。条口から浅刺直刺して、
下腿三頭筋を刺激するのではなく、その深部にある後脛骨筋への刺針が必要な気がする。きちんと断言するためには、症例を多数こなして感触をつかむほかない。

陳潮宗氏の研究結果のように、条山穴刺針がもし肩甲胸郭関節の可動域を増すことが目的ならば、肩関節に関係する經絡走行という観点では、条口よりも承山刺激の方が重要となるだろう。承山と肩関節は、陽蹻脈で連絡しており、アナトミートレインでの浅層バックラインでも連絡している。

 

朝目覚めて、思わず背伸びする時、体幹から下肢は弓成りに反らし、両腕はバンザイするよう挙上させる体位となるが、このような原始的姿勢反射も、上腕挙上と下腿筋の収縮が関係していることが推察できるからである。


4.症例:凍結肩患者に対する承山運動針の効果

現在通院中の右凍結肩患者(55際、女性)に対し、椅坐位で患側の承山に2寸#4で2㎝刺入し、肩関節外転運動を実施すると70°→75°となった。抜針せずに条口から2寸#4で2㎝刺入すると、外転運動を実施すると75°→80°程度となった。承山穴刺針と条口穴刺針の凍結肩に対する優劣は不明であるが、ともに同程度の効果をみた。その後、患側上にした側臥位で承山と条口個々に刺針してみたが、体位が悪いのか、すでに坐位で一度肩関節周囲がゆるんだ直後だったのか、ともにそれ以上に改善効果は得られなかった。条口→承山への透刺を行うことは実際的な治療として無理な話だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

後頸痛に対する針灸治療の総括 ver.1.1

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シンプルに私の行っている後頸痛の針灸治療を整理してみた。

 1.胸椎・腰椎部筋の構造と針灸治療方法のおさらい
     まずは背腰部固有背筋を整理し、頸部の固有背筋と比較する。

起始・停止とも背部にある筋を固有背筋とよび、脊髄神経後枝支配である。胸椎と腰椎における固有背筋の構造は、浅層には起立筋があり、棘筋・最長筋、腸肋筋に細分化される。深層には横突棘筋があり、半棘筋・多裂筋・回旋筋(長短)に細分化される。
   

頸椎では頭・頸半棘筋が、胸椎は長・短回旋筋が、腰仙椎では多裂筋が発達している。横突棘筋の機能は、上下椎体間の静的安定を保つ役割と、脊柱運動(前後屈や左右回旋)の際、生理的範囲を越えた動きをないよう捻挫しないよう制限をかける役割がある。脊柱を動かす筋は、棘筋・最長筋、腸肋筋といった浅層筋であるが、これらは背腰痛を起こすような障害はあまり起こさないので、針灸治療上は考慮する意義は薄い。つまり腰痛の治療穴として代表的とされる腎兪や大腸兪は、実際には治療穴として使う機会はあまりない。
   

背腰痛の針灸臨床の場合、症状部の撮痛の発見→脊髄神経後枝興奮エリアの把握→後枝が脊椎傍から出る部への刺針→症状改善という一本道の考え方で成功することが多いので、これは針灸治療定理の一つとなる。背部部一行からの深刺が効く訳は、背腰痛の大部分は、横突棘筋の過緊張が真因だからだろう。

2.頸椎の筋の構造

頸椎では起立筋に代わり後頭下筋と板状筋が存在している。横突棘筋は胸椎~腰椎と同じように頸椎でも存在している。

1)後頭下筋の機能と刺激点

①後頭下筋は、後頭骨-C2間にある。その主作用は頭の前後屈運動の際、頸椎アラインメントからの逸脱防止がその役割になるが、うがいをする際は、後頭下筋の最大屈曲(25°)、顎をひく際は最大伸展(10°)が必要となり、これは後頭下筋の仕事になる。

②下頭斜筋を除く後頭下筋3種は、後頭骨下項線に停止がある。その代表刺激点は上天柱穴である。天柱刺針では大後頭直筋の下方に入ってしまうので、後頭下筋群に対する治療穴としては 適切な治療穴とはいえない。
C1C2棘突起間の外方1.3寸に天柱穴をとり、その上1寸で後頭骨-C1間に上天柱をとる。上天柱から直刺すると、僧帽筋→頭半棘筋→大後頭直筋と入る。なお僧帽筋は肩甲上部を挙上(肩をすくめる動作)する機能なので、頸部筋としての作用はない。

2)頭半棘筋と刺激点

①頭の前後屈運動の主体となるのは後頭下筋の浅層にある頭半棘筋で、頭半棘筋は頭の重量支持の機能を兼ねているので太く発達している。
②頭半棘筋の停止は、後頭骨上項線にあるので、治療点としては上天柱のさらに上方の下玉枕になる。ちなみに上項線中央にある外後頭隆起の直上に脳戸穴があり、脳戸の外方1.3寸に玉枕穴がある。脳戸の外方2寸には脳空穴がある。

③後頭下筋は、C1後枝(=後頭下神経)により運動支配を受ける、後頭下神経は知覚成分をもたないので、筋痛を生ずることはない。しかし後頭下筋と頭半棘筋の間をC2後枝(=大後頭神経)が通過して後頭に向かう部なので、後頭下筋の筋コリは大後頭神経痛のワレーの圧痛点になる。

