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ベル麻痺の予後推定と針灸治療

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1.ベル麻痺の病態生理

 ①幼少の頃の単純ヘルペス感染の既往
    ↓
 ②成人になり免疫力低下時、膝神経節内で単純ヘルペスウイルスの再活性化。顔面神経の炎症。
    (膝神経節内での帯状疱疹ヘルペスウィルス感染は、ハント症候群になる)
  ↓ 
 ③顔面神経浮腫とくに顔面神経管の骨トンネルによる絞扼。神経内毛細血管の虚血。
    ↓
 ④麻痺発症
  
一昔前までベル麻痺の真因は不明ながら、循環障害説とウィルス説が存在したのだが、現在では上記のようにウイルス感染による顔面神経管内の顔面神経浮腫が原因とされるようになった。
  
※単純性疱疹とは:単純ヘルペスウィルスによる。幼少の頃に感染するが、神経細胞に潜み込んで症状の出ないことも多い。免疫力低下すると皮膚に症状出現する。1型は唾液から感染、口唇部のヘルペスとなる。2型は性行為から感染し、外陰部や殿部のヘルペスとなる。終世免疫ではなく、何度も感染する。


2.症状と顔面障害部位
  

顔面神経管内のどのレベルで顔面神経の浮腫が生ずるかにより、顔面神経本幹の他に、顔面神経や伴走する中間神経から分岐した神経枝が圧迫されて機能障害を起こす。顔面神経管内の奥側であるほど、多彩な障害を呈することになる。しかしだからといって自然治癒しにくいかといえば、そうともいえない。

 

※末梢性顔面神経麻痺では、顔面神経管内の障害部位が末梢に近いほど症状の種類は少なくなる。
顔面神経管の直径は、管の上部~膝神経節部あたりの直径は1㎜、茎乳突穴附近で直径2㎜と非常に細いので、浮腫に脆弱。

3.予後の推定
 
一般的に発症してすぐに針灸を求める患者は少ない。医療施設で治療を続けるも、発症後7~10日間は目立った効果が現れなないので不安になり、針灸にも通院してみようかと考えることが多いと思う。  
 
予後良好の場合は3週問以内に回復が始まり8割は自然治癒する。」とされているので、発症1~2週後に針灸に来院すれば、タイミング的に自然回復時期に針灸治療を行っていることになり、患者には針灸治療でベル麻痺が治ったような印象を与えることがある。まあこのことは針灸院の営業上、有利fなことであろう。 
 
その一方で残り2割は速やかには麻痺は回復せず、長い日とで半年以上、そして麻痺が残存する。では8割の早期回復者と2割の回復に時間がかかる者の事前予想はどのようにすべきなのだろうか? 実はこれも分かっていて、発症7~10日で予後判定可能なNET(電気生理学的検査)検査が、予後の目安となるという。

NETは、顔面神経本幹または分枝を電気刺し、顔面表情筋の収縮度合をみるもので、収縮が観察できる最小閾値と健側を比較する。これは針灸臨床で用いられることの多い低周波治療器をで代用可能である。顔面神経数カ所に直接刺針し、そこにパルスを流すようにする。健常者に行えば、顔面表情筋の攣縮が観察できる。しかし顔面神経に鍼が命中していない場合、表情筋攣縮はほとんど生じない(やむなく通電電流量を一定以上に上げると刺痛を訴えることになる)。

2.医療施設での治療
 
1)初期治療

病医院での治療は、発病当初は入院による副腎皮質ステロイドの10日間大量点滴療法を行う。これは生体のエネルギー利用を助ける作用がある。局所的には抗炎症作用、浮腫軽減作用)。抗ウィルス剤が使われることも多い。これは単純疱疹ウィルスの死滅を目的としている。入院不能な場合は外来によるステロイド内服漸減療法12日間が標準治療となっている。
麻酔科医は連日の星状神経節ブロックを推奨している。顔面部交感神経機能を遮断 →相対的に副交感神経機能を更新させる →顔面血流量を増加して自然治癒力を高める増強されるとの観点からだが、効果を証明するに足るエビデンスに乏しい。
 
2)予後不良者の治療

治癒まで3ヶ月以上かかると判定された場合、病的共同運動(4ヶ月以降:たとえば閉眼すると口が動き、口を開閉すると眼も閉じる)やワニの涙現象(食物を食べると涙が出る。これは唾液を出そうとすると涙腺分泌が刺激される)が出現しやすい。
   
漠然と様子を眺めるのではなく、ステロイド追加投与さらには顔面神経管開放術(圧迫された顔面神経の周りの骨を取り除く手術)を行うこともある。

 
3.ベル麻痺の針灸治療
  
発症直後1週間程度は、医療施設でステロイド大量投与治療が行われるのが普通である。針灸 のよくいわれる自然治癒力増強作用が、副腎皮質ホルモン分泌増強によるものだとすれば、この 時期に行う針灸治療効果は乏しいものとなる。代田文彦先生がよく話してくれたのは、ステロイド多量投与が針灸の効果を削ぐのか、ステロイド多量投与しなければならないほど重度の疾患だから針灸が効果ないのか、という内容になる。

1)顔面表情筋刺激  
麻痺表情筋に刺針する。顔面表情筋は皮筋なので、浅刺し、血行回復目的で10~20分間置針する。かつては針に低周波をつないだものだが、現在では筋攣縮しないほど高い周波数で通電するか、または単なる置針するかになる。 低周波刺激をすることによって後遺症が重症化(病的共同運動=閉眼すると口の周りが動く、口を動かすと が閉じるなど)する可能性があることが専門医から警告されている。努力して顔面麻痺筋を動かそうとする訓練も推奨されていない。逆に病的共同運動プログラムが助長される。(本来的には正しい分離運動プログラムが発達すべき)

単なる置針と置針通電との効果の違いは不明である。それ以前に、針をしてもしなくてもベル麻痺の回復に違いがあるかもハッキリしていない現状がある。
現在の私は、刺針部位や刺針深度を確認する目的で、刺柄に一時的に低周波を通電して筋攣縮を起こすべく刺針深度や角度を試行錯誤し、針先が顔面神経に当たっていることを確認後、低周波を通電せずに置針10~20分程度するという方法をとることが多い。 

2)顔面神経刺激

①顔面神経本幹部治療点
顔面神経の顔面部走行は、翳風部から起こり、耳垂の直下を通り、顔面部に扇型に広がる。 私は、扇型に広がる手前の軸に相当する顔面神経幹部の部として、翳風穴と耳垂が顔面に付着する部の中央(深谷流難聴穴)の2点に10~20分間の置針を行うことが多い。 
 
※直刺2㎝では舌咽神経の分枝の鼓室神経(鼓膜の知覚支配)に命中し耳中に響く。難聴耳鳴の治療 に使う。

②顔面神経の主要分枝に対する治療点   
主要枝は、側頭枝・頬骨枝・頬筋枝・下顎縁枝・頚枝である。耳下腺自体は顔面神経の支配を受けない。耳下腺の分泌を司るのは舌咽神経。


                                            
・とくに顔面上半分→下関・客主人
 頬骨弓中央の下縁陥凹部。直刺。パルス通電しながら深度を少しずつ深め、唇や頬が最も振動する処に針を留める。
   ※深刺すると、咬筋→外側翼突筋に刺入され、三叉神経の第2枝または第3枝に当たる。
・顔面神経全枝→頬車・大迎

  

 

   

 

 


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