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神経根症の痛みの針灸治療

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1.神経根症時にみる上・下肢痛は、筋々膜症由来である。
 
知覚神経は上行性で運動神経は下行性である。ゆえに腰殿部における神経の圧迫は、下肢に知覚神経症状を生ずることはないが、運動神経症状を生ずる。すなわち腰椎椎間板ヘルニアなどによる神経根症では、神経圧迫されたからといっても、下肢に痛みは生じることはないが運動神経症状が生ずる。

ただしこの運動神経症状は脳血管障害にみるような、下肢が動かないといった重度なものではなく、下肢の攣縮や筋力がやや低下する程度となる。
 
現実に腰椎椎間板ヘルニアでは、腰殿部の痛みのほかに、下肢痛を生ずることは非常に多いが、これは神経根が圧迫や刺激された症状ではなく、腰殿部筋々膜の興奮による放散痛によるものである。たとえば殿部の坐骨神経ブロック点に刺針すると、下肢に電撃様針響が得られるのは、坐骨神経の知覚神経線維ではなく、運動神経線維刺激による下肢筋の痙縮である(加茂淳医師)。



2.神経根症に対する針治療の考え方

いわゆる神経根症に対して、ペインクリニックでは神経根ブロックが行われてきて、一定の症状緩和を得てきた。ただし完治に至る方法ではなかった。

今から14年前の報告になるが、井上基治らは、この神経根ブロックの方法にならって4症例にX線透刺下で神経根部に刺針+通電刺激したところ、どれも著効が得られたという報告がある。この作用機序としては、神経を鍼で刺激→神経血流の増大→神経損傷の修復と考察している。(井上基浩 他「根性坐骨神経痛に対する神経根鍼通電療法の開発と有効性」明治鍼灸医学 第30号:1-8  (2002)

ブロック注射による薬液浸潤拡散により神経根部を刺激することは可能だとしても鍼灸での針では神経根部に届くというのは無理があって、実際には神経根周囲刺針であって、これも神経根周囲の筋緊張を緩めた効果が大きいだろう。要するに筋膜膜症というであれば、鍼灸が得意とする筋々膜性腰痛と同じように施術できる筈である。



3.神経根症の鍼灸治療点

たとえば神経根性坐骨神経痛の場合、障害ある神経根周囲を刺激することは技術的に難しいので、仙骨神経叢部あたりの筋々膜を針刺激したり、殿部ほぼ中央にある坐骨神経ブロック点(≒殿圧穴)に刺針して下肢症状部に響きを与えたり、神経根性腕神経叢神経痛の場合も前・中斜角筋を針刺激したりして上肢症状部部位に響きを与えると、症状が軽減することもあるが、本質に迫った治療とはいえないので、次回来院時には症状が元に戻ったと聴いてがっかりすることが多いのであった。

腰椎椎間板ヘルニアによる下肢症状が、筋膜性のものだとして、具体的にどの部分が問題なのだろうか。

筋膜性疼痛症(MPS)研究会代表の木村裕明医師は、根症状の発痛源の多くは、ギザギザ底部のfasciaの重積のようだという見解を記していた。「L5の根症状がある場合は、大抵L5/sfacetの上か下のギザギザの底部にfasciaの重積が見られる。そこに圧痛が出る。上下の椎間関節を結ぶ、ギザギザの底部のfasciaに針をもっていき、リリースすると下肢に関連痛が出る。出ない場合は、ちょっと針先を外側にずらすとよい。そこに造影剤を入れると、大抵神経根に沿って広がる」

 

 

 木村のfasciaの重積がみられる点というのは、これまでも私が行っていた椎間関節刺針部位(すなわち棘突起の外方1寸)と良く似ている。とくに症状部に放散痛を与えようとする場合、さらに外方に刺針点を求めるという点も、そっくりであった。ただし私の場合は、椎間関節症に対して椎間関節刺針を行っていた。神経根症の場合のことは、考えの範疇に入っていなかった。今後、神経根症の治療に際して、その上下肢関連する知覚神経症状に対して、椎間関節刺針を行う方向性が示された。

 

 

 


 


橈骨神経麻痺の針灸治療 Ver.2.2

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今から5年ほど前に筆者は「橈骨神経麻痺には消レキの強刺激刺針」と題したブログを書いたが、今読み返せば、不備な内容になっていることを発見した。ここに全面的に書き換えることにする。

1.橈骨神経の走行の要点

 

 1)上腕部橈骨神経

腕神経叢より起こり、上腕外側の橈骨神経溝を下行(代表穴は消レキ・手五里)し、上腕骨外側上顆(曲池)に向かう。橈骨神経は前腕の全ての伸筋、外転筋、回外筋を運動支配し、手関節や指関節の動きに関与するので、運動麻痺時には下垂手状態になる。
→上腕外側部圧迫で、橈骨神経麻痺が起こることが最も多い。その原因は上腕骨骨折、ハニムーン症候群(長時間、新婦を腕枕)

※下垂指:総指伸筋・小指伸筋の麻痺により、各指のMP関節が伸展不能となる(手関節、PIP・DIPの動きは正常)
※下垂手:下垂指状態に加え、長短橈側手根伸筋(←手関節背屈作用)も麻痺し、手関節運動不能、MP関節運動不能、PIPとDIPの関節運動は正常。

 

 2)橈骨神経深枝(筋枝)

曲池あたりから橈骨神経深枝と橈骨神経浅枝に分岐する。
前腕背面の三焦経に沿って、深部に橈骨神経深枝(筋枝)が通る。本神経は後骨間神経ともよばれる。フロセのアーケード(前腕部回外筋入口の部)は狭いトンネル部となり、その部分は可動性が少なく、神経絞扼障害が起こりやすく、これを橈骨神経低位麻痺とよび、下垂指になる。

 

 

 3)橈骨神経浅枝(皮枝)

前腕部分では、前腕橈側で大腸経に沿って橈骨神経浅枝(皮枝)が通り、該当部分の皮膚知覚を支配する。

橈骨神経麻痺では、橈骨神経浅枝も当然麻痺し、上肢部分の大腸経・三焦経領域の軽度知覚低下を生ずるが、筋皮神経とオーバーラップ支配しているので実際には目立たない。明瞭な知覚低下は、合谷周囲に限局する(固有支配)。
※ちなみにド・ケルバン病の痛みは本神経が伝達している。 

2.末梢神経麻痺の分類(セドン分類)

C線維を除く末梢神経の構造は、有髄線維であって「ニシンの昆布巻き」のようになっている。昆布の中心にあるニシンが軸索、昆布自体が髄鞘である。末梢神経損傷の原因により、損傷の程度は異なる。損傷の程度は次の3つに分けられる。

 

1)ニューラプラクシー(神経無作動、一過性伝導障害)

圧迫などで一時的に神経が麻痺しただけの場合。軸索は正常だが、髄鞘(=エミリン鞘)が脱髄し、末梢に興奮が伝達されない。数日~数週間で回復する。長時間正座した場合に生じる足のしびれは、この最も軽いタイプ。

2)軸索断裂

軸索の連続性が損なわれているが、髄鞘の連続性は保たれている。断裂部から末梢はワーラー変性してしまう。髄鞘がつながっていれば、1日1㎜の長さで軸索が伸び、切断部末端側と出会えば神経は再構成される。これをつながって回復することが多い。打撲や骨折でよくみられる。

※ワーラー変性:切断端部より遠位の軸索が、神経細胞体からの連続性が断たれ、切断された軸索や髄鞘が変性に陥る状態。

3)神経断裂

鋭い刃物やガラスで切ったり、刺したりして、神経が完全に切断されている。近位断端から、再生軸索は伸長を開始するが、遠位断端までの間に間隙があることが多く、神経の自然回復は望めない。そのため、間隙を埋めるための神経縫合術、神経移植術が必要となる。

 


3.橈骨神経麻痺の針灸治療

1)病態把握

四肢の麻痺で最も高頻度なのは橈骨神経麻痺で、なかでも橈骨神経高位型のニューラプラクシー型が多い。このタイプは、上腕外側中央部における長時間の神経圧迫によるものである。頻度は少ないが、低位型橈骨神経麻痺も来院することがある。全身疾患としては鉛中毒によるものが知られている。
針灸治療するに際しては、まず橈骨神経麻痺になった経緯を問診し、上記3タイプの中のどの型かを推定する。神経断裂は外傷性なので診断自体は容易(治療は手術療法)。で、針灸の適応はない。つぎに高位型か低位型かの判別を行う。

2)高位麻痺の針灸治療の方法と効果

「麻痺は虚証なので補法の鍼灸をする」という治療原則があるが、実際にはその通りにはいかない。私は脳卒中後遺症の鍼灸である醒脳開竅法の方法と、「楊再春ほか著、今川正昭訳:神経幹刺激療法⑤、医道の日本(昭58年4月)」の記事に準拠し、圧迫が予想される部を中心として橈骨神経への直接刺針を行っている。

楊再春らの報告は次のようである。患側上の側臥位。肘関節をやや屈し、手掌を下に向け、自然に胴の脇につける。圧迫原因部位である上腕外側中央部(消れき、手五里)に求め、太針で1寸ほど直刺して刺針転向法を用い、橈骨神経を直接刺激する。橈骨神経に針が触れると、前腕の伸展、手指の伸展が起こり、母指・示指・中指に向かう触電感が放散する。

基礎体力のある若年者のニューラプラクシー型の急性橈骨神経麻に対し、上記方法を行ると、治療直後から大幅な筋力向上が得られ、1~2週間で全治した症例が過去に2例があった。ある程度の自信をもってパーキンソン病をかかえる老人の急性橈骨神経麻痺に対しても同様の治療を行ってみた。しかし今回はほとんど効果がなく、治療3回で中断した。結局その老人は2ヶ月ほどかかって自然治癒したのだった。この者は、おそらく軸索断裂型だったのだろう。


3)低位麻痺の針灸治療の方法と効果

寝ていて起きたら橈骨神経低位麻痺による下垂手になったという患者(69才、男)で発症3ヶ月後になって来院した患者がいた。外傷歴がないので神経断裂型と判断したが、それにしては回復が遅い。 

筆者が考える低位型の針灸治療ポイントとは、神経絞扼部であるフロセのアーケード部分(手三里付近)あたりに刺針、ただし運動神経なので電撃様針響は得られない。他に高位型に準拠して侠白にも刺針。両穴には低周波置針通電20分実施。念のために腕神経叢部(天窓)にも低周波20分置針を行ってみた。週2回治療ですでに3ヶ月経過しているが、目立った回復はみられていない。それでも整形医師は「しばらく様子をみましょう」とのことである。

 その数ヶ月後、患者本人から電話連絡があった。神経内科専門医の診断で、「神経性筋萎縮症」ということらしい。これは難しい診断で、この医師が言うには、整形外科医で診断するのは難しいとのこと。整形外科医にその旨を報告すると、「お役に立てなくて、ごめんね」と言ったらしい。神経性筋萎縮症であれあれば、さらに保存療法で様子をみてよい。

当初軸索断裂型の末梢神経麻痺だと考えた症例(医師も同じような診断)で、3ヶ月経っても、症状があまり変化しない橈骨神経麻痺患者が別にいた。本人は呑気な性格なので、あまり気にしていないが、2年経った現在でも手関節の背屈制限がある。本症も神経性筋萎縮症なのだろうか。

4)神経性筋萎縮症について

①概念
一側または両側上肢の激痛で始まり、1~3週間後、痛みが改善するとともに、上肢の挙上困難と萎縮を認める。多くは原因不明である。ウイルス感染が主病因と推測されている。

