1.五十肩に対する条口から承山への透刺の方法
かなり以前から、中国では五十肩に対して健側の条口から承山に透刺(2穴を貫く)する方法が発見された。略して条山穴ともよぶ。実際に2穴を貫くには6寸針が必要である。
肩関節痛患者に対し、仰臥位または椅座位にさせて、4~10番相当の針を用い、健側の条口(足三里から下5寸、前脛骨筋中)から深刺する。そして針を上下に動かしながら、肩関節部の自動外転運動を行わせると、肩関節周囲への施術だけでは改善できなかった肩可動域制限も、半数程度の患者では可動域増大すことを経験する。なお元々は健側刺激となっているが、患側治療でも大差ない効果となる。しかし持続効果は短いのが欠点である。
2.奏功条件
なぜ条山穴は、肩関節痛に効果があるかに解答することは困難だが、どういうタイプの肩痛に適応となるかを、台湾の中医師である陳潮宗氏は次のように報告した。
陳医師は、発症後1ヶ月以上を経過した者で、外転角100°未満、外旋45°未満、内旋45°未満であった14例の五十肩患者に条口-承山透刺を行った。その結果、肩甲上腕関節の外転可動域は、ほとんど改善しない(平均1.7°)が、肩甲胸郭関節の上方回旋可動域が改善(平均6.7°)したと発表した。(條口透承山穴治療五十肩、中国中医臨床医学雑誌 1993.12)
陳医師の治療成績が、あまり芳しくないのは、凍結肩状態にある患者を選んだためだろうが、結果的にこの結果が本研究の信憑性を増している。結局、条山穴透刺は、肩甲上腕関節の動きではなく、肩甲胸郭関節の動きに効果がるようた。
五十肩で上腕が十分には外転できないのは、肩関節包の癒着の問題を別にすれば、筋緊張が強すぎて短縮状態にある筋を、無理して伸張させようとした状態である。それは肩甲上腕関節の主要外転筋である棘上筋と三角筋中部線維と、肩甲骨上方回旋の主動作筋である肩甲下筋と大円筋である。このたび条山穴刺針が肩甲骨の可動性を改善した結果、肩の外転可動性が増すことが判明したので。条山穴刺針は肩甲下筋刺針や大円筋刺針と同じような作用をすると思われた。
3.条山穴刺針は条口深刺の効果と違うのか?
違うのは強刺激が好まれないわが国では透刺せず、坐位にて簡易的に条口から承山方向に深刺する方法をとること多。これは事実上条口深刺であって、条口から承山穴への透刺とは違ったものになっている。
条山穴刺針がもし肩甲胸郭関節の可動域を増すことが目的ならば、經絡(陽蹻脈、膀胱経)の流れとしては、条口よりも承山刺激の方が重要になる。そうであるなら、坐位(できれば立位)にて条口から刺入するのではなく、承山から条口に向けて刺入した方が効果あるのではないかと、ふと思いついた。
4.肩甲上腕リズム
上腕を90°外転状態では、肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節外転(=上方回旋)の動きは2:1の比率になることをコッドマンが発見し、これをコッドマンは肩甲上腕リズムとよんた。上腕が90°外転位の時、肩甲上腕関節は60°外転し、肩甲胸郭関節は30°外転する。
もし凍結肩などで肩甲上腕関節の可動性が低下すれば、上腕外転動作では、その代償として肩甲胸郭関節の上方回旋角は大きくせざるを得ない。