大後頭神経痛の原因の大部分は、頭半棘筋の神経絞扼が原因となる。治療穴は下玉枕または上天柱になる。


3)頭半棘筋への効果的な刺針体位

腹臥位で大後頭直筋に刺入するよりも、この筋を伸張させた肢位で刺針すると奏功しやすい。
通常は下図の方法で行うが、この時患者の頭は術者の心窩部に当てる。

術者が女性で患者の頭が胸に当たることが気になる場合、下図の方法を使うこともできる。ただし下図では運動針を併用できなくなる。

 

4)頭の左右回旋運動と筋

①頭蓋骨を左右に回旋する主動作筋は、頭板状筋である。頭板状筋は、中部頸椎棘突起と乳様突起を結ぶ筋で、後頸部において頭部回旋の主役である。本筋の収縮により左右回旋45°もの広い回旋が可能になる。
②頭板状筋を刺激するベストポイントは下風池穴になる。風池穴でもよいが、頭板状筋筋腹を刺激するには下風池の方が適している。
ちなみに風池から深刺しても上頭斜筋に刺入できない。なぜなら上頭斜筋はあまりに深い位置にあるため。

 

※下風池はあまり聞きなれない穴名かもしれないが、芹沢勝助は耳鳴時に圧痛がみられるポイントとして本穴を紹介していた。ただし芹沢は、天柱と風池を一辺とした正三角形の頂点と記していた。一側の頭板状筋の緊張も後頭下筋と同じように一側の内耳機能を亢進させる。この左右差のコリの程度の違いが内耳症状を生ずるらしい。


5)頭半棘筋への効果的な刺針体位

頭半棘筋は頭部回旋の主役なので、過緊張している頭半棘筋を伸張させるような動きで痛みを生ずる。治療は、本筋を伸張肢位にして下風池に実施するとよい。


3.頚部横突棘筋の機能と頸椎一行刺針

深層にある固有背筋の役割は、頸椎重量の静的状態を維持する。また頸椎回旋運動での頸椎に加わる衝撃を緩和させることにある。この役割は、胸椎・腰椎にある横突棘筋と同じものである。もしも横突棘筋がないとすれば、脊椎捻挫が多発することになるだろう。

 

1)頭半棘筋への刺針

頸椎一行線の圧痛の好発部位は、頭蓋骨-C1間では下玉枕で、C7-Th1間では大椎一行(別称は定喘・治喘)が代表である。これらの穴は、頭蓋骨-頸椎、そして頸椎-胸椎といった異なった構造物のつなぎ目になるので構造的に脆弱である。
棘突起傍にあるにある横突棘筋のコリ→脊髄神経後枝興奮→腰殿痛症状という病理変化となる。

①下玉枕:上天柱と玉枕の中点。直下に頭半棘筋がある。
②定喘(教科書):C7棘突起下に大椎をとり、その外方5分
③治喘:大椎の外方1寸


2)C3~Th7一行刺針

この高さにある横突棘筋に刺針する。これは脊髄神経後枝刺激になる。C1後枝とC2後枝は上行性に分布するが、C3以下の脊髄神経後枝は、すべて神経根から外下方45°方向に伸びる。なおこの反応は撮痛点としても把握できる。症状部から内上方45°方向の棘突起との交点にある背部一行線が取穴部位となり、そこから横突棘筋まで深刺する。

 

C3以下の後枝は、神経根から下外方に走行している。とくに後枝皮膚知覚枝は、症状部から脊髄神経後枝走行を斜め上方45°を下行しているので、後頸部~肩背部に、圧痛硬結もしくは撮痛部を発見できたら、その部位から逆に斜上方45°方向と背部一行(棘突起外方5分)上の交点が治療点となる。頸椎一行の圧痛点に深刺すると症状を緩和できることが多い。

施術の際は、側臥位で下を向かせるようにすると頸椎の前弯が減少して頸椎一行の圧痛を触知しやすくなる。

     

「現代針灸臨床論」テキストCDの販売内容

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1.現行の現代針灸臨床論CD内容

「あんご針灸院ホームページ」にて紹介している「現代針灸臨床論2023版」CDを発売して十年以上(テキスト作成開始から三十年)が経過している。内容は時々修正されるが、最新版は次のようになっている。

1)「現代針灸臨床論Ⅰ」 整形・ペインクリニック (315ページ)
第1章 頭痛
第2章 頸腕痛
第3章 肩関節痛
第4章 背腰痛
第5章 腰下肢痛
第6章 膝関節痛
第7章 顔面症状
第8章  上肢部症状
第9章 下肢部症状
第10章 歯科症状
第11章 治療効果を高める理論

2)「現代針灸臨床論Ⅱ」 内科・泌尿器・婦人科・五官科(389ページ)          
第1章 上中腹部消化器症状
第2章 下腹部消化器症状
第3章 鼻科・咽喉科症状
第4章 胸部症状
第5章 末梢循環器症状
第6章 全身症状
第7章  腎、泌尿生殖器症状 
第8章 産婦人科症状
第9章 眼症状
第10章 耳科症状
第11章 皮膚科症状
第12章 精神症状
第13章 RAと脳血管障害

