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いわゆる五十肩の鍼灸治療総括2017年版

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これまで色々な意見を発表してきたが、今行っている鍼灸治療で、実際に使っている方法と、すでに使わなくなった方法がある。概ね考えすぎた治療にはろくなものがない。思考は単純なほど実は実効性があると思うようになった。どこまで治療を単純なものにできるかも検討課題である。

1.肩甲上腕関節間隙の痛み

肩甲上腕関節部の特定の一点を痛く感じる場合、そこが治療点となる。具体的には上腕骨頭と峰のつくる第2関節部分が治療点となる。治療点は、肩髃・顴髎・巨骨などから棘上筋腱に対し刺針するようになる。
 
1)肩腱板炎と腱板部分断裂
  
①肩髃から棘上筋腱への刺針
    
肩腱板炎の多くは棘上腱に相当する腱板部位に限局して痛む。棘上筋腱は、大結節に付するので、その経穴部位である圧痛ある肩髃に刺針し、針先を棘上筋腱に入れる。
※棘上筋の腱部は、構造的に血行不良になりやすい部であることから、カリエはcritial zone(危険区域)とよんだ。

②肩髎から肩髃への透刺(柳谷素霊の方法)
       
柳谷素霊の棘上筋に連続した肩腱板部の痛みに対しては、2寸針を用いて、肩髎から肩髃へ刺針を得意としていた。肩髎から肩髃への透刺は、カリエの述べた危険区域部への刺激として、適切であることがわかる。単に肩髃や肩髎から刺針するのと異なり、刺激目標が明確になるので刺針に手応えを感じる。実際に治療効果も優れている。
  

③巨骨から棘上筋部への刺針(似田)
      
体位:側臥位でタオルで薄いマクラを使用。頸を側屈位にさせる。
治療点:巨骨ではなく、肩井を刺入点とした方が針を鎖骨肩峰アーチ下をくぐらせやすい。
刺針:3寸針を用い、肩井を刺入点として巨骨方向に斜刺し、針先を棘上筋腱部付近に達させる。達したか否かは、刺針した状態でゆっくりと狭い範囲で上腕を外転運動させると、針が動くことで確認できる。その後5分ほど置針。 

 

 

 

 2.上腕外側痛の痛みと天宗刺針
 
上腕外側は腋窩神経の分枝である上外側上腕皮神経知覚支配で、この神経は腋窩神経の分枝なっている(腋窩神経の本幹は小円筋・三角筋を運動支配し、腋窩神経はさらに肩関節包下方 知覚支配している)。この解剖学的性質から、上腕外側痛に対する局所治療としては肩髃から曲池方向に水平刺するのかよいと考える者がいる。さらに一歩進めて腋窩神経刺激を目的に後四角腔部(=肩貞)から直刺しても有効だと考える者もいると思う。しかし実際には、このような刺針は直後数時間の鎮痛効果しかもたらさないことを痛感する。

痛感

 

ここで棘下筋のトリガーポイントの図をみると、棘下筋仲のトリガー(天宗あたり)が活性すると三角筋部や上腕外側部に疼痛症状をもたらすようだ。ではどういった状況で棘下筋のト  ガーが活性化するのだろうか? 

 

肩甲上神経は肩関節を外転・外旋する筋肉である棘上筋・棘下筋を運動支配している。肩甲骨位置異常や繰り返しの動作により、肩甲上神経が引っ張られ神経が過敏になったり、棘上筋・ 下筋を過度に使用(腕を上方・横に捻る)したり、転んで肩後部を打ち付けることなどにより、痛みが出るということらしい。 
  
なお結帯動作制限は非凍結期の五十肩でしばしばみられるものだが、棘下筋・小円筋が伸張された結果なので、天宗・肩貞の圧痛点への運動針が有効になることが多い。

※肩甲上神経
運動支配:棘上筋・棘下筋 
知覚支配:なし。ただし肩関節包上部と後部を知覚支配
※腋窩神経
運動支配:小円筋・三角筋
知覚支配:上外側上腕皮神経として上腕外側を知覚支配。肩関節包下部を知覚支配


3.後方四角腔部(≒肩貞)の痛みと肩甲下筋
 
腋窩神経は肩関節下方の関節包知覚を配しているので、凍結肩時この辺の関節癒着があれば、やはり後方四角腔部の痛を訴える。なお後方四角腔とは、後腕つねにある4筋と肩甲骨外縁のつくる陥凹ある。4筋とは上腕三頭筋外側頭・同の長頭。大円筋・小円筋である。
 
筆者は後方四角口腔の痛みを改善する目的で、後方四角腔にある腋窩神経ブロック点からから何度も直刺深刺してみたのだが、一向に有効な治療とはならなかった。そこで次のように刺針方向を変えてから、効な針ができるようになった。

1)肩貞からの大円筋・肩甲下筋水平刺
   
患側上の側臥位。後方四角腔(≒肩貞)を刺入点とし、中国針で肩甲骨と肋骨の間隙に刺すると、針はまず大円筋を貫き、次いで肩甲下筋に刺入できる。トラベルにより、肩甲下筋の  TPsは後方四角腔部に痛みを生ずることが調べられている。

 

 

2)膏肓からの肩甲骨・肋骨間に入れる水平刺              
   
肩甲下筋に刺針するには、肩貞水平刺のように肩甲骨外縁を刺針点として選択するほか、肩甲骨内縁(膏肓あたり)を刺針点とし、そこから肋骨と肩甲骨間に針を入れていく方法もある。筆者はともに行うが、膏肓から刺針する方がやりやすさを感じる。
   
治療側を上にした側臥位をとらせる。膏肓あたりから肩甲骨と肋骨間に向けて、5~7㎝平刺すると、ズンという針響を肩甲骨裏面に与えることができる。人によっては、やっとつい処に当たったと喜ぶ者もいる。強く響かせるには、刺針した状態で肩関節の自動外転動作行わせると良く、これは肩甲骨-肋骨間の癒着を剥がす目的で行うには有利である。

肩甲骨の動きが悪い凍結肩では、肩甲骨内縁から肩甲骨-肋骨間の間隙に刺針し、癒着に針先を命中させ、コツコツと骨膜刺激を繰り返すことで、徐々に癒着を剥がしてゆく。

 

4.三角筋前部や三角筋粗面部の痛み
  
外転運動の主動作筋である三角筋中部線維と棘上筋の緊張。美容師・理容師など長時間の上外転姿勢保持しなくてはならない者に多い。老化現象とは関係が薄い。
 
1)症状:上腕挙上時の、三角筋前部線維や三角筋粗面部(臂臑穴あたり)の痛み。痛みを我すればROM正常。
      ※臂臑(大腸):肩髃から曲池に向かって下がること3寸。三角筋前縁。

2)病態:三角筋前部線維は上腕前方挙上時の主動作筋であり、上腕の前方挙上時には筋の伸時痛が好発する。

3)針灸治療 

①三角筋停止部(臂臑)水平刺運動針
三角筋は上腕骨外側で上腕骨頭側から1/3の部にある臂臑穴(三角筋粗面部)に停止するが、この部の痛みを訴える者がいる。2寸の中国針を用い、矢状面で前から後に向け、三   筋粗面に刺入する。 (北京堂、沼袋治療院HPより)
   
②三角筋起始部水平刺運動針
 
肩関節が痛むと訴える患者で、三角筋始部の圧痛は高率にみるが、患者自身は痛部位を認識していないことが多い。三筋の筋起始部症と捉え、鎖骨の下で三角起始部を鎖骨と水平に刺針、その状態で腕の上げ下げを5回程度、痛みが強く出い程度に行わせる。自動運動時、施術者上腕を介助する。
  
③術者の肩に手を乗せて三角筋起始部運動針肩関節を外転させて圧痛を調べる方法がある。座位で施術者も椅子に向かい合って座り、患者は患肢で施術者の肩甲上腕部を軽くつかむ(前方挙上90度姿勢を保持)。この状態で三角筋部圧痛点(とくに肩甲骨起始部)に刺針し、運動針する。

5.上腕二頭筋長頭腱々炎部に対する肩前穴斜刺 
 
独立した病態としての上腕二頭筋長頭腱々炎では、結節間溝部(=肩前穴)を取穴。肩穴から曲池方向に斜刺し、針先を上腕二頭筋長頭腱に刺入。軽い雀啄を行って抜針するという治療が考案できる。ただし結節間溝部は、鎖骨肩峰端の直下にあり、また三角筋に覆われていているので圧痛の無を調べることは必ずしも簡単ではない。
上腕二頭筋長頭腱々炎の炎症は、単独で現れるより、肩峰下滑液包の炎症が上腕二頭筋長頭腱部に拡大した場の方が多く、肩髃刺針を併用することが多い。
 

 


シンスプリントの針灸治療 Ver.1.2

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1.シンスプリント  Shin sprints(脛骨過労性骨膜炎) の概念
  
Shinは向こう脛(すね)、Sprintsは短距離走の意味。短距離走を中心とするスポーツ選手が、運動中に生じやすい。長期にわたって繰り返し下腿の特定筋に負荷がかかることで、筋肉が損傷し傷んた状態。本疾患と疲労性骨折とは鑑別が必要。脛骨のある部分が痛むのは共通だが、骨折ので は痛む部位は限局性で強い痛みが特徴。シンスプリントの痛みはやや広く痛みの程度も強くない。 

シンスプリントは、後内側型と前外側型に大別される。前者の方が高頻度。単にシンスプリントといった場合、後内側型シンスプリントのこという。
 
シンスプリント患者は運動選手であることが多い。日常動作で痛みなく過ごせればよいとするレベルではなく、障害前と同じパフォーマンスの運動ができることを希望している。走っても痛みが出ない。全力で走っても痛みが戻らない。全力で走っても痛みが出そうな怖さがないといった高いゴール設定になる。 

2.後内側型シンスプリント

1)後内側型シンスプリントの病態生理

下腿後面の筋群(ヒラメ筋内側頭・長母趾屈筋・長趾屈筋・後脛骨筋で中心は後脛骨筋)の筋膜牽引痛。増悪するとさらに脛骨の骨膜に微細傷をきたした状態にまで拡大。
上記筋は、脛骨後部に起始を、足後部に停止をもつので、足関節を伸展させる共通の役割をもつ。これらの筋肉は走る・歩く・ジャンプする時によく使われる。
   
痛みはまず、脛骨内縁の下1/3ほどに出現し、悪化すると痛みの範囲が脛骨内縁の中1/3にまで長くなるという。ここで下腿屈筋をみると、脛骨内縁下1/3の範囲には筋は骨に付着していないので、筋膜痛だろうと思われる。これらの下腿屈筋群の骨付着部は、中1/3~上1/3なので、痛みがこの範囲に及べば、骨膜牽引痛と捉えたらよいだろう。
 

 

 

 

2)後内側型シンスプリントの針灸治療

片山憲史らの針治療の検討報告では、14名20肢(平均罹病期間4.6週)に針灸を行い、平均治療期間28日、平均治療回数 4.4回を要した。
  
①脛骨後内側の下1/3の痛み
       
仰臥位で下腿屈筋の深部筋(ヒラメ筋内側頭・長母趾屈筋・長趾屈筋・後脛骨筋)に対して刺針し、置針した状態で足関節屈伸の自動運動を行わせる。下腿内側の脛骨内縁の下付近の圧痛点(三陰交あたり)を刺入点とする。2寸針を用い、腓骨下縁に向けて直刺深刺。 

脛骨後内側の下1/3の痛みであっても、治療に抵抗する場合がある。これは、脛骨内側筋がの短縮が続き、脛骨が弓のように曲がったことによる骨膜痛だとする考えがある。この場合、三陰交あたりの圧痛点を刺針点とし、脛骨骨膜にぶつけるよう刺針するとよい(小野寺文人氏)という。

②脛骨内縁中央あたりまで拡大した痛み

上記方法に加え、仰臥位で脛骨内縁の地機あたりの圧痛点を刺入点とする。2~3寸針を使って、腓骨下端方向に向けて直刺深刺。脛骨内縁中央あたりの痛みは、筋の骨牽引痛なので、脛骨後内側の下1/3のみの痛みと比べて、治療効果は劣る。 

 

 

③頑固な痛み

 

3)運動療法
    
踏み台の上に立たせる。その際、踵を踏み台に置き、足の前半分は踏み板の外に置いた姿勢にする。膝を伸ばした状態で、足関節の底屈・背屈運動を大きな動きで30秒間にできるだけ速く行わせる。30秒間休んだ後、両膝45度屈曲位で上記同様30秒間実施。
この組み合わせを1セットとして3セット実施する。セット間の休みは1~2分間とする。まずは安静。一般的に長期の安静は必要なく、痛みのない範囲での運動は可能。圧痛の状態を確認しながら徐々に運動を開始するようにする。(「シンスプリントに永久におさらばできる魔法の運動があるのだ」ギズモードジャパン YouTube 動画より)

 

 

 3.前外側型シンスプリント

1))前外側型シンスプリントの病態生理
    
すねの前面と外側の筋膜(前脛骨筋、長母趾伸筋)に牽引ストレスが作用して痛みを生じ、付着する脛骨骨面の骨膜にも牽引ストレスが作用して痛む状態。足関節背屈がしづらく  なる。前脛骨筋の障害では、脛骨前面の胃経から中封に沿って重苦しく痛むが、我慢できないほどの強い痛みになることはあまりない。後内側型シンスプリントに比べて治療に反応しやすい.

