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殿部深部筋のMPSと坐骨神経痛

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筆者は、2011年3月28日に「梨状筋症候群の針灸治療」とするブログを発表したが、内容的に古くなったので、「殿部深部筋のMPSと坐骨神経痛」とのタイトルに変更して内容を刷新することにした。ブログ「梨状筋症候群の針灸治療」は削除した。


1.殿部深部筋筋膜症と坐骨神経痛 

これまで緊張した梨状筋が、坐骨神経を圧迫刺激し、坐骨神経痛を現す病態を梨状筋症候群 とよばれてきた。しかし臀部で坐骨神経を圧迫しても坐骨神経の知覚成分は上行性なので下肢痛 をもたらさない。ゆえに梨状筋下あたりの坐骨神経周囲の筋膜(fascisa)の緊張が、下肢への放 散痛をもたらしたと考える方が、実際的である。
   
2.梨状筋症候群

1)骨盤外旋筋と梨状筋症候群

骨盤深層には梨状筋・内閉鎖筋・上双子筋・下双子筋・大腿方形筋・外閉鎖筋という6個の 股関節外旋筋がある。これらは股関節骨頭を安定させる働きがある。
これらの筋膜症により坐骨神経の下肢症状をもたらすものは、梨状筋が有名である。これは梨状筋筋膜症による症状である。

※梨状筋:骨盤部深部筋の一つ。第1~第4仙骨孔を起始とし大転子に停止。仙骨神経叢支配。股関節外旋作用。

 


2)梨状筋症候群の診断

本診断をつけるには、神経根症状がないこと、腰痛がなく臀下肢症状のみのこと、Kボンネットテスト陽性などの観点から本診断名をつける。 

※K.ボンネットテスト Katayama's Bonnet test
方法:患側の股関節と膝関節を屈曲させ、つぎに患側の足関節を健側下肢の外側に移動させ、さらに膝関節部を押さえて健側方向に圧迫(内転)させる。このとき坐骨神経に沿った疼痛の誘発が認められるものを陽性とする。

意義:坐骨神経痛でも、根症状がない場合、本テスト陽性であれば梨状筋症候群を疑う。
    
注意:K.ボンネットは梨状筋症候群のテストだが、ボンネットテストは腰部神経根テスト。

 

 

3)坐骨神経ブロック点刺針(梨状筋刺激を介して)

針治療では、3寸針をつかって梨状筋中に直刺置針(5~10分間)を行い、筋膜症の過敏性を緩和せしめるようにする。非常に効果的な方法である。梨状筋に刺針すると電撃様針響が下肢に得られることがあるが、これが梨状筋中に針が入っていることの指標になるが、こうした針響が得られなくても、治療効果は大差ないという。
    
位置:側腹位にて、上後腸骨棘と大転子を結んだ中点から3㎝下した点を取穴。
  
刺針:2.5寸#5~7針を用いて直刺2寸前後。針は、大殿筋→梨状筋と刺入。
   

 

 

3.内閉鎖筋の坐骨神経と陰部神経刺激

1)内閉鎖筋の解剖学的特性 

梨状筋緊張はその深部を縦走する坐骨神経を刺激するが、内閉鎖筋緊張は、坐骨神経を下から押し上げるストレスを生ずる。内閉鎖筋は、閉鎖孔を起始として大腿骨頭の内側を停止とするが、その走行は坐骨結節を越える部分で大きく折れ曲がっていて立ち座りの際に力学的ストレスを受けやすい。

 

2)内閉鎖筋緊張の診断

内閉鎖筋の緊張の有無を調べるには、被験者を側腹位にさせ、坐骨結節の裏側を強く触診するようにする。非根性坐骨神経痛や泌尿器症状があれば本筋過緊張を一応疑ってみる。

 

 

3)陰部神経刺針(内閉鎖筋刺針)
 
陰部神経刺針を行うと、当然ながら陰部に針響を与える場合が多いが、この刺針では小坐骨孔を通過する辺りで、内閉鎖筋を同時に刺激していることになる。内閉鎖筋の緊張は、骨盤内臓症状(仙骨部痛、尾骨痛、直腸肛門痛、括約筋不全、排便障害、下腹部症状泌尿器症状)をもたら可能性があるとされている。


 

これに該当すると思われる患者愁訴の一例を、ネットで発見したので以下に引用する。

40歳代の主婦。右の外陰部から肛門の辺りにビリビリとした痛みがあるのと椅子に座ると右の坐骨がジーンと痛くなり太ももの裏側にも痛みがあるので整形外科を受診。骨盤と背骨のレントゲンを撮り、骨には異常が無く梨状筋症候群だろうと診断された。殿部で神経が枝分かれしいるので陰部の方にも症状が出ているとの事。外陰部の痛みということもあり、婦人科も受診。視診でも異常がな無く子宮や卵巣も正常である事から陰部神経痛だと診断。現在整形外科でもらった鎮痛剤と筋肉を柔らかくする薬を服用するも、痛みが取れない。


 

 

 

 


アトピー性皮膚炎に高温の温熱刺激は有効か?Ver1.3

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 高熱に加熱した器具を、数秒間皮膚にあてるという治療は民間療法として以前から知られていた。熱した金属のコテで皮膚を軽く叩く平田内蔵吉の平田心療法、線香を金属の筒に入れ、皮膚を擦過する伊藤金逸のイトオテルミーなどである。これらは、独自の道具を購入する必要があることや、熱した道具で皮膚を擦する動作を数十分繰り返し行うという手間のかかる施術であったことが普及を妨げた感があった。

しかしこの度、アトピー性皮膚炎に特化したこと、誰でも手軽にできること、大したお金もかからないことなど、実施のハードルが低い方法が考案された。以下に紹介する「カユキモチー」や「ペットボトル温灸」は、従来の知熱灸と原理的には同じような刺激となるが、簡便性に勝れている。

1.アトピー性皮膚炎のかゆみに、「カユキモチー」
 
平成28年2月28日放送東京MXテレビ放送の、「ナイトスクープ」において、”ある人にしか伝わらない謎の快感”という題目で、アトピー性皮膚炎の者の皮膚に、熱水の入った小袋を布でくるんだものをつけると、非常に気持ちよいという内容を放送していた。報告者は近藤滋氏。その内容を以下にまとめる。

①ウイダーインゼリーのような容器(ピースパック=アルミをコーティングしたプラスチック製容器)の中に水を入れ、電子レンジで温めて熱水にする。この時、容器内は水で満杯にする(もし空気が残っていると、電子レンジ内で空気が膨張して爆発する。)
電子レンジのワット数によっても異なるが2分~5分で、70°~80°になるまで加熱する。

※本ブログを見た、カユキモチー発案者の近藤滋氏から直々にメールが届いた。パウチの袋で、アルミ材質のものは電子レンジに入れると、火花が出てNGである旨。アルミが使われていないスポーツ飲料(アクエリアス)等ならOKであるとの内容だった。

カユキモチーの作り方(近藤滋氏)

http://ameblo.jp/kayu-kimochie/


②その容器をフリースでくるみ、ガーゼ袋に入れる。痒いところに当てる。健常者であれば単に熱く感じるだけだが、アトピー者は、次第に熱さが増す→うっとりするほど痒く気持ちよくなる→熱くなる、との過程をたどるので、熱く感じたら直ちに容器を取り除くようにするというもの。なおこの熱水を入れた容器のことを、報告者はカユキモチーと名付けた。

③報告者自身がアトピーなので、転地療法と自然食品、それにカユキモチーにより克服した。皮膚の状態が正常になるにつれ、上記方法では、単に熱く感じるだけで、気持ちよい感覚はなくるとのこと。


 

2.ペットボトル温灸

若林理砂(針灸師)は、容量約300CC入りのペットボトルに、100CC水を入れておき、それから沸騰した湯を200CC徐々に入れて、湯温を70~80°にしておく。これを「ペットボトル温灸」と称した。刺激すべき部位にペットボトル温灸を当て続けると次第に熱くなるので、熱さに我慢できなくなったら皮膚から離すようにする。この動作を数回繰り返す。適温とする温度は、カユキモチーと同じになることが興味深い。

 


3.アイロンによる加熱

三井とめ子創案。タオルなどを患者の体に置き、その上からアイロンをかけるように注熱する。次第に局所に熱さを感じ「アチチ」と体を逃げるくらいに熱くなるまで続ける。刺激の強さは患者の状態を見て施術者が調節し、およそ1時間かけて全身に施術することが基本。

 
4.熱いシャワー療法の利点と欠点
   
アトピーで痒いところに、熱いシャワーを浴びせるという方法は、以前からネット上で有名な方法だった。このシャワーの温度は本人が適温だと感じるものだが、45°~50℃となる。この方法も、非常な快感を得ることができるという。
 しかし熱い湯が皮脂を落とす。皮膚バリアーがなくなるので、皮膚がカサカサになり、有害であるという見解もある。前述のカユキモチーやペットボトル温灸、アイロンによる加熱では、このような欠点は見あたらないことになる。 


5.高温熱治療の理論
 
皮膚に対する熱刺激は、なぜアトピー性皮膚炎に有効なのだろうか。これは熱ショックタンパク質(Heat Shock Protein、HSP:ヒートショックプロテイン)が関係しているらしい。細胞が熱等のストレス条件下にさらされた際に、細胞を保護するタンパク質の一種ので、ストレスタンパク質とも呼ばれる。
      
ヒートショックプロテインがダメージを受けた傷や異常細胞の修復を行ったり免疫力を高めてくれることで、肌の荒れが治まるという傷ついた細胞を修復する機能がある。また、皮膚への加熱で、なぜ至上の快感が得られるのは、β-エンドルフィンが関係しているともいわれる。
 
余談:西村淳著の実録小説「南極料理人」の中で、しなびた野菜を50℃の湯で洗うと、シャキッとするという内容があった。なお50℃の湯とは、指を3秒間触れることのできる程度の熱さだという。平山一政氏(スチーミング調理技術研究会代表)は野菜の新鮮さが蘇る現象を次のように説明した。野菜を収穫後、細胞の水分は少しずつ失われていくが、少しでも乾燥するのを抑えるため野菜表面の気孔は閉じた状態になる。この状態で50℃の湯に入れるとヒートショックで葉の表面の気孔が開き、失われていた水分が瞬時に吸収されてシャキッとした収穫直後のような状態に戻るのだという。

この考え方をアトピー性皮膚炎の高熱刺激に用いると、ヒートショックで保湿作用が得られるということになるかと思う。


   

胸郭出口症候群の針灸治療 Ver.1.3

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   胸郭出口症候群という診断は針灸師サイドではよくつけられるが、整形外科医はあまりつけたがらない。そのその理由をある整形外科医に質問すると、真の胸郭出口症候群であれば、絞扼部位を広げるような手術が必要な筈であり、安静や理学療法で改善するのであれば、その病態は軟部組織障害である。軟部組織障害であれば、通常の頸腕症候群の理学療法と同じなので、あえて胸郭出口と診断する意義はないとのことだった。
 
ただし針灸治療では、絞扼部位に対するピンポイント治療ができるし、しないと効果があまりないので、正しい治療のために正しい診断が必要となる。
 「正しい診断」とは、第1に頸腕症候群との鑑別、第2に胸郭出口症候群所属の頸肋・斜角筋・肋鎖・過外転症候群のどれかという判別である。これら4つの細分化された病名の鑑別は、教科書(国家試験問題)的には理学テストで判別することになっている(本当は理学テストだけでの判別は無理だが)。

1.胸郭出口症候群の概要
1)定義
胸郭出口部における腕神経叢と鎖骨下動静脈の絞扼障害をいう。かつては頸腕症候群に分類されたが、現在では独立した症候群になる。
2)症状
 上肢の痛み、上肢のしびれ・だるさなど。
①上肢の痛みは、ピリピリ、ジリジリといった灼熱様で末梢神経分布に従う。
※神経根症状では、デルマトームに従った知覚鈍麻が起こる。
②鎖骨下動静脈も圧迫されるので、上肢は冷えを伴うことが多い。
※神経根症状では、血管症状は伴わない
③ルーステスト(3分間挙上テスト)陽性

2.胸郭出口症候群の分類
 

2.胸廓出口症候群の分類 

絞扼部位により、次の4つに細分化される

 1)頸肋症候群
第7頸椎横突起が延びて肋骨化した先天性奇形。低頻度。上肢やその付け根の上肢帯の運動や感覚を支配する腕神経叢は、頚神経から第8頚神経と第1胸神経から形成されるが、頚肋がある者は、第4頚神経から第8頚神経根から形成されることが多い。
腕神経叢の神経絞扼障害が生じる。鎖骨下動脈が絞扼されるか否かは場合により異なる。鎖骨下静脈は圧迫を受けない。

 



2)(前)斜角筋症候群
 斜角筋裂隙(前斜角筋、中斜角筋、第1肋骨で囲まれた部位)を腕神経叢と鎖骨下動脈が走行している。前斜角筋緊張のため、これらの神経と動静脈が絞扼された状態。鎖骨下静脈は絞扼されない。
 モーレーテスト(+)、アレンテスト(+)、アドソンテスト(+)


3)肋鎖症候群
鎖骨と第1肋骨の間隙から、腕神経叢と鎖骨下動静脈が出て、上肢に向かっている。この間隙が狭くなることにより、神経血管絞扼障害を起こした状態。低頻度。
 エデンテスト(+)

4)過外転テスト(小胸筋テスト)
小胸筋と肋骨間の間隙を腕神経叢と鎖骨下動静脈が走り、上肢へと向かっている。上腕外転時に、小胸筋の烏口突起停止部で、腕神経叢と鎖骨下動静脈が絞扼された状態。 ライトテスト(+)