2.鍼灸奮起の会テキスト内容と新規販売

5年ほど前から<鍼灸奮起の会}を立ち上げた。これは針灸実技指導を中心に行うことを主眼にしている。受講生を12名に対して3名の指導という充実した教育環境を提供している。この実技講習会用として新たにテキストを執筆した。タイトル名「現代針灸の理論と技法」があり、当初は実技講習会時で使用することを前提とした内容だった。1回講習会の時間は2時間半と定め、その時間内に終わらせる内容にするため、臨床各論や診察概論的内容を省き、一般的鍼灸治療法の紹介さえも省き、私が考えるベスト治療を中心に紹介している。これまで次の3分野にわたり講習会を実施した。

1)「整形現代針灸の理論と実技」 (73ページ)
第1章 背腰痛
第2章 腰下肢痛
第3章 膝痛
第4章 頸腕痛
第5章 肩関節痛
第6章 上肢症状
第7章 下肢症状

2)「内科現代針灸の理論と実技」  (86ページ)
第1章 上・中腹部消化器症状
第2章 下腹部消化器症状
第3章 胸部症状
第4章 腎・泌尿器症状

3)「五官科現代鍼灸の理論と実技」  (76ページ)
第1章  耳科
第2章 歯科
第3章 鼻科
第4章 咽喉科
第5章 眼科
第6章 皮膚科

鍼灸奮起の会用のテキストは、講習会参加者限定として配布してきたのだが、最近はこのテキスト執筆に重点をおいたので、冒頭の現代針灸臨床論テキストの改訂が間に合わなくなってきた。そこで今後は、<現代針灸臨床論Ⅰ、Ⅱ>と並行して<鍼灸奮起の会>のテキストをお分けすることにした。なお奮起の会用テキストを加えたが、価格はこれまでと同額に据え置いている。

 3.その他のテキスト
私がこれまで書いてきたテキスト。上記CDテキスト購入した方に限り、無料でお分けした。

1)「医語呂1100」67ページ
基礎医学、臨床医学、東洋医学系の語呂を収録。これだけ数がまとまった内容は、他に類がなく、これから鍼灸国家試験を受ける鍼灸学生には強力な武器となるだろう。

2)「五十音順 経穴名の語源」  18ページ
針灸学校で学習する354正穴についての語源を記した。他の書籍やネット情報を集め、また漢和辞典を元として漢字の成り立ちを元として自分なりに考えた。ツボ名の理解を深めることは、ツボの位置の記憶を助けることでもあり、印象に残るようになる。写真やイラストも多く掲載。

3)「経穴経絡学サブノート」
かつて私が鍼灸学校で「経絡経穴概論」を教えていたときに、作成したもの。ぼかすことなく、周囲の筋とともに経穴位置を明示した。イラスト多数。ただし現行の経穴位置とは若干異なる部分がある。

4)「中医学テキスト」
かつて私が鍼灸学校で「東洋医学臨床論」の中医学パートを教えてた時に作成したもの。私なりに独自の解釈がある。

4.入手方法
1)商品
①コース:「現代針灸臨床論Ⅰ」+「整形現代針灸の理論と実技」 6,000円
②コース:「現代針灸臨床論Ⅱ」+「内科現代針灸の理論と実技」+「五官科現代鍼灸の
     理論と実技」 6,000円
③コース:①+②同時購入   11,000円
※「医語呂1100」「五十音順 経穴名の語源」「経穴経絡学サブノート」「中医学テキスト」は無料同梱する。

2)ご購入手続き
 a. ①購入希望のコース番号、②お名前、③住所、④電話、⑤Eメールアドレス
   b.ご購入リクエストを受領した旨のメールを差し上げますので、所定の代金を以下までお振込み下さい。
  お振り込みした後、その旨ご連絡下さると処理スピードが速く   なります。
     三井住友銀行 国立(クニタチ)支店 普通預金口座 口座番号5389422
     名義人:似田敦(ニタダ アツシ)
 c.お振込み確認後、商品を郵送します。その際、領収書も添付します。
 d 銀行振込み手数料は、ご負担ください。CD郵送料は当方で負担します。

3)テキスト購入に関するお問い合わせは、以下まで御願いします。
  電話O42(576)4418    Eメールnitadakai825@jcom.zaq.ne.jp
    住所 〒186-0004 東京都国立市中1-11-26 あんご針灸院
  氏名 似田 敦 (にただ あつし)


焦氏頭針法と朱氏頭皮針法 ver.1.1

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私の手元には、焦氏頭鍼法、朱氏頭皮針法、山元式新頭針法といった3種の参考文献がある。歴史的には、焦氏頭鍼法は焦順発医師が1960年代に、朱氏頭皮針法は朱明清医師らにより1980年代に、ともに中国で開発された。山元式新頭針は、YNSA(Yamamoto New ScalpAcupuncture)とも略される。1980年代頃から日本の山元敏勝医師により開発された。この3つの方法は治療点が異なり、治療点を示す頭のマップも当然異なっている。山元式新頭針法は別稿にゆずり、ここでは焦氏頭鍼法、朱氏頭皮針法の概要を説明する。

1.焦氏頭鍼法(杉充胤訳「頭針と耳針」、自然社、昭和50年)