 

2)前外側型シンスプリントの針灸治療

①前脛骨筋への刺針

 

下腿前面の前脛骨筋外縁が脛骨に接する部の圧痛点を探し、深刺して脛骨骨膜を刺激する。足三里~豊隆あたりに反応があることが多い。そのままゆっくりと徐々に足関節背屈の自動運動を行わせる。急な関節背屈運動では深腓骨神経の針響きは非常に強くなり、針体も曲がりやすい。


②長母趾伸筋刺針

足関節背面には、3本の腱を触知する。内側から外側に向けて、前脛骨筋腱・長母趾伸筋腱・長趾伸筋腱がそれである。足関節背面から2寸上方(脳清穴)に脛骨を触知し、その外   方にある長母趾伸筋腱を刺入点とする。刺針方向は腓骨方向に45度斜刺。置針したまま、母趾の背屈自動運動をゆっくりと少しづつ行わせると、刺針部に針響を与えることができる。

 

 

膝OAに対する針灸臨床 Ver.2.0

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変形性膝関節症(膝OA)は、従来から針灸の適応症とされてきた。事実、整形での理学療法や神経ブロック療法と比べても、よく効く。しかしながら高度な膝OAでは、針灸治療直後でもあまり症状軽減しないか、軽減しても翌日から痛みが元の状態に戻ってしまうことが多い。やはり高度な膝OAでは骨切り術や膝人工関節への手術が必要なのであって、針灸という保存療法の守備範囲を超えたものになる。この意味で、一般に75歳以上の膝OAは鍼灸でも効きが悪い印象を受ける。

1.関節包の痛み

知覚神経が興奮すると痛みを感じるが、知覚神経はどこも均一に分布しているわけではない。骨は痛まないが骨膜は痛みを感じる。関節部においては、骨膜は関節包に移行するので関節包も痛む。関節包は腱筋につながって関節と連動して牽引収縮されるので痛む。
関節包は外層と内層に区分され、外層を線維膜とよび、内層を滑膜とよぶ。線維膜は強靱で知覚神経が分布する。滑膜は血管に富み関節液(=滑液)を産生分泌する。この関節液は、関節の潤滑油および栄養液として機能している。

関節包は当然ながら関節部にあるので、関節裂隙への深刺が関節包刺激となる。針灸臨床で多用されるのは、内膝眼、外膝眼、内膝蓋(大腿膝蓋関節内側中央)といった穴で、これらの穴へ刺針すると関節全体に針響を与えることができる。


 

1)膝蓋大腿関節の痛み 
膝蓋大腿関節の典型的な障害は、膝蓋骨軟骨化症であるが、膝OAの部分症状としても膝蓋大腿関節面の変形をみることが少なくない。膝蓋大腿関節の不適合の原因としては、大腿四頭筋の緊張または大腿膝蓋関節面面における関節軟骨の摩耗と関節滑液不足、内外の膝蓋支帯の緊張があげられる。
針灸治療法は、筆者ブログ「膝蓋骨軟骨化症の針灸臨床」に記した同内容、すなわち大腿四頭筋の膝蓋骨付着部や内・外側の膝蓋大腿関節面に行い、かなり有効である。

2)膝蓋骨内下縁、膝蓋骨外下縁の痛み
膝蓋骨下縁で膝蓋腱の両側部は、大腿骨と脛骨の隙間で、内外の半月板や前十字靱帯が存在する部である。膝伸展位で、この部の圧痛点から直刺すると、針は膝蓋下脂肪体→関節包(関節線維膜と関節滑膜)→関節腔と入る。その時、針先が線維膜を刺激すると、関節全体に響 きを感じる。またすく下の滑膜を刺激すると、滑膜は血行豊富であり滑液を分泌する処でもあるので、治癒機転が働くと筆者は考えている。

 

ときに膝蓋下脂肪体が増殖し、隆起している者がある。これは膝関節を防衛するためのクッションの増強だと筆者は考えており、この所見をもって、逆に膝関節が脆弱であることを示唆するものと考える。

3)内側関節裂隙の痛み  
直下に内側側副靱帯があるので、この靱帯障害の可能性がある。内側側副靱帯の障害は、外傷を除けば、O脚との因果関係が深く、膝OAもO脚となりやすい。内側側副靱帯は内側半月と連結固定されているので、内側側副靱帯の外傷は、内側半月板障害を生ずることもある。要するにの内側関節裂隙の痛みは、側副靱帯部の痛みであれば局所の灸+安静で改善するが、半月板まで損傷した場合には、局所に施術しても治療効果があがりにくい。

2.筋腱の痛み
膝関節が腫脹したり、軟骨が摩耗したりを繰り返すうちに、膝の動きが悪くなり、また無理して動くために、膝のROMは狭くなり、かばうために筋の柔軟性が減少してくる。とくに筋の骨付着部に痛むようになる。膝関節周囲の関節包や関節周囲に付着している腱、筋肉の異常、傷害による問題は、痛みをたらすという意味で、重視すべきである。このたぐいの硬結圧痛は、膝蓋骨周囲の外縁、内外関節裂隙、鵞足部に出現しやすい。

1)立位での診療

膝痛の鍼灸治療は、一般的には臥位で行うことが多いが、膝痛は臥位時ではなく、立位や歩行で生ずることが大部分である。であるなら、反応点(≒筋硬結)を発見する体位は、臥位よりも立位が適切であることに最近になって気づいた。ある膝OA患者で、仰臥位で圧痛点を探して刺針施灸を6回したが、思うような効果が現れなかった。そこでベッド上に立たせ、改めて膝関節周囲を触診してみると、これまで分からなかった圧痛点を多数見付けることができ、その都度単刺を行ってみる(片膝あたり計5~10カ所)と、治療直後に歩行時痛が軽減したのだった。膝OAは、「軟骨変形が病像の中心なので、治療効果をすぐに求める必要はなく、毎日施灸することで3週間程度経ってからゆっくり効いてくる」との思いが常識となっていただけに、このような体位で行う治療が即効的に効くことがあることに驚かされた。

 

2)筋個別の治療

①大腿部周囲の硬結圧痛
膝蓋骨の上縁に筋付着部症が出現しやすい。四頭筋腱の緊張は、その上部にある四頭筋緊張により二次的に生じた結果なので、四頭筋筋腹にあるトリガーポイント(モーターポイントと一致)へも施術したほうがよい。単に刺針するよりは、運動針手技を行うと効果が増す。大腿四頭筋-膝蓋骨-膝蓋腱-脛骨粗面は、膝関節の伸展機構として一体として捉えることができるので、膝蓋骨下縁の膝蓋腱付着部の圧痛も同時に診察し、圧痛あれば施術した方が効果的になる。

<運動針の方法>
・硬結をめがけて刺針。そのまま膝関節屈伸の自動運動を片膝につき5~10回実施した後、抜針する。この時術者は、患者の踵を支え、スムーズな膝屈伸運動ができるように支持する。

・膝が痛まない程度の屈曲にして被験者の足底をベッドに密着させる。術者は足背を押さえ、四頭筋の伸張状態を保つ。術者は指頭で、膝屈曲部の頂部分(大腿四頭筋の腱になる)にある圧痛硬結を調べる。圧痛部(数カ所見つかることもある)あれば直刺雀啄してただちに抜針する。
※膝屈曲位にすると、膝蓋骨は予想以上に下方になる。いわゆる膝頭は伸張した四頭筋腱になるので、膝頭への刺針は、四頭筋腱付着部刺針になる。(下図参照)

・通常の治療は上記段階まででよい。しかし正座できることを目標にするならば、追加施術を行うことになる。すなわちベッド上で正座を試みさせる。(痛くて正座できないのであれば、大腿と下腿の間にマクラを入れて深くは膝屈曲できないようにする。)

・正座状態で、痛む部を指で示させる。または術者自身の指頭で圧痛点を探して、圧痛硬結に雀啄手技を行う。

②鵞足部の圧痛硬結 →「鵞足炎」に準じる



③膝窩部の痛み 

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3.痛み以外の主な所見と対処法

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1)関節の熱感・腫脹 

老化や外力により関節の軟骨が摩耗→摩耗の際にでた軟骨の破片が関節液中を浮遊→滑膜内の細胞を刺激して関節内に炎症→熱感・腫脹→この反応時、知覚神経を刺激→膝関節痛

熱感が強ければ、針灸を行うと症状を悪化させやすいので、避けるべきである。さほどでな熱感であれば針灸してもよいが軽刺激にとどめるべきである。基本的には安静を指示し、熱感が軽減するまで数日~数週間待つこと。

2)関節水腫

加齢などによって関節表面の軟骨が摩耗し、軟骨表面の辷りが悪くなる→滑膜が炎症を起こし、基準量以上の関節液を分泌→関節液の吸収が追いつかず関節包に関節液量が増加→関節水腫→水腫により関節包内圧増加→膝関節痛(膝蓋跳動テスト陽性)

軽度の関節水腫は、施灸の適応になり、施灸することで水腫は軽減する。しかし水腫が大きい場合、整形外科等で水を抜いてもらい、その後に針灸治療をした方が効果出現が早くなり、再度水が溜まることもない。

3)関節包の肥厚

慢性反復性刺激から関節包を守るため、関節包が肥厚関節包は次第に肥厚してくる。この結果、柔軟性に乏しくなり、ROMが制限される。膝蓋跳動テスト正常
関節包肥厚は、関節裂隙への刺針や、筋腱の骨付着部に刺針することで、可動域が増し、すると自然と関節包肥厚も軽減してくることが多い。
 
4.治療期間

針灸医療推進研究会の「鍼灸News Letter 2009.11」には、膝OAに対して、A群:針治療+鎮痛剤内服群とB群偽針+鎮痛剤内服群との効果比較の研究報告結果(スペインのJorge Vasによる)が載っている。週に何回治療したのかは不明だが、治療開始一ヶ月後はA群の方が勝るが、B群も比較的健闘している。ところがそれ以降の治療継続は、A群がさらに症状改善しているのに対し、B群は改善停止しているという結果になった。またこの報告は、A群も治療4ヶ月になると、3ヶ月経過時点とあまり変化がない。この結果から膝OAに対する妥当な針灸治療期間は、3ヶ月程度だと考えられる。 


立位で膝関節症の針治療をすることの意義

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筆者は本年11月15日に「膝OAに対する鍼灸臨床 Ver.2.0」を発表た。この時、立位で診療することの必要性について少し触れたのだが、鍼灸の効果を高めるために重要な内容なので、今回きちんと説明したい。


1.仰臥位での膝関節周囲の治療

膝OAでは、膝周囲の圧痛点に刺針施灸することが多いが、多くは仰臥位で行い、置針あるいはこれに低周波通電を追加する形をとるのが定石であろう。

しかし筋を脱力させた状態で刺針するのは、確かに針はスーッと入るだろうが、あまり効果的でない。膝OAの痛みの正体は筋膜症で、筋緊張を緩めることが治療目標となるから、、問題のある筋を収縮または伸張させた状態にして刺針した方が効果的になる。この体勢は患者にとって不安定なので単刺術や雀啄術が適しており、置針や置針パルス通電は不適切になる。

膝OAで重要となるのが大腿四頭筋の緊張改善だが、大腿四頭筋の起始である膝蓋骨上縁部鶴頂穴あたりのの圧痛硬結は、よい治療目標となる。刺針は四頭筋をストレッチさせる、すなわち仰臥位で膝屈曲位にさせて刺針すると、四頭筋腱刺激することで四頭筋を緩める
生理的機序(Ⅰb抑制)に働きかけとよい。
鶴頂刺針の理論は、オスグッド病に対する膝蓋腱(=犢鼻)刺激にも使える。

 

2.膝蓋骨周囲の圧痛に対する立位での施術の意義

1)治療効果の乏しい仰臥位施術

では仰臥位膝伸展位で、膝蓋骨内縁や外縁(内膝蓋穴や外膝蓋穴)の圧痛や内膝眼・外膝眼の圧痛に対してはどう対処すべきだろうか。
筆者はこれまで、大腿膝蓋関節の滑動性の悪さで、この滑液分泌を促す目的で局所圧痛点に刺針するという解釈から局所圧痛点に刺針していたが、治療を繰り返しても思ったほど効果はないのが実情だった。