3.胸郭出口症候群の針灸治療
上肢症状が知覚鈍麻でなく、知覚過敏であり、上肢痛のみ訴え、で頸痛がない場合には、胸郭出口症候群を疑う。理学テストはルーステスト以外はあまり信頼性がなく、ルーステストは実施に時間がかかるので、圧痛点の所在から診断し、即治療院とする方が実際的であろう。

なお1980年頃から、胸郭出口症候群の98%は、神経系圧迫の問題であって、血管圧迫の病態はわずかだとする認識に変化した。脈の消失を診るテスト(ライトテストやアドソンテスト)の有用性は否定されている(健常者でもよく陽性になる)

私の経験によれば、胸廓出口症候群の中の、前斜角筋症候群が大半であり、たまに過外転症候群も来るといった印象である。前斜角筋症候群の診断のためには、モーレーテストを使用し、過外転症候群の診断には、中府穴圧痛の有無を調べる。ともに神経圧迫テストで、該当部を圧迫すると筋緊張を感じ、やや強く押圧すると上肢に電撃様の神経痛が放散することで確定診断している。

1)前斜角筋症候群

前斜角筋症候群では、前斜角筋部(天鼎穴に相当。刺針には高い技術が必要)に刺針して置針10分を行う。頸を健側に精一杯回旋さたせると斜角筋か伸張された状態になり、この状態で刺入すると、上肢症状部に響きを与えやすい。

※天鼎位置:学校協会教科書では、喉頭隆起の高さの胸鎖乳突筋中に扶突穴をとる。扶突の後下方1寸で胸鎖乳突筋後縁に天鼎穴をとる。しかし斜角筋や腕神経 叢を刺激するには、中国式天鼎の位置の方がよい。中国式では、甲状軟骨と胸鎖 関節の中点の高さで、胸鎖乳突筋の後縁から下方1寸とする。すなわち中国式は 教科書と比べ、2寸ほど下になる。

2)過外転症候群

過外転症候群であれば中府穴から直刺し、大胸筋を貫き、その深部にある小胸筋部硬結まで刺入して置針10分を行う。なお症例によっては天鼎と中府ともに圧痛がある場合があるので、両者に置針10分することもある。小胸筋の反応をみるのは必ずしも容易ではないが、患側上肢を挙上させ、手掌で頭頂を触って固定した状態にさせると小胸筋はストレッチされているので、圧痛の有無を判断しやすい。圧痛点に刺針すると上肢症状部に響きを与えやすい。

※中府位置:中府は教科書では第2肋間で前正中から外方6寸とある。実際には気胸を避けて小胸筋を刺激する目的で、烏口突起の内方1.5㎝、下方1.5㎝を刺入点として直刺するとよい。(深刺しても気胸の心配がない)


3)追加すべき治療

側臥位にて頸椎一行からの深刺置針10分を行うと、さらに成功率が高まることを感じる。前記の頸椎の前枝だけでなく、後枝の治療も必要となる場合が実際的には多いようだ。それ以外の治療(たとえば患側上肢症状部に対する刺針)は必要がない。


 

道教によって影響をうけた古代中国の生命観 Ver.1.2

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1.序

『黄帝内経』が編纂されたのは漢の時代(BC202~AD220)だとされている。道教は儒教とならんで、中国人の精神構造を知るための鍵である。中国の古代医学はとくに道教の影響を強く受けていたと考えられる。道教を学習することは中国の針灸古典の背景を知る上でも興味深いことである。

私は鍼灸学校卒業してすぐの頃、道教の古典的名著であるアンリ・マスペロ著川勝義雄訳『道教』東洋文庫、平凡社刊 昭和53年(1950年原著出版) を購入して読んでみた。この著作は「道教とは何か」に対する一つの確固たる回答であり、欧米の学会に大きな刺激を与えたという。しかしそれでも35年前の私にとっては難解すぎた。それを今になって読み返してみたが、今回は意外にも興味深く読むことができた。私の知識量も増したことで、道教を理解するための下準備ができのだろう。道教の興味深かった点を、筆者の解釈を加えて紹介する。



2.著者アンリ・マスペロ Henri MASPERO とは

フランス人中国学研究者アンリ・マスペロ(1883-1945)は、研究途中で「道教」についてほとんど何も分かっていない道教は儒教とならんで中国人の精神構造を知る上での開鍵である。事実に突き当たった。マスペロは当時の道教の歴史と文献を学問的に探ろうとした最初の人であった。マスペロが生前に発表された原稿は少なかったが、死後書斎から膨大な未発表原稿が発見された。本著作は、マスペロの妻と友人が原稿整理したものだった。なおマスペロは1944年ドイツに拉致され、その翌年獄中で非業の死をとげた。マスペロは日本語学習の必要性を理解し、我が国にも2年間滞在した。


3.不死への修業

道教では死んでしまえば霊魂も消えてなくなると考えいて、生き続ける身体の保持の方法が興味の対象となった。その方法は単なる延命ではなく、生きている期間内に不死の身体に取り替えることだった。
身体を不死にする方法は、養形と養神に区分され、それぞれに対して様々な実践的なプログラムが用意されていたが、どれも厳しい修行を必要とした。  
 
養形:物質的な身体の老衰と死の原因の除去。→食餌法や呼吸術
 
養神:身体内部にいる種々の超越的存在(悪さをする精霊、霊魂など)ににらみをきかせ、自分勝手に悪さをさせない。→精神集中や瞑想


4.呼吸法 

臍下丹田の「丹」には赤いという意味があり、「田」生産する場所という意味がある。すjなわち生き続けている間、生命の炎が燃えている場所と考えていた。
この丹田では精を養う場所だった。火が燃えるためには空気が必要だが、普通の呼吸法では空気は肺にまでしか入らない。丹田の炎を大きく燃やし続けるには腹まで空気を入れるべきである。その方法は次通りである。 

1)胎息(息を飲み込んで消化管に至らしむ)

呼吸器は胸までしかないが、消化管は食道を通って腹全体に配置されている。息を吸うのでなく、息を飲み込むようにすることで胃腸に空気が入るから、臍下3寸(=関元に相当)にある丹田の炎を大きく燃やすことで精を養う能力を増やすことができる。臍下丹田にある精が、そこに入ってきた空気と結合して神(=正常な意識。この神というのは霊魂とな別物)が生ずる。
 
腹にまで空気を入れる呼吸法を胎息とよぶ。これは母の胎内における胎児の呼吸の方法だからである。
臍下丹田に入った気は、その後に髄管によって脳に導かれ、脳から再び胸に降りていく。3つの丹田(後述)をこのように回り終えたら、口から吐き出される。あるいは単に気を巡らせるのではなく、気を身体の中で意のままに動きまさせる。病気の時は、疾患のある場所を治すため、そこへ気を導く。

2)閉気(息を閉じ込める)

凡人は、吸った空気はすぐに吐いてしまうから、空気の中に含まれている滋養を充分に吸収できない。気を深部にまで巡らすには、長時間息を止めておく(閉気)ことが必要である。閉息して、気のもつ滋養を吸収できる時間をできるだけ長くする。


5.食餌法

1)三つの丹田の働きを妨げる三虫

身体を、上部(頭と腕)、中部(胸)、下部(腹と脚)に三分割できる。各部には上丹田・中丹田・下丹田とよばれるそれぞれの司令部がある。丹とは紅と同様な意味で、炎に通じている。生命の炎が燃え続けているためには、気(空気)は不可欠である。

上丹田:脳中にあり、泥丸(ニーワン)宮という。これはサンスクリット語のニルバーナ=涅槃に由来している。上丹田は知性をつかさどる。なお涅槃(ねはん)とは煩悩から超越した境地のこと。転じて聖者の死を涅槃というようになった。上丹田に行く気が不足すれば知性を失う。

中丹田:心臓のそばには絳宮(こうきゅう)がある。絳(こう)とは深紅の意味がある。
血液循環の元締めだからであろう。心拍数の増減させること、すなわち感情の動きに関係している。

下丹田:臍の下3寸の処(関元の部位)にある。下丹田は精を養っている部で、精に気が注入されて初めて神(正常な精神)ができる。精力(精神や肉体の活動する力)をつくる源でもある。


2)辟穀(へきこく)-三虫退治のために 



三つの丹田にはそれぞれの守護神がいて、悪い精霊や悪気から丹田を守っている。しかし守護神のそばには有害な三虫あるいは三尸(=屍)がいて丹田を攻撃して老衰や病気の原因をつくる。道士(道教の修業者)は、できるだけ早く三虫を取り除かねばならない。穀物を食べると、必然的にカス(大便の材料)が出て、カスは濁気を醸成する。この濁気が三虫を滋養し、疾病を起こす。三虫を取り除くには、穀物を絶たねばならない。これを辟穀(へきこく)とよぶ。辟穀は道士修業の基本である。穀物の代りに松実・きのこ・薬草などを食して体内の気を清澄に保つ。
                                   

2)霊薬としての丹薬

①丹薬の製造

辟穀しただけでは、三虫を絶滅しきれず、丹薬の服用も欠かせすことができない。丹薬は丹砂(=辰砂)ともいい、自然界では硫化水銀として存在している。純粋な丹砂は、朱色だが、普通は不純物を含むので暗褐色である。丹砂を炉400~600 ℃ に加熱して出た蒸気を冷やすことで水銀を取り出す。
水銀蒸気は目にみえず、瞬時に蒸発してなくなる。この段階では見えないものを集めなくてはならないので、2000年前の中国人が水銀精製法を発明したことは驚きである。熱を加える作業をした職人は、おそらく霊薬中毒(=水銀中毒)で発病しただろう。

古代ヨーロッパの錬金術師が、鉛などの卑金属を金に変える際の触媒となると考えた霊薬は辰砂のことで、辰砂は西洋では「賢者の石」ともよばれる。賢者の石との名称は、童話「ハリー・ポッターと賢者の石」ですっかり有名になった。

 

 

 

 

 


②丹薬の効能

丹薬は永遠の命や美容などで効果があると信じられていた。丹薬が永遠の命を実現できるものとする考え方は、遺体を辰砂溶液に浸しておくと、いつまでも腐敗しないという実例がヒントになっているのだろう。ちなみに昭和天皇の遺体も布にくるまれた後、辰砂液につけられ、真っ赤だったという証言もある。天皇のような高貴な身分の人は、死去から遺体を埋めるまで相当な期間を要するので、腐敗を防ぐ手段が必要になったという。

秦の始皇帝は永遠の命を求め、水銀入りの薬や食べ物を摂取していたことによって逆に命を落とした。他にも多数の権力者が水銀中毒で死亡した。当時から、丹薬服用の危険性は知られていた。しかし至高の価値を得るためには、命を預けた賭けが必要で、また人格によって毒にも薬にもなるという人格が試される試験でもあった。
なお稲荷神社の鳥居や神社の社殿などの塗料して古来から用いられた朱の原材料も、水銀=丹である。丹は木材の防腐剤として使われてきた。朱色は生命の躍動を現すとともに、古来災厄を防ぐ色としても重視されきた。

※現代での有機水銀中毒事例としては水俣病が知られている。

 

3.錬金術と錬丹術

古代から西洋では錬金術として金の抽出が行われていた。これは金鉱石を砕いて水銀を加えて加熱し、水銀蒸気を蒸発させて純粋な金をつくるものだった。卑金属から貴金属をつくる研究も行われたが、これらは失敗した。しかし近代化学の基礎を築いたという点で評価されている。

錬金術と錬丹術における霊薬の製法には、共通点があるので、錬金術を研究することは練丹術の研究にもつながった。しかし中国では錬金術よりも錬丹術が重要視された。すなわち黄金よりも永遠の生命に価値が置かれた。山奥の洞窟に住み続ける古代中国の仙人は、練丹術を修得しているとされた。仙人はたまに町にでかけることもあるということで、何とか彼らに出会って、その秘法を教えてもらうのも一つの方法とされた。が、そうした仙人の住む深山の世界は、水墨画において幽玄を感じ取れるものとして描かれている。 

 

 

 

 

関節を動かす時に生ずる「音」の正体と対策

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関節を動かす際、ポキッとしたりボキボキっといった音がすることがある。この時痛みが生じるのならば、漫然と放置できず、痛みの原因を調べることが重要となるので、ここでは論じない。音はするが、痛みはないが、音がするといった状態について、一般的には関節包内にある関節液内に生じた泡が弾ける際に出る音だという見解が主流である。しかしそれ以外にも原因があるようだ。


1.指関節をコキッと鳴らすこと 

軽く握った指に対し、もう片方の手で関節を強く過屈曲(あるいは過伸展)させると、指関節がポキッと鳴らすことができる場合が多い。これは英語で crack knuckles(直訳で
ヒビが入った手指の関節)という。

1)関節が鳴る機序

どの関節も関節包で覆われている。関節包内部は透明な関節液で満たされていて、関節の摩耗を防ぐ潤滑油として機能している。関節のコキッとする音の発生する機序は次のように説明されている。

指を過屈曲または過伸展させると瞬間的に関節包内部の容積の増加 →内圧の減少 →これまで関節液中に溶け込んでいた空気が溶け込めなくなって気泡を発生 →次の瞬間には気泡は破裂してポキッとする音を発生 →関節を鳴らすと気泡は分散して小さくなり再び関節液中に溶け込む。

なお気泡が完全に溶け込むまで20分ほどかかるので、その間指関節を鳴らそうとして力を加えても鳴らすことはできない。

 

2)キャビテーションは関節に悪い影響を与えるか?