②診断
針筋電図による

③治療
治療は特別なものはなく、予後がよいことから投薬を行わずに経過観察してもよい。予後は、90%以上が良好に回復する。36%が1年以内、75%が2年以内、89%が3年以内に改善する。

 

 

 

 

 

保険灸について(代田文誌著「鍼灸読本」より)

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 数年前私は代田文誌著「十四経図解 鍼灸読本」春陽堂刊を入手した。初版は昭和15年で、昭和50年代に再版された。今日ではそれも絶版となった。

 昭和13年の開所から昭和20年まで代田文誌は、茨城郡内原村にある満蒙開拓青少年義勇軍訓練所の衛生課の鍼灸部で、保険灸を施していた。義勇軍は満州に渡って後も引き続き保険灸をやることになっていた。

その折、団員向けの小冊子を製作しようとのことで、昭和15年春陽堂から「鍼灸読本」を出版した。内容は基礎的なものなので特記すべき点はあまりないが、健康灸について興味深い内容を発見したので紹介する。


1.三種類の保険灸

保険灸の義勇軍において、保険灸として以下の三種の規則をつくって灸をした。

1)健康「上」と認める者に、身柱・風門・大椎・曲池・足三里
2)健康「中」と認める者に、身柱・風門・大椎・四華・中脘・曲池・足三里
3)健康「下」と認める者に、身柱、風門、大椎・四華・肝兪・脾兪・腎兪・関元・天枢・曲池・足三里
 
註)四華:膈兪と霊台および八椎下(筋縮と至陽の間でTh7棘突起下)の計四穴のこと。潮熱・盗汗(肺結核時のような)、虚弱体質時に灸療する。

 

 

2.取穴理由

上記の選穴は、どうも代田文誌が考えものでもないらしい。多分そういう意図で選穴したのだろうと、人ごとのように書かれているからである。

1)誰でも17~18才となると風門に灸した。これは風邪を予防し、同時に心臓の機能を整える目的。風邪は万病の始めであると古人は恐れていた。また同時に膏肓も併せて灸する。その意味はおそらく結核の予防と全身の活力を強めるためであったと思える。

2)24~25才ともなれば三陰交を加える。これは花柳病(=性病)の予防と生殖器を健康にならしめ婦人にあっては月経を整える爲であろう。

3)30~40才頃になると、足三里にすえる。これは胃を健康にし老衰を防ぎ、一切の疾病と予防し、その上長命を保つ方法とした。、
なお老いて視力の減弱を防ぐために足三里、併せて曲池へ施灸することもあった。

 

3.沢田流太極療法との相違点

「鍼灸読本」を出版したのは代田文誌40才の時だった。この年には「鍼灸治療基礎学」も出版
し、翌年には「鍼灸真髄」も出版している。師匠の沢田健は文誌が38才の時に死去している。

「鍼灸治療基礎学」や「鍼灸真髄」は、沢田健の治療すなわち沢田流太極療法を大いに褒め讃えている。「鍼灸読本」にみる保険灸の取穴理論は、三原気論や五臓色体表を用いていないという点で本式の沢田流太極療法とはいえないが、沢田流基本穴に似た面があり、かつ一般人にとって考え方が合理的なので、理解しやすいものとなっている。

沢田流太極療法の説明

 http://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/90e2d4cb08485c0c8c12a8780dd7d6e6


※沢田流基本穴:百会穴、身柱穴、肝兪穴、脾兪穴、腎兪穴、次髎穴、澤田流京門(志室穴)、中脘穴、気海穴、曲池穴、左陽池、足三里穴、澤田流太谿(照海穴)、風池穴、天枢穴など。(時代により多少変化あり)

 

 

 

 



 

仙結節靱帯刺針の効果 Ver.1.1

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平成26年5月10日報告の<坐骨滑液包炎の針灸治験>ブログで、坐骨結節滑液包炎の鍼灸治療について説明した。今回は仙結節靱帯痛と思える症例を経験し、よい成果を収めることができたので報告する。

1.仙結節靱帯痛の概要と鍼灸治療方法

1)症状
下殿部~大腿後側痛、陰部神経症状(肛門や肛門奥の鈍痛)

2)病態
ランニングやストレッチ体操のような、繰り返される大腿の大きな動作により、仙結節靱帯のTPが活性し、下殿部~大腿後側痛出現。この靱帯深部には陰部神経が走行するため、陰部神経絞扼障害も出現することがある。

3)針灸治療
伏臥位で、仙結節靱帯に相当すると思える部に、3寸#10にて深刺し硬い組織に当てる。3~5本集中置針(30~60分間)。

 

 

4)コメント

仙結節靱帯が原因で症状をもたらすことがあることは、つい最近のMPS研究会の報告で知った。それ以前、そもそも靱帯が痛みを起こすとは考えていなかった。仙結節靱帯は、皮下組織の厚い部にあるため、触診や押圧によって圧痛等の異常を確認しづらく、刺針点を定める確証が得られにくい。そこで解剖図を参考にして、刺針して仙結節靱帯に命中しそうな部位を選択したが、やむを得ず、一直線となるように3~5本深刺し、またTP過敏性を鎮めるために、長時間(筆者は30~60分間)置針することを考えた。

 
2.症例

1)左下殿部内側から大腿内側上部の痛み、頻尿を訴える例(60才、女性)

当院来院1年間くらいから、思い当たる理由なく、左下殿部内側から大腿内側上部が痛む。頻尿もあり。椅子に座ると、坐骨あたりが圧迫されるので、長時間座っていられない。股関節X線正常、骨盤部MRIで左側梨状筋の肥大を確認。ペインクリニック科で硬膜外神経ブロックや殿部からの坐骨神経ブロックを行ったが、無効だった。坐骨結節部に圧痛なし。
     
当初は左側陰部神経障害を考え、左側陰部神経刺針を行い、また念のために左梨状筋刺針(=坐骨神経ブロック点刺針)も行い、10~30分置針パルスを実施した。また仙骨神経叢と陰部神経に影響を与える目的で左中髎に直接灸実施。
   
何回か上記治療を繰り返すうちに、頻尿は改善したが、下殿部内側の痛みは、あまり変化なかった。このような治療を週1回ペースで1年3ヶ月継続した。針灸を継続していればいくらか座っていられるとのことだった。それ以上の治療を思いつかず難儀していたところ、仙結節靱帯もTPポイント活性になることを知り、前述した治療に変更してみると、治療直後から自覚的に明かに下殿部症状の軽減をみたということだった。

※後日、当人がこのブログをみて、発症した原因は不明と言ったが、膝をのばして両脚を開いた姿勢で、長時間何日も絵を描いたのが原因かもしれないと話してくれた。両脚を開いたというのは下の症例と類似点がある。


2)会陰部奥の痛み、左下殿部痛(53才、女性) 
     
数ヶ月前、ヨガで開脚姿勢をとろうとした際、足がすべって股が無理に開いた。その直後から、上記症状出現。会陰部は脱肛感や灼熱感があるが、外見上異常なく、 肛門周囲に圧痛はない。内科、婦人科では異常は見つからなかった。それ以外に、ふくらはぎと足底痛もあり。ヨガやランニングを好んで行っている。
   
坐骨結節部に圧痛なく、会陰部にも圧痛なし。上記症状の経験より、当初から仙結節靱帯TP活性化を考え、伏臥位にて左仙結節靱帯に相当する部から5本深刺で30分間置針実施した。治療後数時間は残針感があったが、その後に肛門周囲がポカポカし気持ちよかく、翌日久しぶりにランニングする気になったとのこと。ただしランニング後に症状は元に戻ってしまった。
   
3日後再診。今度も同様の刺針を行い、置針時間60分としてみた。また症状が安定して回復するまで運動中止を指示した。このやり方とは別に、四つばい位で仙結節靱帯に置針をし、徐々に正座位に体位変換を指示する運動鍼を行うと、さらに治療効果が増すことを発見した。正座位を行わせる際、大腿と下腿の間にマクラを挟んで、深い正座姿勢ができないようにすることで刺激程度をコントロールできる。

※本患者は足底痛や左脚第4趾DIP関節痛もあったが、仙結節靱帯刺針を行うことで消失または症状部位置が移動した。これらはTP活性化に起因した放散痛部位だったのかもしれない。

 

4.仙結節靱帯の触診(追補)

私は仙結節靱帯の触診に困難を感じてなかったが、韓国のLee先生は、上述した説明でうまく触知できず、以下に示す方法で触診できたと連絡を下さった。熱心さに頭が下がる。

 

 

急性膝関節痛が痛風由来だった症例

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1.痛風の概念
   
高尿酸血症による関節痛。血液に溶けきれない尿酸が尿酸塩となり関節滑膜と腎臓に沈着蓄積していく。これが痛風の  下地になる。

ある時、衝撃を受けたり急に尿酸値が下がったりして尿酸塩の結晶が剥がれ落ちると、白血球はこれを異物と認識して貪食する。この時炎症物質を大量に放出して、突然関節部の激痛を生ずる。
   
進行すれば結晶化した尿酸が腎臓の組織にも沈着し、腎不全(血液から老廃物をろ過する能力が低下)を起こし小便が出にくくなる。40~50才男性に多い。
     
尿酸はプリン体の最終分解物である。プリン体は肉類に多く含まれるが、プリン体自体は殆ど利用されることなく尿酸となる。プリン体を排泄するには尿酸として排泄するしかないが、尿細管で90%は再吸収される。ゆえに血中に蓄積されやすい。他の哺乳類では尿酸をさらに簡単な物質にして尿から排泄できる。プリン体過多は、プリン体を多く含む飮食物の過剰摂取にもよるが、体内でアミノ酸から合  成された方が多い。内因性にはメタボリック症候群が関係している。




2.痛風発作
    
痛風発作は、第1中足指節関節が全体の7割を占める。典型パターンは、ある日突然、足母趾MP関節が赤く腫れて激烈な痛みが生ずるというもの。ほかに距腿・膝・アキレス腱などの下半身に発症するものが9割。
下半身の方が体温が低いことや血流が滞る傾向が下半身に多いことによる。痛みは1週間から10日後に次第に自然軽快するが、多くの場合1年以内にまた同じような発作がおこる。


3.右膝痛が痛風由来だった症例(52才男性)植木職
 
3日前から急に、右膝を90度以上の屈曲ができなくなった。思い当たる原因はない。 膝関節のロッキングがあるので半月板損傷を疑ったが、受傷動機がはっきりしないので本診断には確信がなかった。膝周囲に目立った圧痛点もなかったが、軽く刺針して治療を終えた。治療直後効果はなかった。
  
本患者は当院で治療成功しなかったので、翌日整形受診して「痛風」との診断をうけ、薬物療法を開始した。7日後当院再診。内服治療開始して数日~1週間で、ほぼ痛み消失したという。本例の膝痛が痛風だったとは驚いた。なお症例は、薬物で痛みを止めたのではなく自然緩解だったかもしれない。
 
痛風というと足母趾MP関節の赤く腫れ上がった激痛というイメージが強かったが、本例は可動域制限強いが熱感・腫脹とも見いだせなかった。こんな例もあるのかと驚いた。
 

4.痛風発作の灸治療

局所が熱をもって痛む場合、局所から刺絡。足母趾MP関節痛の場合、大敦施灸というのが定石。

出来るだけ患部を高い位置に保ちつつ患部を冷やす。発作時の薬物療養は、まずは非ステロイド系消炎鎮痛剤(ボルタ   レン、ロキソニンなど)を用いて鎮痛させることが先決。「コルヒチン」には白血球が痛風発作の発生部位に働いた時に出るブロスタグランジンを抑制する働きがある。関節痛を感じ始めたときに飲めば、激痛を未然に防げる。本治療法としては尿酸値のコントロールが必要。