2)立位での施術

これらの穴の圧痛も実は筋膜症の一つなのではないだろうか。このアイデアが正しいとして、「仰臥位膝屈曲位で鶴頂の圧痛を診る」と同様の治療方策はないものかと悩んだ。その結果、たどりついたのが「立位にしての刺針」だった。
   
膝関節痛は、仰臥位姿勢では痛みが出ないのが普通である。この姿勢にさせて圧痛点を探して刺針してもあまり効果が得られない場合がある。膝痛で痛みが生ずるのは、立った時そして歩いた時であるから、ベッド(または踏台)の上に立位にさせた状態ににして圧痛点を探して刺針するという内容である。

①立位にして、前面から行う施術のデメリット

当初、患者をベッドに立たせ、術者は、患者に向き合った姿勢で丸椅子に座って、圧痛探しをした。すると仰臥位で調べた反応点でなく、それと微妙にずれた部位だったり全く異なった部位に圧痛を発見できた。そこに単刺術をすると、直後効果が非常にあった。
 ただしこの姿勢は、当院のベッド周りの構造上、患者のつかまる処がないので、患者は不安がっていた。


②立位にして、後側から行う施術のメリット

そこで数週間後から、ベッドに立たせた患者の後側から、圧痛探しをしてみた。この姿勢では、両手で患者の膝両側面をしっかりとサポートでき、キッチリとした押手も構えられるので、非常に刺針しやすくなった。その上、患者は壁と向き合うことになるので、壁に手をつくことができて以前より安定感がありそうに見えた。


3.膝の新穴

話はまったく変わる。膝関節痛の圧痛点位置を表記するには、正穴だけでは足りず、従来から皆が不自由していた。その解剖学的部位を記録するのも面倒なことであった。このような状況にあって、出端昭男氏は、御著書の中で、自分なりに命名したツボ名を発表した。これは本人の思惑を越えて、針灸界に広く普及していった。その理由は、命名理由が解剖学的特徴をうまく捉えたからであろう。、

 ①下血海(奇):膝蓋骨内上縁の裂隙部。
 ②下梁丘(奇):膝蓋骨外上縁の裂隙部。
 ③内膝蓋(新):膝蓋骨内側縁の中央。
 ④外膝蓋(新):膝蓋骨外側縁の中央。
 ⑤内膝眼(奇):膝蓋靱帯内側の陥凹部。
 ⑥外膝眼(奇):膝蓋靱帯外側の陥凹部。

バネ指手術の体験例

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1.術前の経過

2年程前から、理由なく起床直後に左母指のバネ現象が生ずるようになった。痛みはないが、母指の曲げ伸ばするために、カクンカクンとして母指が動かしづらいので、絆創膏を母指IP関節に巻いてIP関節の動きを制限して過ごした。やがてバネ現象は自然消失したが、今度は母指IP関節が完全伸展できなくなった。母指の屈伸動作を行うと、母指MP関節掌側横紋の示指寄りに鈍痛が残るようになった。すなわち第3期のバネ指状態になった。母指の完全伸展ができないことは我慢ができても、母指球の鈍痛には我慢ができなかった。この鈍痛は湿布しても効果なかった。

痛みに我慢できなかったので、これまで整形外来に2度行き、腱鞘内への鎮痛剤注射を行う処置をうけた。この方法は、直後は効果を実感しないが、数週間でじんわりと効いてくるとのことだが、まさにその通りだった。しかし2~3ヶ月で元にもどることも多いという。一応計2~3回注射して、それでも効果ない場合、手術に踏み切るとの段取りになるという。腱鞘内への注射そのものが非常に痛いこと、局所注射が腱鞘を傷つけることになるなどで、注射回数にも限界があるという。


 2.(参考)バネ指のスタジウムと処置法

1)第1期:
関節の手掌側に痛みや圧痛があり、指の運動時痛がある。バネ現象はなく関節の動きも正常。日常生活にほとんど支障がない。このまま自然治癒することもある。治療は安静。
  
2)第2期:     
①バネ現象陽性
が一定の角度に達すると、自動運動が障害され、これを自動的・他動的に強制屈曲させる時には、弾撥性に屈曲する。かろうじて指は屈伸できるが、曲げた指がスムースに伸びない現象。重度バネ指でなければ、無理に伸展させると、轢音を発し、完全伸展可能。
   
②モーニングアタック出現
夜間就寝中に、無意識に指を屈曲するせいか起床後に指を再伸展させる際に強く痛む。
     
③MP関節掌側部の圧痛・運動痛。腫瘤を触知
  
治療は、腱鞘内への注射(局所にステロイド+局所麻酔剤)。を  

3)第3期 
バネ現象は消失するが、指の完全屈伸はできなくなる。日常生活で非常に支障をきたす。関節拘縮状態。 輪状靱帯の開放手術。手術以外に方法がない。


3.輪状靱帯切開手術

私のバネ指は、第3期となったので、手術しか選択肢がなくなった。

否応もなく平成29年9月15日、輪状靱帯切開術を受けた。腱が肥厚していて、輪状靱帯を切開すると、その輪状靱帯に覆われた部分だけ細くなっていたという。A1靱帯を切除し、A2靱帯入口部分も切ったとのこと(両靱帯を切除することはできない)。手術方法の選択はもちろん医師に一任したのだが、2㎜ほど皮膚切開してガイドナイフを使って腱鞘切開するという新方法でなかった。しかしながら腱鞘を目視して切開できたことが、A1靱帯完全切除、A2靱帯入口の部分切除という臨機応変な対応をとることができた。

膚切開は10㎜ほど手術は正味20~30分で、手術室に入っていたのは60分ほどだった。YouTubeでは簡単に済んだという動画があったが、私も安直に考えていたが、予想外に本格的な手術だった。

輪状靱帯を切除したということは、腱鞘が癒着しやすい状態になったことを意味するので、これを防止するため、術後は母指の曲げ伸ばしをしっかり行うこと、との指導を受けた。
術後2~3時間して麻酔がとれてきた。意外にも母指の可動域は、わずかに改善しただけだっ   たが、母指球に感じていた鈍痛はなくなった。
   
その翌日から、右手に包帯を巻きつつ、鍼灸治療業務を何とか行った。母指を動かす度に傷口に痛みを感じていたが、経過と共にその痛みも軽減した。術後4日目に術後チェックをうけたが経過良好とのこと。

 

 

 

 

術後2週間経て、抜糸を行った。改めて自分で触診すると、傷痕深部にシコリがあり、健側に比べて隆起していることが判明した。熱感と腫脹があることを医師に報告すると、抗生物質を5日間分投与された。抜糸して4日目になった現在、やはり熱感が少々残存している。傷痕内部のシコリも以前として存在している。安静時痛はなくなったが、母指を動かす際、MP関節掌側の痛みを若干感じる。母指IP関節の可動域は手術直後よりも改善した。術前の症状を10とすれば、7程度にはなった。

 母指を伸展すると母指MP関節部が痛むのは、オペ痕部に硬く分厚い皮下組織ができてしまって、それが母指屈筋腱を圧迫するためかと思ったが、触診してみるとオペ痕部が痛むのではなく、オペ痕よりも3㎜ほどIP関節に近い点に強い圧痛を2点発見した。銀粒を持っていなかったので、とりあえず米粒を貼って2カ所の圧痛点にテープ固定してみると、その直後から動作時の鈍痛は軽減したのでびっくりした。これもMPSの一部ということなのか。術前症状を10として3程度に改善した。だが別の痛点が出現してくる。

バネ指手術の症例数が多いことで知られる古東整形外科の「バネ指の手術を受けられた方へ」を読むと、手術後はスッキリと改善しない例もあるが、6ヶ月~1年の経過で、徐々に腫れが引いて、違和感が消失するといった内容であった。輪状靱帯に局麻注射をしても直後に痛みは改善せず、1週間~10日くらい後から徐々に効いてくるという治療経過、手術後後遺症が消えるのは6ヶ月~1年かかることもあるといった術後経過。バネ指は他の疾患と比べて、いろいろユニークな点が多いらしい。

 

 

代表的な薬物灸について ~灸基礎実技講師のために Ver.2.3

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はじめに
東洋療法学校協会編の「鍼灸実技」教科書には、薬物灸の説明が載っている。現在のわが国において、薬物灸を実際に行っている処は非常に少ないのだが、灸基礎実技の担当講師は、不案内なのにも関わらず、立場上薬物灸について一通り説明する必要にせまられる。

薬物灸について簡明に、かつ興味深く、教えるにはどういう内容にいたらよいのだろうか。私が過去に教えた内容を記すことで諸先生方の参考に供したい。2016年1月5日、このような出だしで、「代表的な薬物灸について ~灸基礎実技講師のために Ver.1.3」を記したが、薬物灸それぞれについての成分に対する詰めが緩すぎたようだ。この点を考慮して、書き改めることにした。

 

1.天灸
<カラシナの種により皮膚を発泡させる>
 
主成分は、カラシナの乾燥種子である、白芥子(はくがいし)。白芥子は発泡薬であるが、香辛料ホワイトマスタードの原料としても使われる。粉末にした白芥子を水で調合して練って団子状にし、皮膚に貼って1~3時間放置して発疱させる。主に鼻炎・扁桃炎・喘息など呼吸器疾患患者に対して、座位にして大椎・肺兪・膏肓などを選穴する。現在では香港で広く普及している。白芥子には、発泡とともに発疹・発赤・掻痒などをもたらす。
 
発泡薬とは、血管壁に作用して血管拡張作用があり、皮膚透過性があるので、疼痛・発赤、ついで漿液性滲出をきたし、局所に水疱が生ずる。要するに人為的にⅡ度の火傷を起こさせる。  

 

 

 

 

 

2.漆灸
<生漆により人為的に接触皮膚炎を起こす>
 
漆灸の主原料は生漆で、生漆十滴、これに樟脳油(皮膚にスースーした冷感と清涼感の香り)十滴を調合し、ヒマシ油適宜をよくまぜ、モグサにしみこませて肉池のようにして置き、これを小さい箸先で穴部につけるだけ。
別法として乾漆一匁(もんめ≒3.5g)、ミョウバンン十匁、樟脳5匁、モグサ適宜を粉末にして。黄柏の煎汁につけて、モグサに混和浸潤させ、穴部につけるというのもある。後述する駒井博士の穴村の灸=墨灸というのは、漆灸のことだという。墨灸も漆灸も小児病に多用された。

※生漆による皮膚カブレ反応は遅延性で1~2日後に生ずるが、ごく少量皮膚につけるだけなので、有益な刺激だけになるのだろう。
 

①漆
毎年、初夏から秋口にかけて、漆の木の樹皮に傷をつける。すると乳白色の樹液が染み出てくる。これを掻き出したものを生漆という。生漆を濾過して煮詰めたものが漆である。漆の最大需要は、漆器などの天然樹脂塗料としての用途で、美しい艶がでるようになるとともに耐久性も増す。
    
漆は乾いてしまえば漆は特に問題はないが、乾いていない樹液はかぶれる。このかぶれはアレルギー性接触性皮膚炎を生じたもので、漆が肌の毛穴についた時に皮膚のタンパク質と、漆の主成分ウルシオールが反応して起こる遅延性アレルギーで、漆に触れてから1~2日経ってからカブレ(激しいかゆみ、赤い発疹、水疱)が生じ、1ヶ月近く続く。

②樟脳(カンフル)
クスノキの幹を砕いて蒸すと樟脳ができる。樟脳には爽やかな芳香があり、皮膚の神経の冷感を刺激する(実際の皮膚温は下がらない)。かつては強心剤として樟脳からつくる精油カンフルを用いた(実際には無効だった)ことがある。クスノキの周りには虫がよってこないことから、樟脳は防虫剤としての用途もあった。しかし現在では安価なナフタリンにとって代わった。

③ミョウバン(硫酸カリウムアルミニウム)
温泉にある「湯の花」とは、ミョウバンが固まったもの。雑菌の繁殖を防ぐ作用。防腐作用として食品添加物の用途、制汗剤や静臭剤スプレー成分としての用途。湯船にミョウバンを入れて入浴すると、体脂がとれてすっきりするという。


3.水灸
<皮膚に対する冷感と清涼香>
 
いくつかの薬物に組み合わせがあるが、代表的なのは薄荷、竜脳、アルコ-ルを混和したもの。筆、箸、棒などを用いて皮膚に塗布する。薄荷と竜脳は皮膚に冷感と爽快な香りを与える。ただしこの冷感は、実際に皮膚温を下げた結果ではなく、皮膚神経に「冷たい」という錯覚を起こさせたもの。しかしアルコールを加えることで塗布した部分の気化熱を奪うので皮膚温を下げる作用も多少あるだろう。現在市販されているサロンパスやタイガーバームの作用に似ている。
 