船のスクリューの羽で勢いよく水をかき回すと、スクリューの周りに気泡(水が沸騰した状態すなわち水蒸気)が生じ、次の瞬間に気泡は破裂する。この気泡の発生と破裂の現象をキャビテーション cavitationとよぶ。キャビテーションでは気泡破裂時に音を発し、またエネルギーがスクリューを傷つけて寿命を縮める原因をつくる。キャビテーションによるスクリューの音を発するのは、指の関節を鳴らす時の音と同じ機序である。キャビテーションが船のスクリューを傷つけることから、欧米では関節を鳴らす行為は、関節が太くなったり関節炎になるから、避けた方がよいとされてきた。

 指の関節を頻回に鳴らしても関節にダメージを与えないことの証明は、不可能ともいえるいわゆる悪魔の証明である。しかしながらドナルド・L・アンガーは60年以上にわたり、毎日左指の関節を計36500回鳴らす一方で、右の指関節は決して鳴らさないという生活を続けたが、左右どちらの手にも関節炎の症状はなかったと発表した。ドナルドはその「功績」により2009年イグ・ノーベル賞(医学賞)を受賞した。
 
指関節はどうして鳴るのか? - エレナー・ネルセン
Youtube   https://www.youtube.com/watch?v=IjiKUmfaZr4


3)なぜ指関節を鳴らそうとするのか?

普通の人にとって、指の関節を鳴らすことは特別な意味をもたないので、関節がダメージを与えるかどうかを心配する必要はない。しかし中には習慣的に指を鳴らす者がいる(ビートたけしのように首を捻って頸椎を鳴らす者も結構多い)。指を鳴らすことがスッキリ感につながるからだろう。

指関節を鳴らすと、関節可動域が少し広がるといわれている。関節の動きが悪いと、筋力を使って無理に関節可動域を広げようとするので、筋コリが生じやすくなるのだろう。関節を鳴らすと、関節可動域を広がるので、以前よりも筋収縮の程度を減らすことができるのだろうと推察する。


※関節鳴らしとカイロプラクティックの理論

関節とくに背骨をポキポキと鳴らす行為で有名なのが、カイロプラクティックである。
カイロプラクターは背骨のズレをアジャストメント(=矯正する)目的で、背骨に微妙な外力を加えて、ボキボキ・バリバリといった音を出すようにする。カイロにおける背骨のズレとは脱臼や亜脱臼といったものではなく、サブラクセーションsubluxationとよばれている。これはカイロ独自の概念で、「関節面の接触が保たれつつ、運動分節の配列、動きの一貫性さらには生理学的機能が変化している状態」と定義されている。いずれせよ関節音は、関節包内部の気泡の破壊音に過ぎないので、これをもってアジャストされたとはいえない。


2.関節部以外で発する音

指関節を動かす際に生ずるポキポキ音は、一度音を出すと20分間は音が出ない状態が続く。しかし上腕や肩甲骨を大きく回すたびに、肩関節周囲や肩甲骨周りがボキボキと音する者がいる。これはキャビテーション音では説明できず、滑液包の問題として捉えることが多いようだ。  
その他の要因として、骨に接続した腱や靱帯部分は、動きに対応してクリック音を出すこともあり、これは膝関節および足関節にしばしば発生するとされる。

1)Snappping scapule syndrome 弾発肩甲骨症候群
 
本症は、肩甲下滑液包炎の一部である。肩甲骨は元来可動性に富むので、肩甲骨下組織との間(正確には肩甲下筋-前鋸筋の間と肋骨-前鋸筋の間)に肩甲下滑液包が存在し、摩擦を防いでいる。肩甲下滑液包内の滑液量が減れば摩擦量が増えるので、滑液包炎が生じ、肩甲骨の動きにより音が生ずるようになる。音がすると申告した部位に術者の手掌をあて、音がするという運動をさせると手掌に震動を感じることが多く、これが治療点選択の目安となる。

この治療として、医師の中には肩甲下滑液包に対する局麻注射を行っている。鍼治療でも同様な処置を行うことが可能である。この肩甲下滑液包は肩甲骨上角と下角それに肩甲骨内縁の奥(天宗穴の裏あたり)に存在するので、これらを目標に刺針する。肩甲骨内縁と肋骨間に入れる鍼は長鍼が必要になる。肋骨内に刺針しないよう注意を要する。筆者は患側上の側臥位にて上記の刺針を行い、置針した状態で上腕の外転運動をさせることで肩甲下筋に対する運動鍼法を行うことが多い。

 

 

肩甲骨の裏側が凝るという者に対して、上記方法で肩甲下筋の筋緊張をゆるめるようにするが、症状が頑固な症状を訴える者に対しては肩甲骨を体幹から剥がすような運動を指示するとよい。ちなみに肩甲骨内側が体幹から離れることで知られる翼状肩甲は、長胸筋運動麻痺で生じた肩甲下筋収縮障害である。



 

 

 

 

 

2)肩峰下滑液包炎

上腕をぐるぐる回すと、そのたびに肩峰の奥あたりがコキコキあるいはジャリジャリ音を発するという者がいる。音がするというあたりに術者の手を当てると、震動を感じることができる。これはおそらく肩峰下滑液包の炎症で上腕骨頭の過度の動きにより、滑液の減少をもたらし、滑液包炎を起こしたものだろう。
 
肩峰下滑液包は、上腕骨頭と肩峰の間に挟まれた空間で、回旋腱板は上腕運動に応して肩峰下滑液包に摩擦力が作用する。もし滑液不足で辷りが悪い状態では肩峰下滑液包炎を発症しやすい。筋の滑りが悪くなることは、動きに際して音が出るようになることもある。針灸治療は、回旋板の筋緊張を緩める目的で、巨骨穴を刺針点とし、肩峰下滑液包を通過させて棘上筋へ刺針した状態で、少し上腕の外転運動を行わせるとよい。

なお肩峰下滑液包の炎症が拡大すると肩関節関節包炎に拡大し、凍結肩に移行することもなる。 

 

 

 

 

 

 

井穴知熱感度データの新たな解析法

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 赤羽知熱感度測定法での井穴や良導絡全身調整法での原穴の測定で得られたデータは、一つの経の左右差を問題にすべきなのか、それとも経絡別にデータの大小を問題にすべきなのか、と考えた場合、問題か否かを主観的ではなく、数値で把握できれば好都合である。筆者は三十年ほど前、得られたデータを極座標化し、極座標上の原点からの距離と角度を、基本的な統計手法で正常値と異常値に分析する方法を考えた。

この方法を知人に教えたところ、当時流行していたコンピュータ言語BASICを使って、プログラムを作ることに成功した。これには私は驚喜したが、プリンターは高価で買えず、CDドライブはなく、私のパソコンで、そのプログラムは動かなかった。ともかく、このパソコン画面を写真にとり、今から思えば冷や汗ものだが、間中喜雄先生に「データを下されば、分析します」との内容で手紙を書いた。結果は、いくら待てど音沙汰なし。そのことを同じ科の医師に話すと、「返事がないのは当たり前。おせっかいもいいところ」との叱責を受けた次第である。

 それから2年後に小田原にある間中病院に見学に行く機会があったが、私の方から、この件は言い出せず、間中先生もすっかり忘れているようだった。後日私は、見学に対する礼状を書いて送った。その文面で私は褒め言葉のつもりで「手品をみているようだった」と書いた。すると今回は返事がきて、手品という言葉にカチンときたのか、「断じて手品ではなく理論だ」との返事で、さらにこれを読むようにと、論文の別刷りが入ってきた。しかし英語で、かつ数式が多く、歯が立たなかった覚えがある。

あれから30年たったが、このまま埋没するには惜しい気持ちがある。現在では、エクセルを使えば、データ変換やグラフ化、正常値異常値の判別は可能であろう。(筆者はエクセルは苦手だが)

1.直交座標
赤羽幸兵衛は、手足の指先にある左右24カ所の井穴に、規則的に線香の火を擦りつけ、被験者が熱く感じるまでの、擦りつけた回数を測定し、左右同じ井穴の左右差を調べることで経絡の虚実を推測することを試みた。
仮に、以下のようなデータが得られたとする。(データ自体は架空)



上表で、直交座標のH1(5,7)というのは、手の1番の経絡(すなわち肺経)の井穴である少商穴で、左少商に、線香の火を5回叩きつけると被験者は熱いと感じ、右少商穴では7回で熱いと感じたことを示している。赤い於数字は手所属の六経、青い数字は足所属の六経の井穴データで、手足それぞれ6個の座標上の点が得られる。ここまでは理解容易であろう。

2.極座標変換

上図の一点Pは、直交座標(=x-y座標)では、P(x,y)と示すことができるが、原点からの距離と、x軸に対する角度で表すこともでき、p(r、θ)と表記する。直交座標を極座標に変換するには、上図の公式を使う。一見計算するのは面倒にも思えるが、現在ではパソコンソフトを使えば難しいことではない。
極座標での、rの意味は、線香の熱に対する閾値をしめすものであり、r値が小さいほど敏感で、大きいほど鈍感になる。

3.正規分布曲線による正常値と異常値の判定


 
 人間男性の身長、筆記試験の点数、血液検査値など、データの数が多い場合、ある区切りごとに該当するテータ数を調べると、正規分布になることが知られている。正規分布曲線では、平均値μとし、標準偏差値をσとする時、μ±σの範囲に全データの約68%が入り、μ±2σの範囲に全データの95%が入ることが知られている。そこで、その範囲に入らないデータを異常値と判定することにする。
(井穴12組のデータが正規分布となる保証はないが、今回は目をつぶる)

4.実際例
上記データを例にして、r値の平均値とそのプラスマイナス標準偏差値、およびθ値と、そのプラスマイナスの標準偏差値の範囲を、緑色線で図示してみた。理論上、全データの68%が、黄緑色の領域内にあることになる。

はっきりと黄緑領域外のデータは、手④、足①、足④の3つである。この異常の意味と、基本的な補寫の方法を説明する。

1)手④(脾経)の異常
熱に対する感度は正常範囲だが、左右差に異常がある。左10に対して右4である。治療は、左脾経に瀉法、右脾経に補法を行う。

2)足④(腎経)の異常
熱に対する感受性が低く、かつ左腎経が右腎経に比べて、非常に鈍感である。治療は、腎経全体としては虚し、とくに左腎経が虚しているのだから、左腎経に対して積極的に補法を行う。瀉法はどこにも行わない。

3)足①(胃経)の異常
左右差はなんとか正常内であるが、熱に対する感受性が低い。左右の胃経に対して、補法を行う。瀉法はどこにも行わない。

※同じ考え方で、良導絡代表測定点のデータ解析も可能である。しかしグラフ化する場合、各経絡ごとに、目盛りが微妙に異なっているので、一定の換算式を噛ませる必要がある。

 

2017年6月21日、本稿を参考にして以下のような論文を書いた韓国の先生がいらっしゃることを発見した。

http://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=39&ved=0ahUKEwiU15vH6M3UAhVCi7wKHRxSCqA4HhAWCEkwCA&url=http%3A%2F%2Fsociety.kisti.re.kr%2Fsv%2FSV_svpsbs03V.do%3Fmethod%3Ddownload%26cn1%3DJAKO201121554124465&usg=AFQjCNFpXNZ2Va8T4PA2euPSEbrpPm5mPQ

歯周病に対する女膝の灸について

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1.歯周炎の局所鍼灸治療

江戸時代以前の中世日本の歯科治療は、耐え難い歯痛では抜歯し、歯茎の腫れや出血では歯肉を切って血を出すことが行われたという。麻酔などなかった時代のこと、歯を抜くことは今以上に恐怖だった。そこで何とか痛みだけでも止めたいということで、漢方薬を塗布したり、鍼灸も行われた。
 
要するに、歯痛を止めたり、歯肉の腫れ出血を止めたりする鍼灸は、単なる対症療法とはいえ、当時の人々にとっては、悩みの解決手段だった。鍼灸治療効果の明暗がはっきり出やすいので、針医はさぞ苦労したことだろう。


2.現代の歯科鍼灸

1)歯痛の鍼灸

歯痛の治療としてよく知られているのは、柳谷素霊著「秘法一本鍼伝書」の内容である。上歯痛では三叉神経第2枝の分枝である上歯槽膿神経の興奮ととらえ、客主人から下顎方向に水平刺する。下歯痛では三叉神経第3枝の分枝である下歯槽膿神経の興奮ととらえ、大迎から下顎骨の裏側に水平刺するというもの。
歯科に行ってたが原因がよくわからなかったといった場合、適応となる。歯科に通院するまでのつなぎとしての用途もある。
 
歯痛の針灸治療は、痛みが虫歯(齲歯)由来であれば、あまり効果が期待できない。しかし放散性歯痛のように、歯周囲組織に痛みの原因があれば、効果が期待でいる。そしてこのタイプの痛みは歯科が苦手としている。

 

2)歯周炎の鍼灸

歯周炎に対する歯科での治療は、歯石の除去と、自宅での歯ブラシでの入念な歯肉マッサージであって、現代に至っても特効的な治療方法があるわけでない。

相対的に鍼灸の価値は高いのだが、一歯周炎の鍼灸が適応だということはあまり知られていない。歯肉に対する鍼灸局所治療は、1番針を使い、顔面の口周囲から、症状ある歯肉部に刺入。歯肉の血行促進を目的に、単刺するか、雀啄により患部に軽く響かせた後、置針するなどの施術を行うのが普通である。

 

3.歯周炎に対する女膝の灸

1)女膝の位置
歯周病に対する特効穴としては、女膝(じょしつ)が知られている。このツボの位置は、意外なkとにアキレス腱停止部にある。
女膝穴については、江戸後期の浅井惟亨著『名家灸選』の中に記載がみられる。現代文に訳すと次の通り。
骨槽風(=歯槽膿漏)を治する法:足の後かかとの赤白肉の際で、女膝(本書では女室と記載)とよばれているところ。左右に各50壮灸すると、一ヵ月にして効き目がある。かって歯茎に孔があき、膿血がだらだらとたれていた者を救った経験がある。

