1.細絡の病態生理
上の図は「せきや針灸院」HPに載っていたものだが、細絡について明快に示されており感心したものである。動脈→小動脈→毛細血管→小静脈→静脈と血液が巡行する際、毛細血管を流れる血流量が増えたり、毛細血管が狭くなっている部はあると毛細血管のバイパスが形成される。その血流量は一定以上に増加すると視認できるまで太くなる。細絡は局所静脈圧の上昇を意味するので、痛みを誘発する。この状況で、細絡刺絡をすれば静脈圧が減少し、治癒機転が働く。
2.バトソン Batson静脈叢(傍脊椎静脈叢)
細絡があれば刺絡することを考えるのだが、症状部に細絡があるとは限らない。たとえば井穴刺絡は、指先に症状があるわけでなく、四肢の血行を改善することがある。これはグロムス機構を考えることで理解できる。しかし腰痛に対する委中刺絡は、昔から知られている定番治療であるが、その治効理論は説明できていない。
しかしバトソン静脈叢を考えることで説明できるとする見解がある。(上馬場和夫「コロナを乗り越える温故知新の智恵」第12会医鍼薬地域連携研究会⑨ 2020.5.4)
バトソン静脈叢とは、椎体の周囲および脊柱管内に存在する傍脊椎静脈叢ネットワークのことで、これらは、体幹や四肢にある多くの静脈と交流している。弁構造を持たないので静脈血を貯留し、血流は遅く鬱滞しやすい。その流れる方向は腹腔や胸腔内圧の変化により変化する。
臓器組織が慢性炎症や線維化などで静脈がうっ血すると、バトソン静脈叢の当該レベルもうっ血が強くなり、皮静脈の鬱血(=細絡)として出現するという。当該レベルの背部から、細絡刺絡あるいは皮膚刺絡をすると、うっ血した臓器の静脈圧も軽減し、末梢循環が促進され、臓器の機能も改善するという機序が働くとされる。腰痛時の上仙穴 細絡からの刺絡、それに腰痛時の委中からの刺絡はバトソン静脈叢に作用したという仮説が生まれる。
現代医療でのバトソン静脈叢に対する注目理由は、癌の血行性転移に関与していると考えられている点にある。この静脈叢を介すると、静脈系のフィルターとなる肝や肺を通らずに直接骨組織に到達する。とくに骨盤内蔵器から、最近感染や悪性腫瘍の椎体への転移の経路となるからである。