①薄荷(ハッカ)
ハーブの一種の草の葉のこと。l-メントールは薄荷の精油成分。冷  感と清涼な香を付加する。ただし皮膚温度を下げる作用はない。
  
※余談:テレビ番組の<ナイトスクープ>で、「アイヌの涙」という入浴剤を入れると、熱い湯でも冷たく感じるという現象を放映したことがあった。「アイヌの涙」の正体はハッカ油で、湯船に数滴垂らすのが正し方法なのに、多量に使った結果だと分かった。皮膚に対する熱湯刺激と、皮膚の冷感刺激で、脳が見事にだまされた現象であった。 
 
②龍脳
龍脳は、竜脳樹という樹木の幹を砕いて蒸して採取する。龍脳の別名はボルネオールで、ボルネオ島がその由来。皮膚に対する冷感と清涼香を与える。龍脳は、書道で使う墨(すみ)の香料としても知られる。墨の香りは、心が落ち着き、幽玄な雰囲気に浸れる。

 

4.墨灸
<墨の香り龍脳>
 
墨灸とは、生薬エキスに墨を垂らしたものを、ツボに筆などで塗る治療法で、火は使わず、熱さも熱傷跡も皮膚に残らない。幼児・子供の夜泣きや疳の虫、おねしょの治療として普及した。
何種類かの生薬の組み合わせがあるが、以下はその一例。

黄伯(おうばく)を煎じてその液で墨をすり、樟脳、ヨモギなどの生薬を混ぜてできたものを、筆でツボに塗る。スーッとするようなヒリヒリっとした感覚である。
 
琵琶湖湖畔の草津市穴村(温泉で有名な群馬県草津とは無関係)の墨灸は有名で、墨灸のことを、紋状に跡が一時的に付くことから“もんもん”と呼ばれ親しまれ、1日300人多い時に1000人の患者が来院したという
 
①墨
墨の成分である龍脳(ボルネオール)の心落ち着く香り。遠赤外線効果が治効に関係しているという見解もある。
 
②黄伯
樹皮の内側の内皮が黄色のことから命名。主成分はベルベリンで非常に苦く、内服としては下痢止めに使う。大幸薬品の「正露丸」には黄柏を配合している。外用としては、打ち身・捻挫などに用いる。水で練って湿布のようにして貼ると、冷感が得られる。


5.紅灸
<プラセーボ効果としての赤色染料>

紅花(べにばな)は、黄色と紅色の2種の染料がとれる。黄色の染料は、紅花を湯で煮るだけで採取できるので安価で、庶民の衣類を染めるのに用いた。一方紅色の染料を採るには、黄色染料を洗い流した後、水にさらして乾燥させる。これを何度も繰り返すと紅色にするという手間のかかるものだった。この紅色染料は、大変高価なもので、富裕層の衣類や口紅などに用いた。
 
紅灸は、紅花から絞った汁(紅花水)をツボに塗布する。赤色は血の色であることから、古来から生命増強の力があるとされた色で、赤ちゃんの宮詣りや祭りの時、額に紅をつけた。紅灸で、紅花水を使わず、単なる食紅を水で溶いて、使ったという例もあるようで、プラセーボ効果のようでもあった。 
 
※現在、紅灸を製造しているのは、鹿児島の本常盤というところ(販売は丸一製薬)のみ。
実際の紅花水の成分は、紅花の絞り汁の他に、樟脳(冷感と爽快な香り)・チモール(爽快な香り)・トウガラシチンキ(温感)・サリチル酸(血管拡張)・Lメントール(ハッカの有効成分で冷感と爽快な香り)などを含有している。温感成分と冷感成分が両方入っていることで、サロメチール・キンカンを薄めたような刺激感が得られる。


6.総括
 
水灸・墨灸は、血管拡張作用のあるサリチル酸メチルは含まれないが、ハッカ・樟脳・龍脳が含まれ、これにより冷感と爽快な香りを与えることがわかった。要するに、現代でいう冷感湿布であるサロンパスのようなものだろう。ただし実際に皮膚温を下げる効果はあまりない。
 
ポカポカした温感を感じさせるには、ハッカ・樟脳・龍脳に加えてトウガラシ(有効成分はカプサイシン)を配合している。要するに温感湿布にも、冷感成分は入っていて、またカプサイシンによる実際の皮膚温上昇はあまりない。現代の市販薬では、キンカンやサロメチールがこの範疇である。薬物灸でこの範疇に入るものは皮膚に炎症(発赤・掻痒・水疱)を起こすことを狙いとする天灸だろう。ちなみに皮膚温を上げるには、現代ではホカロンなどの使い捨てカイロが手軽である。
 
ユニークなのは、天灸と漆灸だった。天灸は白芥子塗布によりⅡ度の火傷を起こし、水疱をつくる。漆灸は生漆を皮膚にごく少量接触させることで、接触性皮膚炎(発赤・掻痒・水疱)にもっていく意図があるのだろう。 

 

 

勘違いしていた言葉

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1)トートバッグ(tote bag)

東京陶器(TOTO)株式会社の販促用としてつくったバッグのことだろうと思ったが違っていた。持ち手が2本あって口が開いたつり下げカバン。「トート」は、アメリカの俗語で「運ぶ(carry)」、「背負う」を意味する。
元来はキャンプなどの際に水や氷を入れて運ぶことのできる丈夫なキャンバス地などを使って製作された。これまでキャンプ道具に過ぎなかったトートバッグを、最初にファッションアイテムとして目をつけたのはアメリカの大学生で毎日、大量の教科書やノートを持ち歩く彼らは、頑丈で何でも自由に入れることのできる気軽で丈夫なトートバッグに着目した。現在ではショッピングバッグとして広く利用されるに至った。


2)スウィートルーム

甘い部屋sweet roomのことかと思った。高級ホテルや豪華客船の最上級の部屋のことで、一生の記念にハネムーンなどで泊まる部屋かと思った。しかしこの「スウィート」はsweet(甘い)ではなくsuite のことであった。suite とは一組といった意味で背広とズボンのセットのことをさしたり、2部屋以上ある客室タイプということだった。


3)パンケーキ

「パンのようなケーキ」のことだと思ったが、実はホットケーキと同じ意味。ただしわが国では、パンケーキは薄く甘さが控えめで、ベーコンやスクランブルエッグなどとと一緒に食べる食事向きのもの。ホットケーキはお菓子の一種として分類している。
パンケーキのパンとはイギリスなどで使われる重さの単位ポンドのこと。1ポンドの小麦粉・1ポンドのバター・1ポンドの砂糖を混ぜて生地をつくることからの名づけられた。


4)こわもて

「恐いけど、なぜかもてる」ことだと勘違いしていた。つまり顏は恐いが、同時に人間的な魅力があるので花があっていつも周りに人が集まってくるうような人で、俳優でいえば竹内力や哀川翔のような人のことだと思った。しかしこれも漢字を見て間違いに気づいた。強面(こわもて)が省略されたもので他人をおどしつけるようなこわい顔つきのことだった。


5)レセプト・カルテ

医療用語として使われるドイツ語の「レセプト receipt」の和訳は診療報酬明細書のことだが、英語読みでは単なるレシート receiptつまりは領収書である。ドイツ語のカルテKarte の和訳は診療録であるがカルテを英訳するとカードcardで単なる券のことである。英語で診療録をさす言葉は、medical record になる。
かつて戦前・戦中まで日本の医学はドイツを手本としたので、その頃までに入ってきた
医学用語はドイツ語中心だった。戦後は英語が中心となったので食い違いが生じたのだろう。

泌尿器科症状に対する陰部神経刺針の限界

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1.泌尿器科症状して期待はずれの陰部神経刺針

筆者は馬尾性脊柱管狭窄症に対して陰部神経刺針を鍼灸臨床の中で日常的に行っている。馬尾性脊柱管狭窄症の間欠性跛行「5分以上歩くと脚が前にでづらくなる」という訴えに対し、陰部神経刺針をすると、陰部神経支配領域であるペニス・陰嚢・肛門・直腸あたりに響きが得られるので、泌尿器科疾患に対しても陰部神経刺針が有効かもしれぬという思いがあった。そのことをブログにも書いたことで、泌尿器系愁訴をもった患者が遠方からでも来るようになった。
 
陰部神経刺針そのものは、すでに豊富な経験があって、ほぼ確実に針響を陰部にもっていくことができるようになっていた。しかし実際に行ってみると、このことが治療効果につながらないことに気づいた。最近のカルテで該当するものを以下にリストアップしてみる。症例2は陰部神経運動針がある程度効果的だったが、その他の症例は無効といってよく治療1~3回で脱落してしまうことが多かった。

症例1:25才、男。排便時に肛門が開きにくく、大便が出にくい。
症例2:53才、女。会陰痛。会陰がぴくぴくする。脱肛感。
症例3:39才、男。左鼠径部~精索部痛。会陰痛。
症例4:46才、女。左坐骨結節部痛
症例5:52才、男。右陰嚢部痛。
症例6:49才、女。左大腿内側部痛、左坐骨結節部痛。 
症例7:30才、男。肛門奥が突き上げるように痛む

2.陰部神経刺針の真のねらい

糸のような陰部神経に直接命中させることは本来難しいはずである。私がほぼ確実に陰部に針響を導くことが出できると書いたのだが、今思うと実際には緊張状態にある閉鎖膜部分にある内閉鎖筋に針先を入れたのではないかと考えている。というのは、刺針深度を深めていって、響く直前に、そのことを予見できるからで、刺し手に針先が硬い組織に入ったことを感じれるからである。

 

 

3.内閉鎖筋と陰部神経刺激刺針について
 
1)内閉鎖筋の基本事項 
    
内閉鎖筋の起始は、寛骨内面(弓状線下)で閉鎖膜周囲である。途中坐骨結節を越える部分で走行が直角に折れ曲がり、大腿骨転子窩に停止する。作用は大腿骨外旋。上図は、「烏丸いとう鍼灸院」のブログに載っていたものであるが、院長の伊藤千展氏は、泌尿器疾患の鍼灸治療を専門に行っているようだが、私と同じ見方をしていて、治療上の悩みまで共通していることに驚いた。 
 

2)内閉鎖筋の解剖学的特徴と泌尿器科症状の関連
   
内閉鎖筋は小坐骨孔(仙結節靭帯と仙棘靭帯で構成される間隙でその中を内閉鎖筋と陰部神経、陰部動脈が通過)を通過している。この解剖学的特徴により、内閉の緊張によって陰部神経や陰部動脈を圧迫して泌尿器科症状を生ずることがある。
 

3)内閉鎖筋緊張の診察

内閉鎖筋の緊張の有無を調べるには、被験者を側腹位にさせ、坐骨結節の裏側を強く触診す  るようにする。非根性坐骨神経痛や泌尿器症状があれば本筋過緊張を一応疑ってみる。

 

 

 4)陰部神経刺針(内閉鎖筋刺針)の適応
   
陰部神経刺針を行うと、当然ながら陰部に針響を与える場合が多いが、この刺針では小坐骨孔を通過する辺りで、内閉鎖筋を同時に刺激していることになり、泌尿器科症状(仙骨部痛、尾骨痛、直腸肛門痛、括約筋不全、排便障害、下腹部症状泌尿器症状)をもたらすことがある。実際、内閉鎖筋の筋緊張が原因であれば、陰部神経刺針で奏功が期待できるのだろう。
  
しかし症状が、真の泌尿器科臓器の問題に起因するのであれば、陰部神経刺針は症療法にすぎず、あまり効果は得られないだろう。その上、泌尿器症状を訴えて鍼灸に来院する患者は、、それ以前に泌尿器科や婦人科の診察を受けている者が多。こうした医療施設でうまく治療できかったから鍼灸に希望を求める訳で、もともと難症であることが多いのだろう。

 

 

 

 

 

 

 


胸郭出口症候群の針灸治療 Ver.1.5

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 胸郭出口症候群という診断は針灸師サイドではよくつけられるが、整形外科医はあまりつけたがらない。そのその理由をある整形外科医に質問すると、真の胸郭出口症候群であれば、絞扼部位を広げるような手術が必要な筈であり、安静や理学療法で改善するのであれば、その病態は軟部組織障害である。軟部組織障害であれば、通常の頸腕症候群の理学療法と同じなので、あえて胸郭出口と診断する意義はないとのことだった。

