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前胸部ツボ名の由来

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1.前胸部経穴位置の特徴
 
前胸部は肺、心臓、乳房、横隔膜などで他に気管や胃などの重要組織があるが、前胸部のツボは、胸骨上もしくは肋間に整然と並んで、一見すると没個性的なのようにも見受けられる。では実際どういう構成になっているのだろうか。ツボの特性を大きく4つに分類して色分けした(下図)。

 

①前胸部で<青色>で示したのは肺・呼吸器関係のツボである。昔の中国では肺はハスの花に例えられたこと、あるいは肺は現代と同じく呼吸作用で、他に宣散粛降作用がある関係で、解剖学敵な肺の位置より上になっているのだろうか。
②前胸部中央<赤色>には心臓・精神関連のツボがある。中医でいう心とは、血液ポンプ+ハート(精神)の作用だった。
③心関連のツボの周囲は<緑色>で、私の分類では区分・部屋・建物といった比喩的なものを示すツボがある。これには心を守る意味もあるだろう。
大包は、私見であるが脾の大絡として胃泡の診察ポイントであり、胃や横隔膜の動きに関係していると解釈している。
④乳房と乳汁および胃の関連は<ピンク色>で示した。食竇穴は従来は食道と解釈することが多いが、私の理解では胃泡を示す。なお乳根穴は文字通り乳房と関係するが、胃の大絡として心尖拍動の診察点ともなる。

      

2.胸部経穴名の由来
巻末に提示した4種の文献を参考にしたが、不満が残ったので自説を示した。※印は自説。

1)胸骨頸切痕ライン
①天突(任) 
胸骨希頚切痕の上に向かう形。
②気舎(胃) 
「舎」=場所。肺(気の出入り)のある場所。
③缺盆(胃)  
缺盆骨=鎖骨のこと。缺盆とは大鎖骨上窩。

2)鎖骨下窩
①璇璣(任)  
北斗七星で、璇(せん)は2番星、璣(き)は3番星で、ともに美しいという意味。北斗七星が北極星を中心に規則正しく回転しているように、本穴も呼吸により上下に規則正しく動く。ちなみに1番星(北極星に最も近い星)の名は「天枢」という。
②兪府(腎)   
 a.腎経の走行は肋骨を上行し、最後には、この穴に集結することを示す。
※b.「府」=は集合で肺の宣発作用、「兪」=輸送で肺の粛降作用をいう。すなわち兪府とは肺のもつ宣発粛降作用のこと。
吸気時、体内の水分を一度肺の処まで引き上げ、息はく時に、その水分を内臓全体に、じょうろで水をまくようにする。これはポンプの仕組みと同じ。
③気戸(胃)  
※前胸で、鎖骨と第1肋骨の間の小さな間隙を戸に例えた。気の出入りをする肺の入口。

3)第1肋間
①華蓋(任)
肺は蓮の花の形のようで、天子の頭上にある絹の傘の形(蓋)に似ている。肺は五臓六腑中で最も高い地位にあることを示す。あるいは華蓋=肺そのもの。
②彧中(腎)  
※「彧」=区切り、枠取り。肺と心の区切りのこと。
③庫房(胃)
「庫」は倉庫、「房」は厨房とか工房。その下にある臓器「肺」を収納するための部屋。

4)第2肋間
①紫宮(任)  
天帝が住んでいる星、すなわち北極星を紫微星とよんだ。紫微星とは貴重な星の意味で、心臓の位置にある。
中国皇帝といえば代々黄色(五行色体表の五方すなわち東・西・南・北・中央の中で、中央に相当)を重要視していた。しかし貝からとれる紫染料が非常に希少で高価なことがわかると、紫も重視するようになった。北京にある昔の皇帝の住居(故宮)の別名を紫禁城という。これは一般人が入ることのできない特別な場所との意味がある。
ちなみに聖徳太子が制定した冠位十二階の最高位も紫色だったが、この染料は安価な紫芋によるものだった。