5.ヘルマン・ブショフが中世ヨーロッパで紹介した痛風の灸

ヨーロッパに灸治療が最初に紹介されたのが、痛風に対してだった。中世のヨーロッパ貴族に痛風が多かったのは、美食過多に要因があったらしい。利尿用のある緑茶を多量に摂取して大量に排尿することが痛風予防になることが知られていた。小便が多量に出れば、大量の尿酸が体に排泄さる事にもつながるからだろう。
   
バタヴィア(インドネシアの首都ジャカルタのオランダ植民地時代の名称)在住のオランダ人牧師、ヘルマン・ブショフ Herman Busschof は長い間足部痛風に苦しんでいた。現地のヨーロッパ人医師が頼りにならなかったので東南アジア出身の女医の灸治療を受けてみた。女医は彼の脚と膝に半時間の間にもぐさの小塊を約20個置いた。効果は彼の期待をはるかに上回った。すでに治療の最中に、それまでは一晩も休めなかったブショフが気持ちよく眠り込んでしまい、24時間後に目覚めたとき、膝と脚はまだ腫れていたが発作は治まり、何日もしないうちに仕事に戻ることができたという。
このヘルマン・ブジョフの灸に関する1675年の報告が、灸に関するヨーロッパ初の出版であった。

当時、アジアには「痛風」という概念はなかったので、女医は脚気と診断して施灸治療を行ったとする見解がある。一方、「脚気」はヨーロッパにない疾患だった。

わが国では 心不全で下肢がむくみ、末梢神経障害で足がしびれることから「脚気」と呼ばれた。( 心臓機能の低下・不全を併発したときは「脚気衝心」と呼ばれる重症だった)。
   

脚気の鍼灸治療

  http://blog.goo.ne.jp/admin/editentry?eid=78051ede4bbb1c7646621d2cd19f771e&p=1&sort=0&disp=50&order=0&ymd=0&cid=dccbeb7efad376c56996341b4cbda8b4  

甲状腺機能低下症の針灸治療 ver.1.2

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1.甲状腺機能低下症とは

甲状腺ホルモンは、身体の新陳代謝をスムーズにする役割がある。このホルモンがなくても生きていけるが分泌低下すれば、色黒・寒がり・脱毛・体温低下・脈拍数低下・易疲労・胃腸機能低下(食欲不振、便秘)などの新陳代謝低下症状が生じる。

甲状腺機能低下症との確定診断は、本症の確定診断には血液検査を行う。トリヨードサイロキシン(T3)低値、サイロキシン(T4)低値、甲状腺刺激ホルモン(TSH)高値という検査結果は、甲状腺機能低下症であることを裏付ける。
なお甲状腺機能低下症の原因は種々だが、最も多いのは橋本病である。

 

2.開業針灸における甲状腺機能低下症の診療 

1)甲状腺機能低下症患者は珍しくない

鍼灸には、不定愁訴を訴える患者が多く来院する。その大部分は更年期障害・神経症・筋痛症候群であるが、甲状腺機能低下症との診断がついた患者もまれに来院する。甲状腺機能低下症が疑われる患者はさらに多く来院する。
不定愁訴症候群の中から甲状腺機能低下症の疑いをもつ条件だが、私は、腎虚のイメージとして把握している。すなわち色黒・脱毛・寒がりに注目している。

2)甲状腺機能低下症の鍼灸治療と治療効果

甲状腺ホルモン分泌低下が原因なので、鍼灸では無理だろうと考えがちだが、施術してみると、効果絶大で、しかも速効性があることが分かる。その治療効果とは、一言でいえば疲労倦怠感の大幅な軽減である。筆者の場合、全身とくに体幹背面の筋を緩めるような鍼灸治療を行うが、とくにどのツボが必須ということではなく、仰臥位で10~20本程度の置針10分間、その後の伏臥位でも10~20本程度の置針10分間、座位で肩井、天柱への単刺程度の治療で、十分な効果が得られることが非常に多いと思う。
しかしながら、治療効果の持続時間は1~2日程度にすぎないのである。

3)鍼灸治療の適応と限界

甲状腺機能低下症の原因は不明であり、根本的治療法も確立していない。ホルモン補充療法としてチラージン(甲状腺ホルモンであるサイロキシン)が投与され、これは基本的に一生服用することになる。
甲状腺機能低下患者で、医師によるホルモン補充療法がすでに行われ、検査値も正常内に入っているのに、身体のだるさを訴える例も相当あるようだ。そうした者が投薬治療を受けつつも、鍼灸治療を希望しるのであろう。
鍼灸は、無論のことホルモン補充療法にとって代わるものにならない。だが鍼灸をすると、たとえば、今にも倒れそうになり、やっと治療院に来院した者が、治療後は元気になって帰って行くのを目の当たりにすることができる。
かといって、毎日ないし一日おきに針灸に来院させることは費用の面や時間の制約もあって困難であろう。、交感神経緊張を目的として、つらい時は熱いシャワーを短時間浴びることをアドバイスしている。実際、これもかなり効果的である。

 

3.脚気と鍼灸治療について

かつて脚気が原因不明の病気だった時代、脚気に針灸治療が行われ、そこそこ有効だったという話が伝わっているが、針灸治療が甲状腺機能低下症状に限定的ながら効果があることを考えれば、脚気に対してもある程度効果が見込めるのだろうか。


1)脚気の語源・症状

脚気という名称は、7世紀に著された「病源候論」に、“その病脚より起こるをもっての故に脚気と名づく”(木下晴都「最新鍼灸治療学」上巻より)とある。
ビタミンB1(チアミン)の欠乏により、心不全と末梢神経障害をきたす疾患である。心不全によって下肢のむくみが、神経障害によって下肢のしびれが起きることから脚気の名で呼ばれる。

ビタミンB1は神経機能を正常に働かせる作用がある。脳や神経に必要な成分はおもに糖質で、その代謝にB1が関与している。というのも、B1は炭水化物のなかの糖質が分解されてエネルギーに変わるときに欠かせないからである。糖質をたくさん摂取しても、B1がないと糖質の分解ができず、疲労物質(乳酸など)が体内にたまり、疲れやすくなったり、だるく、倦怠感が出るのはそのためである。

脚気の自覚症状は、初期には易疲労感のみであるが、進行するにつれ食欲不振・四肢(特に下肢のしびれ感)・動悸・息切れが加わる。不足すると末梢神経に異常をきたし、手足のしびれ、疲労、最悪の場合「心臓脚気」で命を落とすこともある。心臓機能の低下・不全を併発したときは、「脚気衝心」と呼ばれ、突然の嘔吐をきたしショック状態になり、死に至る病でもあった。

ビタミンB1は米の胚芽部多く含まれるが、わが国で庶民にも脚気が広く蔓延したのは、精米された白米を食べる習慣が広まった江戸時代頃からで、それ以前は、貴族など高貴な身分の者がかかった疾患だった。


2)脚気の針灸治療 

脚気の治療というと、「脚気八処の灸」が広く知ら東洋療法学校協会の経穴の教科書に載っている。この八穴とは、風市・伏兎・犢鼻・膝眼・足三里・上廉・下廉・絶骨(懸鍾)である(トトク風に懸かって、膝の上下三里と記憶)。出典は「千金方」による。本著は唐代、孫真人(655-658)により著された。

 

下肢部を重点的に取穴していることから、下肢症状に対処したものだと思える。ただし「神応経」には、ほかに心兪・脾兪・腎兪・関元兪・水分などの穴にも針灸するよう指示している。要するに全身治療を行う必要があるらしい。

 

鍼灸という物理的刺激が、交感神経緊張状態をもたらし、改善効果を生じたと考えれば、その効果は一過性だろう。それよりも、脚のだるさ・下肢浮腫・食欲不振などを併せ持つ患者を、早合点して初期の脚気だと誤診した結果によるものではないか?

「針灸臨床医典」には、治療期間について次のような記載もある。
浮腫のみ→1~2週間の治療
筋萎縮が始まると→1~2ヶ月の治療を要する
心臓衰弱(脚気衝心)→手ごわい

 

 


 

 

モートン病に承山の円皮針が有効だった自験例

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1.モートン病Morton disease の概略

足の5つの中足骨は深横中足靱帯により互いに固定され、足底の横アーチを形成している。横アーチの下には指神経(=固有底側指神経)が縦走し、足指間の知覚をつかさどっている。もし体重に耐えきれず、深横中足靱帯が緩んで横アーチが平旦化すれば、歩行時に床から繰り返し加わる上向きの力によってMP関節の関節包が炎症を興し、指神経は圧迫され、足裏の指部分にピリピリした刺激が生ずるようになる。とくに踵を上げて、MP関節を背屈してのスピードを上げた歩行ではさらに指神経圧迫の程度が増して痛みが強くなる。第3趾と第4趾の間におこることが多く、第2趾第3趾間に起こることもある。

 

 

 

 2.モートン病の自験例(63才、男性)

1)発症原因

7ヶ月前、原因不明で右半月板亜脱臼を発症。保存療法により現在はかなり改善している。しかし階段を上る時は健常者と変わりないが、下りる時右膝に不安定感が強く、この数ヶ月来、「二足一段」で自然と下りるようになった。

正しい二足一段というのは、階段を上り下りする足使いの方法をいう。階段を上る時は健側から先に出し、階段を下る時は患側から先に出すのが正しい二足一段である。私の場合、階段を上る時は健常者と変わらない(これを一足一段といい、健常者にみる普通の階段の上り下り方法)が、階段を下る時は健側を先に出すという習慣があった。左健側から下の段に下ろす際、右患側膝の四頭筋は廃用性萎縮があるので、患側四頭筋を収縮させつつ筋長を伸ばすというエキセントリック収縮を円滑に行うことができない。そのため左足は下の段に衝撃を与えて着地するような動きになり、その瞬間に左第4指と第3指裏面がビリビリ・ピリピリと痛み始めた。すなわち左足がモートン病となった。やがて平らな場所を歩く時も、足裏中足指節関節部を背屈させても、ビリッとするようになった。

※エキセントリック収縮:伸張性筋収縮のこと。すなわち筋収縮しつつ筋は長くなる収縮様式。もともとエキセントリック収縮は筋増加を目的としてハードな筋トレでよく使われる。エキセントリック収縮の対義語となるのはコンセントリック収縮で筋は収縮しつつ筋長は短くなる。これは階段を上る時の大腿四頭筋の活動などでみられる。


2)針灸治療

①筋膜性疼痛か?
 