1)焦氏の頭針チャートと理論的根拠

上記書籍「頭針と耳針」は頭針療法(山西省稷山県人民病院編)と耳針(中国人民解放軍南京部隊編)の合本である。昭和50年、自然社より刊行された。前半1/4(約50ページ)が頭針について書かれているが、当時の中国においても耳針とは違って頭針は目新しいものだった。後半3/4が耳針について当時中国では文化大革命の混乱の中、中国共産党幹部以外のカリスマはつくらないという方針からなのか、著者名は提示されなかった。著者が焦順発医師だと知れるようになったのは、かなり後になってからであった。

焦氏頭鍼法は、大脳皮質の機能局在を、素朴な形で頭皮に投影させている。この象徴的な例としては、大脳中心溝の前方部分の中止前回に相当する部が運動区となり、中心後回に相当する頭皮が感覚区となっていることがみてとれる。
運動麻痺時は、運動区を刺激するが、ペンフィールドの小人に準じた大脳機能局在があって、頭頂付近は下肢、側頭部付近は顔面部が、両者の中間領域は上肢に振り分けられている。

 

 

 

2)用針:焦氏頭鍼の方法では、2.5~3寸の26~28号中国針(日本針では15~12番相当)を使用する。
3)刺針手技:斜めに捻針しながら刺入、頭の皮下、あるいは筋肉層にまで刺針する。その深さに達したら、針を固定し上下してはならない。その後、毎分200回前後捻針し、各回、針体が前後に2回転するくらいに捻針し、1~2分間捻転し、5~10分間置針しておいたら、また前回と同じように捻針することが必要である。これをもう一度繰り返してから抜針すればよい。
4)私の印象:今となっては大脳機能局在の、原始的な局在をマップの根拠としている点で治効理論的に非常に弱い。しかし従来の体針法では知覚異常性疾患に鍼灸で治効を引き出せても、運動性麻痺性疾患が鍼灸では弱いことを自覚し、それに対処するための着眼点としては妥当であり、実際に運動麻痺性疾患に効果があり、鍼灸の適応を拡大したことを評価すべきであろう。頭針法の原点といえる。 

 

2.朱氏頭皮針
 (朱明清、彭芝芸著、「朱氏頭皮針」東洋学術出版社、1989.9.20刊)

 

1)朱氏頭皮針の頭針チャート 
朱氏頭皮針のチャートは、焦氏頭針のチャートと似ている部分が少なくない。たとえば、前頭部髪際にみる治療帯、頂顳帯が中心溝に一致している点などである。総合的に焦氏頭針法の流れを受け継ぎ、改良したものだと推測できる。


2)用針:朱氏頭鍼の方法では、1~1.5寸の30~32号中国針(日本針では10~8番相当)を使用する。従って、焦氏と比べて、短く細い針を使用する。座位で施術することが多い。僧帽筋膜下層(やわらかい疎生結合組織)に刺入する。そのためには、頭皮と15~30度の角度として、1寸くらい刺入する。

3)刺針手技:朱氏頭鍼が焦氏頭針法と比べての最大の違いは、単なる刺針手技をするのではなく、補瀉手技を行う。
①抽気法:頭皮に対して、15度の角度で、指の力を用いて鍼尖を皮膚にすばやく刺入し、さらに腱膜下層まで刺入したら、鍼体を寝かせ、1寸ぐらいゆっくり刺入した後、瞬発的な力で表層に向けてすばやく引き出す。引き出す幅は、多くても1分くらい。得気があり効果が収められるまで以上のことを何度か繰り返す。補法の手技。
②進気法:刺入方法は抽気法と同じ。鍼体を寝かせ、1寸ぐらいゆっくり刺入した後、瞬発的な力で内にすばやく押し入れる。押し入れる幅は、多くても1分くらい。得気があり効果が収められるまで以上のことを何度か繰り返す。瀉法の手技。
 
4)促通手技の併用
刺針手技中は、患者に疎通効果が得られるよう協力して運動方を併用させる。中国医学の言葉でいえば、導引の併用ということであろう。疎通効果を得るための運動は、疾患によって異なるが、私が見学した講習会で学んだ方法を紹介する。、

①片麻痺に伴う歩行困難(車椅子患者)
座位にさせ、頭皮針実施。刺針手技に応じて、患側下肢を太ももから浮かせ、足裏を床面に音をたて叩きつける動作を繰り返す。大きな動作ほど有効。
②耳鳴、難聴
患側外耳口から術者の指先を入れ、刺針手技に応じて、指を抜き差しする。
③腰痛
座位で頭皮針を実施。その際、助手の先生に腰背部疼痛部を叩かせる。
 
5)置針:一般的に頭皮鍼の留鍼時間は、長いほど優れた効果が得られる。通常は、2~4時間にも及ぶ。留鍼中に間歇的に手技を施し、一定の刺激量を持続できれば、治療効果は一段と高められる。
 
6)私が東京衛生学園常勤教員だった頃、東京衛生衛生学園では朱明清・彭芝芸を招待して講演する機会をもった。その冒頭、朱氏は「私の講演では、まず最初に実際の患者に頭皮針を行い、その効果をお見せすることにしている」として、学校近くのM病院に脳血管障害で入院中の歩行困難患者に対し、頭針鍼を行ってみせた。施術時間10分間ほどで、驚くべきことに歩行可能となった。数人の難病患者をその場で治療し、どれも速効的な効果が出せていた。
しかしながら追試しても、同じような効果を出すことは難しかった。この理由として、刺針部位の選出の誤りもあるかもしれないが、重要なのは針の手技の違いなのだろうと思った。実際、朱氏頭皮針法を追試しても、同じような効果が出せないということは、よく耳にする。朱明清医師の技術は非常に高いものだという事実に異論はないが、追試が無理なのであれば、医療技術の普及という点ではマイナスになる。 