 

 

2)女膝の取穴と施灸体位 

女膝施灸時の体位は、患者を伏臥位にさせ、足関節を最大限に底屈、踵後方にできる皺あたりを指で探ると、踵骨の上際中央付近に小さな凹みがあって、症状を持った患者であれば、顕著な圧痛があるので、ここが灸点になる。毎日10壮ずつ施灸すると炎症が治まってくるという。(山本俊男「鍼灸特効穴一発療法」源草社 1999.5)
 
上記文章から女膝の位置を推定したのが下図である。伏臥位で足関節を底屈すると、踵骨後部にる凸部やアキレス腱停止部である踵骨隆起が触知しやすくなる。

 

3)女膝の考察

①「膝」とは
今日でいう膝関節に留まらず、折り畳んだ部分を「襞(ひだ)」とよびどの関節であっても膝とよんだという説が有力である(ネット「語源辞典」より)。女膝穴は足関節部にあるが、ここを膝と呼んでも差し支えない。

②「女」とは
 歯周病は、女性の方が男性よりもかかりやすい。掛かりやすい。その原因として考えられているのが、プロゲステロンやエストロゲンなどの女性ホルモンである。
女性ホルモンには、歯茎の腫れや出血を起こしやすくする性質がある。女性ホルモンの分泌が増えるのは、初潮を迎えた頃や妊娠中で、ホルモンバランスが乱れるという点からは更年期も歯周病にありやすい。特に更年期は、口内での唾液の分泌量が低下して口の中が乾きやすくなるので、歯周病の進行がより一層進みやすくなる。

③女膝が効果ある理由
女膝は水毒を治すとされる。歯茎が腫れている状態を浮腫と捉えると、女膝の適応症と考えることもできる。
肩が凝ると歯が浮く感じかする者がいるように、頸肩のコリの治療が歯肉に対する治療に関係する場合がある。この場合は肩井や天柱などに対して鍼灸を行う。しかし頭蓋骨高後面と踵骨後面を相似形と考え、天柱の代わりとして崑崙に施術するという考え方もある。崑崙と女膝は非常に近い部位にある。

シンスプリントの針灸治療

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1.シンスプリント  Shin sprints(脛骨過労性骨膜炎) の概念
  
Shinは向こう脛(すね)、Sprintsは短距離走の意味。短距離走を中心とするスポーツ選手が、運動中に生じやすい。長期にわたって繰り返し下腿の特定筋に負荷がかかることで、筋肉が損傷し傷んた状態。本疾患と疲労性骨折とは鑑別が必要。脛骨のある部分が痛むのは共通だが、骨折ので は痛む部位は限局性で強い痛みが特徴。シンスプリントの痛みはやや広く痛みの程度も強くない。 

シンスプリントは、後内側型と前外側型に大別される。前者の方が高頻度。単にシンスプリントといった場合、後内側型シンスプリントのこという。
 
シンスプリント患者は運動選手であることが多い。日常動作で痛みなく過ごせればよいとするレベルではなく、障害前と同じパフォーマンスの運動ができることを希望している。走っても痛みが出ない。全力で走っても痛みが戻らない。全力で走っても痛みが出そうな怖さがないといった高いゴール設定になる。 

2.後内側型シンスプリント

1)後内側型シンスプリントの病態生理

下腿後面の筋群(ヒラメ筋内側頭・長母趾屈筋・長趾屈筋・後脛骨筋で中心は後脛骨筋)の筋膜牽引痛。増悪するとさらに脛骨の骨膜に微細傷をきたした状態にまで拡大。
上記筋は、脛骨後部に起始を、足後部に停止をもつので、足関節を伸展させる共通の役割をもつ。これらの筋肉は走る・歩く・ジャンプする時によく使われる。
   
痛みはまず、脛骨内縁の下1/3ほどに出現し、悪化すると痛みの範囲が脛骨内縁の中1/3にまで長くなるという。ここで下腿屈筋をみると、脛骨内縁下1/3の範囲には筋は骨に付着していないので、筋膜痛だろうと思われる。これらの下腿屈筋群の骨付着部は、中1/3~上1/3なので、痛みがこの範囲に及べば、骨膜牽引痛と捉えたらよいだろう。
 

 

 

 

2)後内側型シンスプリントの針灸治療

片山憲史らの針治療の検討報告では、14名20肢(平均罹病期間4.6週)に針灸を行い、平均治療期間28日、平均治療回数 4.4回を要した。
  
①脛骨後内側の下1/3の痛み
       
仰臥位で下腿屈筋の深部筋(ヒラメ筋内側頭・長母趾屈筋・長趾屈筋・後脛骨筋)に対して刺針し、置針した状態で足関節屈伸の自動運動を行わせる。下腿内側の脛骨内縁の下付近の圧痛点(三陰交あたり)を刺入点とする。2寸針を用い、腓骨下縁に向けて直刺深刺。 
  
②脛骨内縁中央あたりまで拡大した痛み
上記方法に加え、仰臥位で脛骨内縁の地機あたりの圧痛点を刺入点とする。2~3寸針を使って、腓骨下端方向に向けて直刺深刺。脛骨内縁中央あたりの痛みは、筋の骨牽引痛なので、脛骨後内側の下1/3のみの痛みと比べて、治療効果は劣る。 

 

 

 

3)運動療法
    
踏み台の上に立たせる。その際、踵を踏み台に置き、足の前半分は踏み板の外に置いた姿勢にする。膝を伸ばした状態で、足関節の底屈・背屈運動を大きな動きで30秒間にできるだけ速く行わせる。30秒間休んだ後、両膝45度屈曲位で上記同様30秒間実施。

この組み合わせを1セットとして3セット実施する。セット間の休みは1~2分間とする。まずは安静。一般的に長期の安静は必要なく、痛みのない範囲での運動は可能。圧痛の状態を確認しながら徐々に運動を開始するようにする。

 

 

 3.前外側型シンスプリント

1))前外側型シンスプリントの病態生理
    
すねの前面と外側の筋膜(前脛骨筋、長母趾伸筋)に牽引ストレスが作用して痛みを生じ、付着する脛骨骨面の骨膜にも牽引ストレスが作用して痛む状態。足関節背屈がしづらく  なる。前脛骨筋の障害では、脛骨前面の胃経から中封に沿って重苦しく痛むが、我慢できないほどの強い痛みになることはあまりない。後内側型シンスプリントに比べて治療に反応しやすい.

 

2)前外側型シンスプリントの針灸治療

①前脛骨筋への刺針

下腿前面の胃経ライン上の圧痛を探し、深刺し前脛骨筋中に刺入する。足三里~豊隆あたりに反応があることが多い。そのままゆっくりと徐々に足関節背屈の自動運動を行わせる。急な関節背屈運動では深腓骨神経の針響きは非常に強くなり、針体も曲がりやすい。


②長母趾伸筋刺針

足関節背面には、3本の腱を触知する。内側から外側に向けて、前脛骨筋腱・長母趾伸筋腱・長趾伸筋腱がそれである。足関節背面から2寸上方(脳清穴)に脛骨を触知し、その外   方にある長母趾伸筋腱を刺入点とする。刺針方向は腓骨方向に45度斜刺。置針したまま、母趾の背屈自動運動をゆっくりと少しづつ行わせると、刺針部に針響を与えることができる。

 

 


嗅覚障害の針灸治療

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これまでの公表された症例報告から、嗅覚障害の針灸治療は結構効果があることは知っていたが、なかかな症例に遭遇することはなかった。しかしここにきて念願の嗅覚障害例に遭遇し、しかも成功裏に治療を終えることができたので報告する。 


1.嗅覚障害の原因

嗅覚は鼻の天蓋部分で感知して、嗅神経を通じて脳の嗅球へ行き伝導される。

1)中枢性嗅覚障害

自動車事故などで頭部外傷をすると、嗅覚受容器と脳を連結している脳神経である嗅神経の線維が、鼻腔の天蓋位置で損傷したり切断されると嗅覚が失われる。永久的に嗅覚を失う原因で最も多い。加齢による嗅覚障害も中枢性嗅覚障害に属する。
  
2)末梢性嗅覚障害

インフルエンザウイルスによって嗅覚受容器が一時的に障害されることがあり、感染後数日から数週間にわたって、においや味がわからなくなることがある。まれに嗅覚や味覚の消失がそのまま一生続く人もいる。 
  
3)呼吸性嗅覚障害

副鼻腔炎、鼻中隔弯曲など。においを感じる嗅細胞のある鼻腔天井部まで吸気が到達できないことによる。このタイプには、スチーム吸入、スプレー状点鼻薬、抗生物質などで治療。ステロイド薬の点鼻および服用は、たった一つ確立された嗅覚障害に対する薬物治療である。ステロイドなので長期投与には問題がある。使用中止すると症状再発することもある。


2.針灸治療

)治療方針
針灸治療が効果的かどうかは、原因により異なる。呼吸性嗅覚障害に対しては、鼻の通りを良くすることで、嗅細胞にまで臭気を届けさせることを目標とする。要するに鼻閉改善の治療をする。

 

 


2)治療内容 

鼻腔と副鼻腔は三叉神経第1枝と第2枝により支配される。とくに上鼻甲介付近の炎症や腫脹では、三叉神経第1枝が知覚支配する
三叉神経第1枝を刺激すれば、交感神経を緊張させ、鼻甲介や鼻粘膜の血管収縮を引き起こすので、鼻閉や鼻汁に対しても効果がある。
三叉神経第1枝を刺激するには挟鼻穴、攅竹穴の針や上星の灸などが知られている。

 

①攅竹から睛明方向への水平刺
    
刺針:眉毛内端を取穴。左右2本の針を用いる。ある程度刺入していくと鼻に刺針側の鼻に響く。深刺しすぎると針先は睛明に近付き、上眼窩内刺針と同様に皮下出血を起こしやすい。
印堂から鼻根方向に刺入しても同様の意味がある。ただし両側性に響かせるのは難しい。印堂穴には隔物灸も多用する。
  

②挟鼻
   
刺針:鼻翼の上方の陥凹部で鼻骨の外縁中央を取穴し直刺。
鼻毛様体神経:知覚神経で鼻背、鼻粘膜(嗅覚部を除く)、涙腺に分布。揮発成分を含むワサビを食べると鼻がツーンとし、涙が出るのは、鼻毛様体神経刺激による。

  
③迎香  →使用せず
  
取穴:鼻孔の外方5分。鼻翼の外側にできる皺中にとる。直刺。
外鼻枝は、鼻前庭粘膜に分布するが、鼻腔には分布しない。迎香刺激はキーゼルバッハ部からの鼻出血には効果的だが、鼻炎や副鼻腔炎に対する治療効果に乏しい。
   



3.症例報告(72才、男)

子供の頃から蓄膿症があった。現在でも時々黄色の鼻汁が出る。1年程前から臭いが感じないことに気づいた。耳鼻科に相談したら治療法はないといわれた。食物の味を感じにくいということはあまり意識しない。

治療は、とりあえず寸6#2針で挟鼻と攅竹に低周波置針5分間実施し、また寸6#2針で座位で風池・天柱手技針を実施した。なお天柱・風池を刺激したのは、大後頭神経刺激→三叉神経刺激という回路を考えたため。
ずると治療中から鼻の通りが良くなることを自覚し、アルコール綿の臭いが分かるようになった。

本患者は、治療回数を重ねるほど嗅覚障害が改善して順調な経過をたどった。当初週に2回ペースで治療を3週間行い、後は週1回ペースで治療を3週間継続して治療を終えた。

吸角内を加熱して陰圧にする器具の良否

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当院では昔から中国吸玉を使っている。中国吸玉は単純な形をしているので滅菌・洗浄がしやすい。ガラス製なので床に落とすと割れる弱点はあるが、中国で買うと1個100~200円(国内価格は1個1000円前後)なので満足している。プラスチック製吸玉では滅菌が難しく、いずれにせよ業務用としては不合格であろう。

1.吸角内部を陰圧にする道具

吸玉内部を陰圧にするには、ポンプで吸引する方法と、内部の空気を熱し、それが冷却すうる時に体積が減る現象を利用する方法がある。前者は吸玉の口金や弁に耐久性が乏しく、業務用としてふさわしくない。当院では後者の方法で行っているが、吸玉内部の空気を熱して陰圧にする道具については、長年にわたるり悩んでいた。
 
チャッカマンでは冬期には火力が弱く、ガスの消耗も早く不経済である。チャッカマン類似品にはガスを再充填できるものもあるが、火力の強さは本家チャッカマンに及ばない。そこである時、ふとカセットガストーチバーナーを使うことを思いついた。ちなみに、トーチとは松明(たいまつ)のことである。


2.カセットガストーチバーナーの使用

カセットガストーチバーナーは、カセットガスボンベを燃料として使う。このカセットガスボンベはカセットガスコンロとして家庭用のナベ料理の定番商品であり。安価でスーパでも入手もできる。

カセットガストーチバーナーは何種類も市販されているが、とりあえず SOTO ST-Y450Y という製品を購入してみた。さっそく常連患者に吸玉をする際に使ってみたが、①燃焼時にゴーッという音がするので、患者に恐怖心を与えること、②炎の色が青く薄いので炎の尖端がどこにあるのか判別しづらいことなどの欠点があって使用中止となった。
 
この製品がダメなのかと思って、さらに有名な会社である岩谷産業のIwatani CB-TC-BZ を買ってみたが、結果は変わらなかった。同じような結果になった。改めてSOTOとIwatani のトーチバーナーの違いを調べると、 SOTOにだけ空気取り入れ量調節レバーがあることを発見した。空気取り入れ量を大きくするとゴーッという音とともに青色の炎となり、少なくすると無音でゆらゆらとしたオレンジ色の炎となった。
 