圧痛点は湧泉から1㎝ほど踵寄りと、第2第3指中足骨間と第3第4指中足骨間にあった。強く押圧すると末梢に痛みが放散した。あるポイントを押圧して末梢に放散する場合、それは神経痛とみなすのが従来の常識なのだが、最近の筋々膜症の知見では、末梢に放散する痛みは、筋膜症によるものだとみなすことになる。上述の圧痛点にしても、筋膜症が原因なのだろう。たとえば梨状筋が殿部坐骨神経を圧迫すると下肢に坐骨神経走行に従った放散痛が生ずる。これは坐骨神経痛ではなく、梨状筋等の臀部筋緊張による下肢放散痛だと考える。というのも、知覚神経は上行性だからである。

②承山への円皮針
 
自分で足裏や足指間の局所圧痛点に刺針するのは、痛そうなのでやる気になれない。とりあえずネット検索してみると、「針灸陽気堂」の鍼灸師のツボ日記<このツボ! モートン病を疑ったら迷わず承山>の記事を発見。承山の下2㎝あたりの圧痛点にに刺針すると効果があるとの内容だった。

半信半疑ながら、早速自分の承山あたりの圧痛を調べてみると、こよくもこんな処に強い圧痛があるものだと感心するほどの処を3カ所発見した。いずれも承山穴周囲であった。夜も遅かったので、とりあえず円皮針を貼っただけで様子をみることにした。これで効果なければ、翌日に通常の針をするつもりでいた。その後はすぐに就寝。翌朝いつものように家の階段を二足一段で下りてみると、足指にビリッと来ないのを発見した。症状9割減となった。

この下腿後側の反応探索は、椅座位で膝を90度屈曲で実施した。この時下腿三頭筋は、腓腹筋弛緩しヒラメ筋緊張状態にあるので、圧痛の所在はおそらくヒラメ筋だと思った。
 

③考察

筆者(似田)は、以前<足底筋膜炎>に対しては下腿三頭筋の運動鍼が有効であることを報告した。この内容と同様に、モートン病に対しても下腿三頭筋(この場合、承山やや下方)圧痛点に刺針すると効果があった。すなわち足底筋膜炎とモートン病は同じ範疇の疾患だといえるのではないだろうか。そしてモートン病も神経痛ではなく筋膜症なのではないか。足底筋膜炎の圧痛を探るには足母趾を強く背屈して足底筋膜をピンと張った状態にするが、モートン病の場合も足の第2~第5趾MP関節を強く背屈すると症状が出やすいという共通性がある。


足底筋膜炎の針灸治療

 http://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/83c59673cb2f50c8faf765b63d8060ec

奇経走行と宗穴を考える

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1.十二正経の概念図
 
筆者は以前、十二正経走行概念の図を発表した。

 http://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/bac628918882edd51472352adefd6924/?img=0084a878810483f1998c462abef9281b

これと同じ内容をさらに単純化した図を示す。この図の面白いところは、赤丸の内側は胸腔腹腔にある臓腑で、鍼灸刺激できない部位。赤丸び外側は手足や体幹表面で鍼灸刺激できる部位となっているところである。鍼灸の内臓治療の考え方は、赤丸外の部位を刺激して赤丸内にある臓腑を治療すること、もしくは体幹胸腹側もしくは体幹背側から表層刺激になる。これは兪募穴治療のことである。

 

 

 2.奇経の八脈と宗穴

1)奇経の基本事項

上記十二正経絡概念図をベースとして、これに奇経走行を加えてみることにした。
始めに奇経に関する基本中の基本を確認しておく。奇経八脈はそれぞれ次のような宗穴をもっている。この治療点は次の奇経の二脈をペアで使い、4パターンの治療をすることになる。( )は宗穴名。

陽蹻脈(申脈)---督脈(後谿)
陰蹻脈(照海)---任脈(列缺)
陽維脈(外関)---帯脈(足臨泣)
陰維脈(内関)---衝脈(公孫)


2)福島弘道の提唱した新たな四脈と宗穴  
 
福島弘道氏は、従来の奇経八脈の宗穴治療だけでは不十分だとして4脈を加え、次の2パターンを付け加えることを提唱した。福島がなぜこのような事柄を思いついたのかを探ることが奇経を理解するヒントになる気がした。

足厥陰脈(太衝)--手少陰脈(通里)
手陽明脈(合谷)--足陽明脈(陥谷)


3)十二正経走行概念図への追加事項

1)前図に奇経八脈の宗穴を描き加えてみる。つまり十二經絡上に8つの宗穴を描くことになるが、4經絡は宗穴が存在しない。

2)そこで改めて福島の提唱した4新宗穴をさらに描き加えると、十二經絡上にそれぞれ一つの宗穴が載ってくる。

①肺経(列缺)、②大腸経(合谷)、③胃経(陥谷)、
④脾経(公孫)、⑤心経(通里)、⑥小腸経(後谿)、
⑦膀胱経(申脈)、⑧腎経(照海)、⑨心包経(内関)、
⑩三焦経(外関)、⑪胆経(足臨泣)、⑫肝経(太衝)

3)ペアとなる宗穴を点線で結ぶことにする。陽経ペアは赤色、陰経ペアは青色を使うことにする。
 
<陰経ペア>
①肺経(列缺)--⑧腎経(照海)
⑨心包経(内関)-④脾経(公孫)
⑤心経(通里)--⑫肝経(太衝)  ※福島提唱
 
<陽経ペア>
②大腸経(合谷)-③胃経(陥谷)   ※福島提唱
⑥小腸経(後谿)-⑦膀胱経(申脈)
⑩三焦経(外関)-⑪胆経(足臨泣)

 

 

4)奇経走行概念図

上に示した正経と奇経の総合概念図は、内容が込み入っていて、直感的に把握しにくいので、本図から、正経走行を取り除いてみることにする。奇経は臓腑を通らないので臓腑も取り除いてみることにした。

 

 

するとかなりシンプルな図が完成したように思う。絡穴から次経に流注することを考え併せれば、奇経だけで循環していることが理解できる。十二正経循環の予備回路として、正経と別ルートの奇経循環が想定できる。


兎眼・長掌筋・メラトニン・心肺停止のトリビア

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兎眼
 
眼が大きく開き、眼瞼が閉じない状態を兎眼とよぶ。顔面麻痺の所見。ではウサギは目を閉じないのだろうか。といえばそんなことはない。ウサギの上瞼は2枚あって、外側のは普通の瞼だが、内側の瞼が瞬膜とよばれる薄い膜である。外敵に対する威嚇を目的に、閉じていても開眼しているように見える。本当に安全だと思えば外側の瞼まで閉眼して眠る。ヒトでも内眼角部附近の白目部分(強膜)にピンク色の部分がある。これは瞬膜のなごりである。



長掌筋

長掌筋は、手関節を屈曲する時、浮き出てくる腱として有名である。その機能は、手掌腱膜を緊張させることで、猿などが木登りや木の枝にぶら下がる際に使われた。ネコが爪をしまう時にも使う。しかし今日ヒトはその機能は退化したので、長掌筋は無用のものとなった。



メラトニン
 
動物の進化をたどると、額の位置に「第3の眼」とよばれるものが存在した。これはカメレオンのように周囲の色や光を感知し、自らの体色を周囲に同調させるという保護色としての役割があった。メラトニン分泌により、皮膚に分布するメラニン細胞を収縮させることで変色させる。今日では、「第3の眼」は、大脳が巨大化した結果 脳深部の松果体に変化している。
松果体から分泌されるメラトニン量は昼間は低く、夜は高い傾向にあることから、夜はよく眠れる。メラトニンの役割は、動物の24時間のリズムを整えることと、生殖腺の発達と性活動を抑制することを仕事としている。



心肺停止


 
ニュースなどで心肺停止という言葉を、最近よく耳にするようになった。死亡ではなく、わざわざ心肺停止というのはなぜだろうか。法律上、死亡の判断は医師しかできないが、心肺停止は所見なので救急隊でもそのように判断できるのだろうと私は思った。しかし心肺停止がすなわち死亡とよべないことを知った。
 
心肺停止とは、脈もなければ息もしていない状態である。当然ながら意識はなく昏睡状態である。確かに二昔前であれば死亡とされていた。しかし現代の救急医療にあっては、止まったばかりの心臓を動かすことは簡単で、電気ショックとアドレナリンを中心とした薬剤を与えれば何とかなる。また息をしていなくでも人工呼吸器をつければ呼吸は停止しない。もっとも数分間の心停止の後、医療処置によって心臓が再び出したとしても、別の問題が出てきた。酸素不足に対して脳幹は比較的強いが、大脳皮質は非常に脆弱なので、生きてはいるが意識は戻らないという植物状態への回避も考えねばならなくなった。

つまり一旦止まった心臓に対し、長々と(4分間以上)心臓マッサージなどをやるのは考えものなのだ。

 

奇経の走行について その1 Ver.1.2

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 1.奇経の諸元
奇経は分からないことが多いが、手始めに奇経八脈の諸元について示し、古典的な語意について若干の解説を加える。




1)下極:体幹の一番下の兪穴。すなわち長強穴。
2)陽脈の海:「海」とは、多く集まる処の意味。すなわち他の陽経と多数連絡する。
3)陰脈の海:他の陰経と多数連絡する。
4)足少陰の別絡:腎経の伴走路。
5)足太陽の別絡:膀胱経の伴走路。

6)経絡の海:脊柱の深部を走行。前方では諸陰経に、後方では諸陽経に交わる。

7)維:大地をつなぐツナ、四隅を引っ張るツナの意。ここでは隅々までという意味で、陽蹻脈や陰蹻脈に属さない身体の隅という解釈。中国の神話,伝説において,天は大地の四方の果てにある柱によって支えられ,逆に大地は天に結ばれた4本の維(=太い綱)によってぶらさげられていると考えられた。天変地異が起こると、天柱が折れ,地維が切れて,大地が東南に傾いたなどと、大げさに表現することがある。
なお四維とは四方のことだが、東西南北とは違って、東南・西南・西北・東北の方角になる。

8)きょう(足+喬):足関節の外果、内果のこと。奇経は緊急予備用の経で、たとえて言えば、地面なのか川なのか区別がつかないほどの大雨の時のようなものである。こうした大雨の時も、小高い丘であれば、水に埋もれることないので、道しるべとなり得る。それが足の外果や内果である。人間でいえば重度浮腫のような場合である。

9)衝:つきぬける勢い。衝脈は深層を走り、その浅層は腎経が走る。月経と関係する。                                                                                                                                                                                                                                                        

10)任脈の絡穴が鳩尾、督脈の絡穴が長強であることについて
  
私が針灸学生に経穴概論の講義をする際、学生の興味を引き出すため、「昔の中国人は、人間には尾っぽが2つ有ると考えていたようだ」と話すことにしている。すなわち後の尾は尾骨先端、前の尾は剣状突起である。尾の直下に骨はないので、押圧すると指が沈む。絡穴は、正経では次経と連絡する部位であるが、奇経では深層への出入り口と考えたらしい。

2.ペアとなる奇経の走行図
奇経その走行についての古典的な図は載っていても、詳しく調べようとすると曖昧性が残る。そこで筆者は、東洋療法学校協会編「経絡経穴概論」(旧版)のテキスト記載に基づき、なるべく私見を交えることなく現代感覚での図式化を試みた。また奇経八脈は、臨床上は特定の2つの奇経をペアとして組み合わせて治療するのが普通なので、その2経を一枚の図に示した。







 

 

3.奇経の規則性について
1)奇経八脈は、帯脈を例外として、下から上に流注する。

2)ペアとなる奇経
陰きょう(足+喬)脈、陰維脈、陽きょう脈、陽維脈の4つは、体幹+下肢を走行するが、任脈、督脈、帯脈、衝脈は体幹のみを走行する。
下肢を走行する経と、下肢を走行しない経でペアをつくる。

3)要穴
奇経八脈は、それぞれ固有の宗穴をもつ。「宗」にとは、中心・代表といった意味がある。
げき穴があるのは、陰きょう・陽きょう・陰維・陽維の4経で、絡穴をもつのは、任脈・督脈の2経である。

4)体幹部の奇経走行の規則性
体幹前面において、陰きょう脈と陰維脈は、上下の線対称的な走行をする。
体幹背面において、陽きょう脈と陽維脈は、上下の線対称的な走行をする。