第9期針灸奮起の会「整形外科の現代針灸」実技講習会、開催のお知らせ

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先回の令和5年春には、第7期針灸奮起の会「五官科の現代針灸」を、同年秋には「内科症状の現代針灸」の針灸実技講座を実施しました。今回は一周回って「整形外科の現代針灸」の実技講座を実施しますが、指導内容も次第に洗練されてきました。以前、参加されたことのある先生方でも満足されることと信じています。
今回の整形外科実技は、きちんとした病態生理と病態把握を根拠とした、アセスメントがしっかりした現代針灸治療をご披露することが主題となっています。
皆様のご参加を参加をお待ちしています。実技助手として小野寺文人、岡本雅典の両氏も指導のお手伝いをさせていただきます。

「放心状態で考える君」

1.スケジュール開催時間:午後5時30分~8時頃

 第1回 3月 3日(日曜)  奮起の会 背腰痛
 第2回 3月17日(日曜)  奮起の会 腰下肢痛
 第3回 4月 7日(日曜) 奮起の会 膝痛
 第4回 5月19日(日曜) 奮起の会 頸痛  
 第5回 7月21日(日曜) 奮起の会 肩関節痛

2.講習会会場::国立市中1丁目集会場
    東京都国立市中1丁目10-34       
  JR中央線国立駅、南口下車徒歩3分
     

 

                   
3.毎回の定員:12名(定員になり次第〆切)

4.持参品:筆記用具程度、毎回オリジナルカラーテキストを進呈。針灸実技用の道具類は支給します。

5.会費:針灸有資格者7,000円、針灸学生6,000円 

6.懇親会:講習会後、駅前の居酒屋にて。会費は3000~3500円程度(当日受付)

7.受講お申し込み方法

参加御希望の方は、①参加希望会のテーマと開催予定日、②氏名、③住所、④電話 ⑤メールアドレスを、メールまたは電話でお伝えください。 折り返しご連絡を差し上げます。参加費は当日現金でお支払いください。領収書発行します。 お申し込み〆切り日は各回とも開催前日午後3時頃までです。ただし参加者12名に達した場合、その時点で受け付け終了いたします。

あんご針灸院 似田 敦(にただあつし) 電話042(576)4418 
メールアドレスnitadakai825@jcom.zaq.ne.jp


講習会内容 現在、腰背痛と腰下肢痛のみ (残りは近日中に作成予定です)

A.腰背痛
A4版テキスト,9ページ

A1基礎 脊椎の基準点と取穴および撮診法
①背部兪穴基準点の把握
②脊髄神経後枝走行と撮診法
③撮診法に対応した背部一行刺針で、高い治療効果を生むことが可能となる。


A2症状 膈兪~肝兪付近(胸椎部で肋骨がある部)に感じる痛み
  <胸椎後枝症候群>
①腰背筋痛は、浅層にある起立筋ではなく、深層の横突棘筋(半棘・多裂・回旋筋)に原 因がある。
②治療は、背部一行刺針(棘突起外方5分)から深刺する。刺針体位は、腹臥位よりも側 腹位で行う方が効果的。


A3症状 脾兪~腎兪付近に感じる痛み 
 <メイン症候群(胸腰椎接合部後枝症候群)>
①胸椎は回旋可動性に富むが腰椎は回旋できないので、第12胸椎の回旋させる力は第1 腰椎椎体に受け流すことができず、力学的ストレスが生じやすい。これをMaigne 症候群(胸腰椎接合部後枝症候群)とよぶ、
②本症候群には側腹位。Th/ L1棘突起間直側への刺針が効果的である。
③上殿部痛は、メイン症候群ではなく、上殿皮神経痛の場合もある。後者では、腸骨陵を縦走する上殿皮神経のワレーの圧痛点を発見し、この部から水平刺して筋膜癒着を剥すことを考える。


A4症状 上体前屈時にL5~S1椎体間に感じる痛み
<腰椎-仙椎移行部多裂筋過緊張症>
①腰椎は前後屈の可動性に富むが、仙椎椎体は可動性は全くない。
に加わった前後屈の力学的ストレスは、仙椎に受け流すことができず、L5/S1椎間関節は強い力学的ストレスが生じやすい。
②この結果、L5/S1椎間関節と多裂筋がダメージをうけやすく。L5/S1一行刺針が効果的になる。


A5症例 志室あたりの起立筋外縁の鈍痛
<胸腰筋膜癒着または大腰筋筋膜症>
①脊柱起立筋(後枝支配)の外縁には腰方形筋(前枝支配)があり、両筋間には強大な腰 仙筋膜(=胸腰筋膜)が発達している。この部の筋膜が緊張すると、腰部深部に広範な 鈍痛を起こす。志室から腰仙筋膜に深刺入するとよい。
②腰仙筋膜深部には、腰神経叢があるので、ここから出る神経枝症状に対しても志室深刺 が効果がある。大腿外側、陰部鼠径部、大腿前面、体内内側痛に対しても腰神経叢刺針を行う適応がある。
 