 

 

3.吸玉療法に適した炎の色
  

調べてみると青色炎は燃料ガスと酸素が反応している完全燃焼状態で1300℃となる。オレンジ色の炎は不完全燃焼状態で、酸素と反応する前の熱せられた燃料ガスから遊離した炭素の集合であるという。その炭素が燃やされてオレンジ色に光るという。この時の炎の温度は900℃ になる。炎を照明の用途で使うぶんには、不完全燃焼の方が適している。
 


吸玉として適しているのは、無論オレンジ色の炎の方なので、Iwataniの製品は使えないことになった。中国で多用するのは、鉗子の端にガーゼを巻き、アルコール液に浸して点火するもので、炎はオレンジ色になる。Sotoの製品をこの数ヶ月間使って問題は生じていない。ただし炭素が燃やされるので、吸玉内部が煤で汚れるので洗浄する手間がかかる。



 

4.箱灸でのモグサ着火時のトーチバーナーの使用

当院では箱灸実施時、中国棒灸(長さ19㎝)を16等分したものを2個入れている。棒灸はモグサを硬く詰めてあるので、火持ちが良い反面、点火には苦労する。以前はチャッカマンを使っていたが、それでも点火しづらいので、最近ではトーチバーナーを使うことにした。この用途の場合、青色炎の方が点火しやすいように思う。

 

 

殿部深部筋のMPSと坐骨神経痛

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筆者は、2011年3月28日に「梨状筋症候群の針灸治療」とするブログを発表したが、内容的に古くなったので、「殿部深部筋のMPSと坐骨神経痛」とのタイトルに変更して内容を刷新することにした。ブログ「梨状筋症候群の針灸治療」は削除した。


1.殿部深部筋筋膜症と坐骨神経痛 

これまで緊張した梨状筋が、坐骨神経を圧迫刺激し、坐骨神経痛を現す病態を梨状筋症候群 とよばれてきた。しかし臀部で坐骨神経を圧迫しても坐骨神経の知覚成分は上行性なので下肢痛 をもたらさない。ゆえに梨状筋下あたりの坐骨神経周囲の筋膜(fascisa)の緊張が、下肢への放 散痛をもたらしたと考える方が、実際的である。
   
2.梨状筋症候群

1)骨盤外旋筋と梨状筋症候群

骨盤深層には梨状筋・内閉鎖筋・上双子筋・下双子筋・大腿方形筋・外閉鎖筋という6個の 股関節外旋筋がある。これらは股関節骨頭を安定させる働きがある。
これらの筋膜症により坐骨神経の下肢症状をもたらすものは、梨状筋が有名である。これは梨状筋筋膜症による症状である。

※梨状筋:骨盤部深部筋の一つ。第1~第4仙骨孔を起始とし大転子に停止。仙骨神経叢支配。股関節外旋作用。

 


2)梨状筋症候群の診断

本診断をつけるには、神経根症状がないこと、腰痛がなく臀下肢症状のみのこと、Kボンネットテスト陽性などの観点から本診断名をつける。 

※K.ボンネットテスト Katayama's Bonnet test
方法:患側の股関節と膝関節を屈曲させ、つぎに患側の足関節を健側下肢の外側に移動させ、さらに膝関節部を押さえて健側方向に圧迫(内転)させる。このとき坐骨神経に沿った疼痛の誘発が認められるものを陽性とする。

意義:坐骨神経痛でも、根症状がない場合、本テスト陽性であれば梨状筋症候群を疑う。
    
注意:K.ボンネットは梨状筋症候群のテストだが、ボンネットテストは腰部神経根テスト。

 

 

3)坐骨神経ブロック点刺針(梨状筋刺激を介して)

針治療では、3寸針をつかって梨状筋中に直刺置針(5~10分間)を行い、筋膜症の過敏性を緩和せしめるようにする。非常に効果的な方法である。梨状筋に刺針すると電撃様針響が下肢に得られることがあるが、これが梨状筋中に針が入っていることの指標になるが、こうした針響が得られなくても、治療効果は大差ないという。
    
位置:側腹位にて、上後腸骨棘と大転子を結んだ中点から3㎝下した点を取穴。
  
刺針:2.5寸#5~7針を用いて直刺2寸前後。針は、大殿筋→梨状筋と刺入。
   

 

 

3.内閉鎖筋の坐骨神経と陰部神経刺激

1)内閉鎖筋の解剖学的特性 

梨状筋緊張はその深部を縦走する坐骨神経を刺激するが、内閉鎖筋緊張は、坐骨神経を下から押し上げるストレスを生ずる。内閉鎖筋は、閉鎖孔を起始として大腿骨頭の内側を停止とするが、その走行は坐骨結節を越える部分で大きく折れ曲がっていて立ち座りの際に力学的ストレスを受けやすい。

 

2)内閉鎖筋緊張の診断

内閉鎖筋の緊張の有無を調べるには、被験者を側腹位にさせ、坐骨結節の裏側を強く触診するようにする。非根性坐骨神経痛や泌尿器症状があれば本筋過緊張を一応疑ってみる。

 

 

3)陰部神経刺針(内閉鎖筋刺針)
 
陰部神経刺針を行うと、当然ながら陰部に針響を与える場合が多いが、この刺針では小坐骨孔を通過する辺りで、内閉鎖筋を同時に刺激していることになる。内閉鎖筋の緊張は、骨盤内臓症状(仙骨部痛、尾骨痛、直腸肛門痛、括約筋不全、排便障害、下腹部症状泌尿器症状)をもたら可能性があるとされている。


 

これに該当すると思われる患者愁訴の一例を、ネットで発見したので以下に引用する。

40歳代の主婦。右の外陰部から肛門の辺りにビリビリとした痛みがあるのと椅子に座ると右の坐骨がジーンと痛くなり太ももの裏側にも痛みがあるので整形外科を受診。骨盤と背骨のレントゲンを撮り、骨には異常が無く梨状筋症候群だろうと診断された。殿部で神経が枝分かれしいるので陰部の方にも症状が出ているとの事。外陰部の痛みということもあり、婦人科も受診。視診でも異常がな無く子宮や卵巣も正常である事から陰部神経痛だと診断。現在整形外科でもらった鎮痛剤と筋肉を柔らかくする薬を服用するも、痛みが取れない。


 

 

 

 

吸角を加熱し、陰圧にするガストーチバーナーの運用 Ver.2.0

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当院では昔から中国吸玉を使っている。中国吸玉は単純な形をしているので滅菌・洗浄がしやすい。ガラス製なので床に落とすと割れる弱点はあるが、中国で買うと1個100~200円(国内価格は1個1000円前後)なので満足している。プラスチック製吸玉では滅菌が難しく、いずれにせよ業務用としては不合格であろう。

1.吸角内部を陰圧にする道具

吸玉内部を陰圧にするには、ポンプで吸引する方法と、内部の空気を熱し、それが冷却すうる時に体積が減る現象を利用する方法がある。前者は吸玉の口金や弁に耐久性が乏しく、業務用としてふさわしくない。当院では後者の方法で行っているが、吸玉内部の空気を熱して陰圧にする道具については、長年にわたるり悩んでいた。
 
チャッカマンでは冬期には火力が弱く、ガスの消耗も早く不経済である。チャッカマン類似品にはガスを再充填できるものもあるが、火力の強さは本家チャッカマンに及ばない。そこである時、ふとカセットガストーチバーナーを使うことを思いついた。ちなみに、トーチとは松明(たいまつ)のことである。


2.カセットガストーチバーナーの使用

カセットガストーチバーナーは、カセットガスボンベを燃料として使う。このカセットガスボンベはカセットガスコンロとして家庭用のナベ料理の定番商品であり。安価でスーパでも入手もできる。

カセットガストーチバーナーは何種類も市販されているが、とりあえず SOTO ST-Y450Y という製品を購入してみた。さっそく常連患者に吸玉をする際に使ってみたが、①燃焼時にゴーッという音がするので、患者に恐怖心を与えること、②炎の色が青く薄いので炎の尖端がどこにあるのか判別しづらいことなどの欠点があって使用中止となった。
 
この製品がダメなのかと思って、さらに有名な会社である岩谷産業のIwatani CB-TC-BZ を買ってみたが、結果は変わらなかった。同じような結果になった。改めてSOTOとIwatani のトーチバーナーの違いを調べると、 SOTOにだけ空気取り入れ量調節レバーがあることを発見した。空気取り入れ量を大きくするとゴーッという音とともに青色の炎となり、少なくすると無音でゆらゆらとしたオレンジ色の炎となった。
 

 

 

3.吸玉療法に適した炎の色
  

調べてみると青色炎は燃料ガスと酸素が反応している完全燃焼状態で1300℃となる。オレンジ色の炎は不完全燃焼状態で、酸素と反応する前の熱せられた燃料ガスから遊離した炭素の集合であるという。その炭素が燃やされてオレンジ色に光るという。この時の炎の温度は900℃ になる。炎を照明の用途で使うぶんには、不完全燃焼の方が適している。
 


吸玉として適しているのは、無論オレンジ色の炎の方なので、Iwataniの製品は使えないことになった。中国で多用するのは、鉗子の端にガーゼを巻き、アルコール液に浸して点火するもので、炎はオレンジ色になる。Sotoの製品をこの数ヶ月間使って問題は生じていない。ただし炭素が燃やされるので、吸玉内部が煤で汚れるので洗浄する手間がかかる。



 

4.箱灸でのモグサ着火時のトーチバーナーの使用

当院では箱灸実施時、中国棒灸(長さ19㎝)を16等分したものを2個入れている。棒灸はモグサを硬く詰めてあるので、火持ちが良い反面、点火には苦労する。以前はチャッカマンを使っていたが、それでも点火しづらいので、最近ではトーチバーナーを使うことにした。この用途の場合、青色炎の方が点火しやすいように思う。

 

 5.韓国での独自の点火器を使った吸角の方法

上述のブログをご覧になったようで、韓国の李珉東先生から韓国の吸玉点火器の情報を教えて頂いた。登山などでつかうガスバーナーを用い、独特の金具がついている。
炎の周囲にある丸い金属板に、吸玉を押し当てると、金属板が押されている間だけ強い炎になるという。非常にスピーディーであり確実性がある。吸玉を多用する者には、便利な道具だろう。

実際の運用動画

https://www.youtube.com/watch?v=5yJgr7-wXCA

 

6.吸玉の作用と副作用

吸玉は東洋医学発祥ではない。どうやら今から3000年前頃のインドのアーユルベーダ医学が原点らしい。それがシルクロード交易によって西に東に伝わった。しかし東西の正規医学の範疇に入っていないので、きちっとした医学的検討も行われないまま今日まできている。あくまでも民間療法の一つとして一部の愛好家がいるに過ぎなかったが、2016年のリオデジャネイロオリンピックで外国の水泳選手の肩に吸玉痕があるのをテレビ中継され、「あれは何だ?」として世間の注目を集める運びになった。

1)吸角の作用の私見

医学的研究では、その作用はいまだに不明らしい。私の持論だが、吸玉をつけている間は交感神経刺激作用、吸玉を外した瞬間から急に副交感神経刺激作用となること。副交感神経を刺激するには、その前に交感神経緊張状態にあった方が効果的になるだろうことを指摘した。これは全身の脱力を図るには。まず四肢をふんばって力を入れた直後、一気に力を抜かせるようにすると効果的になることからの発想であった。また皮膚が発赤するので表在血管の血液循環促進作用があり、これも副交感神経亢進状態を裏付けるものである。皮膚温も上昇する。要するにリラクセーション効果である。また皮下筋膜のストレッチ効果がある。関節部周囲の吸角で、関節可動域が広がることもある。

2)吸玉の副作用

①紫斑
吸玉時の皮膚の発赤は軽度のものであれば、吸玉終了後は数十分~数時間で発赤が消失して、元の状態にもどる。しかし強い陰圧を数十分行えば、痕は紫褐色になり、数日経っても消えなくなる。これは毛細血管が破壊された結果である。なおもそこに頻回に吸玉をすれば、毛細血管の破壊は拡大し、永続的に紫斑が残り、見苦しい事態になる。

②水疱
10分以上吸玉をかけると、まれに水疱が出現することがある。これは単純型水疱(症)とよばれる。表皮と真皮の間に生ずる水疱で、この詳細な原因は不明だが、靴ずれと同様、物理的刺激により生ずる。刺激しないようガーゼをあてておけば、瘢痕を残すことなく治癒する。水疱を針などで破るべきか、それともその状態のままガーゼをあてたほうがいいかは、決着がついていない。水疱が破れた場合、そこから感染症を引き起こし、傷が深くなって瘢痕ができてしまう。

 

 

代田文彦先生と日産玉川病院研修2年目の私 

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昔を懐かしがる年令になったのかもしれない。代田先生は63才にて生涯を終えられたが、それから14年経ち、奇しくも私もその年令になってしまった。私はここで日産玉川病院勤務時代のことを記録に残そうと思う。私が玉川病院東洋医学に入りたいと思ったきっかけは、以下のような「医道の日本」の記事を読んだことが強い動機となった。その頃私は早稲田針灸専門学校を間もなく卒業するという頃だった。当時私は午後からできたばかりの医道の日本社新宿支店でアルバイトをしていて、卒後は医道の日本社の社員とになる予定だったのだ。医道の日本社そのものは居心地がよく、待遇面を含めても待遇に満足してたのだが、結局代田文彦先生への憧れが強く、大きな人生の決断をした。医道の日本社専務からは「どうしても日産玉川東洋医学の採用試験を受けるというのならば、医道の日本社を辞めてからにしてくれといわれた。

 

 

 

 