肩甲上部と側頸部のコリへの解剖学的針灸と坂井流横刺

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1.肩甲上部僧帽筋コリの鍼技法

1)柳谷素霊の秘法一本鍼伝書<肩井>刺針の概要 
位置:座位。肩?穴と大椎穴を結んだ中点の僧帽筋部。硬結部。
刺針:寸6の2~3番針を用いて、やや背中方向に直刺1~2㎝。

 

2)解説

針は僧帽筋に入る。深刺すると棘上筋に至る。深部には第2肋骨がある。肩井押圧に指頭に感ずる硬結は、この第2肋骨だとする見解がある。肩井は、僧帽筋のトリガーポイントにほぼ一致する。刺針刺激で活性化したトリガーポイントに鍼先が当たると、検者はビクンと筋が収縮するのを感じとれる。 

 

 3)坂井豊作の肩井横刺

坂井豊作は、江戸時代徳川末期の針医で<鍼術秘要>を著述した。その鍼の特徴は、経穴に刺すというより経絡に従って横刺するのだが、経穴位置にこだわらず、丹念に指先で反応を捉えるのを特徴としていた。これは經絡は皮下の浅層を通っているから、直刺よりも横刺の方が經絡に与える刺激が大きいので治療効果は大きいと考えたからであった。その刺激対象は今日でいう筋肉や筋膜(皮下筋膜を含む)であろう。
     
坂井の肩甲上部僧帽筋に対する横針は、患者を側臥位にし、医師は患者の後に座る。僧帽筋腹を後から前へ約1㎝間隔で4~5本刺し、さらに巨骨あたりから首のつけね方向に僧帽筋筋線維に沿って横刺する。この巨骨からの僧帽筋筋線維に沿った鍼は、非常に効果が大きいとのこと。なお刺針の際は、皮下組織を母指と示指でつまみ、そこを刺すようにする。


坂井豊作の肩甲上部の小腸経に沿う横刺を具体化したのが柳谷素霊の肩井の一本針だろうが、坂井の肩部の横刺の目的は、心窩部~上腹痛に対するものとなっている点が大きく異なる。現代医学的には、肩甲上部僧帽筋刺激→C4神経根→横隔神経→横隔膜隣接臓器への刺激(とくに胃に対する刺激)という具合に説明できるだろうが、肩井からの刺針で本当に腹痛が改善するとは考えづらく、これには坂井流横刺の技法が関係しているのかもしれない。

 
2.側頸部胸鎖乳突筋コリの鍼技法

1)C.Canの僧帽筋コリを緩める技法

 

上図は仰臥位で健側を向かせ、横突起先端に刺針するもの。横突起先端には肩甲挙筋・中斜角筋・後斜角筋が付着しているので、これらの筋を緩めることを目的としている。
下図は患側胸鎖乳突筋を収縮さえるため、顔を横に向かせて頭をマクラから頭を少し持ち上げ、その状態で胸鎖乳突筋筋腹に刺針している。

2)坂井豊作の胸鎖乳突筋後縁側からの横刺

坂井は<鍼術秘要>で、胸鎖乳突筋後縁側からの横刺も発表しているが、この治療目標は疝痛様腹痛になっている。現代医学での解釈は、胸鎖乳突筋刺激→C3神経根→横隔膜神経→横隔膜隣接臓器への刺激となるだろう。疝痛が内臓平滑筋痙攣を意味するものであれば、鎮痛効果が得られやすいといえるが、側頸部に刺針して腹部仙痛を治療することは、生理学的機序が納得できるものであっても、その治療効果に疑問をもつせいか、現代ではあまり一般的とはいえない。これも坂井流横刺という技法があって成立するものかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冷え性に対する針灸治療 ver.3.2

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1.冷え性の鑑別診断

冷え性は疾病というより、その人の体質である場合が多い。ゆえに冷え症とはいわず冷え性とよぶのが妥当である。他の疾患と同様、まずは器質的疾患の鑑別を行う。

朝の寝覚めがつらい→低血圧症
動悸、いきぎれがある→貧血
婦人科手術後、発汗過多、のぼせ、50才前後の女性→更年期障害
徐脈、肥満傾向、色黒→甲状腺機能低下症
レイノー→膠原病(RAとRF以外)、慢性動脈閉塞症

以上のどれにも該当しなければ、機能性の冷え性を考える。貧血は鉄欠乏性貧血のことが多く、鉄剤の投与が必要になる場合が多く、甲状腺機能低下症では甲状腺ホルモン剤を使用する。甲状腺機能低下症は、易疲労を主訴とするので、針灸に来院することが多いが、標準検査のルーチン外になるので診断がついていないことも多い。

低血圧症については、その上位疾患に自律神経失調症があげられる。自律神経失調症の多彩な症状所見の一つに低血圧があるとするのが妥当であろう。低血圧を治すのではなく、自律神経失調症の治療が大切になる。

更年期障害については別項でも述べる予定だが、女性ホルモン分泌不足を契機として生じた自律神経失調症とみなされるので、基本的には自律神経失調症の治療が必要になる。

レイノーは一次性のものは稀で、大部分は二次性である。二次性の原疾患として最も多いのが膠原病(慢性関節リウマチとリウマチ熱以外)と慢性動脈閉塞症(閉塞性動脈硬化症、バージャー病)がある。

2.機能的冷え性の病態生理 

1)熱の産生不足

体幹部核心温度低下しそうになたら、身体の産生熱量を増加させようとする機序が働く。熱源は内臓(とくに肝臓熱)と骨格筋(ふるえ熱)であり、これらの代謝亢進のために、甲状腺刺激ホルモンや副腎髄質のカテコルアミン分泌が増加する。

※アドレナリン:恐怖に関係。心拍促進と血糖上昇作用
ノルアドレナリン:激怒に関係。末梢血管収縮作用→→冷え
※格言:怒りで顔が赤くなる人(アドレナリン分泌過多=おびえている人)はあまり怖くないが、青くなる人(ノルアドレナリン分泌過多=怒っている人)は怖いという。


2)四肢の組織と血流

体幹核心部で発生した熱は、動脈血流によって四肢末梢に運ばれる。四肢の基本構造は、皮膚表面から順に、表皮→真皮→皮下組織になっている。皮下組織は断熱材としての機能をもつ皮下脂肪がある。真皮は、動静脈の血流豊かなところなので、温かい動脈血流で保温されている。表皮には血流はない。なお真皮と表皮を合わせても2㎜程度の厚みしかない。


3)寒冷時と酷暑時の四肢血流の違い

冬の寒い時、真皮の血流は少なくなり、皮下組織のもつ断熱作用が身を守る。夏の暑い時、真皮の血流量は増し、手足表面温度を温めることで、熱を外部に逃がす。一般に小動脈は毛細血管を介して小静脈に変化する。毛細血管を経由する意味は、ガスや栄養交換のためである。しかし他に熱を緊急に逃がす装置として動静脈吻合(AVA)がある。これは小動脈→小静脈と血流をショートカットする役割がある。毛細血管は皮下0.2㎜程度の深さにあるのに対し、AVAは皮下1㎜の深さにある。

 



4)脳が「寒い」と感じる際の首にあるセンサー

※NHK<ためしてガッテン>「つらーい冷えが消え、手足を温めるスイッチがあった!」2002年12月4日放送より

AVAの開閉を決めるのは交感神経で、それは視床下部に支配されている。脳が「寒い」と判断すれば、末梢血流量を減らして末梢からの放熱を防ぐ。その結果、手足が冷える。脳が「寒い」と判断するのは、首が感じる気温に関係するらしい。したがって首をマフラーなどで覆って外気温から遮断すれば、「寒い」 と感じず、したがって四肢に送る血流量を減らすことなく、真皮に行く動脈血流量も減ることはない。その結果、手足が冷たく感じなくなる。就寝時にマフラーは使いづらいので、ネックウオーマー(100均でも買える)を使うとよい。

 

3.冷え症の針灸治療

冷え症の3大原因は、①熱が逃げる(放熱)、②熱の製造力不足、③熱が回らない、である。衣類による防寒は①の対策である。治療としては②と③を考える。
   
①に熱の製造不足についてであるが、針灸治療で基礎代謝上昇ホルモンに直接働きかけることは困難である。したがって最も原始的であるが、「身体を温める」ことを考える。
   
立位や座位状態にある患者を、十数分間仰臥位を保持させるだけで、生理学的には身体は副交感神経優位になり、結果として足の温かくなる計算であるから、冷え症の治療は仰臥で行うのが前提となる。 


1)腰仙部の長時間温補(筆者の方法)

治療室内は適温に保つ。伏臥位にて腰仙部を露出させ、赤外線(または遠赤外線)照射を実施する。照射部以外は頭部を除き、バスタオルで覆う。深部までの加熱を行うため照射時間は温和な加熱で20分またはそれ以上必要である(ローストビーフを上手に焼くには、火を肉の芯まで通さねばならない。それには長時間の弱火が必要である。短時間の強火では肉の表面が焦げるだけ)。  
   
この時重要なのは、足は直接温めないということである。腰仙を温めることにより、足部皮膚温を上昇させねばならない。言い換えるならば、足部皮膚温が正常になるまで、腰仙を温め続けるべきである。 
   
赤外線照射の代わりとして、灸頭針や箱灸の使用は、20分間の温熱治療という考慮すると実施困難であろう。温めたコンニャクを使うという手もある。このアイデアは良いと思うが、コンニャクを置いた部には置針ができなくなるので、針灸師の行う方法としては考えものである。自宅療法としては推奨できる。コンニャクを丸ごとを熱湯で10分ほどゆでる。→コンニャクを取り出しタオルにくるむ(熱い場合は2~3枚くらい)、→伏臥位にさせた患者の仙骨部に置き20~30分間程度温めるというもの。一日何回やってもよい。最初は熱いが、コンニャクの温度も次第に下がるので、尻がホカホカになる。使っているコンニャクは水分が少しずつ失われるので次第に小さくなるが、10回程度は繰り返し使える。
  

2)腰仙部の多壮灸(郡山七二「現代針灸治法録」)

冷え症には、腰仙骨部の経穴を数カ所(たとえば、大腸兪や次髎)選び、多壮灸する。他の治療を行う暇があるならば、壮数を増やすことを考える。
  


3)就寝時に感ずる足冷の自己対策

筆者は普段は足底をあまり感じないが、寒い冬に布団に入ると足が非常に冷たく、しかもなかなか温まらないのでどうしたものかと思っていた。アンカや電気毛布を使わず、なんとかしようと考えてみた。裸足になり半ズボンのパジャマを着る。片足のつま先を、もう一方の足の膝裏に置き、膝を屈曲して冷たい足を挟み込む。するとジンワリと足先に気持ちよい熱が伝わってくるのを感じる。30~60秒したら、左右の足を入れ替えて同様の処置を行う。片足あたり2~3回繰り返すと足が温まる。  

 

モートン病に承山・地機の運動針が有効だった症例

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(62才女性)

1.診断:右足第3~4指間のモートン病

2.現病歴

10ヶ月前から、朝ジョギングを5分間した後に症状出現。4ヶ月前から右第3第4指間のビリビリした痛みが出るようになった。第2第3指間の少し痛むという。近くの整形の診察を受け、モートン病だが、神経腫はないといわれた。その整形で何回か局所神経ブロック注射受け、また足の横アーチを支持する足底板を装着するように指導されたが歩行時の痛みは取れなかった。
悩んだ末、ネットで承山に刺針してモートン病を治すという針灸院を見つけたので、その治療を5回ほど受けてみたが効果なくウチでは治せないといわれた。自分で工夫して百均で売っている足指間をスポンジで広げるような道具を装着してスニーカーを履くと痛みなく歩ける。