A6症状 下背部で起立筋外縁の鈍痛
<外縫線部の筋膜癒着>
①胃倉あたりは外縫線とよばれ、脊髄神経前枝支配筋と後枝支配筋の境界領域である。このあたりは筋構造が複雑であり、筋膜癒着が起こしやすい。
②側臥位で、胃倉から横突起方向に深刺すると、中~下背部に広範に針響を与えることができる。広範囲におよぶ背痛に適応がある。慢性背痛の他に胆石症の鎮痛にも効果がある。


A7補講 八髎穴への刺入技法と治療点の選択
①次髎穴の後仙骨孔から針を入れて貫通させるコツを紹介。
②仙骨神経叢はL4~S3の高さから起こるので、代表治療点としてはS2(次髎)を選穴する。陰部神経はS2~S4から出る体性神経なので、代表治療穴としてはS3(中髎)を選択する。端的にいえば、整形疾患では次髎を使い、泌尿婦人科疾患では中髎。
②ただし実際には、神経枝は後仙後仙骨孔から仙骨骨膜に沿うように広範に分布しているので、後仙骨孔内に入れる必要はなく、むしろ仙骨骨膜刺激を目的とする水平刺を行った方が効果的である。


B.腰肢痛
A4版テキスト,10ページ

B1症状 片側の殿部~大腿後側~下腿(前面・外側・後面)が痛む。知覚低下部はない。
<梨状筋症候群>
①梨状筋症候群の真因は、坐骨神経痛ではなく、坐骨神経周囲の梨状筋ファッシア興奮による筋膜痛である。坐骨神経ブロック刺針(中国流環跳)刺針が効果的になる。
②腰椎椎間板ヘルニアは、腰部神経根症状ではなく、腰部椎間関節部の筋膜重積症状である。 腰椎椎間関節部~横突棘筋への刺針が効果的である。

B2症状 上外殿部から大腿外側が動かすと痛む。
<中・小殿筋緊張症>
①臀部筋すべては知覚支配はないが、運動成分はあり、トリガーポイントが発生。
②とくに中・小殿筋の筋緊張は臨床で頻回に遭遇するので、側臥位で日本流環跳から深刺すると効果的である。難治性の中殿筋緊張では、横座り位で施術すると効果絶大になる。
③上殿部の強い痛みは、中・小殿筋の痛みではなく、上殿皮神経痛の場合があり、この時、トリガーポイントは腸骨陵の腰宜穴あたりに出現する。


B3症状 上殿部外側の痛み・鼠径部痛。歩行時の鼠径部に感じる違和感
<変形性股関節症>
①変形性股関節初期は、 筋緊張で股関節変形に起因した筋膜痛によるものなので、日本流環跳から深刺により速効で鎮痛できるが、変形が進行すると効果は持続しない。短い場合はせいぜい1~2日間にとどまる。自発痛があるような進行期であれば、針灸無効である。
②初期~中期の変形性股関節症では、筆者考案の徒手矯正手技が有効だ。


B4症状 同じ姿勢を続けている時に生ずる腰部の鈍重感と下肢不定症状
<仙腸関節機能障害>
①大多数の腰殿痛は、運動時痛だが、仙腸関節機能障害は静的腰殿痛、すなわち同じ姿勢を続けていると痛くなる。筋膜や靱帯の持続的負荷による痛みの悪循環が正体。
②仙腸関節の関節裂孔底まで刺針し、股関節の屈曲外転自動の運動針が効果的。


B5症状 5分間ほど歩行すると足が前に出にくくなる。 腰をかがめて数分間座っていると、再び歩けるようになる。
<馬尾性間欠性跛行症>
①間欠性跛行は、動脈性と神経性があり、前者は下肢閉塞性動脈硬化症、後者は馬尾性間欠性跛行症でともに難治である。しかし中には陰部神経を圧迫が、間欠性跛行をもたらす場合もあり、針灸適応になる。   
②陰部神経が仙棘靱帯の狭隘部分で圧迫されている場合、この局所への深刺が効果的である。
③内閉鎖筋中をアルコック管が通過する部位での陰部神経絞扼が症状をもたらしていることもあり、アルコック管刺針が適応となる。

メイン症候群と上殿皮神経痛の針灸治療の違い

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針灸臨床治療で常見疾患の一つにメイン症候群がある。本疾患は上部腰椎~胸腰腰椎移行部~上部腰椎の高さから出る脊髄神経後枝が、外下方に延び、腸骨陵を越えた上殿部に痛みを訴える疾患である。治療は、後枝の出処であるTh12~L2棘突起傍(背部一行)へ深刺することで効果的な針灸治療となる。メイン症候群については、本ブログでもいろいろと報告してきた。

さまざまな適応がある中殿筋刺針(2022.2/3)
https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/9de6364bec37c3367dcd2e8d83463b9c 

一方、上殿部の痛みを訴えるもので、Th12~L2脊髄神経後枝が腸骨陵を乗り越え、上殿皮神経と名前を変えたあたりで、皮下筋膜の絞扼を受けることで強い痛みを生じる場合があり、これを上殿皮神経痛とよぶ。主訴のみから2疾患を判別することは困難だが、触診や撮診で鑑別することは難しくない。今回、上殿皮神経痛の針灸治療を経験して、気づいたことがいろいろ出てきた。