ただし針灸治療では、絞扼部位に対するピンポイント治療ができるし、しないと効果があまりないので、正しい治療のために正しい診断が必要となる。
「正しい診断」とは、第1に頸腕症候群との鑑別、第2に胸郭出口症候群所属の頸肋・斜角筋・肋鎖・過外転症候群のどれかという判別である。これら4つの細分化された病名の鑑別は、教科書(国家試験問題)的には理学テストで判別することになっている(本当は理学テストだけでの判別は無理だが)。

1.胸郭出口症候群の概要

1)定義
胸郭出口部における腕神経叢と鎖骨下動静脈の絞扼障害をいう。かつては頸腕症候群に分類されたが、現在では独立した症候群になる。

2)症状

上肢の痛み、上肢のしびれ・だるさなど。
①上肢の痛みは、ピリピリ、ジリジリといった灼熱様で末梢神経分布に従う。
※神経根症状では、デルマトームに従った知覚鈍麻が起こる。
②鎖骨下動静脈も圧迫されるので、上肢は冷えを伴うことが多い。
※神経根症状では、血管症状は伴わない
③ルーステスト(3分間挙上テスト)陽性

2.胸郭出口症候群の分類

2.胸廓出口症候群の分類 

絞扼部位により、次の4つに細分化される

 1)頸肋症候群
第7頸椎横突起が延びて肋骨化した先天性奇形。低頻度。上肢やその付け根の上肢帯の運動や感覚を支配する腕神経叢は、頚神経から第8頚神経と第1胸神経から形成されるが、頚肋がある者は、第4頚神経から第8頚神経根から形成されることが多い。
腕神経叢の神経絞扼障害が生じる。鎖骨下動脈が絞扼されるか否かは場合により異なる。鎖骨下静脈は圧迫を受けない。

 



2)(前)斜角筋症候群
 斜角筋裂隙(前斜角筋、中斜角筋、第1肋骨で囲まれた部位)を腕神経叢と鎖骨下動脈が走行している。前斜角筋緊張のため、これらの神経と動静脈が絞扼された状態。鎖骨下静脈は絞扼されない。
 モーレーテスト(+)、アレンテスト(+)、アドソンテスト(+)


3)肋鎖症候群
鎖骨と第1肋骨の間隙から、腕神経叢と鎖骨下動静脈が出て、上肢に向かっている。この間隙が狭くなることにより、神経血管絞扼障害を起こした状態。低頻度。
 エデンテスト(+)

4)過外転テスト(小胸筋テスト)
小胸筋と肋骨間の間隙を腕神経叢と鎖骨下動静脈が走り、上肢へと向かっている。上腕外転時に、小胸筋の烏口突起停止部で、腕神経叢と鎖骨下動静脈が絞扼された状態。 ライトテスト(+)

3.胸郭出口症候群の針灸治療
上肢症状が知覚鈍麻でなく、知覚過敏であり、上肢痛のみ訴え、で頸痛がない場合には、胸郭出口症候群を疑う。理学テストはルーステスト以外はあまり信頼性がなく、ルーステストは実施に時間がかかるので、圧痛点の所在から診断し、即治療院とする方が実際的であろう。

なお1980年頃から、胸郭出口症候群の98%は、神経系圧迫の問題であって、血管圧迫の病態はわずかだとする認識に変化した。脈の消失を診るテスト(ライトテストやアドソンテスト)の有用性は否定されている(健常者でもよく陽性になる)

私の経験によれば、胸廓出口症候群の中の、前斜角筋症候群が大半であり、たまに過外転症候群も来るといった印象である。前斜角筋症候群の診断のためには、モーレーテストを使用し、過外転症候群の診断には、中府穴圧痛の有無を調べる。ともに神経圧迫テストで、該当部を圧迫すると筋緊張を感じ、やや強く押圧すると上肢に電撃様の神経痛が放散することで確定診断している。

1)前斜角筋症候群

前斜角筋症候群では、前斜角筋部(天鼎穴に相当。刺針には高い技術が必要)に刺針して置針10分を行う。頸を健側に精一杯回旋さたせると斜角筋か伸張された状態になり、この状態で刺入すると、上肢症状部に響きを与えやすい。

※天鼎位置:学校協会教科書では、喉頭隆起の高さの胸鎖乳突筋中に扶突穴をとる。扶突の後下方1寸で胸鎖乳突筋後縁に天鼎穴をとる。しかし斜角筋や腕神経 叢を刺激するには、中国式天鼎の位置の方がよい。中国式では、甲状軟骨と胸鎖 関節の中点の高さで、胸鎖乳突筋の後縁から下方1寸とする。すなわち中国式は 教科書と比べ、2寸ほど下になる。

天鼎刺針の体位について最近一つの工夫をしている。患側上の側臥位にし、患側の腕を腰に回す(五十肩検査時の結帯動作のように)。また顏を下になっている肩関節方向になるべく向けるようにする。この体位をさせることは、斜角筋をある程度ストレッチ状態にする目的とともに、天鼎刺針時に患者の肩関節が邪魔にならないようにするという目的もある。


2)過外転症候群

過外転症候群であれば中府穴から直刺し、大胸筋を貫き、その深部にある小胸筋部硬結まで刺入して置針10分を行う。なお症例によっては天鼎と中府ともに圧痛がある場合があるので、両者に置針10分することもある。小胸筋の反応をみるのは必ずしも容易ではないが、患側上肢を挙上させ、手掌で頭頂を触って固定した状態にさせると小胸筋はストレッチされているので、圧痛の有無を判断しやすい。圧痛点に刺針すると上肢症状部に響きを与えやすい。

※中府位置:中府は教科書では第2肋間で前正中から外方6寸とある。実際には気胸を避けて小胸筋を刺激する目的で、烏口突起の内方1.5㎝、下方1.5㎝を刺入点として直刺するとよい(深刺しても気胸の心配がない)。最近では、前記の中府穴ではなく、烏口突起の頂から1寸内方から直刺した方が、上肢に針響を与えやすいことを発見した。


3)追加すべき治療

側臥位にて頸椎一行からの深刺置針10分を行うと、さらに成功率が高まることを感じる。前記の頸椎の前枝だけでなく、後枝の治療も必要となる場合が実際的には多いようだ。それ以外の治療(たとえば患側上肢症状部に対する刺針)は必要がない。


 

平成30年1月4日柳谷素霊先生墓に参拝

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平成30年1月4日、現代鍼灸科学研究会の同志5名とともに、柳谷素霊先生のお墓に参拝した。柳谷素霊墓は、東京都東村山市の都立小平霊園にある。西武線の小平駅北口下車、徒歩5分で霊園の入口に到着、その後園内を5分ほど歩いて到着した。
墓石は、右から「柳谷家奥津城」と「柳谷素霊/妻正子奥津城」の二基で、正面右側に墓誌があった。奥津城(おくつき)というのは神道独特の表現で仏式でいう「‥‥之墓」といった意味である。神道では戒名がないので、墓石には生前の氏名が刻まれる。
早速生花をお供えしようとすると、数日前にお供えしたと思える生花が既にあった。新年早々参拝した方がいたということだ。墓前には線香置き場がなかった。これも神道の流儀ということを後に知った。
参加者一人一人、手を合わせた。



墓石文章
墓誌に刻まれた文章は現代文なので理解しやすいものだった。
明治39年北海道函館市に生まる。藉名清助。幼少より父祖の道を習い17才にして鍼灸を得古典鍼灸医学の研究に専心昭和2年素霊塾を創設後進の育成と古典鍼灸医学の研ざんに一生を捧ぐ
昭和6年日本大学法文学部宗教科卒業 学士の称号を受く。
昭和7年アメリカ合衆国カンサス州立大学医学部に論文提出ドクターの称号を受く
昭和11年日本高等鍼灸学院を創立
昭和30年欧州各国の針灸界の招聘に應え日本最初の鍼灸医学の指導者として渡欧
昭和32年東洋鍼灸専門学校を創立
昭和34年2月20日再度渡欧を前にして病歿す 享年52才





当日午後3時30分頃に墓前に到着したのだが、墓石方向を見ることは西側に顏を向けるということになるが、冬の今頃はちょうどモロに逆光になってしまった。写真撮影には非常に苦労した。冬の間は昼頃までに参拝されるのがよいだろう。
 

椎間関節性腰痛と筋々膜性腰痛の針灸 再整理 Ver.1.2

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下肢症状のない腰痛の針灸治療の代表的疾患といえば、椎間関節性腰痛と筋々膜性腰痛であろう。両疾患はともに、痛みの直接原因が脊髄神経後枝にあるという共通性があり、症状も紛らわしい部分がある。これらに対して現代針灸はどのようなアプローチをすればよいのだろうか。かつて解剖学的針灸という単語はあったが、現代針灸という単語はなかったように記憶している。確かに三十数年前は、「単に何々筋が緊張しているので、そこに刺針して緩めたので症状改善した」という以上の内容がなかった。一歩一歩ではあるが、現代針灸も進歩を続けているようだ。

 

1.椎間関節性腰痛

1)病態生理
 
急激な腰胸の動きで関節包内の関節滑膜が挟まり関節包炎症  → 椎間関節部の圧痛(+)
                   ↓
脊髄神経後枝内側枝に興奮伝達   →  背部一行(棘突起外方5分)圧痛(+)
                   ↓
脊髄神経内側枝の興奮が後枝外枝にも伝達  →  外下方45°方向に痛み放散、同部位に撮痛(+)

2)針灸治療

側臥位または伏臥位にて、2寸4番程度の針を用い、棘突起外方1.5㎝あたり(=椎間関節部)から骨に当ら深刺直刺し、骨に当てる。針先を骨にぶつけて数秒間タッピングを続けると、症状部に至る針響を得ることができる。(技量必要)

 註釈:脊髄神経後枝の皮膚走行

脊髄神経後枝の内側枝と外側枝は、約60°の角度で外下方に走行して皮膚知覚を支配していると主張しする文献( ScientificRwserch Open Acsess HP)がある。デルマトームの背腰部神経支配の分布の縞模様は、せいぜい30~45°なので、60°という角度は受け入れ難いかも知れない。 
しかしの60°というのは、撮診を行った結果であって、筆者の実感でもある。ただそうするとデルマトームの知識との整合性に無理があるので、あえて本稿では45°とした。

 


2.筋々膜性腰痛

1)病態生理

背腰部の過伸展や捻転で椎体間の急な位置変化
                   ↓
とくに短背筋群のトリガー活性   → 背部一行(棘突起外方5分)圧痛(+)
 (棘突起直側の深部筋)
                   ↓           
脊髄神経後枝内側枝の興奮が後枝外枝にも伝達  →  外下方45°方向に痛み放散、同部位に撮痛(+)


※註釈:ダメージを受けやすい筋とは

不正動作により突発的に生ずる痛みは、大腰筋、腰方形筋、短背筋群(=回旋筋群、多裂筋、半棘筋)の問題らしい。これらの筋群は、腰椎に直接付着しているという共通点がある。短背筋群の長さは短く、したがって起始と停止間が短いので、脊椎捻挫の際に衝撃を受け流すことが難しいので筋ダメージを受けやすい。

   

2)針灸治療

①夾脊刺針

短背筋群の筋筋膜症に対して実施。側臥位にせしめ、3~5番程度の針で、症状部から内上方45°の圧痛ある棘突起直側から深刺し、短背筋群中まで刺入。普通は症状部に至るような響きはない。


②志室外方から横突起方向に深刺:大腰筋、腰方形筋 

詳細については原稿を改めて説明する。上図で大腰筋や腰方形筋に対する針は、筋を直接狙わず、腰仙筋膜深葉を直接刺激している。これは、筋肉よりも筋膜の方が痛覚感受に富むことによる(もっとも筋肉も筋線維一本一本が筋膜に包まれているので、純粋に筋肉刺激と筋膜刺激を分けることはできない)。針灸治療においては、筋硬結中に針先が命中するようにもっていくことが重要である。筋硬結中に針先が達すると針響が得られる。

 
3.T4症候群(椎間関節性腰痛特殊型)

T4症候群とは、カイロプラクティック分野の概念なので、医学的にはマイナーだが参考にはなる。胃に神経を送り胃の働きを制御している中部胸椎Th4,5,6の中でもTh4の背骨が神経関節機能に障害をきたすことで、胃の働きに影響を及ぼ症状が出現するのだという。主に「逆流性食道炎」がその特徴だという。

横隔膜は、その中心部がC3~C4神経支配で、辺縁部がTh7~Th12肋間神経支配であることが知られている。胃は内臓としては知覚過敏な方だが、横隔膜と比べれば鈍感なので、我々が胃症状と思っている心窩部痛は、実は横隔膜過敏症状であることが多いだろう。
熟練を必要とするがTh6~Th7棘突起外方1.5㎝から深刺して椎間関節に針先を当てて、数秒間タッピングすると、針響はあたかも胃に響いているような感じを与えることができる。先のT4症候群いうのは、この現象のことを示しているのかも知れない。
 