     
3.診察

右足の横アーチが平旦化傾向。チネルサイン陰性(症状部をタッピングしても放散する痛みはない)。自覚痛の押圧でもあまり痛みは出現しない。神経腫は触知できない。以上のことから、固有足底神経が滑液包により刺激されたものだと考えた。

本患者は、足を両サイドから覆うような靴を履くと症状が増悪するということで、足の両サイドをせばめて甲を高くするような動作で症状は再現できたが、これは隣り合う中足骨の間隔を狭めたことによるものだろう。ただし整形でつくった足横アーチを支持する足底板で足底痛が改善しなかったことは、横アーチの減少が症状形成に関わっていたのではなく、足指間を走行する固有足底神経の絞扼を免減させるような自作装具が効果があったということだろう。


4.治療

足底筋膜炎やモートン病は腓腹筋の承山あたりの刺針で改善できるとの感触から、本症例も、伏臥位で「承山」あたりの圧痛硬結をさぐってみたが明瞭な反応はなかった。今度は仰臥位で股関節やや外転、膝45度屈曲位で下腿内側の圧痛硬結を調べると、ヒラメ筋上部で「地機」と、同じ高さの腓腹筋内側頭部のあたりに強い圧痛を発見した。そこでこれらの反応点に寸6#2で置針、そのまま足関節屈伸運動を行わせ、ヒラメ筋に対する運動鍼を十秒間ほど行って抜針。ちなみに、体重負荷状態での腓腹筋反応をみるため、立位で再び「承山」あたりの反応を探すと、今度は弱いながら2カ所の圧痛硬結を発見したので寸6#2で刺針。その状態でつま先立ち運動数回実施して抜針。
これで症状の変化を聞いてみたが、歩行時に痛み感じないという。刺針部に円皮鍼を貼って治療を終えた。
この良好な状態は4日後の再来時も維持できていた。
 

5.コメント

1)私の治療が著効を得たのに、自宅近くの針灸院で治せなかったのだろうか、患者に聞いてきた。そこの針灸院では下腿の反応点を探すことなく、伏臥位の状態で下腿中央あたりに置針しただけだという。いくらモートン病に「承山」が効くといっても、膝窩中央から下8寸の経穴学でいう承山の位置に反応点は必ずあるものではない。結局指先で反応点を見出さないと治療効果は得られない。基本的なことだが、要するに反応点を探して施術するということが大事なのだ。

2)今回の症例は他の針灸院で治らなかったということなので、違うことをしようと思って最初から運動針を併用した。それゆえに運動針の有無の効果の違いは明瞭になっていないという観点からは残念だった。上記症例は、ヒラメ筋に対する運動針技法と、腓腹筋に対する運動針技法を使っている。

 

バネ指のエキセントリック筋収縮運動療法および小鍼刀と腱鞘切開刀による手術

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1.バネ指に対するエキセントリック筋収縮訓練法


当院来院中の患者が、昔バネ指になった時、ある鍼灸接骨院でよく効く運動法を教わったと報告してくれた。バネ指症状が出そうになると今でも行うという。実際にやってみせてもらうと、私が知らなかった方法だった。私は現在、左母指バネ指(局麻注射を2回行ったのだが、完治はしていない)があるので、自分で実践してみると確かに効果があった。

これまでバネ指の運動療法というと、代田文誌著<鍼灸治療の実際下巻>にある「健側の手で患側の手首強く握りつつ、強くグーパーを繰り返す」という内容が有名だが、それ以上の効果である。

その方法というのは、両手を組み、障害のある指だけを伸展させて左右の指頭を合わせ、強く圧迫するというもの。その際、強く圧迫すると指のIP関節は過伸展状態になるが、そうならないようにIP関節に力を入れて屈曲させる必要がある。
この運動は、筋トレで行うエキセントリック筋収縮そのものである。エキセントリック筋収縮は、筋に対する刺激が他の運動に比べて最も強力なことで知られ、それゆえに長短指伸筋腱と同筋に強力なストレッチ作用をもたらすのだろう。
かつてバネ指の手術法に、輪状靱帯部を切開して、長・短指伸筋腱部を露出させ、鉗子等で引っぱり上げることで癒着を剥がすバネ指手術の方法があった。原理的にこの手術と同じようなものになる。

 

 

 

2.バネ指腫瘤部への局所刺激と小鍼刀の検討

 


バネ指の運動障害の原因は、A1輪状靱帯部における腱の圧迫が最多なので、輪状靱帯を切開して腱の通りをスムーズにしてやればよい。輪状靱帯を切開しても、腱は安定した位置にあるので、指の曲げ伸ばしの動作に支障は起きないという。

かつて注射針によるばね指手術(局所麻酔注射後、腫瘤部に注射針をか刺して、鍼先を小刻みに動かすことで小分けして輪状靱帯を切断する)も行われてきた。この技法は、屈筋腱損傷などの合併症が報告されていて、現在では医療施設ではあまり行われないが、中国では小鍼刀(鍼先がマイナスドライバーのようになっている鍼)が考案され、輪状靱帯を突っついて押し切るばね指治療も行われているようだ。エコー装置を使えば針先と腱鞘の位置関係が確認できる。この方法は、法的に日本での鍼灸術の範疇に入るかどうかは微妙である。ただ通常の豪針で、輪状靱帯を鍼先で少々突いただけでは、輪状靱帯の圧迫は取り除くことは難しい(ただし腫瘤部に円皮針を貼り付けて効果があったとする報告はある)。

 

 

 3.バネ指に対する輪状靱帯部切開術
 
かつては1~2㎝切開して輪状靱帯を露出させ、視認してメスで切開したものだが、現在では2㎜ほど切開しそこからガイド付き腱鞘切開刀(=ガイドナイフ)を入れて、腱と腱鞘の間にメス先を入れて切断するという方法に移行した。こちらの方が侵襲が少ないので術後の経過が良いという。本法は局所麻酔注射後に行い、エコー検査をしながら実施するので、小針刀よりも安全であろう。もっとも小針刀の適応は、難治性凍結肩や頑固な肩こりなど利用範囲は広く、このことをもって小針刀の欠点とはいえない。


 

指神経知覚麻痺の針灸治験

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知らない疾患のことは診断できず、治療方針もぶれる。このことをまじまじと実感した。反省を込めて報告する。

1.症例報告(36才、男性、ギタリスト)

1)主訴
左手の母指尺側と示指橈側部の感覚鈍麻

2)現病歴
普段からギタリストとして仕事していたが、ベースの演奏も要望され、練習を重ねていたら、当院初診4日前から左手の合谷あたりの感覚が鈍くなった。運動機能は正常で、握力も正常。母指球の深部が痛むという。なお病医院の診療は受けていない。

3)理学テスト

麻痺部の筋萎縮は判然としない。握力は左40㎏、右50㎏。
頸部神経根部の圧痛なく、押圧で上肢への放散痛もない。

4)当初の判断と治療

合谷部の知覚鈍麻として、橈骨神経知覚枝の麻痺を疑った。合谷の深部が痛むとの訴えからは、母指内転筋症も考えた。
治療は、橈骨神経知覚枝走行部である合谷・偏歴と、橈骨神経運動麻痺時の圧迫好発部である手三里、それに腕神経叢刺針を行い、パルス通電10分とした。
母指内転筋症の治療として合谷から魚際方向に深刺運動針も行った。
橈骨神経の軽い麻痺症状なので、数回の治療で改善するだろうと患者に伝えた。


5)治療経過

①第2診(初診3日後)~第3診(初診5日後)
・しびれ症状3割減となったというが、予想より治りが悪い。
・知覚麻痺部は、合谷ではなく母指尺側と示指橈側部の側面だという。
・示指の基節骨部橈側側面でチネルサイン陽性(軽く叩くと示指先に放散痛あり)があることが判明。知覚麻痺部分は、示指の圧痛点を患者自身に探してもらい、圧痛点に浅刺刺絡+円皮針を貼ってみた(円皮針はすがにチクチクして自分ですぐに剥がした)。

②第4診(初診20日後)
前回よりも症状の改善はみられないとのこと。さすがに治りが悪すぎると考え、ネット検索してみて、本患者の訴えに似ている病態を発見した。それは「指神経麻痺」だった。
この説明文よむと、自然回復すると書いてあったので、後で自分でも読むように指導した。

6)反省点

筋緊張や皮膚過敏であれば、術者の指頭感覚で主体的に短時間で診察できるのに、知覚麻痺では患者の問診が主体となるので、病態把握が甘くなった。初めは、橈骨神経知覚麻痺あるいは母指内転筋症と思ったが、実際には指部の指神経麻痺(正中神経の知覚麻痺)だったらしい。もっとも、局所施術そのものは妥当なところだろう。ただし前腕部は、手三里や偏歴への刺激よりも、大陵や内関を選穴すべきだった。


2.指神経損傷の概要

1)手の知覚神経支配


※手掌は正中神経と尺骨神経の皮膚知覚枝が知覚支配。


2)指神経損傷の病態と症状
   
手の指の特定部位に強い力が日常的に加わることで、この部を走行する指神経が圧迫(楽器演奏やボーリング練習)や損傷(カッターなどでの創傷)を受けたことで、指の特定部位の皮膚の知覚麻痺が起こる。運動機能は正常。知覚麻痺している部の少し上流に、チネルサイン(指先で軽く叩くと症状部に放散痛) 陽性。
            
 

 

3)治療と予後
   
いつまでも症状改善ない場合、神経切断を予想するが、この部の神経は非常に細いので、顕微鏡を使って神経断端を糸で縫合する必要がある。断裂して離れてしまっている場合、神経は自然には回復しない。
 ※本例はオーバーユースによる知覚神経麻痺なので、手術は必要なく、自然回復すると思われる。


足底筋膜炎の針灸治療 Ver 1.4

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1.病態
   
足底の筋は、表在性の足底筋膜に覆われている。足底筋膜は踵骨隆起から起こり、足の指に至って、足底の縦のアーチ維持に貢献している。過度の足底筋膜に加わる張力の反復により、足底筋膜に付着部の牽引ストレスが作用する。また足底筋膜の微小断裂を起こす。
   
この微小断裂は、夜間就寝中に治癒機転が働いて固くなる。しかし朝、固まった損傷部に体重が加わると、再び引き伸ばされて激痛となる。長距離の選手に多い。

2.症状

痛みの直接原因は脛骨神経末端興奮による。

1)脛骨神経内側踵骨枝刺激
歩行開始時や走行中に、踵に近い部分が、ビリビリと痛む。踵骨前方の圧痛。
2)内側足底神経刺激:母趾背屈時の足底痛。
 
3.所見:X線で、足底部の踵骨内前方に骨棘。

4.整形治療:整形での治療は安静。ときに筋膜付着部への局麻注射を行う。スポーツ再開までには、数ヶ月の安静が必要。(治癒まで半年以上かかる例が10%ある)
 
5.針灸治療

1)刺痛をなるべく与えないよう細針を使い、足底の圧痛点に直接浅刺刺針。跪座位(両足の指を立て、踵の上に腰を下ろした姿勢)をさせ、足底筋膜のストレッチ運動を行わせる。徐々に体重をかけていく。1~2分筋運動実施後に抜針。


  




2)母趾の強制背屈からの保護を目的とするキネシオテーピング。

 