1.症例報告(85才女性)

主訴:左上殿部の劇痛
5日前から強い左上殿痛が生じた。近くの整形2カ所に行くも、X線をとられて腰椎の老化を指摘され、鎮痛剤の処方をうけるという同じ診療を受けたのだが、痛みは軽減しなかった。

初回治療
S)知人に当院を紹介されて来院した。本日で発症5日目。痛みが激しい時もあれば痛みのない時もあるとのことで初回来院時は痛みがない状態だった。
O)左殿部に圧痛
A)中殿筋の緊張によるTP活性状態
P)側臥位で環跳あたりに2寸#4で数本手技+置鍼10分

第2診(3日後)
S)前回治療の翌日から右殿部が激しく痛み非常につらかった。
O)中殿筋に圧痛強く広範囲に存在
A)中殿筋緊張の悪化
P)側臥位で環跳あたりに2寸#4で10本以上の局所集中置鍼10分

第3診(前回治療から3日後)
S)右殿痛は痛む時と痛まない時がある状態は、初診前と変わらない。
O)中殿筋に圧痛(-)となった。腰宜穴の圧痛(+)、胸腰痛一行の圧痛(-)
A)上殿皮神経痛かも
P)側臥位で、腸骨陵縁を撮む揺り動かす手技(筋膜リリース目的)+腸骨陵縁あたりに2寸#4で5本水平刺、置鍼10分

第4診(前回治療から7日後)
S)この一週間痛みがなかった。
O)腰宜穴の圧痛(+)
 ※腰宜穴(奇穴)の位置:L4棘突起外方3寸。腸骨陵最高点のやや内側
A)上殿皮神経痛と確信
  本当に中殿筋に異常はないか、横座り位で中殿筋を押圧すると、きつい痛みが出現したので、この肢位で3寸#8で深刺追加。

P)前回と同治療。

 

2.症例を通じて学んだこと

1)上殿皮神経痛とメイン症候群の鑑別
    両疾患の知識があれば鑑別は容易だが、知らなければ病態把握は難しい。
 共通点は上殿部痛、違う処はTh12~L2一行に圧痛があるか否かである。

2)上殿皮痛と中殿筋緊張の病態の相違

上殿部部痛はよくみる症状である。通常は中殿筋は上殿神経支配で、上殿神経は近く成分をもたない運動神経なので、コリは現れても痛みは出ない。痛みが出るのは、ここにTPが活性化したからだと考察した。
この上殿神経は、仙骨神経叢の枝である。しかしこの部の皮膚は上殿皮神経は上部腰椎の脊髄神経後枝の枝なので、筋と皮膚の神経支配はまったく違う。これは以前から不思議に思っていた。
今回の症例では、上殿皮神経痛(撮痛陽性となる)だったが、押圧して中殿筋に圧痛はなかったのだが、横座り位で、中殿筋を過収縮状態にして押圧すると強い圧痛が現れたのだった。本症例に関する限り、中殿筋過緊張と上殿皮神経痛は同時にみられたのだった。

 

 

 

 

 

 

痛み以外の膝症状への対処 ver.1.1

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膝関節痛で最も多い症状は膝痛であるが、膝痛と同時に「膝に水が溜まっている」「膝が腫れるている」といった訴えも少なくない。それらの対処法について整理する。

1.関節の熱感・腫脹

1)病理   
関節の軟骨が摩耗し、軟骨の破片が関節液中を浮遊。それが関節滑膜を刺激して関節内に炎症を起こして熱感・腫脹を起こす。この反応で知覚神経を刺激すれば膝関節痛も起こる。  

2)針灸の是非と方法  
熱感が強い時、針灸を行うと炎症が悪化しやすい。今から1~2週間後に熱感が落ち着いた後に治療する旨を患者に伝達。 治療にはチクッとした灸熱が適するのであって、熱量を多量に与えるせんねん灸は不適。糸状灸~ゴマ大灸を腫脹しいるエリアに広範囲に5~6点施灸する。 自宅施灸するのがよいが、近年自宅施灸不可とする患者が多くなってしまった。


2.関節水腫

1)病理       
関節液(=関節滑液)は関節滑膜が血液を材料として製造し、関節の栄養と潤滑油として機能し関節滑膜から吸収され常に一定量を保持している。 しかし関節軟骨の摩耗スピードが速いと関節軟骨の辷りが悪くなり、その代償的に滑液分泌量がふやして滑りを維持しようとする。関節軟骨片も関節液中に浮遊し、これが関節包を刺激する。  


2)関節水腫の理学検査

①膝蓋跳動作テスト    
水腫があれば膝蓋骨は大腿骨から浮いている。膝蓋骨を叩くと、大腿骨にぶつかるので、コツコツと音がするものを(+)とする。本テスト(-)では水腫ではなく、関節包の肥厚を示唆する。膝関節に加わる刺激が強いので、それに対処するた関節包も厚くなり、膝関節を守ろうとしている。
関節に水がたまると関節液の粘性が少なくなり、潤滑油としての性能が低下するので、炎症が増大しやすい。

昔は変形性膝関節症で膝が大きく腫れている者が針灸に多数来院していたのだが、最近では膝痛は以前ほど来院せず、とりわけ膝水腫の来院は少なくなったことを感ずる。これは整形外科で行ったヒアルロン酸注射の効果といわざるを得ない。

