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弾発肩甲骨症候群、肩峰下滑液包炎、指関節軋轢時の関節音鳴りの対処法

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肩関節や肩甲骨を動かすたびに、ゴリゴリ・ポキポキといった音が鳴る者がいる。音の鳴る部位より弾発肩甲骨症候群や肩峰下滑液包炎に大別できる。これと関連はないが、指関節がポキポキ鳴る性癖についても説明する。

1.弾発肩甲骨症候群  Snapping scapula syndrome 

1)病態

肩関節や肩甲骨を動かすたびに、ゴリゴリ・ポキポキといった音が鳴る者がいる。これを弾発肩甲骨症候群とよぶ。音のみであれば骨がすり減るなどの問題にまでに進行しないのが普通だが、本人が気にする場合も多々ある。
弾発肩甲骨症候群は、肩甲下滑液包炎の一部である。肩甲骨は元来可動性に富むので、肩甲骨下組織との間の3カ所に肩甲下滑液包が存在し、摩擦を防いでいる。肩甲下滑液包内の滑液  量が減れば摩擦量が増えて滑液包炎が生じ、肩甲骨の動きにより音が生ずるようになる。
 

 

腕を挙上する時、肩甲骨は上方回旋(左右の肩甲骨上部は近づき、肩甲骨下部は遠ざかる)し、腕を後に回す時に肩甲骨は下方回旋(左右の肩甲骨上部は遠ざかり、肩甲骨下部は近づく)する。しかし肩甲骨周囲筋の可動性が悪いと、肩甲骨の滑走が悪くなる。これにより滑液包  からの滑液分泌量が減ってくる。
 
2)運動療法
   
滑液分泌を正常化させるには、温めることや運動療法が基本である。前鋸筋のストレッチには、”肩甲骨はがし”体操するのもよい。腕立て伏せの初期姿勢の体勢で、数分間前鋸筋を脱力させる。また前鋸筋を収縮するさせる運動例としては、ボクシングでストレートパンチを出す動作があり、このトレーニングも効果的である。
  
①菱形筋と肩甲下筋のストレッチ
指先を肩関節部に置き、肘を前後に振る(肩甲骨の外転・内転)、また肘をグルグル回す(肩甲骨を上下内外に動かす)。体操を行い、菱形筋や肩甲下筋の柔軟性を高める。ただし「音」の問題が慢性的であるため、体操してもすぐの改善は望めない。気長に長期間継続して行わせる。

3)鍼灸治療


  
一部の医師は、音鳴りに対して滑液包に対する局麻注射を行っている。鍼でも、この方法に準じる。まずは音が鳴ると申告した部位に術者の手掌をあて、音がする運動をさせ、手掌に震動を感じるピンポイントを探し当てる。何ヶ所もあることが多い。
   
音の発生源部位をしっかりと押圧しながら音の出る動きを繰り返し行わせる。その間ずっと押圧は続けるのが治療のコツである。しつこく音が出る場合、音の出る局所に刺針して同じ動作を行わせる。そこに太鍼(8番針程度)を1㎝ほど刺し、鍼柄の動きを観察する。はじけるような動きがあれば、患部に命中している。
   
置針したまま、前述のエクササイズにより肩甲骨を上下内外に動かすことで、筋の柔軟性を回復させる。また、置針したまま、前述のエクササイズにより肩甲骨を上下内外に動かすことで、筋の柔軟性を回復させる。ただし肩甲骨の音鳴りは、陳久性で、おそらく筋の線維化などの器質的変化などもあるだろうから、このような鍼灸治療を始めたからといっても、急速な改善は期待できないことが多い。根気強く運動療法を行わせる。

2.肩峰下滑液包炎
 
1)凍結肩への進展
   
肩関節疾患は、最初は色々な診断名がつけられるのだが、それが自然治癒しない場合、最終的には凍結肩という単一病態へと収束されていく。疾患の基本的な移行は次の通り。
  腱板炎症→炎症が肩峰下滑液包に拡大
  →滑液包内の水分減少し粘性増大して癒着性滑液包炎に
  →炎症が肩甲上腕関節全体に拡大し癒着性関節包炎(=凍結肩)に
  →6ヶ月~2年の経過で自然治癒。
 
2)肩峰下滑液包炎とは
   
肩腱板に生じた炎症は、すぐ上方に接する肩峰下滑液包に波及し、摩擦を減らすために滑量滑量が増加したり、滑膜が肥厚してくる。この状態を肩峰下滑液包炎とよぶ。滑液包の体積が増すので、肩峰下との摩擦はさらに増えて痛みも増加する。筋の滑りが悪くなった結果、上腕をぐるぐる回すと、そのたびに肩峰の奥あたりがコキコキあるいはジャリジャリ音を発する。音がするというあたりに術者の手を当てると、震動を感じることができる。滑液包炎の炎症の程度が酷ければ、自発痛が出現し、とくに夜間痛で眠れないほどになる。
 
3)滑液包炎時の音鳴りへの対応
     
肩峰下滑液包炎の程度が軽いものは自然治癒するが、凍結肩への中途過程という見方もできるので、凍結肩に移行するのを防ぐことが重要。その対策として、まずは安静で、他に三角巾を吊って肩への負荷を軽くする、鎮痛剤投与を行う。鍼灸治療は行わないか、軽い刺激にとどめておく。

3.指関節軋轢音
 
1)現象
   
軽く握った指に対し、もう片方の手で関節を強く過屈曲(あるいは過伸展)させると、指関節がポキッと鳴ることが多い。これを指関節軋轢音といい、英語で crack knuckles(直訳でヒビが入った手指の関節)という。何かする時の準備として指関節を鳴らす者もいるが、これは単に習慣であって、やりすぎても関節が摩耗することはない。
 
2)関節が鳴る機序
   
どの関節も関節包で覆われている。関節包内部は透明な関節液で満たされていて、関節の摩耗を防ぐ潤滑油として機能している。関節のコキッとする音の発生する機序は次のように説明されている。
   
指を過屈曲または過伸展させると瞬間的に関節包内部の容積の増加
→内圧の減少
→これまで関節液中に溶け込んでいた空気が溶け込めなくなって気泡を発生
→次の瞬間には気泡は破裂してポキッとする音を発生。
※この音をキャビテーションノイズといい、船のスクリュー回転の際、エネルギー効率低下やスクリュー自体への損傷、さらに潜水艦では雑音発生源としてとして問題視されている。
→関節を鳴らすと気泡は分散して小さくなり再び関節液中に溶け込む。

なお気泡が完全に溶け込むまで20分ほどかかるので、その間指関節を鳴らそうとして力を加えても鳴らすことはできない。


    

3)付:カイロプラクティックのアジャストメントについて
   
関節とくに背骨をポキポキと鳴らす行為で有名なのが、カイロプラクティックである。カイロプラクターは背骨のズレをアジャストメント(=矯正する)目的で、背骨に微妙な外力を加えて、ボキボキ・バリバリといった音を出すようにする。カイロにおける背骨のズレとは脱臼や亜脱臼といったものではなく、サブラクセーション subluxation とよばれるカイロ独自の概念で、「関節面の接触が保たれつつ、運動分節の配列、動きの一貫性さらには生理学的機能が変化している状態」と定義されてはいるが、今ひとつ理解しがたい。
ただ急性腰痛を瞬時に治したといった事例はごく普通のことであり、カイロの治療が有効な病態は存在するらしい。いずれせよ関節音は、関節包内部の気泡の破壊音に過ぎないので、これをもってアジャストされたとはいえない。


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