1.日産玉川病院の針灸研修制度があった頃

日産玉川病院とは、東京都世田谷区で東急田園都市線の二子玉川駅から徒歩20分ほどにある中規模病院である。元々は日産グループ関連社員の結核療養所として誕生した。今日でも日産という名称はあるが、普通の総合病院になっている。30年も昔のこと、日産玉川病院には針灸研修制度が存在した。当時、玉川病院には東洋医学に情熱を燃やしている代田文彦・光藤英彦という二人の医師が在籍していた。というのも当時は今以上に相当な医師不足だったので、医師を招聘するには多少の医師のわがままを受け入れざるを得なかったという事情があったという。二人の医師の要望は、「病院で針灸治療をやりたい」という明快なもので、その真意は現代医療の現場に、医療システムの一つとして針灸が参入できれば、新しい方向性が生まれるだろう」とするものだった。

当初、現代医療の場を提供すれば、訓練生各人がすでにもっている東洋医学的な知識と融合するだろうと期待したが、実際にはそうならなかった。入局した新人鍼灸師のもつ東洋医学的知識でさえ低いことに驚いたと代田先生は漏らしていた。そこで研修1年目は先輩鍼灸師の助手として働き、研修2年目から代田先生担当の入院患者を診させてもらう。3年目は自分で針灸外来患者を治療する傍ら、2年目同様に代田先生担当の入院患者を診るという研修3年計画が誕生したのだった。なお私が入ったのとすれ違いで、光藤英彦先生は、玉川病院を辞めて愛媛県立病院東洋医学研究所所長として赴任していった。光藤先生は代田先生より一年年令が上だったが丸顔であり、代田先生はおでこに頭髪がなかったので、一人一緒に講習会などに参加すると、光藤先生が鞄持ちに間違えられたという。 

日産玉川病院は就職先とはいえなかった。東洋医学科として、毎年新人を募集するためには、スタッフが増えすぎないよう、自主的に辞めることも求められた。
このように書くと、暗く厳しいイメージをもつかもしれない。しかし、みな若く体力があり、部活のように明るかった。誰もが明るい将来像を描いていた。

 

2.代田文彦先生の超多忙な日常

代田先生は入院患者を常時二十名近くかかえていた。それだけでなく他に週に2回半日の外来を担当し、また週に2回数時間の道路公団の保険医として出張でクリニックに出かけ、また週1日は東京女子医大耳鼻科で外来担当と研究をしていた。入院院患者に対しては日中に個別の診察の他に、朝と夕の回診を毎日していた。入院患者は1日3回顔を見せるというのを信条にしていた。このような超人的な活動を行うために朝8時から回診を始めるというスタイルをとっていた。さらに常勤医師の義務として月に3回の夜間当直があった。
研修制度2年目というのは、代田先生の入院患者を診させてもらうこと(診察と患者との心情的なコミュニケーション)とカルテ書きが主な業務だった。必要に応じて針灸治療も行った。実際に針灸を併用したのは代田先生の入院患者の3割程度だった。
日常的に代田先生も、東洋医学科の鍼灸師も自分のペースで動いたが、週に2回の病棟館カンファレンスや終業後にある勉強会ではじっくりと相談できる時間帯が用意されたいた。

 

3.代田文彦先生の乱暴な言葉遣いの真意

私が2年目になって初めて経験する代田先生の当直で、夜間回診である病棟にいた時、あるの肺性心患者が腰が痛いと言っているとの報告を受けた。私も知っている人で、灸治療も普段から受けていた。代田先生は鎮痛剤であるインダシン座薬をオーダーし、看護士が肛門に座薬を入れた。すると数分後、患者は苦しいと叫び出した。あわてて患者のベッドサイドに駆けつけるも、呼吸できない状況に対して打つ手がない。間もなく大便が漏れると叫び出した。その直後から意識消失しチアノーゼとなった。私にとって死ぬ間際の人を見たのは初体験でもあり衝撃だった。結局インダシン座薬による副作用のせいだった。インダシン座薬のような当たり前の薬であっても、このような結果になり得ることを知った。
 私が「まさか死ぬとは思わなかった」と言うと、代田先生は「俺は死ぬと思ったよ」と言った。その後は死後の処置が行われるが、それをするのは看護士の役割。プロとして粛々と自分の仕事をこなすのだった。ナースステーションの雰囲気は、慌ただしさはあっても悲壮感とは無縁だった。

最近、私は救急外科である渡辺祐一著「救急センターからの手紙」という本を読んだ。救急センターにおける医師の苦悩を書いたものだが、よくあるテレビのドキュメンタリー番組の内容とまるで違った。この医師も非常に言葉使いが悪いので、思わず代田先生のことを想い出してしまった。病棟内や東洋医学科内で内輪中では、代田先生の言葉使いは結構乱暴だったのだ。救急病院では日常的に人が死んでいる。すると普通であればやりきれない想いがして、厳粛な気持ちになるものだろうと考えたいところだが、ナースステーションでは医師とナースが結構冗談を言い合っている。「今晩飲みに行くか?」「行く行く」などという雰囲気。それを見ていた新人ナースが、「人が死んだというのに、死に慣れるというのも恐ろしいことだ」と思って憤慨したりする。
実はそうではないのだ。医師もナースも死に衝撃を受けた。しかし自分らはプロだから
死には慣れている。そう無理矢理自分をだまそうとしていて、その結果、あえて明るく振る舞っているというのが本当のところだと著者は記していた。


4.病棟カンファレンスにて

おもに2年目と3年目の鍼灸師が、分担して代田先生の患者を診させてもらってたが、週に一回、代田先生担当患者の病棟カンファれンスのまねごとをしてもらった。 2年目は4名、3年目は2人程度の入院患者を担当した。その時、この一週間の病状を報告するのだが、そのときカルテを見ることは禁止された。自分の担当患者くらい、重要点は記憶しているのは当然だろうとする立場からであった。研修生は自分の担当分だけ理解していればいいのに対し、元々は代田先生の入院患者であって、その数は二十名程度にもなったが、現在の処置、検査値を本当に記憶していることに仰天した。こんな頭の良い人はいるのかと思った。このようなカンファレンスは三井記念病院のレジデントで行われているというが、それはエリート医師の方法であって、つくづく自分の頭の悪さを思い知った。


5.代田先生の当直の夜の楽しみ

夜の病棟回診は午後8時頃から始まる。玉川病院には7つの病棟があって、当直医と婦長はこれを順番に回り、看護士から急変しそうな患者に対する状況の報告を受ける。その時、東洋医学科2年目の鍼灸師数名も金魚のフンのようについていく。こうした機会は月に3回程度あった。夜、救急患者が来た時は、守衛さんに東洋医学科にも知らせてほしい旨を伝えておく。
代田先生に時間的余裕がある時、夜の回診終了後、医局に行って酒をごちそうになりながら色々な雑談ができたのは楽しい思い出であった。代田先生は信州大学医学部在籍時、2年生から空手部の主将をしていた。対外試合では相手の打撃がモロに自分の命中しても、痛い顔を見せなかったとのこと。フルートも学習したが、上前歯に隙間があって息がもれて具合悪いので、前歯の隙間を埋めるよう金歯をつくったといって、実際に金歯をみせてもらいもした。学友の前で、本邦初公開などといって得意になったいたという。
そばにいるだけで、こちらが楽しくなるような雰囲気だった。

 

灸にまつわる漢字の一考察 ver 1.3

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1.炷 

これまでのを私は、針灸免許をとって十年経た頃まで、恥ずかしながら、モグサをひねって小さくして立てたものを艾柱(がいちゅう)と誤って記憶していた。針灸学校教員になり、灸基礎実技を教える段になって、艾炷だと知って仰天した。ただしそれでも、<炷>という文字に特別に注目することはなかった。 

1)線香の燃えつきる時間 
永平寺に一年間、座禅修行に行った人の本を読んでいる時こと。「時間にして四十分、一炷とよばれるこの時間は、線香が一本燃えつきる時間を意味し、永平寺の座禅はすべてこの一炷単位で構成される‥‥との記載を発見した。こうしたところにも<炷> という漢字が使われていることを知った。そこで<一炷>について漢和辞典で調べてみると、<禅寺では線香が1本燃え尽きるまでの時間(40分)を一炷と呼び、坐禅を行う時間の単位とした‥‥>とあった。永平寺で使われている線香は、どうやら長寸タイプらしい。というのも、時計がなかった時代には、線香の燃えつきる時間を一つの単位とした。ゆえに線香の長さには決まった単位があって、中寸とよばれた標準サイズは、13~14㎝の長さで、燃焼時間約25分だという。

江戸時代、遊郭では線香の火がたち消えるまでが芸子と遊ぶ時間と決まっていて、延長する場合2本3本と線香の火を足していったとのこと。線香が1本燃えつきる間、客人を飽きさせないよう接待できるようになると一人前といい、一人前になったことを一本立ちといった。一本立ちの語源はここから来ているという。


 

2)炷(しゅ)とは?  
では<炷>の意味を辞書で調べてみると、<①ともす。芯をたてて明かりをつける。または線香をたててともす。②線香などを数える単位。>とあった。そうであるなら、艾炷とはモグサを燃やすこと、あるいは燃やすべきモグサというような意味になるだろう。その燃え方は、ボッと一度に全部が燃えるのではなく、まるで線香のように、下へ下へとゆっくり火が燃え移る様を思い浮かべる。<灸>という漢字は火+久に分解できるが、この<久>には<長く続く>の意味があり、<灸>の文字全体としての意味には、<長く続いてもえる火>という意味がある。  

通常の半米粒大や米粒大艾炷の丈夫に点火すると、ゆっくりと下方に燃え、全部燃えて終了する。このような小さなかたまりでは気づきにくいことだが、燃焼丸めた点灸用上質もぐさの隅から火をつけても、まるで野焼きのように、ゆっくりと広く燃え広がり、最後には灰のかたまりになる。 もぐさならではの燃え方であろう。

 


 

 

 

 

 

3)炷(た)くとは

ある日、70歳くらいの女性患者の治療をしていたら、家でお灸を炷(た)いた‥‥」という言い方をした。ご飯を炊く、風呂を焚く、とはいうが、灸を炷くというのは違和感があった。そこでネットで「炷く」およびその類義語を調べてみた。

炊く:食物を煮る。
薫く:くすべて煙をたてる。火をつけて香をもやす。
焚く:①炎や煙をふき出してもえる、もやす。②ある程度の広さがある空間で、香に直接火をつけて匂いを漂わせる。
炷く:①間接的に熱を加えることにより、香木に含まれる香り成分をゆるやかに解き放つ。②線香に火をつけてもやす。

 つまり「炷く」とは、香りを放ちながら、ゆっくりと燃やす、といったニュアンスになると思った。 

 


2.艾と蓬

もぐさは漢字では艾になるが、よもぎは漢字では艾と蓬の2種類ある。そこで艾と蓬の違いを漢和辞典で調べると、艾は<刈り取った草> で、蓬は<ぼうぼうと生えている草>だという。
確かに、もぐさを製造するには、まずよもぎを切ることから始める。ヨモギはかつては河原などでごく普通にみられる野草だった。

 

3.壮

お灸をすえる単位には、<壮>を用いる。代田文誌著「十四經図解 鍼灸読本」(絶版)を見ていたら、<壮>という単位を使う理由が書いてあった。以下引用する。「灸一灼を一壮と云うは、壮年の人にあてて幾灼と定めたれば、壮と云えり。年寄りたる者、いとけなき者は、ほどほどにつけて、その数を減ずるなり。」(榊原玄輔著「榊巷談苑」より)

壮には、盛んにする、元気づけるという意味がある。
以下余談。現代では壮年は、青年期の次に迎える時期をさすようで、気力体力ともに充実した働き盛りの年頃をいう。ちなみに熟年という言葉は新しく考案された言葉で、1980年代からマスコミを中心に広がった。もとは老人ということだが、現代では中高年の意味に使われている。

バネ指手術の体験例

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1.術前の経過

2年程前から、理由なく起床直後に左母指のバネ現象が生ずるようになった。痛みはないが、母指の曲げ伸ばするために、カクンカクンとして母指が動かしづらいので、絆創膏を母指IP関節に巻いてIP関節の動きを制限して過ごした。やがてバネ現象は自然消失したが、今度は母指IP関節が完全伸展できなくなった。母指の屈伸動作を行うと、母指MP関節掌側横紋の示指寄りに鈍痛が残るようになった。すなわち第3期のバネ指状態になった。母指の完全伸展ができないことは我慢ができても、母指球の鈍痛には我慢ができなかった。この鈍痛は湿布しても効果なかった。

痛みに我慢できなかったので、これまで整形外来に2度行き、腱鞘内への鎮痛剤注射を行う処置をうけた。この方法は、直後は効果を実感しないが、数週間でじんわりと効いてくるとのことだが、まさにその通りだった。しかし2~3ヶ月で元にもどることも多いという。一応計2~3回注射して、それでも効果ない場合、手術に踏み切るとの段取りになるという。腱鞘内への注射そのものが非常に痛いこと、局所注射が腱鞘を傷つけることになるなどで、注射回数にも限界があるという。


 2.(参考)バネ指のスタジウムと処置法

1)第1期:
関節の手掌側に痛みや圧痛があり、指の運動時痛がある。バネ現象はなく関節の動きも正常。日常生活にほとんど支障がない。このまま自然治癒することもある。治療は安静。
  
2)第2期:     
①バネ現象陽性
が一定の角度に達すると、自動運動が障害され、これを自動的・他動的に強制屈曲させる時には、弾撥性に屈曲する。かろうじて指は屈伸できるが、曲げた指がスムースに伸びない現象。重度バネ指でなければ、無理に伸展させると、轢音を発し、完全伸展可能。
   