②神蔵(腎)  
心に近い紫宮の両側で霊墟の上にあり、神霊(心)を守る。
③屋翳(胃)  
「翳」とは屋根、「翳」は羽でできたひさし。
④周栄(脾)  
「栄」は活力源で栄養素と同じ。全身に栄養素を巡らす。

4)第3肋間
①玉堂(任)  
玉堂=高貴な場所。中国の科挙合格者の中でトップが配属される部門(歴史編纂、皇帝の発言を記録)。
②霊墟(腎)
「墟」は土で盛られた高い山。 仰臥位になると霊墟は前胸部の高い位置になることから。       
秦始皇帝が築いた運河。中国の桂林市興安県に現存。
③膺窓(胃) 
「膺」は胸、「窓」は気と光を通すところ。胸部の閉塞を通すため。
④胸郷(脾)  
※「郷」は人が集まる村々(=故郷など)の他に、地区という意味がある(=白川郷、吉野梅郷など)。胸筋の代表は大胸筋であり、本穴は大胸筋区画といった意味になる。

5)第4肋間
①膻中(任)  
a.両乳間の間を膻という。膻にはヒツジのような生臭い。
b.君主(心)の住まいである宮城(心包)の別名。
②神封(腎)  
※「神」=心、「封」=境界線。胸中線の脇で心に近い部。
③乳中(胃)  
乳頭部
④天池(包)   
肋間のくぼみのような池(汗をかくところ)
⑤天渓(脾)  
この場合の「渓」は、乳汁分泌を川に例えている。
⑥輒筋(胆)  
※側胸部の前鋸筋をさす。「輒」には耳タブのように軟らかいとの意味がある。
⑦淵腋(胆)  
 脇の下に隠れる水溜まり。腋下の汗をかきやすい部。
                                   
6)第5肋間
①中庭(任) 
「庭」=宮殿(君主)正面の庭園。膻中(宮殿)の直下にある。
②歩廊(腎)  
※「廊」=通路。両側の肋骨弓をゆっくり歩く。
③乳根(胃)
 乳頭の根元。乳根は胃の大絡であり、心拍による左前胸部の上下動を虚里(わずかな振幅)の動ととらえた。
④食竇(脾)  
※「竇」=洞。左食竇は胃泡のこと。胃の中に食物が入る場所との意味。  
従来の説では「食道」と解釈するが、本穴の位置は前正中付近にはない。


7)胸骨弓縁、その他
①極泉(心)  
泉(汗)がわき出る最も高いところ。
②期門(肝) 
十二正経は肺経の中府から始まり、肝経の期門で終わる。一周りしたとの意味。
③日月(胆)   
日月(胆募)の上方5分には期門(肝募)がある。
※「肝胆相照らす」との表現にあるように、両雄とも影響を受け合う存在。期門と日月は影響を受け合うことを示す。
④章門(肝)  
※「章」=ひとまとまり。他の肋骨と異なり、本穴は第11肋骨前端という浮遊肋骨にあることを示す。
⑤京門(胆)
※「京」はみやことの意味の他に、高い丘の意味がある。京門は第12肋骨前端という浮遊肋骨にあることを示す。
⑥大包(脾)   
脾の大絡として、内臓診察点。
※左大包は胃泡を示す(打診で鼓音の存在で調べたのだろう)。その上の横隔膜の動きにも関与。横隔膜は陰である胸部臓腑と陽である腹部臓腑の境界。
⑦鳩尾(任)  
剣状突起が鳩の尾の形に似ていることから。

 

引用文献
①森和監修 王暁明ほか著「経穴マップ」医歯薬
②周春才著 土屋憲明訳「まんが経穴入門」医道の日本社
③ネット:翁鍼灸治療院 HP
④ネット:経穴デジタル辞典  ALL FOR ONE
⑤漢和辞典「漢字源」学研

 


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