1.こむら返りとは
睡眠中に、突然足がつれ、痛みで目覚めるという訴えを、よく耳にするようになった。通称こむら(返りともよばれる。 「こむら(=腫)」返りとはふくらはぎが、つ(=攣)ること。腓腹筋の有痛性痙攣である。筋肉内に分布する運動神経終末部の自発性興奮に始まる。筋線維の一部が強く収縮すると、収縮した筋線維と収縮しない筋線維の間にずれの力が働き、筋肉の痛覚線維を刺激して、痙攣と痛みが生じる。2.原因
1)脱水時
夏の暑い時期、激しい筋肉労働で大量の汗をかいたとき。水分やミネラル分(CaやMg)不足になると、筋肉内のセンサー(筋の張力情報を脳に伝達)がうまく働かなくなる。
2)睡眠中
①冷え
日中に比べて夜間は気温が低くなる。ヒトは就寝中は、熱エネルギー産生力を低下させ、体温も午前3時から5時頃が最も低くなる。こうした時であっても体幹深部の内臓温は一定に保つので、結果として手足末梢温は低下せざるを得ない。その結果、夜中から明け方にかけて、筋の血流が悪くなり、したがって新鮮な酸素、栄養素の供給や老廃物の排除がうまく行われず、こむら返りが起こりやすくなる。
②足関節の底屈状態
長時間の就寝状態では、足は掛け布団に圧迫されたり、伏臥位で寝ていて敷き布団を押しつけるなどして、足は底屈状態を強制させられている。この時、腓腹筋は収縮状態にある。この状態で、寝返りや膝や足を伸ばしたりすると、さらに腓腹筋は収縮し、生理的収縮の限界を超える。
※暑い時期には使う布団も薄くなる。この説では夏場に起こる腓腹筋痙攣を説明できない。
3.腓腹筋痙攣時の応急処置
夜間とくに気温の冷える朝方に、腓腹筋痙攣はおきやすい。痙攣が起きて痛みにじっと耐えているだけでは、なかなか痛みは去らない。
腓腹筋のストレッチ目的に、自分の手指で足母趾を強く背屈状態にする。痛みが止まるまで、30秒間ほどこの状態を保つようにするというのが普通だが、寝ている状態では上体を起こさねばならず面倒である。そこで私は、下図のように、仰向けに寝たまま、健側踵を吊った側の足母趾の上に置き、下向きの力を加えることで母趾背屈を行うよう指示している。。
4.太衝への神経ブロックが有効
高山瑩・伊藤博志医師は、腰椎変性疾患に伴うこむら返りで日常生活に支障が出ていた患者32人に対し、太衝穴から深腓骨神経ブロック(局麻注射)を実施。全例でこむら返りの発生頻度が1カ月に1回以下に減少すると発表した。一度行えば数カ月間、効果が持続する。なお中封からの深腓骨神経ブロックも試みたが、太衝ブロックよりも効果は劣ったという。(「腰痛などを伴っ ているこむら返りに難渋している症例に対しての治療効果」:日本腰痛会誌、8(1):126--130. 2002)
これをどう解釈すべきだろうか。太衝の皮膚は特異的に深腓骨神経支配になっている。こむら返りに、太衝部へのソマセプト(皮膚刺激)貼って効いたという報告もある。
深腓骨神経ブロック自体が、坐骨神経痛に対する治療のような効果をもたらし、下腿筋群の筋弛緩に関与したということだろう。下腿三頭筋の過収縮を改善するには、その拮抗筋に相当する前脛骨筋(=深腓骨神経)を刺激すると効果あるのかもしれない。つまり「Ⅰa 抑制」の機序が働くのではないだろうか。