②モーニングアタック出現
夜間就寝中に、無意識に指を屈曲するせいか起床後に指を再伸展させる際に強く痛む。
     
③MP関節掌側部の圧痛・運動痛。腫瘤を触知
  
治療は、腱鞘内への注射(局所にステロイド+局所麻酔剤)。を  

3)第3期 
バネ現象は消失するが、指の完全屈伸はできなくなる。日常生活で非常に支障をきたす。関節拘縮状態。 輪状靱帯の開放手術。手術以外に方法がない。


3.輪状靱帯切開手術

私のバネ指は、第3期となったので、手術しか選択肢がなくなった。

否応もなく平成29年9月15日、輪状靱帯切開術を受けた。腱が肥厚していて、輪状靱帯を切開すると、その輪状靱帯に覆われた部分だけ細くなっていたという。A1靱帯を切除し、A2靱帯入口部分も切ったとのこと(両靱帯を切除することはできない)。手術方法の選択はもちろん医師に一任したのだが、2㎜ほど皮膚切開してガイドナイフを使って腱鞘切開するという新方法でなかった。しかしながら腱鞘を目視して切開できたことが、A1靱帯完全切除、A2靱帯入口の部分切除という臨機応変な対応をとることができた。

膚切開は10㎜ほど手術は正味20~30分で、手術室に入っていたのは60分ほどだった。YouTubeでは簡単に済んだという動画があったが、私も安直に考えていたが、予想外に本格的な手術だった。

輪状靱帯を切除したということは、腱鞘が癒着しやすい状態になったことを意味するので、これを防止するため、術後は母指の曲げ伸ばしをしっかり行うこと、との指導を受けた。
術後2~3時間して麻酔がとれてきた。意外にも母指の可動域は、わずかに改善しただけだっ   たが、母指球に感じていた鈍痛はなくなった。
   
その翌日から、右手に包帯を巻きつつ、鍼灸治療業務を何とか行った。母指を動かす度に傷口に痛みを感じていたが、経過と共にその痛みも軽減した。術後4日目に術後チェックをうけたが経過良好とのこと。10日後(術後2週間)に抜糸予定。

 

 

 

 

 

 


胸郭出口症候群の針灸治療 Ver.1.4

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   胸郭出口症候群という診断は針灸師サイドではよくつけられるが、整形外科医はあまりつけたがらない。そのその理由をある整形外科医に質問すると、真の胸郭出口症候群であれば、絞扼部位を広げるような手術が必要な筈であり、安静や理学療法で改善するのであれば、その病態は軟部組織障害である。軟部組織障害であれば、通常の頸腕症候群の理学療法と同じなので、あえて胸郭出口と診断する意義はないとのことだった。
 
ただし針灸治療では、絞扼部位に対するピンポイント治療ができるし、しないと効果があまりないので、正しい治療のために正しい診断が必要となる。
 「正しい診断」とは、第1に頸腕症候群との鑑別、第2に胸郭出口症候群所属の頸肋・斜角筋・肋鎖・過外転症候群のどれかという判別である。これら4つの細分化された病名の鑑別は、教科書(国家試験問題)的には理学テストで判別することになっている(本当は理学テストだけでの判別は無理だが)。

1.胸郭出口症候群の概要
1)定義
胸郭出口部における腕神経叢と鎖骨下動静脈の絞扼障害をいう。かつては頸腕症候群に分類されたが、現在では独立した症候群になる。
2)症状
 上肢の痛み、上肢のしびれ・だるさなど。
①上肢の痛みは、ピリピリ、ジリジリといった灼熱様で末梢神経分布に従う。
※神経根症状では、デルマトームに従った知覚鈍麻が起こる。
②鎖骨下動静脈も圧迫されるので、上肢は冷えを伴うことが多い。
※神経根症状では、血管症状は伴わない
③ルーステスト(3分間挙上テスト)陽性

2.胸郭出口症候群の分類
 

2.胸廓出口症候群の分類 

絞扼部位により、次の4つに細分化される

 1)頸肋症候群
第7頸椎横突起が延びて肋骨化した先天性奇形。低頻度。上肢やその付け根の上肢帯の運動や感覚を支配する腕神経叢は、頚神経から第8頚神経と第1胸神経から形成されるが、頚肋がある者は、第4頚神経から第8頚神経根から形成されることが多い。
腕神経叢の神経絞扼障害が生じる。鎖骨下動脈が絞扼されるか否かは場合により異なる。鎖骨下静脈は圧迫を受けない。

 



2)(前)斜角筋症候群
 斜角筋裂隙(前斜角筋、中斜角筋、第1肋骨で囲まれた部位)を腕神経叢と鎖骨下動脈が走行している。前斜角筋緊張のため、これらの神経と動静脈が絞扼された状態。鎖骨下静脈は絞扼されない。
 モーレーテスト(+)、アレンテスト(+)、アドソンテスト(+)


3)肋鎖症候群
鎖骨と第1肋骨の間隙から、腕神経叢と鎖骨下動静脈が出て、上肢に向かっている。この間隙が狭くなることにより、神経血管絞扼障害を起こした状態。低頻度。
 エデンテスト(+)

4)過外転テスト(小胸筋テスト)
小胸筋と肋骨間の間隙を腕神経叢と鎖骨下動静脈が走り、上肢へと向かっている。上腕外転時に、小胸筋の烏口突起停止部で、腕神経叢と鎖骨下動静脈が絞扼された状態。 ライトテスト(+)

3.胸郭出口症候群の針灸治療
上肢症状が知覚鈍麻でなく、知覚過敏であり、上肢痛のみ訴え、で頸痛がない場合には、胸郭出口症候群を疑う。理学テストはルーステスト以外はあまり信頼性がなく、ルーステストは実施に時間がかかるので、圧痛点の所在から診断し、即治療院とする方が実際的であろう。

なお1980年頃から、胸郭出口症候群の98%は、神経系圧迫の問題であって、血管圧迫の病態はわずかだとする認識に変化した。脈の消失を診るテスト(ライトテストやアドソンテスト)の有用性は否定されている(健常者でもよく陽性になる)

私の経験によれば、胸廓出口症候群の中の、前斜角筋症候群が大半であり、たまに過外転症候群も来るといった印象である。前斜角筋症候群の診断のためには、モーレーテストを使用し、過外転症候群の診断には、中府穴圧痛の有無を調べる。ともに神経圧迫テストで、該当部を圧迫すると筋緊張を感じ、やや強く押圧すると上肢に電撃様の神経痛が放散することで確定診断している。

1)前斜角筋症候群

前斜角筋症候群では、前斜角筋部(天鼎穴に相当。刺針には高い技術が必要)に刺針して置針10分を行う。頸を健側に精一杯回旋さたせると斜角筋か伸張された状態になり、この状態で刺入すると、上肢症状部に響きを与えやすい。

※天鼎位置:学校協会教科書では、喉頭隆起の高さの胸鎖乳突筋中に扶突穴をとる。扶突の後下方1寸で胸鎖乳突筋後縁に天鼎穴をとる。しかし斜角筋や腕神経 叢を刺激するには、中国式天鼎の位置の方がよい。中国式では、甲状軟骨と胸鎖 関節の中点の高さで、胸鎖乳突筋の後縁から下方1寸とする。すなわち中国式は 教科書と比べ、2寸ほど下になる。

2)過外転症候群

過外転症候群であれば中府穴から直刺し、大胸筋を貫き、その深部にある小胸筋部硬結まで刺入して置針10分を行う。なお症例によっては天鼎と中府ともに圧痛がある場合があるので、両者に置針10分することもある。小胸筋の反応をみるのは必ずしも容易ではないが、患側上肢を挙上させ、手掌で頭頂を触って固定した状態にさせると小胸筋はストレッチされているので、圧痛の有無を判断しやすい。圧痛点に刺針すると上肢症状部に響きを与えやすい。

※中府位置:中府は教科書では第2肋間で前正中から外方6寸とある。実際には気胸を避けて小胸筋を刺激する目的で、烏口突起の内方1.5㎝、下方1.5㎝を刺入点として直刺するとよい(深刺しても気胸の心配がない)。最近では、前記の中府穴ではなく、烏口突起の頂から1寸内方から直刺した方が、上肢に針響を与えやすいことを発見した。


3)追加すべき治療

側臥位にて頸椎一行からの深刺置針10分を行うと、さらに成功率が高まることを感じる。前記の頸椎の前枝だけでなく、後枝の治療も必要となる場合が実際的には多いようだ。それ以外の治療(たとえば患側上肢症状部に対する刺針)は必要がない。


 

膝窩筋腱炎の針灸治療 Ver 1.2

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筆者はかって、<膝窩痛に対する委中刺針の体位 Ver. 1.4>2014.7.28 を発表したが、その後に内容がかなり充実してきた。ともに、このタイトルが内容にふさわしくないものとなったので、内容を大幅に追加するとともにタイトルを変更することにした。

 

1.膝窩筋とは
     
膝窩筋は、膝窩部にある小さな筋なので、大して重要な役割もないだろう考えられてきた。しかし最近、本筋は<膝ロックを解除する>重要な機能があることが分かってきた。

 

立位で膝関節を完全伸展すると、脛骨の外旋・膝完伸展となって膝を固定(ロック)状態となる。この状態で体重を支えられるので、長時間の立位であってもあまり筋疲労することはない。歩行するには、この完全伸展から膝屈曲へのモード変更することになるが、この時、膝ロックを外すのが膝窩筋の役割らしい。 

この時、四頭筋力が低下していると、膝折れが発生する。膝折れが起こりやすい状況になったら、これを回避するため膝完全伸展位モードとなり、あたかも足が棒のように膝伸展位となる。膝折れ状態や膝完全伸展状態で足が前に出なくなったりで、滑らかな歩行はできない。とくに階段を下りる際に、この現象が強く起こる。この予防から手すりを使って階段を下りたくなってくる。 

 

 

 

  

※足底筋の機能:足の底屈。アキレス腱が断裂しても、足底屈ができるのは、足底筋の収縮による。
  

 2.膝窩筋炎の症状・所見
   
膝の動きに伴う鋭い膝窩部痛(ゆっくり膝を伸ばす際にはあまり痛まない)
正座時痛。
膝裏に何かが挟まっているような感覚。膝窩部の膨隆。

四頭筋力低下時、歩行時に膝折れするのを回避するため、急に下肢が棒のように完全伸展となってスムーズに足が前に出なくなる。
この場合、四頭筋力増大訓練が重要になる。

 

3.膝窩筋腱炎の針灸治療
     
異常がある場合、膝関節屈曲位にて、膝窩横紋中点から外方1寸ほどのところに圧痛硬結を触知できる。伏臥位で膝窩  をさぐっても膝窩筋は弛緩しているので圧痛は検出しづらく、刺針しても硬結に命中したことを感じないので、筆者は下図のような姿勢をさせて膝窩部の圧痛・硬結を見出し、手技針を行うことを考案した。

   
これは膝窩筋を緊張させる肢位である。上図の膝窩附近の断面では、腓腹筋が描かれているが、これは膝窩横紋のやや下方からの横断図であろう。膝窩横紋の委中外方からの直刺刺針時では腓腹筋やヒラメ筋は関与しない。
   
解剖学的には、膝窩横紋を三等分して、腓骨側に近い側から1/3の処に膝窩筋があるので、委中と委陽の中点あたりを押圧して、シコリを触知することになるのだが、膝窩横紋のやや下方(踵方向)から押圧すれば、押圧方向次第で圧痛はいろいろな場所になる。シコリを押圧すると、あたかも針で刺されたようなチクッとした強い痛みを自覚するので、とにかくこうした過敏性を伴うしこりを2~3カ所発見し、そのすべてに刺針することが効果的な刺針となる。
  




伏臥位にての委中刺針に比べ、治療効果が高い。不安定な姿勢なので置針はできない。脛骨神経に命中させる治療的意義はない。

耳鳴に対する鳴天鼓の方法

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1.鳴天鼓(めいてんこ)の再発見

ネットの面白情報チャンネル<らばQ>2017年9月20日の記事に、側頭部をタッピングすると、耳鳴りが軽くなるという内容があった。その方法を行った患者たちが喜ぶユーチューブ動画もあって、患者の喜ぶ姿をみて、これはすごい効果だと思った。効果があるなら自分の治療として取り入れることになる。

実はこの方法は、古典的内気功の一方法で鳴天鼓(めいてんこ)とよばれているもの。私も知ってはいたのだが、何かと中国情報は玉石混淆なので、試したことがなかった。

 

2.鳴天鼓の実際

1)方法

①両肘を左右に張り出し、手掌中央で耳穴をぐっと押さえて外耳道を密閉させる。
②そのまま頭の後ろに指を添えて、中指はお互いの方向を指す。
③中指の上に人差し指を乗せ、そこからはじくように人差し指を落として頭を叩く。その衝撃音が耳孔の空気を伝わり鼓膜に響くように感じる。
④1日2回、1回につき20~40回これを繰り返す。

 2)効果

効果には個人差がある。効く者は手を離すと耳鳴りが治まっていることに気づく。耳鳴が停止している時間は2~3分間だが、長く繰り返すほど止まっている時間が長くなる者もいる。

 

 

鳴天鼓の動画

https://www.youtube.com/watch?v=ajb37ie-Juo&feature=youtu.be

 

3.作用機序の考察

音波が耳孔から鼓膜に伝わる。鼓膜→小耳骨→前庭窓→蝸牛と伝わり、聴覚に影響を与える。
鼓膜に刺激を与えるという観点からは、下耳痕穴(耳垂が頬に付着する部の中央)からの直刺2㎝と同じ原理となるだろう。この刺針を行うと耳中に響く感覚が得られる。

