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五十肩の鍼灸治療を苦手とする理由

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五十肩の鍼灸治療は難しく、いくらがんばって鍼灸しても効果が現れない。患者本人がいやになって来院中断すると、鍼灸師は逆にホッとする。これは鍼灸師あるあるだろう。五十肩の鍼灸治療はなぜ難しいのかを解説する。

 


1.凍結肩への進行
凍結肩は、肩の炎症の終着点である。一般的には、次の①②③④の順番に進行する。必ず最後まで進行するのではなく、途中で自然治癒することもある。

①肩腱板炎

肩腱板炎の時期は、動作時痛があるもROM制限はない。これは通常の筋々膜痛の治療と同列のように取り扱える。たとえば筋々膜性腰痛、テニス肘、腱鞘炎などと同じ。


②肩峰下滑液包炎期

腱板炎の炎症が肩峰下滑液包に広がると、一気に炎症が拡大して痛み増強。痛みのため腕が動かせなくなる肩関節部に熱感も感ずることもある。とくに夜間は血行障害になりやすいので夜間痛で眠ることも難しくなる。ただし他動的なROM制限にあまり異常はない。この痛みのの本質は神経痛性疼痛であり、一般的消炎鎮痛剤であるロキソニンではあまり効果ない。鍼灸もあまり効果ないというので痛がってやらせてくれない。リリカやサインバルタは鎮痛に効果あるが治す治療ではないので、服薬中止すると痛みが再燃するので始末が悪い。安静第一である。


③癒着性滑液包期

肩峰下滑液包の滑液の粘性が高まり、滑液包の癒着が起こる。そうなると上腕骨の可動性が減り、自動的・他動的ともROM制限が出てくる。痛みがあるか否かは炎症の程度により様々。癒着を改善する治療は手術以外はない。保存療法としては癒着を拡大させないよう頑張るしかない。滑液包の炎症の程度が減れば自発痛も少なくなる。④凍結肩期

肩峰下滑液包の癒着が、肩甲上腕関節関節包に拡大した状態。自動・他動ともにROM制限が強くなる。すなわち凍結肩状態。痛みの有無は炎症の程度により様々だが、次第に痛み自体は軽くなる。痛みが軽くなっても、ROM制限は続く。ある程度肩甲上腕関節の動きが自然治癒するまで6ヶ月~2年を要するとされる。しかも元の可動域にまで回復するとは限らない。

 

 



2.五十肩の各時期の治療法

1)肩腱板炎
上述した①②③④で、日常的な筋筋膜症の治療として取り扱えるのは①肩腱板炎のみになる。本症は鍼灸の適応で、でに様々な鍼灸治療方法が発表済。②は痛みが強いため施術困難、③④は滑液包や関節包の癒着が症状の中心となるので鍼灸治療には不向き。

過収縮している筋の伸張痛がその正体である。基本スタイルは次の通りで、他に圧痛点治療実施。次のステージへの移行を防ぐことも治療目標になる。
外転制限→外転動作をさせての上筋、三角筋中部線維への運動針
結帯制限→結帯動作をさせての肩甲下筋、小円筋の運動針
結髪制限→結髪動作をさせての肩甲下筋、大円筋の運動針

 

2)肩峰下滑液包炎
痛みが非常に強いので、針灸刺激することが困難になる。基本は三角巾などを使った患部の安静。痛みは筋々膜症に由来するのではなく、狭義の神経痛なので、理論的にはリリカやサインバルタの適応となるも、服薬中断すれば元通りの痛みになるので治療が難しい。


3)癒着性滑液包炎
癒着すなわち他動ROM制限になる。あまり痛みの出ない範囲で肩関節可動域訓練を行い、癒着を拡大させない、すなわち凍結肩への移行を防ぐことが目標になる。


4)凍結肩
肩関節包の癒着は、他動的ROM制限があることを示し、前記の癒着性滑液包炎よりもROM制限の程度は強くなる。ただし炎症そのものは小さくなるので運動痛は減少するのが普通である。癒着した関節包をリハ訓練によって徐々に剥離することが治療の中心となる。円滑なリハ訓練を妨げるのが痛みであるから、鍼灸はこの痛みをとることが目標になるだろう。リハ訓練でも速効的な効果は得られないのが普通。
難治性のものは、医師によるサイレントマニプレーションや鏡下関節切開手術が行われることがある。

①サイレントマニプレーション:局所麻酔で腕の運動・知覚を麻痺させる。その上で医師が強制的に肩を外転、伸展などの運動をおこなう(授動という)。長期間拘縮状態にあった肩を他動的に動かすと、ぎしぎしという音が鳴る。その地三角巾で腕を吊って帰宅。この日の夜になる頃になると麻酔は切れて腕は動かせるようなる。術後は肩ROMは正常化するが、痛みは残存するのでしばらく鎮痛剤服用が必要。

②鏡下関節包切開術:全身麻酔下、肩腱板部に関節鏡を入れ、視認しながら拘縮している肩関節包を切開していく。サイレントマニプレーションに比べて大ごとのように思えるが、関節包を視認しつつ少しずつ切開するので安全性が高い。本法も術後の鎮痛剤服用やリハ訓練は欠かせない。

 

3.鍼灸師の応対

鍼灸が五十肩に効果ある場合の条件は、五十肩の一部にすぎない。非常に痛んだりROM制限が強い場合、その多くは鍼灸の適応ではない。患者が鍼灸に通院するのは効くと思えばこそであって、効くことが鍼灸への信頼の証にほかならない。効かないことは整形保存療法も同じ条件なのだが、患者は医者と現代医学を信用していて、効かなくてもその信頼は揺るがない。1回の治療費も安価なので、効かないと文句をいいつつも通院を続ける。それに通院していないと薬も安く手に入らないのだ。

では鍼灸師はどうすべきか。それは時間を味方につけるといよい。今は、こういう段階なので鍼灸はあまり効果ないと、本稿の上に示した図を見せて、該当する病態部分を指し示す(ちなみに上の図やチャートは筆者オリジナル)。しかし痛みが軽くなったら、あるいは具体的に3ヶ月後にはこうなっているだろうから、再来院した方がよいと指示しておく方が良いだろう。


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