 

 4.メイン Maigne 症候群(椎間関節性腰痛特殊型)

胸椎腰椎接合部症候群のことでMaigneが提唱した。胸腰椎移行部(Th12/L1棘突起間)の椎間関節捻挫に伴う後枝興奮のこと。臨床上高頻度である。胸椎間は回旋の可動性があるが、腰椎間は屈曲伸展の可動性はあっても回旋可動性はない。上体を大きく回旋した場合、Th12/L1棘突起間の椎間関節に強い力学的ストレスが加わることになる。上殿皮神経が圧迫を受けて発症。上殿皮神経とはL1~L3脊髄神経後枝外側枝の別称である。

上殿痛・大腿外側~大転子部痛・鼠径部~陰部痛という3つの領域の痛みを起こす。腸骨稜の辺りに圧痛が出る。上殿皮神経の走行を調べるには撮診法が利用できる。

上記症状に対しては、Th12棘突起下直側の夾脊または椎間関節刺で再現痛が得られ、直後から痛み軽減することが多い。

 

 

 

 

 


 

胸椎椎間関節症のアドバンス針治療

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 1.背部一行刺針の限界

2016年6月1日に<胸椎椎間関節症には針が一番>と題したブログを発表した。

側腹位で胸椎椎間関節症に対して、胸椎の一行線に刺針すると一般的によい効果があげられることが多い。しかしながら直後効果は良くても数日経つと元にもどるケースがあったり、治療数回目まで順調に改善していても、それ以上治療回数を重ねても治療効果が頭打ちになるケースがあったりした。これが針灸の限界なのかとも思ったが、あれから一年半が経ち、背部一行刺針に運動針を併用することが打開策になるらしいことが判明したので報告する。


2.短背筋群の構造と性質

 

 短背筋には多裂筋、長短の回旋筋、頭頸胸の半棘筋がある。その位置と機能は次のようになる。なお浅部筋である背部の起立筋は背腰部運動の主動作源であるのに対し、短背筋はそこまでの力はなく、動作時の脊柱のアラインメントを調和させる役割がある。起立筋は長いので予期しない外力が働いても力を上手に逃がしやすいのに対し、短背筋は起始停止間が短いので、まともに力を受け止めることになる。

1)多裂筋
腰椎・仙椎の高さで発達している。腰椎は椎間関節刻面の形状から、左右回旋の可動性に乏しく、前後屈の可動性がある。つまりは前後屈の動作で生ずる腰背痛は多裂筋に原因があるだろう。仙椎は癒合して一つになっているので、仙椎の椎間関節症はあり得ず、仙椎部の痛みは多裂筋性の痛みであるといえる。

2)胸椎部の短背筋は、長・短の回旋筋が発達している。胸椎は左右回旋方向の可動性に富み、前後屈の可動性に乏しい。左右回旋のための筋力は、この長・短回旋筋によるものだろう。

3)半棘筋の「半」とは脊柱上半分(Th10)以上にあるという意味であり、頭・頸・胸部で発達している。腰部には存在しない。半棘筋は上図をみると胸半棘筋は胸椎部にも発達している回旋よりも前屈背屈に関係している。半棘筋の役割は重い頭を動かすためのものだろうと考えた。寝違え時には後頭部や後頸部を治療するだけでなく、上背部一行が効果あるのはこのためだろう。その反面、胸半棘筋は背腰痛には関わりが少ないのではないだろうか。


3.背部一行刺針に運動針法を加える

胸椎部症状に対しては、立位で背部一行刺針しままま左右に上体をひねるよう指示すると治療効果が高くなる。またL5腰椎~仙椎症状には、立位で背部一行に刺針したままおじぎをするよう指示すると、治療効果が増す。キャスター付きの椅子に座らせて、上体を左右に回旋するよう指示すると、椅子が回ってしまうのでうまくいかないので注意。

   

 

内臓疾患に対する針灸治療の私見

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私が平成29年12月22日に発表したブログ<泌尿器科症状に対する陰部神経刺の限界>をみて、最近「初心のはり士」氏が、驚くべきことに数回にわけて自分の見解を示している。この内容は私のブログ内容とは直結していないが、内容はうなずかされる点が多い。これに対する私の直接の返答ではないが、内臓疾患に対する私の見解を示しておくことにしたい。内容的には過去ブログのダイジェストである。


1.現代鍼灸流の内臓治療の原則

内臓機能は主に自律神経によって調整されている。自律神経には交感神経と副交感神経がある。交感神経優位支配内臓では、交感神経節を仲介して脊髄神経に反応が出ている場合、該当内臓に所属するデルマトーム領域の起立筋や腹直筋の緊張部位を治療点に選ぶことになる。
 しかし肺・気管支と骨盤内臓器は副交感神経優位であって、デルマトーム反応が現れない。その内訳は、肺・気管支は第10脳神経である迷走神経中に含まれる副交感神経により、骨盤内臓器である泌尿器臓器は骨盤神経になる。



2.肺・気管支症状に対す鍼灸治療
 
ゆえに、鍼灸治療の基本的考え方として、肺・気管支疾患の症状は、副交感神経の活動を低めること、すなわち交感神経を興奮させることで症状緩和が図られるので、座位にして大椎や治喘への強刺激を与えることが理にかなっている。
以上は原則的な理論構成なので、実際の疾患に対しては思惑通りの効果を上げられるとは限らない。たとえば気管支喘息に上背部への強刺激を与えるのが良いとしても、同部位に伏臥位で浅鍼置針をすると、呼吸困難になるかといえば、そうも言い切れない。補瀉を間違えたら症状が悪化するのなら鍼灸医療過誤が多発することだろう。治療は過誤が強刺激するとその時は症状改善するが、その晩喘息症状出現するというケースもある。


3.骨盤内臓症状に対する鍼灸治療 
 
骨盤内臓は骨盤内臓神経という副交感神経優位の神経がコントロールしている。骨盤内臓はS2~S4からなるので、これを刺激するには八髎穴(とくに中髎)を刺激点とするのが妥当である。副交感神経の優位過剰が症状をもたらしているのであれば、八髎穴に強刺激を与え、交感神経興奮させることで相対的に副交感神経の鎮静化を図る。副交感神経支配が弱くなりすぎるのであれば、八髎穴に弱刺激を与えることで副交感神経を活性化させるということになる。実際の臨床では骨盤内臓が副交感神経優位になりすぎていると解釈して、八髎穴に強刺激を与えることが多いようである。そして研究報告では、八髎穴刺激が功を奏したという結論になることが多い。しかし実際問題として、泌尿器科症状を呈する疾患に対して鍼灸治療を行っても、当ブログへコメントを下さった<初心のはり士>が指摘するように症状が改善しないケースは非常に多いというのも現実なのである。

鍼灸が体性神経症状に対して効果的なことは自明であるが、内臓疾患に対して、本当に鍼灸は効果があるのだろうか。それは臨床研究における「変化」ではなく、金銭を支払って鍼灸にかかった患者にとって、その金銭以上のメリットを与え得るのだろうか。

筆者のこれまでの経験から鍼灸は自律神経がからんだ症状にはあまり有効でないとの印象をもっている。たとえば慢性肝炎、慢性腎炎などの難病ではもちろんだが、過敏性腸症候群あるいは常習性便秘など機能性疾患に対しても、ゼニを受取って治療を請負うほどの自信はないのである。しかしながら腎盂腎炎による側腹部痛や胆石による中背痛など中空臓器の痙攣による痛みには、これを大幅に軽減する力をもっている。


4.体性神経性の内臓症状に対する鍼灸治療

数は少ないが内臓症状に有効な鍼灸治療もあって、それが内臓にありながら体性神経支配であるという例外がある。その体性神経とは横隔神経と陰部神経である。その証拠として横隔神経は呼吸運動に関与するが、呼吸は一時的なら我慢することができる。陰部神経は知覚・運動両方の線維をもつ。その運動線維成分だが、肛門や外膀胱括約筋を意志によりある程度制御できるので、大便や小便が我慢することができ、社会生活が可能になるのである。
陰部神経の知覚成分は、膀胱炎や切痔の痛みに、そして生理痛に関係している。
 胃症状に対しては、肩井・巨闕など横隔神経を刺激して胃症状の治療にあたる。生理痛は陰部神経の鎮痛を図る目的で八髎穴を刺激するようなものである。切痔にたいしても肛門周囲を刺激すると鎮痛効果が得られることが多い。

 

 

 

膝痛患者における鶴頂圧痛と内外膝眼圧痛の相違点

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筆者は、2018年1月26日のブログ「立位で膝関節症の治療をすることの意義」で、膝痛患者に対し、立位で膝関節周囲縁の圧痛を探り、圧痛部に速刺速抜刺法を行う技法を提案した。このやり方は、2ヶ月ほど臨床に使ってみて、非常に効果の高い治療法らしいことが分かった。また自分なりの見解もできたので、ここに整理することにした。

 

1.刺針体位の変更

刺針体位をベッド上での立位から、ベッド傍での立位に変更
以前のブログではベッド上に立たせて刺針すると記した。これは患者を自分の側に向かせて刺針することを考えた末の結果だった。間もなく患者を自分と反対側に向かせて刺針する方法に変更した。これによって施術者の腕や手首で患者の大腿部をしっかりとホールドできるようになり安定感が増した。ただしこの方法では、あえてベッド上に立たせなくても、ベッド方向を向かせて床に立たせるだけで、膝蓋骨周囲に刺針できることに気づき、この2週間前から、この方法に変更した。この方が、患者にとってさらに不安感は少なくなる。隣のベッドにいる患者を覗かれるという不安もなくなる。

 

2.鶴頂圧痛と内外膝眼圧痛の病態の相違点 

立位で膝蓋骨周囲の圧痛を探してみると、膝蓋骨の下半分、とくに内膝眼・外膝眼に圧痛を多く触知できることが判明した。それは仰臥位で膝蓋骨周囲の圧痛を探った時には発見できなかったもので、発見できたとしても、圧痛点の位置が微妙に異なっていた。

なお私は数年前から、仰臥位膝屈曲位で、膝窩骨上縁の四頭筋停止部の圧痛を探して刺針することを行い、非常に良い治療効果が得られている。歩行時の膝痛軽減するほか、とくに膝が深く屈曲できるようになり、なかには正座ができるようになるケースもあった。鶴頂穴刺針とは、大腿四頭筋とくに大腿直筋の起始部刺激になる。このことは2017年11月15日のブログ「膝OAに対する針灸臨床 Ver.2.0」で発表済である。

そうなると次の疑問は、規定された肢位で行う内外膝眼刺針と、鶴頂刺針の相違である。この2者は、一つの病態を別の角度から診ているだけなのだろうかという思いもあって、現在当院に通院中の膝痛患者十人ほどを調べてみた。すると鶴頂に圧痛があって内外膝眼に圧痛がない者がいて、鶴頂に圧痛がなく内外膝眼に圧痛がある者がいた。少数ながら両部位とも圧痛のある者もいたのだった。この結果から、内外膝眼圧痛が意味する病態と、鶴頂圧痛が意味する病態は別物らしいことに気づいた。


これはどういう病態生理からだろうか。私は鶴頂穴の圧痛は、四頭筋が短縮して伸張力低下の状況を診ている。また内外膝眼の圧痛は、四頭筋の収縮力低下による膝蓋骨位置の下垂、それに伴う大腿膝蓋関節の不適合具合を診ていると考えている。

私の鍼技法と現代鍼灸治療 背腰殿痛・膝関節痛を例に<講演予定>

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私はこの度、鍼灸学会Tokyoで、講演することに決まりました。内容はほとんど私のブログで紹介していることばかりですが、現代鍼灸で多用する鍼技法を厳選していること、また120分と十分な講演時間を確保されていることで、これまで伝えきれなかった内容を紹介できるのではないかと思っています。実際に実技を見たい方、直接疑問を私にぶつけたい方など宜しければご参加下をお待ちしています。

 

日月:平成30年4月15日(日曜)

時間:午後1時30分~午後4時40分 

(午後1時~1時30分 鍼灸学会Tokyo平成30年度通常総会)

場所:東大医学部図書館3階 大講堂

参加申込み:鍼灸学会tokyo まで(インターネットで検索して下さい)参加費も良心的に設定されています。

内容:
開業鍼灸師の通常業務は<常見の症状に対し、当たり前のように鍼灸治療を行い、普通り治す>というであろう。この場合、当たり前の治療というのは、当然ながら自分なにベストの治療を行うことだが、その時はベストだと思っていた治療ではあるが、臨床験を積んでいくほどに以前と違った進化した治療となっていくのは当然である。その進は、科学的思考方法をもって構築されるべきである。現代鍼灸は、未完成の学問ではあが、より実効性のある治療方法へと変更を重ねることで、学問としての有用性を高めてた。今回、35年間の私の臨床により、到達した現代鍼灸を、常見疾患である背腰殿痛膝痛を題材として、説明するとともに実技を供覧します。