  

②膝蓋骨圧迫テスト        
膝蓋骨を圧迫しながら、上下左右に動かした際、正常であればスムーズに動くのだが、関節面が変形してるいると膝蓋骨底の捻髪感(ザラツキ感)を感じる。これをもって大腿-膝蓋関節の変形(または膝蓋骨軟骨化症)を考える。 

  一部の成書には、「膝蓋骨圧迫テストでは痛みが出現する」と書かれている。実際にも本テストでは被験者は痛みを感じることも多い。ただし膝蓋-大腿関節には関節包がないので、痛みを発生する要因がない。この痛みの正体は大腿四頭筋の筋腱付着部症と考えられているので、鶴頂など膝蓋骨の大腿四頭筋停止部に刺針して有効である。  

3)関節水腫の治療

基本的にまずは安静・固定・圧迫・冷却・挙上、膝圧迫包帯(または膝圧迫サポーター)。整形で関節から関節液を抜いてもらうと、治療直後は良好だが、数日後には関節水腫状態に戻ってしまうことが多い。 結局炎症があるから、水が溜まるのであって、炎症を鎮めないことには水腫は治らない。軽度の関節水腫は針灸治療の対象となり、とくに水腫部を中心に直接灸することで次第に水は消退していくが、それには長期間かかる。 
代田文彦は、水腫には灸が有効なのだが長期間かかるので、まず整形で水を抜いてもらい、その直後から灸をすると、水が溜まりにくくなり、その方が直りが早いと語った。灸治療により水腫の再発を防ぐ。

肩関節の結髪動作制限に対する針灸治療 ver.2.2

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結髪制限の針灸については、2021.6.27.ブログに書いたが、内容が古くなったので改めて整理し直すことにした。

1.結髪動作とは

髪を後頭で結ぶ動作が十分にできないものを結髪動作制限という。洗濯物を干したり 電車の吊革を持つ時なども結髪動作に含める。結髪動作は、肩関節の屈曲(前方挙上)+外転+外旋の複合動作になる。肩関節の内旋・外旋は、上腕骨頭軸の回転のことで、肩関節腱板の筋運動による運動である。
      ※結髪動作の語呂:髪(結髪)がくさくて(屈曲)、かゆい(外転)かゆい(外旋)。
 

2.結髪動作の運動分析

結髪動作制限が生ずるのは凍結肩のような関節や関節包に障害がある場合もあるが、ここでは筋の問題に限定して考察をする。診断名は肩腱板炎になる。
屈曲と外転は、結髪動作を行う過程で行う運動で、これらには必ずしも運動制限があるわけではない。結髪動作の主役は外旋になる。

肩関節外旋の主動作筋は、棘下筋と小円筋であるが、しかし外旋ROM低下原因は、棘下筋や小円筋の拮抗筋である肩甲下筋や大円筋の過緊張に原因がある場合がほとんどである。他動的に外旋動作をさせると、肩甲下筋や大円筋の筋伸張痛が出ることになる。針灸治療は、肩甲下筋や大円筋を刺激する。

※四つの肩腱板の語呂:「消極的ケンカ」消(小円)極(棘上・棘下)的ケンカ(肩甲下)


3.外旋制限に対する肩甲下筋刺針(膏肓水平刺)


肩甲下筋が伸張して初めて肩の外旋運動が可能になる。治療は本筋のストレッチ目的で側臥位で膏肓から肩甲下筋に刺針する。つまり針を肩甲骨と肋骨の隙間に入れる。

膏肓(膀)水平刺:患側上の側臥位にて、Th4棘突起下外方3寸、肩甲骨内縁を刺入点とする。3寸#8で5~7㎝水平刺するとズーンとする強刺激が得  られる。トリガーポイントに当たらなければ響かない。強い響きが欲しい場合には、肩甲下筋に刺針したまま、ゆっくりと肩関節の自動外転動作を行う。

側臥位で肩甲骨-肋骨間に刺入するには、肩甲骨外縁(肩貞)から刺入する方法もある。この方法では短い刺入(3~5㎝)で響く。これも肩甲下筋トリガーポイント刺激になる。

 

4.外旋制限に対する大円筋刺針

大円筋は、肩の内転と内旋に作用する。過緊張状態にある大円筋は、外転・外旋運動で伸張を強いられ、結髪動作の制限と痛みが生ずる。
 
1)側臥位にて大円筋刺針
 
肩貞(小):腋窩横紋上端から上1寸。大円筋中。
針灸治療は、側臥位にての結髪動作を指示。肩甲骨が上方回旋し、肩甲骨下角が外にとび出してくるので、検者の腕は、患者の肩甲骨外縁を触知して大円筋を押圧しつつ肩貞を取穴。肩甲骨外縁に向けて刺針。

   

 

2)大円筋ストレッチ

下図はヨガで「ネコの背伸びポーズ」、通称「ネコストレッチ」といわれるもの。四つん這いになり、尻をに引くようにする。3~5呼吸ほどキープする。上腕骨を強く挙上させることで、肩甲骨-上腕骨間にある大円筋を強く伸張させている。
この姿勢のまま、大円筋刺となる肩貞や肩甲骨下角あたりに刺針してもよい。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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