「右耳管狭窄症で時々耳が遠く感じる」と訴える者に上記方法を行うと、施術直後頬が温かく血が通った感じがして気持ちよいという結果が得られた。温感が得られたということは、頸部交感神経緊張状態が緩んだことを意味しているので、星状神経節ブロックと同様の効能があるのだろうか。ベル麻痺の初期治療に星状神経節ブロックを行うことが多いが、それと同じような効果が得られるかもそれない。 今後耳鳴を中心とした患者に追試したい。

 

耳鳴りの針灸治療まとめ2017年版

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これまで耳鳴りの針灸治療について、いろいろとブログを書いてきた。報告した時点では、新鮮な内容であっても、時が経つにつれて私にとって当たり前になり、冷静にみられるようになってきた。そもそもAという治療法が有効で、耳鳴りの鍼灸治療において、Aという治療か効き、Bの治療も効いたという場合、両者にどのような相違があるのだろうか。俯瞰的立場から、2017年における私の耳鳴りの鍼灸治療体系を整理してみる。

針灸が有効となる耳鳴は、首の動きや顎関節の動き(口の開閉など)により、耳鳴りの音調が変化するタイプ。耳そのものに異常がなく、頭頸部筋の関節や筋肉、あるいは知覚神経や運動神経の問題で生ずる耳鳴りを、体性耳鳴(あるいは体性神経性耳鳴)とよぶ。針灸が効果的となる耳鳴は、このタイプであろう。

Cacaceは、聴覚以外の感覚入力によって、耳鳴や聴覚が変化すること報告。すなわち蝸牛から伸びる交通枝の刺激が、耳鳴治療に関係するという。その交通枝は次の神経になる。すなわち顔面神経・三叉神経・舌咽神経・迷走神経などである。迷走神経は全体的になりすぎるので、それ以外の神経について検討する。 

 

1.顔面神経

顔面麻痺時にみるアブミ骨筋反射(大きすぎる音は中耳に入れない)の存在。顔面麻痺時、アブミ骨筋を制御できないので、外界からの音がうるさく感じる時がある。
   

佐藤意生(耳鼻科医)は、感音性耳鳴患者の顔面神経下顎縁枝に経皮的に反復電気刺激で、蝸牛神経の異常を抑制できるのではないかと考えた。大迎と頬車に表面ツボ電極 をつけ、2~30ヘルツのパルス低周波刺激を2分間与えた。

耳鳴患者91例中、耳鳴が5/10以下に減少→47例(51.6%)、6/10~8/10に減少→34例(37.4%)、9/10~10/10に停止→28例(11.0%)だった。治療有効だった者(53例)の持続効果は、1週間以内に元に戻ったのは43例(81.1%)、このうち、持続効果 2~3日だった者は17例(32.0%)だった。ただし4週間経過後におても耳鳴が以前より軽いと答えた例も5例(9.4%)あった。

 

2.三叉神経
 
1)耳介側頭神経

三叉神経第Ⅲ枝の分枝である耳介側頭神経は、側頭部皮膚知覚を支配しているだけでなく、外耳道知覚、鼓膜知覚、顎関節知覚にも関与している。耳鳴りと顎関節症(三叉神経第3枝の咀嚼筋緊張)との関係も指摘できる。耳介側頭神経刺針は、開口させ、聴会にできる陥凹から直刺し、外耳道に沿わせるよう刺入する。ただし一般的には外耳炎など外耳道の痛みに使うことが多い。

2)咀嚼筋
トラベルよれば、顎関節症でとくに 耳鳴と関わりの深い筋は、咬筋と外側翼突筋だということである。いずれも三叉神経第3枝運動支配。以下は耳鳴に対して私が注目している咀嚼筋+顎二腹筋である。
 
①咬筋
主作用:下顎骨の挙上(=閉口)運動。
症状:噛む動作時に頬部が痛む。
治療:多くは外関(頬骨弓の中央直下)から深刺直刺する。

 

 

②外側翼突筋
位置:下顎骨を挟んで、咬筋の裏面にほぼ一致。
症状:下顎の突き出しができない。下顎を左右にずらせない。
治療:下関から深刺すると咬筋を貫き、深部で外側翼突筋中に入る。

  

 

③顎二腹筋後腹(起始部)
   
筋膜性疼痛症候群(MPS)の知識が増えるにつれて顎二腹筋後腹起始部の緊張が耳鳴と関係するらしいことが指摘。
位置:顎二腹筋後腹の起始は側頭骨乳突切根で、乳様突起の裏側になる。停止は中間腱で中間腱は舌骨につながっている。
症状:顎二腹筋後腹が収縮すると喉の詰まり感や物を飲み込みにくくなり、顎が動きづらくなる。
顎二腹筋後腹起始への刺針:側臥位。寸6#2程度の針で乳様突起の裏側に刺針。完骨穴に近い。乳様突起の表側は胸鎖乳突筋の起始があるのて、乳様突起からやや離れた部から刺針して斜刺し、針先を乳様突起の深部のコリにもっていく。

 

 

  

 

 

3.舌咽神経 

耳奥にズシンとした針響を与えることができるのなら、耳鳴治療にも効果あるかもしれない。このように考えて耳周囲に刺針しても耳奥に響かすことは案外難しいことである。そもそも響くということは知覚神経を刺激しているのだろうが、内耳には知覚支配がない。耳奥に響くとすれば、中耳の鼓膜から鼓室にかけて分布する舌咽神経分枝の鼓室神経だろう。舌咽神経も蝸牛に交通枝を送っている。

1)下耳痕

耳下垂つけねを中国では耳痕と命名した。そのやや下方にあることから筆者は下耳痕と命名した。 舌咽神経の分枝である鼓室神経は、鼓膜~鼓室知覚支配する。舌咽神経刺激は、神経ブロックとしては乳様突起と茎状突起の間に刺針することになろうが、針でこれを行ってもマトに当てるのは難しく。筆者が行っているのは、下耳痕穴刺針である。耳垂の頬付着部から直刺1~2㎝して鼓膜に響かせる。
   

 

2)鳴天鼓(めいてんこ) 

空気の波動を利用して鼓膜を刺激するものとて、内気功の鳴天鼓(めいてんこ)がある。両耳を掌でぐっと押さえ、両肘は肩甲骨がよるくらい張り出す。手掌中央が耳穴にくる位置にくるように置き、強く密閉。そのまま頭の後ろに指を添えて中指の上に人差し指を乗せ、そこからはじくように人差し指を落とし頭を叩き頭の中全体に音を響かせる。1回20~40回。1日2回実施。

 

4.頸部治療

1)胸鎖乳突筋をゆるめる
   
めまいと胸鎖乳突筋コリが関係あることは、ムチウチ後遺症でしばしばみられることで、これを頸性めまいと称している。一側性胸鎖乳突筋緊張→顔の傾斜→頭位性めまいという機序になる。耳鳴と胸鎖乳突筋のコリとの関係は不明瞭なところがあるが、めまいも耳鳴りも内耳症状という共通性がある。胸鎖乳突筋の緊張が強いことによる耳鳴りであっても、患者自身は自分の胸鎖乳突筋が緊張していることは案外気づかない。

筋緊張を緩めるには、該当筋を緊張させた状態で刺針した方が効果的である(=筋の促通作用)。患者をマクラを外した仰臥位にさせ、患側が上になるよう、顔を健側方向に回旋。その状態で胸鎖乳突筋の停止部(完骨あたり)に刺針。その状態のまま、患者に上を向くように指示する一方、施術者はその動きを妨げるように患者  の側頭部あたりを手掌で圧する。1,2,3と数を数えつつ、患者の力にタイミングを合わせて術者も力を加える。

 2)C1~C3頸神経
   
三叉神経は脳幹だけでなく、延髄・脊髄(C1~C3頸髄)にも核がある。例えば大後頭神経痛などで  C1~C3神経根が興奮すると、三叉神経核を刺激するので、項から後頭部痛だけでなく、顔面痛(とくに眼精疲労)を引き起こすことがある。これを大後頭-三叉神経症候群とよぶ。要するに、C1~C3頸神経刺激は三叉神経に影響を与えることがある。眼精疲労が、天柱や上天柱の針や指圧で改善するのはこの理由による。

 


 

いわゆる五十肩の病態把握手順2017年版

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1.いわゆる五十肩の基本的な病態

いわゆる五十肩は、最初は色々な診断名がつけられるが、それが自然治癒しない場合、最終的には凍結肩という単一病態へと収束されていく。細かなことは置いておき、ダイナミックな全体の流れを把握することが大切だろう。

腱板の炎炎症

炎症が肩峰下滑液包に拡大

滑液包内の水分減少し粘性増大して癒着性滑液に

炎症が肩甲上腕関節全体に拡大し癒着性関節包炎(=凍結肩)に

6ヶ月~2年の経過で自然治治癒。

上記の流れの中で、最も痛みが激しい時期は肩峰下滑液包炎の頃で、この時くらいまでを五十肩疼痛期(=Freezing  phase)とよぶ。五十肩疼痛期は疼痛中心で肩関節拘縮は目立たない。術者が介助すれば上腕の運動制限はあまりない。
   
炎症自体が落ち着くとともに、滑膜の癒着が始まる頃から、五十肩拘縮期(Frozen phase)に移行する。五十肩拘縮期は要するに凍結肩の時期であって、痛みは減少するが、術者が介助しても 肩関節の可動域は制限される。

 

 

 

 2.五十肩(疼痛期) Freezing  phase の病態生理

1)棘上筋の退行変性
 
肩関節の外転運動は、骨頭を上方に引っぱる三角筋と、体幹側に引きつける棘上筋が協調して円滑に実施できる。三角筋も棘上筋も老化するが、棘上筋の老化スピードが速い。棘上筋の老化が先行した場合、肩関節を外転させようとすると、上腕骨を体幹に引きつける力不足で、上腕骨頭を中心とした軸とした回転運動が起こらず、上腕骨頭は上方に辷る。

この状態で上腕を外転させよとすると、上腕骨大結節は烏口肩峰アーチの下をくぐることができない。上腕外転90度前後までしか可動できなくなる。
無理をして上腕を動かそうとするので、肩関節の外転・外旋筋である棘上筋・棘下筋の運   動支配神経である肩甲上神経が過敏になる。 


2)腱板炎が炎症拡大して滑液包炎に
    
肩腱板に生じた炎症は、すぐ上方に接する肩峰下滑液包に波及し、摩擦を減らすために滑液量滑量が増加したり、滑膜が肥厚してくる。この状態を肩峰下滑液包炎とよぶ。滑液包の   体積が増すので、肩峰下との摩擦はさらに増加して痛みも増加する。この結果、三角筋中部線維の付着部に限局した圧痛(滑液包~肩肩板部局所)が生ずる。さらに滑液包に線維化がみられるようになる。関節とつながる筋(とくに肩甲下筋)にも索状の線維化がみられる。
      
肩関節に炎症が生ずると、肩関節部以外に、肩甲骨上や肩甲骨内縁、後頸部にも痛みが出てくる。液包炎の炎症の程度が酷ければ、自発痛が出現し、とくに夜間痛で眠れないほどになる。とくに夜間に痛み増大するのは、夜は一般的に血行量少なくなり、気温も下がることによる。 患肩を下にして寝ると痛み増大するのが普通。
    
※棘上筋のインピンジメント症候群でも肩峰下滑液包炎を生ずる。

  

 

3.慢性期(拘縮期) Frozen phase  の病態生理   
  

)滑液包の水分が渇いて粘性増加し癒着
    
炎症が自然消退する過程で、元来はゼリー状だった滑液は、水分が失われて粘性が増して腱や骨に癒着するので上腕の運動制限が起こる。炎症が消退すると運動時痛は消失する   が運動制限は持続する。これを癒着性滑液包炎とよぶ。癒着性滑液包炎を放置すると三角筋と肩腱板の動きが不安定になり、運動神経とその支配筋も癒着が拡大すこともある。
  

2)癒着性滑液包炎の癒着範囲拡大により凍結肩へ
       
癒着性滑液包炎の癒着範囲拡大により癒着性関節包炎(=凍結肩)になる。凍結肩になると、自動・他動とも運動制限は生ずるが、疼痛は軽くなる。この状態になっても6ヶ月~2   年後には、回復期Recovery phaseとなり、徐々に可動域が拡大してくる。凍結した肩関節が自然治癒するかの理由は分かっていない。関節の癒着は自然消失した訳ではない。

 

 

4.五十肩との診断根拠    

                                
1)50才前後である。
若い頃は若い枝木と同じで火は付きにくい。老木だと火は付きやすいが燃えるのも速く火は大きくなりにくい。ある程度古く干からびていて、中身がまだしっかりあるという50才頃が最も火は拡大しやすい。火とは炎症のことである。
  
2)肩関節のROMの制限(自動、他動とも)。とくに外転、外旋運動が制限を受ける。
   
①結帯動作:肩関節の伸展+内転+内旋の複合動作。帯を結ぶ時のように手を腰に回し、できるたけ上方に移動させる。母指とC7棘突起間の距離を測る。
②結髪動作:肩関節の屈曲+外転+外旋の複合動作。髪を後で結ぶように、手を後頭部に回す動作ができるか否かをみる。中指と同側の肩甲骨下角の距離を測る。
  
3)上腕骨引き下げテスト(-)
    
上腕骨を強力に下方に引き下げ、肩峰と上腕骨頭との間に生ずる間隙を触知するテスト。間隙の拡大を触知できるものを陽性ないし正常、できないものは陰性とする。
このテストが陰性のものは狭義の五十肩(=凍結肩で病期には無関係)であり、陽性のものは五十肩以外もしくは正常である。
   
※狭義の五十肩であっても若干は拡大を触知できる。まった く動きを触知できない場合には、関節癒合(結核など)を考える。
  

 

 4)肩甲上腕リズムの異常 (長くなるので詳細省略)   

 

5.肩関節痛の鑑別診断(似田)

 

 

 

 

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