 なお通常の講義では、症状→所見→病態把握→鍼灸治療考察→実際の治療という順序説明するだろうが、今回は端的に鍼灸技法を紹介するため、治療技法自体と、この技法使用条件という2点に絞ってザックリと説明することにした。

A.腰背痛の治療技法
 ①背部一行刺鍼(仙椎部含む)
 ②大腰筋刺鍼と腰方形筋刺鍼

B.殿部痛の治療技法
 ③梨状筋刺鍼(坐骨神経ブロック点刺鍼)
 ④横座り位での中・小殿筋刺鍼 
 ⑤陰部神経刺鍼と内閉鎖筋刺鍼
 ⑥股関節徒手牽引
 ⑦仙腸関節運動鍼

C.膝痛の治療技法
 ⑧仰臥位膝屈曲位での鶴頂(大腿直筋停止部)刺鍼
 ⑨立位膝伸展位での膝蓋骨周囲刺鍼
 ⑩鵞足浅刺
 ⑪膝立位での膝窩筋(委中)刺鍼


奇経八脈の宗穴の意味と身体流注区分の考察 Ver.1.7

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1.十二正経の概念図
 
筆者は以前、十二正経走行概念の図を発表した。

 http://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/bac628918882edd51472352adefd6924/?img=0084a878810483f1998c462abef9281b

これと同じ内容をさらに単純化した図を示す。この図の面白いところは、赤丸の内側は胸腔腹腔にある臓腑で、鍼灸刺激できない部位。赤丸び外側は手足や体幹表面で鍼灸刺激できる部位となっているところである。鍼灸の内臓治療の考え方は、赤丸外の部位を刺激して赤丸内にある臓腑を治療すること、もしくは体幹胸腹側もしくは体幹背側から表層刺激になる。これは兪募穴治療のことである。

 

 

 2.奇経の八脈と宗穴

1)奇経の基本事項

上記十二正経絡概念図をベースとして、これに奇経走行を加えてみることにした。
始めに奇経に関する基本中の基本を確認しておく。奇経八脈はそれぞれ次のような宗穴をもっている。この治療点は次の奇経の二脈をペアで使い、4パターンの治療をすることになる。( )は宗穴名。

陽蹻脈(申脈)---督脈(後谿)
陰蹻脈(照海)---任脈(列缺)
陽維脈(外関)---帯脈(足臨泣)
陰維脈(内関)---衝脈(公孫)


2)福島弘道の提唱した新たな四脈と宗穴  
 
福島弘道氏は、従来の奇経八脈の宗穴治療だけでは不十分だとして4脈を加え、次の2パターンを付け加えることを提唱した。福島がなぜこのような事柄を思いついたのかを探ることが奇経を理解するヒントになる気がした。

足厥陰脈(太衝)--手少陰脈(通里)
手陽明脈(合谷)--足陽明脈(陥谷)


3)十二正経走行概念図への追加事項

1)前図に奇経八脈の宗穴を描き加えてみる。つまり十二經絡上に8つの宗穴を描くことになるが、4經絡は宗穴が存在しない。

2)そこで改めて福島の提唱した4新宗穴をさらに描き加えると、十二經絡上にそれぞれ一つの宗穴が載ってくる。

①肺経(列缺)、②大腸経(合谷)、③胃経(陥谷)、
④脾経(公孫)、⑤心経(通里)、⑥小腸経(後谿)、
⑦膀胱経(申脈)、⑧腎経(照海)、⑨心包経(内関)、
⑩三焦経(外関)、⑪胆経(足臨泣)、⑫肝経(太衝)

3)ペアとなる宗穴を点線で結ぶことにする。陽経ペアは赤色、陰経ペアは青色を使うことにする。
 
<陰経ペア>
①肺経(列缺)--⑧腎経(照海)
⑨心包経(内関)-④脾経(公孫)
⑤心経(通里)--⑫肝経(太衝)  ※福島提唱
 
<陽経ペア>
②大腸経(合谷)-③胃経(陥谷)   ※福島提唱
⑥小腸経(後谿)-⑦膀胱経(申脈)
⑩三焦経(外関)-⑪胆経(足臨泣)

 

 

4)奇経走行概念図

上に示した正経と奇経の総合概念図は、内容が込み入っていて、直感的に把握しにくいので、本図から、正経走行を取り除いてみることにする。奇経は臓腑を通らないので臓腑も取り除いてみることにした。

 

 

するとかなりシンプルな図が完成した。きちんとループを描いたが、奇経の8宗穴+合谷と陥谷を使った場合ということであって、これが奇経治療になるかは少々疑問である。というのも、使っているのは正経をショートカットしたルートだからである。


3.手足の八宗穴を使うことと奇経流注の謎

上図は、症状に応じて定められた手足の一組の要穴を刺激することで治療が成立することを示すものだが、この方法は奇経治療以外にも行われている。手足の陰側と陽側それぞれにある定められた12の要穴を使った治療は、1970年代に発表された腕顆針(日本名は手根足根針)が知られている。この図を見ると、手を上げた立位の状態で縦縞模様に区分されている。

 

 

奇経治療は、八つの奇経を組み合わせて使うのが原則なので、4パターンの治療になるが、同じような縦縞模様となっている図に、「ビームライト奇経治療」というものがあることをネットで知ることができる。

 

 http://seishikaikan.jp/blkikei.htm

 

4.新しい奇形流注図

縦割りの考えで奇経を眺めると、体幹と頭顔面の中央に、陰側に任脈があって背側に督脈がまず存在している。任脈のすぐ外方には陰蹻脈が伴走し、さらに陰蹻脈の外方に陰維脈が縦走している。督脈のすぐ外方には陽蹻脈が伴走し、陽蹻脈の外方には陽維脈が縦走しているといった基本構造がまず想定されている。一方、衝脈と帯脈は、流注構造では反映されていないようだ。

これまで鍼灸治療の治療チャート図は、頭針であれ耳針であれ、高麗手指針であれ、ある日突然完成形が提示され、その理論の正しさを、実際に治療効果がみられたとすることで読者を説得してきたが、論理的とは言い難く、知的満足感も得られない。自分にできる方法として、現実どうしてそう考えるのかの、思考過程を順序立てて明らかにすることで、その間違っているかもしれない部分を指摘できるようにすることが重要だろう。

これまでいろいろなことを考えてきたが、①手足の八つの宗穴で、定められた手足のペアとなる宗穴を結んだ図を描く。
②衝脈と帯脈の走行は無視するが、衝脈の宗穴である公孫、帯脈の宗である足臨泣は。各ペアとなる陰維脈ならびに陽維脈の流注における足部代表治療点として位置づける。以上の2点を重視し、私の考える奇経走行図を示したい。手足のペアとなる宗穴は連続してつながっている必要があるが、本図では背部の陽維・帯脈の流れは、肩甲骨によって上下に分断されていることになる。しかしながら、陽維・帯脈は、肩甲骨・肋骨間を上行している、つまり立体交差していると考えれば、納得いくものとなるだろう。

衝脈と帯脈は、他の奇経と同列に論じられない。というのは、ともに婦人病に関与するという共通点があり、衝脈の病証は月経異常に、帯脈は、腹部の脹満、臍から腰周りの痛みで、女性では帯下などが起こるとされている。要するに、この二脈の病証は、女性の初潮から閉経の期間に限定されるからである。

 

 

 

 

 

 

石川日出鶴丸著の要点

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石川日出鶴丸 原著 倉島宗二 校訂 昭和51年5月1日 日本針灸皮電学会刊


1.米占領軍の針灸按等医療類似行為禁止令に抵抗した石川日出鶴丸
 石川日出鶴丸は、東京帝大医学部卒で、京都帝大で教授となり、生理学教室を主催し、そこで求心性自律神経二重支配法則を発見して注目を浴びた。また東洋の伝統医学である針灸についても深い関心を示し、その治効原理と經絡経穴の本態の解明に着手した。その研究は、京都帝大から三重医専校長に移ってからも引き続き転回され、針灸の臨床面まで手を拡げた。昭和18年には鍼灸臨床の研究グループ龍胆会を主催した。

 龍胆会会員は、主座:石川日出鶴丸、幹事:藤井秀二、郡山七二、清水千里、代田文誌ほか11名というそうそうたるメンバーだった。
 昭和22年、米占領軍は、日本の医療制度審議会に対し、針灸按等医療類似行為の禁止令が伝えられたが、その一方で米占領軍当局代表者のアイズマンは、著明は針灸研究者として石川教授を選び、針灸の学理的根拠の有無に関して十二項目にわたって質問し、さらに臨床実験を臨検して興味をいだくようになり、代表者アイズマン自らも針治療を受けて満足した。その結果、米占領軍の針灸禁止命令は、再教育の実施という条件つきで解除された。ご子息の石川太刀雄は、父君の研究をさらに発展させ「内臓体壁反射」を発見した。

 本書は石川日出鶴丸が、針灸医学者でない本邦の一般の医学者に針灸医学の大要を説明するためにまとめられた。内容は基本的であるが、そうだったのかと感心させられる知識が所々に見受けられた。ここではそうした記載を紹介する。


2.中国伝統医学の欠点
 中国伝統医学の考え方を、徹底的に学理的に批判すると、信用できないものとなる。いろいろとこじつければ、こじつけられないでもないが、それは屁理屈にすぎない。実に狭い経験から組み立てた理論をもって、それが妥当性を有するや否やを実験的に吟味しないで無理に一般的に適用しようと試み、理論の権力をもって強制的に押しつけてしまったので、はなはだしい誤解に陥っている。
 かくして事実を誤るのみか学問の発達を妨げたことは、その罪のまことに大いなるものがあるが、これに類似にことは西洋の医学史の中にも現れている。それゆえに西洋医学はある見方をすると、医学者から起こらないで理髪者や屠獣者の中から起こったと解されないでもない。しかし彼らでが医学をどうすることもできなかったと同様に、古代中国医学は決して排斥すべきものでなく、之を正しい道に導くように改造せねばならない。それを正しく改造するように読み直すことが、私は中国の医書を読むコツだと考えている。


3.陰陽における太陽、厥陰の意味合い 

陰陽にはそれぞれ三段階がある。陽は太陽・少陽・陽明に区分できるが、陽明とは太陽と少陽を合わせた状態であって、陽の全発する姿である。
陰には太陰・少陰・厥陰があるが、厥陰とは陰気の最も甚だしい太陰と少陰の合わせた状
おころがあるが、厥陰とは陰気の最も甚だしい太陰と少陰の合わせた状態で、陰が尽きる状態であるかようだが、支那の語で「尽きる」とは尽滅根絶の意味ではない。たとえば易に「碩果(せきか)不食」(大いなる樹果ありて食らわず)という言葉がある。手の届くところにある枝に実っている果実は食べられてしまうが、高い枝の先端の実は最後まで食べられずに残っている。この実はやがて地面に落ちるが、やがて実の種から発芽して、再びつながって発展していくといった内容である。




4.心包の相火とは 

心を君火とすれば、心包は相火(しょうか)である。相火とは宰相の「相」のことである。元来、宰相とは中国の王朝において皇帝や王を補佐する最高位の官吏を指したのが始まりで、内大臣に相当した地位だった。宰相は戦後に首相という名前に変わった。すなわち相の中の代表が首相という意味である。
「相」のの語源は「木+目」で、「木の種類や樹齢を丁寧に目で観察する」ことからきていいて、それが「人を見る」という意味に変わった。いわゆる人相であって、顔の美醜や好き嫌いではなく、「人間として持って生まれた性格、その後の育ち方、自分の律し方、多くの人を正しく指導できる本質」を見ることをいう。


5.心の役割 
心が憂えると心包の相火が宣(よろこ)ばない。心が喜ぶと相火が甚大となる。心は喜憂などの心情の宿るところで、今日の「こころ」と同じ意味である。ただし心は君主のように、じっとしているものなので、心情の変動は心包の働きによっている。ゆえに「心包は臣使の官なり喜楽出づ」と唱えられている。
 筆者註釈:理性をつかさどるのは脳であって、心ではない。心拍数を変化させる情動こそ心の機能である。なお脳を起点として体幹四肢に至る流れを、nerveといい、解体新書では神経と訳出した。神とは意識のことである。



