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痔疾の鍼灸治療(改定版)

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このブログを初めて間もない頃の、2006年4月に、<痔疾の鍼灸治療>を発表済みである。今読み返してみると独自性に乏しく、面白みのないものだったので削除し、書き直すことにした。

                                 
1.痔疾の基礎的原因

肛門部における炎症を起こす攻撃因子が、肛門周囲の免疫力を上回った場合に痔となる。攻撃因子としては排便異常とくに便秘があり、免疫力低下因子としては疲労・ストレス・冷え・飲酒などがある。痔核・痔瘻・裂肛が、痔の三大疾患になる。

基本的訴え:内痔核→出血、外痔核→排便時痛、裂肛→排便時痛、痔瘻→痒み
※痔を「ぢ」と書くのは誤りで、正しくは「じ」である。


2.痔核(いぼ痔)

1)病態生理
人間は直立するので、静脈環流は四足動物より悪くなる。とくに直腸~肛門管の静脈(上・中・下直腸静脈)には静脈弁がないため、粘膜下の内痔静脈叢が鬱血し、静脈瘤を形成しやすい。排便痔の肛門周囲の静脈叢伸縮→静脈血管の弾性消失→静脈鬱血(血栓)という機序で痔核となる。                   


2)分類と症状
痔核は歯状線を境として外痔核(少数)と内痔核(大部分)に大別され内痔核の方が圧倒的に多い。歯状線から内側は腸粘膜なので知覚はない。ゆえに内痔核は痛むことはないが、圧迫されにくい部なので出血は止まりにくい。内痔核は1度(軽度)~4度(重度)に細分化される。歯状線から外側は陰部神経の知覚支配なので、外痔核は痛むが、圧迫される部位なので出血は止まりやすい。 

※脱肛とは直腸や肛門の一部が肛門外に脱出することで、内痔核が進行して、それを覆っている粘膜ごと肛門外に脱出した状態である。
※アルコールを飲むと痔が悪化するというのは、静脈腫の血流が良くなり、腫瘤が拡大するため。かつて上直腸動脈から肝臓に行く静脈血液量が問題視されたが現在は否定されている。

3)現代医学的治療


 
①内痔核

1度:温罨法や鎮痛座薬治療

2度:内痔核硬化療法。注射薬であるALTA(商品名:ジオン注)を内痔核に注射して、核内に流れ込む血液量を減らして痔を硬くし、直腸粘膜に癒着固定させる。注射は内痔核(知覚がない)部    に行うので、痛むことはない。2~3日の入院が必要。

3度以上:結紮切除術。腰椎麻酔下で、内痔核に注入動脈を根元の部分でしばり、痔核を放射状に部分的に切除。1〜2週間程度入院が必要。
※昔の内痔核の手術は、ホワイトヘッド手術といい、痔核だけでなく、周囲の肛門上皮も全てリング状に取り除いてしまうものだった。この手術は非常に痛いため、患者に怖れられていた。  後遺症として腸の粘膜が、かなり手前まで下がってくる脱肛状態となり後遺症も問題だった。
 

②外痔核:硬化療法が使えないので、局所麻酔して痔を切開摘出。 


2.痔瘻

1)病態生理
肛門小窩(歯状線の凹んだ部分)に糞便が付着
→炎症を生じて肛門周囲に膿が溜まり非常な痛みと発熱(=「肛門周囲膿瘍」状態)
→膿疱が破れて後、管状の空洞(瘻管)ができる
→この瘻管から細菌侵入し炎症を惹起する。

2)症状:肛門掻痒感、下着が汚れる
3)現代医学治療:管の入口と瘻管を切除する手術以外にない。針灸不適応。


3.裂肛(切れ痔)

1)病態生理
排便の際の肛門部外傷。とくに硬い便をいきんで排泄する際に生じやすい。破れるのは歯状線と肛門縁間にある1.5㎝くらいの部位。
 排便時刺激による会陰神経の興奮
 →内括約筋の痙攣
 →これがトリガーとなりさらに陰部神経興奮し続ける。

2)症状と現代医学的治療
排便時の激痛と出血。排便後もしばらく続く痛み
外傷程度が軽い場合は便を軟らかくしておけば自然治癒する。
しかし硬い便を繰り返し出すと同じ部位が何回も切れ、肛門潰瘍となり肛門が狭くなり、このためさらに切れやすくなるという悪循環が生じる。この場合には潰瘍部分の切除が必要。


4.痔疾の針灸治療方針

痔瘻は鍼灸不適応。裂肛は自然治癒することが多く、一方再発を繰り返して肛門が狭くなった重症者は手術しかないので、針灸の出番は少ない。軽度裂肛なものは自然治癒するので鍼灸に来院せず、重度な裂肛は手術が必要なので鍼灸不適応である。鍼灸適応は痔核だけである。

痔核は肛門周囲に分布する静脈鬱血を改善させ、併せて肛門挙筋(陰部神経運動支配)の過緊張を緩め、肛門付近の皮膚を知覚支配している陰部神経興奮を緩和する方針で行う。

1)内痔核に対して強外方3㎝から直刺深刺

 

骨外端に長強穴をとり、そこから外方3㎝。直刺で2寸ほど深刺すると肛門挙筋中に入る。この刺針は肛門静脈叢にも影響を与え、静脈鬱血を改善さえるさようもある。普通は10分間程度置針する。置針していると肛門の緊張が解け、温まった感じがする。

この刺針は、肛門静脈叢、肛門神経(陰部神経の分枝)、肛門挙筋の三者に影響を与え得る。肛門が気持ちよく温まり和らいだ感じが得られる。

※外痔核の場合、肛門を見ると静脈瘤が観察できる。その部分に直接施灸すると、大変熱いが、よく効くという文章を見たことがある。

2)陰部神経刺針
外肛門括約筋の運動と肛門部知覚を支配するのは陰部神経なので、陰部神経ブロック点から直刺8㎝して肛門に針響を得る。其の後5~10分置針。
 
3)痔疾の特効穴の検討

①孔最
昔から、痔には孔最の灸をとるとされていた。なぜ孔最なのかについて、三島泰之氏は、おもしろいことを書いている。「痛みを我慢する姿勢は、歯を食いしばり、上下肢を含め全身に力を入れた状態になる。昔の排便スタイルはでは、膝を相当窮屈にまげた姿勢で、手は自然と結ばれ、前腕は屈筋に力が入った姿勢となる。前腕屈筋群では、孔最穴あたりから手首に向かって一番力が入った状態になる。痔の痛みの中での排便のポーズは、この延長上である」(「今日から使える身近な疾患35の治療法」医道の日本社刊 2001年3月1日出版)。
これと同種のものだが、小宮猛史氏は、実体験から排便困難時に排便姿勢をしつつ両側の合谷を押圧しながらイキむと大便が出やすくなると書いている。(同氏ブログ「JTDの小窓」より)
孔最や合谷の刺激を有効にするには、仰臥位で施灸するのではなく、坐位で強く手を握りしめた肢位で行うべきなのかもしれない。

②百会
<痔には百会の灸>という知識は鍼灸師なら誰でも知っている。整体観の立場からみて興味深いことなのだが、実際に効くことはマレなので、実際の患者に対して施術する者は少数だろう。ただし代田文誌は、「鍼灸治療基礎学」の中で、百会の灸は痔疾・脱肛効くが、脱肛には効かぬことがあると記す一方、石坂宗哲は、百会は小児脱肛に効くと記している。


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