3)下腿三頭筋のトリガーポイント刺針

歩行での前進力は、主に足関節の底屈筋力と、足指MP関節の屈曲力によるものである。もし足関節の柔軟性が乏しくなると、足指MP関節の屈曲可動域を増して前に進もうとする。逆に足指MP関節の柔軟性が乏しくなると、足関節の可動域を大きくして前に進もうとする。
   
足底筋膜炎では母趾MP関節の背屈動作を強制すると足底痛を誘発することが多いが、痛みを避けるために、母趾MP関節の背屈をなるべく行わない動作が身につくことになる。これは歩行時、足関節の底背屈を余分に行うことを強いられている。とくに下腿三頭筋の収縮を余計に強いられる。つまり足底筋膜炎では腓腹筋やヒラメ筋の筋収縮を強いられることが多くなりやすい。従ってこれらの筋を緩めることが足底筋膜炎の緊張を緩めることでもある。
   
木村裕明医師は、足底腱膜炎と言われているものの殆どは、下腿の筋の関連痛だったり、アキレス腱下脂肪体内の筋膜付着部症あるいはアキレス腱下滑液包炎によるものだったりすると  主張している。
     
乳児では下腿三頭筋に続くアキレス腱が、踵骨を通過して足底筋膜になっていた。生後1才頃になって歩行するようになると、踵部のアキレス腱は踵骨に自然に吸収され、アキレス腱と足底筋膜に分  かれるようになる。 フクラハギがつった時の応急処置は、足母趾をく背屈させることが効果的なことは、この原理による。    

①ヒラメ筋ストレッチ
立位でアキレス腱を伸ばすポーズ。ただし膝屈曲位にする。この姿勢で、圧痛点(三陰交、地機などのヒラメ筋反応点)に運動針。

②腓腹筋ストレッチ
 立位でアキレス腱を伸ばすポーズ。ただし膝 伸展位。この姿勢で、承山、承筋、太谿、崑 崙など腓腹筋反応点に運動針。

 

4.アキレス腱と足底筋膜の発生学的関係

NHKためしてガッテン2015.9.30放送「足裏チェック! 腫れと痛みの犯人はカカトだった」は、興味深かった。以下はその内容紹介。
乳児では下腿三頭筋に続くアキレス腱が、踵骨を通過して足底筋膜になっていた。生後1才頃になって歩行するよう    になると、踵部のアキレス腱は踵骨に自然に吸収され、アキレス腱と足底筋膜に分かれるようになった。

 

 

 
      
 

 

急性腰痛に対する崑崙・中封刺激の適応と治効機序の考察

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1.はじめに

最近、足底筋膜炎と下腿三頭筋の関係についてのブログに書いてみた。足底筋膜炎時は、足底痛を出さないよう、足底筋膜の伸張させないように、母趾MP関節の背屈や足関節背屈動作をしないように、下腿三頭筋や前脛骨筋はアイソメトリック収縮をするのかもしれないという内容だった。
 
そこまで書いてみて、腰痛の特効穴である中封や崑崙の治効理由について、思いつくことがあった。


2.腰痛に中封や崑崙刺激が効果的な理由とは?

強い腰痛では、立位で上体前屈姿勢になることが多い。無理に上体をまっすぎにしようと思うと、腰痛が増悪する。これは腰部を安静に保つための、腰部筋のの保護スパズムによるものと説明されてる。上体前屈姿勢時は、歩きにくくもなるので、安静に保つという意味では合目的性がある。歩きにくくなるのは、上体前屈のためだけでなく、前屈姿勢を保持するため、下腿三頭筋や前脛骨筋収縮の結果、足関節の底背屈制限状態になるからでもある。

ということは、下腿三頭筋や前脛骨筋の緊張を緩めることが、立位前屈制限の改善につながるという逆パターンもあり得るのではないだろうか。すなわち上体をまっすぐ伸ばせないような急性腰痛には、中封や崑崙を刺激すると上体が伸びるようになるという意味になるのではないか?

なお崑崙と中封の使い勝手の相違点だが、下腿伸筋と屈筋が協調して上体前屈姿勢を保持を行っているわけなので、どちらを取穴するかは圧痛点で調べる以外にないと思う。


3.中封・崑崙刺激の注意

腰部保護スパズムを緩和すると体動時の筋の伸張痛は改善する。しかし脊椎を守るために必要な筋緊張がとれてしまう。患者は「治った」と思って自由に動くと、突然激しい保護スパズムが再来し、今回の痛みは中封刺針でも改善しなくなる。痛みが軽減しても安静を厳守させること。

 

ブログ「現代医学的鍼灸」とテキスト「現代針灸臨床論」の昨今

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「現代医学的鍼灸」という気負ったタイトルでブログを開始したのは、2006年3月11日からであった。今から約11年前のことになる。4月3日のアクセス数は閲数1,275、訪問者数566で、順位は793位(2,6,95,596ブログ中)となっていた。

最初の頃は、「現代針灸臨床論」という鍼灸学生用テキストとしてすでに存在した内容を、ブログとして発表しただけだったので、とくに苦労を感じなかった。現在の発表ブログ数は316だが、200を越えた頃から、発表するネタがなくなっていった。そこから先は、考えたり調べたりして新たな内容を創作していき、その内容をテキスト内容に付け加えるという作業を繰り返しつつ現在に至った。

「現代針灸臨床論」では授業時間の兼ね合いから、一つの章を基本的に20ページ未満とにし、プリント配布の関係から白黒印刷に対応する図しか載せられなかった。しかし現在、教員を辞めて以来、こうした制約はなくなり自分の思うようなテキストに変化してきた。
その結果、テキストページ数は、かつての1.5倍で、必要に応じて、カラー図も増えていった。ネット上で「現代針灸臨床論」(売価10,000円)このテキスト販売を開始してから、約十年が経過した。コンスタントに月平均4枚程度購入希望者が連絡してくるのを嬉しく思っている。このテキストは頻繁に内容が刷新されているが、平成29年4月4日時点で目次は次のようになっている。

 

現代針灸臨床論Ⅰ(本文297ページ H29.4.4現在)
整形・ペインクリニック領域

第1章 頭痛(p19)
  1節 針灸不適応の頭痛の除外
  2節 針灸適応となる頭痛の概要
  3節 頭痛の鑑別診断
  4節 頭痛の針灸治療
第2章 頸腕痛(p35)
   1節 頸腕痛疾患の概要  
   2節 頸肩腕症状の鑑別診断  
   3節 頸肩腕痛の針灸治療
   4節 肩こり性 
第3章 肩関節痛(p22)
  1節 肩関節の動きと作用筋
  2節 肩関節疾患の概要
  3節 肩関節痛の鑑別診断
  4節 肩関節痛の針灸治療
第4章 腰痛(p24)
   1節 腰痛疾患の概要
   2節 腰痛の不適応の判定
   3節 効かせるための針の技法  
   4節 殿部痛
第5章 腰下肢痛(p31)
  1節 腰神経叢症状
  2節 仙骨神経叢症状と腰椎椎間板ヘルニア
   3節 脊柱管狭窄症  
   4節 股関節疾患
第6章 膝関節痛(p29)
   1節 針灸不適応の膝痛疾患  
   2節 膝関節痛の鑑別診断  
   3節 針灸適応の膝関節痛の針灸診療
   4節 変形性膝関節症の針灸診療
 第7章 顔面症状(p22)
   1節 顔面痛
   2節 顔面神経麻痺   
   3節 顔面部の痙攣
第8章 上肢部症状(p34)
   1節 肘関節痛 
    2節  手関節痛・手指痛
   3節 上肢の神経麻痺と神経絞扼障害
第9章 下肢部症状(p34)
   1節 下肢の常見疾患 
     2節 足部の常見疾患
   3節  下肢の神経麻痺と神経絞扼障害
第10章 歯科症状(p21)
   1節 歯の基礎知識
   2節 歯科の主要疾患
   3節 歯科領域の針灸治療
   4節 口内炎
    5節 顎関節症
第11章 総論的知識(p26)
   1節  神経線維と運動制御
    2節  MPS(筋膜性疼痛症候群)
    3節『鍼治新書』の要点
               

現代針灸臨床論Ⅱ(本文356ページ H29.3.24現在) 
内科・眼科・耳鼻咽喉科・泌尿器科・産婦人科・皮膚科他 領域 
 

第1章 上中腹部消化器症状(p36)
 1節 腹痛の代表疾患
 2節 針灸院における診察手順
 3節 内臓体壁反射と針灸治療パターン
 4節 横隔神経と体壁反応
  5節 胃疾患と針灸治療
 6節 肝炎患者の扱いと慢性肝炎の針灸治療
  7節 胆道疾患と針灸治療
 8節 膵炎と針灸治療        
第2章 下腹部消化器症状(p27)
  1節 下腹痛と体壁反応  
  2節 針灸院での下腹診察と針灸治療
  3節 下痢
 4節  便秘
  5節 下痢・便秘の針灸治療
  6節 虫垂炎と針灸治療
  7節 痔疾と針灸治療         
第3章 鼻科・咽喉科症状(p30)
 1節 鼻の疾患
 2節  咽頭の疾患
 3節 喉頭の疾患
  4節 くしゃみ・しゃっくり
  5節 かぜ症候群
第4章 胸部症状(p24)
 1節 胸痛の針灸診療
 2節 動悸・息切れ
 3節 咳嗽・喀痰の針灸治療
 4節 気管支喘息の針灸診療     
第5章 末梢循環器症状(p32)
  1節 冷え症
  2節 ほてり・のぼせ
 3節 末梢動脈閉塞性疾患
  4節 メタボリックシンドローム
 5節 低血圧症
第6章 精神症状と全身症状( p37)
  1節 不眠症
 2節 疲労倦怠および貧血
 3節 不定愁訴症候群・神経症・更年期障害
  4節 肥満 
第7章 腎・泌尿・生殖器症状(p31)
 1節 腎・泌尿器と体壁反応  
 2節 主な腎疾患  
 3節 疼痛を生ずる尿路疾患
 4節 頻尿・尿失禁・排尿困難
  5節 夜尿症
 6節 ED          
第8章 産婦人科症状( p29)
 1節 性周期とホルモン
 2節 婦人科の主要疾患   
 3節 婦人科疾患の体表反応と針灸治療
 4節 月経異常  
 5節 月経随伴症状と針灸治療  
 6節 不妊症 
 7節 産科の主要疾患
  8節 乳房症状             
第9章 眼症状(p31)
 1節 眼の構造と機能 
  2節  代表的な眼症状と鑑別診断
 3節 代表的な眼科疾患
 4節 全身疾患の一部としての眼科症状
 5節 眼科の針灸治療            
第10章 耳科症状( p37)
 1節 耳の構造と機能 
  2節  難聴・耳鳴の診察
 3節 めまいの診察
 4節  中耳炎と針灸治療
 5節  耳科疾患の概要
  6節 難聴・耳鳴の針灸治療
  7節 めまいの針灸治療    
第11章 皮膚科症状(p23)
 1節 皮膚腫瘤
  2節 アトピー性皮膚炎
  3節 毛髪の異常
第12章 その他の主要疾患( p19)
 1節  関節リウマチ
  2節 脳血管障害 
 3節 パーキンソン病
  巻末資料:体性神経デルマトーム図      

立位前屈位での仙腸関節刺針法

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1.これまで私は、仙腸関節機能障害に対して次の方法で施術を行い、それなりの効果を得ていた。それは患側を上にした側臥位にして、上後腸骨棘とS2棘突起を結んだ中点を刺針点とし、斜上方45度の角度で刺入し、仙腸関節部に刺入。上になった側のの股関節の自動屈伸運動を行わせるという内容だった。