6.三焦は「決瀆の官、水道これより出ず」とは
「瀆」には、①水路を通す溝(=用水路)と、②けがすという意味(冒瀆といった表現)の2つの意味がある。これは用水路に、どぶの水を流すことで、汚くするという着想から成り立っている。「決」は、堤防が決壊するという場合の決で疏通するという意味。すなわち 決瀆とは、用水路の水を流すという意味で、それは三焦の役割だとしている。
 三焦とは体温を一定内に保持する役割があり、体温維持との環境下で初めて他の臓腑の生理的機能が営まれる。上焦は霧のように、中焦は瀝(したたたり)のように、下焦は瀆(大≒排水路)のごときという表現がある。
 筆者註釈:この意味するところは、蒸し器内部を想い浮かべるとよい。上焦である蒸し器上部は、熱い水蒸気に満たされていて、下焦である蒸し器下部には熱湯がある。中焦部にすだれを置き、そこに食物を置けば、蒸されて軟らかくなる。蒸し器で温めるということは、食物の成分が下に滴りおちるので底の湯も汚れていくる。この液体としての水が水蒸気となり、冷やされて再び水に戻るという循環を「水道」とよぶ。水道には水を尿として排泄するという意味もある。



 

 

5.白い生命・赤い生命

 中国医学によれば、陰陽の気が凝ってできたものが気または血で、気は空気や水蒸気のようにガス体であり、血はその凝縮して液体となったものであると定義している。
中国医学でいう血とは、動脈血・静脈血のほかにリンパ液その他の体液をも含めていうのであろう。我々が吸う空気や吐き出す空気や水蒸気も気である。呼気とともに水蒸気が吐き出されて冬季などでは白い霧となるのを見て、中国民族は白い生命と名付けていた。
同様に彼らは動脈血や静脈血を見て、赤い生命と名付けていた。
生命の根本である流れるエキスが気体または液体になっているということである。この霊気霊液のエキスは、血管の中および外を流れているとした。血管の外も流れるという点が中国医学独特の考え方である。
血液が全部体外に流出して体内に血液が乏しくなると死亡してしまう。同様に白い生命がでなくなって呼吸運動が止まると死んでしまう。
 血液が流れる管を血管とよぶが、血管にも静脈と動脈の区別がある。動脈はこれに触れると脈搏を感じるが、静脈ではこれを感じない。つまり脈管壁自体が動くか動かないかによって動脈または静脈を区別した。動脈を流れ出た血液は、砂原に水を注ぐ陽に動脈から身体組織の中に浸みこむと考えた。




平成30年1月4日柳谷素霊先生墓に参拝

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平成30年1月4日、現代鍼灸科学研究会の同志5名とともに、柳谷素霊先生のお墓に参拝した。柳谷素霊墓は、東京都東村山市の都立小平霊園にある。西武線の小平駅北口下車、徒歩5分で霊園の入口に到着、その後園内を5分ほど歩いて到着した。
墓石は、右から「柳谷家奥津城」と「柳谷素霊/妻正子奥津城」の二基で、正面右側に墓誌があった。奥津城(おくつき)というのは神道独特の表現で仏式でいう「‥‥之墓」といった意味である。神道では戒名がないので、墓石には生前の氏名が刻まれる。
早速生花をお供えしようとすると、数日前にお供えしたと思える生花が既にあった。新年早々参拝した方がいたということだ。墓前には線香置き場がなかった。これも神道の流儀ということを後に知った。
参加者一人一人、手を合わせた。



墓石文章
墓誌に刻まれた文章は現代文なので理解しやすいものだった。
明治39年北海道函館市に生まる。藉名清助。幼少より父祖の道を習い17才にして鍼灸を得古典鍼灸医学の研究に専心昭和2年素霊塾を創設後進の育成と古典鍼灸医学の研ざんに一生を捧ぐ
昭和6年日本大学法文学部宗教科卒業 学士の称号を受く。
昭和7年アメリカ合衆国カンサス州立大学医学部に論文提出ドクターの称号を受く
昭和11年日本高等鍼灸学院を創立
昭和30年欧州各国の針灸界の招聘に應え日本最初の鍼灸医学の指導者として渡欧
昭和32年東洋鍼灸専門学校を創立
昭和34年2月20日再度渡欧を前にして病歿す 享年52才





当日午後3時30分頃に墓前に到着したのだが、墓石方向を見ることは西側に顏を向けるということになるが、冬の今頃はちょうどモロに逆光になってしまった。写真撮影には非常に苦労した。冬の間は昼頃までに参拝されるのがよいだろう。
 

椎間関節性腰痛と筋々膜性腰痛の針灸 再整理 Ver.1.2

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下肢症状のない腰痛の針灸治療の代表的疾患といえば、椎間関節性腰痛と筋々膜性腰痛であろう。両疾患はともに、痛みの直接原因が脊髄神経後枝にあるという共通性があり、症状も紛らわしい部分がある。これらに対して現代針灸はどのようなアプローチをすればよいのだろうか。かつて解剖学的針灸という単語はあったが、現代針灸という単語はなかったように記憶している。確かに三十数年前は、「単に何々筋が緊張しているので、そこに刺針して緩めたので症状改善した」という以上の内容がなかった。一歩一歩ではあるが、現代針灸も進歩を続けているようだ。

 

1.椎間関節性腰痛

1)病態生理
 
急激な腰胸の動きで関節包内の関節滑膜が挟まり関節包炎症  → 椎間関節部の圧痛(+)
                   ↓
脊髄神経後枝内側枝に興奮伝達   →  背部一行(棘突起外方5分)圧痛(+)
                   ↓
脊髄神経内側枝の興奮が後枝外枝にも伝達  →  外下方45°方向に痛み放散、同部位に撮痛(+)

2)針灸治療

側臥位または伏臥位にて、2寸4番程度の針を用い、棘突起外方1.5㎝あたり(=椎間関節部)から骨に当ら深刺直刺し、骨に当てる。針先を骨にぶつけて数秒間タッピングを続けると、症状部に至る針響を得ることができる。(技量必要)

 註釈:脊髄神経後枝の皮膚走行

脊髄神経後枝の内側枝と外側枝は、約60°の角度で外下方に走行して皮膚知覚を支配していると主張しする文献( ScientificRwserch Open Acsess HP)がある。デルマトームの背腰部神経支配の分布の縞模様は、せいぜい30~45°なので、60°という角度は受け入れ難いかも知れない。 
しかしの60°というのは、撮診を行った結果であって、筆者の実感でもある。ただそうするとデルマトームの知識との整合性に無理があるので、あえて本稿では45°とした。

 


2.筋々膜性腰痛

1)病態生理

背腰部の過伸展や捻転で椎体間の急な位置変化
                   ↓
とくに短背筋群のトリガー活性   → 背部一行(棘突起外方5分)圧痛(+)
 (棘突起直側の深部筋)
                   ↓           
脊髄神経後枝内側枝の興奮が後枝外枝にも伝達  →  外下方45°方向に痛み放散、同部位に撮痛(+)


※註釈:ダメージを受けやすい筋とは

不正動作により突発的に生ずる痛みは、大腰筋、腰方形筋、短背筋群(=回旋筋群、多裂筋、半棘筋)の問題らしい。これらの筋群は、腰椎に直接付着しているという共通点がある。短背筋群の長さは短く、したがって起始と停止間が短いので、脊椎捻挫の際に衝撃を受け流すことが難しいので筋ダメージを受けやすい。

   

2)針灸治療

①夾脊刺針

短背筋群の筋筋膜症に対して実施。側臥位にせしめ、3~5番程度の針で、症状部から内上方45°の圧痛ある棘突起直側から深刺し、短背筋群中まで刺入。普通は症状部に至るような響きはない。


②志室外方から横突起方向に深刺:大腰筋、腰方形筋 

詳細については原稿を改めて説明する。上図で大腰筋や腰方形筋に対する針は、筋を直接狙わず、腰仙筋膜深葉を直接刺激している。これは、筋肉よりも筋膜の方が痛覚感受に富むことによる(もっとも筋肉も筋線維一本一本が筋膜に包まれているので、純粋に筋肉刺激と筋膜刺激を分けることはできない)。針灸治療においては、筋硬結中に針先が命中するようにもっていくことが重要である。筋硬結中に針先が達すると針響が得られる。

 
3.T4症候群(椎間関節性腰痛特殊型)

T4症候群とは、カイロプラクティック分野の概念なので、医学的にはマイナーだが参考にはなる。胃に神経を送り胃の働きを制御している中部胸椎Th4,5,6の中でもTh4の背骨が神経関節機能に障害をきたすことで、胃の働きに影響を及ぼ症状が出現するのだという。主に「逆流性食道炎」がその特徴だという。

横隔膜は、その中心部がC3~C4神経支配で、辺縁部がTh7~Th12肋間神経支配であることが知られている。胃は内臓としては知覚過敏な方だが、横隔膜と比べれば鈍感なので、我々が胃症状と思っている心窩部痛は、実は横隔膜過敏症状であることが多いだろう。
熟練を必要とするがTh6~Th7棘突起外方1.5㎝から深刺して椎間関節に針先を当てて、数秒間タッピングすると、針響はあたかも胃に響いているような感じを与えることができる。先のT4症候群いうのは、この現象のことを示しているのかも知れない。
 

 

 4.メイン Maigne 症候群(椎間関節性腰痛特殊型)

胸椎腰椎接合部症候群のことでMaigneが提唱した。胸腰椎移行部(Th12/L1棘突起間)の椎間関節捻挫に伴う後枝興奮のこと。臨床上高頻度である。胸椎間は回旋の可動性があるが、腰椎間は屈曲伸展の可動性はあっても回旋可動性はない。上体を大きく回旋した場合、Th12/L1棘突起間の椎間関節に強い力学的ストレスが加わることになる。上殿皮神経が圧迫を受けて発症。上殿皮神経とはL1~L3脊髄神経後枝外側枝の別称である。

上殿痛・大腿外側~大転子部痛・鼠径部~陰部痛という3つの領域の痛みを起こす。腸骨稜の辺りに圧痛が出る。上殿皮神経の走行を調べるには撮診法が利用できる。

上記症状に対しては、Th12棘突起下直側の夾脊または椎間関節刺で再現痛が得られ、直後から痛み軽減することが多い。

 

 

 

 

 


 

胸椎椎間関節症のアドバンス針治療

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 1.背部一行刺針の限界

2016年6月1日に<胸椎椎間関節症には針が一番>と題したブログを発表した。

側腹位で胸椎椎間関節症に対して、胸椎の一行線に刺針すると一般的によい効果があげられることが多い。しかしながら直後効果は良くても数日経つと元にもどるケースがあったり、治療数回目まで順調に改善していても、それ以上治療回数を重ねても治療効果が頭打ちになるケースがあったりした。これが針灸の限界なのかとも思ったが、あれから一年半が経ち、背部一行刺針に運動針を併用することが打開策になるらしいことが判明したので報告する。


2.短背筋群の構造と性質

 

 短背筋には多裂筋、長短の回旋筋、頭頸胸の半棘筋がある。その位置と機能は次のようになる。なお浅部筋である背部の起立筋は背腰部運動の主動作源であるのに対し、短背筋はそこまでの力はなく、動作時の脊柱のアラインメントを調和させる役割がある。起立筋は長いので予期しない外力が働いても力を上手に逃がしやすいのに対し、短背筋は起始停止間が短いので、まともに力を受け止めることになる。

1)多裂筋
腰椎・仙椎の高さで発達している。腰椎は椎間関節刻面の形状から、左右回旋の可動性に乏しく、前後屈の可動性がある。つまりは前後屈の動作で生ずる腰背痛は多裂筋に原因があるだろう。仙椎は癒合して一つになっているので、仙椎の椎間関節症はあり得ず、仙椎部の痛みは多裂筋性の痛みであるといえる。

2)胸椎部の短背筋は、長・短の回旋筋が発達している。胸椎は左右回旋方向の可動性に富み、前後屈の可動性に乏しい。左右回旋のための筋力は、この長・短回旋筋によるものだろう。

3)半棘筋の「半」とは脊柱上半分(Th10)以上にあるという意味であり、頭・頸・胸部で発達している。腰部には存在しない。半棘筋は上図をみると胸半棘筋は胸椎部にも発達している回旋よりも前屈背屈に関係している。半棘筋の役割は重い頭を動かすためのものだろうと考えた。寝違え時には後頭部や後頸部を治療するだけでなく、上背部一行が効果あるのはこのためだろう。その反面、胸半棘筋は背腰痛には関わりが少ないのではないだろうか。


3.背部一行刺針に運動針法を加える

胸椎部症状に対しては、立位で背部一行刺針しままま左右に上体をひねるよう指示すると治療効果が高くなる。またL5腰椎~仙椎症状には、立位で背部一行に刺針したままおじぎをするよう指示すると、治療効果が増す。キャスター付きの椅子に座らせて、上体を左右に回旋するよう指示すると、椅子が回ってしまうのでうまくいかないので注意。

   

 

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