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Channel: AN現代針灸治療
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新・耳鳴の針灸治療 鼓室神経刺激と顔面神経下顎縁枝刺激 Ver.1.1

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1.耳鳴に対する鼓室神経刺針と治効機序  

1)耳鳴に対する鼓室神経刺激とは

筆者はこれまで、体性耳鳴に対して針灸治療が効果的であることを説明してきた。ムチウチ後遺症や顎関節症に付随した耳鳴は、顎関節関連筋や胸鎖乳突筋の緊張を緩めることが耳鳴の治療につながるということである。
 
ただし耳鳴患者の中には、顎関節症や頸椎症状がないのに耳鳴を訴える者がいる。このタイプの耳鳴には、耳そのものへの治療が必要で、筆者は下耳痕穴をその治療点として掲げた。
 
耳中に響かせる針をするには、下耳痕穴(≒柳谷素霊の一本針である完骨移動穴、もしくは深谷伊三郎の難聴穴)から1~2㎝直刺刺針が一定の価値のあることはすでに説明済である。それは舌咽神経(主に舌奥や咽頭の知覚支配)の分枝である鼓室神経(中耳~鼓膜の知覚を支配中耳知覚支配)を刺激するからである。
※下耳痕穴位置:中国では耳垂つけね部に耳痕という新穴が制定されている。その下方5㎜。

 

 

 下耳穴刺針で、鼓室神経を刺激する意味は、中耳炎等による中耳痛に適応があるらしいことは推定できるが、それだけでなく耳鳴や難聴などの内耳症状にも効果あるらしい。その旨を耳鳴で来院している一人の患者に説明すると、
<玉突き>にような作用だとの返答が得られた。実に分かりやすい理解なのだが、医学的説明とはいえない。 

 

2)蝸牛神経は、延髄で三叉神経、顔面神経、迷走神経、舌咽神経でつながっている 
 
下耳穴刺針で耳中に響かせることが、なぜ耳鳴や難聴に効果があるのかは、専門家の解釈を待たねばならないのだが、ネットで色々と調べていくうち、次のような解釈があること分かった。
 
耳鳴は難聴と同様に蝸牛神経障害であるが、延髄において蝸牛神経背側核は、体性神経核とつながっている。この体性神経核は中耳と外耳を支配している三叉神経、楔状束、顔面神経、迷走神経、舌咽神経に枝を送っている。すなわち上記の脳神経は耳鳴は関係があると考える学者がいる。要するに、耳鳴に対しては、三叉神経、顔面神経、迷走神経、舌咽神経を刺激することが治療につながる余地があるということらしい。(Byung In Han MD  他 Tinnutus:Characteristics,Causes,Mechanism,and Trearment TheJou rnal of Clinical Neurology 2009;5:11-19) 

①蝸牛からの交通枝は、顔面神経・三叉神経・ 舌咽神経・迷走神経などと交流している。この結果、顔面麻痺時にみるアブミ骨筋反射(大きすぎる音は中耳に入れない)や、三叉神経(第1枝の瞬目反射←角膜知覚支配)などの現象がみられることになる。

②耳鳴りと顎関節症(三叉神経第3枝の咀嚼筋緊張)との関係も指摘できる。   

③三叉神経第Ⅲ枝の分枝である耳介側頭神経は、側頭部皮膚知覚を支配しているだけでなく、外耳道知覚、鼓膜知覚、顎関節知覚にも関与してい る。これは顎関節症によ り二次的に外耳道や鼓膜 症状が出現することを示唆している。筆者は針灸 臨床上、顎関節症を治す ことが耳鳴軽減につなが ることを多く経験している。


3.顔面神経下顎縁枝刺激(佐藤意生先生の臨床実験)
(佐藤意生「顔面神経下顎縁枝刺激による耳鳴の抑制」耳鼻科臨床98:11,2005より)

1)考え方
聴覚路の比較的末梢(蝸牛、聴神経)で発生したと推測される異常なインパルスが中枢に送られ、これを耳鳴として感じとると考えている。そうであれば、この異常なインパルスを中枢経路のどこかで蝸牛神経への交通枝を通して他の神経からのインパルスによってブロックできれば、耳鳴は軽減するはずである。佐藤意生(耳鼻科医)はこのように考え、感音性耳鳴患者の顔面神経下顎縁枝に経皮的に反復電気刺激を与える試みを実施した。

2)刺激方法
具体的には顔面神経下顎骨底中央部の皮膚表面に陽極、その2.5㎝上方に陰極の円形表面電極(直径0.7㎝)を装着、パルス低周波刺激を与えた。周波数は初めは1ヘルツの筋収縮がみられる閾値の強さまでとし、患者に耳鳴の軽減具合を聴取しつつ、耳鳴が軽くなったと返答するまで徐々に周波数を上げた。耳鳴が軽減したと答えた場合、その周波数で2分間持続的に刺激を与えた。最高50ヘルツまで上げ、それでも耳鳴に変化ないものは治療中止した。

3)治療成績
①有効率
頭鳴を除く耳鳴患者91例中、耳鳴が5/10以下に減少した者は47例(51.6%)、6/10~8/10に減少した者は34例(37.4%)、9/10~10/10に止まった者28例(11.0%)だった。 
②有効となる周波数と刺激強度
この治療が有効だった者に与えた周波数は、2~30ヘルツと人によって異なっていた。
なお閾値以下の刺激では、改善は得られなかった。
③治療効果の持続性
治療有効だった者(53例)の持続効果は、1週間以内に元に戻ったのは43例(81.1%)、このうち、持続効果2~3日だった者は17例(32.0%)だった。ただし4週間経過後におても耳鳴が以前より軽いと答えた例も5例(9.4%)あった。

4)考察
蝸牛神経は、眼神経や頸神経とともに顔面神経に反射経路をもっている。この具体例としては、アブミ骨筋反射(大きすぎる音は中耳に入れない)や瞬目反射(角膜分布の三叉神経刺激で瞬目が起こる)、ガラスを爪で引っ掻くような音がした場合、顔面表情筋の収縮がみられるなどがある。
要するに顔面神経を刺激することで、蝸牛神経の異常を抑制しようと試みた。
 
ただしその一方では、三叉神経と蝸牛神経間、そして三叉神経と顔面神経間にも反射経路があるともいわれるので、今回の顔面神経下顎縁刺激による耳鳴抑制効果は、顔面神経に与えた刺激だけでなく、三叉神経も大きく関与している結果になる。 

 

 

4.まとめ

佐藤意生先生の耳鳴に対する顔面神経下顎縁枝刺激刺激点は、経穴でいうと陽極が大迎、陰極が頬車の位置に相当すると思う。これは筆者の提唱する刺激点である下耳痕の近傍であることにまず驚かされた。確かに下耳痕から刺針すると、浅層で顔面神経を刺激(針響は生じない)し、深層で舌咽神経鼓室神経を刺激するので、筆者は鼓室神経刺激が耳鳴に有効と思っているが、実際は顔面神経刺激が有効なのかもしれない。たたし筆者は佐藤意生先生のように低周波刺激を行っていないので、当然顔面表情筋の攣縮も起こらない。その一方で、佐藤先生は2分間程度の刺激時間なのに対し、筆者は30分以上置針しているという違いがある。


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