   これまでの私の仙腸関節運動鍼法
http://blog.goo.ne.jp/admin/editentry?eid=882579bfb8fe43626b5e6d2a7314b354&p=1&sort=0&disp=50&order=0&ymd=0&cid=2bfeba63627c61527b1b9fa6d027817b

 

2.このたび村上栄一・黒澤大輔両先生が、私と異なる方法で、仙腸関節ブロックを行っていることを知った。
①ベッドに両手をつかせて上体を30度屈曲させる、②上後腸骨棘から内方1㎝、上方2㎝を刺入点とする、③23ゲージの鍼を用い、皮膚と30度の角度で下向きに斜刺し、鍼先が仙腸関節部を当てる、④症状部に一致した響きが得られたら、局麻剤を注射する、との内容だった。

    YouTube動画→    https://www.youtube.com/watch?v=W7dkEJndiGM

 
 

 

 

 

3.この新しい方法を、鍼灸鍼を用いて追試してみることにした。以下に治療成功例を紹介する。やってみて理解できたころは、このテクニックは、従来の方法にくらべて失敗(=症状部に放散痛が得られない)が少なく、また刺針の際の痛みも思ったほどでないことが分かった。鍼先が当たった硬い組織というのは後仙腸靱帯かもしれないが、硬い組織の中を、無理に力をいれなくても鍼が入っていくことを考えると多裂筋なのかもしれないと思った。




 

症例1(60才、男性)

主訴:正座時の膝痛

現病歴:かなり前から正座ができなくなった。無理に正座しようしても左膝蓋骨周囲がつっぱって痛むのでできない。

理学テスト:膝蓋骨周囲の熱感・腫脹なし。膝蓋骨圧迫テスト正常、膝蓋跳動テスト正常。

初回疑診:四頭筋の緊張にともなう四頭筋付着部筋膜症。

初回治療:四頭筋付着部の筋緊張を緩める目的で、仰臥位膝屈曲位で、四頭筋をストレッチさせた状態で鶴頂穴など膝蓋骨上縁圧痛に刺針、置針した状態での膝関節屈伸運動数回実施。この施術で、治療前よりも膝を深く屈曲することができるようになった。

経過と2回目以降の治療
前回の治療をしたその日は膝を深く屈曲することができるが、翌日になると元にもどるとのこと。皮膚のつっぱりが可動域を狭くしていると考え、下梁丘や下血海を中心として点状刺絡(皮下筋膜刺激)。やはり治療直後は膝の屈曲具合はよいが、翌日になると効果がなくなるとのことだった。
そこでワンフィンガーテストが陽性だったこともあって仙腸関節機能障害を考え、従来からの私の方法(患側上の側臥位にて腸関節運動鍼)を行うも、目立った効果が得られなかった。
立位での仙腸関節刺針:前述した新しい方法で、2寸8番針にで仙腸関節刺針を実施してみた。刺針2㎝を過ぎた頃から抵抗感のある組織に達した。患者は下肢に響くという。なおも自然に止まる処まで鍼を深刺し、軽く雀啄して抜針した。その直後、ベッド上で正座姿勢を試行させてみると、今までにないほどの膝屈曲ができるようになった。



症例2(56才、女性)

主訴:左臀部から左大腿外側の痛み
介護職についたばかりで、以前は板金加工をして重い物を運ぶことが多かった。約2ヶ月から上記症状出現。

初回疑診:メイン症候群疑診

初回治療:2寸4番にて、患側上の側臥位で第12胸椎棘突起直側と、左中殿筋の圧痛点に刺置針5分行った。針したた刺針左臀部から左大腿外側が痛むとのこと。

治療効果:4日後再診。症状に変化なかった。

2回目疑診
どういう動作で最もつらくなるかを問診すると、立位で左足に重心をかけて上体を左に捻ると、この症状が出現するとのこと。左仙腸関節部のワンフィンガーテスト陽性(右は陰性)だったこともあって左仙腸関節機能障害を考えた。

2回目治療
立位でベッドに両手をつけさせ、上体状を30度前屈位。左上後腸骨棘あら内方1㎝上方2㎝の部を刺入点と定めた。2寸8番針にて30度の角度で下向き、かつやや外方にむけて刺入すると、2㎝ほど刺入したところで硬い抵抗感のある組織に達した。そこを貫くようにさらに刺入すると、症状部に響くとの訴えが得られたので、軽く雀啄して抜鍼した。その直後、症状を誘発する姿勢をしても痛みは起こらなくなった。

 

神経性疼痛に対して、針灸はリリカより効果ないのか? Ver.1.2

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1.序

針灸治療は「痛み」に対して効果があるといわれてきた。それは原則としては正しいものの、針灸で上手に治せない痛みも相当数あることを、日頃からうすうす感じていた。これまで針灸の直接的な治効は、筋膜痛と神経痛によるものだと考え、刺激目標も両者に対して行ってきたのだが、最近になり後者の神経痛に対する針灸は効果的でないのではないかとも思うようになった。 

話は代わるが、これと同じような感慨は30年ほど前にもあった。ステロイド剤使用中の患者に対する針灸であった。気管支喘息患者や関節リウマチ患者が、すでにステロイド剤を内服している場合に、やはり針灸の効きが悪いことを痛感した。これには、ステロイドを使わねばならないほど疾患レベルが悪いので、針灸も効きが悪いという観点と、それに針灸の治効の一端は、副腎皮質ホルモン分泌を促すことにあるから、すでに薬剤としてステロイドホルモンを使っているのなら、針灸してもステロイドホルモン分泌は増えないので効きが悪くなる(下図青矢印ルートは既に使われている)という視点があった。

 


2.神経性の痛みは針灸で効かないのか?

常見症状である坐骨神経痛は、神経根症による痛みというより、梨状筋症候群に代表される筋による神経絞扼障害であるらしい。それゆえ梨状筋緊張部に刺針すると、症状は軽減されることが多い。また大後頭神経痛の原因は、多くの場合、後頸部筋の神経絞扼障害による痛みであるから、天柱や上天柱への刺針で改善されることが多い。すなわち神経痛の原因が筋緊張にあるという点で、筋痛症の範疇になるであろう。
一般的に針灸が効きづらい疾患には、三叉神経痛、帯状疱疹後肋間神経痛などがあるが、頸痛や腰殿痛の中にも、針灸無効なことが数%程度存在するように感じる。

症状だけからは一見すると、針灸適応かに思える筋肉痛かと思える症例であっても、触診すると症状部分に、圧痛・硬結などが指先に触知できない場合、刺針施灸ポイントを見出すことは困難になる。神経痛かと思っても、いわゆるワレーの圧痛点に圧痛がない場合、途端に病態把が難しくなり、やはり刺針施灸ポイントを見出せないのである。
※線維筋痛症も、針灸であまり効果ないが、中枢性の痛みに分類されるので別格扱い。 


3.神経障害性疼痛に対処するリリカ 

近年、新薬リリカ・カプセルを使っている患者が来院するようになった。リリカを使って少しは楽だが、完全に痛みがなくならないとの訴えをよく耳にする。なおリリカとは従来の消炎鎮痛剤で改善しにくかった痛み(これを神経障害性疼痛とよぶ)に対しても奏功するとされる薬で、2010年に発売された。2012年になり、保険適応になるとともに、本剤の適応が拡大された。
概して、リリカを服用中の患者は、針灸の効きが悪いといえるのだが、そうした患者は圧痛硬結などの体表反応も乏しく、針灸治療点を探し当てるのは困難だと感じている。

リリカについてネット検索すると、次のようなことが書かれていた。痛みは大きく次の2つになる。 
1)炎症性疼痛:頭痛や歯痛、肩こり、打撲、切り傷 重くズーンとした痛み 
2)神経障害性疼痛:強いしびれ、電気が走る、灼熱痛、ビリッとくるなど、鋭い痛み。
従来の痛み止め(バファリンなど)は、1)に対しては効果あるが、2)には効き目が悪い。2)に対してはリリカが効果があるという。痛みを伝える神経伝達物質が放出され、脳に伝わって痛みを認識するのだが、この伝達物質が出すぎることで起こる痛みを神経障害性疼痛とよび、これを制御する作用がリリカにあるということらしい。

針灸治療は、MPS(筋膜痛症候群)にはよい効果を上げることができるので、バッファリンやロキソニンなどの通常タイプの消炎鎮痛剤以上に針灸治療が適応するので、神経障害性疼痛が適応するリリカとは適応分野が異なるのだろう。紛らわしいのは、<神経痛>という名称である。大後頭神経痛は診断名というよりは症状で、上部後頸深部筋の緊張に由来するので、筋膜症としての治療が必要になる。坐骨神経痛も殿部梨状筋の緊張や神経根付近の筋膜刺激が症状を呈しているので、やはり筋膜症として施術するのがよい。

4.リリカが効き、針灸が効かない症例
現実にはリリカを使って少しは楽だが、完全に痛みがなくならないので、針灸で何とかならないかとの要求がある。

1)K.I. 76才女性
右三叉神経第1枝痛
数年にわたり、膝OAで針灸治療を実施し、良好にコントロールされている。
2ヶ月前、急に右眉上~コメカミ~前頭部に間歇的にビリビリとした痛みを訴えるようになった。痛みは強いが我慢できる程度。右三叉神経第1枝痛と考えた。三叉神経痛に針灸は効きが悪いことは知っていたが、試しに三叉神経第1枝の代表的圧痛点に、寸6の2番で置針。膝痛症状は、その都度改善するも、三叉神経痛はやはり改善がない。そこで近医に、リリカまたはテグレトールの処方を検討してもらった。
その医師はテグレトールの方が副作用が強いとのことでリリカ処方。なお副作用として、めまいと眠気が生ずるこことがあるとの説明も受けた。
実際、服用して数日間、めまいや眠気は有ったようだが、その後消失。服用した直後から三叉神経痛症状消失した。2ヶ月経った現在も服用中であるが三叉神経痛消失した状態が続いている。

2)M..H. 60才女性
右臀部痛
1ヶ月前から、右下臀痛が生じ、間もなく両側性に痛むようになった。痛みでデスクワークできない。腰部圧痛点なし。殿部を押圧すると不鮮明に圧痛点はあるも、筋硬結はない。
SLR、パトリックは両側性に正常。
病院受診し、リリカ4錠/日服用。リリカを飲んでいると殿痛あまりなく、仕事もできる。他に頻発性膀胱炎あり。
神経根症状なく、特定筋の緊張症状も発見できないので、とりあえず坐骨神経ブロック点刺針を実施、また膀胱炎あるので陰部神経刺針も実施。しかし症状不変。

3)H.N. 49歳男性
頸痛、肩甲上部痛、両側第4、5指の知覚低下
1年半前から上記症状出現。変な格好で重量物を持ち上げ、その2~3日後から出現したとのこと。X線、MRIで異常なし。1年以上、整形にて保存療法を行うも改善なし。頸部神経根伸展テストや圧迫テストは正常、胸廓出口用理学テストもほぼ正常。
リリカとテルネリン(筋弛緩剤)を服用し、とくに痛みが強い場合には、スミルチック塗布藥(非ステロイド抗炎症藥) を使うとのこと。
側頸の神経根部付近の圧痛なし。斜角筋部緊張なく、小胸部緊張もなし。頸椎レベル棘突起両側に弱い圧痛あったので、頸椎棘突起傍刺針、大椎付近湿吸実施。しかし治療効果なし。

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