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脳清穴の臨床応用例 ver.2.0

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「脳清」という奇穴があることを知ったのは、月刊誌「針灸OSAKA」の特効穴特集の記事による。今から40年も昔のことであった。特別に運動した訳でもないのに、私はたまにこの部位に鈍痛を感じることがあった。この圧痛反応は、足三里の圧痛とは無関係だったこと。また「脳清」という名称が脳や精神に効きそうなイメージもあり現在でも興味をもっている。

 

1.脳清穴について
       
足関節背面には内側から順に、前脛骨筋腱、長母趾伸筋腱、母趾伸筋腱の3腱が並ぶ。これら3筋腱は歩行やランニング等で協調的に機能する。臨床上しばしば観察するのは、脳清穴部の鈍痛を訴える例で、長母趾伸筋力が低下し母趾背屈力ができない状態である。長母趾伸筋の大部分は前脛骨筋と長腓骨筋に覆われ、その遠位部のみ表層で確認できる。したがって長母趾伸筋腱を刺激するには脳清穴(解渓の上2寸)あたりが適切である。脳清穴直下にすぐに脛骨があるので、直刺できず、腓骨方向に45度斜刺すると2㎝程度は刺入できる。深腓骨神経に強い響きを与えることができる。
うまく響かない場合、置針したまま母趾の屈伸運動を少しずつ行わせると響く。いきなり母趾屈伸自動運動をやらせると、強烈な針響が起こるので患者は驚く。

 

 

2.前外側型のシンスプリント

1)病態
シンスプリントは後内側型が多いが、前外側が痛むタイプもある。前外側型は前脛骨筋や長趾伸筋間の筋膜癒着による滑走障害による。針灸治療は、足三里やや外方など、下腿前面の前脛骨筋が長趾伸筋に接する部の圧痛を探して刺針。そのままゆっくりと足関節の底背屈・回内回外の自動運動を行わせる。この2筋の筋間に刺針しつつ、足関節の屈伸運動を行わせることで、癒着を剥がすことを狙う。


2)脳清反応は、前外側型のシンスプリントに由来するのか?

前脛骨筋は足関節背屈作用、母趾伸筋は足母の趾背屈作用がある。両腱は下腿前面下方~足関節背面にかけて併走しているから、腱膜が癒着して滑走障害を起こすことがあるかと判断した。

当初、なぜ特異的に脳清穴あたりの鈍痛を生ずるのか不明だったが、やかてこれは「前外側型シンスプリント」の診断名になるのではないかと考えるようになった。シンスプリントの典型は、「後内側型シンスプリント」であり、この場合硬い内側の三陰交付近を中心に痛むものだが、「前外側型シンスプリント」というパターンもある。すねの前面と外側の筋膜(前脛骨筋、長母趾伸筋)に牽引ストレスが作用して痛みを生じ、付着する脛骨骨面の骨膜にも牽引ストレスが作用して痛む状態である。足関節背屈がしづらくなる。脛骨筋の障害では、脛骨前面の胃経から中封に沿って重苦しく痛むが、我慢できないほどの強い痛みになることはあまりない。後内側型シンスプリントに比べて治療に反応しやすい。


3.脳清刺針の症例と考察

1)症例1(T.O. 63才男性)

①主訴:足首を回しにくい

②現病歴
来院時の主訴は、坐骨神経痛と上殿部コリ。ともに仙骨神経症状なので、坐骨神経ブロック点刺針と中殿筋刺針で改善しつつあった。なお中殿筋は上殿神経の運動支配であり、上殿神経は仙骨神経叢の枝でなので、同じ仙骨神経の枝である坐骨神経痛時に同時に出現することが多い。
本患者は、他に「足首を回しにくい」との訴えもあり、治療数回目からは、こちらの方が主訴となった。

③考察
足首の動きが悪いという訴えから、拮抗関係にあるべき下腿後側筋や下腿前面筋の緊張を調べてみる(これはⅠa抑制を考えている)と、確かに圧痛点は多数見つかったが、どこを押圧しても痛がるといった状態だったので、特異的反応点を見出すことは逆に難しかった。

そこでどの姿勢をすると最もつらいかを問診すると、「正坐しようとすると、下腿前面がつつっぱって痛むので、上体を前傾させ、体重があまり下腿にかからないようにしている」との回答が得られた。

④治療
これは前脛骨筋を十分にストレッチできない状態であると考え、仰臥位で条口あたりから前脛骨筋に2寸4番にて刺針、その状態で足関節の上下の運動針を実施した。直後に正坐させてみると、上体の前傾程度が少し改善し、下腿前面の痛みは消失し、代わりに足背部の衝陽あたりがつっぱって痛むということであった。
 
足指を底屈する動作で痛むのだと捉え、再び仰臥位にして脳清穴から長母指伸筋腱と長指伸筋腱に刺入し、その状態で足指の底背屈の自動運動をさせた。その直後に正坐させてみると、上体の前傾がほぼ消失し、正しい正座姿勢ができるようになり、下腿前面や足背の痛みも消失した。

⑤分かったこと
・正坐が苦手という者は、膝関節部痛のことが多いが、負荷をかけた際の足関節の伸展痛や、足指関節伸展痛が原因のこともある。
・前脛骨筋の負荷伸展障害は、前脛骨筋部に刺針しての運動針(足関節底背屈運動)で有効になるケースがある。長母趾伸筋・長指伸筋の負荷伸展障害は、脳清穴に刺針しての運動針(足指の底背屈運動) で有効になるケースがある。

 

2)症例2(S.A.43才男性)

①主訴:足関節が痛くなって正座姿勢がとれない
以前から上記状態が存在する。痛むのは、足関節背面~下腿前面の下方。

②考察
正座姿勢時に、足母指MP関節が強く屈曲されるが、その動作で長母指伸筋腱が強制伸張される。この時の痛み。すなわち長母指伸筋の過収縮が本態。

本例は脳清運動鍼の適応であろう。ただし、これまでこの刺針は仰臥位で行うのが常だったのだが、この症例の数日前、理由なく私自身の脳清の重だるさを感じることがあってた。こういうことは過去に何回かあった。そのたびに長座位(足を伸ばしての座位)になっっ自分の脳清に刺針し、母指の底背屈運動を行った。よく響くのだが、脳清部のダルサに対してはあまり効果を実感できなかった。ここで今回は、椅座位で脳清に刺針した状態で、爪先の上げ下げ自動運動を行ったところ、初めて効果を実感できることになった。

③治療
座位または立位で脳清刺針し、爪先の上下自動運動を5回行わせて抜針。その直後にベッド上で正座させてみると痛みなく動作できるようになったとのことだった。

④分かったこと
同じ運動鍼でも、自分の体重を利用するといった、負荷をかけた運動鍼でないと、十分な効果は得られないらしい。なお、「脳清」という漢字イメージから受ける、脳をすっきりさせるような治療効能はないようだ。

 

 

 


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